医学のあゆみ
Volume 247, Issue 10, 2013
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【12月第1土曜特集】 遺伝子・再生医療研究から学ぶパーキンソン病
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- PARK遺伝子研究の現状
- 【α-synuclein(PARK1/4)】
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α-synuclein(PARK1/4)の機能・構造・線維形成
247巻10号(2013);View Description Hide Descriptionα-synuclein は家族性パーキンソン病(FPD;PARK1/4)の原因遺伝子産物であり,弧発性PD やLewy 小体型認知症などを含む,シヌクレイノパチーと包括されるこれらの疾患にかかわる重要な分子として注目されている.病理学的特徴として複数の蛋白質の凝集塊であるLewy 小体の形成がみられ,その主要構成成分がα-synuclein である.α-synuclein はnatively unfolded protein と以前はよばれていたが,最近ではintrinsicallydisordered protein(IDP)のひとつとして蛋白質科学者のなかで位置づけられている.しかし,2011 年にα-synuclein は細胞内ではテトラマーを形成しているという衝撃的な論文が発表された1).いまだ謎が多いα-synuclein に関して,現在の知見と著者らが考える線維形成機構について述べる. -
αシヌクレインの生理作用
247巻10号(2013);View Description Hide Descriptionαシヌクレイン(ParkⅠ.Ⅳ)の生理的作用はいまだに明確になったとはいえず,その病理作用に関する研究に比べて大きく遅れている感がある.その理由のひとつはパーキンソン病(PD)などのシヌクレイノパチーとの関連で,αシヌクレインの神経変性における病理作用が生理的作用よりも重視されてきたからであろう.また,従来のαシヌクレインの病理作用は主として病気の進行期におけるものをとらえてきたことから,生理作用とは距離をおいたものであるという理由も考えられる.しかし,昨今強調されている神経変性疾患に対する早期治療,あるいは発症前治療の概念に基づけば,生理作用が徐々に破綻し,病的作用としてみなされるようになるその時期の病態こそが重要な局面であろう.したがって,以前にも増して生理作用の理解が必要になるものと思われる.同様の事態はAlzheimer 病(AD)におけるアミロイド前駆体蛋白APP にもいえることであり,神経変性疾患の研究において普遍的な問題であろう. -
α-synuclein(PARK1/4)機能における翻訳後修飾の役割―リン酸化研究の現状
247巻10号(2013);View Description Hide Description神経変性疾患では異常凝集物の主要構成分子が家族性の原因遺伝子として同定される.この事実は,その分子の異常凝集過程が疾患の病態に深く関与していることを示唆する.パーキンソン病(PD)でこの分子に相当するのがα-synuclein である.Lewy 小体として異常沈着しているα-synuclein は多様な翻訳後修飾を受けている.もっとも優位なものはSer129 のリン酸化である.これまでの研究結果は,Ser129 のリン酸化がα-synuclein の分解と神経毒性をコントロールする役割を担っていることを示している.しかし,既報告は相反する結果に満ち,単純な考えに収束しない.本稿では翻訳後修飾のなかでもSer129 のリン酸化に焦点をあて,これまでの研究結果を整理し,混沌とした状況からα-synuclein の機能に及ぼすリン酸化の役割として何がみえてくるか考える. -
Park1/Park4:病理
247巻10号(2013);View Description Hide DescriptionPark1/Park4 は,いずれもαシヌクレイン遺伝子変異による常染色体優性遺伝性パーキンソン病(PD)である.Park1 は点変異,Park4 は三重複が最初に発見され,続いて二重複が同定された.Park1 は世界中で現在,4 点変異の報告があるのみできわめてまれである.わが国ではG51D の臨床例があるのみであるが剖検は得られておらず,同一家系2 剖検例の神経病理所見はイギリス・フランスの剖検例と類似するが,いずれも凍結材料がなく遺伝子的確認はできていない.重複例についてはわが国では三重複例はなく,二重複例の剖検例が報告されている.神経病理学的に,抗αシヌクレイン抗体免疫染色陽性グリア細胞質内封入体の数が多いことと,海馬CA2/3 領域の細胞脱落がめだつことが共通しており,G51D の場合は腫大神経細胞の出現が特徴とされている.PD 剖検例に上記所見を見出したときは,αシヌクレイン遺伝子解析が確定診断上必要である. - 【Parkin(PARK2)】
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ユビキチン連結酵素Parkinがミトコンドリアの異常によって活性化される仕組み
247巻10号(2013);View Description Hide DescriptionPINK1 とParkin は遺伝性劣性パーキンソニズムの原因遺伝子産物であり,PINK1 はプロテインキナーゼ,Parkin は基質にユビキチンを付加するユビキチン連結酵素(E3)である.非常に重要なことに,普段はParkinの酵素活性は完全に抑えられており,細胞内のミトコンドリアが異常になったときにのみ,その酵素機能が発動するように制御されている.2013 年に生化学的な解析や構造生物学的な解析から,①Parkin は分子内結合によってE3 活性を自分自身で抑圧している“自己阻害型E3”であること,②PINK1 依存的にParkin の自己阻害が解除されて活性化されること,③活性型に変換されたParkin は431 番目のシステイン上でユビキチン-チオエステル結合を形成し,この中間体を介して基質をユビキチン化すること,が示された.Parkin の酵素活性を制御するメカニズムは長い間不明であったが,ようやくその全貌が明らかになりつつある. -
パーキン関連蛋白
247巻10号(2013);View Description Hide Descriptionパーキンはもっとも高頻度に発症する遺伝性パーキンソン病(PARK2)の原因遺伝子であり,RING ドメインを有する多くの蛋白と同様に,ユビキチンリガーゼ(E3)活性を有することが知られている.これまでの研究の結果,パーキン蛋白はきわめて複雑な機能を有していることが明らかになった.パーキンのユビキチンリガーゼ(E3)に対応する基質については,きわめて多様な蛋白が同定されている.本稿ではパーキンの機能を,ユビキチンリガーゼ(E3)活性に関連するものと,これに依存しないと考えられるものに分け,パーキン関連蛋白の側面から概説する. - 【UCHL-1(PARK5), GIGYF2(PARK11)】
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UCH-L1(PARK5),GIGYF2(PARK11)の研究の現状
247巻10号(2013);View Description Hide DescriptionPARK5(常染色体優性遺伝,4p13)について,1998 年にドイツのパーキンソン病(PD)家系でUCH-L1(ubiquitin C-terminal hydrolase L1)のI93M 変異が報告された.ただし,これまでに当初家系以外にI93M 変異を有するPD 家系は報告されていない.発症浸透率が100%でないことからI93M UCH-L1 については原因となる遺伝子変異でなく感受性因子と考えている研究者が多い.S18Y 多型も存在し,メタ解析などの結果からY 型が発症防御的に働くと考えられている.I93M UCH-L1,S18Y UCH-L1 の病態神経科学研究が進んでいるので,あわせて紹介する.PARK11(常染色体優性遺伝,2p36-37)について,2008 年にイタリアとフランスの家系でGIGYF2 に関し7 個のミスセンス変異,3 アミノ酸配列の挿入,欠失が見出され,PARK11の原因遺伝子候補として報告された.重症例ではLRRK2 遺伝子変異との重複があることも報告された.しかしその後の研究から,当初報告された変異のなかには対照で見出されるものもあり,家系内発症例とのsegregationがないこと,発症の危険因子とならないことがあいついで報告された.現時点ではGIGYF2 とPD の関連性は低いと考えられている. - 【PINK1(PARK6)】
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PINK1蛋白とミトコンドリア
247巻10号(2013);View Description Hide DescriptionPINK1 遺伝子は2004 年に3 番目の常染色体劣性遺伝型パーキンソン病(PD)の原因遺伝子として同定された.PINK1 蛋白はミトコンドリアに局在するリン酸化酵素と考えられ,おもに分子生物学・細胞生物学的手法によりPINK1 蛋白に関する機能解析が行われてきた.本蛋白の機能低下によるミトコンドリアの呼吸機能障害,ミトコンドリアのカルシウム(Ca)ホメオスタシスの異常,ミトコンドリアを含む酸化ストレス上昇などが報告されている.近年では,PINK1 とミトコンドリアダイナミクスとの関連や,ミトコンドリア内膜電位維持との関係が指摘されている.さらに,別の劣性遺伝型PD 遺伝子産物Parkin と協調し,不要となったミトコンドリアのautophagy による処理(mitophagy)に関与している可能性も報告されている.したがって,PINK1 遺伝子はPD とミトコンドリアという観点から注目されている.本稿ではこの約10 年間の研究の流れを概説し,主だった仮説を紹介する. - 【DJ-1(PARK7)】
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DJ-1(PARK7)の研究の現状とその機能―酸化ストレスに対する防御とミトコンドリア機能の維持
247巻10号(2013);View Description Hide DescriptionPARK7 locus とlinkage を示す家系で,DJ-1 遺伝子がその原因遺伝子として同定されて以後,パーキンソン病(PD)と関連するさまざまなDJ-1 の機能が報告されてきた.なかでも興味深いことは,DJ-1 がこれまで孤発性PD の原因のひとつと考えられてきた酸化ストレスとミトコンドリア障害に密接に関連した機能を有していることが明らかになった点である.DJ-1 は,酸化ストレスに対するセンサーとして働き,またDJ-1自体が酸化ストレスを除去する.また,抗酸化ストレスにかかわる酵素の発現や働き,抗酸化反応に影響を与え,さらに抗酸化にかかわるシグナルに影響を与えることにより,酸化ストレスから細胞を防御する機能を有している.さらに,DJ-1 は種々のメカニズムでミトコンドリア機能に影響を与えている.著者らは,DJ-1が細胞質およびミトコンドリアで活性酸素種(ROS)を除去することによりミトコンドリア機能を保持していることを報告した.本稿では,PARK7 locus とlinkage を示す家系の特徴,PD と酸化ストレス,ミトコンドリア由来のROS 生成とその防御機構と,これまでに報告されているDJ-1 の機能について,著者らが報告したものを含め概説する. - 【LRRK2(PARK8)】
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LRRK2(PARK8):研究の現状
247巻10号(2013);View Description Hide DescriptionLeucine rich repeat kinase 2(LRRK2)は常染色体優性遺伝パーキンソン病(PARK8)の候補遺伝子領域内から発見された遺伝子である.LRRK2 はGTPase やキナーゼドメインをもつことから,多彩な機能を有することが予想される.PARK8 患者は,臨床症状および発症年齢,治療薬剤への反応性は孤発性パーキンソン病(PD)と類似するが,病理所見はLRRK2 変異によって多彩な病理像を呈する.これよりLRRK2 はPD 発症機序の上流に位置しており,作用する下流分子によって病態が異なることが予想される.本稿ではLRRK2 によPD 発症機序に関して,LRRK2 の基質分子および相互作用分子,培養細胞または遺伝子改変動物を用いた病態へのアプローチ,さらには最近の話題となる免疫系における役割,およびiPS 細胞を用いた研究に触れながら概説する. - 【ATP132A(PARK9)】
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PARK9(ATP13A2)の病態とリソソーム機能障害
247巻10号(2013);View Description Hide DescriptionKufor-Rakeb syndrome(KRS)は,若年発症パーキンソニズムに認知症,錐体外路症状,ミオクローヌスを併発する原因不明の疾患群として知られていたが,2006 年にATP13A2(PARK9)が原因遺伝子として同定された.ATP13A2 はリソソームに局在するP-type ATPase であるが,その機能については不明な点が多い.わが国にも新規変異を有する家系が存在し,その変異を含めた機能解析から,ATP13A2 変異体はリソソームの機能障害を引き起こすことが判明した.若年発症遺伝性パーキンソン病(FPD)の病態の一端が明らかになるにつれ,早期発症の原因としてオートファジーリソソーム系の障害が浮かび上がってきた. - 【HTRA2(PARK13)】
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HtrA2とパーキンソン病
247巻10号(2013);View Description Hide DescriptionHtrA2 はミトコンドリア膜間腔に存在するセリンプロテアーゼで,ミトコンドリアから放出されると,アポトーシスによる細胞死を引き起こすが,ミトコンドリア内では細胞の生存維持に関与している蛋白質である.HtrA2 のミスセンス変異が孤発性パーキンソン病(PD)患者で報告され,HtrA2 はPARK13 として登録されている.PD やLewy 小体型認知症の患者脳内の脳幹型および皮質型Lewy 小体にHtrA2 が存在することが,免疫組織化学的に確認されている.さらに,HtrA2 のリン酸化にPINK1(PARK6)やCdk5 が関与していることや,HtrA2 がParkin(PARK2)やUCH-L1(PARK5)を基質として切断し,その機能を阻害することなどが明らかになり,PD に関連したHtrA2 の知見が集積してきている. - 【PLA2G6(PARK14)】
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PLA2G6(PARK14)遺伝子欠損に伴う軸索変性の病態
247巻10号(2013);View Description Hide DescriptionホスホリパーゼA2は,膜リン脂質のアシル鎖をsn-2 位で加水分解して,脂肪酸とリゾリン脂質を生成する酵素である.PLA2G6 遺伝子のコードするカルシウム非依存性ホスホリパーゼA2β(iPLA2β)はその酵素ファミリーのひとつで,膜リン脂質の再構築(リモデリング)においてとくに重要な役割を果たす.PLA2G6 遺伝子の異常は乳児型神経軸索ジストロフィー(INAD)や遺伝性パーキンソン病(PARK14)といった,臨床経過の異なる神経変性疾患の原因となることが近年知られる.緩徐進行性の運動機能不全を呈するPLA2G6 遺伝子欠損(KO)マウスでは,中枢および末梢神経系に多数のスフェロイド形成など患者に類似した軸索変性像が観察される.詳細な病理解析により,早期から軸索内ミトコンドリアの内膜と軸索末端における前シナプス膜の破綻と変性をきたすことが示され,質量分析顕微鏡では膜リン脂質の異常蓄積が観察された.PLA2G6 遺伝子欠損による軸索変性には細胞膜の代謝不全と変性が深く関与する. - 【FBXO7(PARK15),EIF4G1(PARK18)】
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FBXO7(PARK15),EIF4G1(PARK18)―パーキンソン病に関連したFBXO7遺伝子とEIF4G1遺伝子における研究の最新知見
247巻10号(2013);View Description Hide Descriptionパーキンソン病(PD)はAlzheimer 病に次いで頻度の高い神経変性疾患である.現在までに6 つの遺伝子が遺伝性PD の原因遺伝子としてみつかっている.それらの原因遺伝子に加え,病原性の不明な遺伝子が家族性PD およびパーキンソニズムに関連していくつか報告されている.2009 年に,FBXO7 遺伝子変異が常染色体劣性遺伝性パーキンソニズム家系で同定され,PARK15(22q12-q13)の原因遺伝子として報告された.FBXO7 遺伝子変異を有する患者の臨床像は緩徐進行性のパーキンソニズムと錐体路症状を特徴とし,ときに振戦,内反尖足,高次脳機能障害,開眼失行,白内障を伴うことがある.剖検例はまだ報告がない.2011 年にはEIF4G1 遺伝子変異が常染色体優性遺伝性PD 家系で同定され,PARK18(3q27.1)の原因遺伝子として報告された.EIF4G1 遺伝子変異を有する患者の臨床像は典型的なPD の症状に酷似しており,高次脳機能障害を伴う症例も存在する.病理所見はLewy 小体病の病理像を主体とする.いままでのところ4 つのFBXO7遺伝子変異が5 家系から報告されている.EIF4G1 遺伝子においては当初報告された5 つの遺伝子変異のうち4 つは健常人からも同定され,その病原性について疑問視する報告も認められる.これら2 つの遺伝子の病原性を検証し,臨床および病理学的特徴を明らかにするために,より大規模な多施設共同研究が必要と考えられる. - 【RAB7L1(PARK16)】
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ゲノムワイド関連解析からの知見とさらなる孤発性パーキンソン病遺伝子の発見へ向けて―PARK16,BST1,α-synuclein,LRRK2,Tau
247巻10号(2013);View Description Hide Descriptionゲノム科学の進展に伴って孤発性疾患のゲノム解析,遺伝背景の解明にアプローチできるようになった.著者らは国内11 施設とともに日本人の大規模ゲノムワイド関連解析(GWAS)を行い,4 つの孤発性パーキンソン病(PD)遺伝子を発見した(PARK16,BST1,α-synuclein,LRRK2;図2,3)1).これらは,白人の再現研究でも結果が再現された,確実な孤発性PD 遺伝子である(表1).Tau は孤発性PD 遺伝子であるが,東アジア人にはPD 保護ハプロタイプが存在しない1).PARK16 遺伝子RAB7L1 は,LRRK2・VPS35 とともにPDの細胞内輸送・レトロマー病態に関与する9).さらなる孤発性PD 遺伝子発見のため,エクソーム関連解析,メタGWAS が著者らの研究を含め行われている. - 【VPS35(PARK17)】
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VPS35(PARK17)
247巻10号(2013);View Description Hide Description近年,家族性パーキンソン病(PD)PARK17 の原因としてVPS35 遺伝子のミスセンス変異(D620N)が報告された.PARK17 は常染色体優性遺伝(AD)形式をとり,わが国での頻度はADPD の1.0%と比較的まれであるが,欧米諸国と比較するとやや多い傾向にある.臨床的にはlate-onset かつ振戦優位のパーキンソニズムを呈し,L-DOPA へ良好な反応を示すのが特徴である.VPS35 は細胞内小器官であるエンドソームからGolgi体へ積荷蛋白の逆行性輸送を担うレトロマーの構成因子であることが知られている.同遺伝子異常によるPD発症機序は不明であるが,レトロマー機能異常に起因した細胞内小胞輸送機構の破綻が神経変性過程に関与していると推測されている. - その他の遺伝子研究
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パーキンソン病におけるグルコセレブロシダーゼ遺伝子の関与
247巻10号(2013);View Description Hide Descriptionグルコセレブロシダーゼ(GBA)遺伝子は,家族内集積性を契機に発見されたパーキンソン病(PD)の強い遺伝因子である.影響度が非常に強いため,孤発性患者における疾患感受性遺伝子という位置づけと同時に,浸透率の低い常染色体優性遺伝性疾患の原因遺伝子という位置づけも可能である.遺伝学的知見の確立とともに,どのようにして変異グルコセレブロシダーゼ酵素がPD 発症と関連するのか,病態研究が盛んに行われている.分子レベルの詳しい機序はまだ分かっていないが,PD の病態修飾的な治療法に結びつく可能性が期待されている. -
DCTN1/Perry症候群
247巻10号(2013);View Description Hide DescriptionPerry 症候群は常染色体優性遺伝型の家族性パーキンソン病で,急速に進行するパーキンソニズム,うつ,体重減少,睡眠困難と中枢性換気障害を特徴とする.これまで世界で16 家系,うちわが国では5 家系(未報告も含む)確認されているたいへんまれな疾患であるが,2009 年にPerry 症候群の原因が2 番染色体短腕上にあるダイナクチン遺伝子(DCTN1)内の点変異であったことが報告されて以降,注目を集めている.DCTN1内で別の点変異が家族性運動ニューロン疾患(HMN7B)の原因となっており,ひとつの遺伝子の非常に近い部位に存在する点変異が運動ニューロン疾患とパーキンソン病という異なる変性疾患を引き起こすことが判明した.DCTN1 はダイナクチン複合体のp150glued をコードし,この蛋白はダイナクチン複合体が直接微小管に結合する部位である.同遺伝子の機能分析から複数の神経変性疾患にまたがる病態が解明される可能性がある. -
DNAJC6―若年性パーキンソン病のあらたな原因遺伝子
247巻10号(2013);View Description Hide Description近年常染色体劣性遺伝形式をとるL-DOPA 不応性若年性パーキンソン病(PD)のあらたな原因遺伝子としてエンドサイトーシス時のクラスリン脱被覆に関与するAuxilin1 分子をコードするDNAJC6 が報告された.Auxilin1 は分子シャペロン群であるDnaj/Hsp40 ファミリーに属しており,神経組織,なかでも神経突起終末に高発現している.また,Auxilin1 欠損マウスではシナプス終末におけるクラスリン依存性エンドサイトーシスの障害が起こることが知られている.同遺伝子変異によるパーキンソニズム発症機序はいまだ不明であるが,シナプス膜上のドパミン受容体はシナプス膜上のみならずクラスリン依存性エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれ機能を発揮することから,DNAJC6 遺伝子異常はドパミン神経のシナプス伝達に影響を及ぼす可能性も示唆されている. - 再生医療・遺伝子治療
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パーキンソン病の再生医療―ドパミン神経前駆細胞移植の臨床応用実現に向けての取組み
247巻10号(2013);View Description Hide Descriptionパーキンソン病(PD)は神経変性疾患のひとつで,日本では難病に指定されている.中年以降に発症しやすく,高齢になるほど発症の割合も増える.中脳黒質のドパミン神経細胞が減少することにより症状が現れ,おもな症状は手足の震え,筋固縮,無動などの運動症状である.治療法として薬物療法や定位脳手術が施されるが,根本的な治療法ではなく,症状を和らげる対症療法である.そこで根本的な治療法として,減少したドパミン神経細胞を補う細胞移植治療法が1980 年代から研究されている.ES 細胞やiPS 細胞が誕生し,これらの細胞から,失われたドパミン神経細胞を分化誘導する技術が開発された.この分化誘導した細胞をPD モデル動物の脳に移植すると,失われたドパミン神経細胞が補われ,運動症状が改善されることが報告されている.本稿では,PD の根本的な治療法の確立を目指して現在取り組まれていることを概説する. -
遺伝性パーキンソン病におけるiPS細胞研究―PARK2患者由来iPS細胞研究の実例を中心に
247巻10号(2013);View Description Hide DescriptionYamanaka らによって開発されたヒト人工多能性幹細胞(iPS 細胞)は,細胞移植治療などの再生医療への活用だけでなく,病気の原因解明,新しい薬の開発などへの応用面において大きな期待を集めている.さまざまな疾患患者自身の体細胞からiPS 細胞をつくり,それを神経,心筋,肝,筋細胞など患部の細胞に分化させることで,患者の遺伝情報を有したin vitro 病態モデルの作成が可能となってきた.遺伝性パーキンソン病(PD)の分野ではこの技術が活発に取り入れられ,すでにSNCA,LRRK2,PARKIN あるいはPINK1 変異を有した患者由来iPS 細胞の樹立,分化誘導した神経細胞での異常表現型が多数報告されている.これらの遺伝性PDiPS 細胞を用いた研究により,非神経細胞培養系あるいは遺伝子改変マウスでは観察できなかった真の病態メカニズムに迫れることが期待されている. -
孤発性パーキンソン病におけるiPS細胞研究
247巻10号(2013);View Description Hide Descriptionパーキンソン病(PD)症例の大多数を占める孤発性PD は,多数の遺伝因子と環境因子の集積によって発症に至る多因子疾患と考えられる.ヒト人工多能性幹細胞(iPS 細胞)の臨床応用としては,細胞移植治療におけるドナー細胞としての利用と,病態解析および創薬のための疾患モデルとしての利用,という2 つの方向が考えられる.孤発性PD では,前者の方向において自家移植の実現が期待されるが,患者由来iPS 細胞の疾患感受性の問題が残されている.後者の方向において,孤発性PD に関する研究はきわめて少ないが,孤発例での疾患再現の可能性を示す報告が現れ,また,孤発例の遺伝的背景が明らかになりつつあり,研究の進展が期待される.いずれの方向においても,孤発性PD の遺伝因子の同定とその病態機構との関わりの解明が重要な課題と思われる. -
パーキンソン病の遺伝子治療
247巻10号(2013);View Description Hide Descriptionパーキンソン病(PD)の遺伝子治療には,①被殻の神経細胞にドパミン合成系酵素の遺伝子を導入しドパミン産生能を回復する方法,②被殻と黒質で神経栄養因子の遺伝子を発現させてドパミン神経細胞の変性脱落を抑制する方法,③抑制性神経伝達物質GABA の合成酵素の遺伝子を視床下核に導入し大脳基底核の機能を調整する方法,という3 種類の戦略がある.自治医大では,①の方法のうち芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)の遺伝子をアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターにより両側の被殻に導入する臨床研究を実施した.その結果,運動症状が軽減し,PET でAADC 遺伝子の発現が5 年後にも持続していることを確認している.欧米で実施された②③の方法の臨床研究でも期待できる成果が報告されている.しかし,1 回の遺伝子導入で長期間効果が得られるため,通常の薬物治療と異なるあらたなビジネスモデルの構築が課題となっている.
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