医学のあゆみ

Volume 241, Issue 12, 2012
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あゆみ CPFE(Combined pulmonary fibrosis and emphysema)
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CPFE(肺気腫合併肺線維症)の概念と臨床像
241巻12号(2012);View Description
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Combined pulmonary fibrosis and emphysema(CPFE)はCT によって定義される症候群で,上肺野の気腫と下肺野の線維化を特徴とする(Cottin ら).喫煙が病因として関与し,スパイロメトリーはおおむね正常であるが,肺拡散能力とガス交換機能は低下し,進行すると肺高血圧症を合併し,予後は不良である.CPFE は従来からの閉塞性肺疾患や間質性肺炎という枠組みを見直させる契機となっただけでなく,気腫と線維化の発生機序を考察するうえでも重要である.臨床的には感染症と肺癌の合併が多くみられる.治療に関してはCOPD や特発性間質性肺炎の治療がそのまま適応できるか不明であり,また増悪を起こしうることから,肺癌治療にとって障壁となる.CPFE は呼吸器内科学のなかにあってその核心にある病態・症候群であり,病因のさらなる解明と治療法の開発が求められる. -
肺気腫,肺線維化の分子メカニズムとCPFEの病因
241巻12号(2012);View Description
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CPFE の危険因子としては,喫煙,男性,高齢が知られている.齧歯類の喫煙曝露では肺の気腫化と気道の線維化がみられるが,その機序としてはタバコ煙中の粒子状物質によるdamage-associated molecularpatterns(DAMPs)→inflammasome の活性化→IL-1βまたはIL-1αによるIL-1 受容体の活性化が起点とされている.タバコ煙の曝露ではシリカや鉱物などの無機粉塵の粒子状物質の吸入に比べて肺の線維化はめだたない.その理由は,肺線維芽細胞の老化や増殖能力の低下,TGF-βに対する反応性障害,エラスチンの合成障害などのために,本来なら生じるべき線維化反応が抑制されているためと考えられる.一方CPFE 患者では,このような通常の喫煙者にみられる線維化抑制機序が働いていない可能性がある.CPFE の線維化は特発性肺線維症と同様に下肺野背側の胸膜下領域からはじまることが多いが,その理由として同部の肺胞の虚脱,開口の繰返しによるストレッチストレスの増大も考慮されている. -
CPFEの画像所見
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CPFE は画像と臨床で定義される一種の症候群で,上肺の肺気腫と下肺の肺線維症がみられる.その成因には喫煙が深く関与している可能性が高い.臨床的にはスパイログラムでの異常所見が軽度でありながら拡散能の高度の低下を示しやすいことや高率に肺癌を合併することが重要である.肺高血圧症の合併や肺線維症の予後に関しては諸家の意見が一致しない.画像上は上肺の肺気腫と下肺の種々のパターンの肺線維症が特徴であるが,下肺の肺線維症の部位でも構造破壊が高度であり,大型の嚢胞陰影を示しやすい傾向がある.CPFE の定義,CPFE と特発性間質性肺炎の関係,成因,予後,経過,薬剤性肺障害のリスクなどに関して,いまだ未解決の問題が多く残されており,今後の多方面からの検討が必要と考えられる -
CPFEの病理
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間質性肺炎と肺気腫の合併は以前よりよく知られていたが,2005 年にCottin らによりCPFE と命名されて報告されて以来,改めてこうした疾患群が注目を集めている.上肺野に気腫,下肺野に線維化病変がみられるもので,線維化病変は組織学的にはUIP パターンが多いとされるが,かならずしも定型的UIP ではなく,FNSIP,DIP など他の病型もみられるなど多様である.臨床的に喫煙との関連が注目されているが,以前より河端らが喫煙との関連が深いairspace enlargement with fibrosis(AEF)として報告している一群の病型とも一部相似しており,さらに基準も整備されて,今後RB,DIP などとは別の喫煙関連の肺病変の一型として認知されていくのではないかと思われる. -
CPFEの呼吸機能と循環動態―予後規定因子としての肺高血圧症
241巻12号(2012);View Description
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肺気腫合併肺線維症(CPFE)は,肺線維症と肺気腫の両者の呼吸機能の特徴を併せもっている.肺線維症と肺気腫が合併することで,肺線維症の拘束性換気障害と肺気腫の閉塞性換気障害が相殺され,肺活量は正常あるいはやや低下,また1 秒率も正常あるいはやや低下するに留まり,COPD の定義を満たす70%未満の症例は少ない.一方,DLco は肺線維症と肺気腫の両者が合併することで,相加的あるいは相乗的な効果が現れ,CPFE においては低下が著明である.また,肺気量が保たれていることを反映し,DLco/VAの低下が著しいことも肺気腫を有さない肺線維症との相違のひとつといえる.肺線維症や肺気腫は進行すると肺高血圧を合併することが知られているが,両者が合併することで,肺高血圧を合併する頻度がより高くなり,また肺高血圧の程度も高度な例が多い.CPFE が肺気腫を有さない肺線維症に比べて生命予後が悪いかどうかの結論は出ていないが,CPFE に肺高血圧が合併すると肺気腫を有さない肺線維症が肺高血圧を合併する場合よりも予後が悪いとする報告がある.CPFE の診療においては肺気腫の合併を見逃すことなく,みかけ上の良好な換気機能の解釈を誤らないようにしなければならない.また,予後に重大な影響を与える肺高血圧を診断するためには,右心カテーテル検査が必要である. -
気腫,線維化と発癌
241巻12号(2012);View Description
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呼吸器系は外界と直接交通しているため,タバコ煙などさまざまな吸入物質から日常的に曝露を受けている.このような環境因子に加えて遺伝的素因を背景とした吸入物質に対する感受性の違いがさまざまな割合で関与することで呼吸器系では多彩な病態を生じ,ときに複数の病態が混在する.肺における気腫と線維化,発癌はそれぞれ異なる病態であるが,喫煙関連肺疾患という共通の背景を有しているため,それぞれ,高頻度に合併することが知られている.近年,肺気腫および肺線維症と肺癌との合併について喫煙とは独立して直接に発癌にかかわる可能性が疫学的にも示唆されており,気腫化と発癌に共通する分子機構に関する遺伝的素因や線維化病変周囲の肺胞(気管支)上皮における遺伝子異常について報告されている.しかし,発癌に至る詳細な分子生物学的機序についてはいまだ不明確な点が多いが,活性酸素/活性窒素などの酸化ストレスの増強や慢性炎症の存在に加えて発癌感受性を規定する遺伝的素因を背景として遺伝子異常が蓄積した結果,癌抑制遺伝子の不活化などを生じ発癌に至ると考えられる.本稿では気腫および線維化と発癌について共通する分子生物学的メカニズムなどについて,これまでの知見を踏まえて概説する. -
CPFEのheterogenietyとサブタイプ解析の意義
241巻12号(2012);View Description
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Combined Pulmonary Fibrosis and Emphysema(CPFE)は,肺気腫と肺線維症が合併する病態である.しかし,一言にCPFE といってもそれを構成する肺気腫および肺線維症にも多様性があり,臨床的あるいは生理学的特徴を論じる場合も対象集団にどのようなサブタイプが多く含まれるかで結論が異なってくる可能性がある.そこで,合併する気腫病変を小葉中心性肺気腫(CLE)と傍隔壁型肺気腫(PSE),線維化病変をusualinterstitial pneumonia(UIP)とnon-UIP に分け4 群で検討したところ,閉塞性障害の形成にはPSE よりCLEが強く関与し,また,拘束性障害にはnon-UIP よりUIP がより関与していた.CLE にUIP を伴う群では閉塞性障害が相殺される一方で,DLCO が低下し,予後が悪い傾向が認められた.呼吸機能や臨床的特徴は構成される気腫化病変と線維化病変のパターンによって大きく影響されるため,サブタイプ別に解析にすることも重要と考えられた.
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連載
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- 漢方医学の進歩と最新エビデンス 9
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認知症およびその周辺症状の漢方治療:最新のエビデンス―われら臨床医のこの一手,抑肝散,認知症以外も含めて
241巻12号(2012);View Description
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抑肝散は元来,“神経のたかぶり”に奏功するため,小児の夜泣きや神経症の際のイライラに投与されてきた.ごく近年,抑肝散は認知症患者のせん妄や攻撃性,イライラや幻覚妄想などの,いわゆる周辺症状にも奏功することが報告され,臨床現場において頻用されつつある.著者らは,この抑肝散を統合失調症やCharlesBonnet 症候群,抗精神病薬誘発性のジスキネジア,広汎性発達障害やAsperger 障害,境界性人格障害,むずむず脚症候群に投与し,良好な治療結果を得ている.統合失調症に関しては全国多施設共同研究により,二重盲検法で検討中である.
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フォーラム
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- 第76 回日本循環器学会総会・学術集会レポート 3
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高血圧研究の進歩:心血管系細胞のストレス応答と細胞代謝・老化(Hypertension Research Focusing Cellular Energy Metabolism, Redox Reaction and Senescence in Cardiovascular Diseases)
241巻12号(2012);View Description
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さまざまな外的ストレスに対する心臓,血管の応答は構成する組織,細胞のみならず細胞内小器官の代謝も変化させる.そのなかでもNADPH オキシダーゼやミトコンドリア由来の活性酸素シグナルやストレスは,ミトコンドリア機能や代謝に大きな変化を生じさせる.これらの細胞,細胞内器官のストレス・代謝応答の結果として,細胞は死に至らずとも,やがて分裂の停止やさまざまな不可逆的反応をきたす.これら一連のストレス応答反応は細胞の老化類似現象ととらえることができる.最近,老化にかかわる因子と代謝変化の共通点が明らかになりつつある.代謝と老化の研究は表裏一体をなして近年めざしく進展しており,細胞のストレス応答における代謝と老化という面から研究の成果発表と活発な討論が行われた.アメリカVanderbilt 大学からDavid G Harrison 教授をkeynote lecturer としてお迎えした.また,わが国の心臓代謝,老化研究分野で活躍されている5 名の先生方にその研究の成果を紹介していただいた. - 放射線被曝と遺伝学 5
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放射線と遺伝:疫学・公衆衛生学の立場から
241巻12号(2012);View Description
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平成23(2011)年3 月11 日に発生した東北地方太平洋沖地震は,大津波を引き起こし,東北地方と関東地方の太平洋沿岸部に壊滅的な被害をもたらした.この地震と津波によって,福島第一原子力発電所(福島原発)に重大な原子力事故が発生し,放出された放射性物質は国民に大きな健康不安を与えている.今回の事故による県民の被ばくは低線量であり1),今後は,低線量放射線被ばくの健康リスクを疫学的に正しく解釈することと,必要な公衆衛生学的対策を行っていくことが重要である.そこで本稿では,一般集団における推定被ばく線量に則した遺伝性影響の疫学的エビデンスと,医学・公衆衛生学教育における放射線防護・被ばく医療教育の重要性について概説する. -
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TOPICS
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- 生化学・分子生物学
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- 免疫学
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- 腎臓内科学
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