医学のあゆみ
Volume 241, Issue 13, 2012
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【6月第5土曜特集】 高血圧のすべて2012―研究と診療の最前線
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- 高血圧の成因に関する新知見
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食塩感受性高血圧の発症メカニズム
241巻13号(2012);View Description Hide Description食塩感受性高血圧では心血管予後が悪いことが知られており,その診断・治療法の開発のために発症メカニズムの研究が長く行われ,多くの知見が得られている.著者らは,この発症メカニズムにsmall G 蛋白rac1とMR のクロストーク,あるいは交感神経とGR のエピジェネティクスを介したクロストークが関与することを明らかにした.Rac1 やエピジェネティクス変化は今後,食塩感受性高血圧の診断治療の標的として期待されるが,食塩感受性高血圧はヘテロな集団であり,今後もあらたな機序が明らかになると思われる. -
高血圧関連遺伝子のゲノムワイド関連解析―高血圧研究のあらたなアプローチ
241巻13号(2012);View Description Hide Description全ゲノムからの探索的アプローチ,ゲノムワイド関連解析(GWAS)が2007 年ごろから本格的に開始された.2009 年に,2 つのコンソーシアム(CHARGE とGlobal BPgen)が3~4 万人の欧米人を対象としたGWASメタ分析を実施し,その後2011 年に東アジア人のコンソーシアムAGEN と,欧米人の拡大コンソーシアムICBP がGWAS メタ分析を実施した結果,現在までに計40 カ所の高血圧/血圧関連遺伝子座がみつかっている.それらは平均して,対立遺伝子当り収縮期血圧(SBP)で1 mmHg,拡張期血圧(DBP)で0.5 mmHg 程度の変動効果を示すレベルである.関連遺伝子を個別にみた場合,診断的意義がいまだ十分とはいえないが,“組合せ”効果を調べた場合,集団内における影響力は無視できない.今後,さらに多くの関連遺伝子の同定とともに,人種差や遺伝子間相互作用,遺伝-環境相互作用の検討が期待される. -
生体リズム異常と高血圧
241巻13号(2012);View Description Hide Description現在,グローバル経済の生み出す膨大な消費物質によって生活革命が全世界で進行中である.これに伴い,勤労時間の長時間化や,交代制勤務の一般化と合わせるかのように,生活環境の不夜城化が急速に進行し,睡眠リズム障害とそれに伴う生活習慣病が急速に増えている.近年の時計遺伝子の発見により生体リズムの解明が急速に進み,現在ではリズムは全身の細胞時計で生みだされ,これが物質代謝や細胞周期など基本的な細胞プロセスに時間秩序を与えていることが明らかとなった.著者らは,時計遺伝子Cry1/Cry2 が欠失し生体リズムが完全に消失したマウスが食塩感受性高血圧を示すことを明らかにした.このマウスでは副腎アルドステロン産生細胞に特異的に発現する新型3βHSD 酵素の転写がつねに活性化され,アルドステロン産生が増大し,これが高血圧を引き起こす.ヒトにも同様にあるこの新型3βHSD 遺伝子は高血圧の新しい病因として注目される. -
血圧の中枢性調節機序
241巻13号(2012);View Description Hide Description中枢神経系は自律神経系,体液性因子の調節の司令塔である.近年の研究によって,腎と並び中枢神経系が血圧の長期的な調節に重要な役割を果たすことが明らかになってきた.言い換えれば高血圧の成因・進展にも関与していることを意味する.動脈受容器刺激装置や腎神経焼灼術(除神経)の臨床試験での応用から,高血圧における交感神経系活性化およびそれを規定する中枢神経系の重要性がいま,再度注目されている.交感神経系の活動を規定する部位は,脳幹部にある心臓血管中枢である頭側(吻側)延髄腹外側野である.この部位の活性化が一酸化窒素,活性酸素種のバランスの異常から生じている.この異常を生じる上流にはレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の活性化がある.これには循環血液中のみならず脳内独自の活性化が認められている.高血圧における慢性炎症と免疫系の変化が中枢神経系を巻き込んで交感神経活性化および副交感神経抑制を生じるという概念が注目され,あらたな研究が進行している. - 高血圧性臓器障害に関する基礎知見
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細胞小器官とアンジオテンシン
241巻13号(2012);View Description Hide Descriptionミトコンドリア,リソソーム,ペルオキシソームなどの細胞小器官は,生体膜で囲まれることで細胞質から隔離され,固有の細胞代謝を営んでいる.それぞれの細胞小器官における代謝が生体の正常機能に必須であることから,細胞小器官の変調である“オルガネロパシー”は代謝不全に直結し,肥満,糖尿病,腎糸球体障害,心不全,中枢神経障害などの疾患を誘発する.これら細胞小器官の局在,形態,機能維持には,アクチンフィラメント,中間径フィラメントなどの細胞骨格が重要な役割を果たすことから,細胞骨格を制御し血管トーヌスを調節する作用を有する心血管ホルモンによる,細胞小器官の制御が注目を集めている.実際最近の検討で,従来血管収縮因子と考えられてきたアンジオテンシンⅡ(AngⅡ)がミトコンドリアなどの細胞小器官を制御することが明らかにされ,その結果として肥満,糖尿病などの代謝疾患発症に関与する可能性が示されている. -
腎髄質循環と酸化ストレス
241巻13号(2012);View Description Hide Description腎は尿の生成や電解質の輸送を調節することで,生体の恒常性を保っている.しかし,尿濃縮のための特異な循環構造から,腎髄質はつねに低酸素である.さらに,髄質外層の尿細管である太いヘンレループの上行脚(mTAL)は酸素を大量に消費してナトリウム(Na)再吸収を行う.そのため酸化ストレスや虚血に弱いと思われる腎髄質部であるが,いままでの研究から酸化ストレスに対する応答と高血圧や腎障害との関係性が解明されている.腎髄質血流は活性酸素種と一酸化窒素(NO)の均衡により調節される.レニン-アンジオテンシン系(RAS)の生理活性物質であるアンジオテンシンⅡ(AngⅡ)は,mTAL からのNO 産生を促進させ,髄質血流の減少を防いでいる.しかし,高血圧ラットではAngⅡはmTAL から活性酸素を優位に産生させ,腎髄質は血流低下により虚血状態となる.腎髄質を虚血から守り高血圧や腎障害を防ぐためには,RAS の抑制と活性酸素生成の抑制が有効であると期待されている. -
高血圧と認知機能
241巻13号(2012);View Description Hide Description高血圧と認知機能障害を結びつける要因のひとつとして血管障害があげられるが,その詳細はいまだ不明なところが多い.高血圧は脳卒中の危険因子となるだけでなく,認知機能障害との関連も糖尿病,肥満などの生活習慣病と並んで重要である.脳梗塞は発症後の神経機能障害に対する治療にも限界があり,したがって,脳梗塞の発症ならびに再発予防において降圧療法は重要である.最近,アンジオテンシンⅡ受容体ブロッカー(ARB)が脳卒中の発症予防に加え,重症化を抑制するだけでなく,Alzheimer 病(AD)を含む認知機能障害発症を予防することが臨床的にもあいついで報告されている.この効果は同じアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬より強力であったと報告されている.そこで本稿では高血圧さらには糖尿病と認知機能障害発症の病態生理について,レニン-アンジオテンシン(RA)系,とくにアンジオテンシンⅡ受容体サブタイプを中心に概説する. -
肥満症とレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系
241巻13号(2012);View Description Hide Description内臓脂肪蓄積を基盤とするメタボリックシンドローム(MetS)における高血圧,耐糖能異常,脂質代謝異常にはアディポサイトカイン異常,酸化ストレスが関与していることが知られている.脂肪細胞の質的異常に伴い,全身および脂肪細胞局所のレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)が活性化され,アディポサイトカイン異常,酸化ストレス増加をもたらし,MetS の各種表現系を呈することがわかってきた.脂肪細胞のRAAS 活性化には既知のリガンド以外にも種々の因子が関与していることが報告されており,今後の治療標的とともに注目される分野である. -
心肥大から心不全へ
241巻13号(2012);View Description Hide Description心臓は高血圧のもっとも重要な標的臓器のひとつである.高血圧の心臓における臓器障害には,後負荷の増大に伴う心肥大やリモデリングといった心筋への直接的な影響と,糖尿病や脂質代謝異常など他の危険因子との相乗効果によって進行する冠動脈硬化の影響とがあるが,それらが複合的に作用することで心血管イベントのリスクが増大する.心肥大は,心筋細胞が神経液性因子やメカニカルストレスといった心肥大刺激を受容することで誘導される.心肥大形成には心臓における組織レニン-アンジオテンシン系(RAS)の活性化が重要であるが,アンジオテンシンⅡ(AngⅡ)受容体は,アゴニストであるAngⅡだけでなく,メカニカルストレスによっても活性化し,心肥大形成に深く関与していることが明らかとなっている.また,心筋細胞は血管新生因子の産生を増加させて周囲の血管新生を促進することで,肥大に伴う血液灌流の需要増加に対応している.しかし,血管新生のミスマッチにともなう相対的虚血によって心筋細胞の生存や機能が障害され,心不全への移行が促進される.心肥大は主要な心血管イベントの独立した危険因子であり,心肥大の発症や進展予防を念頭においた降圧治療ストラテジーが求められている. - 高血圧診断のあらたなエビデンス
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家庭血圧の臨床疫学
241巻13号(2012);View Description Hide Descriptionわが国における家庭血圧の普及は著しい.家庭での自己測定血圧には,①測定条件を容易に整えられ再現性が良好であること,②白衣効果や観察者バイアスを除外できること,③現在や将来の臓器障害や脳心血管疾患の予測能に優れていること,などの利点がある.研究対象住民の健康意識が向上し,実地臨床では患者の治療に対するコンプライアンスの改善にもつながる家庭血圧は,いまや高血圧の正確な診断と治療に欠かせない重要なツールとなっている.本稿では,家庭血圧を中心とする“わが国発,世界初”のエビデンスを発信し続けてきた大迫研究をはじめ,家庭血圧に基づいた臨床疫学研究のエビデンスを参照しながら,家庭血圧の有用性について概説し,現在の研究動向,脳心血管疾患予防・治療における家庭血圧測定の重要性を述べる. -
ABPM:パーフェクト24時間血圧コントロールへの臨床応用
241巻13号(2012);View Description Hide Description24 時間血圧測定(ABPM)による血圧管理のもっとも大きな利点として,白衣高血圧を除外し,夜間・早朝高血圧やストレス性高血圧などすべての仮面高血圧を見落とすことなく検出することがあげられる.さらに,ABPM ではサーカディアンリズムやモーニングサージなど血圧変動性の評価ができる.2008 年より保険適応が認められたABPM を用いて,24 時間血圧(収縮期)130 mmHg 未満,夜間血圧下降10~20%(dipper 型),血圧モーニングサージの抑制からなる“パーフェクト24 時間血圧コントロール”状態が評価できる. -
中心血圧の臨床的意義:中心血圧は末梢血圧を超えるか―臓器障害との関連からの検討
241巻13号(2012);View Description Hide Description中心血圧は上腕などの末梢血圧とは異なり,より臓器の灌流圧に近いことから,高血圧性臓器障害との関連性が強く,末梢血圧以上の臨床的意義を有していると考えられている.しかし最近の報告では,臓器障害との関連性において,かならずしも中心血圧の優位性が示されているわけではない.肥満やメタボリックシンドローム(MetS)が存在すると血圧反射波が低下することが報告されており,中心血圧はこれらのリスクを過小評価する可能性がある.中心血圧の臨床的有用性を明らかにするにはこれらの点も含めた前向きな検討が必要である. -
睡眠時無呼吸と高血圧
241巻13号(2012);View Description Hide Description国際的な高血圧のガイドラインであるJNC-7 や日本での高血圧ガイドラインであるJSH2009 でも,睡眠時無呼吸症候群(SAS)は極めて関連性の高い疾患として扱われている.閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の高血圧発症のメカニズムについては様々な要素が複合して生じていると考えられている.OSA による夜間の無呼吸で低酸素血症,覚醒,交感神経活動亢進などが引き起こり,夜間睡眠中に血圧が高い状態になる.そして重症なOSA ではこの状態が持続することにより,高血圧が日中まで継続し一日中血圧が高い状態に陥る.OSA の高血圧の自由行動下血圧の特徴は,仮面高血圧,夜間の血圧低下が生じにくいnon-dipper 型やriser 型などが多いとされている.またOSA は治療抵抗性高血圧の原因にもなると考えられ,治療抵抗性高血圧の80%以上にAHI 10 回/hr 以上のOSA がみられたと報告されている.この様に高血圧の背景にOSA が存在していることを認識し,OSA 治療介入することにより新しい心疾患発症の予防につながると考えられている. -
血圧変動性の臨床的意義
241巻13号(2012);View Description Hide Description血圧変動性と一言でいってもさまざまである.期間によって短期,中期,長期とおおまかに分類され,さらに血圧測定法(外来,自由行動下血圧計,家庭血圧計)によっても評価される血圧変動性は異なる.過去より,血圧変動性に関する報告はさまざまあり,いったん終止符が打たれた印象があったが,近年,外来での血圧変動性に関する報告がなされ,再度脚光を浴びるようになってきた.しかし,この血圧変動性を日常臨床にどう取り入れていくかといった課題も残る. -
高血圧と動脈スティフネス
241巻13号(2012);View Description Hide Description動脈系は,血管弾性を有することで末梢臓器灌流の伝導(conduit)機能と,動脈壁・末梢臓器の保護(cushion)機能の2 つを有するが,動脈スティフネス亢進によりこれら機能が障害される.動脈スティフネスは超音波検査,脈波速度や脈波解析(augmentation index 中心血圧)にて評価される.動脈スティフネス亢進は心後負荷増大(心筋酸素消費量増大),左室肥大,左室機能障害,冠血流障害,血管障害増悪,末梢微小血管障害,血圧変動異常と関連する.そして多くの観察研究において,脈波速度・脈波解析は予後予測指標であることが示されている.動脈スティフネス亢進と血圧上昇は成因であり結果でもある関係を示し,相互に増悪因子として作用する.生活習慣改善,降圧薬の一部は動脈スティフネスを改善することが示されており,今後,その改善が心血管疾患発症リスクの軽減につながるのかの確認研究が必要である. -
心腎連関からみた微量アルブミン尿に対するあらたな治療戦略
241巻13号(2012);View Description Hide Descriptionもともと微量アルブミン尿は早期糖尿病性腎症の指標と位置づけられていたが,近年,慢性腎臓病(CKD)進行のリスク因子であるのみならず,心血管イベントの独立したリスク因子であることが明らかとなり,“心腎連関”に着目したCKD に対する治療戦略が必要である.微量アルブミン尿は糸球体高血圧に内皮細胞の機能障害が加わることによって出現すると考えられている.これまでは,微量アルブミン尿の出現や微量アルブミン尿から顕性蛋白尿への進展を抑制することを治療目標としてきたが,近年微量アルブミン尿は高率で寛解・退縮することが明らかになってきた.微量アルブミン尿の寛解・退縮のためには生活習慣の是正を前提としてRAS 阻害薬による血圧管理とともに,厳格な血糖管理や脂質管理が重要であり,これら集約的治療により心血管イベントの発症を抑制しうる.腎障害の早期診断ならびに治療効果や予後判定のために尿中アルブミン値の定期的な測定が重要であり,微量アルブミン尿出現早期よりRAS 阻害薬を中心とした集約的治療を行う必要がある. - 高血圧治療のあらたなエビデンス
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Jカーブ理論の再燃
241巻13号(2012);View Description Hide Description多くの高血圧治療ガイドラインでは,厳格な降圧が心血管イベント抑制につながるとの考え方“the lower,the better”が導入され,厳しい降圧目標が設定されている.以前,血圧の下げすぎが逆に心血管イベントにつながるとしたいわゆる“J カーブ理論”が提唱されたが,その後の大規模臨床試験やコホート研究などの結果から否定されてきた.しかし最近のいくつかの報告では,やはりJ カーブが存在することを裏づける結果が多く出されている.このJ カーブ現象は存在するのか,存在するとすればどのような病態で多くみられるのか,過去・最近のデータをもとに検証する. -
利尿薬とβ遮断薬の評価
241巻13号(2012);View Description Hide Description利尿薬は多くの臨床試験で高血圧患者の心筋梗塞や脳卒中のリスクを減少させることが証明されており,とくにレニンーアンジオテンシン系抑制薬との併用は降圧のみならず脳卒中再発のリスク減少の相乗作用がみられ,副作用の軽減も図れる.β遮断薬は臨床試験が少なく第一選択の降圧薬としての位置づけには疑問が呈されているものの,冠動脈疾患や心不全の合併患者には良い適応となる. -
直接的レニン阻害薬のエビデンス
241巻13号(2012);View Description Hide Descriptionアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)は血漿レニン活性(PRA)を増加させてしまうことが問題視されてきた.一方,直接的レニン阻害薬(DRI)はレニン-アンジオテンシン系の最初の段階であるアンジオテンシノーゲンからアンジオテンシン(Ang)Ⅰへの変換を触媒するレニンの活性を阻害するためPRA を低下させ,AngⅠおよびⅡ濃度を低下させることができる.現在,臨床応用可能である唯一のDRI アリスキレンは降圧作用が強く,かつ作用時間が長い.これまでいくつかの大規模臨床試験において心保護や腎保護における有用性が報告されてきた.一方,腎機能障害を伴うハイリスクの糖尿病患者では,ACE 阻害薬やARB との併用により副作用の発現が多くみられたとの事例も報告されている.アリスキレンの有用性についてはまだ一定の見解は得られないが,現在進行中の大規模臨床試験などにより,明らかとなることが期待される. -
治療抵抗性高血圧に対する腎交感神経アブレーション
241巻13号(2012);View Description Hide Description高血圧に対する薬物治療の進歩にもかかわらず,治療抵抗性高血圧の頻度は少なくない.治療抵抗性高血圧患者は標的臓器障害を高率に合併し,心血管イベントを発症するリスクも高い.降圧治療に対する抵抗性の原因はさまざまであるが,腎交感神経活動の亢進も重要な要因のひとつである.近年,カテーテルによる腎交感神経焼灼術(腎交感神経アブレーション)が治療抵抗性高血圧患者に施行され,安全かつ有効な降圧治療となる可能性が示された.今後は腎交感神経アブレーションの長期の降圧効果に加え,腎交感神経アブレーションによる交感神経緊張低下が心血管病の病態および予後に与える影響についても検討する価値があろう. -
心房細動とRA系阻害薬の関係―大規模臨床試験が提示した現実
241巻13号(2012);View Description Hide Description心房細動患者は増加するとともに多様化し,その併存疾患にはレニン-アンジオテンシン(RA)系亢進がみられる病態が多数存在する.また同時に,RA 系を抑制することは心房線維化を抑制して,心房細動治療を効果的にするかもしれない.このようなことから,RA 系阻害薬の心房細動治療薬としての意義が有望視されはじめた.しかし,このような仮説を検証した複数の大規模臨床試験では,そのすべてにおいてRA 系阻害薬による直接的なメリットを見出せていない.あらためて,心房細動とRA 系阻害薬の関係を,臨床家としての視点から整理しなければならないであろう. -
高血圧のワクチン療法
241巻13号(2012);View Description Hide Description高血圧ワクチンは,レニン-アンジオテンシン系を標的として活発に研究されてきた.レニンを標的とするワクチンは,動物実験において血圧は有意に低下させたものの,腎でのレニン産生細胞の炎症などの副作用が認められた.アンジオテンシン(Ang)ⅠあるいはⅡを標的としたペプチドワクチンを自然高血圧発症ラットに投与したところ,抗体価の有意な上昇と血圧の有意な低下を認めた.AngⅠワクチンはヒト臨床試験において抗体価の上昇は認められたものの,有意な降圧は認められなかったが,AngⅡに対するペプチドワクチンでは抗体価の上昇と収縮期血圧で9 mmHg,拡張期血圧では4 mmHg の血圧低下を認めた.また,有害事象も軽度の注射部位での反応のみで,重大な事例は認められなかった.著者らは現在DNA ワクチンの基盤技術の検討を行っており,将来的な降圧治療のひとつの選択肢として開発していきたいと考えている. -
減塩は有害とする論文への批判―減塩の重要性は揺るがない
241巻13号(2012);View Description Hide Description食塩摂取量の多いほうが死亡率は低かったとする論文が公表され,減塩の有用性に対する疑問が呈され,議論が沸いた.この論文は,時代の異なる2 つのコホート研究を寄せ集めて分析した結論であった.しかし,この論文の結果は初歩的な疫学分析手法の誤りによるものであり,分析結果そのものに信頼性がない.調査時期の異なる2 つの調査を合わせて分析するときには一つひとつのコホートの分析結果(ここでは食塩摂取量と死亡との関係)が同じ傾向をもたないといけないが,そのことを確認することなく分析され,そのために誤った結論を導いてしまった.仮にその論文がまともであったとしても,減塩の有用性は動物実験から多くの臨床試験・疫学研究において世界中で長年蓄積された研究成果があり,1 編の論文で簡単に揺らぐものではない. - ガイドライン改訂にみる高血圧診療のコントロバーシ
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改訂された日本高血圧学会『家庭血圧測定の指針』
241巻13号(2012);View Description Hide Description2003 年に上梓された日本高血圧学会(The Japanese Society of Hypertension:JSH)『家庭血圧測定条件設定の指針』は,2011 年に『家庭血圧測定の指針』第2 版として改訂された.本改訂にあたり,家庭血圧測定の歴史,特性,臨床的意義が概説された.家庭血圧は診察室血圧,自由行動下血圧に比べて再現性が良好であり,診断能力に優れ,治療の指標,病態の解明に優れており,白衣高血圧,仮面高血圧,血圧長期変動の把握と,血圧の長期管理に優れていることが強調されている.JSH2009 高血圧診断ガイドラインに従い,家庭血圧の診断基準と降圧目標レベルが設定されていることは,世界のガイドラインのなかでも特徴的である.測定条件のなかでつねに問題となる1 機会の測定回数に関しても,さまざまな疫学的エビデンス,診断の共有性,共通性,さらには診断基準の根拠などから,1 機会1~3 回と規定され,評価は1 機会1 回目のある期間の平均とされた.この点は,欧米のガイドラインより優れたものといえる. -
NICE/BHS高血圧治療ガイドライン
241巻13号(2012);View Description Hide Description2011 年に改訂されたNICE 高血圧ガイドラインの特徴は,①診察室血圧(CBPM)が140/90 mmHg 以上のときには携帯型24 時間血圧測定(ABPM)を実施する,②ABPM が不可の場合には家庭血圧測定(HBPM)で治療選択の方針を立てる,③ABPM またはHBPM の血圧値が135/85 mmHg 以上のステージ1 と2(CBPM≧160/100 mmHg でABPM/HBPM≧150/95 mmHg)の高血圧はライフスタイルの改善と降圧療法を推奨する,④135/85 mmHg 以下の場合にはすくなくとも5 年ごとに血圧チェックをする,である.以上により不必要な高血圧治療を減らし,医療費の削減が図られる.降圧薬療法にはステップ1 で55 歳未満はアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)を基本とする.55 歳以上にはCa 拮抗薬を第一選択にする.これで目標血圧に達しない場合はステップ2 に移り,ACEI とCa 拮抗薬の併用,さらにステップ3 に至ればサイアザイド類似利尿薬を追加投与する.それでもコントロール不可のときにはステップ4 治療抵抗性高血圧に進み,カリウム保持利尿薬,α遮断薬,β遮断薬の投与を考慮することと,専門医の紹介と助言を求めることを推奨している. -
妊娠高血圧症候群管理治療ガイドライン
241巻13号(2012);View Description Hide Description妊娠高血圧症候群(PIH)に対しては,『PIH 管理ガイドライン2009』が日本妊娠高血圧学会によってつくられた.しかし,PIH はきわめて精力的な研究が進められてきたにもかかわらず,いまだ病因・病態も混沌としている現状である.したがって,治療法に関する十分なエビデンスが得にくいのが現状である.2011 年にラベタロールと長時間作用型ニフェジピン(妊娠20 週以降)の使用が妊婦に対して認められた.2014 年の改訂をめざして,ガイドライン改定委員会が設立された.ガイドライン改訂では,新しい降圧薬の使用を提案する必要がある.また降圧不良の場合の降圧薬の併用や,子癇などの高血圧脳症を疑わせる状況におけるニカルジピン点滴による管理を提案する.会員を対象としたアンケートによりいくつかの提案も寄せられている.エビデンス追求やコンセンサスミーティングを重ねて,ガイドライン改訂を行う予定である. -
慢性腎臓病(CKD)における降圧療法の見直し
241巻13号(2012);View Description Hide Description慢性腎臓病(CKD)における高血圧治療はCKD の予後を左右するため,きわめて重要である.従来,「CKDにおける高血圧はACE 阻害薬またはアンジオテンシンⅠ型受容体拮抗薬(RA 系阻害薬)を第一選択薬に用いて,130/80 mmHg 未満を降圧目標にする」とされてきた.しかし,RA 系阻害薬の腎保護効果は尿蛋白減少効果に依存し,尿蛋白が多いほど他の降圧薬に対する優位性が大きいことが明らかになった.さらに,高齢者CKD では過降圧の弊害も明らかになった.このような背景から,『CKD 診療ガイド2012』では,「尿蛋白陽性のCKD や糖尿病ではRA 系阻害薬を第一選択薬にするが,尿蛋白陰性のCKD では第一選択薬は病態に合わせて決定する」と変更された.また,降圧目標値は130/80 mmHg 未満から130/80 mmHg 以下と変更され,110 mmHg 未満の過降圧を避けることが強調された. -
原発性アルドステロン症の診断ガイドライン
241巻13号(2012);View Description Hide Description原発性アルドステロン症(PA)のスクリーニングはⅡ度以上の高血圧,治療抵抗性高血圧,低K 血症や副腎偶発腫瘍を伴う高血圧,若年発症の高血圧の家族歴や若年で臓器障害合併例などでは積極的に行う必要がある.スクリーニングはおもに,早朝採血の血漿アルドステロン濃度(PAC;pg/mL)/血漿レニン活性(PRA;ng/mL/hr)>200 が有用である.スクリーニングはレニン抑制を検出するのが目的であり,低レニン低アルドステロン血症による偽陽性があるので,PAC がすくなくとも150 pg/mL 以上であれば確からしい.つぎの確定診断は,生理食塩水負荷試験,経口食塩負荷試験,カプトプリル負荷試験などによるアルドステロン抑制試験におけるアルドステロン抑制の欠如を証明するのが目的である.確定診断された症例では,手術による根治療法の希望があり,副腎静脈サンプリングの結果,片側病変であれば片側副腎摘出術の適応となり,それ以外は薬物療法の適応となる. -
ACCF/AHA高齢者高血圧ガイドライン
241巻13号(2012);View Description Hide Description2011 年,American Collage of Cardiology Foundation(ACCF)とAmerican Heart Association(AHA)の合同で高齢者高血圧に対する現在の考え方をまとめた報告書が発表された.高齢者,とくに80 歳以上の高血圧患者を対象とした大規模臨床試験は少なく,十分なエビデンスは得られておらず,あくまでも現時点でのコンセンサスとして発表されている.そのなかで,高齢者高血圧患者の血圧測定法,降圧目標値,臓器障害の評価法,非薬物療法の必要性,薬物療法では合併症の有無によってその薬剤選択が異なること,などが報告されている.この報告は,『日本高血圧治療ガイドライン2009』に収載されている高齢者高血圧と薬物選択と比べても大きな相違はなく,わが国でも十分活用可能なものである. - 最新のエビデンスに基づく高血圧診療2012
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白衣高血圧,仮面高血圧への対処
241巻13号(2012);View Description Hide Description白衣高血圧,仮面高血圧はいずれも診察室などの医療環境で測定した血圧値と医療環境以外での血圧値が一致しない状態である.家庭血圧や携帯型24 時間血圧計の発達によりこれらの概念が生まれたが,それらの考え方や臨床的意義がすこしずつ変化してきている.白衣高血圧は従来無害な状態であるとされていたが,将来“真の”高血圧への移行率が高く,動脈硬化や臓器障害が進みやすく,長期予後はかならずしもよくないことから,日常診療において注意すべき状態である.また,仮面高血圧は,正常高値高血圧とのオーバーラップが従来考えられていたよりも大きいことや,さまざまな心血管危険因子との関連性,臓器障害の進行との関連が報告されている.また,心血管予後は正常血圧に比べて両者とも悪いことが示されている.本稿では,白衣高血圧,仮面高血圧について基本的事項を整理し,最近発表された知見をもとにそれらへの対処法をまとめる. -
第一選択薬としてのCCB,ARBの使い方
241巻13号(2012);View Description Hide DescriptionCa 拮抗薬(CCB)とアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)は,両剤とも有用性と安全性が高いことから,わが国の降圧薬として圧倒的な使用頻度を誇る.CCB は確実な降圧にもかかわらず脳・冠・腎・末梢循環を良好に保ち,糖・脂質代謝への悪影響がないため,日本高血圧学会による『高血圧治療ガイドライン2009(JSH2009)』では,CCB の積極的適応として脳血管疾患後,頻脈(ただし非DHP 系),狭心症,左室肥大,糖尿病,高齢者(ただしDHP 系)があげられている.ARB もまた,その降圧効果に加えて脳・心・腎の保護効果に優れることから,さまざまな病態において第一選択薬として推奨されている.さらに,CCB の血管拡張作用に対してレニン-アンジオテンシン系活性は代償的に亢進するが,ARB の併用がこれを抑制することで降圧効果は増強される.また,CCB の動脈拡張作用に起因する末梢性浮腫や頭痛などの副作用は,ARB の併用で軽減する可能性が示唆されている.さらに最近,CCB は各種降圧薬のなかで血圧変動性を抑制する作用がもっとも強く,ARB による血圧変動性を相殺するという可能性も示唆されている.各種病態に適切な降圧薬を選択するためには,CCB とARB の特性を熟知することが必須である. -
利尿薬とβ遮断薬の使い方
241巻13号(2012);View Description Hide Descriptionメタ解析で少量利尿薬使用による心血管疾患発症予防効果は有意であるが,大量利尿薬使用では予防効果の有意性は認められていない.したがって,利尿薬は血圧コントロールの用量調節域が限定されており,レニン-アンジオテンシン(RA)系遮断薬との併用で第二選択薬として使用されることが多い.血圧治療にはサイアザイド系利尿薬のヒドロクロロチアジドが使用されることが多いが,最近の研究で長時間作用型サイアザイド類似利尿薬のクロルタリドン,インダパミドがヒドロクロロチアジドに比べて降圧効果,心血管疾患発症予防効果に優れているとの報告があり,注目される.最近,β遮断薬の第一選択薬からの除外が提言されている.メタ解析では,β遮断薬は他の降圧薬に比べて心血管疾患発症予防効果が有意に小さい.その機序として不十分な降圧効果,擬性降圧効果,弱い血管保護作用,糖・脂質代謝への悪影響が示唆されている.しかし,これまでのメタ解析のほとんどは,水溶性β遮断薬であるアテノロールについての解析結果である.心不全治療では長時間作用,脂溶性,血管拡張作用を有するβ遮断薬がこれらアテノロールで指摘された問題点を克服している.したがって,心拍数の高い症例や難治性高血圧では,これら特徴を有する降圧薬の併用を考慮すべきである. -
降圧治療における配合剤の使い方
241巻13号(2012);View Description Hide Description降圧薬どうしの配合剤としては,ARB と利尿薬およびARB とCa 拮抗薬の配合剤が発売されている.配合剤の利点として,服薬する薬剤数が減ることによりアドヒアランスが改善し,心血管イベントの抑制が期待できることがあげられる.さらに,配合剤は単剤の併用よりも経済的でもある.薬理学的な利点として,ARB がCa 拮抗薬による末梢浮腫を軽減することや,ARB が利尿薬による低K 血症を低減すること,ARB と利尿薬の併用により相乗的に降圧効果が増強することなどがある.ハイリスク高血圧患者を対象としたACCOMPLISH試験では,ARB と同様にレニン-アンジオテンシン系を抑制するACE 阻害薬とCa 拮抗薬との併用がACE 阻害薬と利尿薬との併用よりも心血管イベントの発症を抑制した.一方で,アルブミン尿を有する糖尿病合併高血圧患者を対象としたGUARD 試験では,ACE 阻害薬と利尿薬の併用がACE 阻害薬とCa 拮抗薬との併用よりもアルブミン尿を減少させた.ARB の併用薬としてCa 拮抗薬と利尿薬のどちらがより優れているかは,対象患者により異なる可能性があり,まだ議論の余地がある. -
アルドステロンブロッカーの使い方―その多岐にわたる臓器保護およびアンチメタボリック作用
241巻13号(2012);View Description Hide Descriptionアルドステロンブロッカーであるエプレレノンおよびスピロノラクトンは,優れた降圧作用,心血管,腎保護作用をもち,アンチメタボリック作用をも有する薬剤である.高血圧患者の約10%を占める原発性アルドステロン症に対してもっとも有効であるが,それ以外に治療抵抗性高血圧,肥満高血圧,慢性腎臓病および心不全を合併する高血圧症に対しても優れた治療効果を発揮する.重症の慢性心不全に対する有効性は確立しているが,急性心不全および軽症の心不全に対しても有効であることが大規模臨床研究から明らかにされている.慢性腎臓病に対して蛋白尿やアルブミン尿の改善効果が報告されているが,エプレレノンは現在のところ糖尿病腎症には使用できない.腎障害を伴う場合は血清クレアチニンやカリウム値に気をつけて使用すれば安全な薬剤である.糖代謝改善作用や内臓脂肪量減少作用などアンチメタボリック作用も有することが明らかにされ,今後,降圧薬,心不全治療薬を超え,生活習慣病改善薬としての効果も期待される. -
超高齢者の降圧治療
241巻13号(2012);View Description Hide Description超高齢者を含む高齢者高血圧の治療にあたっては,その特徴を十分考慮したうえで降圧を図る必要がある.収縮期血圧の増加と脈圧の開大,血圧の動揺性,圧受容器反射低下に伴う起立性低血圧や食後血圧低下の増加,血圧日内変動での夜間非降圧型や早朝高血圧,白衣高血圧の増加などはいずれも高齢者高血圧の特徴であり,診療上重要である.JSH2009 では降圧目標を140/90 mmHg とし,中間目標に150/90 mmHg をあげている.高齢者高血圧では臓器血流などに配慮した緩徐な降圧が必要である.非薬物療法として減塩や運動などの生活習慣の修正も有用であり,多様性の大きい高齢者の個々の特徴に合わせ,QOL に配慮しながら方針を決める.超高齢者高血圧に対するエビデンスはいまだ十分でない実情があり,さらなるエビデンスの構築が望まれる. -
治療抵抗性高血圧の治療戦略
241巻13号(2012);View Description Hide Description治療抵抗性高血圧は「生活習慣の修正を行ったうえで,利尿薬を含む適切な用量の3 剤以上の降圧薬を継続投与しても,なお目標血圧140/90 mmHg 未満(糖尿病,腎障害合併例では130/80 mmHg 未満)まで降圧しない場合」と定義されている.治療にあたっては肥満,食塩などの過剰摂取,糖尿病,慢性腎臓病や睡眠時無呼吸症候群などの合併症,白衣高血圧,二次性高血圧など,関連する種々の要因について評価し是正する必要がある.減塩が有効なことから徹底的な減塩を図る.降圧薬は作用機序や副作用を考慮して選択するが,利尿薬は必須である.また,アルドステロン拮抗薬の追加投与の有効性が示されている.最近,カテーテルを用いた腎交感神経アブレーションなどの非薬物治療があらたに開発され,有効性を示す成績が報告されている.適切な治療を行っても目標血圧レベルに達しない場合は,高血圧専門医への紹介を考慮すべきである. -
脳血管障害合併高血圧の管理―降圧目標および推奨薬剤
241巻13号(2012);View Description Hide Description脳血管障害罹患患者の高血圧管理は,発症後の時期(超急性期,急性期,慢性期),およびその臨床病型(脳出血,くも膜下出血,脳梗塞)により異なる.降圧目標値には十分なエビデンスはないが,脳梗塞では収縮期血圧>220 mmHg,または拡張期血圧>120 mmHg いずれかを満たす場合に,前値の85~90%を目安に降圧する.発症後3時間以内の超急性期においてはtissue-plasminogen activato(r t-PA)による血栓溶解療法施行時および施行後24 時間までは,収縮期180 mmHg 未満かつ拡張期105 mmHg 未満にコントロールする必要がある.脳出血急性期では,収縮期血圧180 mmHg または平均血圧130 mmHg 以上のいずれかの状態が続いたら降圧治療を開始し,前値の80%を目安に降圧する.脳血管障害慢性期では140/90 mmHg 未満を目標とするが,ラクナ梗塞,脳出血では130/80 mmHg 未満を目標とする.降圧薬の種類では,カルシウム拮抗薬,アンジオテンシンⅡ受容体阻害薬(ARB),アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE),少量の利尿薬が推奨される. -
慢性腎臓病(CKD)を合併する高血圧の管理
241巻13号(2012);View Description Hide Description慢性腎臓病(CKD)は末期腎不全のみならず,心血管病(CVD)の独立したリスク因子である.降圧療法は腎障害の進展抑制,CVD 合併抑制において重要な役割を果たす.診察室血圧130/80 mmHg 以下を目標として,家庭血圧も含めた安定した降圧達成が重要である.糖尿病あるいは蛋白尿を呈するCKD 患者ではRAS 阻害薬が第一選択薬となる.RAS 阻害薬の蛋白尿減少作用は用量に依存しており,蛋白尿を指標として用量を設定する.RAS 阻害薬単独で十分な効果が得られない場合は,少量利尿薬あるいはCa 拮抗薬の併用を行う.いずれを選択するかは,CKD の原疾患,蛋白尿の多寡を考慮して決定する.蛋白尿を呈さないCKD や高齢者においてはRAS 阻害薬の優位性は確立されていない.過度のRAS 抑制により急性腎不全を惹起することもあり,注意が必要である.降圧薬の選択,降圧目標設定など,原疾患と患者背景を考慮した個別化医療の実践が求められる. -
心疾患合併高血圧の降圧治療―病態に応じた積極的降圧療法
241巻13号(2012);View Description Hide Description高血圧治療の目的は,心血管病を含む臓器合併症の予防と,すでに臓器障害が発症している場合は合併症進展の予防と再発防止である.日本高血圧治療ガイドライン(JSH2009)では若年者・中年者では130/85mmHg 未満,糖尿病や慢性腎臓病(CKD),心筋梗塞後患者では130/80 mmHg 未満,脳血管障害患者,高齢者では140/90 mmHg 未満と厳格な降圧目標が設定されている.さまざまな大規模臨床研究から心血管病にはアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)が有益であることは異論のないところであるが,単剤では降圧不十分な症例が多く,併用療法や配合薬が多く選択されている.心疾患合併症例では,器質的冠動脈狭窄による労作性狭心症にはβ遮断薬とCa 拮抗薬のどちらも有効であるが,冠攣縮性狭心症ではCa 拮抗薬が第一選択となる.心不全ではレニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害薬+β遮断薬+利尿薬の併用が心不全治療の標準的治療である.高血圧を合併する発作性心房細動に対しては,ARB がアップストリーム治療として用いられている. -
糖尿病・MetS合併高血圧の降圧治療
241巻13号(2012);View Description Hide Description最近の高血圧治療のガイドラインでは,高血圧合併糖尿病患者の降圧目標が130/80 mmHg 未満に設定され,厳格な血圧管理が求められている.すなわち,血圧が130/80 mmHg 以上あれば降圧薬による治療をただちに開始する.ただし,生活習慣の修正で降圧が期待される症例では,3 カ月を超えない範囲で非薬物療法を試みてもよい.第一選択薬はインスリン抵抗性や臓器障害を改善するACE 阻害薬,ARB とされている.これら単剤で降圧目標を達成できない場合には増量するか,第二選択薬としてCa 拮抗薬あるいは少量のサイアザイド系利尿薬を併用する.糖尿病患者の高血圧は治療抵抗性のことが多く,複数の降圧薬が必要になることが多い.メタボリックシンドローム(MetS)の構成要素で,もっとも高頻度の異常は高血圧である.MetS 患者での降圧薬の選択に際してはインスリン抵抗性を改善する降圧薬を選択し,これらの患者に将来糖尿病を発症させないよう留意する必要がある. -
減塩はこうすればできる
241巻13号(2012);View Description Hide Description減塩は高血圧の管理においてきわめて重要であり,日本の高血圧治療ガイドラインは食塩摂取量を6 g/day未満とすることを勧めている.しかし,日本人の食塩摂取量は減少傾向にあるものの,まだ平均10 g/day 以上と多く,高血圧患者の大部分は目標を遵守していない.減塩は実行と継続が困難であることが大きな問題で,実効性のある方法の普及が望まれる.本稿では,減塩の効果的な方法や指導について,管理栄養士および高血圧専門医の立場から述べた.管理栄養士からみたおもなポイントは,①聞き取り法などによる日常の塩分摂取状況の把握と分析,②食品の塩分の量についての情報提供,③問題点に対する具体的な解決方法の提案,である.高血圧専門医の立場からは,①食塩過剰摂取の害についての啓発,②減塩の効果についての教育,④減塩の原則的および具体的な指導,⑤尿のナトリウム(Na)排泄量測定による食塩摂取量の評価,がポイントとなる.
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