医学のあゆみ
Volume 243, Issue 1, 2012
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【10月第1土曜特集】 自然免疫Update―研究最前線
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- 自然免疫―病原体認識メカニズムとシグナル伝達
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TLR研究の最近の進歩
243巻1号(2012);View Description Hide Descriptionヒトにおいては病原体である細菌や微生物の侵入を免疫機構が防いでいる.昨年,Bruce A. Beutler 博士とJules A. Hoffmann 博士には自然免疫の活性化に関しての発見,Ralph M. Steinman 博士には樹状細胞やその獲得免疫活性化における役割の発見に対してノーベル医学生理学賞が贈られた.この受賞は自然免疫の重要性が認められたことによるものである.本稿では自然免疫機構の中核をなす病原体センサーの認識およびその活性制御機構について,これまでの知見を紹介する.さらに,感染症に加えて肥満,自己免疫疾患などの非感染性慢性炎症疾患の病態におけるTLR をはじめとする病原体センサーの関与についても紹介する. -
RLRsによるRNAウイルス認識―局在と制御
243巻1号(2012);View Description Hide Descriptionウイルス感染に対する宿主免疫応答は,ウイルスを宿主から排除し,ウイルスによって引き起こされるさまざまな病気から身を守るために重要である.哺乳類においては,自然免疫と獲得免疫がウイルス感染に対して主要な役割を果たしている.とくに自然免疫はウイルス感染初期に重要な役割を果たしており,自然免疫系が活性化されることにより抗ウイルス蛋白質であるインターフェロン(IFN)を誘導する.また,IFN 誘導遺伝子群を介して細胞に抗ウイルス状態をもたらすと同時に,後に続く獲得免疫応答を促進する.自然免疫応答を誘導するためにはウイルス感染を検知することが不可欠となってくるが,細胞表面およびエンドソームに発現しているToll-like receptors(TLRs)と細胞質に発現しているRIG-Ⅰ-like receptors(RLRs)がウイルス由来のRNA を認識するセンサーとして役割を果たしている.本稿ではRLRs によるRNA ウイルス認識機構について,最新の知見を踏まえて概説したい. -
インフラマソーム―炎症と生体恒常性維持をつかさどるプラットフォーム
243巻1号(2012);View Description Hide Description生体はマクロファージや樹状細胞,好中球といった自然免疫細胞を用いて,侵入した病原体を危険シグナルとして速やかに認識し,病原体排除のための炎症反応あるいは獲得免疫反応へとつながる一連の免疫応答を起こす.インフラマソームは,①微生物侵入を感知するセンサー,②カスパーゼとよばれる蛋白分解酵素,③これらを橋渡しするアダプター分子,からなる細胞内の巨大分子複合体であり,マクロファージや樹状細胞といった自然免疫細胞を動作させるために必要なプラットフォームとなる.ところがやっかいなことに,インフラマソームセンサーは病原体侵入のない状況においても,尿酸塩結晶やDNA などの生体内に存在する分子,あるいはシリカやアスベストといった環境粒子状物質を危険シグナルとして感知し,インフラマソームの活性化を引き起こすことが知られつつある.いわばインフラマソームの誤作動,あるいは過剰反応の結果として,さまざまな炎症性疾患が惹起される可能性を示している.インフラマソームという言葉がTschopp らによる文献にはじめて登場してから10 年以上が過ぎ,研究はますます過熱している. -
C型レクチンによる損傷自己および病原体の認識
243巻1号(2012);View Description Hide DescriptionC 型レクチンは下等生物から高等生物に至るまで広く保存されている蛋白質ファミリーのひとつで,カルシウムイオン依存的な糖結合活性を特徴とする.これまでの研究から,多くのC 型レクチンが微生物に特有の多糖構造を認識し,病原体を感知するセンサーとして機能していることが明らかとなってきており,Toll 様受容体やNOD 様受容体,RIG 様受容体と並ぶ自然免疫受容体のひとつとして注目されている.さらに近年,いくつかのC 型レクチンは病原体などの非自己のほかに,自己の異常も認識することが報告されており,自己,非自己双方に起因する危機を感知することで,生体の恒常性維持に重要な役割を果たしていることがわかってきた. -
ショウジョウバエの病原体認識システム
243巻1号(2012);View Description Hide Descriptionショウジョウバエは自然免疫系だけで感染を防御している.病原体を認識し,その病原体に対する免疫応答を特異的に誘導するPGRP(peptidoglycan recognition protein)やGNBP(gram-negative binding protein)といったファミリーが同定された.同じファミリーに属する因子を用いて,細菌が共通にもつ成分の構造の違いを識別して別々の免疫応答を活性化する例や,1 つの病原体認識蛋白質がさまざまな免疫応答を活性化する例など,ゲノムにコードされた有限の因子で,多様な病原体に対応する,自然免疫ならではのシステムが明らかとなった.その一方で,1 つの遺伝子から多様な受容体をつくりだし,多様な病原体に対応するという,獲得免疫系とも類似したシステムも明らかになりつつある.分子遺伝学的な解析が容易なショウジョウバエの利点をいかして明らかとなった病原体認識システムを概説する. - シグナル
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古典的NF-κB経路活性化における直鎖状ポリユビキチン鎖の役割
243巻1号(2012);View Description Hide DescriptionNF-κB はリンパ球の活性化,炎症反応,アレルギー反応などの免疫反応やアポトーシス抑制,細胞増殖細胞の促進など幅広い機能をもっている転写因子である.とくに自然免疫系においてはNF-κB はToll 様受容体(TLR),NOD 様受容体(NLR),RIG 様受容体(RLR)などパターン認識受容体の下流でサイトカインやケモカイン,抗菌ペプチドの発現を誘導することでその活性化を引き起こす.また,これらパターン認識受容体刺激で誘導されるサイトカインであるTNF やIL-1 の受容体の下流においてもNF-κB は重要な役割を担っている.NF-κB は刺激を受けない状態ではIκB ファミリーの分子と結合することで細胞質に存在している.IκBは刺激によって活性化されたIκB キナーゼ複合体(IKK complex)によってリン酸化を受けると,プロテアソームによって分解される.その結果NF-κB はIκB から解放され,核内へと移行し標的分子の転写を誘導する.刺激依存的なIKK の活性化にユビキチン修飾系の関与が示唆されていたが,その詳細は不明な点が多かった.当研究室ではHOIP,HOIL-1 L,SHARPIN からなる新規のユビキチンリガーゼ複合体LUBAC(linear ubiquitinchain assembly complex)を同定し,LUBAC が刺激依存的にIKK 構成分子であるNEMO(IKKγ)に直鎖状のポリユビキチン鎖を結合することでIKK を活性化することを報告している.本稿では,これまでに一番解析の進んでいるTNF 受容体刺激によるNF-κB 活性化における直鎖状ポリユビキチン鎖の役割を中心に解説をしたい. -
ネクロプトーシスの分子機構―プログラムされたネクローシスによる生体応答制御
243巻1号(2012);View Description Hide Description最近の研究により,プログラムされた細胞死のなかにアポトーシス以外の細胞死の存在が明らかになってきた.プログラムされたネクローシス(ネクロプトーシス)は,カスパーゼの活性化が障害された状況で,TNFR1 などのデスレセプターを介する刺激により誘導され,RIPK1 およびRIPK3 とよばれるキナーゼ依存性に誘導されることが明らかにされた.また,ネクロプトーシスは脳梗塞や心筋梗塞などの虚血再灌流障害や薬剤により誘導される膵炎,Crohn 病などでも生じていることが報告された.さらに,ウイルス感染時にもネクロプトーシスが感染細胞に誘導されることが明らかにされ,ある種のウイルスはネクロプトーシスを阻害する分子を発現することでウイルスの増殖に有利な環境を形成していることも明らかとなった.今後ネクロプトーシスの全貌が明らかになることで,ネクロプトーシス阻害剤や誘導剤がさまざまな疾患を治療するうえでのあらたな治療薬になる可能性がある. -
核内転写因子を標的とした自然免疫の負の制御機構
243巻1号(2012);View Description Hide Description細菌やウイルスなどの外来病原微生物の侵入に対し,樹状細胞などの自然免疫担当細胞は核内転写調節因子NF-κB およびIRF3/7 を活性化して一連の免疫反応を惹起することにより病原菌の排除を行う.この反応は感染早期の生体防御にきわめて重要な役割を担っているが,一方では何らかの原因で過剰に起こると,自己免疫疾患やアレルギー疾患などを引き起こすことも示唆されている.よって,NF-κB およびIRF3/7 の活性化のON/OFF をうまく制御することが,適切な炎症反応の進行にきわめて重要であると考えられる.最近の研究により,これらの転写因子は核内において,①ユビキチン化による分解,②核内小分画への隔離,③SUMO 化による転写抑制,という3 つのメカニズムにより不活性化されることが明らかになった.また興味深いことに,生体に感染したウイルスは,宿主の免疫機構を回避するために宿主の核内での負の制御機構を巧妙に利用していることも明らかになった.本稿ではこのような転写因子を標的とした負の制御の分子機構について,最近の知見を解説する. -
自然免疫における転写後調節
243巻1号(2012);View Description Hide Description自然免疫担当細胞は病原体の侵入をToll 様受容体(TLRs)などのパターン認識受容体により検出し,シグナルカスケードの活性化を経て,転写因子であるNF-κB やAP1 が活性化し,炎症性サイトカイン遺伝子などの転写を誘導する.これまで,サイトカイン産生(サイトカイン蛋白質の翻訳)はそのmRNA の転写により調節されると考えられてきた.しかし,転写されたmRNA の安定性や蛋白質への翻訳は転写後調節とよばれる制御機構により細胞内で厳密に制御されており,転写後調節は自然免疫応答である炎症の開始と抑制(終焉)にも重要な役割を担っていることが明らかになってきた.近年,microRNA(miRNA)およびRNA 結合領域として知られるCCCH 型Zn フィンガーやCCHC 型Zn フィンガー領域をもつRNA 結合蛋白質が,サイトカイン産生制御や免疫応答の調節に重要な役割を果たしていることが報告されている.本稿では自然免疫における転写後調節について概説し,とくに当研究室において報告したCCCH 型Zn フィンガー蛋白質であるRegnase-1 による炎症性サイトカイン制御の例を示し,そのメカニズムに関し議論したい. - 自然免疫に関わる細胞研究の最前線
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M2マクロファージの分化機構およびその生体内での役割の解明
243巻1号(2012);View Description Hide Descriptionマクロファージは,細菌やウイルス感染制御に重要な役割を果たしていることに加え,寄生虫感染,アレルギー応答,脂肪代謝,創傷治癒,癌転移などにも寄与していると考えられている.この応答は異なった性質のマクロファージにより担われていると考えられており,それぞれM1 型とM2 型マクロファージとよばれている.本研究ではマクロファージ分化とエピジェネティックな遺伝子制御との関係性に焦点をあてて研究を行った.その結果,ヒストンH3K27 の脱メチル化酵素であるJmjd3 がM2 マクロファージ分化や寄生虫感染応答に必須の役割を果たしていることを明らかにした.Jmjd3 は転写因子であるIRF4 遺伝子のプロモーター領域のヒストンH3K27 を脱メチル化し,その遺伝子発現を正に制御することによりM2 マクロファージへ分化させていると考えられた1).また,さまざまなM2 マクロファージが生体内に存在しており,さらなる解析結果からJmjd3 非依存的M2 マクロファージ分化経路の存在の可能性も示唆された. -
樹状細胞サブセットによる免疫応答制御
243巻1号(2012);View Description Hide Description樹状細胞(DCs)は樹状突起を有する系統マーカー陰性,主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスⅡ陽性の抗原提示細胞(APCs)であり,通常型樹状細胞(cDCs)と形質細胞様樹状細胞(pDCs)に大別される複数のサブセットから構成される.DCs は炎症状態では自然免疫と獲得免疫をつなぐもっとも強力な抗原提示細胞として免疫系を賦活し,定常状態では免疫寛容を誘導する制御細胞として,免疫学的恒常性の維持に重要であると考えられている.DCs サブセットの特徴的な機能は,さまざまな内的要因や異なる外的刺激などの環境要因によって修飾・影響を受けて免疫応答を多彩に調節する.さらに,免疫疾患の発症・増悪へのDCs サブセットの関与が明らかになりつつある.本稿では,ヒトとマウスのDCs サブセットとその機能について概説する. -
好塩基球研究の進展
243巻1号(2012);View Description Hide Description好塩基球は末梢血白血球の1%にも満たない希少な細胞であるにもかかわらず,多くの動物種で進化的に保存されてきた.したがって,好塩基球は欠かすことのできない固有の役割をもつことが示唆されるが,肥満細胞といくつかの特徴を共有することから,肥満細胞の類縁的な細胞や肥満細胞のバックアップ的存在であると考えられ,免疫学的研究においてほとんど注目されてこなかった.また,130 年以上前にPaul Ehrlich によって発見されていたにもかかわらず,好塩基球の希少性と,解析ツールの少なさから研究が遅れたため,機能的な重要性は不明なままであった.しかし,最近開発された新しい解析ツールにより,肥満細胞とは異なる好塩基球固有の役割や,急性・慢性アレルギー応答の発症や寄生虫に対する防御免疫,獲得免疫の制御などにおいて重要な役割をもつことが明らかとなり,好塩基球が免疫システムにおけるキープレーヤーとして注目を集めている. -
腸管における自然免疫細胞サブセット
243巻1号(2012);View Description Hide Description腸管はつねにさまざまな食餌抗原にさらされると同時に,多様な常在腸内細菌との共生がはかられている.過剰な免疫応答を回避する一方,病原性を有する菌の侵入を即座に排除するため,腸管は非常に精密な免疫制御機構を発達させてきた.このような腸管免疫系の恒常性破綻は炎症性腸疾患(IBD),食物アレルギー,感染性腸炎などのさまざまな病態を引き起こすと考えられている.最近の精力的な研究により,このような免疫制御システムの構築および維持において,各種腸管樹状細胞サブセットはT 細胞の分化・機能に影響を与えることで重要な役割を果たすことが明らかとなった.また,以前までIFN-γ,IL-17,IL-13 などのサイトカインを介した免疫応答は,獲得免疫系であるCD4 陽性ヘルパーT 細胞が主体と考えられていたが,最近になりinnate lymphoid cells(ILCs)とよばれる細胞集団が同定され,自然免疫細胞による迅速なサイトカイン応答システムが明らかとなりつつある.本稿では,代表的な各種樹状細胞サブセットによるT 細胞制御メカニズム,およびILCs の概要について紹介する. - 自然免疫の関わる病態と治療への応用
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自然免疫による好酸球性肺炎発症機構
243巻1号(2012);View Description Hide Description寄生虫に感染すると,宿主動物はTh2 型免疫応答を誘導して感染による傷害から身体を守る.この応答は,インターロイキン4(IL-4)やIL-13 などのTh2 型サイトカインを産生するT 細胞(Th2)を主体としたものと考えられている.Th2 サイトカインは寄生虫から身体を守る働きをすると同時に,アレルギーや喘息を引き起こす原因にもなる.ある種の寄生虫に感染すると,レフレル(Löffler)症候群とよばれる,好酸球を主体とした肺の炎症が引き起こされることが知られているが,そのメカニズムはアレルギー反応と考えられてきた.一方で,近年発見されたナチュラルヘルパー(NH)細胞が獲得免疫系非依存的に大量のTh2 サイトカインを産生すること,そしてこの細胞の働きには上皮由来サイトカインが重要であることがわかってきた.上皮細胞などの自然免疫系がいかに寄生虫を認識するのか,そしてどのようにLöffler 症候群が誘導されるのか,最近の知見を紹介する. -
脂肪組織炎症とメタボリックシンドローム
243巻1号(2012);View Description Hide Description肥満の脂肪組織では,マクロファージ(MΦ)を中心とする免疫担当細胞が肥満の脂肪組織に浸潤し,脂肪組織の機能異常(アディポサイトカイン産生調節機構の破綻)を誘導することにより,メタボリックシンドローム(MS)の病態形成に中心的な役割を果たすことが明らかになってきた.このような脂肪組織炎症は病原体の感染なしに誘導され,内因性リガンドと病原体センサーの相互作用により誘導される慢性炎症である“自然炎症”と考えられ,研究が進められている.本稿では肥満の脂肪組織に浸潤するMΦに焦点を当て,脂肪組織炎症の分子機構に関する最近の知見を概説する. -
生活習慣病におけるマクロファージ
243巻1号(2012);View Description Hide Description心血管代謝疾患をはじめとする生活習慣病に共通した基盤病態として,慢性炎症に注目が集まっている.マクロファージは慢性炎症プロセスで多彩な役割を果たす主要なエフェクター細胞である.マクロファージは,M1 古典的活性型と,M2 代替活性型にしばしば大別されるが,組織においてはその形質・機能はより多様で,また時間的にも変化する.たとえば,腎障害に応じて最初に集積するM1 型マクロファージは細胞・組織障害と炎症を進めるが,障害後時間が経過すると,徐々にM2 型マクロファージが主体となり,線維化を促進する.このように,組織に存在するマクロファージは環境からの刺激に応じて,その性質を多彩に変えながら,恒常性の維持から不可逆的な臓器機能障害までのプロセスに密接に寄与していると考えられる.今後の組織マクロファージの研究は,生活習慣病の病態プロセスの理解に寄与するだけでなく,新しい治療標的の同定に発展するであろう. -
老化と慢性炎症
243巻1号(2012);View Description Hide Description体細胞には分裂寿命があり,一定回数分裂後に細胞老化とよばれる分裂停止状態になる.ほかにもさまざまストレスにより細胞老化が誘導される.加齢個体では組織に老化細胞が集積していることが知られており,個体の老化には細胞老化が深く関与していると考えられる.加齢個体に蓄積した老化細胞は多くの液性因子を分泌しさまざまな表現型を呈していることが明らかとなり,このような現象はSASP(senescence-associatedsecretory phenotypes)とよばれている.これらの液性因子の作用は多岐にわたり,癌形成促進,慢性炎症の誘導などを引き起こす.近年,動脈硬化性疾患,代謝性疾患,Alzheimer 病,悪性腫瘍などの加齢関連疾患の病態基盤として慢性炎症が注目されているが,細胞老化・SASP により生じた慢性炎症がその一因となっている可能性がある.さらに,慢性炎症が細胞老化を促進するという知見もあり,炎症と老化の悪循環の存在が示唆される.細胞老化と慢性炎症の機序解明により,加齢に伴う難治性疾患の予防とあらたな治療法の開発が期待される. -
自然免疫と癌治療
243巻1号(2012);View Description Hide Description微生物に特有のパターン分子を検知するレセプター群とシグナル系が自然免疫として同定された.合成したパターン分子は感染を起こさずに自然免疫を活性化でき,それが獲得免疫の起動刺激となることも判明した.パターン分子を免疫増強剤(アジュバント)として抗癌免疫の起動に応用する研究が進むなか,パターン認識レセプター(PRR)は外因性・内因性という異なる様式で樹状細胞を成熟化し,外因性認識が樹状細胞にNK細胞,細胞傷害性T 細胞(CTL)を誘導させることが判明した.内因性認識とは,細胞内で増殖した微生物のパターン分子を,同じ細胞内のPRR が認識する様式である.その際パターン分子が細胞質内PRR を活性化してclassⅠ抗原提示を促進するため,感染細胞は微生物抗原も提示する.外因性認識とは,非感染(免疫)細胞が抗原とパターン分子を外から取り込み,それによって免疫細胞が活性化する様式である.外来抗原はcrosspresentationという機構でclassⅠ提示され,PRR シグナルはそのために必須である.外因性認識はサイトカインの過剰誘導も感染の樹状細胞障害もなしに免疫系を起動できる長所がある.これら最新知見と癌免疫への適用を総説する. -
自然免疫研究と次世代ワクチン
243巻1号(2012);View Description Hide Description感染症に対するワクチンは非常に有効な医療手段のひとつであり,天然痘の撲滅に代表されるように大きな効果を上げてきた.現在では最大でおよそ15 種類の,病原体に対する乳幼児期からはじまる秩序だったワクチンプログラムが日本を含む各国で実施されており,乳幼児死亡率の低下や公衆衛生の改善に寄与している.しかし,ワクチンによる乳幼児・小児における感染症対策が効果を発揮すればするほど,ワクチンによる恩恵を感じることは難しく,ワクチンの効果よりもむしろワクチン接種に伴う発熱や,きわめてまれで発生予測が難しくまたワクチン接種との因果関係を明確にできない重篤な副作用が重大な社会的問題となっており,ワクチンに対する不信や拒絶の一因ともなっている.また,従来的な乳幼児・小児に対する感染症ワクチンだけでなく,いまだに有効なワクチンが存在しないHIV,結核,マラリアの三大感染症や,エボラやSARS などの新興感染症,さらに高血圧,癌,認知症といった現代型の疾患や病態に対しても,有用な新しいワクチンの開発への期待が高まっている.このような課題に対応するためには,これまでの経験に基づいた(empirical)方法を踏まえたうえで,近年めざましく進展した免疫学,とくに自然免疫研究の知見を取り入れた科学的かつ革新的なワクチン開発研究が必要である. -
M2マクロファージと疾患
243巻1号(2012);View Description Hide Descriptionマクロファージ(MΦ)は組織ごとの微小環境に応じて,また感染病原体や固形腫瘍などの異物に反応してその形態や機能を大きく変化させる.このようにMΦの表現型は一定のものではなく,M1/M2 という異なる極性のなかで理解されている.一般にM1MΦはLPS やIFN-γなどのTh1 サイトカインによって分化誘導され,炎症反応の進展に寄与する.一方,M2MΦはIL-4 などTh2 サイトカインによって分化誘導を受ける.組織ごとに特徴的な形態を示し,寄生虫に対する免疫反応や創傷治癒,組織リモデリングなどの機能を担う.MΦは,感染防御など生体にとって重要な恒常性維持機能を担う一方で,MΦの機能異常は多くの疾患の病態にかかわる.M1MΦは感染症を含む炎症性疾患だけでなく,動脈硬化やインスリン抵抗性など代謝疾患の病態形成に重要な働きをする.対して抗炎症性のM2MΦは,一見善玉様にみえるが,こちらもさまざまな疾患の病態に関与していることがわかってきた.本稿ではM2MΦと疾患について,インスリン抵抗性および悪性腫瘍の病態におけるM2MΦの役割を中心に最近の知見を概説する.
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