Volume 252,
Issue 5,
2015
-
【1月第5土曜特集】 糖尿病のすべて
-
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 345-345 (2015);
View Description
Hide Description
-
疫学・診断・病態update
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 349-354 (2015);
View Description
Hide Description
◎小児1型糖尿病発症率は国や地域により著しく異なり,とくに北欧において発症率が高く,日本を含めてアジア諸国では低い.発症率のピークは思春期にあり,成人における1 型糖尿病発症率は小児と比較して低い.アメリカでは,成人のみならず小児2 型糖尿病の頻度も上昇傾向にあり,非白人における上昇が顕著である.東京都では,中学生における2 型糖尿病発症率は小学生の値と比べて高く,患児の多くに肥満を認めた.2013年の世界における成人2 型糖尿病の有病者数は3 億8,200 万人(推定有病率8.3%),2035 年には5 億9,200万人にもなると推定されている.日本の2013 年における“糖尿病が強く疑われる人”の有所見率は男性11.6%,女性7.0% で,糖尿病患者は非糖尿病者と比較し,全死亡のリスクは1.8 倍,癌による死亡のリスクは1.25 倍,血管疾患による死亡のリスクは2.32 倍と,いずれも有意に高い.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 355-361 (2015);
View Description
Hide Description
◎多因子遺伝と生活習慣の両者が深く関与する2 型糖尿病の合併症は,人種の影響を強く受けるため欧米の疫学データを流用することはできず,わが国独自のエビデンス構築が必要である.近年わが国でも,Japan DiabetesComplications Study(JDCS)をはじめとする前向き研究から,日本人患者の合併症や治療の実態に関するエビデンスが築かれつつある.それらの結果,糖尿病合併症と血糖,血圧,脂質コントロールとの強い関連が認められたほか,腎症における喫煙や,網膜症における果物,動脈硬化合併症における食物繊維や食塩など食事関連因子の関与や,運動療法を十分行っていた患者において脳卒中や死亡率が半減していたことなど,生活習慣の重要性が明らかにされている.さらに個別患者における合併症発症率の予測も可能になっており,疫学データが糖尿病診療の具体化や個別化に貢献できる時代になってきた.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 362-368 (2015);
View Description
Hide Description
◎糖尿病はなお世界的に増加の一途をたどっている慢性疾患1)で,WHO およびIDF が世界各国に働きかけ,2006 年にその世界的脅威を認知する国連決議が行われた.わが国の調査でも糖尿病はいぜんとして増えているが,境界型の増加率は2013 年末の国民栄養調査報告ではじめて低下した.これには,行政の施策や学会をはじめとする各種団体のこれまでの啓蒙活動が国民の健康意識にも影響を及ぼしたものと考えられるが,今後の動向にはなお注視が必要である.糖尿病の診断は糖尿病の概念に合致するかについて,対象者の状態を判定する作業である.とくに,この診断手順のなかで慢性の高血糖の存在を示すことは不可欠である.ただ,明らかな高血糖がある場合には診断は容易であるが,糖尿病の存在がはっきりしない程度の軽い高血糖の場合には,条件を整えて血糖測定を行い,正確な診断を行うことが必要である.本稿では,この際に用いられる診断基準について述べる.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 369-374 (2015);
View Description
Hide Description
◎わが国で持続血糖モニター(CGM)機器が2009 年に認可され,2010 年にその保険点数が収載されてから早5 年が経とうとしている.CGM の使用がわが国の糖尿病診療に浸透し,血糖変動の把握による病態の評価,さらには治療効果判定などに大きな貢献をしてきたことに関して疑う余地はない.さらに,2015 年はわが国におけるCGM を取り巻く環境が大きく変化する年である.電波法に抵触してしまうため,わが国において使用することが不可能であったreal time CGMを装備した持続皮下インスリン注入(CSII)機器が2014 年に承認された.このreal time CGM を装備したCSII 機器はsensor augmented pump(SAP)とよばれている.したがって,2015 年はSAP が日本全国に普及する年になるであろう.今後は1 型糖尿病患者における血糖コントロールの完全自動化を視野に入れた機器の開発が現実味をおびてくるであろう.
-
基礎研究の最前線
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 377-382 (2015);
View Description
Hide Description
◎グルコースは生体でもっとも重要な栄養素のひとつであり,適切な血糖値の恒常的維持は良好な細胞機能の発現に重要である.血糖値の恒常性維持のためには,厳格なインスリン分泌調節が必須である.グルコース刺激によるインスリン分泌(GIIS)調節経路には,①細胞内代謝センサーであるATP 感受性K+(KATP)チャネルを介する惹起経路(triggering pathway),および②代謝性増幅経路(metabolic amplifying pathway)があり,さらに③GIIS を増強する神経・ホルモン性増幅経路(neuro-hormonal amplifying pathway)がある(図1-A).遺伝子変異,代謝異常など何らかの原因でバランスが損なわれると,高血糖(糖尿病)あるいは低血糖(低血糖症)が生じる.インスリン分泌調節機序の理解の深化は,病態理解,創薬,薬剤副作用の機序解明とリスク回避に必須である.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 383-387 (2015);
View Description
Hide Description
◎糖尿病発症の必須条件はインスリン分泌の絶対的あるいは相対的低下であり,分泌量を規定する重要な要素のひとつが膵島量である.膵β細胞は胎生期には分化により供給されるが,成体でのおもな供給源は自己増殖である.肥満や妊娠時にはインスリン抵抗性に伴い膵島量が増加するのに対し,1 型および2 型糖尿病患者では健常人と比較して膵島量が低下する.歴史的には糖毒性,脂肪毒性とそれに付随する酸化ストレス,ミトコンドリア障害などが膵島増殖不全・β細胞死の要因とされ,近年は内臓脂肪に起因する慢性炎症の関与が推定されている.さらに,膵島肥大不全の細胞内要因として,膵島アミロイドポリペプチド(IAPP)のアミロイド蓄積,過剰な小胞体ストレス,オートファジー不全があげられる.そして最近ではβ細胞の脱分化,非β細胞からβ細胞への分化転換という概念が再認識された.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 389-394 (2015);
View Description
Hide Description
◎インクレチンとは,消化管内における糖や脂質などの栄養素により刺激分泌され,膵β細胞に作用することでインスリン分泌を促進する因子の総称であり,おもにGIP とGLP-1 が知られている.現在に至るまでインクレチンに関する多くの研究が行われてきた.インクレチンはおもに腸管に存在する分泌細胞から分泌される.分泌された活性型のインクレチンは直接的あるいは間接的に膵島細胞に作用することによりインスリン分泌を促進するのみならず,膵島細胞の増殖などにもかかわっている.これらインクレチンはDPP-4 により分解された後,おもに腎から排泄されると考えらえている.インクレチンには膵における作用以外にもさまざまな作用があることが報告されており,インクレチンの多面性が明らかになってきている.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 395-401 (2015);
View Description
Hide Description
◎インクレチン関連薬やSGLT2 阻害薬の登場によって,糖尿病におけるグルカゴンの役割が注目されている.グルカゴンを分泌するα細胞は分離して十分量を得ることが難しいうえ,細胞自体が小さく脆弱で,機能解析が困難である.また,グルカゴンを測定する際の検査値の信頼性の問題も指摘されてきた.しかし,近年の解析技術などの進歩により,グルカゴンを含めた膵島内ホルモン制御機構についてさまざまな知見が得られ,グルカゴンの研究は進んでいる.糖尿病の病態においてもっとも重要なのはグルコースによるグルカゴンの分泌制御機構と考えられる.これを理解するには,グルコースの膵α細胞に対する直接的作用,ホルモンや神経を介した間接的作用を考える必要がある.これについては,研究者間の一致もまだみられず,いくつかの仮説が提唱されている段階である.今後,グルカゴンについてさらに研究が進み,あらたな糖尿病治療へ発展することが期待される.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 402-408 (2015);
View Description
Hide Description
◎肝および骨格筋は生体における代謝調節にきわめて重要な臓器であり,インスリンは絶食から摂食への移行時の両組織における代謝制御の多くの局面に関与する.肝においてインスリンは,PI-3 キナーゼ/PDK1/Akt 経路を介したFoxO1 の不活化や糖新生系酵素の遺伝子転写にかかわる転写因子・コアクチベーターの活性調節などの機序により,糖新生系酵素の発現を低下させ肝糖産生を抑制する.同時にSREBP1c の発現誘導と活性化を介して脂肪合成を促進する.骨格筋においてインスリンは,PI-3 キナーゼ経路依存的に糖取込みやグリコーゲン合成・蛋白質合成を促進する.肥満や過栄養において認められるアディポサイトカインの異常や小胞体ストレス・酸化ストレスは,JNK やIKK などの炎症性シグナルの活性化を介したIRS のセリンリン酸化によりインスリンシグナルを阻害する.また,筋肉内脂肪量やミトコンドリア機能不全とインスリン抵抗性との関連や,運動効果におけるマイオカインの意義に関しても注目が集まっている.選択的インスリン抵抗性は,糖脂質代謝異常のみならずNAFLD やNASH の病態にも関与する可能性があり,分子機構の解明は重要な課題と考えられる.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 409-414 (2015);
View Description
Hide Description
◎肥満の白色脂肪組織では,脂肪組織の機能異常(アディポサイトカイン産生調節の破綻),すなわちTNF-α(tumor necrosis factor-α),I L-6(interleukin-6),MCP-1(monocyte chemoattractant protein-1)などに代表される炎症性アディポサイトカインの過剰産生と,アディポネクチンに代表される抗炎症性アディポサイトカインの産生減少がもたらされ,メタボリックシンドローム(MetS)の病態形成に中心的な役割を果たすことが明らかになってきた1,2).肥満の白色脂肪組織では,さまざまな免疫担当細胞の浸潤や炎症性変化による組織変化(脂肪組織リモデリング)が観察され,MetS における病態生理的意義が注目されている.本稿では,肥満の白色脂肪組織炎症に関する最近の知見を概説する.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 415-419 (2015);
View Description
Hide Description
◎褐色脂肪細胞研究が注目を集めている.この5~10 年で褐色脂肪細胞の細胞系譜,分化制御プログラム,成人ヒトにおける褐色脂肪組織の存在など,あらたな知見が蓄積されてきた.齧歯類やヒトの知見から全身の糖・脂質・エネルギー代謝における褐色脂肪組織の比重が大きいことが示唆され,褐色脂肪細胞の分化誘導や機能の制御が糖尿病や肥満などの代謝性疾患に対する治療戦略として期待される.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 420-424 (2015);
View Description
Hide Description
◎元来,生体には糖・エネルギー代謝の恒常性を維持する仕組みが備わっている.個体としての代謝は,単一の臓器・組織だけで行われているのではなく,全身の各臓器・組織が液性因子や神経経路を介してそれぞれの代謝情報を共有することでたがいに連関している.そのため,過栄養下においてもエネルギー消費を増大させることができる.とくに,生体のエネルギーの貯蔵を担う肝や白色脂肪組織と中枢とを結ぶ代謝情報連関は,エネルギー代謝の恒常性維持に中心的な役割を果たしている.さらに糖代謝についても,神経ネットワークによる恒常性維持機構が明らかになってきた.近年,肥満症患者が増加を続けているが,この原因としてエネルギー代謝の恒常性を維持する機構の破綻やエネルギーを蓄える機構の関与が示唆されている.本稿では糖・エネルギー代謝制御機構について,白色脂肪組織や肝と中枢神経を結ぶ神経ネットワークを中心に概説する.
-
成因研究update
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 427-434 (2015);
View Description
Hide Description
◎1型糖尿病の頻度は世界的に増加傾向にあり,欧米ではとくに4 歳以下の小児に顕著である1,2).1型糖尿病は,①劇症1型糖尿病,②急性発症1 型糖尿病,および③緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM),の3種のサブタイプよりなる.いずれも特有の遺伝因子を背景に,種々の環境因子により膵β細胞(以下,β細胞)の廃絶が起こる疾患である.環境因子としては,ウイルス感染をはじめとして食物因子,成長,毒素などがあげられる1,3).本稿ではウイルス感染を含めて1型糖尿病の発症機序,診断,膵島自己抗体について最近の知見をもとに解説する.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 435-439 (2015);
View Description
Hide Description
◎劇症1型糖尿病では膵β細胞が非常に急激に破壊され,内因性インスリン分泌が枯渇し,糖尿病を発症する.2012年に診断基準の小改訂が行われた.劇症1型糖尿病のβ細胞傷害には,class Ⅱ HLA をはじめとする遺伝因子を背景に,ウイルス感染とそれに対する免疫応答の異常が関与していると考えられる.契機となるウイルスは多種に及ぶと推測されるが,エンテロウイルスおよびヘルペスウイルスでの検討が進んでいる.そのほかにもNK 細胞や制御性T 細胞が関係した免疫調節機構の異常が影響して,急激な免疫応答が生じた結果,β細胞傷害に至ると推測される.将来はISG15 などの抗ウイルス機構を増強させる治療法の開発も想定される.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 440-444 (2015);
View Description
Hide Description
◎1型糖尿病は「膵β細胞の破壊的病変でインスリンの欠乏が生じることによって起こる糖尿病」と定義されている.日本と欧米のいずれにおいても高い家族内集積性が認められ,1型糖尿病の成因に遺伝因子が関与していることが明らかとなった.遺伝因子は複数の疾患感受性遺伝子により構成されており,個々の疾患感受性遺伝子を同定し,その機能を明らかにすることはかならずしも容易ではない.しかし近年,ゲノム情報の整備や遺伝子解析法の進歩によって疾患感受性遺伝子の解析が急速に進んできた.以前から指摘されてきたHLAに加え,1型糖尿病疾患感受性遺伝子としてインスリン遺伝子,CTLA4遺伝子,PTPN22遺伝子,IL-2RA遺伝子が同定された.また,ゲノムワイド関連解析(GWAS)により多くの遺伝子座の関与が示唆されており,日本人においても進行中であり,成果が期待される.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 445-450 (2015);
View Description
Hide Description
◎ゲノムワイド関連解析(GWAS)の導入後,欧米人,日本人など複数の民族の解析から80 以上の2 型糖尿病感受性遺伝子領域が同定されている.多くは共通の感受性遺伝子領域と考えられているが,特定の民族でのみ関連が認められる領域も散見される.しかし,すべての情報を統合しても2 型糖尿病の遺伝的要因の10%程度しか説明できないと試算されており,現在のゲノム情報は疾患感受性機構の解明や,人種間での2 型糖尿病の表現型の違いを説明することには不十分といわざるをえない.今後,さらなるGWAS の規模拡大,およびいまだ解析の行われていない特定の民族でのGWAS により,あらたな感受性遺伝子領域の同定が必要である.加えて次世代シーケンサーを用いたrare variants 解析,さらにはエピゲノム・メタゲノム解析情報などの環境要因との統合解析が2 型糖尿病疾患感受性機構の全容解明には必要と考えられる.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 451-455 (2015);
View Description
Hide Description
◎糖尿病の成因・発症には,さまざまな遺伝因子と環境因子が関与している.日本人は欧米人と比較してインスリン分泌能が弱く,また内臓脂肪を蓄積しやすいため,軽度の肥満でインスリン抵抗性が起こり糖尿病を発症しやすい.近年,世界中で糖尿病が爆発的に増加している要因には過食,肥満,運動不足などの環境因子が深くかかわっていると考えられる.実際,日本人を含めた多くの研究で,生活習慣への介入によって糖尿病発症を予防できることが示されている.2008 年からはじまった特定健診・特定保健指導でもその効果が報告されている.肥満外科手術は減量がきわめて困難な高度肥満症の強力な治療法で,合併する糖尿病に対する強力な改善効果が注目されている.日本でも2014 年4 月に保険収載され,今後広まっていくと予想される.基礎研究面では近年,腸内細菌研究が飛躍的に発展し,あらたな知見が集積しつつある.なかでも腸内細菌が宿主の代謝に大きく影響を与えていること,肥満との関連が示唆されており,肥満症治療のターゲットとしても注目されている.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 456-462 (2015);
View Description
Hide Description
◎2型糖尿病や肥満の発症には遺伝因子と環境因子が重要な役割を果たす.エピゲノムはDNAの塩基配列によらない遺伝子の発現調節機構であり,DNAのメチル化やヒストン修飾,microRNA(miRNA)などの概念を含む.このうち,DNAのメチル化やヒストン修飾は化学的な修飾であるため,外部環境に応答して柔軟に対応することができる遺伝子制御機構であるとともに次世代にも受け継がれる.そのため,環境因子が糖尿病発症に関与する機構としてエピゲノム制御機構が注目されている.最近,DNA メチル化やヒストン修飾,miRNAを介して起こる遺伝子発現のエピゲノム制御が糖尿病の発症に関与する例が多く報告されており,その一例として著者らの作製したヒストンH3K9 メチル化酵素Jmjd1a のノックアウトマウスでは肥満とインスリン抵抗性が認められた.現在のところ,糖尿病におけるエピゲノム制御機構の解明ははじまったばかりであるが,今後さらに詳細な機構が解明され,治療に役立つことが期待される.
-
合併症の成因・検査と予防・治療
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 465-470 (2015);
View Description
Hide Description
◎全世界的に糖尿病患者は増加の一途をたどっている.糖尿病患者数の増加により,糖尿病の慢性合併症である糖尿病網膜症患者数も増えていることが推測されるが,わが国においては,近年の内科的管理の向上と眼科的治療の進歩により,糖尿病網膜症により失明に至るケースは年々減少している.しかしそのなかで,中等度の視力障害をきたす糖尿病黄斑浮腫は糖尿病網膜症の一病型であって増加傾向にある.2014 年2 月より糖尿病黄斑浮腫に対して抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法の適応が拡大され,今後の臨床効果が期待されている.糖尿病網膜症や糖尿病黄斑浮腫の発症・進展には,他の糖尿病合併症と同様に,血糖コントロールと罹病期間が大きく関与していることが明らかにされている.糖尿病患者の血糖管理とともに,定期的な眼底検査を行い,可能なかぎり視機能の向上を図る必要がある.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 471-477 (2015);
View Description
Hide Description
◎糖尿病性腎症の成因は,高血糖の持続と糸球体高血圧であると考えられている.高血糖が持続するとブドウ糖は腎糸球体構成細胞内に取り込まれ,種々の代謝異常を惹起する.このなかで腎症に関してはプロテインキナーゼC(PKC)活性化と終末糖化産物(AGEs)が重要と考えられている.糖尿病性腎症の評価項目は尿アルブミン値(尿蛋白値)と糸球体濾過量(GFR)であり,2014 年に改訂された糖尿病性腎症病期分類の評価項目も同様である.微量アルブミン尿の出現で糖尿病性腎症を診断するが,微量アルブミン尿には診断の特異度の面で問題点が存在することも事実である.糖尿病性腎症の治療戦略の中心は,上記成因に基いた高血糖の是正と糸球体高血圧の是正である.そして,現在の治療戦略でも糖尿病性腎症の寛解が生じることが報告されている.成因に基づく新しい治療薬はいまだ臨床応用には至っていないが,その開発も進んできており,今後の発展を期待したい.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 479-484 (2015);
View Description
Hide Description
◎糖尿病性神経障害は,患者QOL の低下をもたらすのみならず,生命予後をも左右する重要な糖尿病性合併症のひとつであり,その成因を解明するとともに早期診断し,予防と治療に繋げることが重要である.高血糖に起因する神経障害の成因は,①代謝性因子,②血液・血管性因子,および③神経栄養因子に分けられ,なかでも代謝性因子のひとつであるポリオール代謝活性の亢進が重要と考えられる.神経障害の診断的検査のひとつとして,神経線維を形態学的かつ非侵襲的に評価することが可能な角膜共焦点顕微鏡を用いた角膜神経線維密度測定の有用性が注目されている.神経障害の予防と治療の主体は厳格な血糖コントロールの維持にあるが,成因に則った治療薬としてアルドース還元酵素阻害薬が有用である.インクレチン関連薬は,血糖降下作用に加えて神経障害改善効果を有する可能性が注目されている.さらに,進行した神経障害に対するあらたな治療法として,各種幹細胞移植による再生医療の可能性に関する検討も進められている.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 485-490 (2015);
View Description
Hide Description
◎糖尿病は心血管疾患の最大のリスクファクターである.糖尿病以外の危険因子の2 つ分あるいは二次予防なみのリスクがあると想定されている.一方,心血管疾患の基盤となる動脈硬化症は,糖尿病の合併症のひとつである大血管合併症として認識されている.しかし,糖尿病のどのような病態が大血管合併症の原因となっているかは,かならずしも明らかではない.これまでの研究では血糖コントロール,脂質異常,血圧コントロール,インスリン抵抗性,最小血管合併症の進展度などがとくに糖尿病の病態として重要であることが明らかにされているが,これらの病態への単独の介入試験は,かならずしも大血管合併症を予防することに成功していない.現時点では,糖尿病患者の大血管合併症予防にはこれらの病態を総合的に管理することが重要と考えられており,その大規模検証試験が施行されている.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 491-495 (2015);
View Description
Hide Description
◎糖尿病足病変は,重症化すると入院を含めた医療費の増加,さらには下肢切断によるQOL 低下,最終的には生命予後をも脅かす問題となるため,増加する糖尿病患者の診療にあたっては糖尿病足病変の病態,診断,治療に関する正しい知識が求められる.2008 年4 月より創設された,糖尿病合併症指導管理料を契機に,日常臨床の現場においても予防的フットケアが普及している.内科医としての役割は,第1 にフットケアに関心をもつこと,さらに足病変の予防教育および診断のための適切な検査を行い,治療方針について多角的な医療チームのゲートキーパーになることである.重症虚血肢の救肢にあたっては循環器内科,形成外科,皮膚科,血管外科,整形外科などの科を越えた連携が必要である.さらに全身管理として心血管リスクを念頭におき血糖管理をはじめとした薬物療法を実践していくことが必要とされる.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 497-502 (2015);
View Description
Hide Description
◎2型糖尿病や肥満の増加に伴い,メタボリックシンドローム(MetS)の肝での表現型とされる非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)および非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)が増加している.NASH は肝硬変や肝細胞癌に進展する例もあり,病態進展を予防することが急務とされている.糖尿病患者の治療の目標は,合併症を防ぎ,健常人と変わらない寿命を全うすることにあるが,男女ともに10歳あまり寿命が短いのが現実である.糖尿病患者の死因の第1位は悪性腫瘍であり,なかでも肝癌がもっとも高頻度にみられる.肝硬変を含めた肝関連死が多数を占めることが報告され,これらは糖尿病を背景としたNASH に関連していると考えられている.NASH/NAFLDは環境因子と遺伝因子が複雑に絡みあう疾患であり,環境因子として,内臓脂肪蓄積によるインスリン抵抗性が病態の中心を担う.本稿では,糖尿病とNASH/NAFLDに共通する基盤病態であるインスリン抵抗性を中心に,基礎,臨床データを交えて概説する.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 503-508 (2015);
View Description
Hide Description
◎近年の疫学調査により,糖尿病(おもに2 型糖尿病)は大腸がん,肝がん,膵がんなどの罹患リスク増加と関連があることが明らかになった.糖尿病によるがん罹患リスク増加の機序としては,インスリン抵抗性とそれに伴う高インスリン血症,高血糖,慢性炎症などが想定されている.不適切な食事,運動不足,喫煙や過剰飲酒は糖尿病とがんに共通するリスク因子として重要であり,糖尿病患者における食事・運動療法,禁煙,節酒はがん罹患リスク減少につながることが期待される.また,一部の糖尿病治療薬によりがん罹患リスクが増減する可能性があるが,現時点でのエビデンスはまだ限定的である.糖尿病を有するがん患者では周術期や化学療法時など適切な糖尿病管理が重要であり,がん治療チームと糖尿病治療チームの緊密な連携が求められる.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 509-514 (2015);
View Description
Hide Description
◎近年,糖尿病患者において認知症発症リスクが上昇することが注目されるようになった.糖尿病が認知機能低下を引き起こすメカニズムとして,血管障害,血糖変動,炎症,インスリン抵抗性など複数の経路が想定されている.診断に際しては病歴,現症,身体所見,神経心理検査,血液検査,画像検査などで,治療可能な認知症の発見に努める.現時点で認知症の発症予防や進行を遅らせる二次予防の方法は確立していない.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 515-518 (2015);
View Description
Hide Description
◎糖尿病では骨密度が維持されているため骨粗鬆症は過小評価されてきたが,それにもかかわらず骨質の劣化により骨脆弱性が進行するという特徴をもつことが明らかになった.原因は,①インスリン欠乏や慢性高血糖による骨細胞の機能障害による骨形成の低下,②糖化産物の蓄積によるコラーゲン架橋の劣化など骨の微細構造の変化による骨質の低下,③糖尿病腎症による骨代謝障害,④糖尿病神経障害や動脈硬化症などの合併症による骨への循環・栄養障害,⑤合併症による転倒頻度の増加,など多岐にわたりきわめて複雑である.生活習慣病関連骨粗鬆症が提唱されるようになり,その代表的な疾患である糖尿病における骨合併症を理解することの重要性が増している.
-
治療目標
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 521-527 (2015);
View Description
Hide Description
◎DCCT,Kumamoto Study,UKPDSの3つの前向き臨床研究の結果,強化療法群では標準治療群と比べ,網膜症,腎症などの細小血管合併症の発症や進展が抑制されることが確認された.各試験終了後のmonitoring研究で,本研究期間中に強化療法を行っていた群では長期的にみるとその後の大血管合併症の発症も抑制されることが明らかにされた.これらのエビデンスを踏まえ,多くの糖尿病患者における血糖コントロール目標値として,細小血管合併症予防のためにHbA1c 7.0%未満,血糖正常化をめざす際の目標値はHbA1c 6.0%未満,糖尿病の慢性合併症がすでに進行した患者や高齢で治療強化が困難な際の目標値はHbA1c 8.0%未満とする熊本宣言が発表された.これらの治療目標は,個々の患者の背景に応じて設定することや,治療経過や社会状況の変化に応じて柔軟に見直していくことが重要である.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 529-536 (2015);
View Description
Hide Description
◎1型糖尿病,2型糖尿病を問わず,良好な血糖管理は細小血管障害,大血管障害の発症・進展を抑制する.しかし,より厳格な血糖管理を求めるほど,必然的に低血糖リスクは大きくなる.近年,2型糖尿病治療においては低血糖を生じにくいインクレチン関連薬の登場によって,その治療内容は変化してきている.本稿では当科におけるDPP-4阻害薬を使用した低血糖回避例を示す.インスリン治療中の2型糖尿病例では,DPP-4阻害薬を併用することで使用インスリン量が減少して,低血糖頻度を減少させることもできる.また頻回注射療法施行中の1型糖尿病症例においては,α-GI の併用で血糖変動の改善のみならず低血糖頻度の減少も達成できた.さらに頻回注射療法施行中の1型糖尿病症例においても,持続血糖測定(CGM)を施行すると夜間や日中の無自覚性低血糖が発見されたが,治療をCSII に変更することで低血糖の改善を含めて安定した血糖管理を得ることが可能となる.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 537-543 (2015);
View Description
Hide Description
◎高齢糖尿病患者を対象としたJ-EDIT研究により,LDL コレステロール(LDL-C)高値が虚血性心疾患発症の危険因子であり,HbA1c高値,高血圧,non-HDL-C高値,身体活動量の低下,うつ傾向が脳卒中発症の危険因子であることが明らかになった.動脈硬化性疾患の予防のためには血圧,脂質,血糖の管理と運動,心理サポートが大切である.高齢糖尿病患者は認知症,ADL低下,転倒,サルコペニア,フレイル,うつ傾向,排尿問題,低栄養などの老年症候群を起こしやすい.老年症候群がある場合は,高血糖も低血糖もない適切な血糖コントロール,筋力トレーニングを含む運動療法,栄養サポート,心理サポート,社会サポートなどが共通の対策となる.高齢者の血糖コントロール目標は認知症,フレイル,低血糖の起こりやすさ,社会サポートの有無によって2~3段階にすべきである.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 544-548 (2015);
View Description
Hide Description
◎小児・思春期糖尿病の治療目標は成人糖尿病と大きく変わるものではない.ただ,糖尿病の治療目標は個々のものといいつつ,小児・思春期患児は自我形成が未熟な未成年であること,食欲が人生のなかで一番旺盛な時期であること,成長にまつわるインスリン拮抗ホルモン分泌が上昇すること,治療スキルが未熟であること,目標を遵守することの理解が困難であることから,治療の管理を個人にゆだねることが困難である.また,糖尿病の管理が基本的には自己管理であることをこの年代の患児に押しつけることはできない.押しつけることによって自己評価を低下させることも起こりうる.たとえば摂食障害などを併発すると,自己管理がさらに困難になる.治療目標はあくまでも個々の能力に合ったものでなければならない.つまり,やる気がなければ治療目標は単なる紙切れにしかならない.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 549-554 (2015);
View Description
Hide Description
◎妊娠時に取り扱う耐糖能異常には,①妊娠前から治療している糖尿病(pre-existing diabetes),②妊娠糖尿病(GDM),③ハイリスクGDM,④妊娠時に診断された明らかな糖尿病,の4 つがある.この管理目標としては,①今回の妊娠中の母児の周産期合併症の予防,②母体の将来の糖尿病・メタボリックシンドローム(MetS)予防,③児の将来の糖尿病・MetS 予防,の3 つがある.この目標達成のためには,pre-existing diabetesは血糖管理をして計画妊娠することが必須である.妊娠時には妊娠初期と中期に全妊婦に対しGDMスクリーニングを行い,耐糖能異常の診断がついた場合は,厳重な血糖管理が必要となる.産後には,耐糖能異常の程度を再評価し,正常型の場合も定期的なフォローアップをする必要がある.あわせて,耐糖能異常妊婦から生まれた児も定期的にフォローアップしていくことが重要である.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 555-558 (2015);
View Description
Hide Description
◎J-DOIT3は,血糖値・血圧・脂質を生理的に近いレベルにまで統合的に改善する治療による,大血管症の抑制効果を評価することを目的とした大規模臨床研究である.厚生労働省による戦略研究の一環としてはじまり,全国81施設で2型糖尿病に高血圧症または脂質異常症を合併したハイリスク症例2,542例が登録され,ガイドライン通りの従来治療群と強化療法群にランダムに割り付けられた.強化療法群ではHbA1c 6.2%未満など,より厳しい目標を掲げ,3~6 カ月ごとに薬物治療を段階的に強化するプロトコールとなっている.加えてセルフモニタリングや教育を中心とした積極的な生活習慣介入も行われており,低血糖や体重増加の抑制に寄与することが考えられる.追跡期間は2016年までの予定であるが,これまでのところ順調に推移しており,今後の糖尿病診療のあり方を左右する重要な試験となることが期待される.
-
治療法の考え方と位置づけ
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 561-565 (2015);
View Description
Hide Description
◎日本人の2型糖尿病の増加には,内臓脂肪型肥満によるインスリン抵抗性を基盤とする病態が大きく関与している.栄養学的な観点から,動物性脂肪の相対的な増加が原因として重要な意義をもつと考えられ,その結果,合併症の疾患構造も大きく変化している.糖尿病の食事療法の基本は総エネルギー摂取量の適正化によって肥満を是正し,インスリン作用の面から,需要と供給のバランスを図ることを目的としている.したがって,個々の栄養素の摂取比率は患者の活動度や嗜好などに応じて,医学的な齟齬がない範囲で柔軟に対応してよい.近年,炭水化物制限の体重減少効果が注目されているが,炭水化物摂取量の制限によって,総エネルギーとは無関係に体重が減少することを示すエビデンスはない.総エネルギーの適正化をしない極端な炭水化物摂取制限は,その効果のみならず,長期にわたる安全性・遵守性などの面から危惧があり,これを勧めることはできない.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 567-572 (2015);
View Description
Hide Description
◎近年,さまざまな治療法の進歩により血糖のコントロールがより容易になりつつあるが,本質的な治療としては,いまだに食事・運動療法が重要な役割を担っている.運動は,糖尿病の治療のみならず生活習慣病をはじめ,寝たきりに直結するようなさまざまな疾患に対して予防効果があることが示されつつあり,高齢社会がさらに進むわが国において,より重要視するべき治療法であろう.本稿では,運動がどのように代謝改善効果をもたらすのか,おもに骨格筋における異所性脂肪(脂肪筋)のメカニズムを概説し,運動療法の具体的な方法論について述べる.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 573-577 (2015);
View Description
Hide Description
◎血糖降下薬の選択では,糖尿病の病態に応じた選択が重要である.選択の基準としては,まずインスリン抵抗性と分泌低下でどちらが優勢かを評価する.また,血糖の日内変動パターンの考慮も重要であり,食後高血糖を是正し日内変動の少ない血糖管理をめざす.また,各薬剤の使用禁忌,慎重投与,副作用を十分に把握し,患者個々の特性を考慮した安全な薬剤を選択する.第一選択薬で血糖コントロール目標を達成できなかった場合には,速やかに併用療法を考慮する.インスリン抵抗性改善薬と分泌促進薬の併用は有効な場合が多い.また,良好な血糖日内変動パターンの達成にも併用療法は優れており,単剤の増量より早期の併用療法が有効と考えられる.しかし,インスリン適応例は速やかなインスリン導入が必須であり,数種の経口薬の併用療法でもコントロール不良の場合は早い段階でインスリン導入を考慮することも忘れてはならない.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 578-583 (2015);
View Description
Hide Description
◎スルホニル尿素(SU)薬は,歴史の古い,しかも非常に有用なインスリン分泌を促進する経口糖尿病治療薬である.近年,細小血管障害抑制のみならず,大血管障害抑制に関してもエビデンスが出された.SU薬は,インスリン治療をすべき症例を除外し,食事・運動療法を徹底しても食前血糖高値である症例に使用する.有効限界量で血糖コントロールが改善しない場合は他剤との併用あるいはインスリン治療の導入を考慮する.副作用は低血糖であり,食前血糖をモニターし安全面に配慮して使用する.DPP-4阻害薬との併用は非常に有効であるが,重症低血糖をきたす可能性を念頭におき対処する.グリニド薬が適応となる症例は,膵β細胞機能がある程度保持され,空腹時血糖は比較的保たれているが,食後高血糖がみられる患者である.副作用として低血糖が起こりうるが,SU 薬に比べ相対力価が低く作用持続時間が短いため,その頻度は少ない.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 584-589 (2015);
View Description
Hide Description
◎インスリン抵抗性増大が主体である症例には,インスリン抵抗性改善系薬であるチアゾリジン薬とビグアナイド薬の使用を考慮する.チアゾリジン薬はおもに脂肪組織に作用し,①脂肪細胞の質の変化,②慢性炎症の改善,③脂肪の再分布などの機序によって血糖降下作用をもたらす.副作用として浮腫,体重増加,骨量減少などがあり,使用の際には注意を要する.ビグアナイド薬の血糖改善作用機序は完全に解明されたとはいえないが,AMP キナーゼ(AMP-activated protein kinase)の活性化を介し,肝での糖新生を抑制し,骨格筋での糖取込みを促進すると考えられている.副作用として消化器症状や乳酸アシドーシスがある.乳酸アシドーシスの発症を避けるため,経口摂取が困難な患者や寝たきりなど,全身状態が悪い患者には投与しないことが大前提とされており,腎機能障害などの乳酸アシドーシス発症のリスクをもつ患者にビグアナイド薬を投与をしないよう留意する必要がある.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 591-598 (2015);
View Description
Hide Description
◎インクレチン関連薬(DPP-4 阻害薬,GLP-1 受容体作動薬)は単独で用いた場合,低血糖リスクが低く,体重については減少あるいは増加をきたしにくい.食後早期のインスリン分泌不全を特徴とする日本人の2 型糖尿病に適した治療薬として幅広く使用され,わが国の糖尿病診療を大きく変革している.しかし,DPP-4 阻害薬上市後,SU 薬併用例において重症低血糖が散見されたが,適正使用に関するrecommendation により重症低血糖例は激減した.またGLP-1 受容体作動薬上市後,インスリンからの切替えで著明な高血糖やケトーシスをきたした症例が散見されたが,GLP-1 受容体作動薬はインスリンの代替でないことを今一度再認識する必要がある.本稿では,日本人2 型糖尿病に対するインクレチン関連薬の位置づけと適正使用について概説する.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 599-604 (2015);
View Description
Hide Description
◎糖尿病治療において食事療法,運動療法は適正な体重やインスリン感受性を実現し,血糖コントロールを維持するうえで基礎となる治療であるが,長期間にわたり実行することは難しく,最近の調査では1 型糖尿病,2 型糖尿病いずれにおいても体重増加が報告されている.2014 年わが国でつぎつぎと登場したSGLT2 阻害薬は経口血糖降下薬としてははじめて明確な体重減少が報告され,新しいクラスの薬剤として大きな期待が寄せられている.一方で臨床試験では報告があまりなかった予想外の副作用も報告され,さまざまな合併症を有する症例においても使用することが多い実臨床では,改めて安全性に留意し慎重に適応症例を選択,適正に使用していくことが重要であることが示された.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 605-611 (2015);
View Description
Hide Description
◎インスリンはすべての糖尿病薬のなかでもっとも長い90年以上にわたる歴史をもち,効果が確実,1単位ごとの微調節が可能で,妊娠例,小児や周術期を含めてほとんどの場面で使用できる.一方で,注射薬であるため内服薬に比べて手間がかかること,在宅自己注射管理料などもかかって費用がかさむこと,使い方次第では体重増加や低血糖を招きやすいこと,などのデメリットがあり,適応と使い方を十分に理解して用いる必要がある.これまでの臨床スタディの結果では,早期から低血糖や体重増加に注意して慎重にすこしずつインスリンを使用することが推奨される.できれば,糖毒性を取り除いてインスリンを減量していくことも意識して使用したい.周術期や集中治療室での点滴管理の場合には,ブドウ糖に合わせて速効型インスリンを経静脈的に投与する.本稿では糖尿病薬におけるインスリンの位置づけと適正使用について,基礎から最新の報告にも触れて解説する.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 613-619 (2015);
View Description
Hide Description
◎1950年代以降,血糖降下薬ではSU 薬やBG 薬をはじめとしてさまざまな経口薬が開発され,糖尿病の個々の病態に応じた治療選択が可能となった.2009年に登場したインクレチン関連薬,とりわけDPP4 阻害薬は,優れた有効性と安全性から現在の糖尿病薬物療法の中心的な存在となっている.2014 年には新規経口薬としてSGLT-2阻害薬が上市され,既存薬とは異なる作用から注目されている.さらに,GPR40 作動薬などのあらたな作用機序を有するいくつかの糖尿病治療薬の開発が進行中であり,さらなる治療選択肢の拡大が期待される.また,わが国では未定であるが,海外では吸入および経口インスリン製剤などのインスリン非注射製剤の開発や臨床使用が進められている.近年はACCORD 試験などの大規模臨床試験の結果から,単にHbA1cの正常化をめざす治療では合併症予防において逆効果になりうるリスクがあることが証明された.今後開発される糖尿病治療薬に期待されるのは,認容性に優れ,良質な血糖降下作用を提供することであり,さらには糖尿病そのものの進展予防を実現しうるものであることも付け加えたい.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 620-624 (2015);
View Description
Hide Description
◎1型糖尿病の“根治的”治療として現在行われている治療に膵β細胞補充療法としての膵(臓)移植と膵島移植がある.膵移植はすでに多くの国で標準治療として確立しており,1型糖尿病治療の一選択肢となっている.膵島移植は近年格段に進歩し,膵単独移植の成績にほぼ匹敵するようになっている.課題として長期成積の向上,膵島分離成功率の向上,免疫抑制剤の副作用軽減などがあるが,近い将来さらに研究が進み標準治療となり,糖尿病治療の重要な位置を占めると考えられる.移植医療のさらなる成績向上とともに,ドナー不足解消のために再生医療,異種移植,免疫寛容などの研究が行われており,将来の臨床応用が期待される.
-
糖尿病対策と将来の根治・予防
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 627-632 (2015);
View Description
Hide Description
◎糖尿病は有病率が高く国民の健康と医療経済に大きな影響を与える疾患であり,効率的に制御するための対策が必要である.日本では医療法に基づく医療計画のほかに,国民健康21でのポピュレーションアプローチ,特定健診・特定健康指導でのハイリスクアプローチがとられている.研究面では戦略研究を含めた厚生労働科学研究費による研究開発振興が行われている.国立国際医療研究センターは平成19 年の「糖尿病等の生活習慣病対策の推進に関する検討会」中間とりまとめにおいて,糖尿病等生活習慣病対策の中核のひとつとなるべきとされており,糖尿病保健医療政策提言に向けた政策研究班を2014年度から立ち上げる予定である.そのほかに,平成17年(2005)より日本医師会,日本糖尿病学会,日本糖尿病協会など十数団体が共同して日本糖尿病対策推進会議を構成している.今後はそれぞれの取組みに関する評価・質改善を進めるとともに,一連の糖尿病対策をより整合性のとれた包括的なものとすることが重要であろう.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 633-638 (2015);
View Description
Hide Description
◎高脂肪食や運動不足による肥満に伴ってアディポネクチン(Ad)が低下することが,糖尿病増加の一因と考えられる.糖尿病治療への応用に向けて,まずAd の受容体AdipoR を同定した.AdipoR はAMPK やPPARを活性化するなど,カロリー制限や運動と同様に,脂肪毒性・酸化ストレスを改善して糖尿病を抑制するのみならず,寿命延長効果を発揮し,健康長寿に貢献できる可能性があることを見出した.開発したAd 受容体作動薬は,肥満による糖尿病を改善させ,筋持久力を増加させ,肥満糖尿病マウスの短くなっている寿命を延伸させることを示した.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 639-645 (2015);
View Description
Hide Description
◎“先制医療”とは,疾患の発症を“予知”し,疾患が発症する前の“未病”の段階から治療介入することで,疾患の発症・進展を防ぐ医療である.“オーダーメイド医療”とは,同一の疾患であっても患者の病態や成因,薬物反応性や副作用出現などの点から,個人にとってもっとも有効かつ安全な治療法を選択する医療である.いずれも基盤となるのは医学,とくにゲノム医学の進歩であり,次世代シークエンサーの出現と相まって,今後急速に発展すると期待される.現在はがんや副作用予知など限られた分野でしか応用されていないが,国民健康増進のうえでも医療費削減の点からも,糖尿病をはじめとした生活習慣病の分野での実現が期待される.一方で,個人ゲノム情報への正しい理解と社会的インフラの整備が急務となっている.
-
Source:
医学のあゆみ 252巻5号, 647-653 (2015);
View Description
Hide Description
◎再生医療には,幹細胞を目的とする細胞へ分化させ移植医療を行う方法と,患者自身の細胞を活性化および再生させる方法がある.糖尿病に対する再生医療ではインスリンを分泌する膵β細胞を標的としてさまざまなアプローチで研究が進んでいる.移植医療用のβ細胞の作製に関しては,ES 細胞およびiPS 細胞といった多能性幹細胞からの分化誘導が,著者らも含む多くのグループによって研究されてきた.近年,線維芽細胞から直接にβ細胞を作製する試みや胚盤胞補完法を用いて動物体内で膵組織そのものを作製する研究もなされている.一方,自己のβ細胞の再生研究では,遺伝子導入による外分泌細胞からβ細胞への分化転換,化合物および分泌蛋白質によるβ細胞の増幅,脱分化したβ細胞の化合物による再分化などが検討されている.本稿では,多能性幹細胞からのβ細胞への分化誘導研究について著者らの研究成果を含めた最新の知見を紹介し,今後の課題についても述べる.また,患者自身のβ細胞の再生についても,その研究戦略ごとに解説する.