医学のあゆみ
Volume 246, Issue 3, 2013
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あゆみ 生活習慣病とNKT細胞―病態モジュレーターの面から
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内臓脂肪症候群とNKT細胞―NKT細胞による食餌誘導性肥満の促進
246巻3号(2013);View Description Hide Description内臓脂肪症候群(メタボリックシンドローム)では内臓脂肪の蓄積に,高血糖,高血圧,脂質異常症のうち2つ以上を伴う状態と定義されている.肥満は脂肪組織における慢性炎症と考えられ,実際にマクロファージやT 細胞をはじめとする免疫担当細胞の存在と肥満との関連を示す報告が増えている.したがって,エネルギー摂取・消費を標的とするだけでなく,炎症制御という観点からの治療・予防も期待される.著者らは,T 細胞の亜群であるNKT(natural killer T)細胞欠損マウスでは高脂肪食給餌において脂肪肝の程度や脂肪細胞の肥大が抑えられ,体重増加が抑制されることを明らかにした.野生型マウスでは体重増加に伴い,脂肪組織にNKT 細胞の集積が認められ,インスリン抵抗性をきたす一方,NKT 細胞欠損マウスでは耐糖能やインスリン感受性も維持されていた.今後の研究の発展により,免疫細胞ネットワークの制御による脂肪組織炎症,さらにはメタボリックシンドロームのコントロールが可能となるか,興味がもたれる. -
脂肪組織とNKT細胞―NKT細胞は糖尿病をコントロールできるか
246巻3号(2013);View Description Hide Description脂肪組織はエネルギーを貯蔵する組織であるが,肥満に伴う慢性脂肪組織炎症がさまざまな生活習慣病の原因となることが明らかとなり,にわかに注目されている.脂肪組織炎症はマクロファージを主体とした炎症であるが,その他さまざまな免疫細胞の関与が示唆されている.NKT 細胞も肥満や脂肪組織炎症,2 型糖尿病に影響を与えることが示唆されているが,その役割や詳細な機序はいまだ不明である.最近,NKT 細胞は炎症細胞のみならず,脂肪細胞そのものと相互作用することが報告された.一方で,食餌中の脂肪酸組成の違いは肝細胞がNKT 細胞に提示する内因性脂質抗原に影響し,その結果,NKT 細胞の反応性にも影響することがわかってきた.以上の結果からNKT 細胞は脂肪細胞から提示される脂質抗原によりその反応性を変化させ,慢性脂肪組織炎症の進展に関与している可能性が推測される.脂肪組織NKT 細胞は,脂肪組織炎症や2 型糖尿病の制御の標的として十分な魅力を秘めている. -
動脈硬化におけるNKT細胞の役割
246巻3号(2013);View Description Hide Description動脈硬化の発症・進展には,血管壁局所での慢性炎症が重要であることがあきらかにされている.そのなかでも自然免疫を担うマクロファージと,獲得免疫の柱となるT 細胞が中心的な役割を果たす.ナチュラルキラーT(NKT)細胞は自然免疫と獲得免疫をつなぐ特異なT 細胞亜群であるが,糖脂質などの特異的内因性リガンドを認識して免疫応答を調節し,動脈硬化危険因子のほか動脈硬化病巣の発症・進展に深く関与することが解明されている. -
心筋梗塞後の心筋リモデリングおよび心不全におけるNKT細胞の役割
246巻3号(2013);View Description Hide Description心筋梗塞(MI)や高血圧などの疾患を基礎として,最終的には心不全を引き起こす.このとき,心筋リモデリングとよばれる構築変化をきたし,機能障害を悪化させる.これには神経体液性因子の活性化や慢性炎症が関与していることが知られている.著者らは,心筋リモデリングに及ぼすNKT 細胞の役割について検討した結果,心筋にNKT 細胞が存在し,心不全ではNKT 細胞が増加していた.さらに,α-GC 投与によるNKT 細胞活性化の心不全に対する有効性を動物実験で証明した.MI 後心不全では,MI 急性期,梗塞部の修復過程,心筋リモデリングの形成過程,代償不全期のそれぞれで,さまざまな免疫担当プレイヤーが複数の役割を果たし,相互に修飾していることがこれまでの研究で明らかとされてきた.NKT 細胞はこれらの複数のプレイヤーの役割を適正化し,指揮・統制し,保護的な役割を果たしていると考えられた. -
非アルコール性脂肪肝炎の病態形成におけるNKT細胞の関与
246巻3号(2013);View Description Hide Descriptionメタボリックシンドロームの肝病変である非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD),なかでも進行性の病態を呈する非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の病態形成には,肝マクロファージ(Kupffer 細胞)に加えてNKT 細胞などの肝内自然免疫系細胞が重要な役割を演じていることが明らかになってきている.種々の脂肪性肝炎モデルで肝NKT 細胞の発現低下や機能異常が報告されており,NKT 細胞の枯渇は,肝臓の脂質代謝の変調,炎症・組織損傷修復機転の異常や腫瘍免疫サーベイランスの低下などを惹起し,脂肪性肝炎の発症・進展のさまざまなステップに深く関与していることが示唆される. -
非アルコール性脂肪性肝疾患とNKT細胞
246巻3号(2013);View Description Hide Description非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は肥満や糖尿病,高インスリン血症,脂質異常症を伴っていることが多く,全身性疾患であるメタボリック症候群の肝における表現型としてとらえられている.肥満者の増加とともにもっとも頻度の高い肝疾患のひとつとなっている.その病像は単一ではなく複雑多岐にわたり,病態形成には多くの因子が関与している.Natural killer T(NKT)細胞は肝に比較的豊富に存在すること,脂質を認識すること,代謝異常との関連が示唆されることから,NKT 細胞とNAFLD との関連に関する研究が精力的に行われている.本稿ではNAFLD の病因・病態へのNKT 細胞の関与や役割について概説し,今後の展望につなげたい. -
なぜ頭部外傷や脳卒中の患者は感染症にかかりやすいのか―脳血管障害後の免疫抑制とNKT細胞
246巻3号(2013);View Description Hide Description1800 年代から重症脳外傷の患者はさまざまな感染症にかかりやすいということが知られていたが,その背景にあるメカニズムは不明であった.ある種の細胞が全身的な免疫を制御しうるという考えが提唱されてきたが,このような細胞のひとつがインバリアントNKT(iNKT)細胞である.iNKT 細胞は20 年以上前からT 細胞とNK 細胞のハイブリッド的なものとして認識されてきたが,幅広く免疫応答を制御する自然リンパ球という独特な細胞系譜に属していることが判明している.iNKT 細胞の活性化は逆説的であるが,IFN-γ産生を介して免疫系を刺激もし,IL-10 産生を介して免疫応答を抑制もするのである.最近のイメージングや生体内顕微鏡観察技術の進歩は,これらを用いない手法では不可能であった脳外傷におけるiNKT 細胞動態についての新知見を明らかにした.確実に,イメージングはヒト疾患モデルにおけるiNKT 細胞を視覚化する方法に革命を起こしたのである.本稿では,外傷時に脳が交感神経系を介して炎症を低減して,脳を守るためにシグナルを送っていることを示す.そして,iNKT 細胞がこれらの免疫学的な変化の中心にあって,治療標的にすえることで易感染性が解消されるというのが著者らの確信である. -
抗癌治療に有用なNKT細胞のiPS細胞からの分化誘導
246巻3号(2013);View Description Hide DescriptionナチュラルキラーT(NKT)細胞は,多様性がない均一なT 細胞抗原受容体(マウスではVα14 Jα18,ヒトではVα24 Jα18)によって抗原提示分子CD1d に提示される糖脂質を認識する免疫系で,自然免疫と獲得免疫の間に位置し,免疫系全体を調節・制御する役割を担っている.NKT 細胞が保持する多機能性のなかでもIFN-γ産生を中心とするアジュバント効果による抗腫瘍免疫や感染症に対する防御反応はとくに注目を集めており,糖脂質抗原α-ガラクトシルセラミド(α-GalCer)を用いた末期肺癌治療は,有効な非臨床試験成績を踏まえ,高度先進医療の認可を受けている.本稿では,抗癌治療に有用なNKT 細胞を大量に分化誘導し補充療法を行うことをめざして,人工多能性幹細胞(iPS 細胞)の樹立と抗癌治療に機能を発揮するNKT 細胞の試験管内大量誘導について紹介する.
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連載
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- Brain-Machine Interface(BMI)の現状と展望 9
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中枢聴覚路刺激による聴力再建
246巻3号(2013);View Description Hide Description聴覚に関するBrain Machine Interface(BMI)で先鞭をつけかつ成功したものの代表が,人工内耳である.内耳損傷による聾に対し,蝸牛で蝸牛神経を電気刺激し聴力を回復しようとするもので,これにより電話の聴取が可能となるものも多い.一方,両側の蝸牛神経が損傷した患者には人工内耳は無力で,より上位の中枢神経路刺激による聴力回復が試みられている.1 つが延髄蝸牛神経核刺激でもうひとつが中脳下丘刺激である.両側蝸牛神経障害は両側に聴神経腫瘍の発生する神経線維腫症第2 型という遺伝性疾患がおもな対象であるが,しだいにそれ以外の聾(先天性過牛神経形成不全や外傷など)にも応用されつつある.ただ,いずれも人工内耳ほどの聴力回復には至らず,現在,より高度な聴取能の獲得をめざし研究が進んでいる.
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フォーラム
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- 近代医学を築いた人々 19
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- がん患者の就労支援 8
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主治医ができるがん患者の就労支援―臨床現場の好事例からまとめた5つのポイントの紹介
246巻3号(2013);View Description Hide Description◎主治医によるがん患者の就労支援は日常診療におけるちょっとした工夫で可能となる.◎その最大ポイントは患者のおかれている就労(生活)背景を理解することである.◎主治医はがん患者のエンパワーメントを高めることにも貢献できる. - 書評
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『別冊・医学のあゆみ 呼吸器疾患―state of arts Ver.6』(北村 諭・巽 浩一郎・石井芳樹 編)
246巻3号(2013);View Description Hide Description
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TOPICS
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- 生化学・分子生物学
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- 免疫学
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- 加齢医学
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