医学のあゆみ
Volume 252, Issue 13, 2015
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あゆみ がんサバイバーシップ―がんサバイバーのいきるを支える
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がんサバイバーの身体の痛みを支える
252巻13号(2015);View Description Hide Description◎持続する慢性疼痛はQOL を低下させる辛い症状である.がんサバイバーでは手術・化学療法・放射線照射などの抗がん治療が,その目的が完治であったにせよ緩和的であったにせよ,慢性疼痛の原因になることが多い.ステロイド,造血細胞移植などの抗がん治療以外も痛みの原因になりうる.患者は遠慮して痛みを伝えないことが多いので,繰り返してアセスメントする.そのアプローチの特徴は,身体要因への対処のほか心理社会的要因への対処を組み合わせて行うことである.また,痛みの鑑別診断で最重要なものは腫瘍再発であり,再発の唯一のサインが痛みのこともあるため,精査・治療も同時に行っていかなければいけないことである.痛みの性状を適切に把握し,原発巣・転移巣への抗がん治療と並行して,鎮痛薬,鎮痛補助薬,画像下治療などを適宜選択していく. -
がんサバイバーの心の痛みを支える
252巻13号(2015);View Description Hide Description◎がんの標準的治療が終了したサバイバーでもネガティブ思考に陥ることは多い.それが高じるとうつ病,不安障害,睡眠障害などに発展することもある.がんサバイバーへの具体的な精神的援助としてはリラクセーション,認知療法,ブレイクスルー思考がある.ブレイクスルー思考とは,ポジティブでもネガティブでもない,健全な思考方法の提案である.さらに,ソーシャルサポートやグループの相互支援を期待して,グループ療法を施行したり,患者会を紹介することもある.がんになってから悪かったことと,逆に良かったことをリストアップすると,意外にも多くのサバイバーはがんになって良かったことのほうが多くなっていることに気づく.また,家族へのケアも大切である. -
がん患者の家族の苦悩とその支援
252巻13号(2015);View Description Hide Description◎がん患者の家族は,“第2 の患者”といわれるほど精神的苦悩を抱えている.医療者は家族への労いの言葉がけ,ストレスマネジメントなどの心理教育,相談窓口の案内など,家族にも配慮した関わりが求められる.とくに若年患者の家族は,親,配偶者だけでなく,患者の子どもも苦悩を抱えており,支援が必要である.子どもは親の異変に気づいており,その原因を自分に求める傾向がある.子どもの不安を軽減するためには,病気について説明し,家族内でオープンなコミュニケーションをとることが望ましい.状況によっては医療者が子どもに病気や治療について説明することも有効である.大切な人ががんに罹患することは家族にとって大きな衝撃であるが,その体験を通じて家族全体が成長し,絆を深めることにもなりうる.医療者は患者だけでなく家族にも心を配り,困難を乗り越えていけるよう支援していくこと望まれる. -
がんサバイバーの仕事を支える
252巻13号(2015);View Description Hide Description◎生涯のなかで日本人の2 人に1 人が“がん”になる時代となり,うち3 人に1 人は就労可能な年齢(15~64 歳)で罹患している1).早期発見や治療法の進歩により5 年生存率は全がん平均で58.6%1)まで向上している.また,治療は外来へ移行し,通院しながら仕事を続けることができるようになってきた.一方,疾患や治療に伴う体力の低下や後遺症,副作用などの症状は労働能力やQOL に影響することから,体調や治療状況に応じた柔軟な勤務ができず就労を犠牲せざるをえない状況にある.医療従事者の就労に関する情報や知識不足,雇用者側の治療に関する情報や知識不足,社会のがんに対するイメージなど,就労を困難とする課題は大きい.“働くこと”の意義は“生きること”を支える意味においても重要となる.“がんと就労”に着目した取組みは,医療者と就労関係従事者とがんサバイバーの協働での支援が必要である.実際の取組み“就労リング”の紹介などから,就労支援を考える. -
がんリハビリテーション―がんサバイバーの身体機能を支える
252巻13号(2015);View Description Hide Description◎悪性腫瘍(以下,がん)の進行あるいは治療の過程で,さまざまな機能障害が生じ,それらによって移乗動作などの起居動作や歩行や日常生活活動に制限を生じ,生活の質(QOL)の低下をきたしてしまう.これらの問題に対して症状の緩和や二次的障害を予防し,機能や生活能力の維持・改善を目的としてリハビリテーションを行うことは重要である.がんリハビリテーションの対象となる障害は,①がんそのものによるものと,②その治療過程において生じた障害,とに分けられる.がんリハビリテーションは,予防や機能回復から余命の限られたがん患者の機能の維持,緩和まで,あらゆる病期において役割を担う.リハビリテーションの実施にあたっては,原疾患の進行に伴う機能障害の増悪,精神心理面,二次的障害,告知,生命予後などに特別の配慮が必要である.原発巣・治療目的・病期により多彩な障害を障害をきたしうるので,がんの進行度や治療計画に応じて個々のニーズに応じたアプローチをしていく必要がある. -
がんサバイバーの経済的痛みを支える
252巻13号(2015);View Description Hide Description◎がん患者における経済的な負担は医療費負担だけみると平均24 万円/yr であり,金額的には大きすぎるものではない.しかし,働き世代のがん患者においては収入が減少するため,節約するなどの努力が必要で,さらに先がみえない不安は大きい.また,家計が圧迫されながらも自宅や生命保険などの資産をもっている場合などは,公的な支援を求めることも難しい状況にある.一方,利用できる制度の窓口はバラバラで情報を得にくく,さらに申請主義であることから,患者自身の主体的な行動が必要となる.このように患者の経済的痛みには,医療費負担だけではなく支援制度も影響している.そのため情報検索システムを構築するなどの方法を取っているものの,さらなる根本的な問題解決に至るためには,専門職や金融機関などを巻き込んだ広義のチーム医療体制づくりが必要であるといえる. -
薬物治療を受けるがん患者の外見の変化を支える
252巻13号(2015);View Description Hide Description◎抗がん剤治療を受けているがん患者は,脱毛や皮膚の変色などの薬剤の副作用によって外見という“見た目”の変化を経験する.外見は個人と社会との接点になるものであり,外見変化の悩みは患者のこれまでの社会生活に支障をきたすことがある.がん治療が入院治療から外来治療へと日常生活の一部となってきたこともあり,治療中の外見ケアは重要である.医療者は,疾患のステージや患者の気持ちの理解をもとに,その患者に必要なタイミングで,外見ケアについての情報提供ができる立場にある.抗がん剤治療終了後も外来通院時などに患者に声をかけて状況を聞き,困っている症状への解決策を,美容専門家のサポートを得ながら提供していくことが,治療と同様に当たり前のケアになっていくように心がけていきたい. -
がんサバイバーの仲間を支える
252巻13号(2015);View Description Hide Description◎精巣腫瘍はレアがんで,働き世代のがんである.さらに,生殖機能の低下という大きなリスクを伴うがんである.社会的な影響があるのにもかかわらず,今日まで大きく取りあげられなかったのは患者自身が孤独に陥っているからである.がん患者は,①肉体的苦痛,②精神的苦痛,③社会的苦痛,④経済的苦痛,を抱えている.これら問題は医師が解決できない部分,家族に申し訳なくて相談できない部分がたくさんあり,仲間にも遠慮して話せない状況となっている.これを打開すべく,拠点病院では7 割ががんサロンを開催している.同じ体験者に話を聞いてもらうピアサポートにより,悩み・不安を共有することが軽減や解決できたり,治療負担軽減の情報や,前向きに治療に取り組む勇気をもらうことができる.これらピアサポートは聴くことがメインであるが,今後は就労支援など解決策を提示するような力強い展開が望まれている.
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連載
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- iPS 細胞研究最前線―疾患モデルから臓器再生まで 19
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ヒトiPS細胞を用いた血小板・赤血球製剤の開発
252巻13号(2015);View Description Hide Description◎試験管内で無限に増殖可能であるヒト多能性幹細胞は,再生医療における細胞療法の有益なソースとして期待されている.このなかでの大きな課題は,安全性はもとより必要な細胞数をいかに稼ぐかにある.著者らはヒトES/iPS 細胞から得られた血液前駆細胞にc-MYC/BMI1/BCLXL の3 つの遺伝子を一定の法則に基づいて強制発現することで,巨核球という血小板産生細胞をいち早く不死化細胞株として量産化する技術開発を開発した.同様にヒトES/iPS 細胞由来血液前駆細胞から不死化赤芽球株の作製技術の開発にも成功している.いずれの細胞株も外来性の遺伝子の強制発現をon/off させることで,容易に増殖あるいは成熟の細胞運命機構を制御可能であることを実証した.著者らが提案している細胞不死化技術によって実現できる大量輸血製剤供給のための“マスターセルストック”システムは,産業化に必須なコストダウンにも貢献する.
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フォーラム
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- 続・逆システム学の窓 8
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病原微生物の除去でがんはなくなるか(3)――利害関係の不透明なキャンペーンが不信感を生んだ子宮頸がんワクチン問題
252巻13号(2015);View Description Hide Description・1983 年にツール・ハウゼンにより子宮頸がんの細胞のなかからパピローマウイルスのDNA が同定されたことを契機に,パピローマウイルス感染を予防してがんを防ぐ試みが広がっている.世界的な性行動の若年化により,従来60歳代がピークとされた子宮頸がんはウイルスの蔓延とともに一気に30 歳代がピークに変わり,その予防は世界でも緊急の課題とみられるに至った.・わが国での12~16 歳の女子への16,18 型のサブタイプへの全国的なワクチン接種の試みは,重篤な副作用の報告とともに頓挫し,昨年は接種が8,000 例程度と9 割以上の減少をみた.外資系企業主導によるワクチンキャンペーンがかえって利益誘導の疑いを生み反発をよんだ.パピローマウイルス感染者が広範にわたるなかで,がんになる頻度は限られていることから,頸がん健診をうければいいのではという意見も聞かれた.・パピローマウイルスは感染後,頸部のSCJ 細胞という扁平な細胞と円柱状の細胞の境目の特殊な幹細胞のDNA に潜り込んで潜在的な感染となり,免疫を逃れる.細胞の分化につれ抗がん遺伝子であるP53 を抑制するE6 蛋白質,Rbを抑制するE7 蛋白質がつくられる増殖性の変化が起こる.組織診でCIN1,2 とよばれる頸部上皮内新生物になるが,この段階では進展することも消失することもある.・組織診で,高度異型またはCIN3 と評価されると前がん状態と考えられ手術適応になる.頸部の細胞を内視鏡で円錐切除するのが標準的な治療法であるが,若年者では早産になりやすくなる.高齢者では子宮体部のほうへ入り込んでいることもあり,子宮全摘が薦められることも多い.頸がんのゲノム解析からはさまざまなキナーゼなどの変異やウイルスDNA の挿入があり,治療標的を絞りにくい.前回までのピロリ菌やC 型肝炎ウイルス同様,幹細胞の増殖が増えるなかで,ランダムな変異が積み重なってがん化している可能性が強く,治療薬開発は難しい.・今日,小児に対するワクチン接種数は増加の一途をたどり,パピローマウイルスへのワクチンで17 種目である.母親は出産後に,煩雑なワクチン接種スケジュールを管理するために,スマホアプリをダウンロードするのが恒例となっているといい,ワクチンのビジネス化が懸念されている.パターナリズムでない,当事者の立場にたったワクチン問題への緻密な議論が求められる. -
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TOPICS
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- 放射線医学
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- 腎臓内科学
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- 環境衛生
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