医学のあゆみ
Volume 243, Issue 13, 2012
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【12月第5土曜特集】 頭痛最前線―よりよき頭痛診療をめざして
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- 総論
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頭痛医療の展望―過去,現状,そして未来
243巻13号(2012);View Description Hide Description慢性頭痛に悩む人は多い.なかでも片頭痛は生活支障度が高く,日本で840 万の人が悩んでいる.小児の片頭痛受診率も多い.片頭痛は仕事,家事,学業に多大な支障をきたす.しかし,片頭痛が治療すべき,または治療しうる疾患であることの認知度は,社会的にも医学関係者にもきわめて低い.検査で異常がみられないため,多くの医師により「治療の必要がない」とされる.片頭痛に悩む人の多くががまんし,医療に失望している.日本頭痛学会では頭痛専門医を育成し,治療の必要な人が適切な治療を受けられやすい医療づくりに努力している.行政の理解とサポートが切に望まれる.慢性頭痛の研究は脳の科学として発展し,治療法も進歩した.若手医師の教育が重要課題である. -
頭痛の疫学
243巻13号(2012);View Description Hide Description国際頭痛学会による診断基準の作成により,正確な一次性頭痛の疫学的な研究が可能となった.片頭痛に関しては日本人の成人では1 年間の有病率は男性3.6%,女性12.9%で,全体の8.4%である.世界全体では有病率は男性で5~9%,女性では12~25%である.片頭痛の有病率はヨーロッパ・北アメリカでは高率であり,つぎにアジアで,アフリカがもっとも低い.緊張型頭痛の有病率はわが国では1 年間で22.4%(男性18.1%,女性26.4%)で全頭痛の56.3%を占めており,もっとも頻度の高い頭痛である.世界では報告により差は大きいが,男性,女性とも1 年当り10~80%で,やはり欧米において高率である.群発頭痛は比較的頻度が小で,10 万人当り40~100 名の有病率であるが,男性に多いという特徴がある. -
頭痛診療支援ツール―コミュニケーションツール
243巻13号(2012);View Description Hide Description慢性頭痛(一次性頭痛)で来院した患者に対し,画像診断では異常がないため“鎮痛剤を処方して終診”では日ごろから頭痛に悩んで外来を受診した患者は振り出しに戻ってしまう.片頭痛をはじめとした慢性頭痛の診療は二次性頭痛を除外したところがスタートラインといっても過言ではなく,診断後に十分な頭痛診療を提供できるかどうかは頭痛医療に携わる医師にとって大切な課題である.限られた診療時間内で有用な情報を得るために診療支援ツールを効率よく利用することは有用であり,その利用は診療ガイドラインにおいても推奨されている.患者の頭痛を把握する問診票,頭痛の鑑別の補助となるチェックシートやスクリーナー,頭痛による生活支障度の評価や治療評価に有用なMIDAS・HIT-6,日々の頭痛を記録する頭痛ダイアリーなどが開発されている.診療支援ツールを適宜利用することで,頭痛情報の収集と患者-医師間のコミュニケーションが円滑となる. -
頭痛医療システム―プライマリケアの頭痛医療,医療連携
243巻13号(2012);View Description Hide Description日常診療では,数多くの一次性頭痛(片頭痛,緊張型頭痛,群発頭痛など)とともに二次性頭痛も診る機会があり,プライマリーケアにおいて頭痛は重要な疾患である.くも膜下出血などの二次性頭痛では,脳卒中の医療連携の一環としてかかりつけ医と専門医との関係が構築されている.しかし薬物乱用頭痛,脳脊髄液減少症(脳脊髄液漏出症)などの二次性頭痛,さらに一次性頭痛の医療連携の構築は遅れている.頭痛の医療連携により頭痛患者,かかりつけ医,専門医の三者それぞれに多くのメリットが生まれる(triple-win).また専門医どうしの連携(水平連携),薬局薬剤師や養護教諭,学校医,産業医,脳ドック医などと頭痛専門医との連携とともに,小児科,精神科,心療内科,放射線科,麻酔科,眼科,耳鼻咽喉科,産婦人科,皮膚科などによる後方支援も必要である.頭痛診療の“均てん化”を図るために,地域の医療資源を最大限に活用した医療連携による地域完結型の頭痛診療態勢を構築する必要がある. -
頭痛に関与している遺伝子―ゲノム解析の現状
243巻13号(2012);View Description Hide Description頭痛領域の遺伝子研究の多くは片頭痛に関するものである.現在報告されている片頭痛遺伝子の多くが,皮質拡延性抑制(cortical spreading depression)あるいは神経原性(無菌性)炎症,血管拡張との関与を示すものとなっている.片頭痛の特殊型である家族性片麻痺性片頭痛(FHM)の原因遺伝子は現在までにFHM1,2,3が同定され,あらたに第14 染色体上のFHM4 や,FHM5/SLC4A4,FHM6/SLC1A3 が存在すると考えられている.これらの結果は,FHM における細胞膜のチャネル機能に関与した神経細胞の易興奮性を伴う病態を示唆している.大規模なゲノムワイド関連解析(GWAS)が進められ,複数の遺伝子多型が報告されている.詳細な病態機序はいまだ不明であるが,neuropathic pain やneuronal glutamate signaling との関与などが推測されている.大規模な前兆のある片頭痛の家系解析から,K+チャネルの遺伝子(KCNK18)変異が報告された.今後,片頭痛におけるGWAS が発展を遂げるためには,より厳格な臨床診断を踏まえた片頭痛患者多数例の検体が必要となる.そのためには,簡便かつ精度の高い診断バイオマーカーの発見や開発が必要不可欠である. - 頭痛の診断と治療
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国際頭痛分類―最新の動向を踏まえて
243巻13号(2012);View Description Hide Description国際頭痛学会の頭痛性疾患の分類と診断基準『国際頭痛分類第2 版(ICHD-Ⅱ)』が2004 年に刊行され,同年,日本語訳も出された.すべての頭痛が14 のグループに分類整理されており,厳選された必須情報が記載されている.正確な頭痛診断とその標準化により,世界各国の多くの研究成果や治療経験を共有し科学的な比較検討が可能となった.現在,ICHD-Ⅲへの改訂作業が進められている. -
慢性頭痛の診療ガイドライン
243巻13号(2012);View Description Hide Description国際頭痛学会は『The International Classification of Headache Disorders,2nd Edition(ICHD-Ⅱ)』を2004 年に発表した.これに応じて,厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業として,慢性頭痛の診療ガイドライン作成における研究班(主任研究者:坂井文彦)が中心となり,2005 年に『慢性頭痛の診療ガイドライン』がまとめられ,2006 年に『慢性頭痛の診療ガイドライン』(日本頭痛学会編)4)が医学書院から出版された.その後6 年以上経過したため,改訂を行う必要があると考え,日本頭痛学会と日本神経学会,日本神経治療学会,日本脳神経外科学会がコンソーシアムをつくり,今回の改訂作業を行うことになった.本稿では改訂作業の大筋を紹介したい. -
頭痛への問診(病歴聴取)と診察
243巻13号(2012);View Description Hide Description頭痛は,『国際頭痛分類第2 版』では一次性頭痛,二次性頭痛,顔面痛・頭部神経痛に大別されているが,実践的には,①危険な頭痛(例:くも膜下出血,側頭動脈炎),②生活支障度の高い頭痛(例:片頭痛,髄液量減少症),③生活改善が要求される頭痛(例:緊張型頭痛,薬物乱用頭痛,睡眠時無呼吸症候群),に分けると対処しやすい.問診にあたっては,危険な頭痛と代表的な慢性反復性頭痛である片頭痛・緊張型頭痛の特徴を理解しておくことがそれぞれの診断に最重要である.頭痛の性状の把握は大切であるが,それだけで診断することはできないので,頭痛をきたす各疾患に特有の年齢や性別,誘発・背景因子,随伴症状について把握しておくことが有用である.危険な頭痛でも画像検査ですべて解明できることはなく,画像検査や諸検査も適切な部位や方法を選択しないかぎり意味がない.診断困難例では何度も病歴聴取とそれに応じた診察に立ち戻る必要がある. -
頭痛診療アルゴリズム
243巻13号(2012);View Description Hide Description日常診療で多忙なプライマリーケア医にとって,頭痛の簡易診断アルゴリズムは診断手順をチャート化し知識の整理に役立つ.頭痛診療は,最初に二次性頭痛を除外していくことからはじまるが,生命に直接影響が及ぶような危険な頭痛について,危険信号(red flags)の有無に注意をはらい診断する.片頭痛を診断するには,POUNDing〔Pulsating(拍動性),duration of 4-72hOurs(4~72 時間の持続),Unilatera(l 片側性),Nausea(悪心),Disabling(生活支障度が高い)〕に注目することが診断に有用である.慢性頭痛,慢性連日性頭痛を診断するには,①日常生活への支障はあるか,②1 カ月に何日頭痛があるか,③1 カ月に何日鎮痛薬を服用するか,④一過性の同名性の視野症状を伴うか,が有用である.一次性頭痛については,頭痛の頻度を低~中頻度(15 回/month 未満)と高頻度(15 回/month 以上)に,持続時間を短時間(4 時間以下)と長時間(4時間を超える)にそれぞれ分け,アルゴリズムを作成することが可能である. -
頭痛の鑑別診断―危険な頭痛は雷鳴の如し
243巻13号(2012);View Description Hide Descriptionよりよい頭痛診療は正しい診断にはじまる.実臨床では検査および身体所見に持続的な異常を認めない一次性頭痛の割合がはるかに高く,これらを正しく診断・治療し,患者のQOL を改善させることが頭痛診療の主眼であると考えられる.しかし,一次性頭痛に紛れて来院する二次性頭痛を適切に鑑別することが重要であることは論をまたず,頭痛患者を診察するうえでまず行うべきは二次性頭痛,とくに早期診断が必要な危険な頭痛の除外である.本稿では,見逃してはいけない二次性頭痛の鑑別について雷鳴頭痛を中心に述べていく.また慢性頭痛の診療ガイドラインでも示されているが,頭痛診療における頭痛専門医の果たす役割は重要であり,頭痛外来を設置したことによる当院における頭痛診断の変化についても紹介する. -
見逃さないための頭痛検査―MRIによる画像診断を中心に
243巻13号(2012);View Description Hide Description一次性頭痛の検査で重要なのは,CT,MRI により頭蓋内に器質的疾患がないことを患者に理解させ,不必要な心配を除くことと,増悪因子となる潜在性の共存症を診断し,頭痛の治療効果を高めることにある.一方,二次性頭痛,とくに雷鳴性頭痛を伴う器質性疾患では,適切な検査による迅速な治療が要求される.しかし従来,画像診断として多用されてきたCT のみでは診断困難な病態の存在が明らかとなり,MRI による診断精度の向上が期待されている.本稿では,見逃しやすい二次性頭痛の画像診断,とくにMRI 所見を,少量出血のくも膜下出血(SAH)例,SAH 類似所見を伴う例,cortical SAH 例,ADC 上昇例,脳静脈血栓症例,脳動脈解離例を中心に解説した. - 片頭痛
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片頭痛オーバービュー―片頭痛とはなにか
243巻13号(2012);View Description Hide Description片頭痛の病態を説明する仮説として,これまで血管説,神経説および三叉神経血管説の3 つの機序が考えられ,それぞれ独立して唱えられてきた.今日では,これら3 つの仮説は片頭痛における病態の一部をそれぞれ反映しているものとしてとらえられている.片頭痛の前兆は大脳皮質拡延性抑制(CSD)がおもな病態であり,疼痛は三叉神経血管系の神経原性炎症である.これらを引き起こすもの,結びつけるものとして片頭痛発生器の存在が提唱されている.一方,片頭痛の痛みの起源に関しては,脳血管や硬膜など末梢性に起因するという考えと,脳そのものにより三叉神経脊髄路核が活性されて生じているものではないかという考えがある.片頭痛の病態生理にはいまだに解明されていない点があるが,片頭痛とは,「素因を有する個体において何らかの刺激により起こる神経系および血管系の異常反応である」ことに間違いない.すなわち,「セロトニンの生体内での異常変動が惹起する,全身反応を伴う頭蓋血管の異常状態」といえる. -
片頭痛の分類と診断基準
243巻13号(2012);View Description Hide Description国際頭痛学会の頭痛分類と診断基準が1988 年に刊行されたことにより,頭痛の診断が標準化され,世界各国での研究成果や治療経験を共有し科学的な比較検討をすることが可能になった.これは新しいエビデンスに基づき,2004 年に『International Classification of Headache Disorders 2nd Edition(ICHD-Ⅱ)』として改訂された.片頭痛は1.1「前兆のない片頭痛」,1.2「前兆のある片頭痛」など6 個のサブタイプに分類され,さらに下位のサブフォームに分類されている.前兆のある片頭痛は前兆の種類と頭痛のパターンから,1.2.1「典型的前兆に片頭痛を伴うもの」,1.2.2「典型的前兆に非片頭痛様の頭痛を伴うもの」,1.2.3「典型的前兆のみで頭痛を伴わないもの」,1.2.4「家族性片麻痺性片頭痛」,1.2.5「孤発性片麻痺性片頭痛」,1.2.6「脳底型片頭痛」に分類されている.ICHD-Ⅱの活用で容易かつ的確に頭痛診断ができる.日常の頭痛診療および頭痛に関するすべての研究がICHD-Ⅱに基づいて進められることが重要である.臨床的な検討から,2006 年には慢性片頭痛などの付録診断基準が提案され,現在第3 版への改訂作業がはじまっている. -
片頭痛の誘発因子
243巻13号(2012);View Description Hide Description片頭痛は,ある特定の状況下で起こりやすいことが知られている.その誘発因子はストレスなどの精神的因子,職場や学校などの環境因子や生活習慣,女性の場合にはホルモン変動,また食品や薬物など多岐にわたる.ストレスに関しては,ストレスを受けたときや,逆にストレスから解放されたときでも起こりやすく,また,睡眠不足や過度の睡眠も誘因となる.環境因子としては,生活習慣の変化や天候や気候なども誘発の原因となる.さらに,女性の場合は月経に伴うエストロゲンの変動が発作誘発と密接な関連がある.食品においても,アルコールや他の血管拡張作用のある物質が含まれる食品で起こりやすいといわれている.薬物では,血管拡張作用のある薬剤で誘発されやすい.しかし,すべての片頭痛患者で共通の誘発物質はなく,誘発因子に関しては患者個人の差が大きい.これらの誘発因子の知識は片頭痛発作の回避には重要であり,治療の面でもおおいに役立つ. -
片頭痛の共存症
243巻13号(2012);View Description Hide Description片頭痛にはさまざまな共存症(comorbidity)が知られており,高血圧,心疾患,脳血管障害,うつ病や不安障害などの精神疾患,てんかん,めまい,下肢静止不能症候群(restless legs syndrome),喘息やその他のアレルギー性疾患,自己免疫疾患など,多くの疾患が片頭痛の共存症として報告されている.片頭痛と共存症との関係として,①偶発的な共存,②共存症が片頭痛を起こす,あるいは片頭痛が共存症を起こす,③共通のリスク要因により双方が起こる,④ある要因が特定の脳の状態を惹起し,片頭痛と共存症を起こす,などのパターンが考えられ,共存症に関する理解は片頭痛の病因・病態や治療を考えるうえで重要である. -
片頭痛慢性化と慢性片頭痛
243巻13号(2012);View Description Hide Description慢性片頭痛は『国際頭痛分類第2 版付録診断基準(2006)』によって定義されており,Silberstein らが提唱した変容片頭痛を参考につくられた疾患概念である.発作性片頭痛の一部の患者において,頭痛頻度が上昇するとともに頭痛性状や随伴症状の変容を伴って発症する.片頭痛慢性化のメカニズムは不明である.しかし疫学研究から,肥満,うつなどの気分障害,睡眠時無呼吸など是正可能な危険因子が判明しているため,これらが認められた場合には治療介入を試みるべきである.治療については,バルプロ酸やトピラマートの治療効果が実証されている.トピラマートは複数のプラセボ対照ランダム化臨床研究で薬効が実証されているが,わが国では片頭痛に対する保険適応を取得していない.また,めまいや異常感覚などの副作用も多い.欧米では,大規模な臨床研究によってA 型ボツリヌス毒素が慢性片頭痛に有効であることが最近明らかにされた. -
片頭痛の急性期治療
243巻13号(2012);View Description Hide Description片頭痛は中等度以上の頭痛で,日常生活への支障度が高い疾患である.それゆえに片頭痛の急性期治療の目的として,片頭痛発作を速やかに消失させ,患者の機能を回復させる薬物治療が必要となる.実際の治療を行うにあたり,片頭痛の支障度に応じて治療薬を選択する“Stratified-care(層別化治療)”が行われており,それぞれの患者において発作頻度・強さ,日常生活支障の程度,随伴症状,患者の嗜好,過去の治療歴,既往歴などを考慮に入れて治療を行う.軽度~中等度では鎮痛薬,NSAIDs,中等症以上の頭痛にはトリプタン製剤の使用が勧められる. -
トリプタンの使い方―トリプタンの有効性・患者満足度をアップさせるためのコツ
243巻13号(2012);View Description Hide Descriptionトリプタンの登場で片頭痛診療の質は劇的に向上し,多くの患者がその恩恵に浴している.現在わが国で使用可能なトリプタン製剤は5 品目で,経口,点鼻,注射の3 投与経路がある.血管障害の既往,片麻痺性片頭痛,脳底型片頭痛,眼筋麻痺性片頭痛などの禁忌や使用上の注意を遵守すれば,安全性はきわめて高い.それぞれの製剤の最高血中濃度到達時間や血中半減期などの薬理学的特徴を熟知し薬剤選択をすることで,有効性が向上する.トリプタンの有効性は服薬時期に依存するので,もっとも有効性の高い頭痛発現早期に服薬するよう指導することが重要である.月経関連片頭痛,夜間・早朝の発作,急峻な立ち上がりの発作,嘔気・嘔吐の強い発作などのトリプタンの効果が得られにくい場合には,他のトリプタンに変更,投与経路の変更,NSAIDs との併用,予防薬の併用などの工夫で有効性が改善することが多い. -
片頭痛の予防療法―予防療法の適応とその治療薬
243巻13号(2012);View Description Hide Description片頭痛治療において,急性期治療だけでは日常生活への支障が十分に改善できない場合に予防療法が適応となる.急性期治療薬の頻回の服用は薬物乱用につながり,薬物乱用頭痛を誘発するので,急性期治療薬の乱用がある場合にも予防療法が必要である.予防療法に使用される薬剤には抗てんかん薬,抗うつ薬,β遮断薬,Ca 拮抗薬,ACE/ARB 阻害薬などがある.予防薬をどのように選択するかについては併存する医学的状態も考慮し,有害事象が少ない薬剤を低用量から開始することが勧められ,十分な臨床効果が得られる用量までゆっくり増量し,2~3 カ月程度の期間をかけて効果を判定する.わが国における実地診療においては,片頭痛治療薬としての保険適用の有無も考慮して決める必要がある.妊娠可能な女性,妊娠中の女性に対する予防療法は,薬剤が催奇形作用をもつ可能性があるため,できるかぎり使用しないことが望ましいが,予防療法が不可欠の場合,胎児に対するリスクがもっとも低い薬剤を選択する. -
頭痛診療における漢方の役割
243巻13号(2012);View Description Hide Description頭痛診療において漢方の適応となる頭痛は,おもに一次性頭痛のなかでも片頭痛が多い.とくに鎮痛薬の効果が不十分であったり,副作用が出て服用しにくい場合や,女性特有の月経・更年期に関連した頭痛,冷え・むくみ体質のある頭痛に用いられやすい.その他,緊張型頭痛や二次性頭痛の薬物乱用頭痛,精神疾患による頭痛,神経痛にも用いられる.片頭痛に対する代表的な漢方薬は,『慢性頭痛診療ガイドライン(2005)』に掲載されている呉茱萸湯,桂枝人参湯以外にも当帰四逆加呉茱萸生姜湯,半夏白朮天麻湯などがある.緊張型頭痛に対しては,同ガイドラインに掲載されている釣藤散,葛根湯以外にも五苓散,柴胡加竜骨牡蠣湯などがある.本稿では各処方の適応,臨床研究および服用のポイントも含め紹介する. -
頭痛治療における代替補完療法,非薬物療法
243巻13号(2012);View Description Hide Description頭痛治療における代替補完療法,非薬物療法は,医療機関を受診するほどではない軽症患者や,トリプタンをはじめとする急性期治療薬や予防薬でも効果の十分得られない重症の患者に薬物療法とともに併用されたりしてきた.とくにOTC 薬は,軽症の片頭痛患者や緊張型頭痛患者には簡便に手に入れることができ,一定の効果の得られることから多く頻用されている.一方,OTC 薬は患者自身で制限なく手に入れることができるため,長期間の頻回使用による薬物乱用頭痛を起こしていないかを問診で確認すること,ならびに患者教育が重要である.さらに食品,サプリメントでは,アルコールによる片頭痛発作は頻度が多く注意が必要である.近年,精神医学的行動療法が見直されており,本稿でも取り上げた.これら頭痛治療における代替補完療法,非薬物療法のなかには十分なエビデンスがない場合や,逆に頭痛を悪化させる民間療法もあり,注意が必要である.できれば医療機関を受診して頭痛診療医に相談し,その患者に合ったオーダーメイドの頭痛治療の選択が求められる. - 片頭痛以外の一次性頭痛
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緊張型頭痛の分類と診断
243巻13号(2012);View Description Hide Description緊張型頭痛の一般集団における生涯有病率は30~78%とされており,すべての疾患のなかでもっとも多いもののひとつである.しかし,『国際頭痛学会分類改訂第2 版(International Classification of Headache Disorders;ICHD-Ⅱ)』における緊張型頭痛の分類に基づいた診断基準が示すとおり,稀発型については支障度は軽く,ある意味で生理的反応であるともいえる.一方,慢性型緊張型に分類される頭痛は生活の質(QOL)を大きく低下させ,高度の障害を引き起こす深刻な疾患であり,しかも変容性片頭痛と共存しその鑑別すら困難である.すなわち,その病態生理はうつなどの精神的要素の関与を示唆し,末梢性痛み入力の変容と,それを受容する側の変容,すなわち慢性片頭痛や薬物乱用頭痛と密な関連をもつ中枢性感作の病態が注目され,その正確な病態の解明,臨床的な診断と適切な治療は今後の課題といえる. -
緊張型頭痛の病態と治療
243巻13号(2012);View Description Hide Description一次性頭痛のなかでもっとも頻度の高い緊張型頭痛(TTH)の発症機序について理解することは,治療を行ううえでも重要である.現在,TTH の疼痛メカニズムの概念は,末梢性および中枢性の要素が複雑に関与していると推察されている.末梢性疼痛メカニズムの主体は,頭頸部筋群における頭蓋周囲筋膜の痛み感受性の増加によって引き起こされる圧痛であり,中枢性疼痛メカニズムの主体は,長期間にわたり持続するthinmyelinated fibe(r Aδ)や C fiber を介した頭蓋周囲筋膜への疼痛刺激が誘因となり,脊髄後角への入力線維におけるcentral sensitization が惹起され,扁桃・視床下部からの下行性疼痛抑制系の機能が低下するため疼痛が緩和されないことであると考えられている.プライマリーケア医をはじめとし,頭痛診療に携わる医師には,その病態を理解し,適切な診断・治療を行うことが望まれる. -
三叉神経・自律神経性頭痛(TAC)の分類と診断基準
243巻13号(2012);View Description Hide Description群発頭痛と群発頭痛に似た頭痛は,短期持続性の一側頭痛と流涙・鼻漏などの自律神経症状を伴うのが特徴である.『国際頭痛学会分類第 2 版』1() ICHD-Ⅱ2))では,これらの頭痛群に三叉神経・自律神経性頭痛(TAC)という概念が導入された.TAC は第一部の一次性頭痛グループに位置づけられており,ICHD-Ⅱに準拠して分類および診断する.発作持続時間でいうと,群発頭痛:1 時間,発作性片側頭痛:10 分,short-lastingunilateral neuralgiform headache with conjunctival injection and tearing(SUNCT):1 分,で分けられる. -
群発頭痛の診断と治療
243巻13号(2012);View Description Hide Description群発頭痛は痛みに耐えかねて自殺する患者もあるほど苦痛の大きい疾患であるが,多くの患者が長期にわたり適切な診断治療を受けられず苦しんでいる.群発頭痛を診断するコツは,一側の三叉神経領域の激痛発作に結膜充血,流涙,鼻閉,鼻漏などの自律神経症状を伴う頭痛をみた際に群発頭痛を疑うことである.診断は国際頭痛分類の診断基準を用いて行うが,MRI などで器質的疾患の除外を行えば診断は容易である.治療は,群発期に起こった発作を軽減・消失させることを目的とした急性期治療と,発作出現を防ぐことを目的とした予防療法の両者を行う.急性期治療にはスマトリプタン皮下注または純酸素吸入を用いる.とくにスマトリプタン皮下注はキット製剤があり,自宅でも簡便に投与できる.予防療法としてベラパミルを用いるが,効果発現まで1~2 週間要するため,この間はプレドニゾロンを併用する. -
その他の一次性頭痛の分類と診断基準,治療
243巻13号(2012);View Description Hide Description『国際頭痛分類第2 版(ICHD-Ⅱ)』における“その他の一次性頭痛”とは,片頭痛,緊張型頭痛,群発頭痛およびその他の三叉神経・自律神経性頭痛のいずれにも属さない一次性頭痛であり,8 つの疾患がこれに含まれる.8 つの頭痛はそれぞれ独立した疾患であり,病態が不明なものが多いが,特効薬があるものもあり,正しい診断によって患者の生活が大きく変化することもありうる.非常にまれな頭痛や,一般的であっても受診率が低いために注目されていない頭痛が多いが,これらの疾患が存在することを念頭においておくことは頭痛診療において重要であると思われる. - 治療に難渋する頭痛
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薬物乱用頭痛
243巻13号(2012);View Description Hide Description薬物乱用頭痛(MOH)の一般住民における1 年間有病率は1~2%であるが,頭痛診療のなかでは遭遇することの多い頭痛のひとつである.MOH は片頭痛,緊張型頭痛などの一次性頭痛患者が複合鎮痛薬,トリプタン,エルゴタミンなどの急性期頭痛治療薬を3 カ月を超えて定期的に頻回に使用することにより発症すると考えられており,片頭痛に比べQOL を著しく阻害する疾患である.頭痛患者の診療にあたっては,つねに薬物使用日数を把握し,薬物乱用をきたさないよう注意を払う.治療は患者への説明・適切な助言,原因薬物の中止,予防薬投与であるが,原因薬物中止により反跳頭痛が起こりうることを認識し,各患者に応じた治療計画を立てる必要がある.これらの治療により1~6 カ月で約70%の患者は改善するが,1 年以内に41%,4 年で44%が再発していることから,注意深い経過観察が必要である. -
慢性連日性頭痛
243巻13号(2012);View Description Hide Description慢性連日性頭痛は,1994 年にSilberstein らにより提唱された頭痛概念で,1 日に4 時間以上の頭痛が1 カ月に15 日間以上続くものとされ,変容型片頭痛,慢性緊張型頭痛,新規発症持続性連日性頭痛,持続性片側頭痛の4 病型を定義している.一般人口の約3~5%が罹患しており,精神疾患の共存が多いことから,治療に難渋することが多い頭痛である.変容型片頭痛や慢性緊張型頭痛,『国際頭痛分類第2 版』で定義された薬物乱用頭痛を明確に鑑別することは困難な場合が多く,初期診療では薬物乱用や精神症状の評価をまず行い,もともとの頭痛の性状を正しく評価することが重要である.小児における慢性連日性頭痛も比較的多く認められ,不登校などの社会的問題と関連し,精神症状への対応も含め包括的に診療にあたる必要がある.また,一次性頭痛では慢性群発頭痛や慢性発作性片側頭痛,二次性頭痛では脳脊髄液減少症や特発性頭蓋内圧亢進症など,慢性に経過し連日性に頭痛を呈する疾患も忘れてはならない. -
頭痛への心身医学的アプローチ
243巻13号(2012);View Description Hide Description頭痛の発症や慢性化には心理社会的因子が関与していることが多い.慢性頭痛と心理的ストレスとの関連は以前から指摘されてきたが,近年ではうつ病,躁うつ病などの気分障害やパニック障害,全般性不安障害,強迫性障害などの不安障害との随伴率の高さが注目されている.その他,うつや不安の部分症状としての頭痛や身体表現性障害としての頭痛もあり,鑑別に注意を要する.心身医学的な評価には,質問紙のほか,詳細な患者プロフィールが参考となり,薬物療法としては心理社会的要因を考慮した薬剤の選択が求められている.慢性頭痛に対する非薬物療法として認知行動療法が評価されつつある.頭痛に関する行動療法的なアプローチとしては,バイオフィードバック療法,自律訓練法,漸進的筋弛緩法などが一般的である. - 二次性頭痛の診断と治療
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頭頸部外傷による頭痛
243巻13号(2012);View Description Hide Description『国際頭痛分類第2 版』に分類されている頭頸部外傷による頭痛について,自験例4 例を提示して解説する.その頭痛の特徴としては,外傷を契機に発症すること,性状には特有なものがなく緊張型頭痛類似の頭痛が8 割を占めること,持続期間から3 カ月を境に急性と慢性に分けられる,などである.当院の9 年2 カ月の頭痛患者20,190 例のうち,この頭痛に該当したのは88 例で全体の0.4%と,むしろまれな頭痛ともいえる.そのなかで5.3 と5.4 のむち打ち損傷による頭痛の頻度がもっとも多く69 例で,約8 割を占めた.なかでも症例3 に提示したように,頭痛が慢性化するときには心理的要因も関与することが多く,抗うつ薬などが必要な症例があることも念頭におくべきである.頭頸部外傷による頭痛は外傷を契機にしていることで診断はむしろ容易であるが,頭蓋内血腫(とくに慢性硬膜下血腫)が原因となっていたり,長期化して治療に難渋する症例も少なからずあるため,けっして侮れない頭痛タイプであることを強調したい. -
頭痛と脳血管障害
243巻13号(2012);View Description Hide Description脳血管障害における頭痛の代表例は,破裂脳動脈瘤のくも膜下出血(SAH)発症時の頭痛であり,突然発症かつ“生涯で感じたことがない頭痛(worst headache of life)”や“雷鳴頭痛(thunderclap headache)”と表現される.そのような頭痛で発症するのは約80%であり,診断が遅れることのないよう注意が必要である.さまざまな原因によって起こる頭痛と可逆性の脳血管攣縮を伴う病態を可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)という.脳神経外科領域では,未破裂脳動脈瘤のクリッピングやコイル塞栓術後にまれに生じる脳血管攣縮が含まれると思われる.その頭痛の機序として,trigemino-cerebrovascular system の関与が示唆されている.片頭痛やその前兆の機序として最近では大脳皮質拡延性抑制(CSD)が注目を浴びている.近年,CSD がSAH 後に高率に出現し,脳血管攣縮期の虚血性合併症に影響している可能性が示唆されており,CSD が引き起こす脳血管に及ぼす影響に関する今後の研究が期待される. -
脳腫瘍による頭痛
243巻13号(2012);View Description Hide Description頭痛はかならずしも脳腫瘍に必発の症状ではないが,脳腫瘍における頭痛の存在は臨床的に重要である.脳腫瘍による頭痛の発現機序については,①腫瘍自体による機械的刺激,局所の牽引性頭痛,②水頭症,腫瘍性脳浮腫,腫瘍内出血などの病態の存在による遠隔性の牽引性頭痛,③くも膜下腔への出血や腫瘍内容物の漏出に伴う髄膜刺激による炎症性頭痛,をあげることができる.脳腫瘍および並存する病態の臨床的診断はCT,MRI の画像手段により容易である.脳神経外科医は画像診断をもとに頭痛の原因である腫瘍の外科的摘出が肝要となり,その外科的治療戦略に集中することになる.外科的摘出は頭痛の原因除去および頭蓋内圧亢進の減圧効果につながり,頭痛の軽減を生むため,ともすれば脳腫瘍に伴う頭痛などの症候学的側面が軽視される傾向にあるが,最近,術後および後療法により生じる頭痛の存在が患者のQOL に影響することが指摘されている.脳腫瘍による頭痛患者の対応には,多科にわたる頭痛の多様性の理解と協力が必要である. -
感染に伴う頭痛
243巻13号(2012);View Description Hide Description頭痛はありふれた症状のひとつであるが,ときに重篤で生命を脅かすこともある“感染症”の初発症状や先行症状となることがある.感染症による頭痛を呈する基礎疾患の症候はさまざまで,軽度の局所神経症候から重篤な意識障害までと幅がある.迅速に頭痛のタイプを同定することは全体像を正確に把握するための第一歩であり,早期診断を可能にする.最初のアプローチはまず,①初診時の頭痛の臨床的特徴(頭痛の性状,痛みの持続時間や頻度,痛む部位)の評価と,②局所神経徴候や脳症・頭蓋内圧亢進徴候の有無を含めた総合的な臨床像の評価である. -
ホメオスターシスの障害による頭痛
243巻13号(2012);View Description Hide Description『国際頭痛分類第2 版』の二次性頭痛のグループ10 に分類された“ホメオスターシスの障害による頭痛”は,従来“代謝性または全身性疾患に伴う頭痛”とよばれていた頭痛であり,低酸素血症あるいは高炭酸ガス血症による頭痛,透析頭痛,高血圧性頭痛,甲状腺機能低下症による頭痛,絶食による頭痛および心臓性頭痛を包括する概念である(表1).初発あるいは既存の一次性頭痛が著しく増悪し,新規の頭痛の発症あるいは増悪時期がホメオスターシスの障害と一致している場合,その頭痛は“ホメオスターシスの障害による二次性頭痛”とコード化する.確定診断には,「ホメオスターシスの障害が軽快した後,その頭痛が消失あるいは著明に改善することが必要である」と定義されている. -
整形外科からみた頸椎疾患由来の頭痛―頸性頭痛
243巻13号(2012);View Description Hide Description上位頸椎疾患は頭痛の原因になりうる.本稿では,環軸関節不安定症,環椎後頭関節不安定症,そしてCrowned dens syndrome に伴う頭痛について症例を呈示した.頸椎から頭部へ痛みが放散するメカニズムについては,上位頸神経と三叉神経がともに上位頸髄部に集束することから,関連痛として両部位に痛みを感じる.中下位頸椎疾患も頭痛を惹起するが,その機序は不明である.頭痛,肩こり,腰痛は合併しやすい症状であり,部位は異なっていても,病態は類似している可能性がある.頸椎アライメントが頸部痛や肩こり,頭痛と明らかに関連するとはいえない.整形外科ではあまり注目されてこなかった頭痛であるが,頻度は決して低くなく,今後その病態解明を進めていく必要がある. -
口腔顔面痛―国際頭痛ICHD-Ⅱに分類されているOrofacial pain
243巻13号(2012);View Description Hide Description口腔顔面痛(orofacial pain)とは三叉神経領域の疼痛全般を指し,さまざまな病態が含まれている.頭痛は主として三叉神経分布領域の病態によって生じることから,口腔顔面痛と密接な関連があり,鑑別診断が求められる代表的疾患である.口腔顔面痛のなかで,国際頭痛分類ICHD-Ⅱで頭痛との関連が示されている疾患として第2 部 二次性頭痛として「11.6 歯,顎または関連する組織の障害による頭痛」,「11.7 顎関節症による頭痛または顔面痛」および,第3 部 頭部神経痛,中枢性・一次性顔面痛およびその他の頭痛として「13.頭部神経痛および中枢性顔面痛」の三叉神経痛について診断基準をあげ,頭痛の発生について解説した.また近い将来,世界標準の顎関節症診断基準となる“Research Diagnostic Criteria of TMD”(RDC/TMD)に書かれているTMD による頭痛に関する診断法について解説した. -
眼と頭痛―目は頭痛の交差点
243巻13号(2012);View Description Hide Description眼疾患のなかには頭痛を主訴とするものがあり,総合内科あるいは神経内科を初診する場合があり,また一方で眼症状と眼痛・頭痛とを伴うため眼科にまず受診する眼疾患以外の疾患の場合もある.眼疾患による眼痛・頭痛では三叉神経を介しての関連痛・放散痛であり,視力障害・眼球運動障害をきたす眼疾患以外の疾患では三叉神経を直接刺激する頭痛・眼窩部痛をきたすことが多い.それぞれについて頻度の高い疾患と,頻度は低いが失明や生命予後に重大な結果を残す疾患について概述する. -
耳鼻科領域の頭痛
243巻13号(2012);View Description Hide Description耳鼻咽喉領域には三叉神経,迷走神経,舌咽神経など頭痛の原因となる多くの知覚神経があり,頭痛は耳鼻科外来受診者で比較的多くみられる症状である.原因としては鼻副鼻腔疾患がもっとも多い.頻度の低い耳鼻咽喉疾患については検討がなされていないことがあるので,頭痛の診療では十分な問診と身体所見・耳鼻咽喉所見の観察を行い,適切な画像検査へとつなげていくべきである.鼻副鼻腔疾患による頭痛が疑われた場合,画像診断としては単純X 線検査ではなくCT が推奨される.耳鼻科領域の頭痛はICHD-Ⅱでは二次性頭痛となるが,ICHD-Ⅱでは頭痛を起こしうる器質的疾患が存在しても,頭痛の発現と当該疾患とが時間的に一致しなければ一次性頭痛とみなしている.副鼻腔炎が頭痛の原因とみなされていたが実際には片頭痛や緊張型頭痛であった例がかなりあることが指摘されており,耳鼻科領域の頭痛についても診断はICHD-Ⅱの基準に従って行う必要がある. -
ペインクリニックにおける頭痛診療
243巻13号(2012);View Description Hide Description全身のあらゆる痛みを対象とするペインクリニックにおいても頭痛は重要な診療対象であり,正確な診断をもとに痛みの本質を見据えた治療を行う.ペインクリニックでも多くは一次性頭痛であるが,二次性頭痛は脳神経も含め症状が多岐にわたり,放置すれば予後が重篤であることも多い.とくに,下垂体・海綿状脈洞近傍の疾患は,複雑にⅢ-Ⅵ神経症状を呈することが多く注意を要する.診断には国際頭痛分類(ICHD-Ⅱ)が非常に有用である.治療に関しては,二次性頭痛に対して原疾患の治療となる.一次性頭痛の多くは,トリプタンを中心とする頓挫療法と予防療法で対応するが,慢性頭痛に対しては2010 年からボツリヌス毒素が予防薬として臨床使用されている(アメリカ,イギリス).また,難治性一次性頭痛には神経ブロック,経頭蓋的磁気刺激療法(TMS)の有効性が報告されている. - life cycleと頭痛,その他の話題
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女性の頭痛
243巻13号(2012);View Description Hide Description20~40 歳代の性成熟女性において,片頭痛の有病率は約5 人に1 人と高い.女性ホルモンであるエストロゲンは片頭痛と関連があり,片頭痛の病態は月経,妊娠・分娩,経口避妊薬の服用,更年期などライフステージの変化によって影響を受ける.月経に関連した片頭痛は女性片頭痛患者の約6 割にみられるが,重症度が高く,治療に難渋することが多い.また妊娠・授乳期の片頭痛の管理や,経口避妊薬の使用について,更年期のホルモン補充療法の片頭痛患者への適応などは,実臨床で相談を受ける場面によく遭遇する.本稿では女性のライフステージの変化と片頭痛との関連,およびその管理について概説する. -
小児・思春期の頭痛―生活支障度の高い頭痛を中心に
243巻13号(2012);View Description Hide Description小児科領域において生活支障度の高い頭痛は,片頭痛といわゆる慢性連日性頭痛(CDH)である.小児の片頭痛は軽いものが多いが,強い頭痛や毎回嘔吐を伴う頭痛は生活支障度が高く,治療が必要となる.生活指導などの非薬物療法が第一に勧められるが,薬物治療も必要なことが多い.小児片頭痛においてエビデンスがあるのは,急性期治療薬ではイブプロフェン,アセトアミノフェン,スマトリプタン点鼻薬,予防薬ではトピラマートである.過去に片頭痛の経験のある小児が,思春期になってCDH になることがある.慢性片頭痛として治療されていることが多いが,治療に抵抗し,不登校など社会的不適応を伴うことも多い.この場合,心理社会的要因が関与し,片頭痛に慢性緊張型頭痛や精神疾患が共存していると考えられる.小児の頭痛に対しては,子どものおかれた背景を考えながら,発達と成長を支える診療体制が望まれる. -
高齢者の頭痛
243巻13号(2012);View Description Hide Descriptionすでに高齢化社会に突入して久しいわが国の医療現場では,高齢の頭痛患者の診療を行う機会も増えている.高齢者で初めて頭痛が出現した場合には二次性頭痛である頻度が高く,画像検査にてくも膜下出血,慢性硬膜下血腫などの重篤な頭蓋内器質性疾患の否定をまず行うことが重要である.その他にも膠原病,呼吸不全,精神疾患や神経痛など多彩な疾患が頭痛の原因となりうるため,徹底的な検索が必要となる.一方,一次性頭痛,とくに片頭痛や群発頭痛は加齢に伴い頻度は減少するが,緊張型頭痛は高齢者にも多く認められる.これらの症候および臨床的特徴は若年者と比較して変容することが知られており,診断時には注意が必要である.いずれの場合も高齢者における頭痛診療では他の疾患と同様,一人の患者における複数の疾患の存在,若年者とは異なる臨床症状の出現,薬剤に対する非特異的な反応などの加齢に伴う特徴に留意しながら,診断・治療を行わなければいけない.また,環境・生活背景や精神的要因も頭痛の臨床経過に影響を及ぼすことが考えられ,配慮が必要な場合がある. -
あだ名のついた頭痛
243巻13号(2012);View Description Hide Description入浴関連頭痛は入浴あるいは温水シャワーなどで瞬時に生じる雷鳴頭痛である.ときに排便・排尿などでも生じる.数週間の間,発作を繰り返すが自然消失する,アジア人女性に特有の頭痛である.一部で可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)にみられる頭部MRI/MRA 所見が報告されている.『国際頭痛分類2 版』には記載されていないが,それほどまれな頭痛ではない.入浴,温水刺激に伴う自律神経反射が誘因として推測されている.飛行機頭痛は飛行機搭乗時,とくに90%近くは着陸時に生じる片側前頭部から眼窩周辺の高度な頭痛である.随伴症状,流涙,鼻汁,結膜充血は伴わない.搭乗するといつも頭痛を生じる例から時に生じる例まで多様である.20~30 分で自然軽快し搭乗前の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)内服が半数以上で予防に有効とされる.アイスクリーム頭痛は外因性寒冷刺激,あるいは冷たいものの摂取による頭痛で,寒冷に対する過敏性が頭痛の原因と推測されている.寒冷刺激除去後通常5 分以内に消失する.両側性・非拍動性で軽度のことが多い.急激な寒冷刺激に伴う関連痛の可能性,寒冷刺激に伴う血管収縮とその後の血管拡張による血管周囲の炎症を介する機序が推測されている. - ホットトピックス
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片頭痛と脳卒中―片頭痛は脳卒中のリスクとなりうるか
243巻13号(2012);View Description Hide Description片頭痛と脳卒中の関連については古くから関心が寄せられている.ごく最近の研究では,若年女性で前兆のある片頭痛患者において,将来,脳梗塞を起こすリスクが高いようである.さらに喫煙や経口避妊薬などが加わればリスクは増大する.しかし,前兆のない片頭痛や男性に関しては,今のところ明らかなエビデンスがないようである.片頭痛は,高血圧,糖尿病,脂質異常症,心疾患などの確立した脳卒中のリスクに比べれば,はるかに影響の少ない因子であり,実質的なリスクでないと考えるのが妥当であろう.片頭痛患者においても,他の患者同様,日々の健康管理,生活習慣の改善が脳卒中予防において重要と考えられる. -
片頭痛の治療新薬―選択的5-HT1F 受容体作動薬やCGRP受容体アンタゴニスト
243巻13号(2012);View Description Hide Description現在注目を浴びている片頭痛の新規治療薬のおもなものとして,選択的セロトニン5-HT1F受容体作動薬とカルシトニン関連遺伝子ペプチド(CGRP)受容体アンタゴニストの2 つがあげられる.選択的5-HT1F受容体作動薬であるラスミディタンは静注および経口投与による臨床研究において,片頭痛急性期の発作に対し有意に効果を示すことが明らかにされている.さらにCGRP 受容体アンタゴニストでも片頭痛に対する有効性が証明されている.また,A 型ボツリヌス毒素は慢性片頭痛に予防効果を示すことが明らかにされ,アメリカ食品医薬品管理局はA 型ボツリヌス毒素の慢性片頭痛に対する使用を認可している.本稿はこれら片頭痛の新規治療薬について概説するものである. -
特発性低髄液圧性頭痛(低髄液圧症候群)
243巻13号(2012);View Description Hide Description特発性低髄液圧性頭痛(低髄液圧症候群)は脳脊髄液の漏出により頭痛やめまいなどを引き起こす疾患で,70 年以上も前にその疾患概念が提唱されている.その後,同様の症状を呈しても低髄液圧でない症例が存在するとの理由で“脳脊髄液減少症”の名称が提唱されたが,臨床像に異なる点も多く,疾病の定義に混乱が生じている.さらに,脳脊髄液減少症と交通外傷の因果関係が社会問題化し,その臨床像と診断基準を明確にすることが求められていた.このような状況のもと,2007 年度から厚生労働科学研究費補助金を受けて「脳脊髄液減少症の診断・治療法の確立に関する研究(研究代表者:嘉山孝正)」が開始され,2011 年,わが国の本症候群に関連する学会の承認を受けた画像判定基準・画像診断基準を公表した.本稿では,以上のようなこれまでの歴史を振り返りながら,低髄液圧症候群,脳脊髄液減少症,脳脊髄液漏出症についての現時点での診断・治療の考え方を概説する. -
厚生労働省と折衝して認められた治療法―バルプロ酸による片頭痛予防とスマトリプタン在宅自己注射
243巻13号(2012);View Description Hide Descriptionすでに発売されている薬品のなかには保険適用ではないが,ある種の疾患に効果があるものも少なくない.これらの薬品には製薬会社による治験が改めて実施され,適用追加を取得するものも一部にあるが,種々の事情により治験が行われず放置されているものが多い.これらの薬品あるいは適用以外の使用が必要なものについて各学会・患者会が適用可能となるように努力をしている.その方法として,①内科系保険団体連合(内保連)や外科系保険団体連合(外保連)で検討し厚生労働省(厚労省)に要望すること,②公知申請,③医師主導の治験,④患者団体からの要望,などがある.日本頭痛学会が日本神経学会,日本神経治療学会などと協力し,最近10 数年間に適用した薬品や治療法を取得した代表的なものとしては,公知申請によるバルプロ酸の片頭痛予防治療の適用取得とスマトリプタン在宅自己注射がある. -
災害と頭痛―東日本大震災後の頭痛診療の経験から
243巻13号(2012);View Description Hide Description2011 年3 月11 日14 時46 分,東日本大震災が発生.2012 年9 月現在で地震および津波の人的被害は,死者15,870 人,行方不明者2,814 人に上り,東北・関東の太平洋側の広大な範囲で漁業,農業などの産業や家屋,公共土木施設にも甚大な被害を及ぼした.大地震,大津波とそれに続く福島第一原子力発電所の事故は,その地域に住む人びとの生活を一変させた.とくに高齢者や児童,慢性疾患患者などへの影響は,健常人よりもさらに大きいものであったことが予想される.Common な慢性疾患のひとつである頭痛患者における震災の影響はどのようなものであったのであろうか.また,地震大国である日本において今後も避けることのできないと思われる,災害時の慢性頭痛患者における心身への影響を最小限におさえるためにはどうしたらよいのか.自験例の経験も含めて,震災から約1 年半後の現時点での知見を述べる.
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