医学のあゆみ

多発性骨髄腫のマウスモデルは自然発症モデル，遺伝子改変マウスモデル，およびヒト骨髄腫細胞を移植した異種移植モデルに大別される．近年，新規薬剤がつぎつぎと承認され，“治癒困難な疾患”である多発性骨髄腫の長期予後が改善されてきている．しかし，多発性骨髄腫の病態の全貌は骨髄腫と微小環境との相互作用の解析の困難さからいまだに明らかではない．各マウスモデルには長所・短所があるが，これらのマウスモデルを用いて，骨髄腫の病態生理の解明と新規薬剤開発の最先端研究が行われている．本稿では，これまでのマウスモデルの解説に加えて著者らが進めているヒト骨髄腫細胞株をNOD/Shi－scid，IL－2Rγ KO（NOG）マウスに移植したモデルを用いた骨髄腫微小環境の解析と，新規抗腫瘍薬のin vivo における抗腫瘍効果について紹介する．

骨髄腫細胞は，前癌病態を経て症候性骨髄腫へと変化していく多段階発癌過程をとる形質細胞性腫瘍である．その過程で多くの染色体異常や遺伝子発現の変化が蓄積していくが，そのなかには数々の転写因子の異常が含まれる．骨髄腫における注目すべき転写因子としてIRF4（MUM1），c－Maf，MafB，c－MYC，MMSETなどのおもに免疫グロブリン遺伝子との転座で過剰発現を示すものや，NF－κB，HIF1/2，XBP1 などの骨髄環境に適応するために過剰発現している転写因子などがあげられる．これら転写因子を含む経路を標的とした分子標的（NF－κB を標的とするボルテゾミブ）の開発が進んでいる反面，その機能的意義の不明な転写因子（大Maf 遺伝子やMMSET 遺伝子）もあり，今後のさらなる研究の発展が望まれる．

多発性骨髄腫（MM）は形質細胞の悪性化による血液腫瘍であり，骨髄内で増大し激しい骨破壊を伴うため，MM 患者のQOL を悪化させ，生命予後に影響する．血液幹細胞と同様にMM 細胞の特性は骨髄ストローマ細胞の存在により変化するが，MM 細胞が発現するα4β1 インテグリンと骨髄ストローマ細胞が発現するVCAM－1 を介する細胞接着により，MM 細胞は骨破壊において中心の役割を果たす破骨細胞の形成と活性を促進する因子の産生を高める．またストローマ細胞との接着により抗癌剤に対しても耐性を獲得するが，抗α4 インテグリン中和抗体を用いてMM 細胞と骨髄ストローマ細胞との接着を阻害することにより，破骨細胞促進因子産生および抗癌剤耐性が弱まる．接着分子を介する骨髄ストローマ細胞との関連によるMM 細胞の形質変化の解析はMM 患者の治療・マネージメントを考えるうえで有用な指針になる．

免疫担当細胞は骨髄微小環境における重要な構成細胞である．骨髄腫細胞がT 細胞，NKT 細胞，樹状細胞といった抗腫瘍免疫細胞の機能を抑制したり，制御性T 細胞やprogrammed cell death－1（PD－1）といった免疫抑制性の細胞やシグナルを増強したり，さらに免疫担当細胞が骨髄腫の造腫瘍性を促進したりすることが骨髄腫の進展に重要な役割を果たすと報告されている．こうした骨髄腫－免疫系の間のネガティブな相互作用を遮断するとともに，腫瘍特異的な免疫反応を惹起するワクチン療法やT 細胞輸注療法を行うことにより，強力な抗腫瘍免疫を誘導し，骨髄腫の予後をさらに改善させることが期待できる．骨髄腫の免疫抑制環境を誘導する責任分子や，多くの骨髄腫関連抗原が同定されていることから，今後これらの分子を標的として骨髄腫に対するさまざまな抗原特異的免疫療法が試行され，実用化が進められるであろう．

近年，癌を含むさまざまな疾患において，蛋白をコードする遺伝子の異常だけではなく，遺伝子の発現を制御するメカニズムであるエピジェネティクスに注目が集まっている．microRNA（miRNA or miR）とは蛋白をコードしない小さなRNA で，わずか19～25 塩基の長さしかない．miRNA はArgonaute 蛋白と制御複合体（RISC）を形成し，相補的な配列を有する標的mRNA の分解や翻訳抑制を引き起こすことで，さまざまな生物学的プロセスに関与している．発見からわずか10 年たらずで，ヒトではすでに数百を超えるmicro RNA が同定されている．正常形質細胞からMGUS，多発性骨髄腫（MM）の形質細胞へと変化するなかでさまざまなmiRNA の関与の報告が蓄積されてきており，MM におけるmiRNA の全体像，すなわちmiRNAome を明らかにすることは，今後のMM の治療戦略を考えるうえで非常に重要であると考えられる．

多発性骨髄腫は骨髄で腫瘍性形質細胞が増殖する疾患であり，骨格全般にわたり多発性に形質細胞異形成が起こる疾患である．これは骨髄ニッチの複数の領域間で腫瘍細胞の移転が高頻度に行われていることを示唆する．この点において，多発性骨髄腫は腫瘍細胞の血行性転移のメカニズムを研究するうえで最良のモデルのひとつであると考えられる．癌転移の機構は浸潤－転移カスケードとよばれる多段階プロセスであり，この過程には浸潤，近傍血管内へ侵入，血流への移行，遠隔組織へのホーミング，微小転移巣の形成，そして肉眼的転移巣の形成が含まれる．多発性骨髄腫では，マウスモデルなどの実験系においてこれら各ステップを各種イメージングにより観察することで，転移浸潤機序の解明や新規分子標的治療のPOC 研究への応用が進んでいる．本稿では，骨髄腫の動物モデルにおけるin vivo イメージングの基礎となる手法について，浸潤－転移カスケードを中心に解説する．

他の多くのサイトカインの例にもれず，interleukin－6（IL－6）も標的細胞種ごとに異なった多彩な生理活性を発揮する．つまり，サイトカインの作用は細胞種に依存して決定され，サイトカインの特異性もまた細胞内環境に依存していると考えられる．IL－6 は骨髄腫細胞の主要な液性増殖因子であり，IL－6 受容体（IL－6R）を発現する骨髄腫細胞では，総じてIL－6 刺激によりsignal transducer and activator of transcription（STAT）3とextracellular signal－regulated kinase（ERK）1/2 が活性化される．しかし，この主要刺激伝達系だけでは骨髄腫細胞の増殖には不十分であり，CD45，fibroblast growth factor recepto（r FGFR）3 の発現または IL－6Rαの過剰発現など細胞膜上にある分子環境の違いが，種々の細胞内刺激伝達分子を活性化し，最終的にはIL－6によって活性化されるSTAT3とERK1/2に加えてphosphatidylinosito（l PI）－3 kinaseが活性化されることにより，IL－6 刺激による腫瘍細胞増殖を引き起こすことが明らかになった．

Flow cytometry の発展により，現在では多くの臨床検査施設において6 カラーあるいはそれ以上の染色による解析が可能となっている．しかし，その機能を十分に生かした検査が行われているとはいいがたい．多発性骨髄腫に関しては，CD38 あるいはCD138 をマーカーとして用いて骨髄腫形質細胞を同定することが可能であるが，そのほかにどのような表面抗原を解析すれば有用な情報が得られるのであろうか．また，骨髄腫形質細胞表面にはどのような細胞表面抗原が発現していて，そのなかにはCD20 やCD33 やCD52 のように抗体医薬による治療標的となるようなものはないのであろうか．このようなことを考えるための一助として，本稿では前半に臨床検査としてのflow cytometry を用いた骨髄腫細胞表面抗原解析に関する概論を述べる．つぎに，flow cytometry を用いた骨髄腫細胞表面抗原解析を用いた基礎的研究の例として，①骨髄腫幹細胞仮説に関する概説とそれに関連した最近の著者らの知見，および，②骨髄腫形質細胞上に非常に強く高発現し，抗体療法による治療標的候補として最近著者らが報告したCD48 について紹介する．

血清中の遊離軽鎖（FLC）は形質細胞によって産生される免疫グロブリンの一部であり，近年，多発性骨髄腫の診断や効果判定に利用されている．欧米ではすでに日常診療に利用されていたが，2011 年9 月1 日よりわが国でも多発性骨髄腫などの単クローン性γ－グロブリン血症の検査薬として血清中の免疫グロブリンのFLCを特異的に測定する臨床検査薬“FREELITEκチェーン”および“FREELITEλチェーン”が保険適応となった．日常診療に利用するにあたり，これまでの進展を概説したい．

多発性骨髄腫に対する画像診断の進歩は近年めざましいが，とくに陽電子放出断層撮像法（positron emissiontomography：PET）検査が導入された意義は大きい．18F－フルオロデオキシグルコース（FDG）を放射性薬剤として用いたPET/CT 検査は，全身の形態診断が可能であるだけでなく，骨髄腫細胞の代謝状態，活動性，viability を評価することが可能であり，治療効果や予後の予測にも有用であることが明らかになってきた．また，ポジトロン核種の11C で標識したアミノ酸製剤，すなわち11C－メチオニンを用いたPET 検査もFDG－PETと同等以上に骨髄腫病変を描出することができ，有望な画像診断法と考えられる．PET 以外では単純X 線写真，X 線CT，磁気共鳴画像（MRI）が用いられている．従来MRI は局所の精査として考慮される画像診断法であったが，ハード面およびソフト面の進歩により，短時間での全身評価も可能になってきた．さまざまな画像診断の選択肢が増えるのは望ましいが，臨床医としてそれぞれの画像検査の長所と短所を理解し，使い分ける必要に迫られている．

癌化学療法後のB 型肝炎ウイルス（HBV）再活性化への対策において重要な点は，化学療法前のリスク評価（スクリーニング検査）および再活性化リスクに応じた対策を実施することである．また，多発性骨髄腫治療には，自家造血幹細胞移植療法やボルテゾミブなどの新規分子標的治療薬が導入されたが，HBV 再活性化の症例報告やケースシリーズの報告から，一定のリスクがあることが明らかになった．HBV 再活性化による肝障害が出現してから抗ウイルス薬を投与した場合には効果が十分でないことがある．そのため，厚生労働省ガイドラインに従い，治療前HBs 抗原陽性例においては原則として抗ウイルス薬の予防投与（prophylaxis）を行う．HBV 既往感染例（HBs 抗原陰性例のうち，HBc 抗体陽性and/or HBs 抗体陽性）においては，HBV－DNA モニタリングによるpreemptive antiviral therapy を行う．

β2 microglobulin（β2 m）と多発性骨髄腫（MM）とのかかわりは，血清β2 m 上昇が予後不良と相関するという臨床的事実として古くから注目されてきたが，2005 年にIMWG（international myeloma working group）により提唱された新国際病期分類（international staging system：ISS）の規定因子に取り上げられ，単独でのcut－off 値が3.5 mg/L および5.5 mg/L に設定されて認知度が一気に高まった．ボルテゾミブ，レナリドミドなど新規治療薬が標準治療となった現在でも，その診断価値は高いと思われるが，疾患予後が改善するに従い今後の見直しがはかられている．また，β2 m は腫瘍免疫監視機構にとっても重要な分子であり，自身がアポトーシスを誘導して抗腫瘍効果を発揮したりMM 治療の標的となりうることが判明するなど，そのユニークな働きに注目が集まっている．

多発性骨髄腫 SET ドメイン蛋白質（MMSET）が関連する（t 4；14）転座は骨髄腫患者の 15～20％に認められ，多発性骨髄腫（MM）では2 番目に多い染色体転座である．t （4；14）骨髄腫において，約30％の症例では受容体型チロシンキナーゼFGFR3 の高発現を認めないのに対し，ヒストンリジンメチル化酵素MMSET の高発現はほぼ全例で認められることから，（t 4；14）骨髄腫の予後不良の原因として MMSET の活性化が重要であると考えられている．（t 4；14）をもたない骨髄腫細胞株に MMSET を遺伝子導入すると H3K36 のジメチル化が誘導され，癌関連遺伝子の転写活性化が生じることが示された．今後，MMMSET により修飾されるヒストンリジンメチル化の役割が解明され，ヒストンリジンメチル化活性を阻害する創薬の開発につながることを期待したい．

骨髄腫は骨髄微小環境に依存した進展を示し，進行性の広範な骨破壊性病変を呈する．本症の骨病変は，骨吸収の著明な亢進と同時に骨形成の低下が相まってもたらされる．骨髄腫細胞由来のMIP－1 などの骨吸収促進因子は骨髄間質細胞にRANKL の発現を誘導し，RANKL の発現亢進を介し腫瘍病変部骨髄内に破骨細胞形成・機能の著明な亢進をもたらす．その一方で，骨髄腫細胞由来のWnt 阻害因子や骨髄腫骨病変部で産生が亢進しているactivin A やTGF－βなどが骨芽細胞分化を抑制して骨形成が障害され，急速な骨喪失がもたらされる．骨芽細胞の一部は骨細胞になって骨内でネットワークを形成し，破骨細胞や骨芽細胞の機能を制御するが，骨髄腫の骨代謝における骨細胞の役割は不明である．RANKL－RANK 系の異常が本症の骨破壊病変形成の基盤にあるため，RANKL－RANK 系は重要な治療標的と考えられるが，骨形成の回復は現在の治療法では困難であり，病態を踏まえた質のよい骨形成をもたらす新規治療戦略の構築が必要である．

腫瘍崩壊症候群は，急性リンパ性白血病，Burkitt リンパ腫など細胞増殖が活発な造血器腫瘍で高頻度に認める重篤な合併症である．多発性骨髄腫はindolent な腫瘍であるが，高い抗腫瘍効果を有する分子標的薬bortezomibにより腫瘍崩壊症候群を発症する症例が増加した．多発性骨髄腫における腫瘍崩壊症候群の発症頻度は1.0％程度であり，治療開始前に高腫瘍量，腎障害あり，形態学的に未熟型，骨髄腫細胞の増殖活性が高い，予後不良染色体異常あり，が危険因子とされる．著者らは腫瘍崩壊症候群発症の予測因子としてRAPindex を開発し，1 カ月でヘモグロビン濃度が1.12 g/dL 以上低下すると臨床的腫瘍崩壊症候群が3.8 倍多く発症することを報告した．Bortezomib を投与した多発性骨髄腫における腫瘍崩壊症候群の発症時期は遅いため，治療開始前にその危険を予測し，適切な予防治療を行うことが重要と考える．

形質細胞性腫瘍と成熟B 細胞性リンパ腫はWHO 血液腫瘍分類において，ともに成熟B 細胞性腫瘍に含まれている．日常診療のなかで両者の鑑別が問題になる頻度はそれほど高くないが，双方にとって非典型的な臨床像を示す例や，両者の中間的な特徴をもつ症例では鑑別がしばしば困難となる．このような症例に対しては臨床医と病理医が密に連携し情報を共有することが重要であり，診断に必要な情報，すなわち腫瘍の形態，免疫形質，遺伝子型，臨床所見すべてを活用することが求められる．しかし，鑑別困難な症例を現在の疾患概念のどこかに割り当てる方法は病態の本質とは相容れないものであり，将来的には病態特異的な異常を明らかにし，それに基づいた疾患概念の整理が必要と思われる．

自家幹細胞移植（ASCT）併用大量化学療法（HDT）は若年骨髄腫患者における標準治療と考えられていた．近年，サリドマイド（THAL），ボルテゾミブ（BOR），レナリドミド（LEN）といった新規骨髄腫治療薬を寛解導入療法や地固め療法，維持療法に組み込むことにより，ASCT 前後の奏効率が改善し，ひいては生存率の改善をもたらしている．しかし，寛解導入療法や地固め療法，維持療法において優れた新規骨髄腫治療薬の組合せはどれか，また，新規骨髄腫治療薬がASCT に代わる治療法となるかどうかは不明であり，ASCT 併用HDT の位置づけそのものも再考される時代となっている．本稿では現在のエビデンスを述べることで，新規薬剤登場後のASCT の意義について概説する．

POEMS 症候群はplasma cell dyscrasia を基盤に，多発神経炎，浮腫・胸腹水，皮膚症状，M 蛋白血症など多彩な症状を呈する全身性疾患であり，とくに多発神経炎がADL を著しく障害し，末期には四肢麻痺に至る．近年多発性骨髄腫に準じた自家末梢血幹細胞移植（auto－PBSCT）療法が生命予後のみならず，多発神経炎を劇的に改善させることが示された．さらにサリドマイド，レナリドミド，ボルテゾミブといった新規薬剤の有効性が報告され，これらの新規薬剤と自家移植による集学的治療により治療成績のいっそうの向上が期待される．しかし，いまだ確立した奏効基準はなく，自家移植後の長期観察では再発・再燃例がみられることも明らかとなってきた．また，幹細胞採取においてはpoor mobilizer の頻度が高く，脾腫の存在が危険因子となっている．そのような症例ではplerixafor が有効であり，今後の適応拡大が期待される．

自家造血幹細胞移植は65 歳未満の未治療の有症候性多発性骨髄腫患者に対する標準治療として位置づけられているが，根治的な治療とはなりえず，多くは再発をきたす．そこで，同種造血幹細胞移植が根治の可能性を秘めた治療法として試みられてきたが，高い移植関連死亡率のために生存率の改善には至らなかった．現在はまず自家移植を行ってから，そのつぎに前処置強度を弱めたミニ移植を行う2 段階の移植方法が中心となっている．しかし，これまでの複数の臨床試験によると，自家移植の後にミニ移植を行う治療法が2 回の自家移植よりも優れているかどうかは明らかではなく，多発性骨髄腫に対する同種移植の位置づけはいまだに確立されていない．

ここ約10 年の間に，サリドマイドやレブリミドのような免疫調整薬（immunomodulatory drugs：IMiDs）と総称される薬剤やプロテアソーム阻害薬の開発により，多発性骨髄腫に対する治療方法はめざましく進歩している．そのなかでIMiDs は，骨髄腫細胞への直接作用だけでなく，骨髄微小環境中のT 細胞や破骨細胞，ストローマ細胞，血管内皮細胞などに対する作用も含めて骨髄腫細胞の増殖抑制効果を発揮する．これらIMiDs には薬剤に特徴的な副作用も認められるが，多発性骨髄腫の治療薬として従来から使われている薬剤との併用による初回導入療法や単剤で維持療法に用いられることにより，今後の多発性骨髄腫の治療成績をさらに改善していくものと考えられる．

サリドマイドおよびその誘導体であるレナリドミド，ポマリドミドは免疫調節薬（IMiDs）とよばれており，骨髄腫細胞に対する直接的な抗腫瘍効果を発揮するのみならず，エフェクターT 細胞，NK 細胞，NKT 細胞の増殖能や細胞傷害活性を高め，骨髄腫細胞に対する免疫応答の増強にも寄与していることが示唆されている．しかし，これらの免疫賦活化作用の多くはin vitro の実験結果に基づいて推測されているものであり，実際の生体内においてIMiDs が自然免疫系，獲得免疫系にどのような影響を与えているのかに関しては不明な部分も多い．今後，IMiDs の発揮する抗骨髄腫効果のさらに有効な利用を可能とするためには，その免疫調節作用の分子機構をより詳細に明らかにしていくことが必要である．

多発性骨髄腫（MM）の経過中に急性骨髄性白血病（AML）/骨髄異形成症候群（MDS）などの二次性悪性腫瘍・続発性悪性腫瘍（SMNs）の発症リスクが高いことは以前から知られていた．二次性悪性腫瘍の発症に関与する因子としては，①治療関連因子（メルファランを主としたアルキル化薬，放射線療法，移植，レナリドミド維持療法など）と，非治療関連因子の骨髄腫関連因子（疾患の分子学的サブタイプ，クローン性白血病，骨髄微小環境など），②宿主関連因子（生殖細胞遺伝子多型など），③環境・行動因子（塩素系溶剤，喫煙，肥満，アルコールなど），の3 つが絡んでくる．とくに，レナリドミド維持療法による二次性悪性腫瘍の発症リスクの増加は，生物学的要因だけでは説明できない．二次性悪性腫瘍の発症を防ぎ，かつ生存期間を延長するためにも，二次性悪性腫瘍発症例の生物学的特徴を分子レベルで明らかにすることが大切である．

多発性骨髄腫（MM）は難治性血液悪性腫瘍であり，従来の化学療法では治療効果は限定的であった．しかし2000 年以降に導入された新規薬剤により生存期間が大幅に延長し，治療効果は劇的に改善しつつある．新規薬剤のひとつであるプロテアソーム阻害剤のボルテゾミブは，導入療法の中心的薬剤として治療効果が検討されている．移植非適応群においてはボルテゾミブとメルファラン＋プレドニゾロン（MP 療法）を併用するVMP 療法が従来のMP 療法に代わって標準的治療となった．しかしボルテゾミブは末梢神経障害の合併などにより治療継続が困難となる症例があるため，投与回数を減じるなどの工夫が必要である．移植適応群ではデキサメタゾン，抗癌剤，および他の新規薬剤と併用することで高い奏効率を発揮し，末梢血幹細胞採取にも影響しないことが検証されている．今後も新規薬剤を中心として，より副作用が少なく，かつ生存期間を延長できる治療戦略の開発が望まれる．

新規薬剤の初発時使用が可能となり，それに伴って骨髄腫においても寛解をめざした積極的な治療が行われるようになった．その結果，ASCT 後のsCR のみならずmolecular CR を得る症例の報告もあり，骨髄腫の治療の方向性が変わりつつある．欧米において多数の大規模比較試験が行われ，サリドマイド，レナリドミド，ボルテゾミブを用いたconsolidation・maintenance 療法のエビデンスが蓄積されつつある．ただ，予後不良の染色体異常による層別化や二次発癌の問題もあり，どのように適切に薬剤を取捨選択していくかについてはいまだに意見が分かれるところである．それぞれの薬剤別にPFS やOS における優位性や副作用などについてエビデンスをもとにして概説したい．

ベンダムスチン（bendamustine）は，nitrogen mustard group に属しアルキル化剤の特徴を有する一方，chlorambucil のbenzene 環がbenzimidazole 環に置換されているためにプリンアナログの作用特徴も有し，既存の抗癌化学療法剤との交差耐性をもたないユニークな抗癌化学療法剤である．本剤は旧東ドイツで開発された古い薬剤であるが，近年，その有用性が見直され，わが国および欧米では低悪性度B 細胞リンパ腫やマントル細胞リンパ腫に対しての有効性が確認され，承認された．ベンダムスチンは，ドイツでは多発性骨髄腫（MM）に対するランダム化比較試験によって有用性が検証されて承認ずみであり，わが国でも再発・難治MMを対象として開発治験が実施中である．また，欧米ではレナリドミド（lenalidomide）やボルテゾミブ（bortezomib）など他の分子標的薬とベンダムスチンとの併用試験が実施中であり，今後の展開が期待される．

Pomalidomide はサリドマイドの誘導体で，現在臨床試験が進行中の第三世代免疫調整薬である．多発性骨髄腫（MM）に対するこれまでの第Ⅰ・Ⅱ相試験により，推奨用量は2 mg または4 mg で，投与スケジュールは連日内服または21 日間連日内服後1 週間休薬となっている．頻度の高い血液学的毒性は好中球減少症であり，非血液学的毒性としては倦怠感がある．Pomalidomide が原因と考えられる急性肺障害も報告されており，頻度は少ないが念頭におくべき重要な有害事象である．生存期間中央値が6 カ月といわれるサリドマイド，レナリドミド，ボルテゾミブに不応性のMM にも一定の奏効率と生存期間の延長が認められ，この薬剤の登場によりMM 患者の予後のさらなる改善が期待される．

今世紀に入って多発性骨髄腫（MM）に対する新規薬剤の開発および臨床導入が活発である反面，第一世代の新規薬剤による治療効果の限界および副作用も明らかになってきている．さらなる治療効果の向上および副作用の軽減化が期待されるなかで，第二世代のプロテアソーム阻害薬として開発されたカーフィルゾミブは，より選択的かつ不可逆的なプロテアソーム阻害作用を有し，第一世代のプロテアソーム阻害薬が耐性となった症例においても効果が期待されている．また，副作用の面ではプロテアソーム阻害薬の最大の投与制限毒性である末梢神経障害がきわめて軽微であることが報告されており，今後は再発・難治性MM のみならず，初発MM に対する第一選択治療，あるいは他の新規薬剤との併用による治療効果の向上が期待されている．

プロテアソーム阻害剤の開発は，多発性骨髄腫治療に大きな変化をもたらした．第一世代のボルラゾミブから第二世代のMLN9708，カルフィルゾミブ，マリゾミブなどの開発が進んでいる．この分野は今後おおいに期待される．

近年，骨髄腫患者の生存期間は著明に改善したものの，いぜんとして治癒不能な疾患であり，治癒をめざすためには病態に基づく新規治療法の開発が必要である．骨髄ストローマ細胞から産生されるIL－6 は骨髄腫の病態に重要な役割を果たしており，そのシグナルはおもにJAK/STAT3 経路で伝達される．JAK/STAT は免疫細胞と造血細胞においてもっとも重要なサイトカインの細胞内シグナル伝達経路であるが，骨髄腫細胞においてはJAK/STAT3 活性化により，抗アポトーシス蛋白Bcl－2，Bcl－xL，Mcl－1 の発現が増強され，腫瘍細胞の生存および薬剤耐性が誘導される．これまでに骨髄腫細胞に対するJAK/STAT 阻害剤のin vitro およびin vivo での抗腫瘍効果が多数報告されており，骨髄腫患者での単剤あるいは抗骨髄腫薬melphalan やbortezomibとの併用による治療効果が期待されている．

プロテアソーム阻害剤（PIs）の作用機序は薬剤の種類によって異なっている．ボルテゾミブの作用部位は，20S core particle の3 種類のサブユニットのうちキモトリプシン様活性を示すβ5 と，カスパーゼ様活性のβ1である．いずれにも可逆的に結合するが，β5 が強力に阻害される．NF－κB 経路のボルテゾミブによる阻害は，IκB の分解が抑制され，その発現が安定してNF－κB の核移行が抑制されるために起こる．ボルテゾミブの耐性メカニズムとして，①プロテアソームサブユニットの異常，②Pro－apoptotic protein の集積障害，③蛋白質シャペロンの発現亢進，④AKT 経路の活性化，⑤オートファジー，⑥抗酸化物質の増加，などの分子機構の関与が報告されている．一方，再発・難治性骨髄腫に対するペリフォシンの臨床試験では，ペリフォシン＋ボルテゾミブ±デキサメタゾン併用療法の第Ⅰ/Ⅱ相で全奏効割合は41％（ボルテゾミブ治療後再発例で65％，ボルテゾミブ不応例で32％）と良好であった．ペリフォシン＋レナリドミド±デキサメタゾン併用療法（第Ⅰ/Ⅱ相）では，部分寛解以上が50％であることが報告されている．

多発性骨髄腫（multiple myeloma：MM）に対する抗体医薬開発における標的抗原候補として，高頻度にMM細胞やNK 細胞に発現する一方で，造血幹細胞など他組織には発現を認めない細胞膜糖蛋白であるCS1 に注目が集まっている．CS1 に対するヒト化モノクローナル抗体として開発されたHuLuc63，すなわちelotuzumabは，NK 細胞による抗体依存性細胞傷害活性（ADCC）の誘導によって抗MM 効果を発揮するほか，MM細胞の骨髄間質細胞への接着を阻害することで接着依存性薬剤耐性機構を阻害する可能性も期待されている．再発・難治MM 症例を対象としたelotuzumab 療法の臨床第Ⅰ相試験における有害事象は十分に管理可能なものであり，bortezomib やlenalidomide との併用療法の効果はきわめて良好で，今後，早期の臨床導入が望まれる期待の新薬といえる．

Daratumumab（DARA）はCD38 エピトープ特異部位に親和性が高い新規のヒト型抗体薬である．DARA はCD38 を発現しているリンパ腫細胞や骨髄腫由来株細胞，およびヒト骨髄腫細胞に対してCDC 活性を有する．多発性骨髄腫（MM）細胞にクローン性にもっとも強く発現していた抗原はCD38 であった．CD38 分子は細胞接着分子で，MM 細胞では広くかつ均一に強く発現しているので，抗体療法の標的として選択性（特異性）が高い．HuMax－Mouse から作製された抗CD38 抗体のなかでも，DARA はCD38 分子特異的部位に結合し，抗Fc 介在性機能を通じADCC 効果，CDC 活性，アポトーシス効果，骨髄細胞間接着反応などにより殺MM細胞効果を示す．このような抗腫瘍効果は，scid マウス移植腫瘍塊に対しても，また骨髄微小環境下や補体低下状態でも認められる．また，CD38 分子発現が低い場合にも，血液中や腹水中の腫瘍細胞にも有効と考えられる．第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験では再発性・難治性MM 症例に投与され，血清・尿中M 蛋白の減少や骨髄中骨髄腫細胞の著減が認められ，副作用は軽微であるとされている．他剤との併用効果も認められ，レナリドミドやボルテゾミブなどとの併用試験では殺MM 細胞効果の増強が認められ，とりわけこれらに不応性のMM 症例で効果が良好であった．

染色体異常を有する骨髄腫のうち，FGFR3 の異常発現がある例では，サリドマイドによる治療でも抵抗性を示すことが知られている．FGFR3 に対する抗体薬の開発はまだはじまったばかりであるが，臨床開発に向かっている．FGFR3 に対する抗体はGenentech 社が開発しているものがもっとも進行しており，骨髄腫細胞移植マウスを用いた実験ではFGFR3 抗体薬は他のFGFR 経路を阻害せず特異性があり，下流のシグナル伝達もよく阻害される．今後，低分子化合物によるFGFR 系阻害剤の開発とともに，抗体薬が期待される．

新規薬剤の導入により多発性骨髄腫の治療成績は改善したものの，いまだにハイリスク症例とよばれる予後不良群が存在する．その克服のためには新しい治療の標的分子を見出す必要がある．肝細胞増殖因子（HGF）は，骨髄腫細胞の増殖，腫瘍血管新生，骨芽細胞の機能障害を通じて骨髄腫の病態の悪性化に関与する．実際，患者血清中HGF 濃度上昇例では骨病変や貧血が進行し，サリドマイドやボルテゾミブ療法においても予後不良因子となる．近年，固形癌を中心に，HGF およびその受容体c－MET に対する分子標的薬の臨床試験が進行している．たとえば，チロシンキナーゼ阻害薬であるtivantinib，foretinib，crizotinib あるいは抗HGFモノクローナル抗体AV299 は非小細胞肺癌などに対して腫瘍縮小効果が認められている．今後，骨髄腫に対してもこれらを用いた治験が開始され，とくにハイリスク骨髄腫の予後が改善することを期待する．

多発性骨髄腫（MM）の治療は，新規治療薬の登場により治療戦略が大きく変貌した．とくにMP（メルファラン＋プレドニゾロン）＋ボルテゾミブの成績は移植非適応の患者においてMP と比較し，生存率で有意差をもって良好な成績を示した．MM においてはnuclear factor－kappa B（NF－κB）が恒常的に亢進していることが明らかとなっており，NF－κB 活性化経路における重要な因子のひとつであるプロテアソームをボルテゾミブが阻害することにより得られた結果であったことから，プロテアソームの重要性が再確認されることとなった．現在，臨床応用まで見込めるNF－κB 活性化経路における阻害剤はプロテアソーム阻害剤だけであり，ボルテゾミブ以外に第二世代とよばれるプロテアソーム阻害剤の開発が進んでいる．これらの薬剤ではボルテゾミブの有害事象である末梢神経障害の発現が少なく，さらなる臨床効果が期待されている一方で，血液毒性が強い傾向にある．2012 年秋には末梢神経障害の頻度が低いとされるボルテゾミブの皮下注射がわが国でも承認される見通しであることなどから，今後も治療戦略が変容していく可能性が高い．

多発性骨髄腫の治療は，プロテアソーム阻害剤，immunomodulatory drugs など従来と作用機序の異なる新規治療薬の登場で，寛解率の改善，生存期間の延長が認められるようになった．さらに，骨髄腫の病態生理における分子生物学的な理解が進むことで，腫瘍の発症や進展のメカニズムが解明されつつある．PI3K とmTOR は細胞の成長やエネルギー代謝などの生理機能に深くかかわっており，さまざまな腫瘍で異常活性化が報告されている．PI3K/Akt/mTOR 経路は，骨髄腫細胞の増殖・生存・オートファジーの抑制などに関与するとともに薬剤耐性にも重要な役割を果たしていることから，分子標的のひとつとして有望視されている．実際，多発性骨髄腫に対する前臨床試験でPI3K/mTOR 阻害剤の有効性が認められている．mTOR 阻害剤による臨床試験においては，新規薬剤との併用療法で良好な結果が報告されている．

ヒストン脱アセチル化酵素（HDAC）はヒストン修飾を介した遺伝子発現の制御因子であり，ヒストン脱アセチル化を介しておもに転写抑制に働いている．多発性骨髄腫を含む悪性腫瘍ではHDAC の強発現がみられ，分化やアポトーシス関連分子の発現が抑制されている．HDAC 阻害剤はこの発現抑制の是正を介して抗腫瘍効果を誘導する．多発性骨髄腫に対するHDAC 阻害剤の効果は前臨床試験では有効性がみられたが，臨床試験ではほとんど効果がみられなかった．ところが，最近になってプロテアソーム阻害剤ボルテゾミブと併用した複数の臨床試験における有効性が報告された．現在，第Ⅲ相試験による検証が進められているが，ボルテゾミブとHDAC 阻害剤の併用は発現抑制の是正を介した機構と変成蛋白の蓄積に伴う小胞体ストレスを介した機構の両者を介して相加的に作用することから，有効な治療法と考えられる．

Heat shock protein 90（Hsp90）は，酵母から哺乳類に至るまで保存されている分子量90 kDa の分子シャペロンである．Hsp90 はATP 依存的に細胞内シグナル伝達，細胞周期ならびに転写制御にかかわるさまざまな蛋白質と相互作用し，それらの安定化・機能維持ならびに細胞内局在に重要な役割を果たす．Hsp90 および連携するコシャペロンによって安定化される蛋白質はクライアント蛋白質とよばれ，受容体型チロシンキナーゼ，染色体転座遺伝子産物，ホルモンレセプターなどが含まれており，それらの多くが癌細胞の増殖や生存に重要な蛋白質として報告されている．Hsp90 の機能阻害により癌細胞においてクライアント蛋白質の不安定化および消失，さらには細胞死が引き起こされる．これまでに複数のHsp90 を阻害する新薬が創製され，新しいカテゴリーの分子標的治療薬として臨床試験が実施されている．

多発性骨髄腫は，造血器腫瘍のなかで静脈血栓塞栓症を起こしやすい疾患のひとつである．多発性骨髄腫にみられる血栓塞栓症の発症には複数の因子が関与する．免疫調節薬であるサリドマイドやレナリドマイドは，高用量のデキサメタゾンやドキソルビシンなどと併用した場合に血栓塞栓症を増加させる．多発性骨髄腫患者における血栓塞栓症は，新規診断例で化学療法開始後数カ月以内に発症することが多い．血栓塞栓症に対する適切な予防策を講じることは，QOL の維持や生命予後に改善に不可欠であるものの，併存する病態による出血性合併症も考慮しなければならない．危険因子を把握し，低用量アスピリンや，用量調節ワルファリンおよび低分子量ヘパリンなどの抗血栓療法を適切に選択する必要がある．

多発性骨髄腫の治療において2000 年以降に発売されたボルテゾミブ（bortezomib）の出現は，その治療を大きく進歩させた．しかしながら，その投与を中止せざるをえない大きな副作用として末梢神経障害がある．しかし，これまで多くのプロトコールで用いられていたボルテゾミブの週2 回投与を週1 回投与に減量することでその末梢神経障害の頻度および特にそのgrade を低下させることができる．その場合，末梢神経障害によってその投与を中止する例は皆無であると同時に，骨髄腫に対する効果は変わらなかったことから，今後は静脈注射による治療としては週1 回投与が主流になっていくものと考えられる．また，週2 回投与においても，皮下注射がその末梢神経障害の頻度およびそのgrade を低下させること，その効果が週2 回静脈内投与と比較しても遜色ないことが示された．以上のように，今後ボルテゾミブは投与法の工夫により，多発性骨髄腫の治療においてより安全に用いることができると期待できる．

骨髄腫は液性免疫不全をきたす代表的な疾患である．近年，自家造血幹細胞移植やボルテゾミブ，サリドマイド，レナリドミドなどの新規薬剤の登場によって骨髄腫の予後は飛躍的に改善したが，本来の液性免疫不全にとどまらず，感染対策としては複雑化し，より重要性を増したといえる．とくにボルテゾミブは，従来の治療ではあまり経験することがなかった単純ヘルペスウイルスと水痘帯状疱疹ウイルス再活性化のリスクが高いことが知られており，アシクロビルまたはバラシクロビルによる予防が必要である．ステロイドを含む治療ではニューモシスチス肺炎のリスクが増すため，ST 合剤の予防を行う．各種ワクチンや免疫グロブリン製剤による感染予防については，現在のところ一定の見解は定まっていない．本稿では新規薬剤における注意点も含め，実際に当科で行っている感染予防および治療を提示しながら，現状の骨髄腫に特異的な感染対策について解説する．

多発性骨髄腫は高齢者に好発する疾患であるため，患者の生活習慣を考慮して個々の理解力に即した説明を行い，治験参加の意思決定を支援していくことが重要である．また，易感染性・腎障害など疾患に特有な症状により適格性基準を満たすことが難しい場合もあることから，患者の選定は慎重に行う必要がある．治験実施においては規定される検査項目は多く煩雑であり，かつ患者に侵襲を加える検査も少なくない．試験によっては患者が自宅で蓄尿を必要とする場合もあり，それらは一般臨床では経験しないことであるため負担は大きく，とくに高齢の患者にとっては理解が難しい場合もある．多発性骨髄腫における治験参加患者への対応においては，治験開始時のみならず，試験経過を通じて患者の理解度を確認し協力を得ながら試験を進めていくことが重要といえる．

日本骨髄腫患者の会は，国際骨髄腫財団（International Myeloma Foundation：IMF）の日本支部として1997 年に活動をスタートした．創設者は，当時50 歳代の骨髄腫患者，故・堀之内朗氏で，氏の自宅のパソコンと電話，そして堀之内夫妻の存在が日本骨髄腫患者の会（以下，患者の会）そのものであった．それから15 年の活動の歩みとこれからについてご紹介する

多発性骨髄腫に対する治療がはじめられてから，長期にわたり，その全生存率にはほとんど変化がみられず，代表的な治療であるMP 療法（メルファラン＋プレドニゾロン）などでの生存期間中央値は約3 年といわれ，多発性骨髄腫はきわめて予後不良の疾患であった．しかし近年，第一世代のIMiDs（immunomodulatory drugs）であるサリドマイド，第二世代IMiDs のレナリドミド，プロテアソーム阻害剤のボルテゾミブと，骨髄腫に対する新規薬剤3 剤の使用が可能となったことで，多発性骨髄腫の治療戦略は大きく変化し，患者の生存期間の延長，長期にわたるQOL の改善が期待できるようになってきている．サリドマイドとレナリドミドは，他の薬剤にはない厳格な薬剤安全管理の下で使用することが義務付けられており，治療継続においては有害事象への対応に加え，薬剤管理も重要な鍵となるといえる．　本稿では薬剤師の立場から，薬剤管理，副作用管理を中心に，臨床での薬剤管理指導の実際を述べる．