医学のあゆみ
Volume 248, Issue 11, 2014
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あゆみ コンパニオン診断―診断薬開発から臨床応用へ
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個別化医療をめざした医薬品・コンパニオン診断薬開発の現状と展望
248巻11号(2014);View Description Hide Description2003 年のヒトゲノムプロジェクト完了を契機とした生命科学研究の著しい進展により,ゲノム情報などを利用した個別化医療が一部現実のものとなりつつある.個別化医療においてもっとも進んでいる適用分野は薬物治療への応用であり,その目的は医薬品投与における有効性の最大化と副作用の最小化である.これを実現するために必須となるのが,薬剤の有効性や副作用の発現を予測するバイオマーカーである.このようなバイオマーカーを事前に検査することによって,当該薬剤に対するベネフィットが期待できる患者の選定(層別化)が可能となる.特定の薬剤に関する有効性・副作用発現を予測するバイオマーカー検査薬は,当該薬剤に付随するという意味合いからコンパニオン診断薬とよばれ,近年ではおもにがん分野における分子標的薬において医薬品との同時開発が進められている.本稿では,個別化医療をめざした医薬品およびコンパニオン診断薬開発の現状と課題を概説し,その将来展望について述べる. -
診断薬企業におけるコンパニオン診断薬の開発―その経緯と留意すべき事項
248巻11号(2014);View Description Hide Descriptionコンパニオン診断薬は医薬品の適正使用において重要な役割を果たすことが期待されており,コンパニオン診断薬と医薬の同時開発はわが国においても,今後本格化するものと予想される.2013 年7 月に厚生労働省医薬食品局審査管理課から発出された課長通知にはコンパニオン診断薬開発の基本事項が述べられているが,いくつかの基本事項はポテリジオ(R) テストの開発・申請における経験と重なる部分がある.本稿では,ポテリジオ(R) テストの開発・申請の事例を通じて医薬とコンパニオン診断薬の開発・申請においていくつかの留意すべき事項について述べる.また,医薬とコンパニオン診断薬の組合せから生じる今後の開発上の課題についても触れたい. -
病理診断と遺伝子診断の実際―肺癌を例にして
248巻11号(2014);View Description Hide Description血液系腫瘍や軟部腫瘍とは異なり,固形腫瘍では疾患と遺伝子変異とが一致することはほとんどなく,対象腫瘍の部分集合として遺伝子変異が見出される.そのため,その腫瘍の遺伝子変異を検索し,ドライバー変異を標的とする分子標的治療を行うことになる.遺伝子変異検索には病理組織あるいは細胞診標本が用いられることが多く,それらの特性・利点を把握して用いる必要がある.生検組織では腫瘍細胞量に乏しいことがあり,高感度の検出方法が必要となる.手術切除材料では固定方法などに配慮する必要がある.肺腺癌ではEGFR,ALK のほかにも標的となる遺伝子変異が数多く同定されており,それらのマルチプレックス診断法や診断アルゴリズムなどを考えることが求められている.そのため,肺癌の遺伝子診断には個別化医療の多くの問題点が含まれており,他の腫瘍にも応用可能な教訓が得られるモデルとも考えられる. -
大腸癌におけるコンパニオン診断
248巻11号(2014);View Description Hide Description現在,大腸癌領域におけるコンパニオン診断としては,抗EGFR 抗体薬の負の効果予測因子として知られるKRAS exon 2(codon 12,13)変異診断,および塩酸イリノテカン(CPT-11)による好中球減少のリスクを予測するUGT1A1 遺伝子多型診断が臨床応用されており,キット化された体外診断薬を用いて保険診療のもとで測定が行われている.さらに大規模臨床試験の後,解析によりKRAS exon 2 以外の抗EGFR 抗体薬の効果予測因子や結腸癌の術後再発リスク予測因子などが明らかになってきており,これらを測定する体外診断薬の開発も進められている. -
乳癌におけるコンパニオン診断
248巻11号(2014);View Description Hide Description乳癌の治療法選択は,癌細胞の広がりを表す病期分類と,癌細胞の性格を表すサブタイプ分類をもとに決定されている.乳癌の分子標的薬である抗HER2 治療薬の適応にあたっては,症例のサブタイプ分類がHER2陽性乳癌であることが必要である.それゆえ,治療方針を間違えないために,正確なサブタイプ分類が必要である.抗HER2 治療薬のトラスツズマブの開発と同時に,HER2 検査法も開発され,コンパニオン診断とよばれるようになった.現在,乳癌のHER2 検査は免疫組織染色法(IHC)とin situ hybridization(ISH)法を中心に行われているが,その診断精度管理は重要な問題である.本稿では2013 年10 月に改訂されたアメリカ臨床腫瘍学会とアメリカ病理学会(ASCO/CAP)ガイドラインの解説を中心に,乳癌のHER2 検査の概要を述べる. -
コンパニオン診断薬:先進医療から保険導入へ
248巻11号(2014);View Description Hide Descriptionコンパニオン診断薬(CDx)の臨床応用に関するわが国の現状は,承認審査や保険償還のルールづくりがはじまった段階である.本稿ではCDx のうち,治療薬と同時に開発されたものでなく,すでに承認ずみの治療薬を臨床現場で使用する際に後付で実施が求められるものを中心に,先進医療制度を活用した保険導入のあり方について問題提起と提言を行いたい.とくに,アメリカで実施されている“エビデンス開発に応じた保険適用”(CED)は,ヒト遺伝子検査をCDx として臨床応用する場合の参考例になると思われる. -
分子標的薬・コンパニオン診断薬の医療技術評価の現状と課題
248巻11号(2014);View Description Hide Description分子標的薬の開発が進むとともに,今後ますます個別化医療は加速し,薬剤は有効な集団にのみ与えられるようになっていくであろう.分子標的薬の開発とともに,この“有効な集団”を絞り込むためにコンパニオン診断薬も開発される.昨今,分子標的薬およびコンパニオン診断薬の医療技術評価(HTA)についての議論が行われている.HTA は医療技術を医学的・社会的・倫理的・経済的な観点などから総合的に検討するものであり,評価の結果は新薬や新技術などの保険償還の可否や償還価格の設定,臨床ガイドラインの策定などへの使用が期待されている.日本では分子標的薬・コンパニオン診断薬のHTA はまだほとんど行われていないが,医療保険制度の枠組みのなかで,このような医療を効率的に提供していくためにはHTA が不可欠であり,その適用範囲や社会の受容といった種々の課題に対して幅広い議論が求められる.
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連載
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- 初学者のための医療経済学入門 16(最終回)
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医療格差の現状と課題
248巻11号(2014);View Description Hide Descriptionわが国の医療は保険者によって保険料の徴収方法が異なるほか,地方によって医師数のばらつきも大きい.たとえば,徳島県の人口10 万人当り医師数は283 人と京都,東京に続く第3 位だが,糖尿病の患者数も全国2 位となっている.“供給が需要をつくるか”どうかはまだ仮説段階であるが,諸外国の医療格差はもっと激しい.たとえば,中国では改革後,一部負担の導入が糖尿病患者の受診行動の開始を遅らせ,患者の重症化が進んだが,同時に包括支払方式が導入されたことによって一人当り糖尿病入院医療費は名目上減少したという.また,国民皆保険が未発達な中国において保険加入の有無において急性心筋梗塞治療に関する在院日数,医療費,院内死亡率の有無を調べたところ,一定の有意差があることがわかった.さらに,帝王切開率の高い中国において医学的適応のない比率が38%もあり,その料金もみかけ上は低料金であるが,妊産婦の重症度を調査すると,かえって割高で,医療資源を浪費していることが示唆された.しかし,国民皆保険制度も万全ではなく,タイでは“30 バーツ政策”を導入後も歯科医療については不平等・不公平は温存されている.そこで最近,最貧国で活用されているのが少額医療保険制度である.これはマイクロ・クレジット(少額融資制度)から派生したもので,今流行のソーシャルビジネスのひとつである.こうした開発経済学の応用がどこまで医療の格差の解消に貢献できるか,今後の発展が期待される.
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フォーラム
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- 近代医学を築いた人々 27
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- ゲノム人類学の最先端 2
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TOPICS
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- 再生医学
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- 癌・腫瘍学
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- 腎臓内科学
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