医学のあゆみ
Volume 250, Issue 11, 2014
Volumes & issues:
-
あゆみ 関節リウマチ治療薬による有害事象の現状と対策―レジストリー研究・薬剤疫学研究からの最新知見
-
-
-
メトトレキサートの有害事象
250巻11号(2014);View Description Hide Description◎メトトレキサート(MTX)が抗リウマチ薬として承認後15 年が過ぎ,承認時に比べて最大投与量は2 倍まで使用可能になった.承認後6~7 年は重篤な有害事象の中心は血液障害と間質性肺炎であったが,その後,使用経験を積み重ねることにより間質性肺炎の重篤例は減少してきている.一方,最近は,感染症,リンパ増殖性疾患,B 型肝炎が問題になっている.感染症は肺炎や敗血症に加え,ニューモシスティス肺炎,結核,非結核性抗酸菌症,真菌症などの日和見感染も多い.リンパ増殖性疾患は医原性免疫不全関連リンパ増殖性疾患に分類され,EB ウイルス再活性化が関与している症例が多い.これらの副作用はMTX の長期投与に伴う免疫抑制状態が発症に関与している.今後,生物学的製剤やJAK 阻害薬との併用例の増加とともに,有害事象はさらに多様化,複雑化することが予想される. -
タクロリムスの有害事象・有害反応
250巻11号(2014);View Description Hide Description◎わが国発の免疫抑制薬であるタクロリムス(TAC)は移植領域では世界的に高く評価されてきたが,2005年に関節リウマチ(RA)が適応症として加わった.TAC はその構造や作用機序,また臨床薬理学的な特徴から生じるさまざまな有害反応が知られており,それらの危険因子も明らかになってきた.治療開始直後からみられる悪心・嘔吐・下痢などの消化管症状は一般に軽度である.種々の感染症はすべての免疫抑制療法の合併症でもあるが,TAC 使用者ではRA の身体機能障害の進んだ例やプレドニゾロン(PSL)10 mg/day 以上の併用でリスクが高い.さらに,腎障害は高齢者,既存の腎障害,非ステロイド性抗炎症薬の併用が,また耐糖能異常は既存の糖尿病,PSL 換算10 mg/day 以上の併用が,それぞれの有害反応のリスクを増大させることがわかった.こうした製造販売後調査などで明らかにされたTAC の有害反応の特徴を理解して適切に使用されることにより,RA 患者のQOL がさらに改善することを望みたい. -
新規抗リウマチ薬(イグラチモド,トファシチニブ)の有害事象
250巻11号(2014);View Description Hide Description◎関節リウマチ治療では合成抗リウマチ薬が頻繁に使用される.イグラチモド(IGU)はわが国で開発された薬剤で,抗炎症作用をもつこと,MTX との併用療法における有効性のエビデンスがあることが特徴であるが,肝機能障害や胃腸障害(とくに消化性潰瘍)に注意である.また,ワーファリンとの併用は致命的な出血傾向を起こすため禁忌である.一方,JAK 阻害薬であるトファシチニブ(TOF)は複数のサイトカインを阻害できる優れた薬剤であるが,わが国では帯状疱疹の発症がきわめて多い.他の免疫抑制薬と同様に感染症には注意する必要があるが,悪性腫瘍のリスクにも留意する.学会のTOF 使用ガイドラインを遵守するとともに,わが国における正確なエビデンスを構築する必要のある薬剤である. -
生物学的抗リウマチ薬の有害事象
250巻11号(2014);View Description Hide Description◎生物学的抗リウマチ薬は高い有効性をもつ薬剤であり,関節リウマチ(RA)の治療を大きく進歩させた.しかし,感染症をはじめとした注意すべき副作用があり,ときとして重篤な有害事象を引き起こすことがある.生物学的抗リウマチ薬は感染制御において重要な役割を果たすサイトカインの働きを抑制するため,感染症の罹患リスクを上昇させる.また,抗原性をもつ高分子量の蛋白質で構成されているため,投与時反応,投与部位反応などの有害事象の頻度が高い.さらに,間質性肺炎,全身性エリテマトーデス,血管炎などの自己免疫疾患や脱髄疾患を誘発することもまれにある.本稿では,これらの注意すべき生物学的抗リウマチ薬の有害事象について概説する. -
関節リウマチの感染症対策
250巻11号(2014);View Description Hide Description◎生物学的製剤の登場により関節リウマチの予後が改善する一方で,感染症合併のリスクが問題となっており,関節リウマチの診療における感染症対策が重要である.結核予防のためには,問診,画像所見,インターフェロンγ遊離試験,ツベルクリン反応により潜在性肺結核を同定し,潜在性肺結核の症例ではイソニアジドの投与が必要となる.非結核性抗酸菌症の合併にも注意が必要で,TNF 阻害薬使用例では治療の中止が推奨されている.高齢者,PSL 6 mg 以上投与されている患者,肺疾患合併例では,ニューモシスチス肺炎のリスクを考慮してST 合剤の予防投与を検討する.細菌性肺炎予防のため,インフルエンザワクチン,肺炎球菌ワクチンの投与を行う. -
抗リウマチ薬と悪性腫瘍
250巻11号(2014);View Description Hide Description◎関節リウマチ患者における悪性腫瘍の発現リスクは以前から注目され,これまでの報告では一般人口と比較し,悪性腫瘍全体の発現リスクはほぼ同等であるが,その部位によって発現リスクが異なることが示唆されている.RA の治療薬と悪性腫瘍発現との関連性に関しては通常の抗リウマチ薬の個々に関する研究は少ないが,免疫抑制作用の強いメトトレキサート,シクロホスファミドなどではその悪性腫瘍の発現リスクに関する報告が散見される.一方,Tumor necrosis factor 阻害薬ではその導入当初から多くの研究が開始され,データの蓄積とともにその結果が多く報告されている.また,最近発売されたJanus kinase 阻害薬は,その臨床試験での悪性腫瘍の発現が重要な有害事象として注目された.これらRA の治療薬と悪性腫瘍の発現リスクに関して概説する. -
抗リウマチ薬とB型肝炎ウイルス再活性化
250巻11号(2014);View Description Hide Description◎生物学的抗リウマチ薬やメトトレキサート高用量使用など,関節リウマチ治療法は目標を定める治療(treatto target:T2T)の概念の浸透により,結果的に近年強力になってきている.そのため当該領域における免疫抑制によるB 型肝炎ウイルス(HBV)の再増殖(HBV 再活性化)は世界的に注目されるようになってきた.最新の厚生労働省研究班のデータによると,HBV 既感染パターン患者における再活性化の頻度は2%程度で,おもに免疫抑制治療の開始または変更後6 カ月以内に認められる.頻度は低いながらde novo B 型肝炎を発症すると劇症化する可能性が高くきわめて予後不良であるため,最近改訂されたガイドラインに沿った対策が必要である. -
抗リウマチ薬と妊娠
250巻11号(2014);View Description Hide Description◎“Treat to Target の理念に基づいたRA の治療”と“妊娠・出産”を両立させるための知恵を絞るうえで,妊娠中の薬剤の安全性に関する情報収集と評価は欠かせない.安全性は疫学研究に基づいて判断すべきであるが,この分野での研究は少ないのが現状である.わが国で唯一行われているのは抗リウマチ薬の催奇形性をみるためのリウマチ妊娠登録調査である.
-
-
連載
-
- エコヘルスという視点 16
-
教育学からみたエコヘルス
250巻11号(2014);View Description Hide Description◎教育学からみたエコヘルスを論じるには,“教育学”“エコヘルス”という2 つの大きなキーワードを読み解く必要がある.まず,著者らが考えるエコヘルスは,社会・文化・自然の生態系,社会開発,人間の生活活動,人間の健康という大きな4 つの要素の持続的で調和的な関係性を実現しようとする健康観であり,探究する研究領域である.同時に,学習し実践する教育領域とも考えている.また,日本の教育学には,すくなくとも2種類の教育学がある.学習過程,教育の方法や構造・制度を研究する学としての教育学と学校で教鞭をとる教師を養成するための教育学である.そこで教育学とエコヘルスの関係性を,UNESCO の教育,健康教育,持続可能な開発のための教育の概念との関連,日本の環境教育のルーツである環境教育と公害教育の変遷,さらに最近の保健体育・保健の高校の教科書の内容から検討し,考察を加えた.生態系,社会開発,人間の生活活動,人間の健康の相互関連の深さを踏まえ,持続可能な社会の開発・発展と人間の良好な健康の両立をめざすには,エコへルスの理念に基づいたエコヘルス教育は鍵となる重要な教育である.しかし,現状では課題や障壁が多く,学校教育ならびに教員養成のための教育学では取り組みにくい状況にある.
-
輝く 日本人による発見と新規開発 6
-
-
-
フォーラム
-
-
- パリから見えるこの世界 32
-
- 続・逆システム学の窓 1
-
PSA検診論争からみえてきた“治療の誤り”の可能性―アンドロゲン非依存性前立腺癌の問題
250巻11号(2014);View Description Hide Description前立腺癌の検診における血清PSA 検診をめぐる“アメリカの疫学”と“ヨーロッパの泌尿器科医”の対立がますます混迷してきた.アメリカの予防医学タスクフォース(USPSTF)はPSA 検診を「問題の少ない早期癌を過剰診断し,過剰治療から前立腺癌患者の寿命を縮める」と,7 万人のPLCO 試験の結果から否定した.逆にヨーロッパ8 カ国の泌尿器科医は,早期発見は寿命をのばすという18 万人規模のERSPC 試験の結果からPSA 検査を支持する.論争は“疫学重視派”と“臨床専門家”の対立を反映し,アメリカの試験のPSA 使用における統計の不備や,ヨーロッパの試験での治療法のバイアスを問題にする論文が発表されるなど,対立はますます激しくなっている.・実はアメリカでは1985 年のリュープロレリンの認可と1994 年のPSA 検査の普及1)から抗アンドロゲン療法が一般化し,死亡率の低下がもたらされてきている.一方,高齢化の続く日本の前立腺癌死亡率はアメリカを上まわろうとしており,岐路に立たされている.・最近,抗アンドロゲン療法を続けるとアンドロゲン受容体が増幅されてアンドロゲン非依存の“進行癌”が増えてくるということがわかってきた.PLCO 試験で前立腺癌患者の寿命を短くしていたのは“PSA 検診の誤り”ではなく,抗アンドロゲン療法に偏った“治療の誤り”の可能性がでてきた.感染症のときに抗生剤を使いすぎて日和見感染が増えるからといって“病原菌検査が正しくない”という人はいないであろう.・PSA 検診は早期癌の検診に有効であり,抗アンドロゲン療法は一定の効果がみられた.だが,寿命にかかわる進行癌の診断にはアンドロゲン受容体遺伝子の増幅をチェックし,抗アンドロゲン療法に代わる的確な治療法を開発することが求められている. - 書評
-
-
-
TOPICS
-
- 生化学・分子生物学
-
- 免疫学
-
- 産科学・婦人科学
-