Volume 252,
Issue 6,
2015
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【2月第1土曜特集】 機能性胃腸障害のすべて
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医学のあゆみ 252巻6号, 655-655 (2015);
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NERD と機能性胸やけ
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医学のあゆみ 252巻6号, 659-662 (2015);
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◎従来,煩わしい胸やけなどGERD症状があり,内視鏡的に粘膜傷害を認めない症例はNERDと定義されてきた.しかし,PPIの有効性や逆流機能検査の解析などから,NERDのheterogeneityが指摘され,逆流が関与せず胸やけ症状を呈する機能性胸やけとの鑑別が問題となってきた.現在,粘膜傷害を有さない胸やけ症状を訴える患者は,多チャネルインピーダンスpHモニタリングによる逆流機能評価により異常酸逆流を認めるものをNERD,異常酸逆流を認めないが,逆流と症状が相関する,あるいは高用量のPPIにより症状が改善するものを過敏食道,病的酸逆流を認めず,逆流と症状が相関せず,高用量のPPIにより症状が改善しないものは機能性胸やけ,と分類される.しかし,専門的な検査を必要とすることから,今後簡便なバイオマーカー探索が必須である.
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医学のあゆみ 252巻6号, 663-667 (2015);
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◎非びらん性胃食道逆流症(NERD)における酸逆流のメカニズム・酸上昇パターンは,これまで明らかになっていない.著者らは,NERD,健常人,軽症逆流性食道炎(RE)を対象として食前15分・食後3時間の食道内圧・pH モニタリング同時測定を行い,酸逆流のメカニズム,酸上昇パターンを検討した.結果,3 群ともに一過性LES 弛緩が酸逆流のメカニズムであることが明らかとなった.また,一過性LES 弛緩時に酸逆流を合併する頻度はLES口側2cmでは有意差を認めなかったが,LES口側7cmではNERDは軽症RE,健常人に比べ有意に高率であった.これよりNERDでは,逆流した胃酸が健常人や軽症RE に比べ口側に上昇しやすいことがわかった.NERD の病態は,酸逆流に加え,食道知覚過敏,食道運動異常,心理的要因など多要因が病態形成にかかわっていると考えられている.NERDでは食道粘膜知覚過敏が基本に存在し,加えて上方の食道へ逆流液が上昇しやすいために,胸やけ・逆流症状が発現しやすい状況であると思われる.
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医学のあゆみ 252巻6号, 669-674 (2015);
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◎機能性胸やけ(FH)は除外診断によってなされる症候群であり,現在RomeⅢ基準によって機能性消化管障害のひとつとして定義されている.しかし,このFHはこれまで胸やけ症状によりGERDのなかのびらんを認めない非びらん性胃食道逆流症(NERD)として包括的に扱われてきた経緯がある.現在では診断機器の進歩により,胃食道逆流を詳細に測定することが可能となった.すなわち,24時間食道インピーダンス・pH モニタリングによってpH4未満の酸,弱酸,非酸,気体逆流をすべて感知することが可能となり,逆流が関与するNERDと関与しないFH が区別できるようになった.また,FHは基線となるインピーダンスの低下や食道粘膜扁平上皮細胞間間隙開大を認めないなど,形態学的にもNERDとFHが区別されはじめている.このFHの病態はいぜん不明な点が多いが,圧や化学刺激に対する知覚過敏,中枢性過敏の関与が指摘されており,不眠,ストレス,不安などの心理的因子がこの食道知覚を変容させ症状発現に関与していると考えられている.
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医学のあゆみ 252巻6号, 675-679 (2015);
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◎RomeⅢでは病理組織学的基盤がはっきりしている運動異常を除き,食道酸曝露時間正常,症状と逆流関与なし,PPI試験反応不良を機能性胸やけ(Functional heartburn:FH)と位置づけている.しかし,日本での実地臨床においてはPPI抵抗性の非びらん性胃食道逆流症(non-erosive reflux disease:NERD)をFHとして取り扱う場合が多い.PPI抵抗性NERD患者90例中23例の食道運動障害を除いた67例に24時間食道内インピーダンス・pH モニタリングと各種問診を行ったところ,逆流関与群(S. I. ≧50%)49例とFH 群(S. I. <50%)18例に分けられた.両群間で性別,年齢,BMI,嗜好品,症状,QOL,神経症の頻度に有意差は認められなかったことから,実臨床においてはFHの確定診断やNERDとの鑑別診断は困難であり,厳密なFHの診断のためには食道機能検査が必要不可欠であると思われた.
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医学のあゆみ 252巻6号, 681-685 (2015);
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◎胃食道逆流症(GERD)は,「胃内容物の食道内逆流によって不快な症状あるいは合併症を起こした状態をさす」と定義されている.非びらん性逆流症(non-erosive reflux disease:NERD)は,GERDのうち逆流関連症状のあるもので,粘膜障害のないものを示す.治療は酸分泌抑制剤によって行われることが多いが,NERDは逆流性食道炎に比べ治療に反応しにくいという特徴がある.逆流性食道炎は酸分泌抑制薬が奏功するため,原因がはっきりした病態であるのに対して,NERDではより複雑な要因が絡み合って症状が起こっていると考えられる.PPI標準量の治療により症状の軽快しない患者には,病態の把握,鑑別疾患のための検査を行う必要がある.
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医学のあゆみ 252巻6号, 686-690 (2015);
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◎機能性胸やけとは機能性消化管障害のひとつであり,胸やけ症状が胃食道逆流に関連せず,組織病理学的に確認される食道運動障害や器質的原因も認めない疾患のことをさす.機能性胸やけの病態の基本は他の機能性消化管障害と重複する部分が多く,その治療方針は同様に考えればよい.すなわち,侵襲度の高い検査の繰返しや副作用の可能性の高い治療はできるかぎり避け,良好な患者-医師関係を構築していくことが重要である.機能性胸やけの薬物治療の対象となる病態は内臓知覚過敏と考えられ,これまでに三環系抗うつ薬,選択的セロトニン再取込み阻害薬などの薬剤が候補として考えられている.しかし,エビデンスレベルの高い治療法は確立されておらず,また保険診療で使用できる治療薬剤も存在していないため,現状では機能性胸やけの診断根拠を十分吟味したうえで患者に投薬の意義と副作用などを説明のうえ,処方する姿勢が重要である.
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機能性ディスペプシア
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医学のあゆみ 252巻6号, 693-696 (2015);
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◎従来,わが国では痛みやもたれなど症状を伴ういわゆる症候性胃炎も慢性胃炎として保険診療が行われていた.しかし,2013年にヘリコバクター・ピロリ感染胃炎や機能性ディスペプシア(FD)の保険病名が承認されたのに伴い,これまでの慢性胃炎はその病因に沿って分類されるようになってきた.すなわち,ピロリ菌感染による組織学的胃炎は器質的疾患と認識されたともいえる.現在の臨床診断現場では,FDは機能的疾患としては独立し,その区別が明確になったともいえる.しかし,組織学的胃炎とFDにはオーバーラップも認めており,除菌後にも症状が残存する症例を多く認める.今後もピロリ菌関連ディスペプシアなどの解明も含めて検討が必要である.
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医学のあゆみ 252巻6号, 697-702 (2015);
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◎機能性ディスペプシア(FD)とは,心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とした上腹部症状を呈し,その症状の原因となる器質的疾患がないにもかかわらず,慢性的に症状が続いている疾患である.このFDの病態としては,消化管運動異常や内臓知覚過敏,精神心理的因子,食事生活習慣,ヘリコバクターピロリ感染(H.pylori),酸分泌異常,消化管感染症後の残存炎症(post infectious FD),遺伝子異常などが報告されており,さまざまな因子が複雑に関係しながら病態を形成していると考えられている.そのなかで現在,消化管運動機能異常や内臓知覚過敏は病態のなかで直接的に症状発現とかかわる重要な因子として注目されている.一般的に消化管運動機能に関する評価は実地診療で行われているとはいいがたく,標準的な検査法も確立されていない.そこで本稿では,FDの重要な病態のひとつである消化管運動機能と検査法に関して概説する.
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医学のあゆみ 252巻6号, 703-710 (2015);
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◎機能性消化管疾患とは,消化管に粘膜傷害がないにもかかわらず,自覚症状が持続的あるいは間欠的に現れる慢性疾患である.粘膜傷害がないことから臨床的重篤感は少ないが,症状に対する治療・コントロールに難渋することをしばしば経験する.本特集で扱う非びらん性胃食道逆流症/機能性胸焼け,機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD),過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)の3疾患がその代表である.FDは2013年にわが国で保険病名として収載され,2014年には日本消化器病学会からIBSとともに診療ガイドラインが発刊された1).FDの病態生理には,胃酸分泌,消化管運動,遺伝子要因,精神神経的要因など,多因子が関与していることは周知であり,消化管知覚過敏はそのなかで重要視されている因子のひとつである2).しかし,消化管知覚過敏は日常臨床のなかで非侵襲的評価が困難であることから,病態生理としての関連性や意義づけが認識しづらく,その結果として治療薬さえままならないのが現状である.胃・十二指腸固有の生理機能である消化管運動や胃酸分泌について考慮し,これら物理的・化学的刺激に対する知覚過敏性について本稿で概説することにする.
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医学のあゆみ 252巻6号, 711-715 (2015);
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◎機能性ディスペプシア(FD)は,先天的要因と環境要因が複雑に絡み合い発症する.日本人のFDを遺伝子型からみると,心窩部痛症候群と食後愁訴症候群は受容した刺激をどのように感じ取るかの違いだけで,同一の背景を有していると思われ,一方でHelicobacter pylor(i HP)感染下のFDは非感染下の本来のFDとはまったく異なった背景を有していることがわかる.本来のFDでは,内臓痛覚を伝えやすい刺激伝導系が亢進した遺伝子型やストレス応答に反応しづらい遺伝子型が関与していると考えられ,刺激の量・質がなんであれ,それを感じやすく甘受し難いことがFDの発症に関与していると推定される.HP感染下のFDでは炎症の激しさに基づく侵害受容の攪乱や,epigenomicsな変化による遺伝子発現の変化が症状発現に関与している可能性がある.
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医学のあゆみ 252巻6号, 716-721 (2015);
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◎身体疾患のなかで,その発症や経過に心理社会的背景が密接に関与し,器質的あるいは機能的障害が認められる病態が心身症である.機能性ディスペプシア(FD)も心身症の側面をもち,その病態をとらえるには心理社会的側面に目を向ける必要がある.ストレスは,視床下部-下垂体-副腎皮質系や自律神経系,免疫系を介した脳腸相関により消化器症状を引き起こすことが知られている.また,虐待やトラウマが胃の知覚の異常や運動異常をきたすなど,遺伝や養育環境を含む生育歴やエピジェネティクスも重要な因子であることが報告されてきた.したがって,FD の診療は消化器症状のみに焦点を当てた対症的治療では不十分であり,心理社会的因子など患者の背景を十分に把握し,より上流にある原因に対してアプローチする,全人的かつ個別的医療を行うことが必要になる.
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医学のあゆみ 252巻6号, 722-726 (2015);
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◎機能性ディスペプシア(FD)は,器質的疾患を認めないにもかかわらず,胃・十二指腸領域由来と考えられる症状を呈する疾患である.胃に生息するmicrobiomeであるHelicobacter pylor(i H. pylori)除菌によるFD症状の改善効果が,地域差はあるものの報告されている.また,FDの病態生理と考えられている胃排出障害や体性知覚過敏とH. pylori 感染の関連も報告されている.H. pylori 除菌を施行した後,6~12 カ月経過しても症状が消失または改善している場合は,京都国際コンセンサス会議以降,H. pylori 関連dyspepsia(H. pyloriassociateddyspepsia:HpD)として,FD からH. pylori 関連dyspepsiaが分離される方向にある.急性胃腸炎の罹患を発症契機とする感染後FDとよばれる一群の存在も報告され,その発症機序として胃・十二指腸領域での顕微鏡的な微小炎症,さらには粘膜透過性の亢進の存在が示唆されている.飛躍的に進んでいるメタゲノム解析やメタボローム解析によって胃・十二指腸領域でもH. pyloriに続くあらたなmicrobiomeのFDの病態生理への関与が明らかになっていくことが期待される.
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医学のあゆみ 252巻6号, 727-733 (2015);
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◎機能性ディスペプシア(FD)とは慢性的な上腹部症状の原因となる器質的疾患を認めない場合に診断される症候群であり,現在のところ,確定診断に有効な診断指標は確立されていない.したがって,検査によって器質的疾患を除外していくことが確定診断へのプロセスとなる.鑑別すべき疾患としては,胃十二指腸潰瘍,胃癌,慢性膵炎,内分泌疾患,代謝性疾患など多岐にわたるが,一般に病歴聴取,理学的診察に加え,検体検査,上部消化管内視鏡検査を行い,症状の原因となる異常を認めない場合はFD として治療を開始することが多い.内視鏡で胃粘膜萎縮を認める際はHelicobacter pylori の感染診断も必要となる.診断時にすべての器質的疾患を除外することは困難であり,経過中に必要に応じて検査を追加する.2014年4月にわが国のFD 診療ガイドラインが刊行された.症状の評価および推移を評価する際には出雲スケールなどの自己記入式質問票が有用である.
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医学のあゆみ 252巻6号, 734-738 (2015);
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◎RomeⅢ診断基準では機能性ディスペプシア(FD)の亜分類として,心窩部痛症候群(EPS),食後苦痛症候群(PDS)が定義された.これは病態研究を進めるうえで,食事に関連する症状を区別することが重要であると考えられたからである.主訴別に治療薬を選択できれば,亜分類は診療に有用である.しかし,プロトンポンプ阻害薬(PPI)は心窩部灼熱感や潰瘍症状にもっとも効くという報告があるが,亜分類別の効果では差がみられていない.また,消化管運動機能改善薬(アコチアミド)はPDS例での効果は実証されたが,EPS例では検証されていない.FDは症状と病態が一対一対応ではなく,症状から病態を推測して薬剤選択を行うことは困難なのである.しかし,特効薬のない現状ではEPSには酸分泌抑制薬,PDSには消化管運動機能改善薬といった亜分類別の薬剤選択は合理的であると考えられる.
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医学のあゆみ 252巻6号, 739-744 (2015);
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◎機能性ディスペプシア(FD)は複雑な病態を有する疾患群であるので,FDの治療にはさまざまな薬物や治療法が試みられている.そのなかでも酸分泌抑制薬と消化管運動改善薬は第一選択薬として広く用いられてきている.FDはプラセボ効果の高い疾患であるが,プロトンポンプ阻害薬,ヒスタミン受容体拮抗薬,消化管運動改善薬はともにランダム化試験のメタ解析によってプラセボより有意に症状を改善することが示されている.これらの薬剤は,消化器病学会診療ガイドラインではFD の診断と治療のフローチャートでも初期治療の薬剤として用いられる.しかし,わが国の保険診療でFD治療薬として認可されているのは消化管運動改善薬のアコチアミドのみである.
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過敏性腸症候群
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医学のあゆみ 252巻6号, 747-752 (2015);
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◎過敏性腸症候群(IBS)は,「腹部の不快感または腹痛が,排便または便通の変化にともなって生じ,臨床像としては排便障害を呈する機能性消化管疾患のひとつである」と定義される(Rome Ⅲ).臨床研究の際には「腹痛あるいは腹部不快感が最近3カ月のなかの1カ月について,すくなくとも3日以上を占め,以下の2項目以上の特徴を示す.①排便によって改善する,②排便頻度の変化ではじまる,③便形状(外観)の変化ではじまる.」のRome Ⅲ診断基準を使用する.便形状の占める割合からIBSを便秘型,下痢型,混合型,分類不能型の4例に分類する.機能性便秘は排便困難,排便回数の低下,あるいは残便感が持続し,かつ,IBSの診断基準を満たさない機能性腸疾患である.一方,機能性下痢は軟便(泥状便)や水様便を特徴とする持続的または反復性の症候群である.腹痛あるいは腹部不快感がないことが機能性便秘・下痢の診断基準に含まれる.実際,IBS とのオーバーラップ,自然経過での各疾患間の移行もあるが,その病因はこれからの研究課題といえる.
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医学のあゆみ 252巻6号, 753-758 (2015);
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◎過敏性腸症候群は,腹痛と便通異常が関連し合いながら慢性に持続し,かつ,通常の臨床検査では愁訴の原因となる器質的疾患を認めないという概念の症候群である.その病態生理のなかでよく解明されて来たのが,型別の病態,粘膜炎症,粘膜透過性亢進,腸内細菌,食物,遺伝,心理社会的ストレス,神経伝達物質,内分泌,心理的異常である.このように進んできた病態理解をもとに,新規治療法が開発されてきている.脳腸相関を軸に生体の恒常性を把握することにより,過敏性腸症候群の病態はより正確に理解できよう.過敏性腸症候群の病態が今後さらに解明されることが期待される.
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医学のあゆみ 252巻6号, 759-761 (2015);
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◎わが国においても過敏性腸症候群のガイドラインが発刊され,疾患に対する理解が深まりつつある.確定診断には器質的疾患の除外が必要であるが,個々の症例に応じアラームサインを参考にしつつ診療のなかで検査を行っていく必要がある.
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医学のあゆみ 252巻6号, 762-766 (2015);
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◎過敏性腸症候群(IBS)は,腹痛や腹部不快とともに排便頻度や便性状の変化を伴う機能性消化管障害のひとつである.IBSには,下痢型,便秘型,混合型の亜分類が存在し,いずれにも属さない場合は分類不能型となる.IBSのおもな病態はストレスによる遠心性の腸管刺激と腸管知覚過敏による求心性の中枢刺激が絡む“脳腸相関”によって形成される.IBSの腸管の運動異常は脳腸相関の悪循環に依存するが,下痢や便秘などの優勢症状の出現を単純な病態で説明することは難しい.一方,腸管感染症後に発症するpost-infectious IBS(PIIBS)では下痢型が多く,また,下痢型ではPI-IBSの頻度が高いことが報告されている.PI-IBS発症には腸管の軽微な炎症持続や免疫異常が関連することから,これらの病態が下痢を優勢症状として誘発することが想定される.しかし,IBSの便性状や排便頻度にはさまざまな要因が絡んでおり,より詳細な病態解明がまたれる.
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医学のあゆみ 252巻6号, 767-772 (2015);
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◎過敏性腸症候群(IBS)は,慢性的な腹痛,腹部不快感と便通異常を主症状とする機能性消化管障害のひとつである.IBSは日常臨床できわめて遭遇する機会の多い疾患で,これまでに多くの治療法が提唱されているものの,確実な治療法が確立しているとはいい難いのが現状である.わが国では日本消化器病学会よりあらたにIBSの診療ガイドラインが発刊された.ガイドラインでは治療のフローチャートを,患者の重症度に応じて第1段階から第3段階まで3段階に分け,プライマリ・ケア医から専門医まで対応できるよう作成されている.IBSの治療にあたってはまず第1 に良好な患者-医師関係を確立することが大切である.そのうえで,ガイドラインに従って薬物療法をはじめ治療手順を系統的に理解しておくことが重要である.