医学のあゆみ
Volume 251, Issue 4, 2014
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あゆみ HLAのブレイクスルー―臨床応用と疾患研究の進歩
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HLA検査結果の読み方と臨床的意義
251巻4号(2014);View Description Hide Description◎ヒト白血球抗原(HLA)は,免疫応答の惹起などにおいて重要な役割を果たすヒトの主要組織適合性複合体(MHC)である.1930 年代にマウスのMHC が発見されて以来,おもに移植領域でHLA 型の決定(タイピング)が実施されており,その多型性が明らかにされた.WHO のHLA 命名委員会に登録されるHLA のアリル数は,2014 年7 月時点で11,846 種類に上る.従来は血清学的に検査が行われていたが,遺伝子解析技術の発展とともにMHC をコードする領域の塩基配列の解析が進み,現在でも登録されるHLA のアリル数は増加をし続けている.HLA は輸血や移植医療の臨床成績に影響することのみならず,疾患感受性や薬剤感受性とも関連することが報告されている. -
HLA DNAタイピング法におけるパラダイムシフト
251巻4号(2014);View Description Hide Description◎ HLA 遺伝子領域は,ヒトゲノムで比類なき多型性に富み,HLA 遺伝子6 座位(HLA-A,HLA-B,HLA-C,HLA-DR,HLA-DQ,およびHLA-DP)において,これまでに11,000 を超える膨大なHLA アリルが公開されており,新規アリルの公開は年々増加の一途をたどっている.これはDNA タイピング技術が世界的に普及し,より大規模に多型解析が進められていることの反映である.ところが,現在の高解像度DNA タイピング法では,多型に富む特定のエクソンのみでアリル判定が行われていること,phase ambiguity が生じるなどの問題点がある.著者らはこれらを解決し,将来的に種々の医学的興味との関連性を明らかにするために,次世代シークエンサーを用いた新規のDNA タイピング法(超高解像度DNA タイピング法)を開発した.本稿では本法の原理について,世界の動向を含めて概説する. -
HLA 領域と疾患感受性
251巻4号(2014);View Description Hide DescriptionHLA 分子の主要な役割は自己または非自己(病原微生物)由来の抗原ペプチドをT 細胞受容体に提示し,病原微生物に感染した細胞の除去や,B 細胞による病原微生物特異的な抗体の産生といった免疫応答を誘導することである.多様な病原微生物由来のペプチドを効率よく提示するためにはHLA 分子も多様である必要がある.蛋白をコードする一般的な遺伝子座では通常数個のアリルしか観察されないが(ここではアミノ酸配列の異なるアリルのこと),クラスⅠ遺伝子であるHLA-A,-B,-C 遺伝子座やクラスⅡ遺伝子であるHLA-DRB1 遺伝子座においては1,000 種類以上のアリルが観察される.このような高度な多型性を示すことがHLA 遺伝子の最大の特徴といえる.HLA クラスⅠ遺伝子およびHLA クラスⅡ遺伝子ではアミノ酸置換を伴う多型がペプチド結合領域に集中している.ペプチド結合部位のアミノ酸配列が異なるHLA 分子は異なるペプチドレパートリーをもつ.そのため,異なるHLA 分子をもつ個体(ヘテロ接合体)は同一のHLA 分子をもつ個体(ホモ接合体)より多くの種類の抗原ペプチドをT 細胞受容体に提示することができ,病原微生物に対してより強い免疫応答を起こすことができる.同一遺伝子座に複数のHLA アリルが存在すれば,ヘテロ接合体が増すため集団の平均生存率が上がる.このような,ヘテロ接合体がホモ接合体よりも有利となる自然選択を超優性選択といい,超優性選択の作用によってHLA 遺伝子座はその多型性が増大する方向に進化してきたと考えられている. -
自己免疫疾患におけるMHC(HLA)クラスⅡ分子のあらたな機能―自己抗体の標的分子としてのミスフォールド蛋白質/MHCクラスⅡ複合体
251巻4号(2014);View Description Hide Description◎自己免疫疾患は,自己組織に対して免疫応答が起こることにより引き起こされる疾患である.自己免疫疾患の発症原因はいぜんとして不明であるが,ほとんどの自己免疫疾患でさまざまな自己抗体が産生される.したがって,自己抗体の標的分子,産生機序,病原性を解明することは,自己免疫疾患の病態・病因を解明するうえで重要である.最近のゲノムワイドの解析により,自己免疫疾患の原因分子としてさまざまな分子が報告されてきたが,以前からいわれているように特定のMHC,とくにMHC クラスⅡアリルがもっとも強く疾患感受性に影響を与える遺伝子であることが再確認されている1).しかし,特定のMHC クラスⅡアリルがなぜ自己免疫疾患に関与しているかはいぜんとして明らかになっていない.最近著者らは,MHC クラスⅡ分子が小胞体内のミスフォールド蛋白質を分解させずに細胞外へ輸送するシャペロンとして機能することを明らかにした2).興味深いことに,MHC クラスⅡ分子に提示されたミスフォールド蛋白質は抗原特異的なB 細胞を刺激することから,何らかの免疫応答にかかわっている可能性が考えられた.そこで,このようなMHC クラスⅡ分子に提示されたミスフォールド蛋白質が代表的な自己免疫疾患のひとつである関節リウマチ(RA)の病態にどのようにかかわっているかを解析したところ,RA に感受性のアリルのMHC クラスⅡ分子に提示された抗体重鎖が自己抗体の特異的な標的になっていることが判明した.以上より,ミスフォールド蛋白質/MHC クラスⅡ分子複合体が自己免疫疾患の発症に直接かかわっているのではないかというあらたな自己免疫疾患の発症機序が考えられた3). -
HLA classⅠ抗原提示経路とベーチェット病・強直性脊椎炎―HLA classⅠと炎症性疾患
251巻4号(2014);View Description Hide Description◎ヒト白血球抗原(HLA)classⅠは,ベーチェット病(BD),強直性脊椎炎(AS),乾癬などのもっとも強い遺伝学的リスクであるが,病態における役割はいままではっきりしていなかった.最近,BD やAS においてアミノペプチダーゼであるERAP1 を介したHLA classⅠへの抗原提示のプロセスが発症に重要であることが,ゲノムワイド関連解析などの最新の遺伝学的解析を通じて明らかとなった.また,これらの疾患のHLA 領域の詳細な解析も進み,疾患に関係する複数のHLA 型と,疾患におけるHLA の構造的機能解析もなされている.今後,炎症性疾患のHLA やERAP1 を標的とした疾患特異的治療法の開発が期待される. -
関節リウマチの疾患感受性,薬剤応答性とHLA
251巻4号(2014);View Description Hide Description◎関節リウマチ(RA)は対称性多関節炎を特徴とする全身性炎症疾患であり,抗シトルリン化蛋白抗体(ACPA)はその特異的マーカーといわれている.ACPA 陽性RA の発症はHLA-DRB1*04:05 をはじめとするshared epitope(SE)アレルと関連しており,ACPA 陰性RA では異なるアレルと関連している.RA の関節外症状のひとつであり,RA の約10%に合併し予後に深刻な影響を及ぼす間質性肺病変(ILD)では,DR2(DRB1*15,*16)との関連が報告されている.抗リウマチ薬メトトレキサート(MTX)の投与中に発症した薬剤誘発性ILD は,HLA-A*31:01 と関連する一方,抗リウマチ薬のブシラミン(Buc)投与中に発症した蛋白尿はDRB1*08:02 に関連する. -
ANCA関連血管炎における集団差とHLA領域の関連
251巻4号(2014);View Description Hide Description難治性稀少疾患である抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎(AAV)には,顕微鏡的多発血管炎(MPA),多発血管炎性肉芽腫症(GPA),好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)の3 つの疾患が含まれる.ANCA の主要な対応抗原にはmyeloperoxidase(MPO)およびproteinase 3(PR3)があり,MPA やEGPA ではMPO-ANCA 陽性率が高いことが知られている.一方,GPA においてはヨーロッパ系集団ではPR3-ANCA 陽性率が高いが,日本人集団ではPR3-ANCA 陽性GPA は半数程度であり,MPO-ANCA 陽性のGPA も多数存在している.AAV の発症メカニズムはまだ解明されていないが,遺伝要因が関与することが示唆されている. 本稿では,近年のゲノム研究により明らかになったAAV とHLA 領域との関連について紹介するとともに,HLA 領域のAAV における疫学的集団差への寄与について考察する. -
喘息・アトピー性疾患とHLA
251巻4号(2014);View Description Hide Description◎体内に入ったアレルゲンは鼻粘膜や気道粘膜,皮膚や消化管を介して体内に侵入し,樹状細胞,マクロファージなどの抗原提示細胞によるプロセッシングを受け,分解されたアレルゲンがペプチドとしてHLAclass Ⅱ分子とともにT 細胞に提示される.アレルゲンがペプチドとしてHLA class Ⅱ分子とともにT 細胞に提示され,その後のアレルギー免疫応答につながることを考えると,HLA class Ⅱ分子の多様性が体質としてアレルギー免疫応答につながるという可能性は高い.本稿では,現在までに報告されているHLA 遺伝子座とアレルギー疾患との関連解析について概説する.今後は次世代シークエンサーによるハイスループットなHLA タイピングにより,HLA 遺伝子座のあらたな疾患感受性遺伝子が同定されていくことが期待される. -
薬物による皮膚有害事象とHLAマーカー
251巻4号(2014);View Description Hide Description◎従来,特異体質で発症するため予測が不可能とされてきた重篤副作用であるが,近年のゲノム薬理学の発展に伴い,一部の薬剤が原因で発症する薬剤性肝障害や重症薬疹の発症にはHLA の特定のタイプが関与していていることが明らかとなった.重症薬疹については,原因薬物ごとに危険因子となるHLA タイプが異なり,また,危険性の強さは民族依存性がある.本稿では,カルバマゼピン,アロプリノール,アバカビル誘引性重症薬疹を中心に,HLA マーカーの特徴,事前検査の有用性,HLA を介した薬疹の発症のメカニズムなどについて簡単に紹介する. -
HLAクラスⅠ受容体-LILR-のあらたな知見
251巻4号(2014);View Description Hide Description◎ Human leukocyte antigen(HLA)はさまざまな疾患との関連が報告される,非常に多様性の高い分子であり,主要な受容体であるT 細胞受容体との相互作用が古くから注目されてきた.一方で,T 細胞以外でも,NK細胞上のkiller cell immunoglobulin(Ig)-like recepto(r KIR)ファミリー,CD94/NKG2 ファミリーや骨髄系細胞上のleukocyte Ig-like recepto(r LILR)ファミリーなど多数のペア型受容体がHLA クラスⅠを認識し,免疫系細胞の活性化を制御している.このように,多数の受容体がHLA クラスⅠを認識する意義と重要性について,受容体の特異性や分子認識機構の解析から疾患発症メカニズムの解明まで幅広く精力的な研究が進められてきた.同時に,有核細胞に広く発現する古典的HLA クラスⅠ分子(HLA-A,B,C)だけでなく,局所発現する非古典的HLA クラスⅠ分子のひとつHLA-G が抑制性LILR 受容体を介して伝達する免疫抑制機能についても注目されてきている.
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連載
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- iPS細胞研究最前線-疾患モデルから臓器再生まで 5
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細胞リプログラミング技術と軟骨疾患研究
251巻4号(2014);View Description Hide Description◎軟骨には関節軟骨と成長軟骨がある.関節軟骨は骨の端を覆ってなめらかな関節運動を担い,成長軟骨は成長期に骨を伸ばす.関節軟骨の損傷・変性は運動時痛を起こす.成長軟骨の障害は骨系統疾患を引き起こし,多くの場合,低身長の原因となる.限局した軟骨欠損に対して,HLA ホモiPS 細胞ストックから軟骨細胞を分化誘導して欠損部に細胞移植する再生治療の開発が進められている.また,骨系統疾患患者の体細胞からiPS細胞をつくり,それを軟骨細胞へ分化誘導させて疾患モデルをつくり,骨系統疾患の病態解析や創薬を行うことが可能になる.また,ダイレクト・リプログラミングによって,iPS 細胞を経ずに皮膚線維芽細胞から軟骨細胞を直接誘導することも可能になっている.これらの細胞リプログラミング技術を軟骨疾患研究に応用することにより,新たな治療方法の開発が期待される.
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フォーラム
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- 続・逆システムの窓 3
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XY 染色体マウスをエピゲノムが雌に変える?―ヒストン脱メチル化酵素が決める生殖細胞分化
251巻4号(2014);View Description Hide Description・生物にはマウスやヒトのように性染色体で性別が決まる種とワニのように孵化時の温度で性別が決まる種がある.なかにはニホンヤモリのように性染色体と温度の両方で変わるものもあり,その決定のメカニズムが注目されている.最近,立花 誠博士(現・徳島大教授)博士や眞貝洋一博士らは,マウスでエピゲノムが性を決めるのに決定的な役割を果たしていることを明らかにした.・ヒトやマウスではXY 染色体をもつと雄(男性),XX 染色体だと雌(女性)となっている.だが,マウスで性腺が分化する胎生期に,ヒストン脱メチル化酵素Jmjd1a が働かないと,XY 染色体をもっていても精巣の代りに卵巣ができ,雌化してしまう現象が起こることがわかってきた.・性の決定では多くの種で栄養や温度がかかわっており,それらがいったいゲノムとどうかかわるのか関心がもたれている.もし,これらの環境因子がエピゲノムにかかわるとすれば,性分化にかかわる疾患にあらたな治療法が生まれるかもしれない.・これまで,エピゲノムのメカニズムはショウジョウバエの目の色を決めるPEV(position effect variegation:斑入りの場所効果)という現象で研究されてきた.この場合,環境や他の遺伝子の影響でエピゲノムが目の色を赤くする遺伝子を不活性化するか決め,一度決まると固定化されてしまい生涯赤い目になるか,白い目になるか決まってしまう.・今回,立花教授の明らかにしたXY 染色体マウスの性転換の系は表現系が二者択一であり,頻度がかなりよく変わるので,エピゲノムに対する環境や遺伝的変異の影響をみるのに,ショウジョウバエのPEV と同じような感度のいい実験系になる.そうすると,哺乳類のエピゲノムのメカニズムを解き明かすのに最適な系がみつかったということになり,歴史的な発見である. -
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TOPICS
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- 神経内科学
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- 麻酔科学
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- 臨床検査医学
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