医学のあゆみ
Volume 244, Issue 13, 2013
Volumes & issues:
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【3月第5土曜特集】 循環器病学における臨床研究―いかに確実に臨床に還元するか
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- わが国における臨床研究の現状
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わが国の臨床研究の現状と未来
244巻13号(2013);View Description Hide Description一口に臨床研究といっても,そのめざすところは多様である.臨床研究には,新医療開発のためのトランスレーショナル研究,臨床現場におけるクリニカルクエスチョンに仮説を立てて検証し,ひいてはエビデンスに基づく医療を実践するための臨床疫学研究,薬剤疫学などの範疇で,医療や薬剤の費用対効果を測定する比較効用性研究,患者個人に対する治療の選定にもかかる患者中心アウトカム研究など,すべてが重要な臨床研究の領域となっている.本稿では,これらについて世界および日本の動向を概説する. -
血管内イメージングの臨床研究
244巻13号(2013);View Description Hide Description虚血性心疾患の診断の標準であった冠動脈造影ではわからなかった不安定プラークや正確な狭窄度を明らかにできた血管内イメージングの進歩はめざましく,診断や治療を大きく変えるものであった.Flow wire による機能的狭窄度の評価に基づく冠動脈インターベンション(PCI)は予後を改善させることを示し,IVUS による血管内腔のプラーク分布の情報はPCI をより効果的に行うのに有用であった.さらに,冠動脈内で軽度の狭窄にある不安定プラークから急性冠症候群発症への移行を阻止するために不安定プラークを退縮あるいは安定化させることの重要性を示唆する所見を示した.しかし,あくまでサロゲートマーカーでしかなく,血管内イメージングが診断として有用であることは認められているものの,予後を改善させたというエビデンスは示されていない.今後は血管イメージングを用い,アウトカムを調べる臨床試験でその有用性を示す必要がある. -
わが国における循環器領域の医薬品開発の現状と今後の展望―審査の立場から
244巻13号(2013);View Description Hide Description近年,国際共同治験を用いた新薬の開発は増加しているが,なかでも循環器領域は有効性の検証に大規模臨床試験を要する場合が多く,国際共同治験の実施される代表的な領域のひとつとなっている.心房細動(AF)患者に対する抗凝固薬の開発でも国際共同治験の利用が多いが,治験に含まれる日本人症例数が非常に少なく,かつ民族差が想定される領域であるために,承認段階での日本人における有効性と安全性の評価には限界がある.そのような状況下ではいかに効率よく実臨床に活かせるデータを収集するかが鍵であり,初期段階から日本も国際共同開発に参加し,民族的要因に関する検討を行ったうえで,国際共同治験に参加するか,国内で別途臨床試験を実施するのかの選択を含めて,最適な開発戦略を立てることが重要である.そのためには,臨床現場の医師や臨床研究者の治験への深い理解と,より積極的な協力が不可欠である.さらに,医薬品リスク管理計画(RMP)が2013 年4 月より開始予定であるが,今後一段とこのような医薬品の安全対策の強化と,市販後情報の適切な臨床現場へのフィードバックが求められていくものと思われる. -
わが国の医療機器開発における現状と今後の課題
244巻13号(2013);View Description Hide Descriptionデバイスラグを解消するため,産官学が協力して取り組んできた試みとその成果について紹介する.このような取組みがなされてきた結果,循環器領域におけるデバイスラグは解消しつつあると考える.一方,医療機器の特性,多様性のため,医療機器の有効性と安全性をどのように評価すべきかについてはいまだ一定の見解が定まらず,意見が分かれるところもある.産官学で相互理解を深め,臨床研究も含めた医療機器開発戦略,適切な医療機器評価などについて議論を深めていくことが,日本における医療機器開発を促進させるために重要であると考える. -
厚生労働省の視点からみた先進医療の成果の活用
244巻13号(2013);View Description Hide Descriptionわが国は世界に先駆けてヒトに初めて薬剤・機器などを使用する臨床研究の体制が十分とはいえず,基礎研究成果が日本発であっても,インフラの整った海外で先行して実用化された後,遅れて日本に導入されることが多い.PMDA の審査スピードを改善させるだけでは,ドラッグラグ,デバイスラグは根本的には解決されないことは明らかである.血税が投入された日本発のシーズであるにもかかわらず,日本国家がその恩恵を受けられない状況では,税の負担者である患者・国民の理解は得られない.わが国の基礎研究の革新的な成果を,将来的には広く国民が一般診療でいち早く享受可能とするためには,臨床研究基盤を整備することが必要であり,それと合わせてレギュラトリーサイエンスを推進し,先端的開発に対応できる審査体制の強化,ガイドラインの整備,治験・先進医療の手続きの効率化と一体的運用を図ることが,わが国の社会保障制度のsustainability に資するものと考えられ,世界的なpublic health の向上にもつながるものと思われる.ライフイノベーションにおける厚生労働省の一体的な取組みのなかでの先進医療制度改革について紹介したい. -
トランスレーショナル研究開発に向けた文部科学省の取組み
244巻13号(2013);View Description Hide Description文部科学省では,大学などでの基礎研究成果の実用化を重視しており,トランスレーショナル研究(橋渡し研究)開発の推進を目的として,平成19 年度(2007)から「橋渡し研究推進プログラム」,平成24 年度(2012)から「橋渡し研究加速ネットワークプログラム」を実施している.これらの事業において,トランスレーショナル研究開発を実施する研究者を支援する人材,設備を有する拠点を整備し,その拠点が実際にトランスレーショナル研究開発を支援して基礎研究の成果をひとつでも多く実用化に結びつけることをめざす取組みを行っている.日本では,世界一流の基礎研究の成果を革新的な医薬品・医療機器の創出に結びつけ,それを成長産業とすることをめざして省庁横断的に取り組んでいるところであり,文部科学省は上記の施策によってその取組みの一翼を担っているところである. -
わが国における医師主導治験の現状と課題
244巻13号(2013);View Description Hide Description平成14 年(2002)7 月の薬事法改正により,従来は企業しか行えなかった治験を医師・歯科医師が自ら企画・実施することが可能となった.これがいわゆる医師主導治験である.医師主導治験は,採算性の問題から企業が積極的に開発しない医薬品および医療機器でありながら,外国で治療の有効性・安全性が確立されている国内未承認,あるいは国内で承認されているが“適応外使用”が一般的となっている医薬品および医療機器について,医師自らが治験を実施して薬事法上の承認を取得することにより医療の質の向上につながるとして期待を集めている. - わが国の臨床研究を支援する組織
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国立循環器病研究センターの臨床研究支援部門
244巻13号(2013);View Description Hide Description国立循環器病研究センターは,治験とともに自主臨床研究の支援を行う部署を2004 年から設置し,生物統計家を含む各種専門スタッフによる支援体制を整備・構築してきた.平成19 年度には“治験活性化5 カ年計画”における中核病院として,平成23 年度からは全国5 施設の早期・探索的臨床試験拠点のひとつとして,その責務を全うすべくさらに整備を進めている.企業治験においては手続きの効率化,被験者組入れの迅速化など依頼者の負担軽減を図る方向で,自主臨床研究においては科学的品質の向上と被験者保護を強化する方向で,それぞれ整備を行ってきた.この活動を通して,医学研究においてはアカデミアと民間企業がそれぞれ独立した役割を有しており,公的資金と民間資金が目的を明確にしたうえで投入される必要があると感じる. -
未来の医療技術を創り育む―大阪大学医学部附属病院未来医療開発部の取組み
244巻13号(2013);View Description Hide Description大阪大学医学部附属病院に設置された未来医療開発部は,アカデミアの医療技術シーズの実用化のための橋渡し研究や新規医薬品・医療機器の臨床試験を通じた実用化を一元的にサポートする未来医療センターと,介入臨床試験や分析研究のデータマネジメント,統計解析を独立して総合的に支援するデータセンターで組織されている.この2 つが有機的に連携して,特定機能病院の責務である“高度な医療技術の研究・開発”を統合的・効率的に支援している.大学などのアカデミアや医薬品・医療機器の企業の高度な研究が生み出す未来の医療技術を確実に実用化に結びつけ,難病の克服やわが国の喫緊の課題である高齢化対策など国民の健康に貢献していくとともに,医療イノベーションを起こす原動力となって医学・医療の未来を創造していくことをめざす. -
臨床開発基盤の強化と臨床試験合理化への挑戦―臨床研究情報センターにおける橋渡し研究推進と臨床試験支援
244巻13号(2013);View Description Hide Description難治性疾患の制圧をめざし,新規医薬品・医療技術開発の国際競争はますます激しさを増している.とりわけ,再生医療技術の潜在的有用性がつぎつぎと明らかになり,従来の疾病概念は大きな変貌を遂げつつある.また,そうした技術の実医療化が現実のものとなり,創薬の概念と医療技術開発の戦略は必然的に変革を迫られつつある.一方で,医薬品・医療技術の研究・開発はますますグローバル化し,臨床試験の電子化・標準化の流れが加速している.未曽有の高齢化社会に突入するわが国にとって,健康寿命の延長と疾病による社会負担の軽減は国家的な課題であり,以前にも増して効果的な診断・治療・予防法の開発が求められよう.そうした時代の要請に答えるためには最新の科学に照らして疾病を理解し,戦略的に開発を進める必要がある.また,臨床試験の合理化・IT 化を強力に進めなくてはならない.本稿では,アカデミアにおける臨床開発基盤の強化と臨床試験合理化に向けた臨床研究情報センターの取組みを紹介する. -
京都大学における臨床試験支援―データセンターの機能と役割
244巻13号(2013);View Description Hide Description京都大学において医師主導臨床試験を支援してきた組織として,探索医療センターとEBM 研究センターがある.両センターとも2001 年に設置され,探索医療センターはおもに未承認医薬品・医療機器あるいは再生医療関連の早期探索的臨床試験を支援し,EBM 研究センターはおもに市販後医薬品の大規模臨床試験やアウトカム研究を支援してきた.本稿では,探索医療センターのデータマネジメント・統計解析業務を担う探索医療検証部について紹介し,医師主導臨床試験におけるデータセンターの役割,とくに生物統計学に基づく統計的方法論の開発とデータマネジメント,モニタリングを中心とした品質管理の体制について述べる.生物統計家,データマネジャー,モニターを含む臨床試験を支援する人材の育成とキャリアパスの形成はアカデミアにとって最大のテーマであり,体制整備と連動した人材育成プログラムの構築と臨床試験支援人材の安定雇用の確立が急務である. -
東京大学医学部附属病院臨床研究支援センター―早期・探索的臨床試験から市販後の臨床試験までのシームレスな支援体制
244巻13号(2013);View Description Hide Description東大病院では1998 年以来,治験を含む臨床試験の一元管理の体制を整備してきた.また,2001 年に臨床試験部を発足させ,国際的に通用する臨床試験を実施できるようにICH-GCP を準用した支援体制を平成14年度(2002)に構築し,手順や手引きなどを公開してきた.さらに,近年はアカデミア主導の臨床開発の重要性やデータ管理などの品質管理の重要性が増し,Academic Research Organization(ARO)機能を有する中央管理ユニットを2010 年に,早期臨床試験を実施するphaseⅠユニットを2012 年に整備した.これらにより,シーズから市販後の臨床試験までシームレスに支援する体制が構築された.現在は医師主導の治験や先進医療B,再生医療などの開発型の支援を行う一方,市販後の多施設共同の大規模臨床試験(4 群,600 症例)などの実施を支援している.今後さらに実績を積み,自立化へ向けた整備を行っているところである. -
大学における臨床研究支援組織―慶應義塾大学の経験から
244巻13号(2013);View Description Hide Description治験に関する支援組織の整備に続いて,治験以外の広義の臨床研究全般に対する支援機能が,国際水準の臨床研究の企画・運営には求められる.とくに日本の医療従事者のおかれた過酷な環境のなかで高質の研究を遂行するには,支援機能の充実は不可避であるが,元来こうした支援人員は日本には乏しく,産学連携の問題や財政難も相まって支援組織の整備は困難を極める.慶應義塾大学医学部では5 年あまり検討を重ねてどうにか支援組織を整えてきたが,複雑化・巨大化・国際化する臨床研究に対応するにはなお不十分であり,他の先進国は無論のこと,韓国,シンガポールの同様の組織に比べてもなお立ち遅れている.本稿では慶應義塾大学医学部での経験をもとに,臨床研究支援組織の諸課題について概観する. -
AROとして活動開始した千葉大学医学部附属病院臨床試験部
244巻13号(2013);View Description Hide Description千葉大学は2012 年,臨床研究中核病院に指定された.ARO として5 つの試験のトラック,すなわち,先進医療,医師主導治験,ARO 主導国際共同試験,創薬,製造販売後第Ⅳ相試験の4 種類に関して試験を展開していくのであるが,明確なゴールをめざした試験が行われるためには研究者とARO チームの連携が重要である.本稿では,具体的な事例(サクセス研究とJ-POST)をあげてその取組みを示す.現在,本学では研究者と専門職員の教育育成として大学院などでの教育を開始するとともに,そのための組織の構築を行い,AROとして臨床試験の5 つのトラックが実践可能となる体制を整備している.このような取組みにより千葉大学のみならず,多くの施設と連携したエビデンスの発信とその成果を社会へ還元することをめざす. - 臨床試験を運営するために必要な組織
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中央事務局
244巻13号(2013);View Description Hide Description近年,臨床試験の計画・実施・評価・結果公表に関する国際的な要求水準はますます高くなってきた.これは被験者保護ならびに医療の進歩のために必要なことであるが,わが国では既存の臨床試験実施体制への挑戦でもある.研究者主導の臨床試験において,実施体制整備の実務上の重責を担うのは当該試験のヘッドクオーターとなる“中央事務局”であることが多い.中央事務局の役割には,臨床試験の品質管理・品質保証のための“管理的な側面”と試験の円滑な遂行を促進する“支援的な側面”がある1).本稿では実施医療機関とは別の第三者的な立場から研究代表者を支援する中央事務局の役割について,著者が所属する北里大学の臨床試験コーディネーティングセンターにおける取組みを例に概説する. -
研究者主導臨床研究におけるモニタリング―わが国の臨床研究に欠落しているモニタリングをどうするか
244巻13号(2013);View Description Hide Description国際的に評価される臨床研究を実施するためには,GCP に準拠してモニタリング,監査を実施する必要がある.臨床研究の実施における品質管理については,その臨床研究ごとにリスクを評価し,リスクに応じた管理方法の検討が必要であり,製造販売承認された医薬品を用いて臨床研究を実施する場合,そのリスクは低く,モニタリングに関しても中央モニタリングを採用し,効率的な臨床研究を実施することが可能である.中央モニタリングは臨床研究全体としての効率性は高いが,研究機関においてモニタリング(SDV)・監査への対応を実施する必要がある.また,モニターがGCP・実施計画書の遵守状況を確認できないので,研究責任者および協力者のGCP 教育の充実や研究機関における体制整備が必須である.今後,日本における臨床研究を推進するためには,臨床研究の目的を明確にし,リスクに応じた品質管理方法を検討すること,および臨床研究実施体制の強化が重要と考えられる. -
臨床研究の質向上に必要なデータマネジメントの役割
244巻13号(2013);View Description Hide Description臨床研究の質は治験に比べるとやや劣るというイメージがある.しかし臨床研究の結果・結論がエビデンスとして実際の診療に活用されるということを考えると,研究結果・結論に対する科学的な信頼性は重要であり,科学的な信頼性を保証するためには品質管理・品質保証されていることが必要となる.臨床研究において発生しうる“系統的エラー”と“ランダムエラー”を認識したうえで,これらを排除・制御することを考えたとき,臨床研究により収集されるデータに対して品質管理・品質保証を担うデータマネジメントの必要性は高く,臨床研究においてもデータマネジメントがしっかりと機能することにより,研究結果・結論の質,すなわち科学的な信頼性の向上が期待される. -
臨床研究コーディネーターによる臨床研究の実施支援
244巻13号(2013);View Description Hide Description臨床研究の実施・運営のためには,臨床研究コーディネーター(CRC)の参画が欠かせない.CRC は臨床研究支援のなかで科学性・倫理性を確保しながら,臨床研究がよりスムースに運営されるようにコーディネートする役割を担っている.研究デザインによってその業務の実際は異なるが,被験者の保護を中心に据えた視点で臨床研究の支援をすることが,CRC が臨床研究に参画する大きな意義である.CRC はこれまでの業務の枠を超えて臨床研究運営のなかで活動の場を広げている.CRC は“研究者の支援者”ではなく“研究の支援者”である自立(自律)した存在として,その役割を遂行することが必要である. -
臨床研究ネットワーク:循環器臨床研究ネットワーク構築の重要性
244巻13号(2013);View Description Hide Description数多くの臨床試験が行われるなかで,それぞれの臨床試験が研究者ごとに企画,運営,解析され,それで終了となることが多い.しかし,その臨床試験のノウハウはたいへん貴重であり,いったん構築された組織は,別の臨床試験にも十分な役割を演じることが期待される.そこで,臨床試験におけるプロトコール作成,データマネージメント,モニタリング,統計解析などを共有して行う臨床研究ネットワーク構築の必要性が高まっている.臨床研究ネットワークは臨床研究の運営コスト削減にも寄与すると考えられる.わが国では臨床研究ネットワークはがん領域において整備が進んでいる. - 臨床研究をデザインするうえで知っておきたい知識・最新トピックス
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臨床研究を計画する際に考慮すべきことは?
244巻13号(2013);View Description Hide Description臨床研究の計画段階は,臨床研究の成果を創出し,さらにその成果の質を上げるうえで重要である.しかし,研究者主導の臨床研究では計画段階で十分な検討をされず行われるケースもある.臨床研究は計画~結果を得るまでに数年以上の期間を必要とすることも少なくない.臨床研究の実施途中や解析結果後に,研究設計のミスなどでやり直すことはできない.そのため,臨床研究の計画段階はたいへん重要である.臨床研究の計画段階で考慮すべき点は多々あるが,その中でも研究の目的を明確にし,実現可能性を意識して研究設計することが必要である. -
臨床試験はどのようにデザインするのか―試験デザインで考慮すべきこと
244巻13号(2013);View Description Hide Description臨床試験はヒトを対象とした実験研究であり,倫理的要請を満たし,科学的妥当性と経済的合理性を満たすように試験デザインを選択する.デザインの選択にあたっては,医学的観点から目的,対象集団,試験治療と対照,観測・評価変数,そして研究の全体計画のなかでの当該試験の役割,および試験が探索的段階に位置づけられるか,仮説の検証を目的とするかを明らかにする.これらの内容に基づいて群構成と対照群,盲検化と無作為化の方法,統計解析法,被験者数などを決定する.被験者数は試験で明快な結論が得られるために十分であると同時に,最小限の数とすることが必要である.しかし,被験者数設定に用いうる情報の量と質により求められる被験者数の信頼性が異なるため,状況に応じて中間解析を伴う逐次デザインや適応型デザインによる試験途中での被験者数の再設定を考慮するとよい. -
非劣性試験の選択―デザイン・モニタリング・統計解析における問題
244巻13号(2013);View Description Hide Description非劣性試験は簡単に解決できない多くの問題を含み,試験を成功裏に終わらせるには,試験設計からモニタリング・統計解析までの試験全体にわたる綿密な計画が求められる.安易に試験治療の有効性の評価のために非劣性試験を選択することは推奨されない.本稿では,非劣性試験とはなにかを解説しながら非劣性限界の選定,対照群の選定,試験サイズの設定,試験の実施と解析にかかわる問題点を整理する. -
First-in-Human試験の実際―立案から施行まで
244巻13号(2013);View Description Hide DescriptionFIH(First-in-Human)試験は,新薬開発において被験薬をはじめてヒトに投与する試験である.健常人を対象とすることが多く,また患者対象の場合にも治療的な恩恵はないと考えられ,被験者の安全性確保が第一の関心事となる.FIH を開始する時点で使用可能なデータは非臨床試験から得られたものに限られており,非臨床データをヒトへ外挿する際には薬物動態,薬力学,毒性学などの知識に基づいた慎重な検討が必要である.これらの検討の際には,動物モデルにおける薬理作用の発現とその特徴,複数の動物種における組織学的所見などをもとに,ヒトへの初回投与量・最大投与量などを十分な安全性マージンをもって決定していく.また安全性評価のためのバイオマーカーの検討が盛んに行われている.平成24 年(2012)には厚生労働省から「医薬品開発におけるヒト初回投与試験の安全性を確保するためのガイダンス」が発出され,わが国におけるFIHの推進が図られているところである. -
主要評価変数をどう設定するか―複数の主要評価変数の扱い
244巻13号(2013);View Description Hide Description臨床試験の主要(評価)変数は,試験の主要な目的と対比させて,先行研究や公表論文での使用実績,信頼性,妥当性を考慮して設定しなければならない.設定した主要変数の定義やその根拠は,試験実施計画書に記載しなければならない.通常の臨床試験では,主要変数を1 つ設定し,その変数に基づいて標本サイズや主解析などの試験デザインが設計される.ところが状況によっては,複数の主要変数を用いるのが望ましいことがある.そのような場合は,複数の主要変数を合成変数に統合したり,それらを同時に扱ったりする.とくに心血管疾患の臨床試験では,複数のイベントから構成される合成変数を使用することが多いが,最近の研究から合成変数の使用実態が明らかになり,その理解,解釈,報告などについて多くの問題が指摘されている.一方,複数の主要変数間の相関を考慮した標本サイズ設計やデータ解析に関する統計学的研究が進んでいる. -
イベント情報をどのように評価するか
244巻13号(2013);View Description Hide Description臨床研究で観察される患者集団の,たとえば心血管イベントなどのイベント情報が,通常どのように評価され,エビデンスにつなげられているかを概説する.臨床研究をデザインするうえでの知識という点にウエイトをおいて,イベント情報を要約する効果指標とその用途を例示する.とくに,臨床イベントを追跡する際によく起こりうる,個々に異なる観察時間をもつ状況におけるイベント回避割合と,ハザード比(HR)に関する話題をより詳しく述べる. -
アダプティブデザインをいかに適用するか
244巻13号(2013);View Description Hide Descriptionアダプティブデザインは,臨床試験のデザインに関する新しい方法論として,いまもっとも注目を浴びているものである.臨床試験を成功に導くために,必要に応じてアダプティブデザインを適切に取り込むことが重要と考えられる.本稿ではアダプティブデザインを紹介するとともに,いかにアダプティブデザインを臨床試験に適用すべきかについて論じる.アダプティブデザインはその適応可能性から,デザインに柔軟性を与え,試験を成功に導く可能性を増大させることが期待されている.しかし,現在はまだうまくこのデザイン機能を使いこなすまでには至っていないと思われる.この新しいデザインには使用経験の積み重ねが大事といわれているが,これは本デザインのもつ“危うさ”に備えることだけではなく,デザインの利点をいかに“うまく”臨床試験に取り込んで成功に導けるかの追求にも活かすべきであろう. -
アダプティブデザインとデータモニタリング委員会
244巻13号(2013);View Description Hide Description近年の大規模臨床試験では,データモニタリング委員会という組織を加えることが多い.それは途中の結果を第三者として中立に検討し,その後の試験の中止・継続・変更を実施側へ勧告する役目がある.したがって,途中段階における解析結果はデータモニタリング委員会だけにとどめ,それを口外することは禁止されている.途中結果を知ることによりさまざまなバイアスが入るためである.途中段階で実施される統計解析のことを中間解析とよび,最終解析と区別している.従来,中間解析結果は途中での試験中止のための意思決定に主として用いられてきた.統計学的見地から多くの中止基準が提案された.しかし,途中で臨床試験の計画を変更することへの応用は限られてきた.アダプティブデザインとは,まさに途中で計画変更するものであり,症例数やエンドポイントの変更などへの適用が行われようとしている. -
解析対象集団をどのように設定・解釈するか(ITT,FAS/PPS)
244巻13号(2013);View Description Hide Description臨床研究・臨床試験を実施する際には,解析対象集団の設定に注意を払う必要がある.単に解析可能な被験者のみを集めて解析対象集団にするという方針は“お作法”の問題としてではなく,科学的な結論に影響を与える/結果の解釈に影響を与えるという意味で避けるべきである.臨床試験では,事前に臨床試験実施計画書(プロトコール)を作成するが,そのなかには統計学的な事項として臨床的仮説とそれに対応する主要評価項目・具体的な統計解析手法を記す.それらに加え,解析対象集団も事前に定めておく必要がある.また,臨床試験でなく観察研究であったとしても,あるいは検証的でなく探索的な臨床試験であったとしても,それぞれの試験・研究に応じて幅はあるものの,データを集め解析を実施する前に前述の事項を特定しておくことは重要である.本稿では臨床研究や臨床試験の計画段階で,正しく結論を導くために考えるべきこと,および,正しく結果を活用するために考えるべきことの2 つの観点を主として,臨床試験を計画・実施するうえで解析対象集団の規定が必要な理由,その規定の如何が臨床試験結果の解釈にどのような影響を与えうるかについて概説する. -
診断法の開発はどのように行うか
244巻13号(2013);View Description Hide Description患者の医学的な状態を的確に診断することは適切な治療の開始に影響し,患者の予後へとつながっていく.的確な診断のために,生化学的検査,生理機能検査,画像解析,遺伝子検査,その他医療技術,またはそれらの組合せなど,さまざまな取組みがなされている.それらから診断法を見出し,実際に用いることができるようになるまでには,複数の段階を踏んでいく.検査値などが予後に関連があるということと,予測・診断の力があるということは大きく異なる.検査値などが予後に強く関連する兆しがあり,診断法としての開発の意義があるかどうかを十分に考え,開発の段階に移るかどうかを検討する.そして,開発の段階に移ったならば開発全体の見通しを明らかにし,それぞれの段階に応じた研究デザインと評価指標により予測・診断の力を示していくことが重要である. -
欠測データにどのように対応するか
244巻13号(2013);View Description Hide Description臨床研究において,予定していたすべてのデータを測定できることはまれであり,データ解析の際には欠測データ(missing data)の問題に少なからず直面する.欠測データが存在する場合の統計解析上の問題点は,サンプル数の減少に伴う推定精度の低下と,対象者特性に依存した選択的な欠測に伴うバイアスの問題である.後者の問題は,たとえば状態の悪い対象者ほど結果の測定がなされない場合には,観察データは状態のよい対象者のデータが相対的に多くなり,その結果として選択バイアスが生じ,すべてのデータが測定されていた場合の真の結果と観察データに対する解析結果が食い違うということである.欠測データの解析を複雑にしているのは後者のバイアスの問題である.本稿では,エンドポイントが欠測する場面(いわゆる脱落データ)において,欠測メカニズムを考慮した解析方法として有用なIPCW(inverse probability of censoring weighted)解析を紹介する. - わが国の疾患登録研究から学ぶ
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わが国の慢性心不全登録観察研究JCARE-CARD研究から学ぶ―Evidence & Pitfall
244巻13号(2013);View Description Hide DescriptionJCARE-CARD 研究は,わが国の慢性心不全患者を対象とした多施設共同前向き登録観察研究である.わが国においては心不全の臨床疫学データはきわめて少なく,JCARE-CARD の研究成果は日常臨床における患者の実態を把握するのに有用であるばかりでなく,その病態生理の解明や今後の有効な治療法を確立するうえで重要な情報を明らかにしてきた.慢性腎臓病(CKD),高尿酸血症,貧血は心不全の病態と深くかかわっており,独立した予後の規定因子であることから,その早期診断と適切な治療の重要性が示された.また,大規模臨床試験で有効性が証明されているβ遮断薬やスピロノラクトンの投与が,実際の患者で予後の改善と関連していることが証明された.さらに,駆出率が保たれた心不全(HFPEF)の予後が不良であり,治療法の確立が急務であることも明らかとなった.今後とも,わが国における心不全の臨床病態のさらなる理解とあらたな治療法の確立のために,登録観察研究と臨床試験の連携した推進が必要である. -
慢性心不全登録研究(CHART-2研究)から学ぶ―Evidence & Pitfall
244巻13号(2013);View Description Hide Description疾患登録研究とは,ある特定の疾患に限って症例を登録しその症例背景や治療内容,予後などを明らかにする観察研究である.前向き割付試験(randomized clinical trial:RCT)とは異なり治療介入を行わないため,薬剤や医療機器の治療効果を直接検証することはできないが,対象疾患に関する医療の実態を明らかにできることからその意義は大きい.東北大学ではこうした観察研究の重要性を十分に認識し,以前から数々の症例登録研究を行いエビデンスを発信してきた.本稿では,東北大学と関連24 施設で共同して行っている慢性心不全登録研究であるCHART-2(Chronic Heart Failure Analysis and Registry in the Tohoku District-2)研究について紹介する. -
急性心不全登録研究(ATTEND registry)から学ぶ―今後の課題も含めて
244巻13号(2013);View Description Hide Description心不全は入退院を繰り返して悪化の一途をたどる.この流れを遅らせるためには,心不全患者の実態を知ることが先決である.このような観点から急性心不全疫学調査としてATTEND registry が行われた.この結果から,日本の急性心不全患者背景・治療は欧米と基本的には相違ないが,初発心不全が多く,入院期間がきわめて長く,治療においてはカルペリチドおよびアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬の使用頻度が高いことが明らかになった.入院時刻は日勤帯が多く死亡率が高いが,収縮期血圧で補正すると夜間帯の入院患者と相違ない.また,欧米同様,低ナトリウム血症は重要な予後規定因子であり,さらに心事故の観点からも重要であることが明らかになった.これに対する対処も今後の課題である.本研究はさらにさまざまな角度から解析をして公表していく予定であるが,重要なことは現状を把握してガイドラインに反映させ,よりよい実践的心不全診療に貢献していくことである. -
急性心筋梗塞登録研究(OACIS研究)から学ぶ―Evidence & Pitfall
244巻13号(2013);View Description Hide Description大阪急性冠症候群研究会(OACIS)は,大規模な臨床研究データベースなどを基盤に,臨床上の仮説や既存のエビデンスを基礎・臨床・疫学を通じて検証し,診断治療に有用な臨床的エビデンスを発信する臨床研究の場として設立された.現在,事務局は大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学教室内にあり,大阪大学関連施設などと連携して,循環器内科の枠組みにとらわれず,大阪大学学内では医学統計学教室,医療情報学教室,公衆衛生学教室,学外では理化学研究所,京都大学ゲノム医科学センターとも連携を行い,心筋梗塞を中心とした冠動脈疾患の発症素因と病態・予後に関して,単なる疫学にとどまらず遺伝子多型やバイオマーカーを用いた病態解明,予後予測や薬剤効果予測など多岐にわたる内容で虚血性心疾患に関するエビデンスを発信している(図1).本稿ではこうしたOACIS 研究の一端を紹介する. -
冠動脈インターベンション登録研究(j-Cypher Registry)から学ぶ―Evidence & Pitfall
244巻13号(2013);View Description Hide Descriptionわが国において最初に認可を受けた薬物溶出性ステントであるCypher の全国規模の使用成績調査が,j-Cypher レジストリ研究である.日本人におけるステント血栓症の発生頻度や,その発生と抗血小板薬内服との関係について多くのエビデンスを明らかにした.ステント血栓症の累積頻度をみると,30 日0.34%,1 年0.55%,3 年1.03%,5 年1.6%と5 年経過してもステント血栓症の頻度増加に減衰傾向がなく,リスクが持続していることが問題である.観察研究のなかでも前向きの患者登録研究がレジストリ研究とよばれる.無作為比較試験はエビデンスレベルが高いが,研究デザイン上で複雑な患者背景をもつ症例は排除されることが多く,実臨床を反映しにくいことが問題となる.レジストリ研究は,実臨床を反映しやすいことが利点となる.無作為比較試験では交絡因子が排除されているが,レジストリ研究では統計的手法を駆使しても交絡因子を完全には排除できない.無作為比較試験とレジストリ研究の役割は,相反するものではなく相補的なものである. - わが国の循環器臨床試験から学ぶ
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CASE-J・CASE-J Ex試験から学ぶ―研究成果・意義と試験実施システム
244巻13号(2013);View Description Hide DescriptionCASE-J 試験は日本人のハイリスク本態性高血圧患者4,287 例を対象として,カンデサルタン(CA)とアムロジピン(AM)の有効性を比較検証するために実施されたhead-to-head の非盲検無作為群間比較試験であり,複合心血管系のイベントのうちもっとも早期に発現したイベントとしたアウトカム試験である(平均観察期間3.2 年,追跡率97.2%).また,試験期間を3 年間延長した観察研究のCASE-J Ex においても,2,232例をほぼ同様の評価項目で追跡調査した.その結果,十分な降圧下では両薬剤間において主要心血管イベントの予防効果には差がないこと,しかし,CA はAM に比べて糖尿病の新規発症を抑制し,その効果は肥満者で大きい傾向にあったことが示された.同時に,一部の症例ではCA はAM に比べて左室肥大の退縮効果に優れ,腎機能の悪化を抑制し,BMI 高値例では全死亡を抑制した.したがって,より長期的な降圧薬の選択にあたっては,治療対象患者の背景因子を考慮する必要性が示唆された. -
JIKEI HEART Studyのエビデンスとピットフォール
244巻13号(2013);View Description Hide DescriptionJIKEI HEART Study は,仮説「日本人の心血管疾患(CVD)発症ハイリスク患者に対して,ARB(バルサルタン)治療は従来治療と比較してCVD 発症を低下させる」を検証するために計画された.選択バイアスに対してはランダム割付けをウェブ上で行い,最小化法で研究開始時のリスク(年齢,性,糖尿病,喫煙,高脂血症)を両群において均等にした.観察バイアスに対してはPROBE 法を用いた.医師および患者もARB 服用の有無を知った研究である.エンドポイント委員会で厳格にイベントを判定した.しかし,バイアスの入り込む余地があることは否定できない.PROBE 法の利点,限界を理解したうえで結果を慎重に解釈することが必要である.Intention to treat 解析を用いた.追跡期間中央値3.1 年で,一次複合エンドポイント発生は非ARB 群に比べてARB 群で有意に抑制された.ハザード比は0.61(95% CI:0.47-0.79)であった.ARB 群と非ARB群の間で血圧コントロールに差がなかったことから,このCVD の発症抑制にはARB の降圧効果以外の作用も働いた可能性が推察されるが,さらなる検討が必要である. -
PEARL Studyから学ぶ―Evidence & Pitfall
244巻13号(2013);View Description Hide DescriptionHMG-CoA 還元酵素阻害薬であるスタチンは,肝におけるコレステロールの合成を抑制し,血中のコレステロールを低下させる薬剤として開発・使用されているが,最近の研究で,このスタチンがコレステロール低下作用に加えて,抗炎症作用や抗酸化作用,あるいはレニン-アンジオテンシン系抑制作用などの多面的作用を有し,心不全を改善する可能性があることが示唆された.このような背景から,高コレステロール血症を合併したわが国の慢性心不全患者を対象に,ピタバスタチンの慢性心不全の進展抑制効果を検討した多施設共同無作為割付試験であるPEARL Study(Pitavastatin heart failure Study)が実施された.総登録患者数は577人に達し,わが国の心不全研究としては最大規模となっており,結果が注目されている. -
J-WIND試験から学ぶ―Evidence & Pitfall
244巻13号(2013);View Description Hide Description急性心筋梗塞補助療法として,ヒト心房性利尿ペプチド(hANP)あるいはニコランジルの有用性を検討するJ-WIND 試験を行った.臨床研究基盤が十分に整備されていない2000 年から開始したが,参加65 施設の熱意ある協力により,急性期における臨床試験にもかかわらず目標症例数1,200 例を到達することができた.試験結果として,hANP 投与があらたな急性心筋梗塞補助療法になる可能性を明らかにすることができた.JWIND臨床試験の企画運営の経験から,医師主導型臨床試験において必要で注意すべき点を数多く認識することができた.とくに,臨床試験の慎重な計画およびデータマネージメントは,わが国の医師主導型臨床試験において必要な点であると思われる. -
JPADから学んだこと―糖尿病患者における心血管イベント一次予防に対するアスピリンの効果
244巻13号(2013);View Description Hide DescriptionJPAD 試験では動脈硬化性疾患の既往のない2 型糖尿病患者2,539 例を対象とし,アスピリン投与群またはアスピリン非投与群に無作為に割り付けた.JPAD 試験は評価項目の評価については盲検下で行われる前向き無作為化非盲検対照試験で,観察期間の中央値は4.37 年であった.JPAD 試験では,総動脈硬化性イベントの発生率はアスピリン投与群とアスピリン非投与群との間に有意な差は認められなかったが,65 歳以上の患者ではアスピリン投与群で32%の有意な低下が認められた.さらに,日本人で頻度の高い出血性脳卒中の増加はなく,忍容性に優れていることも示した.その後のアスピリンの心血管イベント一次予防に対する有効性についてのサブ解析で,登録時のデータをもとに血圧コントロール良好群と血圧コントロール不良とで解析しても有意な結果は得られなかった.アスピリンの効果において血圧コントロールの善し悪しは有意な影響を及ぼさないことが示された. - 循環器臨床研究の展望
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冠動脈疾患に対するデバイス治療の現在および未来
244巻13号(2013);View Description Hide Descriptionバルーン拡張術によってはじまった冠動脈内デバイス治療は,ステントの登場により急速に広まった.薬剤溶出性ステント(DES)は,ステント治療の長年の懸念であった再狭窄を激減させ,いまや冠動脈疾患における主要な治療となったが,その使用が拡大するにつれ長期の安全性に疑義が生まれた.多くの研究から,薬剤溶出のためのポリマーが長期にわたり炎症反応を惹起することが原因とされ,生体親和性の高いポリマーや生体溶出性ポリマーを用いた第二・三世代のDES が生まれた.これらの新世代のDES は,多くの研究において再狭窄予防効果を維持しつつも,ステント留置後の血管反応を改善させることが明らかになっている.さらに現在,ポリマーによらない薬剤溶出方法を用いたステントや,ステントそのものが吸収されるデバイスなどが実用化されつつあり,治療効果とともに長期安全性への期待が高まっている. -
急性心筋梗塞における再灌流障害抑制を目的とした治療法の開発
244巻13号(2013);View Description Hide Description急性心筋梗塞の再灌流療法は梗塞サイズを縮小し,予後を改善するが,逆説的に虚血心筋への再灌流それ自体が心筋を傷害し,再灌流療法の効果を減弱させる(再灌流障害).再灌流障害には酸化ストレス,Ca2+過負荷,pH の回復,炎症などが関与しており,それらに対する介入が試みられているが,いずれも単独治療で臨床的な予後を改善するには至っていない.一方,内因性の臓器保護作用をもつischemic preconditioning については,それに類似した効果をもつischemic postconditioning やremote conditioning 操作の有用性を示唆する結果が報告されている.またischemic preconditioning の機序の解明から,イニシエーターとしてのadenosine,メディエーターとしてのhANP やnicorandil そしてエンドエフェクターのcyclosporine などの薬剤を用いて急性心筋梗塞のprimary PCI 時における再灌流障害を予防し,梗塞サイズを縮小し,予後を改善する試みが進められている. -
不整脈疾患に対する新規治療アプローチ―有効性と安全性の向上をめざして
244巻13号(2013);View Description Hide Description近年,不整脈疾患に対してカテーテルアブレーションやデバイスを用いた治療介入が行われるようになっている.専門的な知識と経験が求められるこれらの治療を,病態に即して安全で効果的に行うために,現在さまざまな医療機器の開発が進められている.バルーンカテーテルは従来の高周波カテーテルアブレーションと異なるエネルギー源を用いて,より安全で短時間に心房細動に対する肺静脈隔離術を可能とし,ライフベスト型および皮下植込み型除細動器は,従来の除細動器で対応が困難であった症例に対して治療の選択肢を広げることが期待されている.さらに,治療件数の増大に伴い被曝線量の増加も懸念されているが,あらたな画像システムであるMedi Guide の利用により患者のみならず医療従事者の被曝線量の軽減も可能となることが期待されている.本稿では,今後わが国での臨床応用が期待されている,不整脈疾患に用いられるあらたな医療機器について概説する. -
心不全におけるあらたな治療法の開発状況―医薬品・医療機器
244巻13号(2013);View Description Hide Description心不全の予後を悪化させる心腎連関の病態を克服するため,腎保護作用に力点をおいた心不全治療薬の開発が進んでいる.しかし,大規模臨床試験により腎保護作用が明らかになったものは,現時点で報告されていない.強心薬に関しては,心筋酸素消費量を増加させない,あるいは神経体液性因子の賦活化を引き起こさない薬剤の開発が進んでいる.また,心拍数低下をターゲットとした心不全治療薬は,その有効性が大規模臨床試験でも報告されており,今後,わが国にも導入されることが期待されている.一方,非薬物療法においては,経皮的に僧帽弁閉鎖不全に対する治療が可能なデバイスや小型化された植込み型補助人工心臓などの開発が進み,難治性心不全に対する有効性が明らかになりつつあるが,費用対効果に関する検討も今後は必要と考えられる. -
循環器領域における再生医療への挑戦―細胞シート
244巻13号(2013);View Description Hide Description心不全に対する治療としては薬物療法,外科治療に加え,最終段階の治療としては心臓移植や補助人工心臓の置換型治療がある.これらの治療は,世界的にその有用性が証明されているが,医療費の問題やドナー不足,免疫抑制や合併症など解決すべき問題が多く,普遍的な治療法とはいいがたい.一方,最近,重症心不全治療の解決策として新しい再生型治療法の展開が不可欠と考えられる.分子生物学の進歩とともにあらたな知見が得られ,他の臓器のように心筋幹細胞の存在も報告され,心筋再生治療は循環器領域のトピックスとなっている.一方,その応用として再生治療,とくに心筋への細胞移植は心機能を改善することが実験的に報告され,自己骨髄細胞や筋芽細胞による細胞移植の臨床応用も開始されている.そこで本稿では,循環器領域における自己細胞を用いた心不全に対する心筋再生治療について,自験例を中心に概説する. -
iPS細胞技術を用いた新しい循環器疾患研究
244巻13号(2013);View Description Hide DescriptioniPS 細胞は,終末分化した体細胞に特定の遺伝子を導入することで作出可能な多能性幹細胞であり,心筋細胞を含む三胚葉すべての細胞に培養皿上で分化誘導させることができる.ヒトiPS 細胞から分化誘導された心筋細胞は,生理的なヒト心筋細胞に近い性質を有しており,iPS 細胞由来誘導心筋細胞を用いた解析は,創薬研究や病態解明研究などの点で循環器領域の発展におおいに貢献する可能性がある.また遺伝性循環器疾患患者からiPS 細胞を樹立し,心筋細胞に誘導することで,患者の遺伝情報を搭載した疾患心筋細胞も直接解析することができるようになり,世界中でさまざまな疾患患者からiPS 細胞が樹立されている.これら疾患特異的iPS 細胞技術は,難治性疾患の病態解明や新規治療法の開発に直結する新しい研究ツールとしての役割が期待されている. -
循環器領域におけるバイオ医薬品の開発
244巻13号(2013);View Description Hide Descriptionバイオ医薬品は,一般的には“バイオテクノロジーを用いて生産される医薬品”という意味で理解されている.バイオ医薬品には,蛋白医薬,抗体医薬,核酸医薬,ペプチド医薬などのさまざまな種類の製剤がある.これらの医薬品は従来の低分子化合物などでは不十分な領域にも対応することが可能であり,副作用も少なく優れた治療薬となる可能性を秘めている.現在のところ,循環器領域において組織プラスミノーゲン活性化因子や心房利尿ペプチドなどが代表的なバイオ医薬品として使用されている.本稿ではバイオ医薬品について概説し,循環器疾患におけるバイオ医薬品開発の現況と今後の展望について述べる. -
わが国の循環器疫学研究の現状と今後の展望
244巻13号(2013);View Description Hide Description心臓病,脳卒中はわが国の死因のそれぞれ第2 位と4 位を占めている.脳卒中の発症率に関しては1960 年代から継続的に低下してきたが,虚血性心疾患の発症率は大都市男性住民においてむしろ増加傾向にあることが報告されている.わが国では50 年以上にわたって地域住民を対象とした循環器疾患の前向き疫学研究が実施され,高血圧,喫煙,糖尿病,脂質異常などの危険因子と脳卒中,虚血性心疾患との関連が明らかにされてきた.また,年齢,性,血圧レベル,喫煙習慣,脂質異常などの危険因子の組合せによりリスクチャートを作成し,個人の循環器疾患の発症予測に役立てている.一方,生活習慣の変化に伴い,わが国の血圧レベルは低下し,脂質異常,糖尿病の割合が増えつつある.そのため,虚血性心疾患,脳卒中に関連する危険因子は時代とともに変遷している可能性があり,今後この点を明らかにしていく必要がある.さらに,循環器疾患の予測に有用な新しいバイオマーカーの確立,および虚血性心疾患,脳卒中以外の循環器疾患の前向き疫学研究を実施していくことが期待される.
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