医学のあゆみ
Volume 248, Issue 5, 2014
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【2月第1土曜特集】 循環器と画像診断Update
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- 非侵襲的画像診断Update
- 【MSCTの進歩】
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MSCTによる冠動脈評価と臨床応用
248巻5号(2014);View Description Hide Description冠動脈CT は,冠動脈狭窄およびプラークを非侵襲的に観察可能な検査方法である.狭窄診断においては高い感度,陰性的中率で,除外診断に用いることができる.急性冠症候群の診断においては,CT での責任病変の特徴は陽性リモデリング,低吸収プラーク(LAP),微小石灰化であった.また,現在胸痛の原因となっていない病変でも陽性リモデリング,LAP を有すると,その後,急性冠症候群を発症するリスクが高いプラークであった.CT で狭窄のみならずプラークを観察することで,虚血性心疾患の予後評価に有用であると思われた.さらに,内服加療などの治療効果判定にも冠動脈CT を用いることができる.冠動脈CT は虚血性心疾患の診断,予後予測,治療効果判定に用いることができる,臨床に有用な検査方法であると考えられる. -
高度石灰化病変・ステント留置病変に対する冠動脈CTの適応と将来性―冠動脈のサブトラクションCTを含めて
248巻5号(2014);View Description Hide Description高度石灰化による狭窄性病変の評価不能や診断精度の低下は,冠動脈CT の最大の問題のひとつである.この場合の高度石灰化とは石灰化スコアで400 超とされている.ところが,男性で50 歳以上,女性で60 歳以上の冠動脈に有意狭窄を有する症例の多くは石灰化スコア400 を超えており,高度石灰化の問題は,診断精度のみならず冠動脈CT の適応に与える影響も大きい.その解決策のひとつとして,320 列CT を用いたサブトラクションCT が試みられている.サブトラクションCT とは,造影CT から単純CT を引き算することで石灰化を除去する方法である.サブトラクションCT では2 回の撮影を行うため被曝の増加が大きな問題であったが,最近登場した逐次近似再構成法によってこの問題の解決にはめどがついた.一方,最新の研究ではサブトラクションCT によって評価不能の割合は大幅に減ったが,診断精度の向上には改善の余地があることが判明した.このように,本法は実用化までには課題を残しているものの,今後有望な方法のひとつになると思われる. -
MDCTによる大動脈病変評価
248巻5号(2014);View Description Hide Description大動脈疾患は循環動態が急激に変化し,重篤な状態に陥る可能性のある疾患であり,その診断および治療法の選択において画像診断の果たす役割は大きい.近年のmulti-detector computed tomography(MDCT)の画像診断機器の進歩は著しく,十分な範囲を短時間で撮影できるようになり,詳細な三次元画像も作成可能であることから,大動脈解離と大動脈瘤の治療方針決定にはおもにMDCT が用いられている.Stanford A 型の急性大動脈解離は予後不良であり,緊急手術の適応である.胸部大動脈瘤と胸腹部大動脈瘤の手術適応は一般に最大短径60 mm 以上である.腹部大動脈瘤の手術適応は,男性55 mm 以上,女性50 mm 以上,5 mm/6 カ月以上の拡大をきたした症例,有症状の場合があげられる. -
MSCTによる下肢動脈病変評価
248巻5号(2014);View Description Hide Description多列化されたCT(multi-slice computed tomography:MSCT)の画像描出能および画像精度は著しく向上した.CT を用いた末梢血管疾患の描出(CT angiography:CTA)は,従来の血管造影検査法と比較し,非侵襲的で一度の撮影で腹部骨盤レベルから下肢全長にわたる動脈を描出できること,三次元的画像表示により任意の角度からの観察が可能であることが大きな利点となっている.また,簡便であることから,臨床の場で広く利用されるようになってきた.本稿では,末梢動脈疾患(PAD)の診断および治療におけるCTA の活用について,治療症例を交えて概説する. -
MSCTによる心筋パーフュージョンの評価およびシンチグラフィとの融合
248巻5号(2014);View Description Hide DescriptionCAG とCTA は,根本的に2 次元・3 次元技術であることによる画像技術の問題点をもつだけでなく,CAGもCTA も中等度狭窄病変,さらにはCTA の石灰化病変による重症度に対する過大評価が臨床現場で患者転帰を決定するときに問題となる.本稿では,これらの問題を現時点でのCT で解決する方法として,薬物負荷CTパーフュージョン(CTP)とこれまでSPECT との融合画像にもすこし触れながら,実際臨床でCTP を行う方法や解釈について具体的に述べる. - 【MRI・MRAの進歩】
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シネMRIによる心機能評価
248巻5号(2014);View Description Hide DescriptionシネMRI は心機能評価におけるゴールデンスタンダードとして確立しており,心臓MRI 検査の根幹ともいえる撮影法である.最近は局所心筋ストレイン計測にも注目が集まってきており,心臓MRI 検査においてはDENSE 法,SENC 法を用いた評価が報告されている.本稿ではシネMRI の特長を紹介し,シネMRI の撮影と心機能計測における注意点を述べるとともに,最新の話題についても触れる. -
MRAによる大血管・下肢血管評価
248巻5号(2014);View Description Hide Description近年,わが国において高齢化や糖尿病,脂質異常症,高血圧症の患者数の増加が顕著となっている.それらに伴い,大動脈解離,大動脈瘤,肺血栓塞栓症などの大血管疾患や,閉塞性動脈硬化症を代表とする末梢動脈疾患(peripheral arterial disease:PAD)の患者数が急速に増加している.血管の形態・機能評価方法である超音波検査,CT,MRI を代表とする非侵襲的画像診断法も機器の発達とともに急速に進歩し,注目されている.これらの検査は大血管疾患や下肢血管疾患の外科的治療のみならず,内科的治療にも欠かせないものになっている.本稿ではMR angiography(MRA)を用いた大血管および下肢血管疾患を中心に,他の検査法と比較した利点や問題点について述べる.代表的な疾患である大動脈瘤,大動脈解離,高安動脈炎,肺血栓塞栓症,閉塞性動脈硬化症について,画像を提示して概説する. -
遅延造影による心筋評価
248巻5号(2014);View Description Hide Description心臓MRI はさまざまな撮像方法があり,これらを利用することにより心形態,心機能,心筋組織性状など多くの情報を得ることが可能となる.シネMRI では心臓の形態評価に加え,左室容量,左室重量,壁運動,左室駆出率を算出することができ,さらに時間容量曲線を描出し拡張能を評価することも可能である.T2 強調像は心筋の炎症や浮腫を検出することが可能で,急性冠症候群においてリスクエリアの定量評価を行うのに有用である.また,T1 強調像は心筋の脂肪変性や心外膜周囲の脂肪を検出でき,不整脈源性右室心筋症の診断や陳旧性心筋梗塞における脂肪変性の検出に有用である.遅延造影MRI は壊死心筋や心筋線維化などの病的心筋を検出することが可能であり,虚血性心疾患のみならず非虚血性心筋症の診断および予後予測に有用な撮像方法である.本稿では虚血性心疾患,非虚血性心筋症における遅延造影MRI の有用性について,臨床的役割を中心に解説する. -
負荷perfusion MRIによる心筋虚血評価
248巻5号(2014);View Description Hide Description冠動脈疾患に対する非侵襲的画像診断は急速に進歩しており,MRI の領域でもハードウェアや技術の進歩により画質や診断能の向上が報告されている.負荷心筋perfusion MRI は薬剤負荷による冠最大充血中にガドリニウム造影剤を静脈よりボーラス投与し,心筋への初回通過における動態をダイナミック撮影することにより,虚血心筋における信号上昇の遅延を描出する方法である.日本では負荷perfusion MRI は十分に普及しているとはいえないのが現状であるが,すでに有効性に関する多くのエビデンスが出されている.さらにMRIは,シネによる心機能や形態の評価,遅延造影による梗塞心筋の検出なども同時に可能である非常に有用なモダリティである. -
Whole heart MRIによる冠動脈評価と冠動脈プラーク評価
248巻5号(2014);View Description Hide DescriptionWhole heart MRI は冠動脈狭窄度評価目的の冠動脈MRA,心筋虚血同定のための負荷心筋perfusion imaging,そしてプラークの性状評価を行うプラークイメージングまで多岐にわたる.そのうち,1.5 テスラ冠動脈MRA は被曝がなく,非造影で冠動脈狭窄を評価できる非侵襲的な検査法である.この特徴により,腎不全患者や川崎病の若年者の冠動脈評価へ利用されることが期待される.一方,3 テスラMRA は,撮像法の問題によってMR 造影剤が必要である.冠動脈プラークイメージングは研究の端緒についたばかりであるが,非造影T1 強調画像により高輝度に描出される冠動脈プラークはhyper-intense plaque(HIP)と呼ばれ,プラークの不安定性を示す可能性を秘めている. - 【心エコーの進歩】
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スペックルトラッキングによる左室機能評価
248巻5号(2014);View Description Hide Descriptionスペックルトラッキング(speckle tracking)法とは,超音波画像上の心筋内の点が収縮期から拡張期にわたって移動し,一心周期で元の位置に戻ってくるまでをフレームごとに追跡する方法である.近接する2 つの点をそれぞれスペックルトラッキングし,最初の2 点間距離から何%長くなったか,または短くなったかというストレイン(strain)とよばれる指標が算出される.時間・ストレイン曲線を用い,左室局所の収縮の程度のみならず収縮や拡張のタイミングを評価することで,より感度の高い心筋虚血の評価が可能である.また,左室全体の平均ストレイン(global strain)を求めることで,左室駆出率では検出できない潜在性収縮能低下を評価できる.さらに,各分画の収縮時相のずれを時間・ストレイン曲線から求めることで左室非同期運動(dyssynchrony)を評価することもできる.近年,スペックルトラッキング法は3D 心エコー図法でも可能となっているが,本稿ではより普及している2D スペックルトラッキング法について述べる. -
三次元心エコーの有用性と今後の展望
248巻5号(2014);View Description Hide Descriptionかつて特殊検査であった三次元心エコーは現在広く臨床に用いられるようになっている.とくに僧帽弁逆流症におけるsurgeon’s view を中心とした僧帽弁の形態評価は,僧帽弁形成術を行ううえで欠かせないものになっている.また,三次元的な僧帽弁複合体の構造異常を検討することが可能となり,機能的僧帽弁逆流症など多くの心臓疾患の病態を明らかにした.また,左心機能だけでなく,複雑な構造をもつ右室の機能評価にも有用である.一方で現在,structural heart disease(SHD)に対するカテーテル治療の進歩が著しい.この新しい低侵襲治療法においては,三次元心エコーが術前診断・術中モニターに大きな役割を果たす.三次元心エコーは技術的進歩に伴い,今後ますます臨床の現場に広がっていくと期待される. - 【核医学検査ならびにmolecular imagingの現状と進歩】
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心臓核医学とPET検査―虚血と代謝異常の評価はなぜ重要か
248巻5号(2014);View Description Hide Description心臓核医学は心臓の病態生理学を反映する画像検査法である.とくに心筋血流と虚血を,運動あるいは冠拡張薬を用いて負荷状態で評価するのに適している.この基本的な考え方はいぜん変わっていないが,とりわけ冠動脈CT のような冠動脈の形態に関連する画像方法が普及するなかで,形態的狭窄に加えて生理学的虚血の有無を判定することが,冠動脈治療の有効性や最終的な予後を改善することが示されてきた.本稿では,欧米での豊富な多施設研究の知見に加えて,日本で施行されてきた多施設研究の結果を紹介し,診断だけでなく心事故発生の予後を予測し患者に適した治療戦略を立てる重要性について示す.PET 診断にはFDG のバイアビリティ評価に心サルコイドーシスが加わり,アンモニアによる血流検査も認可された.慢性腎疾患における脂肪酸代謝イメージングを利用した多施設研究においては,代謝欠損が予後に大きく影響することが示されてきた.さらに,慢性心不全における交感神経イメージングの指標は,駆出分画などの心機能よりも良好な予後規定因子となることが示されてきた. -
Molecular imagingによる冠動脈プラーク評価
248巻5号(2014);View Description Hide Descriptionポジトロン断層撮影検査(PET)は高い感度と優れた定量性をもち,生体内の生理的・生化学的情報の画像化することが可能であり,近年では分子イメージングともよばれる段階に発展を遂げてきた.冠動脈疾患の診断では心筋血流PET による心筋虚血検出の観点から,冠動脈疾患の診断・心血管イベントリスク予測に臨床応用され,有用性が確立されてきた.一方,急性冠症候群につながる高リスク症例の検出として冠動脈の不安定プラークの検出の重要性が認識され,分子イメージング領域においてプラークの炎症細胞に特異的に集積する炎症イメージングを用いた試みがはじまっている.血管壁の炎症の画像化はまず大血管・頸動脈から臨床応用が開始され,臨床的意義が確立されつつあり,この手法が現在,冠動脈のプラーク検出に応用開始されている段階である.画像化の機序,克服すべき課題,プラークイメージングの現状と展望について本稿で概説する. - 侵襲的画像診断Update
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IVUSによるプラーク評価の限界と可能性
248巻5号(2014);View Description Hide Description血管内超音波(IVUS)は冠動脈疾患の病態理解に多大な貢献を果たしてきた.グレースケールIVUS により急性冠症候群発症のメカニズムについての理解が深まり,スタチンなどの薬剤介入がプラークに与える影響についてさまざまな試験により評価されてきた.また,組織性状解析法ではプラークの量だけではなく質の評価が可能となった.将来,急性冠症候群(ACS)を引き起こす可能性の高い不安定プラークを同定することにより,リスクの層別化が可能となりつつある.一方で,プラークの組織性状によってはIVUS で正確に描出することが困難なものがあり,またIVUS を用いた臨床試験における限界もあるため,解釈には十分注意が必要である. -
血管内視鏡による冠動脈病変の評価
248巻5号(2014);View Description Hide Description近年,急性冠症候群(Acute coronary syndrome:ACS)を含む冠動脈疾患は増加傾向にあり,その予防や治療の重要性が高まっている.ACS はvulnerable plaque とよばれる脆弱で不安定なプラークが破綻し,それに引き続く血栓の形成により冠動脈が閉塞することで発症する.このvulnerable plaque をいかに早期に的確に診断し,ACS の発症を予防していくことが重要となっている.このvulnerable plaque を診断するモダリティーのひとつとして,血管内視鏡(coronary angioscopy:CAS)がある.CAS は血管内腔をリアルタイムで肉眼的に観察できる唯一のモダリティーであり,血栓の有無やプラークの色調や形態など定性的な肉眼的病理診断が可能となる.また,CAS はプラークや血栓の診断だけではなく,虚血性冠動脈疾患に対するステント留置後の評価にも用いられており,冠動脈インターベンション術の際のステントの選択やステント内血栓を認める症例に対する抗血小板薬2 剤の継続期間の判断など,治療方針に大きく関与することが考えられている. -
スペクトロスコピーによるプラーク評価の可能性
248巻5号(2014);View Description Hide Description急性冠症候群の責任病変である黄色プラークについては,血管内視鏡を用いた多くの研究成果が論文や学会発表の形でこれまでに報告されてきている.しかし,現在の血管内視鏡では黄色プラークの量を定量的に計測することができず,個数によって半定量的に評価している.InfraRedx 社による近赤外線スペクトロスコピーは,コレステロールの存在を検出してその量をlipid core burden index として定量的に評価することができる.さらに,従来の血管内超音波(IVUS)と一体化することによって血管断面の定量的計測も可能となっている.その結果,プラークの評価においては,脂質に富んだプラークかどうかを定量的に判断できるのに加えて,プラーク容積などの形態についても定量的に評価することができる.この新しい画像診断装置によって検出される脂質に富んだプラークと,血管内視鏡で検出される黄色プラークが対応するものであれば,これまでに血管内視鏡によって示されたエビデンスをそのまま応用することが可能となるであろう. -
OCTによる冠動脈プラーク評価と臨床応用―OCTの現状と将来
248巻5号(2014);View Description Hide Description光干渉断層法(optical coherence tomography:OCT)は,近赤外線を用いた血管内画像診断装置である.10~20μm という高い画像分解能を有し,急性冠症候群の原因となるプラーク破裂やびらん,calcified noduleを観察できる.さらに,プラーク破裂の前駆病変とされるthin-cap fibroatheroma(TCFA)やマクロファージ,血管栄養血管(vasa vasorum)も検出することができ,動脈硬化の進展過程を生体内で評価することができる.現行のOCT は,血管内腔断面積の自動計測機能や三次元画像の作成機能,OCT による観察部位を冠動脈造影上で確認できる血管造影とのco-registration 機能,時相の異なる2 つのプルバック画像を同期させ再生することにより,動脈硬化の継時的変化やステント治療後の血管反応を正確かつ簡便に評価することができるdual review mode 機能を有する.デバイスとしての実用性や利便性も向上し,研究用ツールから臨床ツールへと急速に進化しつつある.今後,臨床に有用な解析用ソフトウェアやOCT 独特の画像表現方法の開発が期待され,OCT は冠動脈疾患の診断と治療に寄与するものと期待される.
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