医学のあゆみ
Volume 248, Issue 3, 2014
Volumes & issues:
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あゆみ 新しい精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5)ガイド
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DSM-5の概要―歴史的意義と今日の臨床への影響
248巻3号(2014);View Description Hide Description精神疾患の分類と診断の手引き(Diagnostic and statistical manual for mental disorders:DSM)第5 版が2013 年5 月にアメリカ精神医学会により出版された.操作的診断基準をはじめて全面的に採用したことで急速に普及したDSM-Ⅲの登場から30 年たつ現在においても,DSM-5 の作成にあたり大規模な改変の論拠となるような生物遺伝学的エビデンスは得られておらず,改訂の焦点は十分に蓄積された知見の反映と臨床的有用性の向上に絞られた.具体的には,発達的視点をより積極的に取り入れた診断の推奨,カテゴリカルからディメンショナルな診断法への移行,診断で要求される情報量の過不足の是正,臨床家の裁量拡大による柔軟性の確保があげられる.厳密な操作的定義と診断基準を提供することで支持を得てきたDSM であるが,第5版作成にあたっては臨床的意義がより重視された傾向があり,研究をはじめ,診断基準に厳密さが求められる領域において困難が生じるとの懸念もある. -
神経発達症群[神経発達障害]
248巻3号(2014);View Description Hide DescriptionDSM-5 ではneurodevelopmental disorders(神経発達症群)というカテゴリーが新設され,知的能力障害や自閉スペクトラム症だけでなく,注意欠如・多動症やチック症までを包含した.これらは日本の発達障害概念とほぼ一致するが,知的能力障害が知能指数ではなく適応上の困難の程度によって重症度が分類されるなど前版からの変化も大きい.自閉症,アスペルガー障害,特定不能の広汎性発達障害は自閉スペクトラム症にまとめられたが,その診断基準では対人相互性と感覚への反応の特異性を含めた強迫性によって,その輪郭を明確にしようとしている.一方,注意欠如・多動症は,成人期の診断を念頭におき,具体例の追記が行われる一方,その基準の緩和や自閉スペクトラム症との併存を許容するなど有病率の上昇は必至である.このDSM-5を日本でどのように用いるべきか,精神保健福祉,成育医療,教育なども含めた広範な議論が求められる. -
双極性障害および関連障害群,抑うつ障害群
248巻3号(2014);View Description Hide DescriptionDSM-5 のBipolar and Related Disorders とDepressive Disorders の章について,おもにDSM-IV-TR からの変更点に関して解説を行った.DSM-IV-TR では気分障害の章のなかで,双極性障害や大うつ病性障害が扱われていたが,DSM-5 ではBipolar and Related Disorders とDepressive Disorders という別のカテゴリーに配置された.双極性障害では躁病エピソードの診断に“persistently increased goal-directed activity orenergy”が必須となり,うつ病(DSM-5)[大うつ病性障害]では死別反応の除外診断が削除されるなどの変更がなされた.また,躁うつ混合性エピソードの診断は削除となり,“mixed features”という特定用語を用いて診断することとなった. -
不安症群,強迫症および関連症群,心的外傷およびストレス因関連障害群
248巻3号(2014);View Description Hide Description不安障害は精神疾患のなかでももっとも一般的であり,発症年齢が10 代と若く,その後の他の精神疾患の発症にも影響が大きい.まず,DSM-5 の構成上の大きな変更点として“不安症群”“強迫症および関連症群”“心的外傷およびストレス因関連障害群”の3 つの診断群に分類されたことがあげられる.さらに,DSM-Ⅳでの“通常,幼少期・青年期にはじめて診断される障害”がDSM-5 では発達的な視点から各診断群に組み入れられた.今回のDSM-5 の改定では広場恐怖があらたにコード化され,DSM-Ⅳでは診断基準がなかった障害(ためこみ症など)があらたに加わった.一方で,診断基準が曖昧なため対象患者を限定しにくい障害(全般性不安症や適応障害)のなかにはこれまでの研究報告が十分でなく,大幅な修正がなされなかったものもある.DSM-5 を契機に不安障害への注目度が高まり,今後の研究がさらに進展することに期待したい. -
身体症状症および摂食障害
248巻3号(2014);View Description Hide DescriptionDSM-5 の出版に伴い,DSM-ⅣにおけるSomatoform Disorders(身体表現性障害)とEating Disorders(摂食障害)はDSM-5 ではそれぞれ,Somatic Symptom and Related Disorders(身体症状症および関連症群),Feeding and Eating Disorders(食行動障害および摂食障害群)というあらたな診断カテゴリーに改訂されている.変更点として,“身体症状症および関連症群”ではDSM-Ⅳの“身体表現性障害”に加えて“作為症[虚偽性障害]”“他の医学的疾患に影響を与える心理的要因”をひとつのあらたな診断カテゴリーにまとめていることと,医学的に説明できない身体症状が強調されなくなっていることがあげられる.また,“摂食障害”ではDSM-Ⅳの“幼児期または小児期早期の哺育,摂食障害”と“摂食障害”が,DSM-5 では“食行動障害および摂食障害群(Feeding and Eating Disorders)”としてひとつにまとめられていることと,“Binge-EatingDisorde(r 過食性障害)”が DSM-5 では神経性やせ症,神経性過食症と同列に扱われる独立した診断カテゴリーとなっていることがあげられる. -
ジェンダーディスフォリア(性別違和)とパラフィリア障害
248巻3号(2014);View Description Hide DescriptionDSM-5 では性同一性障害の名称が消え,ジェンダーディスフォリア(性別違和)という疾患カテゴリーとして残ることになった.Sex という用語は著減し,代わりにジェンダーという用語に置き換わり,割り当てられたジェンダー,体験されたジェンダーという,いままでにない表現が用いられている.ジェンダーディスフォリア(性別違和)は年齢によって異なったあらわれ方をするため,児童と青年・成人の2 つの診断基準が設けられている.また,DSM-5 にはあらたにパラフィリア障害という概念が登場している.異常や障害といった色合いを薄め,性嗜好が一般的でないものを総称してパラフィリアとし,そのなかで精神医学的関与を必要とするものをパラフィリア障害としている.DSM-5 は多様なセクシュアリティの尊重と性暴力の加害者への精神医学的評価の必要性という時代の流れを反映していると思われる. -
神経認知障害群
248巻3号(2014);View Description Hide DescriptionDSM-5 において認知機能障害を主徴とする疾患群の定義にはこれまでの本シリーズにはなかった改定がなされた.わが国において痴呆症が認知症に改められたのと同様に,dementia という用語が消えてMajorNeurocognitive Disorder という新規の用語が現れた.Dementia がもつスティグマや不治のイメージを払拭しようとする狙いがある.新用語は直訳すると大神経認知障害であるが,“認知症”と邦語訳するのが適切と考えられる.一方でこれまでのDSM シリーズでは認知症の原因となるさまざまな基礎疾患について詳しい診断基準が示されていなかった.今回の版ではLewy 小体型認知症や,前頭側頭葉変性症,その他まで含めて多くの疾患について診断基準が示された.
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連載
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- 初学者のための医療経済学入門 10
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いわゆる混合診療は日本になじむか?
248巻3号(2014);View Description Hide Description一連の診療行為のなかで保険給付と保険外負担の併用,いわゆる混合診療は禁止されている.しかし,最高裁まで争われた割にはわが国では混合診療に関する実証研究が少ない.そこで自由診療部分の多い歯科サービス,とくにインプラント治療の価格弾力性を調べると,供給と需要に大きな格差があることがわかった.通常,参入障壁が高く供給の価格弾力性が低いと市場は独占的になってしまうとされる.そうなると,需要が増加した場合,供給者は価格をつり上げ,市場で提供されるサービス量は増加せず,いわゆる消費者余剰はほとんど増えない.医科の混合診療・自由診療を全面解禁すれば,独占利潤を付与するだけであって患者にとってもほとんどメリットがないことを示唆するものである.他方,需要の価格弾力性が高いことはインプラント治療の評価があまり高くないことを示している.これに対して保険診療は需要の価格弾力性が低い.そのため,受診時定額負担制度を導入しても受診抑制は心配なく安定した財源効果が期待される.
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フォーラム
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- 近代医学を築いた人々 25
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- 社会の“痛み”を癒す―ケアの心理と病理 10
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TOPICS
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- 循環器内科学
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- 膠原病・リウマチ学
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- 耳鼻咽喉科学
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- 遺伝・ゲノム学
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