医学のあゆみ
Volume 245, Issue 3, 2013
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あゆみ 免疫グロブリン様受容体による免疫制御と疾患
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CD28/B7ファミリーと免疫応答―抑制性共刺激分子を中心に
245巻3号(2013);View Description Hide DescriptionT 細胞に発現している多様な共刺激分子によってTCR を介したシグナルは正または負に修飾され,免疫応答が調整される.代表的な抑制性共刺激分子のCTLA-4 やPD-1 はさまざまな局面でT 細胞を負に制御し,免疫寛容の維持にとくに重要である.CTLA-4 は活性化T 細胞に発現し,活性化共刺激分子のCD28 と共有のリガンドであるC80/86 との結合を競合することにより免疫応答を負に調節する.PD-1 もまた活性化T 細胞に発現し,2 つの異なるリガンド,B7-H1 またはB7-DC と結合し,免疫応答を負に調節する.B7-H3 は抑制性共刺激分子として癌免疫の抑制への関与が示される一方で,活性化共刺激分子としてアロ抗原に対する寛容への関与も示されている.B7-H4 もまた抑制性共刺激分子として癌免疫の抑制や自己寛容への関与が示されているが,その機能に関して不明な点が多い.最近報告されたVISTA は,抑制性共刺激分子リガンドであるという報告と活性化共刺激分子受容体であるという大きく異なる報告がなされているが,それぞれの受容体,リンガンドを含めて不明な点が多い. -
急性炎症とPILRα
245巻3号(2013);View Description Hide Description急性炎症は,感染・外傷などさまざまな侵襲に対する生体の局所あるいは全身性の反応である.これは本来体を守るための防御反応であるが,過剰な炎症が起こると生体の自己組織の損傷をもたらす.実際,敗血症をはじめ,ほかにもアレルギー疾患や自己免疫疾患などさまざまな疾患に関与している.一方,好中球は急性炎症反応の最前線に働く細胞である.炎症が起こると血管中の好中球が速やかに血管を通り抜けて炎症部位に浸潤する.好中球はそこで活性酸素やプロテアーゼを産生し,それによって臓器にダメージをもたらすことが知られている.したがって,過剰な炎症が起こらないように,好中球の浸潤や活性化は適切に制御されなければならない.そこで著者らは抑制化ペア型レセプターの一種であるPILRαの欠損マウスを作製し,急性炎症反応モデルを用いて解析を行った.その結果,PILRαは急性炎症反応において好中球の浸潤を負に制御することを明らかにした.さらに,PILRαの抑制化シグナルは好中球上にあるインテグリンの活性化を標的にしていることも明らかになった.以上のように,PILRαは炎症反応における好中球浸潤の制御に重要な役割を担っている. -
自己免疫病とPirB
245巻3号(2013);View Description Hide DescriptionPi(r paired immunoglobulin-like receptor)は B 細胞や樹状細胞,マスト細胞など免疫系細胞に幅広く発現し,免疫応答を正に調節する活性化型PirA と負に調節する抑制性PirB のペア型で存在する.Pirb 遺伝子欠損マウスでは腹腔B-1 細胞の増加とリウマチ因子の高値が認められ,さらにFas 遺伝子に変異を有するB6.Faslpr/lprマウスとの交配により致死的な糸球体腎炎を発症することが示された.B-1 細胞の解析において,PirB は CpG 刺激によるToll-like recepto(r TLR)9 シグナル伝達経路を抑制し,リウマチ因子産生や自己抗体産生を制御していることが確認された.このように,PirB はB 細胞の自己寛容の成立に重要な役割を果たし,自己免疫疾患の発症抑制に働いていることが明らかとなった. -
CD300b/LMIR5と炎症
245巻3号(2013);View Description Hide DescriptionCD300b/leukocyte mono-immunoglobulin(Ig)-like receptor 5(LMIR5)は,マウスのペア型免疫レセプターCD300/LMIR ファミリーに属する活性化型レセプターである.マスト細胞や好中球を含むミエロイド系細胞全般に発現し,細胞外領域には他のLMIR と相同性の高い1 個の免疫グロブリン様構造をもつ.細胞内領域にITAM をもつDAP12 と会合して活性化シグナルを伝える.LMIR5 リガンドのひとつはT cell Ig mucin 1(TIM1)である.虚血腎では近位尿細管で発現が上昇するTIM1 と好中球に発現するLMIR5 が結合して,好中球の集積と付随する炎症を惹起する.また,好中球はLPS などの刺激によりLMIR5 の細胞外領域(可溶型LMIR5)を放出するが,この可溶型LMIR5 は炎症を増悪させる作用をもつ. -
新しいアレルギー抑制分子,Allergin-1
245巻3号(2013);View Description Hide Description花粉症,アトピー型喘息,アトピー性皮膚炎などⅠ型アレルギーに分類される疾患は日本人の約3 人に1 人が罹患しているとの研究報告(平成6 年度厚生科学研究アレルギー総合研究事業疫学班)がなされており,アレルギー制御は社会的急務である.肥満細胞および好塩基球はⅠ型アレルギー反応(「サイドメモ1」参照)を誘導するIgE 抗体に対する受容体(FcεRⅠ)を発現するため,アレルギー発症制御のための標的細胞となる.著者らは膜型受容体Allergin-1(allergy inhibitory receptor-1;アラジン-1)を新しく同定し,この受容体が肥満細胞および好塩基球に強く発現しており,細胞質内に存在する抑制性シグナル伝達モチーフ(ITIM;「サイドメモ2」参照)を介してFcεRⅠ受容体からの活性化シグナルを抑制することを明らかにした.さらに,この遺伝子を欠損するとIgE 依存型アナフィラキシー反応が増悪することを見出し,Allergin-1 がアレルギー制圧のための治療標的分子となりうる可能性を示した. -
ホスファチジルセリンを認識するCD300a分子による敗血症の制御
245巻3号(2013);View Description Hide Description細胞はアポトーシスに陥ると速やかに貪食される.その貪食の目印には,アポトーシスに至ると細胞上に発現してくるホスファチジルセリンが使われることが近年明らかになっている.著者らは免疫担当細胞上のレセプターであるCD300a 分子がこのホスファチジルセリンと結合し,抑制性のシグナルを細胞内に伝達することを明らかにした.さらに,貪食する機能をもたない肥満細胞の活性化を,CD300a がアポトーシス細胞上のホスファチジルセリンと結合することで制御していることを明らかにした.敗血症においては,その病態の初期に好中球を呼び寄せるという重要な役割を果たす肥満細胞で,CD300a がサイトカインやケモカインの産生を制御し,敗血症の生存率に寄与していることが認められた.つまりアポトーシス細胞は貪食されるだけではなく,免疫担当細胞上のレセプターとの結合でサイトカインやケモカインの産生を制御することによって疾患を制御している可能性が示唆された. -
癌,自己免疫病とPD-1
245巻3号(2013);View Description Hide DescriptionPD-1 はCD28 およびCTLA-4 と高い類似性を有するⅠ型膜蛋白質であり,活性化されたT 細胞,B 細胞および骨髄系の細胞に発現する.リガンドであるPD-L1 あるいはPD-L2 と結合することにより,これらの細胞の機能を抑制し,自己免疫応答,感染免疫応答,腫瘍免疫応答,移植免疫応答など,さまざまな免疫応答を制御することが明らかとなっている.近年,PD-1 およびPD-L1 に対する阻害抗体が抗腫瘍薬として開発され,アメリカおよび日本において治験が開始されている.これまでの治験で高い抗腫瘍効果を示していることから,国内外において高い関心を集めている.また,慢性ウイルス感染症をはじめとした感染症に対しても,PD-1 阻害剤の利用が検討されている.一方,PD-1 の機能を増強することにより,自己免疫や臓器移植における移植片拒絶の治療につなげる試みもはじまっている.このように,PD-1 の機能を制御することにより,さまざまな免疫関連疾患を克服できると期待されている. -
セマフォリンと疾患
245巻3号(2013);View Description Hide Descriptionセマフォリンは神経発生における神経ガイダンス因子として同定された分子であるが,血管新生,癌の進展,免疫,骨代謝などの種々の活性をもつことが近年明らかになっている.8 つのサブクラスのうち,クラスⅡ,Ⅲ,Ⅳ,Ⅶ型は免疫グロブリン様ドメイン(Ig 様ドメイン)をもち,免疫グロブリン様受容体ともよばれ,免疫学的活性を有する.アトピー性皮膚炎(AD),鼻炎,喘息などの種々のアレルギー性疾患におけるセマフォリンの神経学的・免疫学的関与が明らかにされつつあり,また多発性硬化症においてはインターフェロンβ治療抵抗性とSema4A の相関が,患者血清を用いた研究で示されている.さらに骨代謝においては,セマフォリンが骨吸収抑制と骨形成の両方へ関与していることから,骨粗鬆症治療のあらたなターゲットとして期待されている.このようにセマフォリンを標的とした診断治療への応用のための血清測定のキット化,および作動薬・阻害薬の開発が現在進行している.
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連載
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- 疾病予防・健康増進のための 分子スポーツ医学 14(最終回)
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疾患感受性遺伝子に対する身体活動・運動トレーニングの保護的効果
245巻3号(2013);View Description Hide Description病気へのかかりやすさに対して遺伝要因が関与していることは明らかであるが,遺伝的にリスクの高い遺伝子多型を保有していたとしても身体活動や運動によりそのリスクをある程度回避することが可能であることが多くの研究により報告されている.非常に強い肥満感受性遺伝子として同定されたFTO 遺伝子による肥満のリスクは,身体活動の増加により軽減させることが可能である.また,肥満感受性遺伝子12 個における12 カ所のSNPs を決定し遺伝的素因スコアを算出している研究では,この遺伝的素因スコアが高くなるほど,BMI が高くなることが示され,これを活動群および不活動群で検討した場合,活動群でこの遺伝的素因スコアとBMIの関係が低くなることを示唆している.このような研究が進むことで,遺伝的にリスクが高い個人においても,どのような生活習慣改善を行えば,より効果的・効率的にそのリスクを最小限に抑えることが可能であるかを知ることができるようになってくるであろう.
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フォーラム
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- 近代医学を築いた人々 16
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TOPICS
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- 遺伝・ゲノム学
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- 糖尿病・内分泌代謝学
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- 脳神経外科学
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