医学のあゆみ
Volume 247, Issue 5, 2013
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【11月第1土曜特集】 神経変性疾患―研究と診療の進歩
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- 神経変性疾患の病態機序の解明
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Proteinopathyからみた神経変性疾患の病態機序
247巻5号(2013);View Description Hide Description神経変性疾患の病態に関してproteinopathy という観点で,プリオン病の知見と比べ類似性をもとに整理した.プリオン病において認められた伝播という現象が最近,アミロイド形成を起こす種々の神経変性疾患で認められつつあり,Alzheimer 病のAβ,タウ,Parkinson 病のシヌクレインなども,マウスの脳内に接種することで伝播することが示された.同じ蛋白質の沈着でも,疾患によって異なる構造多型がある可能性も示されている.凝集蛋白質の構造が脳内で伝播することによって広範な病変を引き起こす可能性があり,このような考え方で病態がどこまで説明可能か,今後の展開が期待される領域である. -
Omicsからみた神経変性疾患の病態機序
247巻5号(2013);View Description Hide Description著者らは神経変性疾患のひとつであるポリグルタミン病において,複数のオミックス解析(トランスクリプトーム・プロテオーム・インタラクトーム解析)を通じてDNA 修復機能分子群の異常を発見し,あらたな分子病態を提示してきた.さらに,同定されたDNA 損傷修復分子のなかには,複数の神経変性疾患に共通したものも存在することが明らかになった.これらの結果から,DNA 損傷修復機能異常は神経変性の中核的病態である可能性が考えられる. -
RNA biologyからみた神経変性疾患の病態機序(1) 脊髄小脳失調症31型(SCA31)の病態
247巻5号(2013);View Description Hide Description最近,遺伝子の非翻訳領域,すなわちイントロンと5’・3’ 非翻訳領域(UTR)に存在する特定塩基のリピートが異常に伸長して発症する神経変性疾患が多数知られるようになった.この疾患群では共通して変異RNA配列が異常構造を形成するRNA foci がみられる.その一疾患であるSCA31 は日本人特有の常染色体優性遺伝性脊髄小脳変性症で,16 番染色体長腕に存在する遺伝子BEAN1 とTK2 が共有するイントロンに,変異配列TGGAA リピートが存在するために起こる.変異はBEAN1 方向の転写産物としてUGGAA リピートが,TK2 からはUUCCA リピートが発現する.対照健常人ではTAGAA やTAAAA など別のリピートが存在しても,TGGAA は存在しないことからRNA 配列の特異性が発病の鍵を握ると考えられる.本稿では,SCA31 におけるRNA レベルでのリピート配列の異常病態について解説する. -
RNA biologyからみた神経変性疾患の病態機序(2) 孤発性ALS運動ニューロンにみられるRNA編集低下とTDP-43病理の分子連関メカニズム
247巻5号(2013);View Description Hide DescriptionRNA 編集酵素ADAR2 の活性低下によるAMPA 受容体サブユニットGluA2 Q/R 部位のRNA 編集低下,およびTDP-43 病理形成は,孤発性筋萎縮性側索硬化症(ALS)運動ニューロンにみられる疾患特異的分子変化である.著者らは,ADAR2 活性低下によるQ/R 部位未編集型GluA2 の発現が運動ニューロン死の直接原因であることを孤発性ALS モデルマウスの解析から明らかにし,また孤発性ALS 患者剖検脊髄組織を用いた検討から,ADAR2 活性低下とTDP-43 病理の出現は同一の運動ニューロンにみられることを明らかにしてきた.今回,TDP-43 病理形成メカニズムが,ADAR2 活性低下・未編集型GluA2 発現によるAMPA 受容体からのCa2+流入増大が引き起こすカルパインの活性化によりTDP-43 が切断され,易凝集性断片の凝集化によって起こることをつきとめた.これらの解析を進めることにより,ALS や他の神経変性疾患の病因の理解や特異治療法の開発につながると期待される. -
RNA biologyからみた神経変性疾患の病態機序(3) ノンコーディングRNAと神経変性疾患
247巻5号(2013);View Description Hide Description近年,ヒトゲノムから従来の予想をはるかに超えるRNA が転写されていることが明らかとなった.その大半は蛋白質をコードしないノンコーディングRNA(ncRNA)であり,わずか20 塩基程度のマイクロRNA(miRNA)から何十キロ塩基にも及ぶ長鎖ncRNA まで,その内訳は多種多様である.これらncRNA の機能の多くは未解明であるが,一部のmiRNA は神経細胞の発生・分化や機能維持に必須であることが明らかにされ,神経変性疾患の病態においても積極的な役割を果たしていると考えられる.一方,神経・筋疾患に多く認められるリピート病の一部においてはノンコーディング領域にリピート配列の異常伸長が生じており,RNA レベルでの毒性の関与が示唆されている.また,リピート領域におけるアンチセンス鎖の発見もあいついでおり,長鎖ncRNA を介したあらたな病態機序が提唱されている.今後も神経変性疾患におけるこれらncRNA の重要性が明らかになるものと期待される. -
RNA biologyからみた神経変性疾患の病態機序(4) リピート伸長とRAN translation
247巻5号(2013);View Description Hide Description球脊髄性筋萎縮症,Huntington 病,そして数々の脊髄小脳失調症に代表される,三塩基反復配列の伸長異変による疾患がポリグルタミン病として認識されたの続いて,その他の3~6 塩基のユニットからなるリピート病も発見されてきた.これらのうちのいくつかの疾患は変異遺伝子から転写されたRNA のtranscript が病原性をもつことによって発症することが明らかにされている.近年,これに加えてリピートをもったRNA がATG(start codon)なしでもリボゾームでの翻訳を開始できるという事実がわかってきた.このRAN-translationとよばれる機序が,リピート疾患の発症機序に寄与するという研究結果も出はじめている.本稿では,このRAN-translation に焦点を当ててリピート疾患を考察する. -
軸索腫大を伴う遺伝性びまん性白質脳症の臨床と分子病態
247巻5号(2013);View Description Hide Description軸索腫大を伴う遺伝性びまん性白質脳症(HDLS)は神経病理学的に,広範な軸索,髄鞘の変性,脱落と軸索腫大(スフェロイド)と特徴とする白質脳症である.2011 年末に本症の原因遺伝子がコロニー刺激因子1 受容体遺伝子であることが報告されて以来,生前の確定診断例の報告があいつぎ,わが国でもけっしてまれな疾患ではないことが判明した.HDLS は成人期に発症し,前頭葉機能障害(遂行機能障害や自発性低下,無関心,感情鈍麻などの精神症状)を主徴とする.経過は急速であり,発症後数年の経過で無言無動症から死に至る.HDLS は常染色体優性遺伝性であるが,常染色体劣性遺伝性の白質脳症であるNasu-Hakola 病とは原因遺伝子の構造や発現様式,および神経病理学的所見が類似することから,両者はミクログリア病(microgliopathy)として共通の分子病態が推察されている. -
近位筋優位遺伝性運動感覚ニューロパチー(HMSN-P)とTRK-fused gene―運動ニューロン疾患の新しい病態機序
247巻5号(2013);View Description Hide Description近位筋優位遺伝性運動感覚ニューロパチー(HMSN-P)は常染色体優性遺伝形式をとり,近位筋優位の筋力低下・萎縮,著明な線維束性収縮,感覚障害などを主徴とする緩徐進行性の疾患である.その原因遺伝子として2012 年TRK-fused gene(TFG)のミスセンス変異p.Pro285Leu が報告された.病理所見では下位優位の運動ニューロン障害および感覚系障害を認め,興味深いことにTFG およびユビキチン陽性の神経細胞質内封入体のみならず,筋萎縮性側索硬化症のマーカーとされるTAR DNA-binding protein 43 kDa(TDP-43)やoptineurin が陽性の封入体も伴う.また,変異TFG を過剰発現させた培養細胞では核外にTDP-43 が蓄積する.TFG は細胞内の小胞輸送にかかわる蛋白であり,その変異に伴い,TFG 自体の異常蓄積に加えてTDP-43 など他の蛋白の輸送障害も生じると推測される. -
パーキンソン病と多系統萎縮症における遺伝因子
247巻5号(2013);View Description Hide Description遺伝因子の発見から病態機序解明が進展しつつある神経変性疾患の例として,Parkinson 病(PD)と多系統萎縮症(MSA)をあげる.PD においては,common disease-common variants 仮説に基づいて多型をマーカーに行われてきた関連解析の成果や,家族内集積性を契機に発見されたcommon disease-multiple rare variantsの一例であるGBA 遺伝子について紹介する.MSA においては,これまでに家族内集積性の知見が乏しく,遺伝因子の研究の進展がみられなかった.しかし近年,家族性MSA の原因遺伝子の1 つがあらたに発見され,孤発性患者にも共通する遺伝因子であることがわかった. -
疾患感受性遺伝子からみたAlzheimer病の病態機序
247巻5号(2013);View Description Hide Descriptionがんの家系,糖尿病の家系,脳卒中の家系…と古くから病気は遺伝が影響するのではないかと疑われてきた.Alzheimer 病(AD)も遺伝素因の関与が強く示唆され,常染色体優性遺伝形式をとる単一遺伝子病の報告に続いて孤発性AD についても多くの遺伝的感受性遺伝子が同定された.とりわけApolipoprotein E 遺伝子は民族を超えて強力なリスク遺伝子である.AD 関連遺伝子の解析法もこの10 年間で,家系をベースとした連鎖解析,同胞対解析,細胞生物学的機能から推測した候補遺伝子アプローチ,SNP ベースの大規模GWAS(Genome-wide association study),客観的バイオマーカーの中間表現型と遺伝型解析,解析も数千を超える検体数,と大きく進化した. -
神経変性疾患におけるエピジェネティクスの関与
247巻5号(2013);View Description Hide Description神経変性疾患にはさまざまなものが存在するが,その一部においてエピジェネティクスの異常がさまざまな形で関与していることが明らかになってきている.現在までに判明していることを大別すると,①エピゲノムに直接関与する機能分子の変異による遺伝性の神経変性疾患,および②孤発例におけるエピゲノム異常の関与の可能性,という2 つの点があげられる.前者でもっとも有名かつ解析の進んでいる疾患はRett 症候群であり,後者ではパーキンソン病における役割が判明しつつある. - 神経変性疾患の治療の新しい展開
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神経変性疾患に対する臨床試験・治験
247巻5号(2013);View Description Hide Description神経変性疾患は特定のニューロンの選択的脱落を特徴とし,認知・運動機能障害を呈する疾患の一群である.家族性神経変性疾患の原因遺伝子の同定,およびそれに基づく動物モデルの開発・解析などにより,異常蛋白質の蓄積を中心とした神経変性過程の分子病態が明らかとなってきており,神経変性疾患に対する根本的治療法(disease-modifying therapy)が開発されてきている.しかし,これまでに神経変性疾患の動物モデルを用いた基礎研究で病態を抑止することが示された薬剤の多くが,臨床試験では期待された効果を示さず,治療法として確立されたものは現在のところほとんどない.今後,disease-modifying therapy のトランスレーショナルリサーチを成功に導くためには,基礎・臨床両面からのアプローチが必要と考えられる. -
アカデミア主導の臨床開発の拠点とネットワーク
247巻5号(2013);View Description Hide Descriptionアカデミア主導の臨床開発の環境の整備が日本でもはじまった.東大病院をはじめ大学病院を中心に,多施設共同試験のコーディネーティングセンター機能を有した拠点が整備されてきており,それら拠点のネットワークも形成されつつある.一方,研究者の育成や疾患別ネットワークの形成はまだ十分とはいえず,神経変性領域では筋ジストロフィーネットワークやAlzheimer 病の縦断研究(J-ADNI)のネットワークなど,まだ限られている.今後,ネットワークを中心に疾患の自然歴の調査とともにその解明を行い,バイオマーカーや各疾患に適した臨床評価指標を開発し,新薬の臨床評価を行う基盤とすることが期待される. -
球脊髄性筋萎縮症に対するdisease-modifying therapy
247巻5号(2013);View Description Hide Description球脊髄性筋萎縮症(SBMA)は,緩徐進行性の四肢筋力低下・球麻痺を主症状とする遺伝性神経変性疾患である.原因遺伝子の発見をきっかけに疾患の分子病態が解明されつつあり,disease-modifying therapy の臨床応用が期待されている.テストステロンに依存する病態に着目した抗アンドロゲン療法は,SBMA マウスモデルの運動障害と病理変化を劇的に改善した.基礎研究の成果に基づき,SBMA 患者を対象としたリュープロレリン酢酸塩の臨床試験を展開している.なかでも第Ⅲ相試験は,神経内科領域におけるわが国初の医師主導治験として実施された.臨床試験の結果,リュープロレリン酢酸塩には嚥下機能を改善する傾向のあることが示されるとともに,疾患の罹病期間がその効果に影響を及ぼす重要な因子であることが示唆された.このようなトランスレーショナルリサーチの過程で,神経変性疾患のdisease-modifying therapy を実現させるためには,解決しなければならないさまざまな課題があることも明らかとなりつつある. -
アカデミア主導による筋萎縮性側索硬化症に対する新規治療法の開発
247巻5号(2013);View Description Hide Description筋萎縮性側索硬化症(ALS)は選択的な運動ニューロン死をきたし,神経・筋疾患のなかでも治療法が乏しく神経難病の象徴的疾患とされている.最近,家族性ALS の原因遺伝子として報告されたTDP-43 およびFUS/TLS 遺伝子変異に伴うALS の病態が注目されている.一方で,現在までに病態モデルとして確立しているのはSOD1 変異に伴うALS であり,このモデルを利用した治療法の開発が進められている.肝細胞増殖因子(HGF)は日本で発見された神経栄養因子であり,運動ニューロンに対する強力な保護作用が知られている.著者らはALS ラットに対してリコンビナントHGF 蛋白の髄腔内持続投与を行うことにより,明確な治療効果を確認した.臨床試験を行うためにカニクイザルに対するリコンビナントHGF 蛋白の髄腔内持続投与による安全性(毒性)および薬物動態試験をGLP 基準で行った.その結果に基づき東北大学病院において臨床試験のプロトコール開発を行い,ALS 患者に対する治験(第Ⅰ相試験)を開始した. -
アルツハイマー病に対する根本治療薬
247巻5号(2013);View Description Hide Descriptionアミロイド仮説を軸としたアルツハイマー病(AD)病態機序の理解をもとに,アミロイドβ(Aβ)をおもな標的としたAD 根本治療薬の開発が行われてきた.そのなかでも先陣を切って抗Aβ免疫療法や,Aβ産生を抑制するγ-secretase 阻害薬および制御薬の治験が行われたが,薬剤のいずれも後期臨床試験においてAD による認知症患者への有効性を示せていない.しかし,引き続きさまざまなアプローチで開発が行われており,Aβ産生の第1 段階を抑制するBACE1 阻害薬や,神経細胞死への関与が示唆されるtau に作用する薬剤の開発も精力的に進められている.一方で大規模臨床観察研究から,これらAD 根本治療薬による介入はより早期に先制医療として開始することが重要であると考えられるようになった. -
Niemann-Pick病C型の神経症状の治療
247巻5号(2013);View Description Hide DescriptionNiemann-Pick 病C 型は細胞内の脂質輸送に関与するNPC1/NPC2 遺伝子の欠損により,スフィンゴミエリン,コレステロール,糖脂質の蓄積を起こし,①脾腫,肝脾腫などの内臓症状と,②失調,嚥下障害,カタプレキシー,垂直性核上性注視麻痺,ジストニア,知的退行,精神症状などの中枢神経症状を示す,比較的まれな常染色体劣性遺伝性疾患である.スフィンゴ糖脂質合成の最初の酵素であるグルコシルセラミド合成酵素の阻害作用を有するミグルスタットが嚥下障害を含む神経症状の進行に有効であることが明らかになり,2012 年日本でも治療薬として承認された.現在,Niemann-Pick 病C 型と診断され治療を受けている日本人は約20 名であるが,ほとんどが20 歳以下である.近年,欧米では思春期以降の発症例が多く診断されるようになっており,日本人でも今後多く診断される可能性がある. -
シャペロン療法―飲んで効く脳障害の治療法
247巻5号(2013);View Description Hide Description日本で開発されたシャペロン療法は,酵素蛋白質に結合できる低分子化合物(シャペロン)を用い,細胞内で不安定な変異酵素蛋白質の構造を安定化し,酵素活性を回復させる方法で,経口投与により中枢神経障害を治療できる.本稿では著者らが開発しているGM1-ガングリオシドーシスへのシャペロン療法を概説する.2 種類のシャペロン化合物を開発し,細胞やモデルマウスの中枢神経を含む臨床症状に効果があることを明らかにした.現在,リソソーム病のみならず,さまざまな遺伝性疾患への開発が行われている.さらに,最近では酵素補充療法との併用効果なども報告され,注目されている.一方,Fabry 病などさまざまな疾患で臨床応用が進められているが,GM1-ガングリオシドーシスのシャペロン療法は臨床応用には課題が多い.Gaucher 病など既存薬からの開発により効率的なシャペロン開発の例も参考にしながら,臨床応用を進めていくことが必要である. -
副腎白質ジストロフィーに対する造血幹細胞移植
247巻5号(2013);View Description Hide Description副腎白質ジストロフィー(ALD)はABCD1 を原因遺伝子とするX 連鎖性劣性遺伝性疾患である.進行性の中枢神経障害を認め,ときに副腎不全や末梢神経障害を伴う.これまでの知見から,発症早期の小児大脳型ALDに対して造血幹細胞移植(HSCT)がなされることで良好な成績を得られることが示されている.思春期/成人大脳型ALD に対するHSCT についても,日本国内を含め数例の報告がなされており,今後さらなる症例の蓄積が重要と考えられる.ALD においてはさまざまな表現型を呈し,非大脳型から大脳型へ移行する症例も存在することから,HSCT において良好な成績を得るためには注意深いフォローアップ体制の確立,患者・家族への説明などが重要であると考えられる.さらには小児大脳型ALD に対して遺伝子治療も試みられており,今後さらなる症例の蓄積が望まれる. -
家族性アミロイドポリニューロパチー
247巻5号(2013);View Description Hide Description家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)はトランスサイレチン(TTR)遺伝子変異に起因する常染色体優性遺伝の疾患である.FAP に対しては肝移植の有効性がすでに確立しているが,病状の進行や年齢などの理由により移植の適応とならない患者が多くを占める.新規の原因療法としてジフルニサルやタファミディスなどのTTR 四量体の安定化剤が注目されている.タファミディスは2012 年にヨーロッパでFAP 治療薬として使用が開始されており,わが国でもまもなく認可される見込みである.さらに,siRNA やantisense oligonucleotideなどを用いた遺伝子治療の臨床試験も進行しており,FAP 治療はあらたな展開を迎えている. -
Crow-Fukase症候群―病態と治療
247巻5号(2013);View Description Hide DescriptionCrow-Fukase 症候群は形質細胞の単クローン性増殖を基盤として多発ニューロパチー,浮腫・胸腹水,皮膚変化(色素沈着,剛毛),M 蛋白血症,骨硬化性病変など多彩な症状を呈する全身性疾患である.病態の基盤にはおそらく,形質細胞から分泌される血管内皮増殖因子(VEGF)を中心としたサイトカインの過剰産生がある.1980 年代までは副腎皮質ステロイドを中心とした治療が行われてきたが,難治性胸腹水,腎不全から多臓器不全に至り平均33 カ月で死亡する予後不良の疾患であった.1990 年代からメルファランによる化学療法が導入され,生存期間は延長したが,神経症状の十分な回復は得られないことや再発の問題点があった.2000 年代に入り自己末梢血幹細胞移植を伴う大量化学療法が導入されて,生命予後・機能予後は飛躍的に改善した.しかし移植療法は,66 歳以上である場合や,多臓器不全が進行している場合には行えず,サリドマイド療法が2006 年ごろから試みられている.移植,サリドマイド療法の有効性は確立されつつあるが,長期的には移植後の再発が問題となる.現在は患者の年齢,重症度,全身状態を考慮しつつ,移植療法と新規薬物治療を組み合わせて長期寛解をめざす治療計画を考える時代に入っている.
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