医学のあゆみ
Volume 253, Issue 8, 2015
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あゆみ TRALIとTACO―重篤輸血副作用とその関連病態
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ヘモビジランス―重篤輸血副作用の把握に向けて
253巻8号(2015);View Description Hide Description◎輸血の安全性を高いレベルに引き上げるために,国際社会における輸血に伴う副作用のヘモビジランス(サーベイランス)システムの必要性がヨーロッパにおいて認識され,構築されてきた.輸血後の輸血関連急性肺障害(TRALI)に関して,2003 年7 月,イギリスでは可能なかぎり女性供血者の血漿からはFFP を製造しないという方針を固めた.これはイギリスで行われているヘモビジランスのデータの解析に基づく考察から得られてものであった.本稿では,わが国におけるヘモビジランス活動を紹介するとともに,血液製剤の製造から臨床使用に至るすべての過程をチェックできる体制(トレーサービリティ)の構築について議論する. -
TRALI・TACOの早期診断と治療ガイドライン
253巻8号(2015);View Description Hide Description◎TRALI,TACOはともに呼吸障害を主訴とする輸血副作用であるが,治療や予防法が異なることから,正しく診断できるガイドラインが必要である.両者の鑑別で重要なのが循環負荷の評価であり,TACO発症危険因子などとともに診断基準の補完目的に,別表として付け加えられた.しかし,情報が不十分であったり心臓に潜在的機能障害がある場合などではかならずしも診断は容易ではない.したがって,得られた結果はつねに臨床や検査所見と矛盾しないかを医師自身が確認する必要がある.ガイドラインは臨床の積重ねで適宜,修正が望まれるが,両者の鑑別のみならず,適正輸血の啓蒙にも寄与することが期待される. -
ARDSの病態
253巻8号(2015);View Description Hide Description◎急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は先行する基礎疾患があり,急性に発症した低酸素血症で,胸部X 線写真上両側性の肺浸潤影を呈する非心原性肺水腫である.肺に集積した活性化好中球から放出される活性酸素や蛋白分解酵素が血管内皮細胞,肺上皮細胞を損傷することが病態の中心とされている.1967 年にはじめてARDSが提唱されて以来,環境因子や遺伝子素因を含む病因・病態が解明されてきた.予後は,肺損傷の重症度,肺外臓器の機能異常,基礎疾患,そして呼吸管理の質によって左右される.現在エビデンスのある薬剤はなく,肺保護的呼吸管理と輸液,体液管理が重要である.さらなる病態の解明が修復を促進する有効な治療法の開発につながると期待される. -
急性重症呼吸不全に対する治療の進歩―ECMOを含めて
253巻8号(2015);View Description Hide Description◎輸血関連急性肺障害(Transfusion Related Acute Lung Injury:TRALI)は,輸血後6 時間以内にあらたに起こる両側の肺浸潤を伴う急性呼吸不全である.呼吸不全に対する呼吸療法はさまざまであるが,重症度に応じてさまざまなデバイスを使い分け適切に治療を行う.NIV,HFOV,人工呼吸管理,理学療法,そしてECMOについての最近の知見をまとめた. -
術後呼吸障害の成因と対策
253巻8号(2015);View Description Hide Description◎術後呼吸障害はさまざまな原因で起こるが,とくにARDS の発症には敗血症と白血球がその主役を果たす.生体に存在する顆粒球の28%は肺に局在しており,異物の侵入を監視しているが,ひとたび感染に陥ると白血球は活動状態に移行する.血液製剤に含まれる抗白血球抗体は白血球を活動状態に移行させやすく,その反応性を高めることになる.TRAL(I Transfusion-Related Acute lung Injury)は輸血に伴う白血球の異常活動状態により発症するものであり,その発症には抗白血球抗体の混入のみならず,敗血症が背景因子として重要である.一方,TACO(Transfusion Associated Circulatory Overload)は物理的な輸血過剰による概念である.手術中は輸血のほか,輸液も大量投与する危険性があり,これらの容量負荷が肺への水分貯留を引き起こすと考えられている.しかし,はたして血液製剤の過量投与だけでTACO の病態が再現されるかどうかは今後の課題である.容量負荷が疑われる呼吸障害はTACO と診断されるため,TRALI とは区別が困難な場合が多くあると考えられる. -
心臓疾患における輸血とTACO
253巻8号(2015);View Description Hide Description◎心臓疾患患者では貧血が併存することが多い.輸血が必要となるケースも多く,TACO の発生が近年注目されている.輸血の副作用としてのTACO の認知度は低く,報告される数も少ない.TACO は個々の心機能に対する輸血の相対的過負荷に起因する心不全状態である.臨床現場では原疾患による心不全の増悪として診断・治療されることが多く,臨床医,ナーススタッフの啓蒙・教育が重要であると考える.また,TRALI と鑑別すべき重要な病態でもある.高齢者の増加,高血圧や不整脈疾患の増加に伴い,心臓疾患患者は増加している.また,潜在的な心臓疾患患者(軽度の心機能障害や拡張障害性心不全など)も増えている.したがって,輸血医療においてTACO の重要性は今後増加するものと思われる. -
TACOの危険因子―左室駆出率が保たれている心不全(拡張性心不全)
253巻8号(2015);View Description Hide Description◎輸血に関連する重要な合併症であるTransfusion-associated circulatory overload(TACO)の危険因子として,心不全の既往があげられる.左室駆出率が保たれている心不全(HFpEF)は高齢女性に多く,とくにTACOに注意が必要な疾患である.HFpEF の急性増悪時には交感神経活性の亢進により動脈収縮が生じ,左室の後負荷は増加する.同時に静脈収縮が生じ,静脈還流量が増加し,左房圧上昇,肺静脈圧上昇,肺毛細血管圧が上昇し,肺水腫を生じる.輸血の際,さらに左房圧上昇の速度が高まり,急速に肺間質浮腫,肺胞浮腫が生じうる.さらに,注意が必要なのが輸血後もリスクの高い状態にあるということである.HFpEF が基礎疾患としてある場合,麻酔覚醒後の急激な交感神経活性により,あるいは痛みや不安による交感神経活性により動・静脈が収縮すると,左室の前負荷に対する予備能が著しく低下しているため,急速に左房圧が上昇することが危惧される. -
TRALI・TACOの鑑別診断と予防対策
253巻8号(2015);View Description Hide Description◎TRALIとTACOは,呼吸器症状を呈する輸血副作用のなかでももっとも重篤なものである.輸血に伴い比較的早期に起きるアレルギー性の副作用による上気道狭窄はよく知られた副作用であるが,TRALI,TACOは時間的経過としては遅れて発症することが多い.大量の輸血の後だけでなく,1バッグの輸血でも起こりうるので,副作用の発症を見逃さないためには輸血中・輸血後の患者の観察を注意深く行う必要がある.
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連載
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- iPS細胞研究最前線-疾患モデルから臓器再生まで 24
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iPS細胞を用いた難治性角膜疾患に対する再生医療開発
253巻8号(2015);View Description Hide Description◎角膜は無血管の透明組織であるが,疾患や外傷などによりその透明性が低下すると,視力が低下し,失明に至る場合もある.重篤な視覚障害をきたす難治性角膜疾患に対してはドナー角膜を用いた他家角膜移植術が実施されているが,その提供数は不足しており,多くの患者に対しただちに移植手術を行うことは困難である.また,重篤な疾患では拒絶反応のため成績はとくに不良である.これらのドナー不足および拒絶反応の問題を解決する手段として,著者らは成体に存在する体性幹細胞を用いた角膜再生治療法の開発および臨床応用に取り組んできた.本稿では,著者らがこれまで取り組んできた難治性角膜疾患に対する再生治療法,さらにはiPS細胞を利用した再生治療法開発の現状について述べる. - 補完代替医療とエビデンス 3
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補完代替医療におけるEBM の考え方:とくに診療ガイドラインの視点から
253巻8号(2015);View Description Hide Description◎1991年に誕生した根拠に基づく医療(Evidence-based medicine:EBM)は,質の高い医療を求める社会的な意識の高まりともに,さまざまな分野で普及した.EBMは,臨床研究によるエビデンス,医療者の熟練・専門性,患者の価値観,そして患者の臨床的状況・環境の4要素を統合し,よりよい患者ケアのための意思決定を行うものとされる.EBMと非常に近い関係にあり,エビデンスを現場の臨床家に伝えるうえで大きな役割を担うのが,診療ガイドラインである.診療ガイドラインは“診療ガイドラインとは診療上の重要度の高い医療行為についてエビデンスのシステマティックレビューとその総体評価,益と害のバランスなどを考量し,最善の患者アウトカムをめざした推奨を提示することで,患者と医療者の意思決定を支援する文書”(医療機能評価機構Minds)とされる.本稿では,EBMと診療ガイドラインの国内外の動向を概説し,補完代替医療の適切な発展に向けた議論の一助としたい.
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