医学のあゆみ
Volume 250, Issue 12, 2014
Volumes & issues:
-
あゆみ 好塩基球の光と影―体を守るジキル的側面と病気を引き起こすハイド的側面
-
-
-
好塩基球の発生と分化
250巻12号(2014);View Description Hide Description◎好塩基球はアレルギー反応や寄生虫感染などの免疫反応にかかわる顆粒球の一種である.末梢血中にわずか0.5%しか存在せず,これまでその機能解析は困難であった.好塩基球の分化経路についても不明な点が多かったが,最近になり骨髄中において造血幹細胞(HSC)から顆粒球・単球共通前駆細胞(GMP),好塩基球前駆細胞(BaP)を経て成熟好塩基球となることが報告された.また,GATA-1,GATA-2,STAT5,C/EBPα,P1-Runx1 などの転写因子がその分化に関与することが報告されている. -
好塩基球の遊走と活性化―肺内の活性化因子
250巻12号(2014);View Description Hide Description◎好塩基球は骨髄で成熟した後に血中に入り,その後,組織に流入して活性化を受け,アレルギー反応にかかわると考えられる.好塩基球の生存は3~7 日程度であり,in vitro でも同様の期間で死滅するが,生存延長活性のあるサイトカインの存在下では1 週間後でも細胞機能は維持されている.本稿では,好塩基球の遊走および活性化を制御する因子について概説する. -
好塩基球と皮膚疾患
250巻12号(2014);View Description Hide Description◎皮膚免疫における好塩基球の役割はこれまで十分に解析されていなかった.近年になり,好塩基球特異的除去モデルマウスが利用可能となり,好塩基球独自の皮膚免疫調節機構が明らかとなった.一方,ヒトではアトピー性皮膚炎(AD)をはじめとするアレルギー疾患で好酸球と好塩基球の浸潤がみられる.しかし,皮膚への好酸球と好塩基球浸潤メカニズムや,AD における好塩基球の役割はほぼ不明であった.著者らは好塩基球除去モデルマウス(Bas TRECK マウス)を用いて,好塩基球が刺激性皮膚炎の炎症初期で好酸球浸潤を誘導するイニシエーターとして働くことを明らかとした.さらに,AD モデルを用いて,好塩基球がハプテン抗原に対しTh2 免疫応答を誘導するが,蛋白抗原に対しては好塩基球のみならず樹状細胞の共存在が必要であることを見出した.今後,皮膚疾患における好塩基球の役割のさらなる解明が期待される. -
アレルギー性鼻炎におけるIL‒33と好塩基球の役割
250巻12号(2014);View Description Hide Description◎わが国の季節性アレルギー性鼻炎(AR)である花粉症の有病率は,この10 年間に19.6%から29.8%と著しく増加した.しかし,AR の発症機序はいまだ不明な点が多い.その最大の理由のひとつとして,花粉特異的AR モデルマウスが確立していないことがあげられる.最近,著者らは新しいAR モデルマウスを樹立し,その発症には花粉刺激によって鼻粘膜から放出されるIL-33 が必須の因子であることを明らかにした.さらに,これまでその関与が明らかでなかった鼻粘膜に集積増加する好塩基球がAR の病態に関与することも明らかにした.本モデルマウスはAR 発症機序の解明にとどまらず,発症機序を基盤としたイノベーティブなAR 治療・予防技術の開発に有用である. -
好塩基球と好酸球性食道炎・喘息
250巻12号(2014);View Description Hide Description◎気管支喘息や花粉症などのⅠ型アレルギーは,B 細胞から産生される免疫グロブリンE(IgE)抗体によって引き起こされ,IgE 抗体は肥満細胞(マスト細胞)や好塩基球がもつ受容体に結合することで,アレルゲン特異的にアレルギー反応を誘導すると考えられてきた.このIgE 抗体の産生は,T 細胞から産生される2 型サイトカインを必要とする.近年,アレルギーはT 細胞やIgE 抗体を介したマスト細胞の反応系が存在しなくても起こりうることが知られるようになり,好塩基球や自然リンパ球による免疫反応系の存在が明らかになり,これら自然免疫系の細胞に注目が集まっている.そこで本稿では,好塩基球によるアレルギー性炎症によって制御される好酸球性食道炎と喘息,そして皮膚炎に関して紹介する. -
アレルギー性皮膚炎症における好塩基球の二面性
250巻12号(2014);View Description Hide Description◎顆粒球の一種である好塩基球は,生体内での数は非常に少ないが,細胞内の顆粒にヒスタミンなどのアレルギーや炎症に関与するメディエーターを豊富に含んでおり,アレルギー反応を誘導する細胞として知られている.しかし近年では,好塩基球はケミカルメディエーターだけではなく,IL-4 などのサイトカインの産生細胞としても注目を集めており,炎症誘導のみにとどまらない好塩基球の機能についての検討が行われている.本研究では,好塩基球の関与するマウス皮膚炎症モデルを用いた検討を行った結果,好塩基球がアレルギー性の皮膚炎症を誘導すると同時に,炎症後期では単球に作用することによって炎症を収束に向かわせる機能があることが明らかになった.これまで,好塩基球と他細胞との関係や炎症の緩和についての報告は少なく,本研究の結果から生体における好塩基球のあらたな機能や役割の可能性が期待される. -
マダニ感染防御と好塩基球
250巻12号(2014);View Description Hide Description◎マダニは世界中に広く生息する吸血性節足動物の一種であり,ヒトを含めた哺乳動物をはじめ,鳥類や両生類に至るまでさまざまな動物に寄生する.このような習性により,異なる動物間で病原体を媒介することから,人畜共通感染症の伝搬者として世界中で問題視されている.古くからマダニに吸血されたことのある動物はマダニに対する免疫を獲得することが知られていたが,どのようなメカニズムでこの吸血が阻害されているのかは明らかになっていなかった.近年,著者らはこの免疫の発揮に,希少な白血球の一種である好塩基球が重要な役割をもつことを明らかにした.この発見によって,アレルギー疾患を引き起こす生体にとって不利益な存在であると思われてきた好塩基球が,実は寄生虫感染から宿主を守る有益な免疫細胞であることが明らかとなった. -
好塩基球による寄生虫感染防御
250巻12号(2014);View Description Hide Description◎好塩基球は末梢血白血球中の0.5%程度と非常に数の少ない細胞のひとつであり,末梢組織に大量に存在するマスト細胞との類似性も相まって,長い間無視されつづけてきた.近年,好塩基球の機能を解析するツールである抗体や遺伝子改変マウスが見出され,好塩基球が特異的な機能をもつことが明らかにされてきた.その端緒となったのが2004 年のIL-4 レポーターマウスによる寄生虫感染の実験で,好塩基球が寄生虫感染に伴って全身で増え,IL-4 のおもな産生細胞として機能しうることが見出された.その後,好塩基球は,Th2細胞分化を誘導,抗体産生を促進するなど獲得免疫での役割が明らかとなり,さまざまなアレルギー疾患で重要な役割を果たすことが示されてきた.しかし,好塩基球がスポットライトを浴びるのに一役買った寄生虫感染における好塩基球の役割は明らかになってこなかった.今回著者らは,従来寄生虫感染防御に働くと考えられてきた好酸球や肥満細胞とは異なり,好塩基球が独自の機能によって寄生虫感染防御に働くことを見出したので紹介したい.
-
-
連載
-
- NEW iPS細胞研究最前線―疾患モデルから臓器再生まで
-
-
1.脊髄損傷に対する神経前駆細胞移植治療
250巻12号(2014);View Description Hide Description◎脊髄損傷とは外傷などによる脊髄実質の損傷を契機に,損傷部以下の知覚,運動,自律神経系の麻痺を呈する病態であり,一度損傷を受けると再生しないとされている.その治療法として,神経幹細胞,ES 細胞,iPS細胞を用いた細胞移植治療の研究が進められてきた.しかし,神経幹細胞は中絶胎児からの細胞採取が必要であり,ES 細胞は不妊治療の余剰胚を用いることから,倫理的問題を避けられない.その状況を打開したのがiPS 細胞である.iPS 細胞は自家組織が細胞の供給源となりうるため,倫理的問題を解決でき,臨床応用が期待されている.当研究室ではヒトiPS 細胞由来神経前駆細胞をマウスおよび霊長類コモンマーモセットの損傷脊髄内に移植し,運動機能評価,組織学的評価でその良好な結果を報告した.一方,一部のiPS 細胞株由来神経前駆細胞では移植後に腫瘍を形成することがわかっており,腫瘍化に対する対策は重要な課題である.臨床応用に向けて十分な安全性を確保するため,樹立法・培養法の改良や,さまざまな評価項目が検討され,十分な対策を整える必要がある.
-
輝く 日本人による発見と新規開発 7
-
-
-
フォーラム
-
- 近代医学を築いた人々 32
-
-
-
TOPICS
-
- 糖尿病・内分泌代謝学
-
- 膠原病・リウマチ学
-
- 疫学
-