医学のあゆみ
Volume 242, Issue 1, 2012
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【7月第1土曜特集】 乳癌診療Update―最新診療コンセンサス2012
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- 最新診断コンセンサス
- 【診断・治療効果予測】
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遺伝性乳がん・卵巣がん症候群におけるBRCA診断
242巻1号(2012);View Description Hide Description全乳癌の5~10%が,遺伝に伴って発症するといわれている.これまでに乳癌および卵巣癌の発症に関与する遺伝子として,BRCA1 および2 という2 種類の遺伝子がみつかっているが,これらの遺伝子に癌発症の原因となる変異(病的変異)があると,将来,乳癌および卵巣癌に罹患するリスクが健常人の10 倍以上と高くなり,最近では,遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC:Hereditary Breast and Ovarian Cancer Syndrome)とも称されている.そこで,欧米では,おもに家族歴の濃厚な患者およびその家族に対して遺伝子カウンセリングを施行し,希望者にはこの遺伝子の変異を同定する検査を行い,治療方針決定のほか,本症候群に特化した検診や発症予防のプログラムに役立てている.わが国では,本領域への取組みが,諸外国に比べ著しく遅れており,遺伝カウンセリングを含む診療体制の強化が急務である. -
乳癌検診の現状と今後の展望―次世代の検診システム構築に向けて
242巻1号(2012);View Description Hide Description乳癌検診をより有効に実施するためには,科学的根拠に基づき有効性の確認された検診方法を,高い水準でシステム化された精度管理のもとに,より多くの人に提供することが重要である.マンモグラフィ検診は唯一,死亡率減少効果の科学的根拠を有する優れた検診方法であるが,罹患率の高い40 歳代における感度は71%程度であり,十分とはいえない.本稿では,より質の高い乳癌検診をめざして利益,不利益に関するネットベネフィットの考え方と精度管理に関する指標について述べるとともに,つぎの世代に受け継がれる最良の検診方法を追求し,必要とされる科学的根拠を創出して,新しい技術の導入やシステムの改善をめざすための試みについて概説する. -
乳癌病期分類―微小転移検索とその臨床的意義
242巻1号(2012);View Description Hide DescriptionTNM 病期診断に加えて,腋窩リンパ節における微小転移巣や骨髄内の微量癌細胞の検出は,より詳細な予後予測に有用である.これまでの微小転移の臨床学的意義の検証は,その存在診断と予後予測との関連におもに着目されてきた.昨今の乳癌全身治療の適応決定には,従前の解剖学的な進行度よりも薬剤感受性がより重要視されるようになってきたこと,また,癌の進展プロセスの理解とその克服において,tumor dormancy の概念や骨髄内微量癌細胞と宿主環境因子との相互作用など,そのbiology に注目した探求が進歩している.さらに,微小癌細胞をターゲットとしたあらたな治療戦略の開発をめざす今後のトランスレーショナル研究の展開に期待している.本稿では腋窩リンパ節および骨髄内の微小転移の検出法,ならびにその臨床学的意義に関する報告をまとめるとともに,今後の展望を考察する. -
マイクロアレイを用いた乳癌subtype分類
242巻1号(2012);View Description Hide Description2003 年に完了したヒトゲノム計画(Human Genome Project)によりヒトゲノムの32 億に及ぶ全塩基配列が解読され,数万個のヒト遺伝子が同定された.この膨大なゲノム情報を解釈する技術として実用化されているのがマイクロアレイ技術である.最初にマイクロアレイを用いた乳癌のintrinsic subtype 分類が行われたのは2000 年のPerou らの論文である.これは乳癌を顕微鏡ではなく,多数遺伝子の発現パターンにより分類しようとした初の試みであった.その後,現在まで発展継続するsubtype 分類を理解するには,その一貫した研究目的と分類法の変更の2 点を理解することが重要であると考える.分類法は初期はシンプルなクラスター解析であったが,その後自験例の平均値を用いたCentroid 法に変更され,現在に至る.また,癌の分類に用いる遺伝子セットはおもに化学療法前後で発現が変化しない遺伝子群を選択し,最近の論文ではclaudin-lowsubtype を新設し分化の過程順にsubtype を並べるという仮説を発表したことなどから,彼らの最終的な目的とは,「乳癌を幹細胞から順に分化の過程に沿って並べる」ことであろうと考えている.本稿ではマイクロアレイを用いた乳癌のintrinsic subtype 分類研究の現在までの変遷や,日本人乳癌への適用などについて紹介する. -
乳癌臨床検体における細胞増殖の評価
242巻1号(2012);View Description Hide Description乳癌細胞の細胞増殖動態を正確に検討することは,その患者の臨床予後の推定ばかりでなく術後療法の選択などの治療面での指標の決定にもきわめて重要になる.この細胞増殖動態は従来,細胞分裂数を病理組織標本で検討することでおもに解析されてきたが,近年では細胞増殖関連抗原の発現動態を免疫組織化学的に検索することで検討されている.なかでも通常の10%ホルマリン固定パラフィン包埋標本で検討が可能なKi67の免疫組織化学的検索は,非常に広範に行われるようになってきた.しかし,このKi67 染色は通常の病理組織標本で細胞増殖動態をある程度正確に検索できるなど,従来の技法に比較して非常に優れた点も多いが,標本の固定・処理,染色方法,結果の解釈をどうするかなど,いまだ解決しなければならない問題点も数多くある.Ki67 染色の結果を実際の乳癌の診断治療に適応させる場合には,これらの限界や問題点も十分に把握して進めていくことが強く望まれる. -
組織学的治療効果判定の意義と問題点
242巻1号(2012);View Description Hide Description術前薬物療法の組織学的治療効果判定により,個々の乳癌症例において使用薬剤の有効性を知ることができる.この情報は術後や再発時の薬剤選択に有用である.また,術前化学療法施行症例を対象とした多くの研究で,原発巣の組織学的治療効果や手術標本で病理学的に検索されたリンパ節転移状況が予後と有意に相関している.したがって,組織学的治療効果と術後リンパ節転移状況には予後因子としての意義がある.しかし,組織学的治療効果の判定基準ついてはこれまで多数の報告があり,統一されていない.また,同一基準を用いても手術材料の検索方法により,判定結果が異なる可能性がある.今後,判定基準と検索方法の標準化が望まれる. -
術前薬物療法後の予後予測
242巻1号(2012);View Description Hide Description乳癌の治療法は,①外科手術や放射線治療といった“局所治療”と,②内分泌療法薬,化学療法薬,分子標的薬を用いた“全身治療”に分けられる.“全身治療”としての乳癌の薬物療法は,ホルモン受容体とhumanepidermal growth factor receptor 2(HER2)発現状況を考慮して選択される.術前化学療法についての代表的な無作為化比較試験であるNSABP B-18 試験から,①術前化学療法後の無病生存率,全生存率は術後化学療法と同等である,②術前化学療法後に病理学的完全奏効(pCR)が得られた症例は,pCR が得られなかった症例(non pCR)に比べ無病生存率,全生存率ともに良好である,③術前化学療法により乳房温存術施行率が増加する,といった結果が得られたことより,術前化学療法の臨床試験が広く行われるようになった.術前内分泌療法に関するエビデンスは術前化学療法と比較して十分ではないが,術前内分泌療法を行った場合,pCR 率は低いものの,奏効率,乳房温存率ともに向上することが明らかとなっている.本稿では,術前薬物療法(術前化学療法と術前内分泌療法)後の予後予測について概説する. - 【画像診断】
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早期乳癌の診断―乳房MRIの臨床適応
242巻1号(2012);View Description Hide Description早期乳癌における画像診断の役割としては,乳癌の発見,針生検のイメージガイド,術前ステージングといったものがある.そして各モダリティの使い分けとしては,マンモグラフィで乳癌を発見し,超音波ガイド下で生検を行った後,MRI でステージングをすると一般的に考えられている.しかし,MRI の適応については誤解されている面もあり,以下の2 点に留意する必要がある.1 つは,MRI でステージングを行うことが患者に不利益をもたらす危険性,つまりMRI 所見を過大評価することで不要な乳房全摘手術が増加する危険性である.MRI 所見をもとに重大な治療方針の変更を行う際は,組織学的な裏づけをとることが重要である.そしてもう1 つは,新しい乳癌を発見することもMRI の重要な適応だということである.具体的には,ハイリスク患者に対するスクリーニング,乳房温存療法後の再発精査,乳癌症例の対側精査といったものがあげられる.また,以前より乳房MRI は特異度が低いといわれてきたが,撮像技術や読影法の発展により特異度の向上もみられ,高精度の診断が可能となってきている.早期乳癌の画像診断を適切に行うためには,乳房MRI の特徴・適応を熟知する必要がある. -
治療効果評価
242巻1号(2012);View Description Hide Description術前薬物療法における画像診断は,以前は化学療法後の広がり診断が主であった.治療後の残存病変がどの範囲に存在するかの診断である.しかし近年では,薬物療法途中での評価を行うことで,その薬剤を継続した場合の効果を予測する試みがなされるようになってきた.この効果予測には撮像方法の標準化,測定タイミングの適正化,評価方法の確立,そして予後との相関など,検証すべきステップがいくつかあるため,いまだ十分に確立されていないのが現状である.一方,画像診断の進歩は著しく,腫瘍内血流解析や体積測定のワークステーションも開発され,さらにさまざまな機能画像が登場してきている.このタイムラグを解消するには,すべての画像機器に精通した画像診断医と,治療にあたる外科医や腫瘍内科医とのチームワークが必須である.本稿では術前薬物療法における画像診断の問題点と,機能画像の代表であるMR スペクトロスコピーの現状と今後の可能性を概説したい. - 最新治療コンセンサス
- 【外科・放射線治療】
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センチネルリンパ節生検とリンパ節転移診断の将来
242巻1号(2012);View Description Hide Description乳癌診療において腋窩マネジメントは現在大きな転換期のなかにいる.腋窩マネジメントにはstaging,local control が期待される.臨床的にリンパ節転移を認めないcN0 症例において,staging ならびにpN0(sn)症例に対するlocal control の役割は,腋窩リンパ節郭清からセンチネルリンパ節生検へと変遷した.さらに,pN1(sn)症例においてもlocal control をセンチネルリンパ節生検のみで担う時代になりつつある.現在は画像診断ならびにリンパ節穿刺吸引細胞診によって,センチネルリンパ節生検あるいは腋窩リンパ節郭清の適応を判断している.今後はさらに画像機器の進歩に伴う診断精度の向上によって,センチネルリンパ節生検すら省略される時代がやってくると考えられる. -
非浸潤性乳管癌の局所治療
242巻1号(2012);View Description Hide Description乳管上皮由来の癌で,癌細胞が乳管内あるいは小葉内細乳管に限局し,間質浸潤をきたさないものを非浸潤性乳管癌(ductal carcinoma in situ:DCIS)という.DCIS は乳管内にとどまる癌で,癌巣をすべて切除すれば理論的には100%治癒可能な癌であり,手術を含めた局所治療を成功させることで良好な予後が期待できる.各種画像所見より癌の乳管内進展を把握し,その広がりに応じて乳房部分切除あるいは乳房切除を選択するが,DCIS が乳管にとどまる癌であるという性質上,乳管に沿って広範に進展する可能性があり,病変の広がり診断が難しい. 乳房温存術後局所再発の重要なリスク因子として断端陽性が報告されており,乳房温存術が選択された場合は,癌巣を完全に切除しえたかどうかを術後病理診断で正確に判定する必要がある1).詳細な病理検索の結果,癌巣が完全に切除されていることが保証されれば,追加治療(再手術,温存乳房への放射線照射,内分泌療法を中心とした薬物療法)が省略できる可能性がある.また,癌が遺残した場合も,その量と質によっては放射線照射や薬物療法の追加により局所制御が可能となる.術前画像所見による厳密な切除範囲の設定,手術による完全切除と正確な病理診断,適切な術後補助療法の選択を含めDCIS の局所治療について考える. -
乳癌の腋窩治療―現状と今後の展望
242巻1号(2012);View Description Hide Descriptionハルステッドの時代より,乳癌細胞は腋窩リンパ節を経て全身に転移するという考えのもとに,乳房切除に腋窩郭清を加える乳房切断術が長らく標準治療とされてきた.その後,フィッシャー理論の登場や乳癌細胞の生物学的特性の解明から腋窩郭清による予後の改善効果は疑問視され,現在では局所制御や病期診断による予後予測の意味合いが濃くなっている.センチネルリンパ節生検の普及により腋窩郭清はセンチネル陽性例に行われるようになったが,ITC やmicrometastasis など腫瘍量の少ないリンパ節転移の場合やセンチネルリンパ節の転移個数が少ない場合には腋窩郭清を省略する傾向にある.これは,たとえ腋窩に腫瘍細胞が残存していても局所再発や予後に及ぼす影響は少なく,全身治療や放射線治療によって十分治療しうるという考えが根底にあるといえる.さらに,予後が良好と考えられる乳癌において,補助療法の存在下では腋窩治療そのものを省略する動きもでてきており,腋窩治療は確実に縮小へと向かっている. -
術前化学療法施行例の外科治療―乳房温存療法,センチネルリンパ節生検の実際
242巻1号(2012);View Description Hide Description術前薬物療法のうち,化学療法は術前に行っても術後に行っても無病再発率・生存率に有意差がないことが,いくつかの前向き無作為化比較臨床試験で明らかになってきている.術前薬物療法のうち術前化学療法の臨床的なメリットとしては手術の縮小化があげられる.すなわち,乳房温存療法の適応がない症例が可能になり,切除範囲が縮小化されることにより整容性の高い乳房温存療法が可能になること,さらには薬物療法の効果によりセンチネルリンパ節生検が導入可能となり,腋窩リンパ節郭清の省略が可能になることも期待される.術前内分泌療法の薬剤としてはアロマターゼ阻害剤(AI)が有効であり,奏効率や乳房温存率はタモキシフェン(TAM)と比較して優れた成績を示している.しかし,内分泌療法の腋窩リンパ節転移への効果が明らかでないことから,センチネルリンパ節生検に関してのエビデンスはほとんどなく,実臨床として実施されているのみである.術前薬物療法後に外科的治療計画を立てる際には,薬物療法前後の画像診断(マンモグラフィ,超音波検査,MRI またはCT など)の情報と,針生検時に採取された検体から得られるサブタイプやバイオマーカーの情報を組み合わせて治療効果を推測し,方針を決定することが基本である. -
乳房再建の適応と選択―根治とQOLの両立のために
242巻1号(2012);View Description Hide Description乳房再建術は乳房温存療法と並び,QOL を考慮した乳癌治療である.とくに乳房切除術に伴う同時再建は,患者が乳癌を受け入れ治療を乗り切るための精神的な支えとなりうる.温存療法が可能な患者が温存療法を受けるのか乳房切除と乳房再建を受けるのか,あるいは乳房切除が必要な患者が再建するのかどうかは,患者が選択すべき問題である.そのためには正しい情報と,それを実践できる環境が必要になる.情報とは,治療成績だけでなく治療期間,入院日数,社会復帰までの期間,費用,そして治療後の乳房形態などの詳細な比較であり,環境とは乳房再建を行うための形成外科の整備,同時再建のための手術枠の調整,乳腺外科医と形成外科医の良好な関係などである.再建方法は乳房インプラントやさまざまな皮弁移植など多岐にわたるが,患者の希望,乳房の形態,体型,年齢,乳癌の状態,仕事や趣味などの社会的背景などによって選択する.それぞれの特徴を解説し,症例を紹介する. -
原発性乳癌に対する放射線療法―その役割とあらたな知見
242巻1号(2012);View Description Hide Description乳房温存療法は乳房温存手術後に放射線療法を行う治療法である.近年,早期乳癌に対する乳房温存療法は標準療法となっている.浸潤性乳癌においては,乳房温存術後の放射線療法は局所領域再発を低下させるだけでなく,乳癌死も低下させることが示されている.乳房への照射においては全乳房照射が標準治療であり,さらに腋窩リンパ節転移4 個以上の症例では,鎖骨上窩リンパ節領域へも照射することが勧められる.非浸潤乳管癌においても放射線療法を行うことにより乳房内再発が有意に減少することが示されている.ただし,非浸潤性乳癌においては,乳癌死を低下させることは示されていない.一方,局所進行乳癌に対する乳房切除後症例,とくに腋窩リンパ節転移陽性症例においては乳房切除後放射線療法(Postmastectomy Radiation Therapy:PMRT)が行われている.近年,腋窩リンパ節陽性例などの局所進行期例で,PMRT が胸壁再発を軽減させるだけでなく,生存率を向上させることが示された.PMRT が,腋窩リンパ節4 個以上陽性例において適切な全身療法との併用により生存率を向上させることはコンセンサスが得られているが,腋窩リンパ節転移1~3 個の患者に関してはまだ異論のあるところである.本稿では,日本乳癌学会の乳癌診療ガイドライン2011 年版1),NCCN(National Comprehensive Cancer Network)ガイドライン2)を踏まえて原発性乳癌に対する放射線療法を概説する. -
両側乳癌の治療―両側乳癌のリスクファクターと対側の予防的乳房切除術の問題
242巻1号(2012);View Description Hide Description両側乳癌は同時両側乳癌と異時両側乳癌に分類され,その予後が片側乳癌に比べて不良かどうかの報告は一定しないが,両側の腫瘍の個別の予後予測を足し合わせたものに近似すると思われる.治療を行うに際し,手術については左右の対称性という観点からの配慮が必要であるが,BRCA1/2 の遺伝子変異例の乳房温存療法は相対的禁忌とされている.経過の長い異時両側乳癌で放射線既治療例の場合,局所療法の計画段階で前回照射録の確認が必要であり,薬物療法は両側の病変に対応するようバランスを考える必要がある.両側乳癌のリスクファクターとしてBRCA1/2 の遺伝子変異,Hodgkin 病によるマントル照射の既往,家族歴,小葉癌や多中心性などの病理所見が知られているが,これらを理解することが片側乳癌患者の健側乳房をどう扱うかの問題に重要である.ホルモン療法,化学療法による対側の乳癌のリスクの軽減効果も明らかになっており,乳房MRI 検査の位置づけ,予防的乳房切除術の適応などの問題を総合的に判断していく必要がある. - 【薬物療法】
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乳癌ホルモン療法のUpdate 2012
242巻1号(2012);View Description Hide Description全乳癌の約70%は乳癌組織内にホルモンレセプターが発現しており,これらにはホルモン依存性があると考えられる.ホルモン療法はエストロゲンの機能低下(抗エストロゲン薬)およびエストロゲンの合成阻害(閉経前のLH-RH アゴニスト,閉経後のアロマターゼ阻害薬)が本質であるが,ホルモン付加療法(プロゲスティン,エチニルエストラジオール)も行われる.いずれの内分泌療法薬も化学療法に比べて副作用は少なく,術前後全身療法,転移乳癌治療において有用である.最近,アゴニスト作用をもたない抗エストロゲン薬であるフルベストラントが閉経後進行乳癌の二次治療薬として使用可能となった.さらに,閉経後進行乳癌におけるアロマターゼ阻害薬と分子標的治療薬との併用などでは大きな予後改善効果が認められた.また,エストロゲン枯渇療法後のホルモン付加療法など単剤逐次投与法の有用性の理解が進んでいることなど,ホルモン療法の新展開について報告した. -
抗HER2療法の現状
242巻1号(2012);View Description Hide DescriptionHER2 は独立した予後因子であり,それを明確な標的とした抗HER2 療法では,トラスツズマブの登場により治療成績を明らかに向上させ,同時に分子標的治療の先がけとなった.一方,トラスツズマブ耐性を獲得したHER2 陽性癌に対する新規治療薬の開発も進み,現在ではラパチニブ,Trastuzumab-DM1,Pertuzumabなどの薬剤の臨床試験が進行し,有望な成績が報告されている.また,内分泌療法との併用治療の成績や,抗癌剤を併用しない抗HER2 療法のみによる治療の成績も報告されつつある.本稿では,これら抗HER2 療法の最新知見と新規治療薬を紹介する. -
新規チューブリン阻害剤としてのNab-パクリタキセルとエリブリン―新規チューブリン阻害剤の有用性
242巻1号(2012);View Description Hide Description近年,乳癌領域での新規チューブリン阻害剤,nab-パクリタキセル(nanoparticle albumin-bound-paclitaxel;アブラキサンTM)とエリブリン(eribulin mesylate;ハラヴェンTM,以下エリブリン)が続いている.アンスラサイクリン系薬剤と並び,乳癌薬物療法の分野で重要な位置を占めてきたtubulin-targeting drugs の発展型薬剤として,これらに対する期待は大きい.これらの薬剤はその優れた臨床効果とともに,薬物による副作用が従来の薬剤と比べ軽減され,投与方法が簡便になっているため,患者QOL の点,医療者側の負担軽減の点で有用性が高いことも特筆されるべきである.今回これらの薬剤の有用性をレビューしたい. -
mTOR阻害薬による乳癌治療
242巻1号(2012);View Description Hide Description細胞内PI3K/AKT シグナルの下流に位置するmTOR は,細胞増殖,代謝活性,血管新生を誘導する調節分子である.mTOR の阻害剤であるeverolimus,temsirolimus による癌治療への臨床応用が進んだ.Letrozole,anastrozole に抵抗性となった閉経後ER 陽性HER2 陰性乳癌に対するBOLERO-2 試験の結果,exemestaneとeverolimus の併用はexemestane 単独に比較して有意なPFS の延長(11.0 カ月vs. 4.1 カ月,ハザード比:0.36)を認めた.Everolimus の毒性については,非感染性肺臓炎,高血糖,口内炎,倦怠感,下痢に注意が必要である.mTOR 阻害薬の作用機序は,HIF-1 を介した抗VEGF 作用が抗腫瘍効果を増強させたことによると推察される.非ステロイド性アロマターゼ阻害剤による一次内分泌療法に抵抗性になったluminal 転移乳癌に対して,内分泌療法だけでなくmTOR 阻害剤を併用する治療を選択肢のひとつとして考慮すべき時代に突入しようとしている.HER2 陽性乳癌におけるtrastuzumab を含む治療とmTOR 阻害剤併用の意義については臨床試験で検討中である. -
血管新生阻害療法の現状と展望
242巻1号(2012);View Description Hide Description近年,乳癌治療における分子標的治療薬の開発は飛躍的な変化を遂げている.抗体医薬としては抗HER2 抗体であるトラスツズマブ(ハーセプチン®)に加え,VEGF を標的としたベバシズマブ(アバスチン®)が既存の薬物療法に加わり,患者へさらに多くの治療選択肢をもたらしている.腫瘍血管新生は癌種を問わず多くの固形癌において確認される現象であり,増殖・転移における密接な関与が示唆されている.2004 年にベバシズマブは進行性大腸癌の標準治療薬として米国FDA の認可を受け,わが国では2011 年に転移・再発乳癌への適応拡大が承認された.乳癌領域における血管新生阻害剤の役割はいまだ不明確な部分が多いが,重要な治療戦略として確立されていくことが期待される. - 【転移】
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脳転移を有する患者の治療―現状と展望
242巻1号(2012);View Description Hide Description進行乳がんの治療成績は年々向上しており,脳転移が乳がん患者の生命予後を規定することも少なくない.予後因子として,Radiation Therapy Oncology Group(RTOG)ではRecursive Partitioning Analysis(RPA)を使用している.また,近年乳がんに特化したGraded Prognostic Assessmen(t GPA)も提唱されている.脳転移の症状管理として重要なことは,ステロイドによる腫瘍周囲の浮腫および頭蓋内圧亢進のコントロール,痙攣の治療,静脈血栓塞栓症の予防などである.治療としてはRPA Class Ⅰで単発脳転移の場合には手術の適応となる.手術の適応がない患者では定位照射が代わりに用いられる.局所治療に全脳照射を追加することの意義は確立されていない.脳転移が3~4 個以下の患者では全脳照射+定位照射が行われることが多い.定位照射単独の治療も考慮されうるが,高い頭蓋内再発率に十分留意するべきである.多発脳転移の患者では一般的に全脳照射が施行される.RPA classⅡやⅢの患者では脳転移の個数に限らず通常全脳照射が行われる.Best supportive care もひとつの選択肢である.放射線照射後の脳転移再増悪に対してはデキサメタゾンによる対症療法がおもに行われる.一般的に脳転移に対する全身化学療法は脳血流関門の影響で感受性が低いと考えられているが,HER-2 陽性乳がん脳転移患者に関しては,ラパチニブとカペシタビンの併用による全身療法も選択肢のひとつとなる.そのほかにも数多くの分子標的治療の検討がなされており,治療成績の改善につながることが期待されるが,同時進行で適切な対象を絞り込むことも重要である. -
骨転移の制御
242巻1号(2012);View Description Hide Description乳癌は骨転移をきたしやすく,進行乳癌の65~75%が骨転移を起こすとの報告がある1,2).乳癌骨転移症例は,骨関連事象(skeletal related event:SRE;病的骨折,骨痛,脊髄圧迫症状,外科的治療,放射線治療,高カルシウム血症)によってQOL が著しく損なわれる.また,一度病的骨折をきたすと20~40%死亡リスクを上昇させる3)ことから,骨転移患者の骨管理は予後の観点からも重要である.現在日本では骨転移によるSRE 改善予防目的でビスホスホネート(BP)の使用がガイドラインで推奨されている.第三世代BP であるゾレドロン酸(Zol)は,破骨細胞抑制のほかにも再発予防,さらに乳癌予防薬として注目されており,adjuvantとしての効果があるかを検証するためさまざまな臨床試験が行われている.また近年,骨転移成立の機序が解明されつつあり,さまざまな破骨細胞を標的とした薬剤が開発されている.2012 年4 月に承認された(デノスマブ:Deno)はRANKL(receptor activator of NF kappa B ligand)に対する全ヒト型抗体であり,第Ⅲ相比較試験でSRE においてZol を上まわる抑制効果を示している.今回著者らは,BP にはSRE 改善予防効果だけではなくadjuvant 効果があるのか,あらたに日本で使用可能となったDeno の前臨床や臨床試験の結果について述べる.
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