Volume 249,
Issue 1,
2014
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【4月第1土曜特集】 生殖医学・医療の最前線
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医学のあゆみ 249巻1号, 1-1 (2014);
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生殖医学研究の最前線
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医学のあゆみ 249巻1号, 5-10 (2014);
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視床下部-下垂体-性腺系での最近の進歩は,キスぺプチンの役割が解明されてきたことであり,生物活性物質の創薬に応用する試みも報告されるようになってきている.黄体化ホルモン(LH)の作用が卵子に直接作用せずEGF 様物質が分泌され,卵丘細胞に作用することと,顆粒膜細胞からのC 型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)の減少および卵丘細胞に発現するCNP の受容体の減少が,細胞内のcGMP を減少させる.cGMP はcAMP を代謝する酵素を抑制することから,結果としてcAMP の減少がもたらされ,減数分裂が再開する.Interleukin-6(I L-6)は炎症性サイトカインとしてLH 受容体(LH-R)の発現抑制を介して卵胞発育・排卵に抑制的に働くとされていたが,IL-6 はFSH・cAMP と協調的に作用してLH-R の発現を促進することが判明した.また,ステロイド産生にかかわる物質の転写制御にヒストン修飾が関連することや,LH-R の発現制御にmiRNA が関与することも報告されている.
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医学のあゆみ 249巻1号, 11-17 (2014);
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下垂体から一過的に放出される黄体化ホルモン(LH)が顆粒膜細胞に作用すると,卵丘細胞はヒアルロン酸を合成・蓄積し,膨化した卵丘細胞層に包まれた成熟卵が排卵される.しかし,排卵される卵丘細胞や卵にはLH 受容体が発現していないため,顆粒膜細胞が分泌するEGF like factor が局所因子として作用している.このEGF like factor はLH サージにより直接的に発現が誘導され,ADAM17 によりEGF 部位が放出されると,標的細胞である顆粒膜細胞と卵丘細胞のEGF 受容体を刺激する.その結果,ERK1/2 系が活性化し,プロゲステロン合成,プロスタグランジン合成や卵丘細胞の膨化が開始される.さらに,ERK1/2 はギャップジャンクションの閉鎖を介して卵の減数分裂を再開させ,プロゲステロンによるSNAP25 の発現を介してサイトカインを放出し,それが卵成熟を促進する.このように顆粒膜細胞が放出する因子が排卵誘導に必須である.
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医学のあゆみ 249巻1号, 19-24 (2014);
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不妊治療の有効な治療法である体外受精・胚移植(IVF-ET)において,質的にもっとも良好な胚を選択することは妊娠率の向上に不可欠である.現在,胚の品質は割球の形態や数などの形態的特徴を基準に評価されているが,治療成績の向上にはより精度の高い品質評価法の開発が望まれている.著者らは,胚の品質とミトコンドリア機能が密接に関連していることに着目し研究を進めてきた.その結果,電気化学計測技術を応用した“受精卵呼吸測定装置”を開発することができた.この装置は単一胚の酸素消費量を短時間で非侵襲的に測定することができ,酸素消費(呼吸活性)を基準に,高い発生能や耐凍能を有する品質良好胚を高精度で選別することができる.本稿では,“受精卵呼吸測定装置”を用いた新しい胚評価法に関する最新の研究成果を解説するとともに,生殖補助医療における“受精卵呼吸測定装置”の実用化をめざした試験的臨床研究の成果を紹介する.
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医学のあゆみ 249巻1号, 25-30 (2014);
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精子形成は思春期にはじまり老年まで続く.これは精祖細胞が精子に分化するまでのあらゆる事象を含んでいる.精細管の基底膜に沿って存在する精祖細胞は有糸分裂,減数分裂を経て精子となる.これらの分化の過程は精細管のなかで規則正しく進行していき,十分成熟した精子は精巣上体へ送られる.この段階ではまだ精子は運動機能が未成熟であり,精巣上体を通過する際に精巣上体上皮からの分泌物によって運動能を獲得する.射出された精子は子宮・卵管によってさらに諸種の変化を受け,受精能を獲得し,透明帯の通過ならびに卵細胞との融合が可能になる.このように,精子の発生と成熟には長く複雑な過程を経る必要があるが,その調整には視床下部-下垂体-精巣を軸とした内分泌調整機構と精巣局所での調整機構が働いている.本稿ではこれらの精子形成,成熟機構とその調整機構について,最新の学説を織り交ぜながら解説する.
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医学のあゆみ 249巻1号, 31-37 (2014);
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精子の役割は父親の遺伝情報を卵子に届け世代を継承することである.精子は精巣で形成されて精管で貯蔵される.射出された精子は女性生殖管で授精能を獲得し卵子を活性化する.精子機能蛋白質をコードするDNA は精子形成までに修飾を受けて精子に組み込まれる.その遺伝子は精子形成中に発現して機能蛋白質を産生する.機能蛋白質は精子構造の構築に伴ってできる機能ドメインに配備され,授精過程でタイムリーに働く.顕著な変化を示す先体反応では構造変化に伴って膜融合能が獲得される.精子核DNA はエピジェネティックな修飾変化を含むさまざまな修飾を受けてサイレントな状態にあるが,胚発生に重大な影響を与える.精子の質は,精子が授精能をもつと同時に安全に世代を継承する能力を備え,その機能が必要な時期にタイムリーに発現される状態にあるといえる.精子の質評価はそのような精子の能力を評価することである.
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医学のあゆみ 249巻1号, 38-42 (2014);
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本稿では卵子における生殖細胞質移植,核置換が,加齢や遺伝子異常を解決する方法として適用できるかどうかを検討した.まず,ミトコンドリアが生殖細胞質移植と核置換による加齢と遺伝子疾患を改善する能力の主たる役割を果たしているメカニズムについて考察した.ついで,クローン技術や他の発生工学技術に関連する知見と,細胞質移植法と核置換法の現状,および今後の臨床応用に向けた移植ミトコンドリアの適正化とその後の胚の正常発生への寄与の可能性を解説した.
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医学のあゆみ 249巻1号, 44-48 (2014);
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生殖補助医療技術(assisted reproductive technology:ART)の進歩により,かつては挙児を得ることが絶対に不可能とされていた不妊症カップルに朗報をもたらすことが可能になってきた.男性不妊症における造精機能障害の原因はほとんどが不明である.そのなかで多くの男性不妊症関連遺伝子がみつかってきている.今後,造精機能障害の原因遺伝子が判明することが容易に想像できる.そこで今回,精巣内への外来遺伝子を導入することを目的に3 方法の遺伝子導入法,①電気刺激(エレクトロポレーション)法,②アデノウイルスベクター法,③リポフェクション法を施行し,各方法の特徴をまとめた.エレクトロポレーション法では精巣内の精細胞,体細胞いずれにも導入可能であるが,導入後4 週間,外来遺伝子の発現が確認された.アデノウイルスベクター法においては体細胞のみに導入され,8 週間にわたり発現が確認された.リポフェクション法は組織への導入は弱いが,培養細胞や精子そのものへ外来遺伝子を導入することが可能と考えられた.導入したい組織・細胞それぞれの状態に応じて導入方法を選択することが示された.
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医学のあゆみ 249巻1号, 49-54 (2014);
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“エピジェネティクス”とは,DNA の配列に変化を起こさず,かつ細胞分裂を経て伝達される遺伝子機能の変化やその仕組みである.エピジェネティックな修飾,すなわちエピゲノム修飾は生殖細胞,胚発生過程のゲノム機能を動的に制御している.生殖補助医療(ART)は排卵誘発,配偶子操作,培養液など,この時期の配偶子や初期胚を人為的に操作するため,エピゲノム修飾に多様な変異を招く可能性について懸念されている.近年,DNA メチル化異常を伴うインプリンティング異常症や小児癌の発症率の増加を指摘する報告が世界中で散見される.これらエピゲノム異常は先天性疾患,小児癌,さらに癌や生活習慣病など成人の難治性疾患の原因となりうる.本稿では,ART によりどのような異常が,どの程度起こるのかを文献から考察するとともに,ART におけるエピゲノム異常について紹介する.
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医学のあゆみ 249巻1号, 55-60 (2014);
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近年の生殖補助医療技術の発展により,多くの不妊夫婦に福音がもたらされてきた.しかし,生まれつき子宮がない女性や子宮腫瘍などにより子宮を摘出された女性にとって,自らの子宮で児を育て出産することは不可能である.最近,これらの子宮性不妊女性が自らの児を得るために,“子宮移植”というあらたな生殖補助医療技術が考えられるようになってきている.これは提供者(ドナー)からの子宮の提供で,子宮の移植を受けた受容者(レシピエント)の妊娠や出産を可能にさせるというものである.海外ではすでに臨床応用が報告されるようになり,期待される技術ではあるが,臨床応用にあたっては倫理的問題を含めたさまざまな課題を十分に議論する必要がある.本稿では子宮移植の背景や現状,臨床応用への課題について,著者らのこれまでの取組みや今後の計画にも言及しながら概説する.
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医学のあゆみ 249巻1号, 61-67 (2014);
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最近,精巣組織や卵巣組織から精子幹細胞(SSCs)や卵子幹細胞(OSCs)が分離されたとの報告がなされた.また,胚性幹細胞(ES 細胞)や人工多能性幹細胞(iPS 細胞)からも始原生殖細胞様細胞(PGCLCs)が分化誘導された.これらの生殖幹細胞からマウスでは配偶子(精子や卵子)が作成され,生殖能力を有する産仔が得られた.精巣のみならず,卵巣組織中からも増殖可能な生殖系列細胞が得られたという報告が複数の研究機関からなされたことは,成体卵巣中の生殖細胞は補充・再生されないという従来の学説の見直しを迫るものである.一方,ES 細胞やiPS 細胞から生殖幹細胞を多数得ることが可能となり,その誘導において中心的に機能する遺伝子を同定できたことから,生殖細胞の発生に関する知見が深まることが期待されている.生殖幹細胞の発見は,不妊症患者に対する生殖補助医療(ART)のみならず,悪性腫瘍患者の妊孕能温存を目的とするがん・生殖医療へも応用可能と思われる.
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生殖補助医療(ART)の最前線
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医学のあゆみ 249巻1号, 71-75 (2014);
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生殖補助医療(ART)における卵巣刺激法は,複数卵を同時に採取することを目的とする調節卵巣刺激(COS)が一般的である.COS は大きく分けて,クロミフェン単独,ゴナドトロピン単独,両者の併用法,ゴナドトロピンにGn-RH アナログ(アゴニストあるいはアンタゴニスト)を用いる方法などがある.現状ではGn-RH アナログとゴナドトロピンを併用して10 個程度の成熟卵を採取する方法が一般的である.ゴナドトロピンの種類,1 日投与量,投与期間,採卵の適切な時期などを考慮し,良好な成熟卵を得るとともに,卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を可能なかぎり軽減する適切な卵巣刺激を選択することが重要である.
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医学のあゆみ 249巻1号, 77-82 (2014);
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体外受精は卵巣刺激,採卵,培養,胚移植の過程からなる.採卵はこのなかで唯一観血的手技であり,患者のリスクを伴う.採卵は経腟的超音波(TV)下に腟壁・卵巣を穿刺,卵巣のなかの卵胞を吸引し,卵子を回収する方法である.採卵時間は1~5 分程度であるが,多少の苦痛を伴う.苦痛を最小限にし,かつ安心・安全に損傷のない良質成熟卵子を得ることが医師の使命である.適切な麻酔下に20 ゲージの採卵針を用い,つねにTV で卵胞が最大にみえる位置で針先を卵胞の中心において回転しながら最適な吸引圧で回収するのがコツである.また,体内から卵を取り出し,インキュベーターに収納するまでの体外にさらす時間をできるだけ短時間に,しかも体内環境に近づけることが成功の鍵となる.採卵合併症の出血に関してはできるだけ細い採卵針を用い,穿刺回数を最小限にすること,感染に関しては予防的な抗生物質投与や腟内洗浄,術中チョコレート嚢胞穿刺を回避することで軽減できる.
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医学のあゆみ 249巻1号, 83-88 (2014);
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生殖補助医療(ART)は重要な不妊治療のひとつで,生命の誕生に向けての第一ステップが受精である.受精のメカニズムを知ることが効率よく受精をはかる方法の考案につながるが,受精のメカニズムの多くはまだ解明されていない.体外受精(IVF)では運動精子の最終濃度は20×104/mL と,in vivo と比べると非常に高い濃度で受精される.IVF での受精率はおおよそ70%で,完全受精障害も約10%に発生する.IVF での受精障害への対処は,つぎのART として顕微授精(ICSI)を行う,あるいはsplit ICSI を行う,またはrescue ICSI を行うなどの選択肢がある.ICSI の受精率は80~90%で,ICSI でも受精障害が起こる.完全受精障害の頻度は1~5.6%である.ICSI の受精障害への対策としては精子因子の障害を補完するカルシウムイオノフォア(A23187)処理,電気刺激法,ストロンチウム処理などの卵活性化処理の併用がある.特殊な受精障害のケースとして不動精子だけのケースやglobozoospermia のケースがある.受精障害が起きたときには何が問題かを理論的に解析して対処することが重要である.
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医学のあゆみ 249巻1号, 89-98 (2014);
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基本的な体外受精-胚移植(IVF-ET)は,卵巣刺激(排卵誘発)により複数の卵胞発育を促し,採卵後2~3 日目の初期胚を移植する方法である.近年,胚発達に伴った胚の代謝状態の変化や着床前後における卵管内・子宮内環境の研究により培養技術が進歩し,採卵後5~6 日目の胚盤胞という着床直前の段階まで生存性を損なうことなく培養することが可能となり,この段階で移植する胚盤胞移植が主流となった.これにより胚発達の経過からより適切な胚選択を行うことができるようになり,成績向上につながった.一般的に体外受精では複数の受精卵を得るようにするため,1~2 個の胚を新鮮胚移植した後,余剰の受精卵を有効に利用するための凍結保存技術は必要不可欠である.これには,①胚を耐凍剤で平衡化した後プログラムフリーザーなどにより室温から-30℃付近まで1 時間以上かけて徐々に温度を低下させ,その後液体窒素内に投入する“緩慢凍結法”と,②比較的高濃度の耐凍剤に混和後,ただちに液体窒素内温度である-196℃に低下させる急速冷却法である“ガラス化法”があり,後者の方法が生存性の高さと簡便性から現在主流となっている.
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医学のあゆみ 249巻1号, 99-105 (2014);
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胚の質は妊娠の成否に影響を及ぼす重要な因子であり,その評価は採卵以前の卵胞発育,精子の質や培養環境を反映した総合的評価といえる.2008 年に日本産婦人科学会より体外受精での多胎妊娠を防ぐために移植胚数を原則1 個とする会告が出され,良好な結果が得られているものの,妊娠率の維持の観点から,より妊娠能力の高い胚の選別が必要とされている.本稿では従来行われてきた形態学的特徴に基づく評価法のほか,近年ヒト胚での応用が盛んなtime-lapse image analysis による評価,胚の代謝や呼吸機能の解析などの試みを紹介する.また,良好胚を移植した場合であっても妊娠不成立となる場合も数多く,胚の移植にもさまざまな試みがなされている.しかし,生殖医療が急速に発展した現在でもなお移植方法は確立しておらず,移植の時期や方法に関しては各施設の判断に基づき行われている.本稿では移植に関する試みとして,assisted hatchingおよび移植時期の検討などを概説する.
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医学のあゆみ 249巻1号, 106-111 (2014);
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体外受精・胚移植法の技術進歩により採卵や胚移植の成功率は飛躍的に向上したが,移植当りの妊娠率はいまだに不良である.黄体期・妊娠初期管理の必要性の理由として,Gn-RH アゴニストまたはアンタゴニスト併用による内因性黄体形成ホルモン(LH)の持続的抑制,採卵時の吸引による卵胞壁構築および顆粒膜細胞の破壊,非生理的高濃度のステロイドホルモンによる視床下部-下垂体系の抑制によるLH 分泌不全,排卵誘発によるプロゲステロン/エストロゲン比の低下,があげられる.治療法としてプロゲスチン投与による黄体補充療法とヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)投与による黄体賦活療法とがあるが,hCG による卵巣過剰刺激症候群の発症や進展に留意する.さらに,凍結融解胚移植のホルモン補充周期では,胚移植後の性ステロイドホルモンの継続的な投与が必須である.妊娠率向上のためには胚移植後の適切な黄体期・妊娠初期管理が必要である.
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医学のあゆみ 249巻1号, 112-116 (2014);
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男性不妊症の原因として約8 割を造精機能障害が占めている.その大半は原因不明であり有効な治療法がないのが現状である.低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(MHH)を除く無精子症患者においては,精巣精子採取術(TESE)や精路再建術による外科的アプローチでしか挙児を得る可能性はなく,乏精子症・精子無力症においては薬物療法や,精索静脈瘤を認める際にはその手術が考慮される.MHH による造精機能障害はホルモン補充療法により劇的に改善する可能性があり,見逃してはいけない.TESE は無精子症に対する治療法として行われてきたが,最近では高度乏精子症において,射出精液中の精子を用いて顕微授精を行うよりも,精巣精子を用いたほうが成績がよいとの報告も増えており,適応が拡大してきている.高度乏精子症,無精子症患者においてはY 染色体微小欠失を含めた染色体異常の頻度も高いため,かならず検査し,カウンセリングを行わなくてはいけない.
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医学のあゆみ 249巻1号, 117-122 (2014);
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未成熟卵子を用いた体外受精胚移植法(IVM-IVF)は,通常の体外受精胚移植法(IVF;1978 年)による妊娠出産成功の13 年後にはじめて臨床応用された比較的新しい生殖補助医療技術(ART)の選択肢である.当初は,排卵誘発剤投与による卵巣過剰刺激症候群(OHSS)という副作用を避けるために,多嚢胞性卵巣(PCO)患者の体外受精のひとつとして開発された.IVM は排卵誘発剤の投与をほとんど必要としないため,患者の肉体的・経済的・時間的さらには精神的負担が卵巣刺激周期IVF に比べ軽減される.その後,適応範囲は拡大されつつある.ただ,Gn-RH アンタゴニストや全受精卵凍結によるOHSS 回避方法の出現や,いぜんとしてIVM妊娠率がIVF より低いこともあり,使用頻度は高くない.その一方,近年IVF による反復不成功例の出現や高齢患者の増加などにより,IVM の有用性が見直されつつある.IVM の技術が発展すれば,その副作用の少なさからIVM が今後,ART の主要な役割を担っても不思議ではない.
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医学のあゆみ 249巻1号, 123-129 (2014);
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近年,生殖年齢患者に対する化学療法や放射線療法によって起こる妊孕性喪失は,非常に大きな問題であると認識されている.妊孕性温存療法は悪性腫瘍の種類や治療法,原疾患の治療開始までの期間,年齢,婚姻関係などにより選択が異なる特殊な治療である.そのなかでも卵巣組織凍結はまだ世界で30 名前後の出産例があるのみの新しい技術であるが,どの年齢でも施行可能である点,数日という短期間で施行できる点,大量の原始卵胞を保存できる点で,他の妊孕性温存療法より優れた治療法である.しかし,卵巣転移の可能性が高い患者には移植時に癌細胞が再移入する可能性があり,施行不可能である.新しい凍結方法であるガラス化法による凍結融解後の妊娠例が最近報告された.今後さらに技術の確立と安全性など適応の検討が十分に必要であるものの,卵巣組織凍結は若年癌患者の妊孕性温存療法の主要な方法のひとつとして,近い将来確立されることが予想される.
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医学のあゆみ 249巻1号, 130-134 (2014);
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遺伝医療と生殖医療の接点ともいえる単一の胚細胞由来の遺伝子診断を行う着床前(遺伝子)診断は,体外受精によって得られた配偶子や初期胚の一部から遺伝子または染色体を解析し,重篤な遺伝病の発生につながる胚を診断することを可能にするものである.遺伝子診断の対象となる生殖細胞は,胚細胞および極体である.一般的に診断のために遺伝子増幅法として,2 回のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法または全ゲノム増幅(WGA)法が用いられる.さらに,塩基配列の分析が必要な遺伝子型に対しては塩基配列分析が行われる.近年,網羅的に遺伝子を解析する技術が導入され,microarray 法による診断が技術的に可能となり,染色体の診断に対してもすでにBac クローンを用いたarray CGH(aCGH)が多く用いられている.同時に遺伝情報の取扱いに十分に配慮をすることが大切である.
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医学のあゆみ 249巻1号, 135-141 (2014);
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1978 年,ロバート・エドワーズ博士とパトリック・ステプトー氏による世界ではじめての体外受精で妊娠した女性がイギリスで出産したというニュースが世界を駆けめぐった1).体外受精の成功により多くの不妊に悩むカップルに福音がもたらされただけでなく,当該カップル以外の卵子または子宮を使って妊娠して子をもつことや,受精した胚を用いて着床前診断を行うという診断や研究への応用が可能となった.卵子や胚の提供による妊娠や,代理懐胎という生殖医療に関する新規技術の導入により,これまで妊娠が不可能と考えられた女性でも子をもつことが可能になったと同時に,従来の規範や秩序に予定されていなかった親子関係の問題点の生じるおそれが指摘されている.一方,第三者からの精子提供による人工授精(非配偶者間人工授精;AID)は第二次世界大戦後間もない1949 年にわが国での1 例目の実施が報告され,少数の施設において長年にわたり実施されてきた.実施開始当初や昭和30 年代には社会的に問題視されたこともあったが,AID が体外受精と無縁であり,技術的にも革新的なものでないことから,大きく取り上げられることはなかった.近年,AID により生まれた子の考え方が明らかとなるに及び,この技術の倫理的問題点が改めてクローズアップされてきている.可能な技術をどこまで医療行為として実践してよいのか,また実践に際してどのようなルールを設定し,受け皿を準備すればよいのか,あらゆる視点から多面的に議論することが必要であろう.