医学のあゆみ
Volume 245, Issue 6, 2013
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あゆみ HDLの多面的作用とその異常―善玉HDLと悪玉HDL
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コレステロール逆転送の重要性とHDLの役割
245巻6号(2013);View Description Hide Descriptionコレステロールは細胞膜の構成成分として必須であるが,過剰な蓄積は障害となり,しかもほとんどの細胞では分解できないという,特殊な脂質である.このため末梢細胞からの過剰コレステロール除去は生体のコレステロールホメオスタシスのために重要で,これを担うのがHDL である.コレステロール逆転送は“ 末梢細胞で過剰となったコレステロールが胆汁中への排泄のために肝へ輸送される過程” をさし,細胞膜上のABCA1 の働きにより,lipid-free/lipid-poor アポA-Ⅰと細胞脂質があらたなHDL 粒子を形成することで開始される.ここで生じた原始HDL はその形状や粒子サイズの変化を伴いながら,HDL 自ら,またはアポB 含有リポ蛋白質の回送経路を利用して,細胞コレステロールを肝まで輸送する.ごく最近,血中コレステロールが直接小腸へ分泌される経路が確認されたが,ここでもHDL が重要な役割をもつことは間違いなく,これを含めた過剰コレステロール排泄機構全体の解明が必要とされている. -
HDLの多面的作用
245巻6号(2013);View Description Hide DescriptionHDL の抗動脈硬化作用として末梢細胞から肝へコレステロールを逆転送する作用はよく知られているが,それ以外にも抗酸化作用・抗炎症作用などの抗動脈硬化作用もHDL は有する.これらの作用にはHDL のコレステロール引き抜き作用と関連するものもあるが,HDL 粒子上に存在する酵素蛋白(PON1 やPAF-AH),あるいはリン脂質(スフィンゴシン1 リン酸など)が細胞に直接作用することでも効果を発揮すると考えられている.また,このような抗動脈硬化作用以外にも,リポ蛋白として脂質をステロイド産生臓器に供給する作用や,さらに近年ではインスリン分泌やインスリン感受性に良好な効果を与えることも提唱されてきている. -
HDLレベルの制御因子
245巻6号(2013);View Description Hide Description高比重リポ蛋白(HDL)は動脈硬化性疾患の負の危険因子であり,HDL 上昇が治療につながると予想され,HDL レベル制御因子の研究が進んできた.HDL レベルに与える要因は,遺伝的要因が50%,環境的要因が50%と考えられている.現在では遺伝子解析法も進歩し,HDL レベルに関連する多くの遺伝子が同定されている.HDL 合成に関連するアポ蛋白A-Ⅰ(apoA-Ⅰ)やATP-binding cassette transporter 1(ABCA1),そしてHDL 代謝に関連するcholesteryl ester transfer protein(CETP)やリパーゼ群がHDL レベル制御の中心的な役割を果たしている.環境的要因のなかで,生活習慣不摂生に起因する高中性脂肪(TG)血症に合併する低HDL 血症が有名であり,CETP,リポ蛋白リパーゼ活性変動が一因である.生活習慣を改善することで低HDL血症は改善する.HDL レベル制御により動脈硬化性疾患を予防・治療できるかについてはいまだ確立されておらず,今後の研究進展がまたれる. -
HDL結合蛋白とその作用
245巻6号(2013);View Description Hide DescriptionHDL は多彩な抗動脈硬化作用を有するが,この作用には,末梢組織からコレステロールを引き抜き,最終的に肝へ転送するコレステロール逆転送系が重要な役割を果たしている.HDL 結合蛋白は組織におけるコレステロールの引き抜きや取込みに重要な役割を担っている.多くの組織や細胞にはSR-B1,ABCA1,Cubilin,HBP,GPI-HBP1 などのHDL 結合蛋白が存在することが明らかにされ,その分子同定や精製が進められてきた.これらのHDL 結合蛋白の構造特性,発現の組織分布,機能,制御機構が明らかにされつつあるが,いまだ不明な点も多い.とくに,SR-B1 はHDL 受容体として,ABCA1 はHDL へのコレステロール引抜きを担うトランスポーターとして広く認知されており,血清HDL 濃度のみならず血管病変への関与が証明されている.今後,既知のHDL 結合蛋白の機能解析や新しいHDL 受容体の発見などが進むことにより,HDL 研究が発展することが期待されている. -
HDLの抗酸化作用とPON1,PAF-AH
245巻6号(2013);View Description Hide DescriptionHDL の抗動脈硬化作用のひとつに抗酸化作用がある.HDL に存在し,過酸化脂質を加水分解すると考えられるエステラーゼにパラオキソナーゼ1(PON1)と血小板活性化因子アセチルヒドラーゼ(PAF-AF)があり,両蛋白の抗酸化能との関連を検討した.PON1 はおもにHDL に存在し,抗酸化能を介して血管合併症の発症・進展や死亡の抑制に関与していることが明らかにされている.一方,PAF-AH はHDL にも存在するが,おもにLDL に存在する.PAF-AH はエステラーゼ活性を有し,動脈硬化に抑制的と考えられていたが,詳細な検討によりPAF-AH は動脈硬化発症や進展のリスクと考えられるようになった.炎症などのストレス下ではPON1 は低下,PAF-AH は増加と相反して変動し,両者のリポ蛋白上の分布様式も健常状態とは異なると考えられる.HDL の抗酸化能を担っているのはおもにPON1 であり,日常診療におけるHDL の抗酸化能の評価やその制御の開発が今後期待される. -
HDL機能異常と疾患
245巻6号(2013);View Description Hide Description近年のさまざまな研究により,かならずしも血中HDL 濃度が高いほうがよりHDL が抗動脈硬化的に作用するとは限らないといわれている.HDL には,コレステロール引抜き作用のほかにも抗酸化作用,抗炎症作用,抗凝固作用,血管内皮保護作用などさまざまな抗動脈硬化作用があるが,全身炎症性疾患や各種病態ではこれらの作用が抗動脈硬化的に働かないばかりか,動脈硬化に対して促進的に働くことすらあるとされている.たとえば,冠動脈疾患(CHD)患者のHDL はむしろ抗酸化能,抗炎症能が健常人HDL に比べて弱く,動脈硬化促進的であることが報告されるなど,近年,その他の各種病態でも同様のことが示唆されている.HDL 機能を総合的に判定することは現時点では困難であるが,HDL 量以外の機能を反映する簡便かつ信頼しうる指標をつくり,あらたな治療ターゲットにしていくことが求められる. -
HDLを増加させる因子・薬物―HDL増加戦略のパラダイムシフト:量から質へ
245巻6号(2013);View Description Hide Descriptionスタチンを用いたLDL-C 低下療法による心血管疾患リスクの軽減が30%程度であることが示され,残存するリスクとして低HDL 血症が注目されている.HDL は国内外の疫学調査で心血管疾患(CVD)の負の危険因子であることがすでに示されており,抗動脈硬化作用をもつこのリポ蛋白を増加させる遺伝子,生活習慣,薬物方法の研究が進んできた.現在までに多くの遺伝子変異がHDL-C 値を増加させることが判明したが,心血管イベントを減少させないものが含まれることが示された.生活習慣では減量,禁煙,有酸素運動,適量の飲酒がHDL-C 値を増加させることが知られている.薬物療法ではスタチン,フィブラート,ニコチン酸,CETP阻害薬などがHDL-C 値を増加させるが,かならずしも心血管イベントの減少に寄与していないという現状がある.単純にHDL-C 濃度を増加させる戦略は大きな転機期を迎えつつある.HDL 濃度,すなわち量よりもその抗動脈硬化作用,すなわち質を問う時代が到来したといえる. -
コレステロール逆転送におけるCETPの意義とCETP阻害薬の是非
245巻6号(2013);View Description Hide Description高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール(HDL-C)値の低値は動脈硬化性疾患,とくに冠動脈疾患の独立した危険因子である.HDL 粒子は動脈硬化プラークよりコレステロールを引き抜き退縮させるが,引き抜かれたコレステロールエステルはコレステロールエステル転送蛋白(CETP)によりVLDL,IDL,LDL などのリポ蛋白へ転送され,さらなる引き抜きにかかわる.CETP 欠損症による高HDL 血症は動脈硬化抑制的と予想されたが,相反する報告がある.CETP の抑制によりHDL-C を上昇させるCETP 阻害薬が動脈硬化抑制をめざして開発され,いずれの臨床試験においても十分なHDL-C の上昇が達成されたが,心血管イベントの増加がみられたり有効な動脈硬化の抑制がみられなかったりとの結果であり,CETP 阻害薬によるHDL-C 上昇が動脈硬化を抑制しうるのか否かについてはなお論争が続いている. -
コレステロール逆転送系の賦活化による動脈硬化の退縮治療
245巻6号(2013);View Description Hide DescriptionHDL コレステロール(HDL-C)はいわゆる善玉コレステロールといわれているが,最近行われたHDL コレステロールを増加させる薬物を用いた大規模臨床試験の結果をみると,期待された心血管イベントの予防効果は得られていない.したがって,HDL の抗動脈硬化作用に関する研究および臨床応用は,量的な問題よりも質的な問題に焦点が移りつつある.本稿ではHDL のさまざまな機能を理解したうえで,HDL-C の質的向上をもたらす治療法の現状および開発状況について概説し,動脈硬化の退縮に迫れるかどうかを明らかにする.
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連載
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- Brain‒Machine Interface(BMI)の現状と展望 2
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BMI の神経生理学
245巻6号(2013);View Description Hide Description1990 年代末の動物実験から生まれたブレイン・マシーン・インターフェース(BMI)の起源は,1960 年代バイオフィードバック研究と1980 年代の多数の一次運動野ニューロンによる運動方向の“population coding”研究に遡る.2006 年にはじめて脊髄損傷患者に対する報告が発表されたが,ここ2~3 年でその開発研究はさらにいっそう大きく進歩した.ひとつにはデコーディング技術の発展によって,より多自由度の細かい運動の制御信号を生成できるようになり,長期間四肢麻痺であった患者が上肢の到達運動だけでなく,物体を把持する動作,その際に手首の向きをさまざまに変えてみるような動作も可能になってきた.さらに,BMI の操作対象からの感覚フィードバックの実現,また,自分の麻痺側の上肢の筋に対する機能的電気刺激法などにより,麻痺した自分の手に多様でより自然な運動を惹起する方法も開発された.このようにBMI によって数年前に比べて格段に精緻な制御が可能になってきた現況を紹介する.
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フォーラム
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- パリから見えるこの世界 16
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- がん患者の就労支援
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TOPICS
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- 消化器内科学
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- 腎臓内科学
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- 麻酔科学
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