Volume 250,
Issue 1,
2014
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【7月第1土曜特集】 癌幹細胞
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医学のあゆみ 250巻1号, 1-1 (2014);
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造血系癌幹細胞
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医学のあゆみ 250巻1号, 5-9 (2014);
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健常人の造血幹細胞(HSC)にも遺伝子異常は認められ,加齢とともに増加する.このような細胞の一部はpre-白血病幹細胞(LSC)としてクローナルに増殖する.急性骨髄性白血病(AML)の場合,pre-LSC に二次的な遺伝子変異が起こってAML を発症する.AML のLSC はもっとも未分化なHSC レベル,あるいは前駆細胞が自己複製能を獲得したものと推定されるが,LSC 集団内にも自己複製能において階層が存在する.LSC は正常のHSC と同様に骨髄微小環境内でその特性を維持し,抗癌剤に抵抗性を示す.一方,LSC と正常HSCでは表面抗原やその維持にかかわるシグナル伝達に違いがあり,これらを標的とした新規治療が開発中である.
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医学のあゆみ 250巻1号, 11-14 (2014);
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急性骨髄性白血病(AML)において,極少数の白血病幹細胞のみが自己複製能と白血病細胞への限定された分化能を有し,白血病細胞集団を構成・維持していることが免疫不全マウスを用いた研究で明らかになった1,2).AML は近年提唱されている癌幹細胞モデルにおいて最初に癌幹細胞が純化された疾患であり,AML の白血病幹細胞の純化により基礎的な白血病発生のメカニズムから臨床的治療応用の可能性に至るまで,さまざまな研究が進められている.一方で,急性リンパ球性白血病(ALL)をはじめとして他の造血器腫瘍においても,同様に白血病幹細胞研究が盛んに進められ,新しい知見が得られつつある.さらに,近年では次世代シーケンサーを用いた解析により,新規の体細胞変異群が種々の疾患で同定されるのと同時に,腫瘍細胞集団内,あるいは前腫瘍段階からの詳細なクローン解析も可能となってきている3,4).本稿では,白血病幹細胞研究の経過およびリンパ球系腫瘍における腫瘍性幹細胞,あるいは造血幹細胞レベルからの白血病発症機構について,著者らの最近の研究結果を含めて簡単に紹介したい.
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医学のあゆみ 250巻1号, 15-21 (2014);
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骨髄増殖性腫瘍(MPN)は,造血幹細胞に生じた遺伝子変異により分化傾向を有する骨髄系細胞が異常増殖する疾患である.病態の中心は,慢性骨髄性白血病(CML)ではBCR-ABL 形成による恒常的なABL の活性化であり,真性多血症(PV),本態性血小板血症(ET),原発性骨髄線維症(PMF)では,エピゲノム制御分子の異常による造血幹細胞・前駆細胞の恒常性の破綻と細胞内シグナル伝達関連分子の変異による造血前駆細胞の異常増殖である.造血幹細胞にこれらの変異が蓄積すると腫瘍クローンは進展し(clonal evolution),さらに分化関連分子の変異が加わると急性白血病へと転化する.MPN では各疾患に特異的なチロシンキナーゼやシグナル伝達経路の活性化がみられており,それを標的とした分子標的療法が行われている.MPN 癌幹細胞の根絶のためには,変異の数,種類に基づく癌幹細胞の生物学的性質や,疾患を形成するclonal evolution のパターンに応じた治療法の開発が望まれる.
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医学のあゆみ 250巻1号, 22-26 (2014);
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正常組織は,幹細胞をヒエラルキーの頂点とした幹細胞システムによって恒常性を維持している.一方,癌においても正常幹細胞と同様,“癌幹細胞”によって癌細胞が供給されている.また,正常幹細胞は組織内の特殊な微小環境“ニッチ”からのシグナルにより自己複製能と多分化能のバランスを維持しているが,このニッチ制御のメカニズムは癌幹細胞の維持にも当てはまると考えられる.すなわち,癌幹細胞も周囲のニッチとの相互作用に依存してその生存・増殖が制御されている.さらには正常幹細胞から癌幹細胞への転換にもニッチが関与している可能性が示されている.癌治療において癌幹細胞とこれを支えているニッチが治療戦略のターゲットとなっているが,これには正常幹細胞・癌幹細胞のニッチ制御の詳細を理解し,その違いを明らかにすることがきわめて重要である.
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固形癌幹細胞
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医学のあゆみ 250巻1号, 29-34 (2014);
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細胞表面マーカーCD44 とCD24 の発現を指標として分取できる“ヒト乳癌幹細胞”がヒト乳癌組織中に存在するとの報告が2003 年にされてから,2014 年で11 年目となった.当時,血液腫瘍では癌幹細胞の存在が示されていたが,固形腫瘍ではこれがはじめての報告であった.“癌幹細胞理論”は,ヒトの腫瘍における癌細胞の不均一性や,治療抵抗性,再発,転移の機構をあらたな視点から説明しうる理論としてとくに注目される一方,その発表当初からその意義に関してさまざまな議論がされてきた.ヒトの腫瘍やそれをマウスに移植したモデルの解析が進み,癌幹細胞がヒトの癌の形成にかかわる因子として認識されるようになり,さらにマイクロRNA などによる癌幹細胞の自己再生能の制御の分子機構の解明も進んだ.そして,その発見以来10 年以上の歳月を経たいまでも,ヒト乳癌は癌幹細胞理論がもっともよく当てはまる固形腫瘍のひとつであり続けている.
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医学のあゆみ 250巻1号, 35-39 (2014);
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消化器癌の癌幹細胞研究は近年めざましく発達し理解が深まっている.その基盤研究から得られた知見は,すべての癌幹細胞の研究に応用することができる.本稿では,これまでの消化器癌の癌幹細胞研究の主立った発見,とくに癌幹細胞の発生と進展,細胞周期休止期の関与,転移現象で重要な上皮間葉転換(EMT),さらには創薬の観点から最近とくに注目されている癌細胞の代謝とその生理活性物質の流れを制御する根本的な分子シグナル伝達機構について概観する.癌幹細胞に関するあらたな知見は,画期的な治療技術の新構築につながることが期待される.
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医学のあゆみ 250巻1号, 40-44 (2014);
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神経膠芽腫(グリオブラストーマ)は正常組織への浸潤能と放射線・抗癌剤抵抗性を有する難治性疾患であり,過去数十年にわたり有効な治療法が開発されていない.このような状況下,グリオブラストーマ発生の根幹細胞であるグリオブラストーマ幹細胞(GIC)の発見はグリオブラストーマ研究に大きな転換を引き起こし,その性状解析を通した新規GIC マーカーの同定と治療法の開発が進められている.本稿では,著者らが作製したマウスGIC とヒトグリオブラストーマから樹立したGIC 濃縮細胞群を用いたマイクロRNA(miRNA)の探索と候補miRNA 機能解析の結果を紹介するとともに,GIC を用いた今後のmiRNA 研究について論じる.
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癌幹細胞制御の分子学的メカニズム
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医学のあゆみ 250巻1号, 47-51 (2014);
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正常組織の幹細胞は,生態学的な適所において未分化性や自己複製能,薬剤抵抗性といった幹細胞性が維持されており,このことにより長期にわたる臓器の維持が可能になっている.このような生態学的な適所は幹細胞ニッチと呼ばれており,ニッチにおける幹細胞性の維持機構の分子機序が明らかにされつつある.腫瘍組織においても未分化性を維持しつつ,癌細胞に分化する癌幹細胞が存在することが明らかにされてきている.そして,このような癌幹細胞の局在から多くの腫瘍種で癌幹細胞が血管をニッチとして利用していることが示唆されてきている.腫瘍の血管は血管内皮細胞や血管壁細胞あるいは筋線維芽細胞様の間葉系細胞によって構築されるが,これらのニッチ細胞と癌幹細胞の相互作用による癌幹細胞の幹細胞性維持の機構が明らかになってきた.
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医学のあゆみ 250巻1号, 52-58 (2014);
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DNA やヒストン蛋白の化学修飾に代表されるエピジェネティックな転写制御機構の破綻が,癌関連遺伝子の発現制御異常を介して,癌の発症過程に関与することが明らかにされつつある.また,急性白血病をはじめとする癌幹細胞の研究の成果を基盤に,癌のエピゲノム異常をその発生過程から理解する試みが行われている.こうした癌幹細胞研究は,生殖幹細胞や組織幹細胞におけるエピゲノム解析の進歩を組み入れながら,徐々に成果を上げつつある.癌細胞はかならずしも正常組織幹細胞から発症するとは限らないが,組織幹細胞の自己複製や前駆細胞への分化にかかわるエピジェネティック制御機構の破綻は,癌細胞への形質転換における重要な初期イベントのひとつである.本稿では癌にかかわるエピゲノム異常の知見を紹介し,癌細胞の発症・維持機構を考察する.
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医学のあゆみ 250巻1号, 59-63 (2014);
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がんの悪性進展においては,増殖シグナルが原動力となる“細胞が増える”現象とともに,“過酷な環境に耐える”生存戦略もまた,きわめて重要な意味をもつ.細胞を取り巻く環境に対応しながら“増える”と“耐える”を臨機応変に切り替えることが,がんの治療耐性や再発の本質ともいえる.これらの現象は,組織幹細胞がさまざまな環境変化に対応し長期にわたり恒常性を保つ現象とも共通性があり,興味深い.2 つのモードの切り替えの鍵となるのがエネルギー代謝制御シグナルである.近年,成長因子,酸素濃度,糖,ATP などを感知する栄養・エネルギーセンサーシグナルの分子機構が精力的に解明されつつある.がん細胞では,これらのシグナルのチューニングを通して生存にとって有利なモードを選択し,エネルギー消費と供給様式をダイナミックに変化させる.栄養・エネルギー制御シグナル分子の機能解析を通して,がんのしたたかさ,しぶとさの核心を知ることができれば,その延長線上にがんの根治が可能となると考えられる.
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医学のあゆみ 250巻1号, 64-68 (2014);
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癌幹細胞は自己複製能,多分化能,高い造腫瘍性を保持し,治療耐性および高転移性を有することから,癌幹細胞を標的とするあらたな治療戦略は癌根治のうえで重要であり,今後の創薬展開が期待されている.microRNA(miRNA)は約18~25 塩基長ほどの長さで,標的mRNA のおもに3’ 非翻訳領域に結合することにより作用し,癌を含めさまざまな疾患において関与していることが判明している.近年,ES 細胞やiPS 細胞の研究の進歩により,miRNA による幹細胞性の制御に関しても多くの知見が得られている.さらには正常幹細胞と癌幹細胞はmiRNA を介して類似した分子機序で制御されていることも報告されており,miRNA は幹細胞形質における重要な制御因子であることが推察される.複数の遺伝子を同時に制御するmiRNA を用いた創薬戦略は,癌治療においてあらたなブレークスルーとなる可能性がある.
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癌幹細胞のアッセイシステム
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医学のあゆみ 250巻1号, 71-75 (2014);
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大腸腸管上皮は陰窩とよばれる構造ユニットからなり,ダイナミックな自己再生を行っている.陰窩底部に存在する,腸管上皮幹細胞は再生能力の根源となっており,その自己複製には微小環境である“ニッチ”の存在が不可欠である.最近,腸管上皮幹細胞の同定が行われ,幹細胞ニッチによる自己複製機構が急速に明らかになった.こうした知見をもとに,幹細胞ニッチシグナルを体外で擬似することにより,腸管上皮幹細胞の永続的な培養が可能になった.大腸上皮は癌化とともに幹細胞自己複製機構の変容を認めるが,一部の幹細胞ニッチ制御機構は保持すると考えられる.したがって,大腸癌の幹細胞制御機構の研究や培養技術の向上において,腸管上皮幹細胞の自己複製制御はきわめて有用な概念であると考えられ,本稿で概説する.
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医学のあゆみ 250巻1号, 76-82 (2014);
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癌幹細胞は自己複製能と腫瘍再構築能を有する細胞集団であり,癌組織の根源となっている細胞集団である.癌幹細胞のアッセイ系ではこの2 つの能力を評価する必要があり,免疫不全マウスモデルを用いた異種移植アッセイ系が標準的に用いられている.分離した癌幹細胞集団をマウスに移植し,元の腫瘍組織と免疫組織学的に同一な腫瘍が再現できること(腫瘍再構築能),さらに,マウスに形成された腫瘍組織からふたたび同じ細胞集団を分離して別のマウスに二次移植を行い,ふたたび同じ腫瘍組織が再現されること(自己複製能)を示す必要がある.1997 年に急性骨髄性白血病(AML)において,はじめて癌幹細胞(白血病幹細胞)の存在が異種移植アッセイ系を用いて明らかにされたが,その後,同様なアッセイ系で,乳癌,脳腫瘍,大腸癌でも癌幹細胞の存在がつぎつぎと明らかにされた.現在ではこれらの手法を用いて,癌幹細胞根絶をめざした標的分子の検索が精力的に行われている.
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医学のあゆみ 250巻1号, 83-88 (2014);
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著者らは,癌患者検体から純化した癌細胞を高効率にスフェロイド培養する技術(CTOS 法)を開発した.CTOS は元になった腫瘍の分化度を維持しつつ継代が可能であるため,癌幹細胞仮説の階層性の研究に有用である.癌組織あるいはCTOS を単細胞化すると,劇的な細胞死が誘導されることから,単細胞を起源とするスフェロイド形成試験やマウスへの造腫瘍能試験には単細胞化による細胞死を考慮に入れる必要がある.CTOS では既知の幹細胞マーカーの発現レベルは元の腫瘍と変化がないことからCTOS は癌幹細胞のような特殊な細胞集団ではなく,むしろ元の腫瘍の細胞集団の状態を反映しているものと考えられる.CTOS は純粋な癌細胞から構成されており,ニッチとしての間質細胞はかならずしも必須ではない.非癌幹細胞から癌幹細胞への可塑性はヒト癌で検証する必要があり,CTOS は有用な実験材料になりうる.
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癌幹細胞を標的とした新規治療法の開発
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医学のあゆみ 250巻1号, 91-98 (2014);
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癌幹細胞は高い自己複製能を有し腫瘍を再構成する能力をもつ細胞分画で,癌階層モデルの基盤となる細胞である.癌幹細胞は治療後の再発や転移に関与する可能性からも,腫瘍治療のターゲットとして注目を集めている.特異的癌免疫療法は腫瘍表面抗原を標的にする抗体療法とHLA に提示される腫瘍抗原を認識するT細胞による細胞療法とに大別され,癌幹細胞を標的とすることにより抗腫瘍効果が高まることが期待されている.癌幹細胞を標的とした抗体療法としてはすでに多くの抗原に対する効果が示され,臨床試験も開始されている.さらに,多価抗体や薬剤付加による効果増強や,抗体の認識能をT 細胞に付与したCAR-T 細胞,マクロファージ貪食誘導などさまざまな抗体療法が試みられている.一方,癌幹細胞を標的とする細胞療法においても,癌幹細胞腫瘍抗原が多数同定され,ペプチドや樹状細胞による癌ワクチンや遺伝子改変T 細胞療法の効果が期待されている.次世代シーケンサーによる遺伝子変異抗原の網羅的探索も開始されており,癌幹細胞をターゲットとした免疫療法はさらに進展していくであろう.
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医学のあゆみ 250巻1号, 99-103 (2014);
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がんが不治の病であるといわれる最大の所以は,治療を行った後にまれならず生じる再発の恐怖にある.がんの再発は一部のがん細胞に薬剤や放射線が十分に到達できないために起こると長く考えられてきた.しかし,実は腫瘍組織のなかにがん細胞を供給する大本の細胞が存在し,このような“がん幹細胞”とよばれる細胞が治療に対して抵抗性が高く,他の細胞と同じように薬剤や放射線に曝露されても生き残り,そこから再発が生じてくることが明らかになってきた.つまりがんの根治をめざすためにはがん幹細胞を駆逐しなければならない.近年のがん幹細胞の性状解析により,しだいにその治療抵抗性のメカニズムが明らかになり,標的となる分子がみえつつある.著者らは,最近,胃がん幹細胞を標的とした治療を考案したので,そのプロセスと実施にあたっての問題点について述べたい.
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医学のあゆみ 250巻1号, 105-110 (2014);
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正常の血液細胞は自己複製能を有する造血幹細胞を起源としている.これと同様に造血器悪性腫瘍である白血病細胞においてもその細胞集団は均一ではなく,白血病幹細胞(LSC)を頂点としたヒエラルキー構造が存在していることが近年の研究で明らかになってきた.LSC は白血病細胞中,わずかな割合を占めていると考えられているが,高い自己複製能をもち化学療法後の微小残存病変からの再発原因となるため,同細胞を標的とした新規治療法の開発は白血病の治癒につながる重要な研究テーマである.本稿ではおもに急性骨髄性白血病(AML)に焦点をあて,これまでにわかっているLSC で活性化されているシグナル伝達経路,LSC で特異的に発現する表面抗原分子とそれらを標的とした治療法について解説した後,LSC を標的とした治療法の臨床応用に向けた現状の課題と今後の展望について概述する.