医学のあゆみ
Volume 247, Issue 9, 2013
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【11月第5土曜特集】 活性酸素―基礎から病態解明・制御まで
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- 総論
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酸化ストレス応答研究の新展開
247巻9号(2013);View Description Hide Description活性酸素や親電子性物質によるストレスは,癌や生活習慣病,老化などさまざまな疾患の原因となる.これらのストレスの防御機構として,Keap1-Nrf2 システムが発見された.Nrf2 は,解毒代謝酵素の遺伝子発現を促す生体防御転写因子として機能し,Keap1 はNrf2 を負に制御する因子として働く.定常状態(非ストレス下)においては,Nrf2 はKeap1 に捕捉されて迅速に分解されているが,ストレスが加わるとKeap1 のシステイン残基の修飾に伴ってNrf2 分解が停止し,新規合成されたNrf2 が核に移行して生体防御酵素群の遺伝子発現を誘導する.Nrf2 の酸化ストレスなどに対する防御的な側面から,Nrf2 は発癌を抑制することが明らかにされてきたが,一方で最近,癌細胞におけるNrf2 の恒常的な活性化は癌を悪性化するという,“癌におけるNrf2 の二面性”も明らかになってきた.本稿では,Keap1-Nrf2 システムについて概説し,Keap1-Nrf2 システムと癌との関連,そして最近明らかにされてきたKeap1-Nrf2 システムとオートファジーとのかかわりについて紹介する. - 基礎編
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Noxによる活性酸素産生機構
247巻9号(2013);View Description Hide Description活性酸素(reactive oxygen species:ROS)を直接生成する一群の酵素として,NADPH オキシダーゼ(NADPH oxidase:Nox)が知られている.Nox ファミリーによって生成された活性酸素は,殺菌や甲状腺ホルモンの合成,さらにはシグナル伝達分子として有効に活用される.一方で,活性酸素はその反応性が高いため,無秩序に生成されると細胞や組織に害を及ぼす.したがって,Nox ファミリーの酵素活性は厳密に制御されていなくてはならない.本稿では,Nox ファミリーの活性制御機構について概説する. -
酸化ストレス応答キナーゼASK1の機能と疾患へのかかわり
247巻9号(2013);View Description Hide DescriptionASK1 は酸化ストレスに応答するMAPKKK であり,MAPK であるJNK やp38 を活性化することで細胞死やサイトカイン産生などさまざまなストレス応答を引き起こすことが知られている.ASK1 はストレスを感知したときにのみ活性化するように,非常に精巧な分子機構によって活性が制御されている.ASK1 は生体が適切なストレス応答を行うために非常に重要な役割を果たしているが,ASK1 がもたらす細胞死やサイトカインの産生は,ときとして疾患を増悪させる原因にもなる.本稿では,まず酸化ストレス時のASK1 活性化メカニズム,酸化ストレス応答におけるASK1 の重要性を概説する.その後に,酸化ストレスが関与するさまざまな疾患にASK1 がどのようにかかわるかについて,基礎的なデータから病態モデルを用いた研究まで紹介し,ASK1 の治療標的としての展望を含めて解説したい. -
細胞内酸化還元ホメオスタシスと概日リズム
247巻9号(2013);View Description Hide Description概日リズムは地球上の多様な生物に存在し,ホルモン分泌や代謝といった生理機能を外環境の明暗周期に適応させることで生体の恒常性を維持している.とくにヒトにおいては,概日リズムの異常が発がんやメタボリック症候群といった疾患と関連することが報告されている.概日リズムは生物に内在する分子時計により形成されるが,最近の研究により活性酸素シグナルが分子時計制御において主要な役割を担うことが明らかになってきた.本稿では,細胞内酸化還元ホメオスタシスと概日リズムの関連について,最近の知見を解説する. -
酸化ストレスで活性化する転写ネットワーク―Nrf2とミトコンドリアとのクロストークを中心に
247巻9号(2013);View Description Hide Description細胞は細胞内酸化還元状態のホメオスタシスを最適な条件に保ち機能している.このような制御のもと,ミトコンドリアの好気的代謝やNADPH オキシダーゼなどの酵素活性により産生された活性酸素種(ROS)は,単なる有害物質ではなく,細胞機能を調節するシグナルとしても機能する.細胞内酸化還元状態のホメオスタシス維持にはKeap1-Nrf2 経路を中心とする転写制御機構が重要な役割を果たしている.Nrf2 を介した生体防御機構(すなわち標的遺伝子の機能)としては細胞の抗酸化機能,抗炎症機能,プロテアソーム機能の増加などが知られていたが,近年,Nrf2 を介した酸化ストレス防御機構の一部がミトコンドリアの機能制御を介したものである可能性が注目されている.本稿では,Nrf2 とミトコンドリアのクロストークに焦点を当てNrf2経路を介した酸化ストレス防御機構について概説する. -
一酸化窒素(NO)による細胞死制御
247巻9号(2013);View Description Hide Description一酸化窒素(NO)は,細胞内Ca2+濃度上昇を引き起こす刺激や細菌感染により産生される.これらはNO 合成酵素の活性化が起こる状況を意味する.産生されたNO は多彩な生理作用を示し,その多くは可溶性グアニル酸シクラーゼ-cGMP 経路の活性化によるものであると考えられてきた.しかし,NO やNO と活性酸素の反応生成物である活性窒素種(RNS)は非常に反応性に富む物質であり,その作用点は核酸,脂質,および蛋白質と多岐にわたる.とくに,NO/RNS 修飾アミノ酸同定法の大きな進歩により蛋白質の特定のアミノ酸残基のNO/RNS による可逆的修飾反応が蛋白質の活性を大きく変化させること,さらに,NO/RNS 標的蛋白質の多くが細胞死の制御にかかわり,とりわけAlzheimer 病やParkinson 病といった神経変性疾患の病態と深く連関していることがわかってきた.NO/RNS 標的蛋白質は,これらの神経変性疾患の病態解明の鍵を握っている可能性がある. -
酸化ストレス制御によるレドックスシグナルの維持―とくに一酸化窒素(NO)によるシグナル伝達とその制御機構
247巻9号(2013);View Description Hide Description呼吸により取り込まれた酸素は,おもにATP と活性酸素種(ROS)などの産生に用いられる.慢性肉芽腫症や甲状腺ホルモン産生は生理的なROS の必要性を示す例であるが,老化や慢性疾患を含む多くの病態においてもROS が関与していることも広く知られている.生体は,反応性の高いROS の働きを限局させる消去機構を確立し,シグナルとしての強度と方向性を生み出しているようである.そのため,ROS 産生系と消去系の調和は生理活性の維持に重要であるが,破綻をきたすと病態の形成・促進機構に豹変する.一酸化窒素(NO)や硫化水素(H2S)の生理的な作用機序の解析から,シグナル伝達と制御に対する酸素の関与が明らかにされてきた.とりわけNO によるニトロシル化修飾を介したシグナル制御機構の解明は,その生理的な重要性を明らかにしたうえでROS やNO の無秩序な作用が引き起こす病態について明らかにし,あらたな治療戦略を提供している. -
活性酸素とガス状分子のシグナルネットワーク
247巻9号(2013);View Description Hide Description活性酸素は,生体内のエネルギー代謝や感染防御過程において発生する一連の反応性分子種(O2-,H2O2など)である.これまで活性酸素は酸素毒性の要因となる有害物質として取り扱われてきたが,近年になり,活性酸素が生理的なシグナル伝達機能を発揮していることが明らかになりつつある.さらに,酸化ストレスの病因論として,これら活性酸素シグナルの制御異常によるレドックス恒常性の破綻という新しいメカニズムが注目されている.興味深いことに,一酸化窒素(NO),一酸化炭素(CO)などのガス状分子,あるいは硫化水素(H2S)関連活性分子種が,活性酸素のシグナル機能の制御に密接にかかわることがわかってきた.このような活性酸素とガス状分子の多彩なシグナルネットワークの全貌を明らかにすることは,酸化ストレス病態の理解と新しい治療法の構築にきわめて重要である. -
酸化ストレスとオートファジー
247巻9号(2013);View Description Hide Description生体内で過剰に産生した活性酸素は,蛋白質,核酸,脂質などの生体分子の化学修飾により酸化ストレスをもたらす.オートファジーは酸化ストレスにより変性した蛋白質やオルガネラを消化・除去するストレス応答機構として働いている.近年,オートファジーの制御機構とその生理機能についての研究が急速に進展するに伴い,神経変性疾患やがんをはじめとしたさまざまな疾患病態とオートファジーとの関連が明らかになってきた.さらに,酸化ストレスとオートファジーのかかわりとその生理的・病態生理的な役割についても関心が集まっている.本稿では,活性酸素によるオートファジーの制御機構とその役割について最新の知見をもとに概説する. -
センサー蛋白質の化学修飾とリン酸化シグナル制御
247巻9号(2013);View Description Hide Description生体内で生成される活性酸素種(ROS)は,過剰産生の際には組織傷害をはじめとする有害性の一因と理解されていた.しかし,細胞内の何らかの刺激により合目的的に産生されるROS は,シグナル伝達の活性化に重要な役割を担っていることが広く受け入れられている.その制御の起点となる反応のひとつは,蛋白質のシステイン残基の酸化修飾である.たとえば,低いpKa 値を有するプロテインホスファターゼのようなセンサー蛋白質のチオール基が酸化修飾を受けると,細胞内シグナル伝達は活性化される.本稿では,システイン残基のレドックス制御が引き金となるリン酸化シグナル伝達を概説し,近年注目されている“親電子シグナル伝達”についても紹介する. -
TRPチャネルを介する酸化ストレスセンシング―酸化ストレス感受性を有するTRPチャネルの生理学・病理学
247巻9号(2013);View Description Hide Description外界の環境変化を感知し,その情報をカチオン/Ca2+流入に変換する生体・細胞内センサー分子として,TRP チャネルが近年注目を集めている.著者らは活性酸素種・活性窒素種によって活性化されるTRP チャネル群を世界に先がけ発見した.とくにTRPM2 が細胞死および炎症性キモカイン産生にかかわっていることを明らかにした.また,脳に発現し酸化感受性をもつTRPM7 が脳虚血後に起こる細胞死に関与していることも示した.さらに,TRPC5 やTRPV1 が一酸化窒素(NO)で活性化することも発見した.本稿では,酸化ストレスを感受するTRP チャネルの生理学・病理学的意義について議論したい. -
活性酸素センサー分子の可逆的酸化によるシグナル伝達の制御
247巻9号(2013);View Description Hide Description活性酸素(ROS)は細胞内の生体物質を酸化して傷害し,老化やさまざまな疾患の原因となることが古くから知られていた.しかし近年,ROS の生理的なシグナル伝達因子としての役割に注目が集まっている.細胞内にはROS に反応性が高く,敏感に酸化される蛋白質が存在しており,シグナル伝達を媒介するROS センサーとして機能していることがわかってきた.チロシンホスファターゼドメインをもつ蛋白質やチオレドキシンファミリー蛋白質はそれぞれ反応性が高く,酸化されやすいシステイン残基をもち,分子内でジスルフィド結合をつくるなどして可逆的に酸化される事例がいくつも知られている.蛋白質酸化に伴う酵素活性の不活化や蛋白質の構造変化に伴う分子間相互作用の変化などによって,刺激応答性のROS 産生を介するシグナル伝達の仕組みが分子レベルで明らかにされつつある. -
TNF-αによるリン酸化シグナルと酸化ストレスのクロストークと細胞死
247巻9号(2013);View Description Hide Description活性酸素種(ROS)は,蛋白質のリン酸化シグナルの改変を介して細胞応答を引き起こすとともに細胞死を誘導する.炎症の中核で機能するTNF-αはIKKβによるNF-κB の活性化を介してサイトカイン遺伝子発現を誘導するが,このシグナル伝達の過程はレドックスによる多重制御を受容している.また,TNF-αはROSを産生するが,ROS の産生はNF-κB により抑制される.TNF-αはカスパーゼの活性化を介したアポトーシスと,RIP1 とRIP3 のキナーゼ活性化を介したネクローシス(ネクロプトーシス)を誘導するが,この過程にもROS が密接に関連している.本稿では酸化ストレスによるリン酸化シグナルの制御について概説するとともに,TNF-αのシグナル伝達系とROS のクロストーク機構と細胞死の制御について紹介したい. -
がん細胞におけるKeap1-Nrf2制御系の機能と役割
247巻9号(2013);View Description Hide DescriptionKeap1-Nrf2 制御系は,外来異物・酸化ストレス応答に重要な分子機構である.転写因子Nrf2 は,通常状態ではKeap1 依存的に分解されるが,親電子性物質・酸化ストレス曝露下ではKeap1 の失活により安定化して,解毒代謝系酵素遺伝子や抗酸化酵素遺伝子の転写を活性化する.ゆえに,正常細胞におけるNrf2 活性化は,発がん性物質によるがん発症に対して抑制的に機能する.一方,がん細胞におけるNrf2 活性化は抗がん剤・放射線耐性を獲得させる.さらに,ペントースリン酸経路およびプリンヌクレオチド合成経路を活性化させることで,がん細胞の増殖を亢進させる.すなわち,がん細胞におけるNrf2 活性化はがんの悪性化に寄与している.Nrf2 はさまざまながん組織において活性化していることが明らかになりつつあり,Nrf2 を標的としたがん治療薬,とくにNrf2 阻害剤を開発することは,有効的ながん治療法の開発につながると考えられる. -
酸化ストレスとプロテアソーム機能制御
247巻9号(2013);View Description Hide Descriptionプロテアソームによる蛋白質分解は,あらゆる生命現象に関与するといっても過言ではないほど広範に働き,その重要性は広く知られている.以前より酸化ストレスとプロテアソームの関連は指摘されていたものの,その詳細は不明であった.近年,プロテアソーム会合因子の同定やさまざまなストレス条件での研究により,酸化ストレスに密接に関与したプロテアソームの巧妙な機能制御機構が徐々に明らかになるにつれ,疾患との関連も知られるようになり,ますます注目を集めている. -
時空間制御可能な活性酸素・NOの光制御型ドナー化合物
247巻9号(2013);View Description Hide Description活性酸素は生体内で酸化ストレスとして働くと同時にシグナル分子としても機能し,細胞や組織の生存,環境変化に対する応答などにかかわっている.活性酸素の多様な機能を解析するためには,着目する活性酸素を供与する化合物,すなわちドナー化合物を用いて,着目する組織や細胞に最適のタイミングで投与することが重要となる.適切な光制御型ドナー化合物を開発することで,このような投与が実現できる.光制御型NO ドナーであるDNB 類は,培養細胞系でUV-A 光により時間と位置を制御したNO 投与が可能であり,またDNB類のひとつFlu-DNB は,二光子励起による近赤外光制御によってマウス脳内の血管弛緩を制御できる.さらに,HNO やONOO-といった活性酸素についても光制御型ドナー化合物が開発され細胞系に適用されている.光制御型活性酸素・NO ドナーの開発によって,活性酸素のシグナル分子としての詳細が明らかになっていくであろう. -
レドックスメタボロミクス
247巻9号(2013);View Description Hide Description活性酸素や過酸化水素などの活性酸素種(ROS)は,その反応性の高さから,生体分子に非特異的な損傷を与えることによってさまざまな疾患の病因となる毒性分子であると考えられてきた.一方,反応性が高く不安定なROS は,生体分子(核酸,脂質,蛋白質など)を酸化・ニトロ化することによって,比較的安定な親電子性セカンドメッセンジャーに変換され,シグナルを伝達することが明らかとなってきた.このように,ROS 代謝調節を中心としたレドックス制御に関連した物質の同定・定量が進められ,それらの生体内での動向が明らかにされつつある.今後,レドックス制御に関連した代謝物質の網羅的解析(レドックスメタボロミクス)が可能となりそうである.レドックス制御の包括的な理解により,疾患の発症・進展メカニズムを解明するうえで重要な知見を得ることが期待される.本稿では,レドックス制御に関連する分子種の同定・定量法の現状について概説する. - 疾患病態・臨床編
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眼科疾患における酸化ストレス
247巻9号(2013);View Description Hide Description眼球は角膜から網膜に至るまで紫外線曝露を受けるため,酸化ストレスの影響が現れやすい臓器のひとつといえる.近年,緑内障,糖尿病網膜症,加齢黄斑変性症など失明にかかわる疾患において酸化ストレスの関与が報告され,注目されている.したがって,酸化ストレスに対する分子メカニズムを明らかにし,酸化ストレスを抑制することは,視覚障害を生じる疾患の治療法のために非常に重要であると考えられる.酸化ストレス時に中心的な役割を担うNrf2(nuclear factor erythroid 2-related factor 2)は,抗酸化機構を制御する転写因子であり,最近,緑内障・糖尿病の動物病態モデルでNrf2 の重要性が明らかになってきた.今後,Nrf2 を介した生体防御因子の発現調節機構が眼疾患の有効な治療となる可能性があり,期待されている. -
アミロイドーシスと活性酸素傷害
247巻9号(2013);View Description Hide DescriptionアミロイドーシスはAlzheimer 病など特定の臓器に限局性にアミロイド沈着をきたすタイプと,家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)など全身の諸臓器にアミロイド沈着をきたすタイプに大別される.これまで28 種類の異なるアミロイド前駆蛋白質が明らかとなっており,大きな疾患単位となってきた.いずれのタイプのアミロイド前駆物質も,プロテアーゼなどの分解や修飾を経て細胞外にアミロイドとして形成されるが,立体構造が変化し,ミスフォールディングを起こすことが重要なステップとなる.この際,活性酸素分子種が大きな役割をもつ.本稿では,限局性アミロイド―シスとして代表的な疾患であるAlzheimer 病や全身性アミロイドーシスに分類される透析アミロイド―シス,家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)などを中心に,アミロイド形成における活性酸素傷害の重要性に言及する. -
生殖細胞と酸化ストレス―酸化ストレスと不妊症
247巻9号(2013);View Description Hide Description酸化ストレスが男性精子の生成や成熟に影響を及ぼし,男性不妊の原因となることは広く知られている.最近,レドックス恒常性制御に関連するシグナル伝達の機序が明らかになるにつれて卵子形成・成熟に障害を与えたり,子宮内膜症や多囊胞卵巣症候群などの婦人科疾患とのかかわりのあることがすこしずつ明らかになってきた.また,生殖補助医療では低酸素培地や抗酸化剤の添加など,受精卵の至適な培養環境が工夫されている.本稿では,最近の知見とともに生殖細胞と疾患における活性酸素とレドックス恒常性制御機構の役割について概説する. -
代謝シグナルとウイルスRNA核外輸送のクロストーク―インフルエンザウイルスの病原性発現機構
247巻9号(2013);View Description Hide Descriptionウイルスは宿主細胞の機能/因子群を動員・略奪することで増殖する.ウイルスが侵入した宿主細胞ではウイルス・宿主の相互作用から多数のウイルス複製シグナルと細胞内応答シグナルが可動し,これらが統合されて病原性の発現に帰結すると考えられる.最近著者らは,宿主システムにおける代謝シグナルとウイルスRNA の認識・制御のクロストークがインフルエンザウイルスの病原性の発現に関与していることを見出した.具体的には,多価不飽和脂肪酸代謝物のライブラリーを用いたスクリーニングと,質量分析法による脂肪酸代謝物のリピドミクス解析を通して,ドコサヘキサエン酸(DHA)由来の代謝物プロテクチンD1(PD1)がウイルスRNA の核外輸送を抑制することでインフルエンザウイルスの増殖を抑えることがわかった.PD1 は予防的に投与しでも,これまで救命の難しかった感染48 時間後に投与しても,重症インフルエンザマウスの生存率を改善させた.これらの結果から,PD1 はインフルエンザ重症化のバイオマーカーとして,また治療薬として有用であると考えられ,代謝シグナルとウイルスRNA 制御のクロストークを標的とした抗インフルエンザ薬開発の可能性が示唆された. -
慢性閉塞性肺疾患と酸化・ニトロ化ストレス
247巻9号(2013);View Description Hide Description慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,進行性の閉塞性換気障害を特徴とする呼吸器疾患である.COPD の有病率および死亡率は年々増加し,2020 年には死因の第3 位になると予想されている.COPD の発症機序および病態の全容については,いまだ不明な点も多いが,近年の研究で,COPD の発症や進行に酸化ストレスやニトロ化ストレスが深く関係することが明らかになってきている.本稿では,酸化ストレスおよびニトロ化ストレスがCOPD の病態に及ぼす作用について,活性酸素種および活性窒素種の生物活性の観点から国内外の知見をもとに詳述する.また,COPD の病態解明や治療法の確立に向けた今後の展望について概説する. -
肺疾患における酸化ストレス応答―Nrf2を中心にして
247巻9号(2013);View Description Hide Description肺は元来,喫煙,大気汚染物質,病原微生物などの外来有害物質に対する防御機構が発達した臓器であり,緻密な抗酸化機構が存在している.近年,肺の外的酸化ストレスに応答する抗酸化遺伝子の発現誘導の機序が明らかになってきた.その中心的役割を担うのがNF-E2-related factor 2(Nrf2)とよばれる転写因子である.喫煙という慢性外的刺激が病態のおもな原因と考えられる慢性閉塞性肺疾患(COPD)においても,その発症の機序や遺伝的背景として抗酸化遺伝子の役割がこれまで多く報告されている.肺のさまざまな病態において,何らかの抗酸化遺伝子の発現低下,あるいは機能低下が病態に関与しており,それらに対するあらたな治療戦略が注目されている. -
酸化ストレスによるレドックス恒常性異常と心筋リモデリング
247巻9号(2013);View Description Hide Description酸化ストレスとは,「生体の酸化反応と抗酸化反応とのバランスが破綻し,酸化に傾いた状態」と定義され,その概念は活性酸素種(ROS)による生体分子の酸化的損傷を介する細胞機能障害と毒性発現という観点から説明されてきた.しかし最近の研究から,ROS と生体分子との反応から二次的に生成される親電子性の物質(親電子物質)もまたROS と同様に蛋白質酸化を引き起こすことが明らかとなり,活性酸素の量的変化よりも,むしろ蛋白質の酸化的機能修飾の可逆性がレドックス恒常性の決定因子となる可能性が示されつつある.著者らは心不全の発症・進展の過程で生成される一酸化窒素(NO)のシグナリングに着目し,NO と細胞内ヌクレオチドとの反応によって生成される8-ニトログアノシン3′,5′-環状一リン酸(8-nitro-cGMP)が心臓の形態構造改変(リモデリング)を引き起こすことをあらたに見出した.8-nitro-cGMP は低分子量GTP 結合蛋白質(G 蛋白質)H-Ras を標的とし,親電子修飾によるH-Ras の活性化が心筋細胞の老化を誘導する.その一方で,硫化水素(H2S)が親電子物質を直接消去することで,H-Ras による心筋老化を抑制することを個体レベルで明らかにした.生体内における親電子物質の生成・消去やシグナル伝達機構の解明は,慢性心不全など慢性炎症を基盤病態とする疾患に対する治療薬開発のための重要な手がかりになるであろう. -
心筋・ミトコンドリアと酸化ストレス
247巻9号(2013);View Description Hide Description細胞におけるエネルギー産生器官であるミトコンドリアは,酸化的リン酸化の過程で副産物としてスーパーオキシドを産生する.心筋細胞は心臓のポンプ機能の主体であり,エネルギー要求性が高くミトコンドリアが豊富であるが,心筋細胞におけるミトコンドリア由来酸化ストレスの制御の破綻は,フリーラジカル・活性酸素による細胞毒性から心機能障害を引き起こす.とくに心不全においては,心筋のミトコンドリア由来の酸化ストレスがミトコンドリアDNA を傷害し,ミトコンドリア機能を低下させ,さらに酸化ストレスを増加させるという悪循環を形成している.したがって,ミトコンドリア機能やミトコンドリア酸化ストレスの制御は心不全治療のターゲットとして重要である.近年,NADPH oxidase(Nox)が心筋における主要な酸化ストレスの産生源であり,さまざまな心疾患に深く関与していることが明らかとなった.とくにNox4 はミトコンドリアに局在しており,心筋リモデリングの発症・進展において重要な役割を果たしている可能性がある. -
酸化ストレスによる血管内皮機能異常
247巻9号(2013);View Description Hide Description血管内皮は血管の内側を覆うたった1 枚の細胞層であるが,さまざまな生理活性物質を産生・放出して血管機能制御に重要な役割を果たしている.近年,さまざまな血管内皮機能評価法が開発され,その臨床的意義が明らかになってきた.内皮機能検査や脈波速度により,動脈硬化危険因子と血管内皮機能障害の密接な関係が証明された.喫煙,高血圧,糖尿病,脂質異常症や加齢などの動脈硬化危険因子はいずれも,血管壁における酸化ストレス増加に寄与することが証明されており,その酸化ストレス誘導メカニズムを詳細に解明することは,臨床的視点に立脚した心血管疾患の新しい治療法開発に役立つ.酸化ストレスで血管平滑筋細胞から分泌されるサイクロフィリンA(CyPA)は血管内皮障害作用,血管平滑筋増殖作用,炎症促進作用を有し,動脈硬化を促進する.さらに,血漿中CyPA は動脈硬化指標として臨床的に重要なバイオマーカーであることが証明された. -
消化器疾患と酸化ストレス
247巻9号(2013);View Description Hide Description酸化ストレスはさまざまな消化器疾患の病態に深くかかわる.代表的なものとして Helicobactor pylor(i H.pylori)感染による胃粘膜障害や胃癌,炎症性腸疾患,膵炎,ウイルス性肝炎,非アルコール性脂肪肝炎などがあげられる.H. pylori 関連疾患に代表されるように,生体の防御機構を超えた過剰な酸化ストレスは炎症の持続をきたし,ときに発癌に至る.一方,急性膵炎の際には膵腺房細胞のアポトーシスとネクローシスを酸化ストレスが制御し,重症化を防ぐ生体防御的機能を果たしている可能性がある.抗酸化剤などにより酸化ストレスをコントロールすることは,消化器疾患の治療にも有用な可能性がある. -
赤血球造血・鉄代謝と酸化ストレス
247巻9号(2013);View Description Hide Description赤血球は高濃度の酸素と鉄を含んでおり,酸化ストレスが生じやすい状況下にあるため,細胞維持には抗酸化システムが必須である.この抗酸化作用の中心はグルタチオンによるラジカルの除去であり,その反応に必要なグルタチオン還元系にかかわる酵素異常は溶血性貧血の原因となる.赤血球だけでなく,生体にとっても鉄は必須である一方で,毒性の強い元素であるため,生体内・細胞内の鉄の制御は厳密に行われている.生体における鉄利用の中心はヘプシジンであり,鉄の排出分子であるフェロポルチンの発現をコントロールすることにより,鉄の吸収・再利用を制御している.細胞内においてはIRE-IRP システムが鉄関連遺伝子の発現をコントロールし,細胞内鉄濃度のバランスを保っている.さらに鉄は,フェリチン,トランスフェリンなどの鉄結合蛋白質に格納され安全性が担保されているが,この保持能を超えた病的な鉄過剰状態に至ると遊離鉄が発生し,組織・臓器障害を引き起こす. -
慢性腎臓病と酸化ストレス
247巻9号(2013);View Description Hide Description慢性腎臓病(CKD)は心血管系疾患(CVD)の強力な危険因子であり,またわが国の成人の約13%が罹患する頻度の高い疾患であることから,CVD の発症や末期腎不全への進行を抑制するために適切な管理が求められる.CKD では活性酸素種(ROS)の産生が亢進するとともに抗酸化酵素の活性や抗酸化物質の血中濃度が低下し,慢性的な酸化ストレス亢進状態に陥っており,血管内皮機能が障害され,動脈硬化が加速することでCVDのリスクが増大する.腎機能の低下に伴い体内に蓄積する尿毒素のなかには酸化ストレス惹起作用が報告されているものも多く,尿毒素の蓄積はCKD の病態のイニシエーターとして機能している可能性がある.酸化ストレスの亢進は血管障害や腎障害を惹起しさらなる腎機能の低下を招くため,腎機能低下と酸化ストレス亢進の間に悪循環が生じている. -
血液透析における酸化ストレス―新規マーカーとしての酸化型アルブミンの有用性
247巻9号(2013);View Description Hide Description血液透析(HD)患者は,尿毒症物質などをはじめとした種々の化学物質によって惹起される活性酸素種に曝露され,酸化ストレスが亢進している.健常人ではこれら活性酸素種に対し防御系が機能しており,バランスが保たれているが,HD 患者ではこのバランスが破綻し,酸化反応が優位な状態にある.酸化ストレスは生活習慣病や免疫疾患などとの関連性が指摘されているが,なかでもHD 患者では動脈硬化症,高脂血症,末梢神経障害などの合併症のリスクを高めると考えられている.本稿では,HD に深く関連する酸化ストレス誘発物質について紹介するとともに,HD 患者サンプルを用いた著者らの研究から,鋭敏な酸化ストレスマーカーとしてヒト血清アルブミンの酸化度が非常に有用なツールとなること,さらには酸化修飾されたアルブミン自身が合併症のリスクファクターであることなど,近年得られた知見をもとに概説する. -
糖尿病における酸化ストレス制御異常
247巻9号(2013);View Description Hide Description糖尿病患者における酸化ストレスの亢進は,高血糖による活性酸素の過剰産生と抗酸化機能異常といったさまざまな代謝異常の結果であるとともに,酸化ストレスの亢進自体もさまざまな代謝異常を引き起こし増悪させる.これまでに高血糖に伴うポリオール経路の亢進,プロテインキナーゼC 活性化,細胞内糖化蛋白の蓄積などの細胞内代謝異常が報告されていた.一方著者らは,糖尿病で認められる酸化ストレスの主因が高血糖によるミトコンドリア由来活性酸素の過剰産生である可能性を報告した.また,ミトコンドリア由来活性酸素が糖尿病合併症発症・進展の主因であることも提唱している.糖尿病合併症治療のために,ミトコンドリア由来活性酸素を標的とした抗酸化療法が有用と考えられる. -
糖尿病と活性酸素・ERストレス
247巻9号(2013);View Description Hide Description糖尿病の病態には酸化ストレス,小胞体ストレス,炎症などさまざまなストレスが互いに影響を与えながら深くかかわっており,その詳細な機序は現在も解明の途上である.これらのストレスは1 型糖尿病における膵β細胞死,2 型糖尿病におけるインスリン抵抗性,インスリン分泌能低下,膵β細胞量減少とかかわっており,また糖尿病腎症,神経障害などの細小血管障害や動脈硬化の進展にも深く寄与していることが明らかになってきている.本稿では,膵β細胞を中心に各ストレスの意義に触れながら,それぞれの応答と活性酸素のかかわりについて概説し,最近明らかになったBach1 欠損による抗酸化ストレス作用,膵β細胞保護効果について紹介したい. -
肝のインスリン抵抗性と小胞体ストレス・酸化ストレス
247巻9号(2013);View Description Hide Description小胞体では分泌蛋白質や膜蛋白質の修飾がなされるが,小胞体ストレスは蛋白質合成の増加やシャペロン機能の低下によって惹起され,酸化ストレスとも密接に関連している.肥満・糖尿病の肝では両者が亢進しているが,過剰なストレスやそれに対する不十分な応答はインスリン抵抗性の原因となる.最近では,インスリン抵抗性状態の肝ではシャペロンの誘導が低下し,小胞体ストレスがさらに亢進している可能性や,小胞体ストレスが脂肪酸代謝を促進し,脂肪肝の原因となる可能性も明らかとなってきた.さらには小胞体ストレス関連分子と糖新生系との関連についてもあらたな知見が得られている.今後は小胞体ストレスや酸化ストレスに着目したあらたな治療法の開発や,両ストレスが担う役割に関するさらなる知見の集積が期待される. -
酸化ストレスとインスリン様活性の相互作用が健康寿命延伸に果たす役割
247巻9号(2013);View Description Hide Descriptionインスリン様活性とは,インスリンとインスリン様成長因子(IGF)によって発現される生理活性のことで,発生,発達・成長,性成熟,代謝調節,老化に至るまで,一生の生命現象に大きな影響を与えている.インスリン様活性を発現する経路のシグナルは,他の細胞外因子のシグナルによっていろいろな段階において調節を受ける.とくに,インスリン様活性が必要以上に抑制されると,糖尿病や神経変性疾患,動脈硬化などの多くの疾病が誘導される.この抑制のすくなくとも一部は酸化ストレスに起因することが明らかになりつつある.本稿では,インスリン様活性について概説した後,酸化ストレスとインスリン様シグナルの相互作用と疾病あるいは寿命との関連を紹介し,最後に健康寿命延伸における酸化ストレスとインスリン様活性の調節の重要性について考察する. -
自然抗体:危険シグナルを感知する正義の味方
247巻9号(2013);View Description Hide Description自然免疫を担う分子のひとつである自然抗体は,感染のない健康な生体内にも存在し,生体防御における中心的な役割を果たしている.自然抗体はアポトーシス細胞や修飾蛋白質など,内因的に生成される異常分子を認識し排除する.アポトーシス異常を主因とする自己免疫疾患では自然抗体の過剰産生がみられ,アポトーシス細胞や自己反応性細胞に対する生体防御の役割を担うものと考えられている.さらに,自然抗体は酸化変性リポ蛋白質やグリケーション産物などの修飾蛋白質をリガンドとして認識するほか,同じ自然抗体がDNA を認識するなど,多重交差性を示すものも見出されている.こうした自然抗体の抗原認識機構として,リガンドの電気的性質(陰性荷電)の関与が示唆されている. -
細胞死に伴う酸化ストレスの生体恒常性維持における役割
247巻9号(2013);View Description Hide Description活性酸素種(ROS)の産生は,細胞内外のさまざまな分子の働きにより抑制されているが,その産生は細胞死に伴い亢進することが知られている.そしてROS の産生亢進は,有害物質として疾病の発症や増悪に関与しているだけでなく,特異的なシグナル伝達機構の活性化やサイトカイン産生を介して,組織修復など生体の恒常性維持にかかわっていることが近年明らかとなってきた.本稿では,細胞死に伴うROS の産生制御と生体の恒常性維持機構との関連について紹介したい. -
NOと神経変性疾患―ナルコレプシーの発症メカニズムに関する最近の知見
247巻9号(2013);View Description Hide Description一酸化窒素(NO)は,ニューロンの変性を伴う種々の疾患の病理形成過程に関与する.慢性的経過をたどる神経変性疾患の場合,蛋白質合成時のジスルフィド結合形成の過誤を修復するプロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)がNO によるS-ニトロソ化修飾で不活性化される結果,折りたたみ異常を起こした蛋白質の蓄積と小胞体ストレスの亢進を伴って神経細胞死が誘導される,といったメカニズムが提唱されている.著者らは,ナルコレプシーなどの疾患において認められる視床下部オレキシンニューロンの選択的変性が,PDI のS-ニトロソ化修飾を介して生じる可能性を見出した.オレキシン-A 分子内に2 対のジスルフィド結合が近接して存在することや,オレキシンニューロンの近傍にNO 産生ニューロンが多数存在することなども,この選択的変性の誘導にかかわっている.神経ペプチドの折りたたみ異常が神経疾患の病理形成にかかわることを示した初の事例としても興味深い知見といえる. -
核酸の酸化損傷に起因する神経変性の分子機序―8-オキソグアニンはDNA修復反応に依存して神経変性を引き起こす
247巻9号(2013);View Description Hide Description多くの神経変性疾患では,核酸塩基のなかでもっとも酸化されやすいグアニンの主要な酸化体である8-オキソグアニン(8-oxoG)が多量に蓄積することから,8-oxoG が神経変性に関与する可能性が示唆されていた.著者らはHuntington 病や網膜色素変性症のモデルマウスの解析から,8-oxoG が神経変性を引き起こす分子機序を明らかにした.酸化ストレス下の細胞ではDNA 中のグアニンよりヌクレオチドプール中のdGTP がより酸化されやすく,生じた8-oxo-dGTP は複製に伴ってゲノムDNA に取り込まれる.神経細胞ではおもにミトコンドリアDNA に,一方,ミクログリアでは核DNA に8-oxoG が蓄積する.複製の過程で鋳型DNA 中の8-oxoG に対して取り込まれたアデニンはMUTYH で切り出されるが,その修復過程で一本鎖切断が過剰に生成される.その結果,ミトコンドリアDNA の分解や核内でのPARP の活性化を介して2 つの異なるプログラム細胞死が起動され,神経変性が進行する. -
炎症・酸化ストレスと発がん―鉄と炎症のあらたなリンク
247巻9号(2013);View Description Hide Descriptionがんは1981 年以降日本人の死因の第1 位を占めており,年齢調整死亡率はやや低下傾向にあるものの,死亡数は増加の一途をたどっている.こういう状況においては,がんの原因として万人に共通の基盤があると考えざるをえない.われわれは酸素なしで生きることはできず,それに伴って活性酸素が発生しており,また,その活性酸素を殺菌などにも利用している.こうした活性酸素のなかでもヒドロキシラジカルやその類縁化学種は反応性がきわめて高く,ゲノムの情報改変の原動力となる.感染性あるいは非感染性の炎症は酸化ストレスを増強する.また,体内過剰鉄はフェントン反応の触媒となるという意味から重要であり,しかも炎症と局所の鉄過剰はリンクすることがわかってきた.年2 回の瀉血ががん予防となるという趣旨の論文報告もあり,この領域におけるさらなる研究発展が望まれる. -
活性酸素による癌の悪性化進展(プログレッション)
247巻9号(2013);View Description Hide Description癌の発生と悪性化進展は多段階の連続した過程を経て進行する.なかでも悪性化の進展は,癌死に直結する悪性形質を獲得する発癌の最終段階である.その獲得形質は,①増殖促進,②運動・浸潤・転移能,③治療抵抗性に大別される.活性酸素はいずれの形質の獲得にもかかわることが明らかになってきた.また,腫瘍組織は癌細胞と間質細胞から成り立つことから,各細胞由来の活性酸素が癌の悪性化にいかにかかわるのかを概説する.さらに,活性酸素は生成系と消去系(抗酸化酵素・抗酸化物質)により生成量が調節されることから,これらの観点からも整理した. -
癌幹細胞における酸化ストレス回避機構
247巻9号(2013);View Description Hide Descriptionこれまで,癌組織に存在するすべての癌細胞は自分と同じ性質をもった細胞のコピーを無限に生み出す能力をもっており,元の癌組織と同様の癌を形成する能力を獲得していると考えられてきた.しかし,近年のさまざまな研究によって,癌組織においても正常組織にみられるような幹細胞を頂点として構成される階層性組織構築が存在し,少数の癌幹細胞とそこから派生した多数の非癌幹細胞から構成されるのではないかと考えられてきている.癌幹細胞の存在が臨床的に問題視されるのは,酸化ストレスなど,細胞にダメージを与えるようなストレスに対し高度な防御システムをもっていることにある.そのため,抗癌剤や放射線などの癌治療によって受けるストレスに対して,癌幹細胞は生き残り治療後の再発や転移につながるのではないかと考えられており,癌幹細胞のストレス抵抗性メカニズムを明らかにすることは,あらたな治療標的の発見や効果的な癌治療の確立につながると考えられる.
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