医学のあゆみ
Volume 248, Issue 7, 2014
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あゆみ 細胞外マトリックス中の異端児 matricellular protein:疾患病態の制御因子であり治療の標的分子
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テネイシンCを分子標的とした抗がん剤創成の展望
248巻7号(2014);View Description Hide Description細胞外マトリックス(ECM)蛋白質は,接着を介した細胞機能調節にかかわるさまざまなシグナルの発信源となるが,これらのシグナルのいくつかはECM 分子の高次構造内部に隠された機能部位に基づいている.著者らは,反接着性ECM 蛋白質として見出された代表的なmatricellular protein であるテネイシンC 分子内に,インテグリンを活性化して接着を誘導・増強する機能部位が存在することを見出した.この機能部位を含むペプチドTNⅢA2 は,インテグリン活性化に基づいて細胞機能に多大な影響を及ぼす.興味深いことに,TNⅢA2 はPDGF 受容体を高発現する細胞に対しては,PDGF に依存してその悪性化進展に関与している可能性が示される一方,ある種の腫瘍細胞に対してはその分化を強く促進して悪性形質を低下させることが明らかになってきた.これらの結果は,テネイシンC を分子標的とした新しいタイプの抗がん剤創成のための重要な情報を提供している. -
エーラス・ダンロス症候群とテネイシンX
248巻7号(2014);View Description Hide Descriptionエーラス・ダンロス症候群(EDS)は皮膚や関節や血管などに脆弱を引き起こす遺伝性結合組織疾患である.これまでに,その原因と症状からおもに6 つの型に大別されてきた.EDS は5,000 人について1 人の割合で発症することが知られている.Ⅰ型・Ⅱ型(古典型)EDS 患者とⅢ型(関節可動亢進型)EDS 患者を合わせると,全体のEDS 患者の約90%以上を占める.各病型の原因遺伝子もすでに同定されており,そのほとんどがコラーゲンやコラーゲン修飾酵素の遺伝子である.しかし最近になり,matricellular 蛋白質のひとつであるテネイシンX(TNX)のホモ欠損変異によりⅠ型EDS を,一方,TNX のハプロ不全によりⅢ型EDS を引き起こすことが明らかとなった.本稿では,明らかとなってきたTNX の異常によるEDS 発症とTNX の機能に関して概説する. -
組織修復におけるmatricellular proteinの役割
248巻7号(2014);View Description Hide Description組織修復過程では炎症とその後の線維・瘢痕化が二大イベントである.線維・瘢痕化に関与する筋線維芽細胞は局所の線維芽細胞から形成される以外に,上皮系細胞の上皮-間葉系移行によっても形成される.組織修復過程には多くの成長因子やサイトカインが関与しているが,そのなかでも炎症や筋線維芽細胞の形成にはトランスフォーミング成長因子βシグナルの役割が大きいと考えられている.マウスの角膜と水晶体を用いた研究では組織修復過程での炎症とその後の線維・瘢痕化のプロセスにはSmad シグナルが大きな役割を担っているが,そのSmad シグナルを介する細胞挙動制御はさらに,細胞外マトリックス成分の調節を受けていることが示された.α9 インテグリンのリガンドであるオステオポンチンやテネイシンC は角膜実質間葉系組織の修復過程での炎症と線維化や水晶体上皮細胞の上皮-間葉系移行(EMT)に積極的に関与していた.何らかのシグナルクロストークでSmad シグナルを側面からサポートしていると考えられた.ケラタン硫酸プロテオグリカンのコア蛋白質の一種であるルミカンにも同様の作用があることが報告された.ルミカンの生物学的な細胞の挙動の調節機能の一部として,ルミカン分子とTGF-β受容体のひとつであるALK5 の直接的インターアクションを介していることを証明した.それぞれのmatricellular protein 特異的な受容体と細胞内シグナル伝達でのシグナル伝達のクロストークでは,その分子メカニズムは同一ではない可能性が示唆されている.Matricellular protein の成長因子・サイトカインのシグナル伝達とのクロストークの全容解明は今後の課題である. -
網膜血管新生におけるペリオスチンは治療標的となるか
248巻7号(2014);View Description Hide Description網膜血管新生は後天性視覚障害の上位疾患である糖尿病網膜症や未熟児網膜症などで生じ,牽引性網膜剝離による失明を生じうる病態である.近年,抗VEGF 薬の硝子体内注射の登場や硝子体手術の技術進化などにより治療成績は向上しているが,十分に視機能を保持できない症例も存在する.著者らは手術中に得た網膜新生血管を含む線維血管増殖組織のゲノムワイド遺伝子発現解析を行い,マトリセルラー蛋白のひとつであるペリオスチンの発現が正常網膜に比較して上昇していることを見出した.マウス網膜血管新生モデルでは,ペリオスチンは血管新生を生じた網膜において発現が上昇していた.また,ペリオスチンノックアウト(KO)マウスを用いた同モデルの検討では網膜血管新生が抑制された.このことから,ペリオスチンは網膜血管新生促進因子であり,網膜血管新生におけるあらたな治療標的分子となる可能性があると考えられる. -
心血管疾患におけるテネイシンCの機能―診断と治療への応用
248巻7号(2014);View Description Hide DescriptionテネイシンC(tenascin C)は典型的なmatricellular protein で,一般に正常成体では発現せず,胎児期の形態形成,癌浸潤,創傷治癒,組織再生に伴って高発現し,複数の細胞表面の受容体や他の細胞外マトリックス分子などと結合して,組織構築の改変で重要な役割を演じる.心血管系では胎児期のいくつかの重要な段階で一過性に発現して形態形成に関与する.正常成体ではほとんど発現しないが,心筋梗塞後心室リモデリング,心筋炎・拡張型心筋症,肺高血圧や動脈硬化,血管形成術後などの狭窄性新生内膜形成,動脈瘤など多くの疾患で,炎症に伴って一過性に発現し,病態制御の鍵分子として,細胞接着をゆるめ,炎症・免疫反応を調節・線維化を促進するなど多彩な機能を有する.また,その特異的な発現様式を利用して,血中バイオマーカーや分子イメージングなど病態診断に応用することが可能である. -
難治性炎症性疾患のレギュレーターとしてのα9インテグリン
248巻7号(2014);View Description Hide Descriptionα9 インテグリンはオステオポンチン(OPN),tenascin-C などをリガンドとし,ヒト好中球,骨格筋,平滑筋,線維芽細胞,上皮,リンパ管内皮細胞などでの発現が報告されているがその機能はよくわかっていない.α9 インテグリンの受容体のひとつであるOPN は,トロンビンによりR168 とS169 の間で切断を受けることによりはじめてα9 インテグリンとの結合が可能になる.マウスOPN とα9 インテグリンの結合阻害により破骨細胞の分化や骨吸収能にα9 インテグリンが機能し,マウスの自己免疫性関節炎に対して治療効果があることが明らかになっている.また,α9 インテグリン遺伝子欠損マウスはリンパ管弁の機能不全によるリンパ液の漏出による乳糜胸症を示し,出生後早期に死亡する.本稿では,当研究室で樹立した抗マウスα9 インテグリン阻害抗体を用いて行ってきた関節リウマチモデルに対する治療効果と,リンパ管内皮細胞上のα9インテグリンの機能について概説する. -
オステオポンチンは成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)の予後因子である
248巻7号(2014);View Description Hide Description成人T 細胞白血病リンパ腫(ATL)の原因ウイルスHTLV-Ⅰ感染者は世界中に存在するが,それを原因とする白血病がひとつの単一な疾患であることを発見したのはわが国の研究者である.ATL の主たる増殖部位はリンパ節である.OPN は細胞外マトリックス蛋白で,CD44 とインテグリンの両方と相互作用する分泌性糖蛋白質で,アポトーシスを阻害し血管新生や腫瘍細胞の浸潤を促進する.血漿OPN 値をATL 患者で測定した結果,急性型でもっとも高く,続いてリンパ腫,慢性型であった.その値はTIL と正の相関をするが,異型リンパ球数と血小板数とは逆相関を認めた.リンパ節では腫瘍細胞がATL 細胞で増幅するにもかかわらずOPN発現は弱く,一方で腫瘍浸潤マクロファージがOPN を強く発現していた.著者らは,腫瘍浸潤マクロファージがOPN を産生し,高カルシウム血症および血小板減少症を引き起こして,ATL の重症度と関連していたことをはじめて明らかにした.
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連載
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- 初学者のための医療経済学入門 13
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うつ病のコスト
248巻7号(2014);View Description Hide Description現代日本の精神保健にかかる問題は経済問題と直結する.バブル崩壊後,企業は競って能力主義・成果主義を導入し,非正規雇用者を増やした結果,職場環境はきわめて厳しいものになった.つねに成果を求められるプレッシャーや生活苦,将来への不安などからうつ病になる人も多く,うつ・躁うつ病患者の数は2008 年に100 万人を超えた.うつ病治療には,①生物学的治療,②精神療法,③環境調整があるが,中心はもっぱら保険診療が認められている薬物療法である.通常,セロトニンやノルアドレナリンの賦活剤が多用されるが,非定型うつ病はドパミンが関係しているため,従来の抗うつ剤だけでは十分な効果が得られない.また,通院療法に比べて入院療法の医療費は割高であるが,一般診療科に比べるとその水準は低く,患者の精神症状や医療スタッフ(とくに看護師)のコストも十分に反映していない.このように問題山積の精神医療であるが,うつ病のもっとも不幸な転帰が自殺であることを考えると,復職支援も含めて国・自治体をあげた予防政策が求められる.
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フォーラム
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- 近代医学を築いた人々医学 26
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TOPICS
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- 免疫学
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- 循環器内科学
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- 麻酔科学
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