医学のあゆみ
Volume 250, Issue 5, 2014
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【8月第1土曜特集】 遺伝子医療の現状とゲノム医療の近未来
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- ゲノム医療を支える技術開発
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次世代シーケンサーによるゲノム解析技術の進歩
250巻5号(2014);View Description Hide Description世界初の次世代シーケンサーGS20 が2005 年に発表されてから,まもなく10 年目の節目を迎えようとしている.このわずかな期間でヒトゲノムの解析が容易になったばかりか,100 万人規模でのプロジェクトが進むなど,次世代シーケンサー技術の爆発的な進歩は研究デザイン自体を大きく変化させた.発表当初の次世代シーケンサーの短所であった読取り精度の問題も解決され,今後,次世代シーケンサーは医療機器としてのあらたな役目も担っていくことから,医療を変え,われわれの生活までも変える存在となりつつある.本稿では,次世代シーケンサーのゲノム解析技術の進歩を概説する. -
ゲノムコホート研究とバイオバンク―個別化予防と個別化医療の基盤づくりのために
250巻5号(2014);View Description Hide Description近年,遺伝情報の包括的解析技術が飛躍的に進歩し,さまざまな疾患において疾患発症のリスクと遺伝子の個人差(遺伝子多様性)のゲノムワイド相関解析が行われている.その多くは症例対照研究からの結果であり,遺伝子多様性の定量的な評価はできていない.遺伝子多様性の疾患発症への影響を正しく評価するためには,コホート研究の枠組みで疾患発症前の環境要因情報を取り入れ,遺伝要因と環境要因の相互作用も考慮した解析を行い,罹患率への相対危険度として評価すべきである.ゲノム解析を伴ったコホート(ゲノムコホート)研究の成果はすでに海外から少なからず報告されているが,国内の取組みはこれからといわざるをえない.東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)のめざしている“地域住民コホート調査”と“三世代コホート調査”は,個別化予防の開発に向けた国内初の本格的ゲノムコホート研究のひとつである.併設されるバイオバンクはゲノムコホート研究と表裏一体をなすものであり,膨大な臨床情報と遺伝情報の解析の基盤として必要不可欠である. -
ヒトゲノムの多様性の体系化とバリエーションデータベース
250巻5号(2014);View Description Hide Description高速大容量のSNP タイピング技術とゲノムシーケンシング技術の飛躍的向上により,ゲノムワイドな疾患関連解析・多様性解析が世界レベルで大規模に実施され,疾患や形質にかかわる多型・変異が明らかになりつつある.倫理的な問題を考慮したうえで,この貴重なデータを研究者間でデータ共有することにより,よりいっそうの疾患研究の促進が期待される.また,これらのデータを体系化・俯瞰するデータベース(DB)の構築は,集団間の疾患感受性変異の違い,および疾患の機序の理解を深めるとともに,変異に付随する臨床情報の充実化により,個別化医療の礎としても期待される.本稿では,海外での変異情報の共有化・体系化の取組みとともに,科学技術振興機構(JST)の統合化推進プログラムの一環として著者らが構築・運営しているヒトゲノムバリエーションDB と研究者間のデータ共有化の枠組みについて概観したい. -
ゲノム構造解析の変革
250巻5号(2014);View Description Hide Descriptionゲノム構造解析の主体は顕微鏡下での観察によるG 分染法やFISH 解析からマイクロアレイ解析に移行し,微細なコピー数変動が高感度に検出できるようになった.マイクロアレイ解析は,新しいゲノム疾患の同定や,構造異常の発生メカニズムの解明に貢献したが,その一方で,ゲノムコピー数の量的解析という性質上,均衡型の構造異常が検出できず,用途が限定される.次世代シーケンス(NGS)技術は定量と定性が同時に可能であるという利点があり,マイクロアレイを凌駕する可能性を秘めている.近年,染色体破砕現象のような構造異常の新しい概念も出現した.さらには2 本の相同染色体を区別できる技術も開発され,従来の遺伝子変異解析や染色体分析などのすべてを網羅した解析法として汎用化される日も近いかもしれない.全ゲノム解析の時代を迎えて“偶然見つかる所見”の問題など社会の受け入れ体制も整えられるべきである. -
パーソナルゲノム医療の科学的根拠
250巻5号(2014);View Description Hide Description個人ゲノムの利用が医療のさまざまな場面で普及しつつある.多くの場合,不確実性と多様性を前提とした確率的理解が必要である.多因子疾患予測,頻度が低く効果サイズの大きな遺伝子による疾患や薬物反応性の予測,出生前診断,創薬可能性予測のそれぞれの場合での個人ゲノム情報の活用法について解説し,その科学的根拠について述べる.場合に応じ,不確実性と多様性の理解に必要なオッズ比,β値,信頼区間,感度,特異度,PPV,NPV,効果サイズなどの概念を正しく把握する必要がある.日本社会は確率的予測が不得意であり,すべて100%,0%で解釈する傾向がある.そのような場合,個人ゲノムによる予測はかえって過度の不安などの不都合をもたらす可能性がある.また,逆に100%ではないことを理由に予測を無視する傾向もある.医師やパラメディカルも含め,不確実性と多様性を適切に処理するために,確率に関する概念を正しく理解する必要がある. - 遺伝子医療の現状
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包括的遺伝子医療の実際―信州大学医学部附属病院遺伝子診療部の取組み
250巻5号(2014);View Description Hide Description遺伝性・先天性疾患をもつ人たちの健康に真の貢献をしていくためには,遺伝カウンセリングだけでは不十分であり,これを軸に展開される医療全体の充実,すなわち包括的遺伝子医療体制の構築が必須である.信州大学医学部附属病院(遺伝子診療部)では,遺伝子医療部門としての歴史および地方大学病院としての診療各科の垣根の低さによって包括的遺伝子医療の実現をめざしてきた.本稿では,遺伝性結合組織疾患,Duchenne型筋ジストロフィー,Prader-Willi 症候群への取組みを中心に,包括的遺伝子医療の実際を紹介する. -
ゲノムデータベースの利用―小児遺伝疾患(先天奇形症候群)を中心に
250巻5号(2014);View Description Hide Description次世代シーケンサーのFDA 承認は,ゲノム医療が現実のものとなるための重要な一歩と考えられる.しかし,次世代シーケンスが臨床診断技術のひとつに認められるまでには多くの課題が残されているのも現実である.ゲノムデータベースの利用はこれまでは研究手段のひとつであったが,これからは診療においても使いこなすことが求められかもしれない.遺伝性疾患の多くが小児期に発症することから,とくに小児科診療で必要とされる可能性が高い.本稿では,利用方法と利用するウェブサイトを,診療という流れのなかでまとめる. -
遺伝性腫瘍診療の現状―HBOC,Lynch症候群,FAP,MENを中心に
250巻5号(2014);View Description Hide Description遺伝性腫瘍の実際の診療とその臨床研究の現状について概説する.診療の担当医に遺伝性腫瘍の認識がなければ,診断やその後の医療介入を行うことは難しい.また疾患の頻度が高くないために,疾患の特徴を把握するためには医療機関が連携して症例を集積する必要がある.したがって,いずれの遺伝性腫瘍でも臨床研究の方向性は類似している.遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)は昨年アメリカの女優の報道で広く知られるようになった.BRCA1/2 遺伝学的検査のための遺伝カウンセリングも多くの施設で可能になっている.わが国でもリスク低減手術の実施を検討する施設が増加することが予想される.また日本HBOC コンソーシアムが設立され,登録事業がはじまる予定である.Lynch 症候群ではスクリーニング検査のMSI 検査が保険適用になっている.Lynch 症候群の大腸癌は予後が良好で,年1 回のサーベイランスで大腸癌の発症リスクも下げられることから,早期の医療介入が有用である.FAP もこの30 年で著明に生命予後が改善した.MEN1 型・2 型は先進医療でも遺伝学的検査が行われている.甲状腺髄様癌は術前にRET 遺伝子検査を行って治療方針を決める.MEN コンソーシアムの登録事業により日本のMEN の特徴が明らかになってきた. -
遺伝性神経疾患における発症前診断の現状
250巻5号(2014);View Description Hide Description遺伝性神経疾患の多くは常染色体優性遺伝形式をとり成人以降に発症するため,発端者の発症の時点ですでに遺伝的リスクが下の世代に拡散している.したがって,1 人の患者の確定診断により,多くのat risk の家族の存在が明らかになることが多い.未発症者を対象とする発症前診断は発症者を対象とした遺伝学的検査とは明確に区別されており,その対応には遺伝子医療部門の専門家チームによる遺伝カウンセリングが必須である.2011 年に行われた全国調査では,わが国の多くの遺伝子医療部門が発症前診断に関する相談に十分に対応できていない現状が明らかとなり,その最大の要因は非医師の遺伝カウンセリングスタッフの不足であった.今後,遺伝性神経疾患の患者家族に対するカウンセリングの必要性はさらに高まると考えられ,遺伝カウンセリング体制の整備が急務である. -
遺伝性循環器疾患における遺伝子診断の現状
250巻5号(2014);View Description Hide Description単一遺伝子異常による遺伝性循環器疾患として遺伝性結合組織疾患,遺伝性不整脈,遺伝性心筋症,遺伝性肺動脈性肺高血圧(HPAH),遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)などがあげられる.これらの疾患ではときに致死性合併症を併発することもあり,早期診断および治療介入による予後改善が期待される場合には,遺伝子検査による確定診断が有用である.とくに,先天性QT 延長症候群(先天性LQTS)やカテコールアミン誘発性多形性心室頻拍(CPVT)では原因遺伝子により有効な薬剤や患者管理方針が異なることがあり,鑑別のための遺伝子検査が推奨される.一方,リスクのある親族での遺伝子診断のためには発端者の原因遺伝子変異の同定が必要であり,家族管理のために遺伝子検査が行われることもある.しかし,変異保有者であっても成人後まで発症しない疾患,有効な治療法のない疾患については,遺伝子検査を行う際に検査のメリット・デメリット,検査時期などについて,症例ごとに十分検討することが大切である. -
難聴における遺伝子医療の現状―ゲノム医療のモデルとして
250巻5号(2014);View Description Hide Description先天性難聴は新生児1,000 名に1 名に認められる比較的頻度の高い疾患である.疫学調査より先天性難聴の60~70%に遺伝子が関与することが推測されているため,正確な診断のためには遺伝子診断が重要である.2012 年4 月の診療報酬改定により,日本人難聴患者に高頻度に認められる原因遺伝子変異を網羅的にスクリーニングする検査が保険収載され,日常の診断ツールとして遺伝子診断が利用可能となった.遺伝子診断により難聴の原因が特定されることにより,難聴の程度,進行性の有無,随伴症状などの予測が可能となり,患者各人の原因に応じた個別化医療を行うことが可能となる.本稿では,保険収載された遺伝子診断の現状とその有用性について,また,臨床応用をめざして共同研究を行っている次世代シークエンサーを用いた難聴の遺伝子解析について概説する. -
出生前診断(NIPTを除く)
250巻5号(2014);View Description Hide Description日本における出生前診断は,技術が先行し遺伝カウンセリングや遺伝リテラシーへの取組みが遅れたことが背景となって,一昨年(2012)来,無侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT)の国内導入に伴った社会的混乱があった.実際,検査の前にインフォームドコンセントとは別にきちんとした形で遺伝カウンセリングが行われている施設は多くないのが現状である.本稿では,出生前遺伝学的検査にかかわる最新の各種ガイドラインについての解説,網羅的出生前診断としての染色体検査にかかわる非確定検査(超音波,母体血清マーカーなど)および確定検査(羊水・絨毛検査)に用いられるさまざまな検査技術(染色体核型分析,FISH 法,マイクロアレイ検査他)の基礎と,近年におけるその扱いを解説した.また,特異的検査としての出生前遺伝子診断についても解説を加えた. -
無侵襲的出生前遺伝学検査
250巻5号(2014);View Description Hide Description無侵襲的出生前遺伝学検査(NIPT)は母体血中に存在する胎児由来のcell-free DNA の発見,ヒトゲノム解析による全DNA 配列の解読,次世代シーケンサーの開発など著しく進歩した遺伝子解析技術の応用により開発され,2011 年にアメリカで一般検査サービスが開始された.倫理的問題を包含する一方で,高い感度・特異度をもち,採血のみで検査可能なため,十分な認識のない状況での検査施行,検査精度や結果の意義の誤解,マススクリーニングでの施行といった可能性が問題点としてあげられており,きわめて慎重な対応が求められている.わが国では,「遺伝カウンセリングを適切に行う体制が整うまでは広く一般産婦人科臨床に導入すべきではなく,遺伝カウンセリングを適切に行う体制が整ったとしても,検査を行う対象は客観的な理由を有する妊婦に限るべきである.」との指針が示され,臨床研究としての実施を日本医学会に申請して認定・登録された施設でのみ2013 年より施行されている. -
習慣流産における遺伝子医療の関与―着床前診断を含めて
250巻5号(2014);View Description Hide Description習慣流産の約5%は夫婦どちらかの染色体均衡型転座が原因である.また,夫婦は正常核型であっても胎児染色体数的異常が約40%を占めている.これらは一定の確率で出産に至っている.これらに対して流産予防のために着床前診断(PGD)が行われているが,PGD と自然妊娠を比較した研究はなく,PGD によって出産率が改善するという証拠はない.転座の場合は自然妊娠と同等,胎児染色体数的異常の場合は自然妊娠のほうが出産率が高いのが現状である.胎児染色体正常の真の原因不明習慣流産は約25%であり,遺伝子変異が多数報告されている.しかし,それぞれの習慣流産関連遺伝子の次回妊娠への影響は小さく,臨床的に調べる意義は確立されていない. - 拡がるゲノム医療
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急速に臨床応用が進むがんゲノム診断パネル
250巻5号(2014);View Description Hide Description現在,多くのがんにおけるドライバー変異や治療標的が包括的に同定されている.また,ゲノム変異を標的とした分子治療薬の開発が進み,治療法の選択において標的となるゲノム異常を事前に診断しておくことが臨床の現場でも強く求められるようになってきた.こうした背景に加え,次世代シークエンス技術の進歩により,がんゲノム診断パネルのような特定のがん関連遺伝子に絞って短時間で解読を行う,いわゆる臨床シークエンス検査が国内外で進められている.がん診断パネルは目的やコストに応じて,搭載する遺伝子の種類や数(50~200 個以上)を変えることができ,また点変異に加え,融合遺伝子やコピー数異常まで検出できるようなものが開発されている.今後こうしたパネルを用いた検査は,組織検体のみならず,血液中の遊離核酸を用いた病態モニタリングまで広く臨床応用されることが期待される. -
コンパニオン診断薬・コンパニオン診断検査
250巻5号(2014);View Description Hide Description患者のゲノム情報と病気の特性を活用した個別化医療の実現には,コンパニオン診断薬(CDx)や,CDx を用いた検査(コンパニオン診断検査)が不可欠である.CDx には,治療薬と同時に開発されたものと,すでに承認ずみの治療薬の使用に際して後付けで開発されたものの2 種類ある.保険収載されたコンパニオン診断検査は薬事承認ずみのCDx や未承認のCDx を用いて実施されており,保険収載や診療報酬点数の算定でも明確なルールが存在していない.CDx の多項目化と臨床シーケンシングの臨床運用は今後の個別化医療の進展にとって重要であるが,審査体制や保険償還についての検討が必要である. -
薬物動態関連遺伝子の薬理遺伝学―個人差を予測するバイオマーカーとしての遺伝子情報
250巻5号(2014);View Description Hide Description本稿では薬物の体内動態や効果にみる大きな個人差の解明を,関連蛋白質をコードする遺伝子の多型から概説する.代謝酵素やトランスポーター遺伝子多型により,吸収,分布,代謝,排泄の諸過程が影響を受ける.薬物代謝酵素では先天的な酵素欠損者が存在し,効果の増強や副作用が生じやすい.逆に酵素活性が亢進する遺伝子型では効果の減弱が懸念されるが,リン酸コデインでは逆に,代謝物であるモルヒネの過剰生成による作用増強や副作用がみられる.トランスポーター遺伝子変異ではスタチンの肝への取込みが低下し,血中濃度の上昇や筋障害などの副作用が懸念される.これらの情報を整理し理解することで,医薬品の個別適正使用が可能となる. -
感染症とゲノム解析
250巻5号(2014);View Description Hide Description感染症にかかわるゲノム解析には,感染性細菌やウイルスの病原性や治療感受性にかかわるゲノム解析,そして感染宿主側の病態の違いにかかわるゲノム解析などがあげられる.H. pylori 感染では,病原性の違いにcagA,vacA などの病原因子での遺伝子多型が知られている.また,感染宿主側の要因としては炎症性サイトカインなどの多型性も病態の個体差にかかわっている.薬物への応答性にもH. pylori の遺伝子多型,宿主の多型が関与している. -
再生医療領域におけるiPS細胞のゲノム解析
250巻5号(2014);View Description Hide Descriptioninduced pluripotent stem cel(l iPS細胞)の再生医療への応用が期待されており,2013年には加齢黄斑変性の治療を目的とするiPS 細胞由来網膜色素上皮シートの移植に関する国内初の臨床研究が開始された.iPS 細胞技術を基本とする移植医療の臨床研究がつぎつぎに進められるなかで,安全性の高い再生医療用iPS 細胞ストックの構築が進行しており,細胞の品質評価方法の確立と標準化が急がれる.細胞ゲノムの品質評価においては,ドナーの生殖細胞系列ゲノムと体細胞の初期化により作製したiPS 細胞,およびそれらの分化誘導細胞のゲノムを比較解析することにより,細胞の加工処理と培養による影響の調査が可能となる.医療用細胞製品のゲノム品質の評価基準はまだ確定していない状況であるが,現時点においてはゲノムの安定性を経時的に評価し,造腫瘍性の有無について詳しく解析して記録し,ストックを進めることが必要である. - 遺伝子医療・ゲノム医療を支える社会基盤
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遺伝子医療・ゲノム医療に関係する指針・見解
250巻5号(2014);View Description Hide Description遺伝子医療・ゲノム医療にかかわる指針・ガイドライン・見解としては,その中心に位置づけられる“医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン”(2011 年,日本医学会)をはじめ複数が公表されてきた.また,研究分野においてはヒトゲノム解析技術(シーケンス解析など)の革新や研究の多様性などを受けて,“ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針”(2001 年,文部科学省,厚生労働省,経済産業省)が2013 年2 月に改正されている.さらに,近年はゲノム・遺伝子解析研究により得られた成果の予防医学の分野への応用に期待が高まっているが,遺伝子検査ビジネスとして消費者直販型遺伝子検査が,遺伝子医療・ゲノム医療の範囲をはるかに超えて爆発的な広がりを見せようとしている.このような状況のもと,遺伝情報・ゲノム情報の利活用に関しては,“遺伝情報の特性”を念頭におきつつ,遺伝子医療・ゲノム医療の枠組みを超えて広くわが国(社会)においてどのように取り扱う必要があるのかを,関係者が広く一堂に会した場で真摯に検討する時期が来ていると考えられる. -
誰もが“遺伝”を正しく知る社会へ
250巻5号(2014);View Description Hide Description遺伝医学,遺伝子解析技術の進歩によって遺伝情報は一般診療の多くの場面において用いられる基本情報となった.さらには一般市民の遺伝情報を,医療機関を介さずに解析するサービスも広がりを見せている.このような状況において重要なのは,医療者も一般市民も遺伝や遺伝情報に関する正確な基礎知識を身につけることである.しかし,わが国の医学教育における遺伝医学教育は急速に進歩するゲノム医科学に対応できていないし,学校教育において遺伝の正しい概念を子どもたちに教える機会はほとんどないに等しい.遺伝医学教育・啓発は,これからの時代にすべての国民が健康に生きるために欠くことのできない基本的な知識であり知恵である. -
希少難病問題:置き去りの6,700疾患―難病対策新法
250巻5号(2014);View Description Hide Descriptionわが国では,希少難病約7,000 疾患(平成23 年度厚生労働省)のうち国の支援対象となっているものは344疾患にすぎず,95.1%もの疾患が放置されている.指定難病に認定されるためには「客観的な診断基準が確立していること」が求められることから,NPO 法人SORD は信州大・福嶋義光教授らの協力を得て,難治性疾患の研究を推進させるための基盤ネットワークの構築を試みた.このネットワークの推進により未診断例や未採択疾患を含めたすべての希少難治性疾患の研究が進むことが期待されるが,希少難病問題を個の問題とするか社会の問題とするのか,専門家を含めた社会全体で議論していかなければならない. -
遺伝子検査ビジネスの現状と問題点
250巻5号(2014);View Description Hide Description1990 年代後半以降,医療施設を介さず企業などにより遺伝学的検査が直接一般市民に有償で提供されるという事業形態が勃興してきた.海外ではしばしばDirect-to-Consumers(DTC)Genetic Testing,またはOverthe Counte(r OTC)Genetic Testing などとよばれ,国内では“遺伝子検査ビジネス”とよばれるこれら販売サービスは,医療や研究の枠ではなく市場経済の範疇で取り扱われる“事業”として,おもに民間企業が遺伝子関連商品を“販売”するビジネスという形でマーケットを拡大しつつある.昨今の現状と課題について概観する. -
人材養成1:臨床遺伝専門医
250巻5号(2014);View Description Hide Descriptionわが国の遺伝医療を担う医師を対象とする資格認定システムとして,以前は1991年にはじまった日本人類遺伝学会による“臨床遺伝学認定医”と,1996 年にはじまった日本遺伝カウンセリング学会(旧・日本臨床遺伝学会)による“遺伝相談認定医師カウンセラー”があった.両制度のめざすものは基本的に同じであったので,2002 年4 月,両学会の枠を超えて統合し,さらに日本家族性腫瘍学会,日本産科婦人科学会,日本神経学会,日本先天代謝異常学会を協力学会として,“臨床遺伝専門医”制度が発足した. 現在,本制度委員会は両学会および協力学会からの委員で構成し,日本人類遺伝学会と日本遺伝カウンセリング学会が運営に責任をもっている. -
人材養成2:活躍をはじめた認定遺伝カウンセラー
250巻5号(2014);View Description Hide Description認定遺伝カウンセラーとは,「質の高い臨床遺伝医療を提供するために臨床遺伝専門医と連携し,遺伝に関する問題に悩むクライエントを援助するとともに,その権利を守る専門家」として定義されている(認定遺伝カウンセラー制度規則の第1 章の第1 条1)).また,その専門職の詳細を表1 に示す1). -
人材養成3:臨床細胞遺伝学認定士
250巻5号(2014);View Description Hide Description日本人類遺伝学会・臨床細胞遺伝学認定士制度は,臨床検査として染色体検査に携わる医師,研究者および技術者を対象として臨床細胞遺伝学の専門家の養成と認定を行い,わが国の医療における染色体検査の適切な実施を推進し,染色体検査の精度と技術の向上,および臨床細胞遺伝学のさらなる発展をはかることを目的として1993 年に設立された. 本稿では本制度の概要を紹介する.なお,本制度の内容(規約,到達目標)については,日本人類遺伝学会のホームページ(http:╱╱jshg.jp)を参照いただきたい. -
人材養成4:ジェネティックエキスパート
250巻5号(2014);View Description Hide Descriptionジェネティックエキスパートは,日本遺伝子診療学会がはじめて認定する資格として制度が立ち上げられ,2015 年秋ごろをめどに第1 回認定試験を実施することを予定している.日本人類遺伝学会や日本遺伝カウンセリング学会が認定する資格は本特集にもあるように複数あり,すでに人材養成に大きな社会貢献がなされているが,別の資格を日本遺伝子診療学会がいまの段階で立ち上げる意義は何なのか.わが国ではいままでにない特徴を有するユニークな資格で社会的意義が期待されるジェネティックエキスパートについて,本稿でわかりやすく説明したいと思う.
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