医学のあゆみ
Volume 253, Issue 1, 2015
Volumes & issues:
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【4月第1土曜特集】 感染症最前線とグローバル・ヘルス
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- いま注目のウイルス感染症
- 【エボラ出血熱とマールブルグ病】
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フィロウイルスのウイルス学
253巻1号(2015);View Description Hide Description◎フィロウイルスは人獣共通感染症を引き起こす他の多くのウイルス同様,モノネガウイルス目のRNA ウイルスであり,現在マールブルグウイルス属,エボラウイルス属およびキュエヴァウイルス属に分けられている.そのなかで,マールブルグおよびエボラウイルスはヒトを含む霊長類に重篤な出血熱を引き起こす病原体として知られている.フィロウイルスの病原性発現には,宿主の免疫応答阻害・異常ならびに血液凝固制御系異常・血管内皮細胞機能障害が深くかかわっていると考えられている.一方,フィロウイルスによる感染症の疫学(自然宿主,分布域およびヒトへの伝播経路など)にはいぜんとして不明な点が多い.しかし近年,コウモリからのマールブルグウイルスの分離,ヨーロッパにおける新規フィロウイルスの発見など,フィロウイルスの生態に関する新しい知見が得られてきた.本稿では,フィロウイルスの性状,病原性および生態などを概説する. -
エボラ出血熱―西アフリカにおける過去最大の流行
253巻1号(2015);View Description Hide Description◎2013年末にギニア南部の森林地帯からはじまったエボラ出血熱の流行は,リベリア,シエラレオネに拡大し,過去最大の規模となっている.2014年7月ごろから都市部での流行を背景に患者が急増し,8月には世界保健機関が国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態を宣言した.その後,国際支援が強化されたこともあり,2015年2月現在,患者は減少してきている.患者の多くは消化器症状がめだち,出血症状は少なかった.現地の治療施設では支持療法の最適化が試みられているが,受診の遅れや医療資源の不足などから致死率はいぜんとして高い(40~70%)のが現状である.医療従事者の感染も多数報告され,エボラ出血熱以外の医療にも大きな影響を与えている.なお,欧米では現地で感染した支援者に対する治療経験が蓄積されている.流行の制圧までにはまだ課題があり,今後も現地への支援が必要である. -
疫学と感染症対策のあり方
253巻1号(2015);View Description Hide Description◎2014年に西アフリカのギニア,リベリア,シエラレオネにおいて大規模なエボラウイルス病(EVD)の流行が発生し,2015年1月現在でも流行が続いている.WHO による2015 年1月14日付の発表によると患者数は2万人を超え,死者は8 千人に上っている.1976 年にアフリカ中央部に位置するスーダンおよびコンゴ民主共和国でEVD 流行がはじめて確認されてから約40 年が経とうとしているが,この流行の規模はかつてない規模の流行である.その流行の背景には,貧困に基づく知識不足,社会基盤の脆弱性,内戦を経験したことによる社会の混乱などのある.エボラウイルス病やマールブルグ病の原因ウイルス(フィロウイルス)の宿主はオオコウモリと考えられ,これらは動物由来感染症である.ヒトからヒトへの感染症は接触感染であり,基本的に感染拡大しにくい感染症である.これらの感染症をなくすることはできないが,流行発生頻度を少なくさせ,流行が発生したとしてもその規模を小さくすることは可能である. -
急がれる創薬とワクチン開発
253巻1号(2015);View Description Hide Description◎エボラ出血熱やマールブルグ病に対する承認薬や認可ワクチンは現時点で存在しない.現在,西アフリカでこれまでに例をみない大きな規模でエボラ出血熱のアウトブレイクが発生しており,その終息には効果的なワクチンや抗ウイルス薬の現地導入が必要であるという意見も多く,WHO は未承認のワクチンや抗ウイルス薬の使用も提案している.抗エボラ薬としてはわが国で開発されたファビピラビルや抗体薬であるZMapp が動物実験で効果が確認されており,実際に西アフリカで感染した一部の医療従事者等への投与も報告されている.また,ワクチン開発に関してもアデノウイルスや水疱性口炎ウイルスをベクターとしたワクチンはサルを使った実験で有効性が報告されており,現在臨床試験が急いで展開されている.このような動きを受けて年内には,複数の抗エボラ薬,エボラワクチンが承認されるという期待が高まっている. -
クリミア・コンゴ出血熱―治療法,予防法,診断法の展望
253巻1号(2015);View Description Hide Description◎クリミア・コンゴ出血熱(CCHF)は一類感染症に指定される感染症であり,その病原体であるCCHF ウイルスはバイオセーフティレベル(BSL)4 施設での取扱いが求められている.CCHF は人獣共通感染症であり,ダニと哺乳類がウイルスの自然界での宿主となっている.これらのダニや動物から人に感染することで,人に重篤な出血熱を引き起こすとして問題となっている.国内での発生はこれまでなく,輸入感染症として注視されている.世界的には,医学的に重要なダニ媒介性疾患では一番,アルボウイルスとしてもデング熱ウイルスについで二番目の分布域の広さであり,症例数も増加傾向にある.CCHF は他の出血熱ウイルス感染症と同様にモデル動物がないことなどで,治療薬やワクチンの確立がなされていなかった.近年,遺伝子欠損マウスなどの利用で治療法,予防法の効果が検討されてきており,効果的な治療法の開発が期待されている.また,あらたな技術を用いた診断法,予防法も検討されている. -
アフリカ野生齧歯類動物およびコウモリの保有する潜在的人獣共通感染症病原体
253巻1号(2015);View Description Hide Description◎アフリカ大陸において発生しているエボラウイルス感染症,ラッサ熱,クリミア・コンゴ出血熱などの新興・再興感染症は,おもに齧歯類動物やコウモリなどをはじめとする野生動物に保有されているウイルスが直接あるいはダニなどのベクターに媒介されてヒトへと感染する人獣共通感染症である.人獣共通感染症病原体の分布を明らかにするため,著者らはアフリカのザンビア共和国で野外疫学調査を実施し,さまざまな齧歯類動物からラッサ熱の病原体であるラッサウイルスに近縁な新規アレナウイルスを発見している.また,野生コウモリからクリミア・コンゴ出血熱ウイルスと近縁の新規ナイロウイルスを検出し,単離した同ウイルスを用いて世界初となるマウスにおけるナイロウイルス出血熱感染実験モデルを開発することに成功した.現状ではウイルス性出血熱に対する予防法および薬剤などの効果的な治療法がないことから,病原体の分布を明らかにして発生に備えるだけでなく,予防法および治療法の基礎,開発,臨床研究を推進することが重要である. -
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)
253巻1号(2015);View Description Hide Description◎2009年の3月から7月にかけて,中国の湖北省や河南省で原因不明の致死率30%に達する重篤な急性感染症が流行した.この新興感染症は高熱,消化器症状,血小板減少,リンパ球減少などの特徴的な症状から,SFTS(重症熱性血小板減少症候群)と命名された.当初,臨床症状などから顆粒球アナプラズマ症が疑われたが否定され,2011年に新興ブニヤウイルスが病原として同定された.SFTS はマダニにより媒介される新興ウイルス感染症で,中国では2011~2014 年の確定患者数は3,500名を超え致死率は約10%である.2013年に日本や韓国でもSFTS 患者が確認され,感染症法では4類感染症に指定された.日本では西日本に集中して患者が発生し,これまでに100名以上のSFTS 患者が報告されている.SFTS ウイルスはタカサゴキララマダニやフタトゲチマダニにより媒介されると考えられ,これらのマダニの活動期に一致して患者が発生している.野生動物などの増加によってマダニと動物でのSFTSウイルスの感染環がヒトの生活圏とより多く重なるようになり,感染リスクが上昇してきたと思われる.現時点ではSFTS に特異的治療法はなく,有効なワクチンもない.医療従事者は適切な感染防止作を行い,とくに患者の血液,体液との接触に注意する必要がある. -
SARSとMERS
253巻1号(2015);View Description Hide Description◎コロナウイルスはこれまでヒトにおいては主として普通感冒の病原体として認識されてきたが,近年重篤な感染症を引き起こす新型のウイルスが出現している.その第1 は重症急性呼吸器症候群を発症するSARSコロナウイルスである.本疾患は2002年,中国で最初の症例がみられ,半年ほどの間世界で流行した.比較的感染力は強く,院内感染事例も多く報告されたが,感染対策などにより終息した.第2は中東呼吸器症候群をひきおこすMERS コロナウイルスである.本疾患は2012年,アラビア半島で最初の症例が認められた.本ウイルスは本来コウモリやラクダが保有しており,現時点でヒト‒ヒト感染の効率は高くないと考えられる.しかし,2015年2月時点で流行は終息しておらず,厳重な観察と警戒が必要である.いずれの感染症も現時点では有効な治療薬やワクチンがなく,感染対策が重要である. -
ニパウイルスとヘンドラウイルス感染症
253巻1号(2015);View Description Hide Description◎近年いくつものエマージングウイルス感染症の出現とその流行が起こっている.それらのなかには既知のウイルスの変異株や新株によって起こったものもあるが,これまで知られていなかった新しいウイルスにより引き起こされたものもある.ニパウイルス,ヘンドラウイルスはいずれも1990年代半ば以降にはじめて出現したウイルスで,オオコウモリから馬あるいはブタを介してヒトに致死性感染症を起こす原因ウイルスとして発見された.自然宿主であるオオコウモリの生息域は世界的にみて非常に広く,現在でも毎年のように流行が起きている.本稿ではニパウイルスおよびヘンドラウイルスの出現の経緯,動物やヒトにおける病態,最近の発生状況,研究の進展状況について概説する. -
ハンタウイルス肺症候群―その発見から今日まで
253巻1号(2015);View Description Hide Description◎ハンタウイルス肺症候群(HPS)は,齧歯類を自然宿主とし南北アメリカ大陸で流行がみられる人獣共通感染症である.潜伏期はおよそ2~3 週間,インフルンザ様の前駆症状の後急速に進行し,重症例では頻呼吸,肺水腫,胸水貯留・呼吸不全・心機能障害・ショックに陥る.1993 年に北アメリカで報告された当初,死亡率は65%とたいへん高かったが,現在ではおよそ38%といわれている.現在,販売されているワクチンおよび抗ウイルス薬はないため,死亡率の低下は対症療法が確立されたことによる.マウス,ハムスターを用いた実験感染モデルも報告されており,これらを用いた,ワクチン,抗ウイルス薬,病原性発現機構の解明にも取り組まれている.本稿では,HPS の疫学,診断法,治療,動物モデルと病原性について概説する. -
デング熱
253巻1号(2015);View Description Hide Description◎デング熱はヤブカ(ネッタイシマカ,ヒトスジシマカ)により媒介されるウイルス感染症である.ウイルスの生活環はヒト-蚊-ヒトであり,日本脳炎のブタやウエストナイルウイルスの鳥のような増幅動物は存在しない.デングウイルスは日本脳炎ウイルスや黄熱ウイルスの仲間で,フラビウイルス科フラビウイルス属に分類されるRNA ウイルスである.デングウイルスには1~4 型の4 つの血清型があり,同じ血清型に対しては終生免疫が得られるが,他の型に対しては感染防御能は低い.デングという名前の語源はスペイン語のdenguero(英語のdandy)に由来するという説がよく取りあげられる.デング熱患者の歩く姿がその激しい背部痛や関節痛のため,あたかも気取って歩く姿に似ているからというものである.デング熱は突然の高熱で発症し,その症状は発熱・発疹・痛みが3 主徴である.発疹が出る場合は解熱傾向とともに出現することが多く,骨関節痛・筋肉痛など,その痛みはかなり激しい. -
チクングニア熱
253巻1号(2015);View Description Hide Description◎チクングニア熱は,蚊媒介性ウイルスであるチクングニアウイルスにより引き起こされる発疹性熱性疾患で,重度の関節痛を特徴的な症状とする.1950年代にその存在が認識されたころは熱帯~亜熱帯地域に生息するネッタイシマカにより媒介され,アフリカ,アジアの風土病として考えられていた.しかし,2000年ごろからウイルス変異によるヒトスジシマカへの増殖適応が起こり,さらに地球温暖化による蚊の生息地域の変化,グローバル化における旅行者による輸入感染例の増加により再興感染症として欧米諸国を含む世界的流行が起こっている.その疫学的背景,急性期の臨床症状がデングウイルス感染症と類似するために,両疾患の鑑別は難しく,チクングニアウイルスの正確な流行を把握するためには正しい迅速診断方法の確立が求められている.また,重度の関節炎が慢性的に続くことから患者の精神的苦痛,経済的被害が大きいが,その慢性関節痛の病原機序はいまだ不明である.そのため慢性患者におけるウイルス要因,免疫要因からの病原性解明研究が必要であり,それに基づいた治療方法の確立が大きな課題となっている. -
世界規模で再興するエンテロウイルス68
253巻1号(2015);View Description Hide Description◎エンテロウイルス68(EV68)は近年までまれにしか検出されてこなかったが,2000 年代後半以降,世界各国で検出数が急増した.EV68 検出はもっぱら急性呼吸器感染症の患者から報告されており,その重症度は軽症な上気道感染症から重症な下気道感染症までさまざまであった.EV68 感染が,重症な下気道疾患の発症により関与が深いとする研究結果が複数報告されたが,重症例の発症率に関しては慎重な評価が必要であると考えられる.また近年,EV68 による呼吸器感染後に中枢神経疾患を発症する場合があることが報告されており,中枢神経疾患の発症率についても調査が必要である.EV68 のウイルス学的性質に関しては酸抵抗性・受容体結合性・抗原性など近年解析が進んだが,感染時の免疫応答や下気道疾患・中枢神経疾患の発症機序などいまだ明らかとなっていない点も多い.今後,EV68 による呼吸器感染の動物モデルが確立され,その病原性についてさらなる解析が進展することが望まれる. -
待望される高度安全実験施設BSL-4
253巻1号(2015);View Description Hide Description◎近年,既知または未知の致死性の感染症が流行し,世界中に広がるなど,国際社会全体に大きな打撃を与えている.それらに対する迅速な診断や根本的な対処法の開発研究,さらに緊急事態に対応できる人材の育成のためには,危険な病原体を安全に扱うことのできる高度な設備を備えた実験室が必須である.その最高度安全実験施設がBSL-4施設である.新興再興感染症のあいつぐ出現や,バイオテロの危険性の高まりから各国で急速にBSL-4施設が建設され,すでに40以上の施設が稼働している.その中でわが国は稼働するBSL-4施設をもたない唯一の先進国である.感染症の侵入は水際作戦では防げず,他国の施設への依存も常時担保されるものではない.自国の安全保障のためにも,また,先進諸国の一員として人類の生命を救うための感染症との闘いに参加するためにも,BSL-4施設を整備することは喫緊の課題である. - 三大感染症
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HIV感染症制圧に向けて
253巻1号(2015);View Description Hide Description◎世界のHIV感染者数は増加が続き,日本では2013年の新規報告件数は過去最高であった.慢性持続感染を特徴とするHIV感染症の制圧にはグローバルな視点での感染拡大抑制に向けた取組みが必要であり,予防活動および早期診断・治療に加え,ワクチン開発が重要課題である.おもに抗体誘導ワクチンおよびT 細胞誘導ワクチンの開発に向けての研究が進展している.一方,HIV感染者においては,抗HIV薬治療によりAIDS発症抑制が可能となったものの,現在の治療では治癒には至らず,ほぼ一生涯の投薬治療が必要となる.近年は骨粗鬆症,心血管障害,脳認知障害などの促進も問題視されている.これらの問題解決に向け,HIV感染者の治療法向上をめざし,とくに治癒(cure)に向けた研究が精力的に進められている. -
マラリアとグローバル・ヘルス
253巻1号(2015);View Description Hide Description◎1950年代のマラリア撲滅計画を失敗に導き,その流行を地球規模で再興(re-emerge)させた“きっかけ”として,病原体(マラリア原虫)とベクター(ハマダラカ)の生物学的な要因(薬剤耐性,殺虫剤耐性)のほか,ヒトを取り巻く社会経済学的な要因も特筆しなければならない.大規模な開発,人口移動,地球の温暖化,自然災害,内乱・戦争などが,マラリアの流行状況を一変させることがあった.病原体/ベクター/ヒトの微妙なバランスを崩し,マラリアの流行を増大させる方向に生態系を動かしているのは,ヒト側のファクターであることが多い.そして近年,1992 年のマラリアサミット,1997 年の橋本イニシアチブ,1998 年のロールバックマラリア,2000 年の沖縄感染症イニシアチブ,2002 年のグローバルファンド,そしてpost-2015 開発目標に向けたユニバーサル・ヘルス・カバレッジの提唱,わが国はマラリアのグローバル・ヘルスのマイルストーンをつぎつぎと打ち立てている. -
結核研究の新しい潮流―その制圧に向けて
253巻1号(2015);View Description Hide Description◎わが国はいまだに結核の中蔓延国である.年間発病者の半数以上は70 歳以上であり,潜在性結核が加齢に伴い再燃し,発病することがおもな理由と考えられている.一方,昨今,わが国でみられる20 歳代の結核についてはアジア諸国から来日後の発病者が半数近くを占めるようになっている.アジア諸国では治療歴のない新規の患者でも25 人に1 人は多剤耐性結核であり,今後,輸入感染症としての薬剤耐性結核に十分対応していかなければならない.とくにアジア諸国では北京型株とよばれる比較的新しい系統の結核菌株が蔓延しており,その発病率,感染伝播力の高さが注目される.著者らは,感染症研究国際ネットワーク推進プログラムの支援を受けてベトナムの医療施設と共同で,この問題に取り組んでいる.ここ数年の技術革新により結核菌のゲノムに関する情報が著しく増加しており,環境,宿主にかかわる背景因子を十分考慮しながら菌の生物学特性を知る包括的な研究手法が新規治療法や予防法の開発にも応用される時期にさしかかっている. - 顧みられない感染症(NTD)としての寄生虫疾患
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シャーガス病
253巻1号(2015);View Description Hide Description◎シャーガス病は病原体のクルーズトリパノソーマが引き起こす原虫感染症である.中南米に広く分布する吸血昆虫サシガメが媒介するほか,輸血感染や母子感染,さらに近年ではフレッシュジュースを介した集団感染が問題となっている.病態は多様で,感染後数週で発症する急性期型と数年~数十年後に発症する慢性期型が存在する.クルーズトリパノソーマは細胞内寄生性で,とくに筋組織に好んで侵入し組織を破壊する.心臓(心筋)はもっとも影響を受ける臓器で,急性期と慢性期のどちらにおいても心筋組織が破壊されることによって起こる心筋炎が致死的となる.治療薬は急性期には有効である一方,慢性期に有効な治療薬は存在せず,強い副作用を呈することから,新規治療薬の開発が強く望まれている.わが国には多くの中南米出身者が暮らしており,渡航者感染症としてだけでなく,日本に住む感染者の実体把握と心身両面のケアが必要である. -
アフリカ睡眠病の疫学
253巻1号(2015);View Description Hide Description◎アフリカ睡眠病は,サハラ砂漠以南のアフリカで風土病としておそれられているヒトの原虫感染症である.原因となるトリパノソーマは慢性睡眠病を引き起こすTrypanosoma brucei gambiense(ガンビアトリパノソーマ)と急性睡眠病を引き起こすT. b. rhodesiense(ローデシアトリパノソーマ)の2 種のみで,前者は西~中央アフリカ諸国,後者は東アフリカ諸国に分布している.ザンビア共和国の北東部においてトリパノソーマの感染状況調査を実施した結果,ウシやイボイノシシがローデシアトリパノソーマの待機宿主となっていることが明らかとなった.加えて調査地付近に生息しているツェツェバエがヒトをおもな吸血対象にしており,それらのなかにはローデシアトリパノソーマに感染しているツェツェバエが存在していることも明らかにした.事態はきわめて深刻な状況と考えられ,精度の高い疫学調査やツェツェバエの駆除など,トリパノソーマ対策を講じることが必要である. -
内臓型リーシュマニア症
253巻1号(2015);View Description Hide Description◎内臓型リーシュマニア症はNTDs(neglected tropical diseases)の代表的な熱帯病で,サシチョウバエを媒介昆虫とした人畜共通感染症の寄生虫疾患である.疾患治癒後に皮膚にPKDL(Post-Kala-azar DermalLeishmaniasis)を発症することがある.PKDL はサシチョウバエの吸血行動と感染の広がりの見地から疾患制御のために重要な病態とみなされている.内臓型リーシュマニア症はわが国の医学教育では専門家不在となりつつあるが,海外では先進諸国において取り組まれている.診断は,臨床所見に加えて骨髄や脾生検のスメア標本,同症への患者血清での抗体検出(rK39),PCR 診断などが併用されている.疾患治療にはこれまでのアンチモン製剤からあらたな薬剤が用いられ,一定の効果をあげつつある.さらに,副作用の低減をめざしてヒトと寄生虫のミトコンドリア呼吸鎖の複合体構造の違いに着目した薬剤開発が進んでいる.本稿ではupto-date な話題を中心に,近年の著者らのプロジェクトの取組みも交えて紹介する. -
世界の動きとリンパ系フィラリア症制圧対策計画
253巻1号(2015);View Description Hide Description◎世界リンパ系フィラリア症対策(Global Programme to Eliminate Lymphatic Filariasis:GPELF)は,顧みられない熱帯病(neglected tropical diseases:NTD)のひとつであるリンパ系フィラリア症を2020 年までに世界から制圧することを目標にWHO 主導で進められている世界計画である.グローバルヘルス環境の変化のなかで,貧困対策を究極のゴールとし,総合的にアプローチするという顧みられない熱帯病対策の枠組みがつくられてきた.GPELF も他のNTD 対策と共通のビジョンをもち,その活動を展開している.現在,計画は確実に達成に向けて進捗し,もっとも短期間でスケールアップした疾病対策計画のひとつにかぞえられる.本稿では,グローバルヘルスの動きとそのなかで台頭してきたNTD という考え方,そしてその枠組みのなかで制圧という成功に向けて進めている世界フィラリア症対策を紹介する.
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