医学のあゆみ
Volume 250, Issue 13, 2014
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あゆみ 末期慢性腎不全患者の治療方針Update―透析導入から管理まで
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透析患者数・高齢化の将来予測
250巻13号(2014);View Description Hide Description◎わが国の慢性透析患者数はいぜんとして増加しているが,導入数は低下,死亡数は増加の鈍化が認められる.2021 年ごろまでは患者総数35 万人程度に到達し,その後減少に向かうと推測される.導入原因は,糖尿病,腎硬化症で5 割を超え,後期高齢者(とくに男性)が増加する.透析導入後のQOL,生存率は保存期CKDからの管理に依存する.生活習慣の改善,服薬指導およびバスキュラーアクセス作成(腎機能代行療法の治療法選択)など患者の教育が重要である.専門医のみならず看護師,保健師,栄養士など多職種の連携および患者家族,行政などの支援が必要となる.透析患者の死因の首位を占める心血管障害には,水,ナトリウム蓄積による体液量過剰と蛋白質,カロリー不足による栄養障害,筋力低下,筋肉減少による運動不足などが複雑に関与している.継続的な観察,指導が治療の主眼となる.社会経済的側面に加えて精神・心理的サポートも重要である. -
いつ血液透析を導入すればよいのか?―総合的評価と包括的保存期腎不全医療の重要性
250巻13号(2014);View Description Hide Description◎従来,わが国の透析導入基準としては平成3 年(1991)に発表された厚生科研基準が用いられてきた.しかし,近年の患者背景の変化から,この基準が適用できない患者が増加してきている.透析導入を考慮する際には腎機能だけではなく,腎不全症候,日常生活障害度,栄養状態を総合的に評価する必要がある.透析導入時点における腎機能については,当初は早期に導入することにより尿毒症への曝露期間が短縮され,導入後の予後が改善する可能性が指摘されていた.しかし,その後の数多くの観察研究によって早期導入はかならずしも良好な予後と関連しないことが示されてきた.介入試験であるIDEAL Study でも早期導入の優位性は示されなかった.一方,QOL についても早期導入の優位性は示されていない.統一的な血液透析導入の基準の設定は困難である.包括的な保存期腎不全治療を行いながら腎不全症候の出現を注意深く観察し,適切な透析導入のタイミングをはかる必要がある. -
腹膜透析の理想の導入タイミング
250巻13号(2014);View Description Hide Description◎維持透析導入の基準は,透析開始時の腎機能,臨床症状と導入後の予後との関連性のなかで構築されてきた.この医学的妥当性は明確であるが,PD の場合,さらに社会・家庭復帰のための患者生活支援という側面も考慮する必要がある.したがって,PD における理想の導入タイミングとは,導入後に安定したPD 治療継続を担保できる状態・時期といえる.このポイントになるのが“残存腎機能”である.残存腎機能が長く保持される例では患者負担の少ないPD 療法を継続することが期待できる.よってPD 導入に際し,とくに無症候性の患者においてはその後の残存腎機能の廃絶を促進させない,あるいは保護することを意識して時期を決定する必要があろう.保存期の個々の患者の腎機能の推移を踏まえて待機的な予定導入,早期計画導入を行うことを提案したい. -
透析開始基準―国内外の比較と日本の位置づけ
250巻13号(2014);View Description Hide Description◎ 2013 年に日本透析医学会より「維持血液透析ガイドライン:血液透析導入」が発表された.この新しいガイドラインでは透析導入時期の腎機能評価基準として,海外と同様に血清クレアチニン(Cr)値でなく糸球体濾過量(GFR)を用いる方針が記載されている.透析導入時期については,日本透析医学会の統計資料に基づいた分析研究結果が反映された発表内容となっている.わが国を含む世界のガイドラインでは,透析導入を推奨する腎機能レベルに相違はあるものの,GFR と臨床症状によって透析導入を決定することを推奨している点は共通である. -
高齢化社会における血液透析の見合せ
250巻13号(2014);View Description Hide Description◎人間の生活活動能力ならびに認知機能は個人差が非常に大きく,年齢のみで治療方針を規定することはできない.しかし,在宅医療推進という現在のわが国の医療政策の下,高齢透析患者の長期入院は困難となる一方で,定期的な治療を必要とする血液透析では通院手段の確保が大きな社会的問題となりつつある.血液透析導入など治療方針の選択に関しては患者に意思決定権が存在し,医療チームは患者が決定した治療方針を尊重することは当然である.しかし意思決定に際し,医療チームは患者ならびに家族に対し単に医学的な情報提供だけでなく日常生活にかかわる諸問題についても説明し,納得のうえで治療を開始すべきである.とくに高齢者の場合,導入による救命という近視眼的な観点だけでなく,生命の尊厳を重視した遠視眼的な観点からの説明が重要である.医療者の考える最善と患者の考える最善とは目標が異なる場合もあるからである. -
血液透析管理―理想の透析処方
250巻13号(2014);View Description Hide Description◎血液透析の目的は体内溶質除去と除水を行うことであり,血液透析処方の基本はこの両者を的確に行うことである.最近,日本透析医学会より「維持血液透析ガイドライン:血液透析処方」1)が発刊された.このガイドラインの内容をもとに,現時点で目標とされる維持血液透析処方と理想の透析処方について概説する. -
腹膜透析管理―これからの理想の治療を求めて
250巻13号(2014);View Description Hide Description◎腹膜透析は確立された腎代替療法であるが,国内の患者数は3%に満たず血液透析治療に比べてきわめて少ない.腹膜透析が選択されない要因はさまざまであるが,末期腎不全の患者が本治療を正しく理解することは治療の選択の幅が広がる意味で重要である.本稿では,理想的な腹膜透析の処方を考えるにあたり腎代替療法のなかでの腹膜透析の位置づけを見直し,特色ある腹膜透析診療としてインクリメンタル腹膜透析,高齢者に対する腹膜透析,透析液処方の工夫について解説し,最後にわが国で発展が期待される血液透析との併用療法を紹介する. -
高齢透析患者に対する透析処方のこつ
250巻13号(2014);View Description Hide Description◎高齢透析患者のQOL の高い長期生存を可能にするためには,透析低血圧を起こさない,栄養障害を起こさないという2 つのポイントを重視して透析処方を考えることが大切である.著者らは,経験的にEVAL 膜,PMMA 膜,PAN 膜は透析中の血圧の安定と栄養状態の維持に有効であり,これらの膜のもつ生体適合性のよさ,ブロードな除去特性が関与しているのではないかと推測している.著者らは,これらの透析膜を用いて透析低血圧や透析後の疲労感が起こらない範囲で,透析効率をできるだけ上げるような治療条件の設定を行っている.現時点ではすべての患者にオールマイティな透析処方はないため,患者の様子をよく観察しながら試行錯誤で透析条件を設定する必要がある.
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連載
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- iPS細胞研究最前線-疾患モデルから臓器再生まで 2
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パーキンソン病に対するドパミン神経細胞移植―パーキンソン病の臨床研究に向けて
250巻13号(2014);View Description Hide Description◎パーキンソン病は神経変性疾患のひとつで,日本では難病に指定されている.中年以降に発症しやすく,高齢になるほど発症の割合も増える.中脳黒質のドパミン神経細胞が減少することにより手足の震え,筋固縮,無動などの運動症状が現れる.治療法として薬物療法や定位脳手術が施されるが,根本的な治療ではなく,症状を和らげる対症療法である.そこで,根本的な治療法をめざして減少したドパミン神経細胞を補う細胞移植治療法が1980 年代から研究されている.胚性幹細胞(ES 細胞)や人工多能性幹細胞(iPS 細胞)が誕生し,これらの細胞から失われたドパミン神経細胞を分化誘導する技術が開発されてきている.この分化誘導した細胞をパーキンソン病モデル動物の脳に移植すると失われたドパミン神経細胞が補われ,運動症状が改善されることが報告されている.本稿では,パーキンソン病の根本的な治療法を確立することをめざして現在取り組まれていることを概説する. - 輝く 日本人による発見と新規開発 8
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フォーラム
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- 続・逆システム学の窓 2
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甲状腺がんのドライバーBRAF変異の阻害薬―福島の子どもの甲状腺乳頭がんに最新の治療を考える
250巻13号(2014);View Description Hide Description・福島県で原発事故後行われている,子どもの甲状腺への影響を調べる甲状腺検査では,30 万人のうち悪性は疑いを含めると104 人で,58 人が手術治療を受けた1).わが国の甲状腺がんは,1975 年から右肩あがりで患者数も死亡数も増えている2).超音波検査を徹底すると多くの早期がんが発見されるが,それ以上に世界で増加している.韓国では人口5,000 万人で4 万人の患者が発見されているが,19 歳以下の子どもの罹患率は10 万人当り1.6 で福島より一桁低い3).・甲状腺がんは外科で亜全摘,リンパ節廓清が行われることが多かったが,反回神経麻痺,リンパ液漏れ,副甲状腺機能低下などの合併症もあり,生涯,甲状腺ホルモンを服用し続けるのは子どもの患者の負担があまりに大きい.早期の診断例に対しては,従来の治療法を考え直すべき時だ.・世界のがんゲノムプロジェクトで399 例の甲状腺がんのゲノム解析が終わり,じつに62%がBRAF キナーゼの変異をもち,そのほとんどが800 番目のバリンがグルタミン酸に置換して活性化されるV600E 変異であった4).乳頭がん臨床例の解析および動物実験から,この変異がドライバー変異であることがわかってきた5).検診での発見率の高い韓国では8 割程度のがんがBRAF 変異をもつ.・BRAF のV600E 変異にはベムラフェニブ(Vemurafenib)がよく効く.アメリカでは甲状腺がんと同様にこの変異が5 割を超えてみられるメラノーマでこの薬が認可されている6).この薬はBRAF だけでなく,RAS などの変異があると逆に悪性化を促す問題をもち,ゲノム解析なしには使ってはいけない7).・環境省専門家委員会などの議論では,甲状腺検査について原発事故との関連で増えているかなどの議論が中心で,もっとも重要な甲状腺がんと診断された子どもの治療方針が議論の中心になっていない.福島の子どものためには,甲状腺がんの増加を踏まえゲノム解析からの正確な評価をもとにした治療方針を検討し,不確定さのあるなかでセカンドオピニオンを保証し,患者とその家族の希望に答えた最新の治療が選択できるようにするべきである. -
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TOPICS
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- 神経内科学
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- 糖尿病・内分泌代謝学
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- 腎臓内科学
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