医学のあゆみ
Volume 246, Issue 5, 2013
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【8月第1土曜特集】 細胞死Update―基礎から臨床までを俯瞰して
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- 多様な細胞死の実態
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死細胞誘導シグナルの可視化
246巻5号(2013);View Description Hide Description細胞死は生理学的に重要なプロセスのひとつであり,その恒常性の破綻はさまざまな疾患を引き起こすことが知られている.近年,細胞死の分子レベルでの理解が飛躍的に深化し,それに伴い死細胞誘導シグナルを特異的に検出するイメージング技術が発展している.とくに,螢光や生物発光を利用したイメージングは,高い時空間分解能での細胞内シグナル解析を実現するとともに,動物個体の分子イメージングへ展開することができる.本稿では生物発光蛋白質を利用した細胞と動物個体の死細胞イメージングに焦点を絞り,最近のあらたなイメージング技術を紹介する. -
オートファジー細胞死―恒常的オートファジーとオートファジー細胞死の比較
246巻5号(2013);View Description Hide Description自己構成成分を分解するシステムであるオートファジーは,多くの場合は生に貢献するために機能している.しかし,細胞に強い刺激が加わると,過剰なオートファジーとともにオートファジーを介した細胞死が実行される.このオートファジー細胞死は,アポトーシスの代替機構として傷害細胞や不必要な細胞の処理を担っている.オートファジーで細胞死が実行されるときには,オートファジーの異常な亢進が重要である. -
シクロフィリンDに依存したネクローシス
246巻5号(2013);View Description Hide Description単離ミトコンドリアで見出された膜透過性遷移現象(MPT)がシクロスポリンA で抑制されることから,その標的としてシクロフィリンD が示唆されるようになり,最終的にシクロフィリンD(ppif- / -)欠損マウスの作製・解析により,シクロフィリンD のMPT への関与に実験的証拠が与えられた.さらに,シクロフィリンD 欠損マウスおよびこのマウス由来の細胞を利用することで,シクロフィリンD 依存的なMPT が特定の刺激によるネクローシスに関与すること,またこのネクローシスが心臓や脳の虚血再灌流傷害による細胞死の主要なメカニズムであることが示された.本稿では,シクロフィリンD 依存的なMPT およびそれを介したネクローシスついて概説し,この細胞死機構の疾患との関連についても最近の情報を網羅する. -
酸化ストレスによって誘導される多様な細胞死の分子機構
246巻5号(2013);View Description Hide Description活性酸素種の過剰な発生により酸化ストレスに曝された細胞は,細胞死シグナルをオンにして死に至る.プログラムされた細胞死誘導機構として,酸化ストレス依存的にアポトーシスが誘導されることはよく知られている.一方,酸化ストレスによってネクローシス様の細胞死が観察されることも以前より知られていたが,これは重度の傷害を受けた細胞の受動的な死であるととらえられていた.しかし近年の研究から,この酸化ストレスによって誘導されるネクローシスにも,それを実行するためにあらかじめ用意された分子機構が存在することが明らかとなってきた.本稿では酸化ストレス,とくに実験的に用いられる過酸化水素誘導性細胞死の分子機構を概説する.なかでも過酸化水素依存的なネクローシスに関与する分子群と,著者らが明らかにしてきたシグナル伝達分子ASK1 の酸化ストレス依存的細胞死における役割に焦点をあて,最新の知見も交えて紹介したい. - 細胞死の多様な機能
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細胞死が推進する上皮組織の維持・形成と移動―死してその先にあるもの
246巻5号(2013);View Description Hide Description個体で起こる細胞死は,適切な時期と場所で細胞を取り除くことで,発生過程における組織を彫塑して個体の形づくりを行っている.一方で細胞死は除去や彫塑を必要としないさまざまな組織の形態形成過程においても観察される.近年の光学技術の発達によって,生きた個体のなかで細胞死が起こる一連の過程を観察することが可能となったことをブレイクスルーに,組織形成における細胞死の生理的役割に関する研究が急激に進んだ.細胞死のライブイメージングによって,死にゆく細胞と周辺細胞との時空間的な相互作用が解析可能となり,人工的・遺伝学的な死細胞数の操作から細胞死のあらたな役割が提示された.細胞死は不要な細胞を除去するというだけではなく,周辺細胞の増殖を受けて組織全体の細胞数を調節する役割や,接着する隣接細胞との相互作用によって張力を発生させるなど,より積極的な方法で組織の恒常性を維持し,組織形成を推進していることが明らかになってきた. -
アポトーシスの頭部神経管閉鎖における役割
246巻5号(2013);View Description Hide Descriptionプログラム細胞死は,多数の細胞からなる細胞社会の秩序を維持する機構である.われわれヒトを含む哺乳類の脳神経系形成のはじめ,神経管閉鎖過程では,アポトーシスとよばれるプログラム細胞死の一形態が多数生じる.アポトーシス阻害胚は頭部神経管閉鎖異常をきたすことが知られていたが,なぜアポトーシス阻害が頭部神経管閉鎖異常につながるのかは不明であった.しかし近年,哺乳類胚の頭部神経管閉鎖過程をリアルタイムで観察し,神経管閉鎖のダイナミズムを可視化することが可能となった.この解析から,アポトーシス阻害は頭部神経管閉鎖運動の円滑な進行を妨げることが明らかとなった.さらに,神経管閉鎖過程でのアポトーシス細胞のふるまいも明らかにされ,予想外の動きを示す死細胞がいることも見出された.これら一連の解析とあらたに提唱した“頭部神経管閉鎖の発生時間枠モデル”から,アポトーシスの頭部神経管閉鎖における役割を議論したい. -
転写因子E2F1が細胞の生死を決定する新しい分子機構
246巻5号(2013);View Description Hide Description転写因子E2F1 は細胞周期の進行に中心的な役割を果たしている一方で,細胞死を誘導する.またそれゆえに,癌においては頻繁にE2F1 の制御に異常がみられる.したがって,E2F1 による細胞の生死の決定がどのように制御されているかを理解することは非常に重要である.翻訳後修飾は,蛋白質の活性を制御するメカニズムとしておおいに注目されている.著者らと他のグループは,ユビキチン様蛋白質であるNEDD8 によってE2F1 が翻訳後修飾されること,およびE2F1 のNEDD8 化がE2F1 の活性を負に制御することを報告した.このほかにも翻訳後修飾によるE2F1 の活性制御について近年多数の報告がなされている.本稿ではこれらについて概説したい. -
オートファジー細胞死と癌
246巻5号(2013);View Description Hide Descriptionオートファジーの変調が発癌の一因となっている可能性が,実験的・臨床的に示されている.その発癌原因のひとつとして,癌細胞のオートファジー細胞死に対する抵抗性が考えられる.この抵抗性はJNK の活性化が十分でないことに起因する. -
Fasで除去される新規2型免疫細胞とIgE抗体産生
246巻5号(2013);View Description Hide Description代表的なデスレセプターのひとつであるFas は,そのリガンドであるFasL やアゴニスティックな抗Fas 抗体と結合することで強くアポトーシスを誘導することが知られている.Fas を介したアポトーシスの欠損は自己免疫疾患の発症につながることが報告されており,“Fas と自己免疫疾患の関係性”については長年研究されてきた.しかし,“Fas の欠損とアレルギー性疾患の関係性”については報告がなかった.著者らはBALB/c 遺伝背景下において,Fas ノックアウトマウスが血中IgE 値の劇的な上昇とアレルギー性炎症を伴った眼瞼炎を発症することを報告した.このマウスの詳細な解析から,B 細胞と直接接触することによってIgE 抗体産生を促進するあらたな2 型免疫細胞を発見した.この新規2 型免疫細胞はFas を発現し,in vitro においてアゴニスティックな抗Fas 抗体によりアポトーシスが誘導された.これらの結果から,Fas の欠損により新規2型免疫細胞へのアポトーシスが誘導されないことで,アレルギー発症につながる可能性が示唆された. - 死細胞が発するシグナル
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細胞死と代償性増殖
246巻5号(2013);View Description Hide Descriptionストレスや傷害によって生じた細胞の消失は生き残った細胞に対して付加的な分裂を誘導することが知られており,この現象は代償性増殖とよばれている.近年,さまざまなモデルを用いた分子遺伝学的研究から,死にゆく細胞は単に貪食されるだけでなく,ある状況下においては積極的にさまざまな因子を放出することで,組織修復や再生などに積極的な働きをもつことが明らかにされてきた.このなかで,代償性増殖の亢進は癌の発生促進など病態悪化に関与していることも示唆されている.難治疾患の多くが,細胞死やそのエフェクターとなる酸化ストレスなどと密接なかかわりをもつことを考慮すると,さまざまなモデルを用いた代償性増殖のメカニズムの解明は,生体の恒常性維持機構の理解につながるだけでなく,これまでにないあらたな治療標的を提供してくれる可能性があり,その発展が期待される. -
細胞競合―状況依存的な細胞死と代償性の増殖
246巻5号(2013);View Description Hide Description“細胞競合”とは同種の細胞間の適者生存競争であり,適応度が相対的に高い細胞(winner)が低い細胞(loser)を排除してその場に置き換わる現象である.この現象は,競合のwinner によって誘導されるloser の状況依存的な細胞死と,死につつあるloser によって誘導されるwinner の代償性の増殖促進が起こることで,効率的に進行すると考えられている.このような“状況依存的細胞死”と“代償性増殖”の分子機構が,ショウジョウバエを用いた遺伝学的解析により明らかになりつつある. -
パイロトーシス:新しいネクローシス様プログラム細胞死
246巻5号(2013);View Description Hide Description細胞内寄生細菌などはマクロファージによる貪食を誘導し,マクロファージに寄生して宿主内での増殖・拡散に利用する.一方,マクロファージは病原体に感染するとIL-1βやIL-18 などの炎症性サイトカインを放出して周囲の細胞に危険を知らせると同時に,パイロトーシスと呼ばれる速やかな細胞膜の崩壊を伴うプログラム細胞死を起こすことで,細菌の増殖の場となっている自らを消去する.IL-1βやIL-18 の分泌とパイロトーシスはいずれもカスパーゼ1 依存性の応答で,カスパーゼ1 の活性化はインフラマソームとよばれるアポトソームと類似の複合体の形成によって誘導される.したがって,マクロファージのこれらの応答は一体として起こるように仕組まれており,そのことが感染防御に寄与していると考えられる. -
死細胞を認識する受容体Mincle
246巻5号(2013);View Description Hide Descriptionわれわれの体では日々新しい細胞がつくられるのと同時に,死細胞が発生している.近年,死細胞は単に捨て去られるゴミではなく,さまざまなシグナルを発して生体応答を惹起する情報発信体であるという概念が提唱されている.実際に,死細胞を認識してさまざまな生体応答を惹起する受容体が多数見つかっている.そのひとつに,C 型レクチン受容体Mincle がある.Mincle は組織傷害により発生した死細胞を認識して炎症性サイトカインの産生や,好中球浸潤を誘導する.興味深いことに,Mincle は死細胞だけでなく,結核菌や病原性真菌も認識する.すなわち,Mincle は自己と非自己に起因する危機を感知して炎症反応を惹起するユニークな免疫活性化受容体である. - 細胞死の制御による疾患治療
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2型糖尿病における膵β細胞死とオートファジー
246巻5号(2013);View Description Hide Description2 型糖尿病発症予防において膵β細胞死のメカニズム理解は重要である.蛋白分解機構のひとつであるオートファジーは細胞機能維持を担い,ヒト2 型糖尿病膵においてもオートファジー不全の関与が示唆されている.膵β細胞においてインスリン抵抗性存在下でオートファジーが誘導され,インスリン抵抗性の増大・継続によりオートファジー不全がもたらされる.インスリン抵抗性存在下における膵β細胞の機能維持にオートファジーは必須であることが示されている.また,従来より膵β細胞死との関与がいわれている高血糖,高遊離脂肪酸血症,酸化ストレス,小胞体ストレス,炎症などとも,オートファジーは密接にかかわることが報告されている.以上より,オートファジー不全による膵β細胞死は糖尿病発症において重要な因子と考えられ,オートファジーの解明は糖尿病のあらたな治療戦略,早期発見・予防につながるものと期待される. -
神経変性疾患と細胞死
246巻5号(2013);View Description Hide Description神経変性疾患の病態の根幹は神経細胞死である.これまでの解析で,遺伝的・環境的な要因で凝集しやすい蛋白質がつくられることが多くの神経変性疾患の最初のステップとなっていることが示されてきた.遺伝性神経変性疾患のひとつのカテゴリーであるポリグルタミン病の解析から,細胞内の主要なATPase であるVCP の発症への関与が明らかになり,続いて,VCP 内の一アミノ酸置換が優性遺伝性の前頭側頭葉型認知症を伴う疾患や筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因となっていることが明らかになった.このような疾患誘導性VCP ではATPase 活性が亢進していることが判明し,ATP の消費の亢進が神経変性疾患に関与している可能性が推測された.本稿ではこれまでの神経変性疾患での細胞死研究の知見を紹介するとともに,ATP の減少を抑制することで細胞死を抑制する“細胞保護療法”の可能性について議論する. -
抗Fas抗体による関節炎に対する新しい治療のアプローチ
246巻5号(2013);View Description Hide Description抗Fas アゴニスト抗体は細胞表面のFas に結合してアポトーシスを誘導する.関節リウマチ(RA)において異常増殖した滑膜細胞や浸潤リンパ球にアポトーシスを誘導してRA の進行を抑制するというコンセプトに基づいて研究が進められ,動物モデルにおいてその有効性が確認された.抗Fas 抗体ARG098 は欧州と国内において初期の臨床試験が行われ,有効性と安全性が確認されつつある.血友病性関節症(HA)における慢性関節内出血→滑膜炎→滑膜肥厚→滑膜の挟込み→関節内出血という悪循環を抗Fas 抗体によって断ち切る試みもはじまっている.変形性関節症(OA)の滑膜炎においても抗Fas 抗体によって軟骨基質分解酵素の産生を抑制し,軟骨基質の合成能を改善させ,破壊された関節軟骨を再生させることができると考えられている.
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