Volume 253,
Issue 5,
2015
-
【5月第1土曜特集】 粘膜免疫Update
-
-
Source:
医学のあゆみ 253巻5号, 345-345 (2015);
View Description
Hide Description
-
基礎
-
Source:
医学のあゆみ 253巻5号, 349-353 (2015);
View Description
Hide Description
◎抗菌ペプチドは自然免疫の主要なエフェクターのひとつであり,生体防御において重要な役割を果たしている.小腸上皮細胞の一系統であるPaneth 細胞が産生・分泌する抗菌ペプチドαディフェンシン(α-defensin)は,腸における病原体の“排除”と腸内細菌との“共生”の両方に働いている.すなわち,α-defensin は病原菌を殺菌し,常在菌とは共生して腸内常在菌の組成を制御している.腸内細菌の組成異常と炎症性腸疾患や生活習慣病などさまざまな疾病との関連が報告されているが,いまだ機序は不明の点が多い.寄生体である腸内細菌(微生物)と腸上皮であるPaneth 細胞が分泌するα-defensin による自然免疫が,腸内環境の恒常性に大きくかかわることがわかってきたことから,Paneth 細胞およびそのα-defensin は寄生体と健康と疾病をつなぐ機序のひとつとして注目される.腸上皮細胞が担う粘膜免疫の重要性がしだいに明らかになってきた.
-
Source:
医学のあゆみ 253巻5号, 355-360 (2015);
View Description
Hide Description
◎ IgE はおもに組織中に存在しており,IgE 受容体のひとつとして知られる高親和性IgE 受容体(FcεRⅠ)を介して,好塩基球やマスト細胞の表面に結合している.抗原がこのIgE と結合するとFcεRⅠの架橋が起こり,その結果,好塩基球やマスト細胞が活性化され,アレルギー反応が誘導される.今回著者らは,このFcεRⅠの架橋結合が起こった際に誘導されるecto-nucleotide pyrophosphatase/phosphodieterase 3(E-NPP3;別名CD203c)が慢性的なアレルギー反応を抑制していることを見出した1).FcεRⅠの架橋結合の際に好塩基球やマスト細胞からアデノシン三リン酸(ATP)が放出されるが,この放出された細胞外ATP は,好塩基球やマスト細胞自身に発現しているP2X7 受容体に作用することでそれらを活性化し,アレルギー反応をよりいっそう増悪する要因となる.E-NPP3 はATP 量を減少させることで好塩基球やマスト細胞の活性化を抑え,アレルギー反応を抑制している.
-
Source:
医学のあゆみ 253巻5号, 361-367 (2015);
View Description
Hide Description
◎ Peyer 板をはじめとする腸管関連リンパ組織(GALT)は,腸管において抗原特異的免疫応答を誘導する.GALT への抗原の供給は,GALT と腸管腔を隔てる上皮細胞層(FAE)に分布するM 細胞の抗原輸送能によって行われる.近年,M 細胞に発現する抗原受容体が複数同定されたことにより,病原性細菌感染時におけるM細胞の役割がすこしずつ明らかになってきた.また,M 細胞の分化制御を担う転写因子が同定されたことにより,M 細胞欠損モデルマウスを用いて生体におけるM 細胞の重要性を評価することが可能となった.本稿ではこれらに関して概説する.
-
Source:
医学のあゆみ 253巻5号, 369-374 (2015);
View Description
Hide Description
◎腸内細菌に対して特異的に結合する高親和性の免疫グロブリンA(IgA)は,腸内細菌叢の制御において重要である.IgA はおもにパイエル板(PP)の胚中心(GC)において誘導され,高親和性のIgA はGC 内において選択される.その過程において,GC 内に存在する濾胞性ヘルパーT 細胞(TFH細胞)および濾胞制御性T 細胞(TFR細胞)が関与している.著者らの研究により,TFH細胞に発現するPD-1 やTFR 細胞が,TFH細胞の数やサイトカイン産生を制御することで,GC におけるIgA 選択に影響を及ぼすことが明らかとなった.TFH細胞やTFR 細胞の機能に欠陥が生じるとIgA 選択が正常に行われないため,IgA の腸内細菌に対する結合性に変化が生じ,腸内細菌叢のバランス破綻および宿主免疫系の過剰な活性化につながる.
-
Source:
医学のあゆみ 253巻5号, 375-380 (2015);
View Description
Hide Description
◎腸管腔は身体の奥まったところに存在するので体内のように感じるが,実際は毎日種々雑多な外来物が通過する体外空間である.腸管腔には多種類の腸内細菌が常在して宿主と互助関係を築いている.腸管腔には腸管粘膜から日々数g ものIgA 抗体が分泌されており,腸内細菌叢に働きかけ共生関係を維持していると考えられているが,その詳細はよくわかっていない.抗体は抗原特異的に反応するというのが常識であり,病原体に対しては特異的IgA 抗体が産生される.しかし,それ以外に腸管のIgA 抗体のなかには多種類の細菌に反応するpoly-reactive またはbroad-specific に働く抗体が存在し,常在細菌叢の制御にこれらのIgA 抗体が重要であるといわれてきた.腸管IgA 抗体は,何を基準に体外の腸内細菌叢を識別して制御しているのであろうか.この疑問に対する答えはまだ分かっていないが,IgA 抗体が結合する細菌は腸炎を惹起する細菌群であるという報告があり,IgA 抗体が細菌を識別して腸内細菌叢を制御していることが明らかになりつつある.
-
Source:
医学のあゆみ 253巻5号, 381-386 (2015);
View Description
Hide Description
◎腸管免疫系は,経口的に侵入してくる病原体をつねに監視し,迅速に病原体を排除するため,腸管に存在する免疫細胞がある程度活性化された状態で待機している.このような腸管免疫系の形成には腸内細菌の存在が必要であることがよく知られている.腸内細菌が存在していない無菌マウスでは腸管に存在している免疫細胞数が減少しており,またその多くが未熟である.近年,免疫細胞に強い影響を与える腸内細菌が同定され,腸内細菌による腸管免疫系の誘導メカニズムの詳細な解析が行われている.ヘルパーT 細胞の一種であるTh17 細胞は腸管粘膜固有層に多く存在し,病原体感染防御に重要な役割を担っているが,腸管Th17 細胞は腸内常在細菌であるセグメント細菌(SFB)によって誘導・活性化されていることが明らかになっている.本稿ではTh17 細胞に焦点を当て,腸内細菌による腸管Th17 細胞の誘導機構について紹介する.
-
Source:
医学のあゆみ 253巻5号, 387-391 (2015);
View Description
Hide Description
◎哺乳類の胎児は母体内では無菌状態で維持されているが,出生後ただちに膨大な数の微生物に曝露され,その一部は常在菌として腸管に定着する.腸内細菌の定着は腸管関連リンパ組織を成熟させ,IgA 産生を促し,TH17 細胞の分化を誘導するなど,宿主免疫システムの成熟に必須である.一方で,腸内細菌に対する過剰な免疫応答を抑制するために,大腸において制御性T(Treg)細胞が誘導される.これらの大腸Treg 細胞はCTLA4 やIL-10 などの免疫抑制分子を高発現している.しかし,どのような機構でTreg 細胞が機能的に成熟し,病理的な炎症応答を抑制することで,腸内細菌と宿主免疫系の共生関係が構築されるのかは不明であった.本稿では,腸内細菌定着に伴う大腸Treg の誘導機構について解説する.
-
Source:
医学のあゆみ 253巻5号, 392-396 (2015);
View Description
Hide Description
◎外来抗原から生体を防御し複雑な恒常性を維持するために,獲得免疫および自然免疫が大きな役割を担っていることが知られている.そのなかでもつねに外来と接している粘膜組織では,末梢の免疫応答とは異なるシステムにより,外来抗原に対して細胞の活性化と抑制をうまくコントロールして体内恒常性を維持している.近年,粘膜組織に存在する非常にユニークな細胞として新規に“自然免疫リンパ球”が同定された.この自然リンパ球は機能と分化の違いにより3 つのサブセットに分類され,その役割もそれぞれ異なることが知られている.獲得免疫であるT 細胞のTh1 やTh2 への偏向などで説明がつかなかった疾患や現象の発症メカニズムなどが,この新しい細胞の発見により明らかになりつつある.まったく新しい自然免疫担当細胞として同定されて日も浅く,いまだ分化・機能などの詳細についてわかっていないことが多く存在するなか,疾患と直接的に関連し制御する細胞としての役割が注目されている.
-
Source:
医学のあゆみ 253巻5号, 397-402 (2015);
View Description
Hide Description
◎腸管粘膜は,食物や水分の吸収という生命維持に必須な働きを担う場であると同時に,寄生虫や細菌からの感染に曝される場でもある.そのため外来微生物に対する防御システムとして,多様性に富んだ免疫細胞が相互に作用しあい有事に備えている.しかし,この粘膜防御システムが破綻することで,食物アレルギーや炎症性腸疾患(IBD),過敏性腸症候群(IBS)といった消化器疾患の発症につながる.マスト細胞は水,電解質の調整やさまざまなサイトカイン,プロテアーゼの放出を介して,これらの疾患の発症に関与することが知られている.本稿では消化器疾患・感染防御におけるマスト細胞の統御的な役割について,最近の知見とともに概説する.
-
Source:
医学のあゆみ 253巻5号, 403-409 (2015);
View Description
Hide Description
◎電離放射線に被曝した臓器は,その感受性に応じてさまざまな機能障害を起こす.急性放射線性消化管症候群は,放射線事故あるいは癌の放射線治療において消化管が高線量の放射線に曝された場合に引き起こされる重篤な障害である.その病態機構についてヒトや動物で数多くの研究がなされているにもかかわらず,有効な予防・治療手段はいまだに確立されていない.Toll 様受容体(TLR)は代表的な自然免疫受容体のひとつであり,病原体に対する感染防御において重要な免疫応答を惹起することで知られている.ところが近年では,本来の防御機能とは裏腹に,特定の炎症性疾患や自己免疫疾患においてはTLR によって誘導された応答が組織傷害を増悪させていることが明らかとなりつつあり,あらたな治療標的としての認識が高まっている.本稿では急性放射線性消化管症候群に関する理解についての最近の進歩とともに,その病態形成機構へのTLR の関与について概括する.
-
Source:
医学のあゆみ 253巻5号, 410-417 (2015);
View Description
Hide Description
◎好塩基球は末梢血白血球中に0.5%ほどしか存在しない希少な細胞集団で,存在自体は古くから知られていたものの,長い間,好塩基球はマスト細胞のバックアップ的な存在ととらえられ,好塩基球固有の機能は研究されてこなかった.しかし,ここ10 年ほどで好塩基球に対する研究ツールの開発が進み,好塩基球がマスト細胞とはまったく異なる機能を有することが徐々に明らかになってきている.とくに皮膚では好塩基球が血細胞とはまったく異なる機能を有することが徐々に明らかになってきている.とくに皮膚では好塩基球が血中から組織に浸潤し,さまざまな炎症細胞の浸潤を誘導しTh2 免疫応答を促進することがいくつかのモデルで報告されており,皮膚において好塩基球はアレルギーや寄生虫感染防御に重要な役割を果たすことが明らかになっている.しかし,粘膜における好塩基球の役割についてはいくつかのモデルでは報告されているもののわかっていない点が多く,今後の研究が期待される.本稿では皮膚や気道・消化管粘膜における好塩基球の役割について,最新の知見を交えながら概説する.
-
粘膜免疫と微生物・感染
-
Source:
医学のあゆみ 253巻5号, 421-427 (2015);
View Description
Hide Description
◎われわれの腸内には約100兆個の多様な細菌が常在している.これまでの研究で,常在細菌叢は腸管での栄養代謝を助けるだけでなく,病原菌の腸内感染防御に重要な働きをもつことがわかっている.常在細菌は,病原菌の定着や増殖に必要な栄養源や棲息場所を占有することで直接的に病原細菌と競合し排除を促す.加えて,宿主免疫を活性化することで間接的に病原細菌の排除を押し進める.一方,病原細菌も常在細菌による競合排除を逃れる戦略として,特殊な栄養源の活用や宿主環境の変化(炎症惹起など)を利用することで常在細菌に対して増殖優位性を獲得する術をもつ.本稿では,腸管感染において複雑に絡み合う常在細菌-病原細菌-宿主免疫という三者の相互関係がいかにして感染と排除を規定しているのかについて,最新の知見を踏まえ概説する.
-
Source:
医学のあゆみ 253巻5号, 429-434 (2015);
View Description
Hide Description
◎寄生虫のなかでも蠕虫が感染すると,Th2 を主体とする2 型免疫応答が誘導され,その結果,IgE 抗体や好酸球,好塩基球,肥満細胞が増加し,排虫が促進される.蠕虫感染におけるTh2 誘導の詳細なメカニズムは長らく不明であった.近年,蠕虫感染時における2 型免疫応答の誘導に自然免疫リンパ球の重要性がクローズアップされてきた.さらに,顆粒球系細胞の防御的役割も徐々に明らかになった.一方で,寄生虫感染は免疫抑制を起こすことも知られている.本稿では蠕虫感染で惹起される2 型免疫応答の概略を述べ,蠕虫感染に対する抵抗性での働きが明らかとなってきた顆粒球に焦点をあてて解説する.さらに,寄生虫による免疫抑制に関しても触れる.
-
粘膜免疫と疾患
-
Source:
医学のあゆみ 253巻5号, 437-444 (2015);
View Description
Hide Description
◎炎症性腸疾患(IBD)は再燃と寛解を繰り返す消化管の炎症を特徴とする慢性炎症性疾患であり,潰瘍性大腸炎(UC)とCrohn 病(CD)に大別される.発症には免疫学的な異常と腸内細菌叢の異常が関与していると考えられているが,メカニズムについてはまだ十分に解明されていない部分が多い.そのなかで近年,腸内細菌叢の多様性の低下(dysbiosis)がIBD に共通してみられる変化であることがわかってきており,そうした腸内細菌叢の変化に加えて,腸管粘膜における免疫細胞の異常な応答が起こることがIBD の病態形成につながると考えられている.また,IBD と関連する疾患感受性遺伝子も近年つぎつぎと明らかとなってきており,遺伝子異常のもたらす結果からも,IBD 発症におけるオートファジーやendoplasmic reticulum(ER)ストレスに対する応答異常の関与など,病態生理の解明が進んできている.本稿では,IBD における腸内細菌の異常や遺伝子変異からわかってきた腸管粘膜の防御反応の異常,またマクロファージやT 細胞といった免疫担当細胞の関与などについて概説する.
-
Source:
医学のあゆみ 253巻5号, 445-450 (2015);
View Description
Hide Description
◎多発性硬化症(MS)は,遺伝的要因と環境的要因が複雑にからみ合って発症する自己免疫疾患である.その環境的要因のひとつとして,腸内細菌がMS の病態に大きな影響を与えることが示されてきた.腸管において炎症性のTh17 を誘導する腸内細菌SFB は,中枢神経系のTh17 も増加させ炎症性脱髄を促進する.一方,Bacteroides fragilis 由来の莢膜多糖PSA は制御性T 細胞を誘導することで中枢神経系の炎症を抑制する.また,腸内細菌による中枢神経系の炎症制御に抑制性B 細胞やiNKT 細胞が関与することも示されている.さらに,近年,性ホルモンや血液脳関門(BBB)といったMS の治療ターゲットとなりうる他の因子についても腸内細菌の影響を受けることが明らかになった.腸内細菌によるMS 制御のメカニズムについては現在でも直接的エビデンスが乏しいが,本稿では中枢神経系の恒常性維持に対する腸内細菌の“pathogenic”および“protective”な両側面の影響について概説する.
-
Source:
医学のあゆみ 253巻5号, 451-456 (2015);
View Description
Hide Description
◎食物アレルギー患者は近年増加傾向にあるといわれているが,有効な治療法はいまだ確立されていない.一方で,食物アレルギーの予防・改善・治療の標的となる経口免疫寛容の誘導・維持メカニズムは分子・細胞レベルで明らかとなってきた.さらに最近では,生体内因子だけではなく病原体の感染や腸内フローラ,食餌性因子も免疫学的恒常性維持にかかわっていることが示唆されている.本稿では生体内因子と外的・環境因子の両観点から,食物アレルギーの発症機序の解明と制御に向けた近年の取組みを紹介したい.
-
Source:
医学のあゆみ 253巻5号, 457-463 (2015);
View Description
Hide Description
◎近年,腸内細菌叢の乱れがさまざまな疾患の発症に関連することが指摘されているが,具体的な機序は明らかにされていない.今回著者らは,抗生剤投与によって生じた腸内細菌叢の乱れがマウスの肺胞マクロファージを活性型(M2 型)に変化させ,アレルギー性気道炎症を増強していることを解明した.抗生剤を投与されたマウスのアレルギー性気道炎症が増悪したため,腸管内を調べたところ,真菌(カンジダ)が増殖していた.カンジダの増殖により血中プロスタグランジンE2(PGE2)濃度が上昇し,M2 型マクロファージが誘導された.抗真菌剤,PGE2 合成阻害剤を投与したところ,M2 型マクロファージの誘導は抑制され,アレルギー性気道炎症は軽減した.従来とは異なるアレルギー疾患への治療戦略の構築が期待される.
-
Source:
医学のあゆみ 253巻5号, 465-470 (2015);
View Description
Hide Description
◎粘膜ワクチンは粘膜面からの病原体侵入阻止ならびに体内防御免疫の両方を誘導できるため,感染症予防のための次世代ワクチンとして期待されている.なかでも経鼻ワクチンは,病原微生物の侵入門戸である上気道粘膜組織での免疫応答が高い効率で誘導できるため非常に有用であると考えられているが,現在世界で認可されているのは低温馴化型のインフルエンザ生ワクチンであるFluMist(R)のみである.その一因として経鼻投与後の中枢神経系に対する安全性が考えられる.本稿では経鼻ワクチン開発の現状について,安全性評価も考慮して紹介する.