医学のあゆみ
Volume 245, Issue 5, 2013
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【5月第1土曜特集 】 エクソーム解析―成果と将来
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- 総論
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全エクソーム解析における情報処理
245巻5号(2013);View Description Hide Description情報処理は全エクソーム解析プロジェクト成功の鍵を握る重要なステップである.著者はこれまで,単一遺伝子病の原因遺伝子探索(ジーンハンティング)プロジェクトにおける情報処理をおもに担当してきた.その仕事の中心は,プロジェクトに適したワークフローの構築,すなわち生データの詳細とプロジェクトの目標の理解に基づき,もっとも適したソフトウェアや公共データベースをみつけ,必要に応じて自作のソフトウェアを組み合わせたうえで一連の解析を行うワークフローを組み立て,実際のデータ解析に応用することである.また,複数のプロジェクトの情報解析を整理して再現性を確保することや,内外のサイエンスコミュニティーとの情報共有を通してワークフローを最新のものに更新しつづけることも重要な仕事である.必要とされるワークフローはプロジェクトごとに多種多様であるが,本稿では著者の経験の範囲でその構築に必要とされるテクニックについて述べたい. -
日本人の遺伝子リファレンスライブラリーデータベース
245巻5号(2013);View Description Hide Description難病の研究や診断治療において,次世代シークエンサーを利用した原因遺伝子の探索はきわめて強力なアプローチである.わが国においては平成23 年度より“難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究事業”が開始されたことで,従来とは比較にならない量の原因遺伝子変異の情報が加速度的に蓄積されると期待される.そういった情報を研究者コミュニティーが共有することは,重複を回避した効率的な研究の実施と,さらなる医学的価値の高い成果の創出に不可欠であり,患者の適切な診断治療にも欠かせない.本稿では,疾患遺伝子解析研究で収集した臨床情報や解析された遺伝子情報を全国で統一的に管理・運用するために構築しているデータベースの概要について紹介する. -
次世代シークエンサーによる病因遺伝子の探索と遺伝子診断への応用
245巻5号(2013);View Description Hide Description次世代シークエンサーを活用することによって,数多くの遺伝性疾患の病因遺伝子が矢継ぎ早に解明されてきている.また,遺伝子診断への応用も進みつつあり,これまでの遺伝子検査の概念を覆しつつある.とくに無侵襲的出生前診断(NIPT)の導入は,医学を超えて社会に大きな影響を及ぼしはじめている. -
遺伝性疾患におけるエクソーム解析の有用性と近将来
245巻5号(2013);View Description Hide Description2010 年にはじめてエクソーム(exome)解析による疾患原因遺伝子探索の成功例が報告されて以来,現在までに,100 疾患以上の疾患原因遺伝子がエクソーム解析によって明らかにされている.エクソン濃縮,次世代型シーケンサー(NGS)による塩基配列決定および塩基配列の整列可能な部分の塩基変異はほぼ確実に検出できる.一部のゲノム領域はいまだに解析の手が届いていないこと,単独発症のごくまれな疾患は原因としての評価を確定できないなどの理由で,“遺伝子病”とよばれる疾患の半数程度のみが原因変異を明らかにできていると考えられる.今後は,全ゲノム関連解析で説明できなかった遺伝性やエクソン部に限らない原因変異が明らかになっていくものと期待される.それらを読み解くためにも古典的な遺伝学の知識を基本に,最新の情報を統合して疾患をみる目を養うことが大事となってくるであろう. -
遺伝性疾患におけるターゲットリシーケンシングの有用性
245巻5号(2013);View Description Hide DescriptionMendel 遺伝病は,表現型・病態が多彩であっても単一の遺伝子の異常という明確な原因を有するきわめてユニークな疾患群である.Mendel 遺伝病の研究分野である臨床遺伝学は,原因=遺伝子変異と結果=病態という明確な因果律の両端から両者の関係を検討しようする学問領域である.臨床遺伝学分野では次世代シーケンサーの登場により,大きなパラダイム・シフトが起きている.これまでは単一の原因遺伝子を推定し,遺伝子診断により仮説を検証するというアプローチが一般的で,技術的な制約から患者一名について1 遺伝子,多くても2~3 程度の遺伝子を解析することが原則であった.このようなアプローチでは遺伝子解析の実施前に臨床診断によって原因遺伝子を1 個に絞り込む必要があり,遺伝子診断は確定診断のために使用されるのであって鑑別診断の目的には使用されていなかった.次世代シーケンサーを利用することにより相当数の遺伝子を同時に解析することが可能となったことから,遺伝子診断を鑑別診断の目的に使用するといういままでにないアプローチが実現可能となった.臨床医学における遺伝学的検査の位置づけがいっそう明確になったともいえる.デスクトップ型の次世代シーケンサーが市販され,さらにデスクトップ型の性能向上によってエクソーム解析も可能になったことから,臨床系の教室でも次世代シーケンサーを用いた変異解析の機会が増えるものと思われる. - 各論:生殖細胞系列変異
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成育医療領域における大規模遺伝子解析
245巻5号(2013);View Description Hide Description胎児から次世代を出産するまでのリプロダクションのサイクルを連続的・包括的にとらえる成育医療では,生殖と成長のライフサイクルにかかわる身体的・精神的問題を総合的に取り扱う(図1).本稿ではそのなかでも,おもな医療範囲である不妊・不育といった生殖医療,周産期異常,遺伝学的因子の関与が比較的強い先天異常,そのほか遺伝性疾患を中心に,著者らの解析戦略を概説する. -
常染色体優性遺伝性疾患のエクソーム解析
245巻5号(2013);View Description Hide Description次世代シーケンサー(NGS)の登場はゲノム解析法に変革をもたらした.全エクソンキャプチャーキット(以下,キット)を利用したエクソーム解析は,当初,常染色体劣性遺伝を対象として行われていたが,NGS 機器性能および周辺技術の向上,キットの改良によって,しだいに常染色体優性遺伝を呈する疾患もエクソーム解析による原因同定が行われるようになった.エクソーム解析は常染色体優性遺伝性疾患,とりわけ孤発例の多い疾患にも非常に有効な解析法になりつつあり,すでにすくなくとも40 以上の疾患原因遺伝子が同定されている.現在,キットの網羅性や日本人コントロールデータの不足といった問題が残されているものの,今後,エクソーム解析のさらなる改良,日本人データの環境整備によって,国内でもより簡便に,多くの疾患原因遺伝子とその変異が同定できるであろう. -
発達期の脳神経疾患の全エクソーム解析
245巻5号(2013);View Description Hide Description近年,全エクソンキャプチャー法と次世代シークエンス技術を組み合わせることにより(全エクソーム解析),エクソン上の遺伝子変異を網羅的に検出することが可能となった.著者らは,小児期に発症する大脳白質形成不全症や,乳児早期に発症するてんかん症候群である大田原症候群における全エクソーム解析を行い,“患者で共通の遺伝子の変異”という観点から疾患責任変異の同定に成功した.また,発達期の脳神経疾患の大部分である孤発例では,新生突然(de novo)変異が原因となっていることが想定される.全エクソーム解析はトリオ(患児および両親)で解析することによりde novo 変異をシステマティックに検出することも可能で,著者らを含めて世界中で大きな成果が上がっている.今後,全エクソーム解析の活用で,発達期の脳神経疾患の疾患責任遺伝子同定が数多く達成されるであろう. -
難聴の遺伝子診断と次世代シークエンス解析―保険収載された遺伝子診断からターゲットリシークエンシングとエクソーム解析
245巻5号(2013);View Description Hide Description先天性難聴は,新生児1,000 名に1 名に認められる比較的頻度の高い先天性疾患である.疫学調査の結果より先天性難聴の60~70%に遺伝子が関与することが推測されているため,正確な診断のためには遺伝子診断が重要であるが,遺伝的異質性が高く100 程度の遺伝子が関与するため,効率的な遺伝子診断手法が必要である.2012 年4 月の診療報酬改定により日本人難聴患者に高頻度に認められる原因遺伝子変異を網羅的にスクリーニングする検査が保険収載され,日常の診断ツールとして遺伝子診断が利用可能となった.本稿では保険収載された遺伝子診断とその有用性について概説するとともに,保険収載された遺伝子診断を補完する検査として実施している次世代シークエンサーを用いたターゲットリシークエンシング解析およびエキソーム解析の現状について概説する. -
全エクソーム解析による遺伝性網脈絡膜疾患の原因遺伝子探索
245巻5号(2013);View Description Hide Descriptionヒトが得る全情報の8 割は視覚情報に由来すると考えられており,感覚器官のなかでも眼は重要な働きを担っている.眼の後極部に存在する網膜は,光を電気信号に変換する視細胞とそれに連結する視神経細胞やグリア細胞から構成されており,層状をなしている.とくに視細胞が集中する網膜のほぼ中心に位置する黄斑は,最大限に受光するために凹型となっており,血管や視神経細胞が光路を妨げないような構造となっている.遺伝性網脈絡膜疾患の多くは,視細胞や視神経細胞の機能に関与する遺伝子に変異が生じて発症する場合が多い.病態と遺伝形式別に分類すると,約30 種類の遺伝性網脈絡膜疾患に分類され,すでに192 遺伝子が報告されている.遺伝性網脈絡膜疾患の日本人患者やその家系を対象とした網羅的な遺伝子解析の研究はきわめて限られており,疾患と遺伝子の関係について十分な情報がない.著者らはこのような状況を少しでも改善するために,遺伝性網脈絡膜疾患の家系を対象とした全エクソーム解析によって網羅的な遺伝子解析を行い,日本人患者に関与する遺伝子の解明を試みた. -
ミトコンドリア呼吸鎖異常症のエキソーム解析
245巻5号(2013);View Description Hide Description厚生労働省の難病指定になっているミトコンドリア病は先天代謝異常症のなかでもっとも頻度が高く,出生5,000 人に1 人の割合で発症するとされている.ミトコンドリア病と診断された患者のうち,ミトコンドリアDNA に異常があるのは25%程度で,残りは核にコードされた遺伝子の異常により発症すると考えられている.ミトコンドリアDNA が原因の場合,多くは孤発性であり,核遺伝子の異常によるものは多くの場合,常染色体劣性遺伝形式をとる.小児科領域でみられるミトコンドリア病は,ほとんどの症例で罹患臓器での呼吸鎖複合体の酵素活性に異常があることから,ミトコンドリア呼吸鎖異常症(MRCD)と同義で使われる.著者らはMRCD と診断された100 人を超える患者のエキソーム解析を行った.その結果,17%の症例でこれまでに病因と報告されている既知遺伝子に新規の変異を認め,26%でまったく新しい病因遺伝子と考えられる候補変異を同定した.残る約50%の症例では疾患患者のみに変異をもつ候補遺伝子がそれぞれの症例で20 個程度あげられており,今後これらのうちどの遺伝子が真の病因となりうるか検証がまたれる. -
全エクソーム解析による難治性循環器疾患の原因遺伝子の同定
245巻5号(2013);View Description Hide Description心移植症例など重症心不全臨床における心筋症鑑別や,致死的不整脈原因検索などを行うにあたって,Mendel 遺伝形式をとる家系を対象にした全エクソーム配列解析は有用である.1 つの家系ごとに既知遺伝子をさきに除外し,該当する遺伝子がない場合には家系解析へと研究を進めることが一般的である.しかし,浸透率,病態重症度,発症年齢,二次性病態判別に加えて,循環器疾患特有の表現型の複雑さを加味しなければならず,さらに情報解析の重要性についても認識しておくことが必要である.当施設では同定した遺伝子についてSanger 法による家系のco-segregation 解析,細胞,動物レベルでの生物学的機能解析を行い,もとの表現型に一致する結果を得るまでの一貫した戦略をとるとともに,とくに今後のシーケンス技術,そして情報解析技術の開発整備が必要であると考え,市販の解析ソフトウェアでは達成しえない,独自の情報技術を組み合わせた情報解析パイプラインの開発をめざしている. -
小児血液疾患に対するエクソーム解析
245巻5号(2013);View Description Hide Description次世代シークエンサーが実用化されて数年が経過し,シークエンサーの性能の向上,ランニングコストの低下,解析パイプラインの確立により,さまざまな医学分野で大きな成果が得られている.小児血液疾患分野にも多数のまれな疾患が存在するが,これまでに各疾患について研究してきた全国の研究者が集結し,集中的にリシークエンスを行う体制が整えられ,同一の研究基盤で解析を行い大きな成果が得られつつある. -
次世代シーケンシングによる先天性内分泌疾患の分子基盤の解明
245巻5号(2013);View Description Hide Description先天性下垂体機能低下症,先天性甲状腺機能低下症などの内分泌器官の先天異常は,先天性内分泌疾患と総称される.先天性内分泌疾患の一部は単一遺伝子異常を病因とするが,その分子基盤の全貌は十分に理解されていない.著者らはベンチトップ型次世代シーケンサーを用いて先天性内分泌疾患の既知責任遺伝子約120種を超高速解析する“Endocrinome システム”を開発・運用し“先天性内分泌疾患患者のうち既知責任遺伝子の変異が検出されるのはどの程度か?”という問いへの答えを得つつある.一方,Endocrinome システムを用いてもなお変異を同定できない症例に対し,全2 万遺伝子を対象としたエクソーム解析を積極的に適用し,新規責任遺伝子の同定に挑んでいる.本稿では,次世代シーケンサーという新しいツールを用いて先天性内分泌疾患の分子基盤解明をめざす著者らの取組みを紹介したい. -
エクソーム解析による遺伝性筋疾患の効率的遺伝子変異スクリーニング法の開発と新規原因遺伝子同定
245巻5号(2013);View Description Hide Description遺伝性筋疾患の遺伝子診断において,これまで診断が確定できる症例は約半数にとどまっていた.同定されていない筋疾患関連遺伝子が相当数あることと,既知遺伝子関連疾患が予想されても従来の分子遺伝学的診断方法で確認するには莫大な労力と時間を要するため,一般臨床検査として行うには現実的ではなかったことがおもな原因であった.次世代シークエンサー解析という多検体迅速検出系の開発により,遺伝性筋疾患の遺伝子診断率を上げることが可能な時代となった.しかし,変異検出率の問題(偽陰性,偽陽性の存在)があり,一般診断技術として活用するには時期尚早である.また,全エクソーム解析を用いたゲノムワイドな解析による原因遺伝子探索の進歩が期待されるが,数理統計モデルを用いた計算科学的手法が未確立であること,日本人の参照配列情報が公開されていないことから,精度の高い結果が得られにくい.複数罹患者を含む大家系や,同一疾患患者を有する複数の家系など,解析対象の選択が重要な要素である. -
エクソーム解析による新規関節リウマチ感受性遺伝子の探索
245巻5号(2013);View Description Hide Description近年,1000 ゲノムプロジェクトやENCODE プロジェクトなどの大規模コンソーシアム研究の成果としてヒトゲノム多様性やその機能的な解明が急速に進んでいる.これらの成果にはシークエンス技術進歩の寄与が大きく,次世代シークエンサーを用いた疾患原因同定は今後も加速度的な進展が期待できる.とくにエクソーム解析は遺伝性疾患原因遺伝子同定に効果的な手法であり,すでに多くの成果を上がっている.一方,ありふれた疾患を対象にした研究はまだ多くの課題がある.本稿では,関節リウマチ(RA)を対象としたエクソーム解析から得られた新規感受性遺伝子BTNL2 同定の成果に加え,ありふれた疾患を対象にしたエクソーム解析からみえてくる,現時点での限界および将来の課題についても概説したい. -
エクソーム解析による自己炎症疾患の遺伝的素因の解明―免疫プロテアソームの機能低下が自己炎症疾患を惹起する
245巻5号(2013);View Description Hide Description自己炎症疾患は感染症や自己免疫応答を伴わず炎症病態が持続あるいは反復する疾患群である.著者らは40 年以上原因不明であった自己炎症病態に脂肪萎縮をはじめとする多彩な症状を伴う自己炎症疾患(JASL)のエクソーム解析を行い,免疫プロテアソームの構成分子であるβ5i をコードするPSMB8 の遺伝子変異を同定した.プロテアソームはユビキチン化された蛋白質を選択的に分解する巨大な分子集合体であり,PSMB8の遺伝子変異によって免疫プロテアソームの分子集合とPSMB8 分子の成熟化が障害されていた.その結果,免疫プロテアソームの蛋白分解活性が低下し,罹患者由来の細胞では核および細胞質内に著明なユビキチンの蓄積が認められた.また,免疫プロテアソームの機能低下に起因する過剰なp38 のリン酸化を介したインターロイキン-6 の発現増強および脂肪細胞の分化障害が,全身性の炎症応答および脂肪萎縮を特徴とするJASL の病態に寄与していると考えられた.本研究からプロテアソーム構成分子の遺伝子変異と疾病との関連性がはじめて明らかになった.また,免疫プロテアソームが,“免疫”応答の範疇を超えて生体制御における多様な役割をもち,その機能破綻は慢性炎症病態の基盤形成に深く関与していることが示唆された. - 各論:体細胞変異
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全エクソーム解析による骨髄異形成症候群の原因遺伝子の探索
245巻5号(2013);View Description Hide Description全エクソーム解析研究は多くの腫瘍性疾患研究に応用され,急速な勢いで腫瘍に生じている体細胞変異を明らかにしつつあるが,非常に多数かつ多様な遺伝子に変異が生じており,疾患の病態理解にむしろ混沌さが増した観もある.同定される変異遺伝子の多くは分子病態には寄与しない遺伝子と考えられるが,従来の病態研究からは予知できなかった原因遺伝子も同定されており,疾患研究のbreak through を生み出している.骨髄異形成症候群(MDS)は高齢者に多い難治性の造血器腫瘍であるが,MDS に特徴的な分子異常は乏しく,臨床像も多様であることから分子病態の理解は不十分であった.全エクソーム解析によりMDS 例の半数以上でRNA スプライシングにかかわる分子に遺伝子変異が生じていることが明らかとなった.本異常はMDS に特徴的であり,本発見を契機に病態理解が進み,新規治療法の開発に貢献することが期待されている. -
全ゲノムシークエンスによる癌の遺伝子変異プロファイル
245巻5号(2013);View Description Hide Description癌は正常細胞のゲノムにさまざまな異常が蓄積し,正常な分子経路が破綻した結果,無秩序な細胞増殖や転移をきたすことによって起こる“ゲノムの疾患”である.このゲノム異常を網羅的にカタログ化する大規模ゲノム解析が世界中で進行中であり,おもにエクソームによる癌ゲノムの解読が行われている.癌ゲノムにおいてはエクソン以外に多数のコピー数異常や構造異常,非コード領域の変異が蓄積しており,それらが癌の生物学的特性にも大きく影響しているため,全ゲノムシークエンスによる解析が今後必要である.しかし,全ゲノムシークエンス解析ではエクソームよりも高いコスト,より複雑で巨大の情報量による情報解析の困難さなど,さまざまな克服すべき課題がある.そしてゲノムの非コード領域における解釈がようやくはじまった段階にあって,いまだその情報量の多さを生かし切れていないのが現状であり,今後,癌の全ゲノムの解釈のため,大規模な臨床病理情報や多層情報との関連解析や生物学的解析が必要である. -
がんゲノム研究におけるエクソーム解析の現状と将来
245巻5号(2013);View Description Hide Descriptionがんゲノム研究におけるエクソーム解析の主な目的は,がん細胞における体細胞変異とがん患者の生殖細胞系列におけるゲノム多型の同定である.蛋白質をコードしているエクソン領域における異常はさまざまな酵素や情報伝達分子に直接異常を起こし,がんの発生・進展に重要であり,同時に治療標的としての可能性も高いことから現在,世界中の研究室でもっとも集中して解析が進められている.複数の解析プラットフォームと個々の研究目的に応じた標的領域のカスタム化が利用可能となり,エクソン濃縮技術は広く活用されているが,精度の高い情報解析手法のノウハウ蓄積に加えて,読取り深度の偏り,がん組織内における正常細胞の混入率の問題,融合遺伝子の検出など,さらに開発を進める余地がある.今後,がんエクソーム解析技術は,個別化医療の基盤となる臨床シークエンス,腫瘍内多様性の解明に向けた1 細胞シークエンスなど,さまざまな応用が期待される. -
“ゲノム変異解析”雑感
245巻5号(2013);View Description Hide Description疾患ゲノム解析において2010 年にMendel 遺伝性疾患の責任遺伝子が同定1)されて以来,解析コストの低下も手伝ってエクソーム解析による疾患遺伝子解明は広く応用されている.Discovery ツールとしてはきわめて強力である次世代シークエンシングであるが,臨床現場における診断ツールとして用いる場合にはまだまだ改良が必要というのが多くの研究者が感じられているところだと思う.著者らは癌の体細胞変異の検出にもっぱらエクソーム解析を利用しているが,そのオペレーションのなかで感じた課題をいくつか書き連ねてみたい.
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