医学のあゆみ
Volume 254, Issue 2, 2015
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あゆみ 危険ドラッグの人体への影響―得体の知れない毒性・依存性を解明する
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危険ドラッグ問題の変遷と課題
254巻2号(2015);View Description Hide Description◎2014年6月の東京・池袋での脱法ハーブ吸引者による8人の死傷者を出した自動車運転死傷事故は,脱法ドラッグ問題の象徴的事件といってよかろう.同年7月,警察庁と厚生労働省とが公募まで行って呼称を脱法ドラッグから危険ドラッグに変えるに至った事実は異例の事態である.薬物の規制は個別指定が原則である.しかし,この危険ドラッグ問題は個別指定の限界を露呈させ,あらたに包括指定が導入された.しかし,それでも乱用の拡大は止まらず,最終的に効果をもったのは供給サイドへの実質的な取締まりの強化による閉店への追い込みであった.これにより,この危険ドラッグ問題は劇的に鳴りを潜めた感がある.しかし,包括指定はいざというときに個別指定できる体制があっての包括指定である.そのための体制づくりに早急に着手する必要がある. -
一般身体科救急における中毒症例の実態調査から
254巻2号(2015);View Description Hide Description◎日本中毒学会と日本救急医学会は共同で,2006年1月~2012年12月に一般救急施設に搬送された518例の危険ドラッグ中毒患者を対象とした実態調査を施行した.その結果,搬送現場で,約10%の患者に対人・対物への暴力行為,交通事故,自殺企図または自傷行為などの有害行為が認められた.多くの患者に,①頻呼吸,頻脈,散瞳,高体温などの交感神経興奮症状,②不穏・興奮,不安・恐怖,錯乱などの中枢神経興奮症状,③悪心・嘔吐,動悸などの身体症状,④横紋筋融解症,腎機能障害,肝機能障害,交通事故や自殺企図による身体外傷などの身体合併症,が認められた.入院加療を要した182例のうち,29例は人工呼吸管理された.また,21例は7日以上の長期入院となったが,ほとんどに重症の身体合併症があった.危険ドラッグを使用すると身体症状や精神神経症状が生じるだけでなく,重症の身体合併症が生じ,人工呼吸管理による集中治療や長期入院を要することがある. -
全国の精神科医療機関における実態調査から
254巻2号(2015);View Description Hide Description◎“全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査”によれば,2014年9~10月に全国精神科医療機関で治療を受けた薬物関連障害患者は1,579例であった.この患者を主たる薬物別に分類すると,覚せい剤(42.2%)が最多であり,ついで危険ドラッグ(23.7%),処方薬(23.7%),有機溶剤(5.7%),大麻(2.4%)という順であった.しかし,過去1年以内に主たる薬物の使用が認められた患者1,019例に限定して分析すると,“主たる薬物”として危険ドラッグ(34.8%)が最多となり,ついで覚せい剤(27.4%),処方薬(16.9%)という順であった.このことから,わが国の薬物乱用・依存臨床における中心的乱用薬物は危険ドラッグであることが示唆された. -
精神科救急でみられる危険ドラッグ誘発性精神病の治療
254巻2号(2015);View Description Hide Description◎危険ドラッグ誘発性精神病による入院が,2012年ごろから急増した.報告によれば,精神科を受診する危険ドラッグ乱用者の50%前後が精神病症状を呈している.危険ドラッグ誘発性精神病は,幻覚妄想や精神運動興奮を起こすため,措置入院や医療保護入院などの非自発的入院を要することも多い.治療は統合失調症に準じて抗精神病薬を投与する.断薬後にみられる“薬物渇望期”にも対応することが重要である.また,精神病症状の治療が終わった後は,依存症治療への動機づけが非常に重要である.しかし,危険ドラッグ乱用者は治療動機が低いと感じられることが多く,精神科救急に入院した患者に動機づけを行おうとしても難しいことが多い.対決技法は治療中断率が高いため,動機づけ面接法などを用いて本人の動機を強化していくことが大切である. -
依存症臨床現場からの報告―依存症事例を中心に
254巻2号(2015);View Description Hide Description◎危険ドラッグ依存症患者は,学歴・職歴面で社会適応がよく,同居家族をもつ者が多い.社会的に“失うもの”が多いため,逮捕のリスクがある違法薬物ではなく,危険ドラッグを選択してきたことが推測される.神奈川県立精神医療センター依存症専門外来を受診した危険ドラッグの初診患者は,2014年7月以降激減しているが,これは同年4月から施行された薬事法改正によって所持や使用も違法化されたことが影響しているものと推測される.年単位の薬物使用歴があっても,患者が危険ドラッグを使用する心理的背景を援助者が的確に理解し,対処行動や感情表出のトレーニングを粘り強く提供することにより,断薬に至る例も存在する.罰則強化によって危険ドラッグ使用者は減らせるかもしれないが,患者は他の“合法な”依存症的行動(アルコールや処方薬依存など)に移行する可能性があり,薬物乱用の背後にある心理的孤立の解消をめざす支援も必要である. -
危険ドラッグの有害作用―基礎研究からみた人体への影響
254巻2号(2015);View Description Hide Description◎危険ドラッグの乱用に基づく交通事故の発生,意識障害や呼吸困難などにより救急搬送されるケースが表面化し,危険ドラッグの蔓延が大きな社会問題となっている.流通している危険ドラッグ製品の形状は3タイプ,①パウダー系=粉末,②リキッド系=液状,および③植物系=植物片に混在(いわゆる脱法ハーブ),が知られている.植物系の危険ドラッグは最大の流通量であり,製品の中身は細かく刻まれた乾燥植物片が入っている.この乾燥植物片に危険ドラッグが混ぜ込まれており,吸煙すると興奮作用や幻覚などの中枢作用が発現する.植物系の危険ドラッグは外観が植物片であるため,あたかも天然物であるという印象を受けやすい.しかし,非常に強力な中枢作用を示す薬物が混ぜられており“薬物”自体の乱用であることを認識する必要がある.本稿では,危険ドラッグとして流通している成分について整理し,現在までの動物実験や細胞での評価データから明らかになっている有害作用について概説する. -
東京都監察医務院における異状死例からの報告―危険ドラッグ関連死
254巻2号(2015);View Description Hide Description◎東京都監察医務院は,死体解剖保存法第8条に基づき,東京都23区で発生したすべての異状死の死因究明を行う行政機関である.2012年にはじめて危険ドラッグ関連死を確認して以降,同年は4件のみであったが,翌2013年には16件と大きく増加した.20件の詳細は,男性16,女性4,年齢は24~54歳の間に分布し,平均37.0歳であった.職業は,有職者13例,無職者4例,不詳は3例であった.有職者13例の職業は,会社員5例,自営業2例,音楽家2 例,風俗関連業2例,歯科医1例,アルバイト1例であった.濫用後に示した症状・行動は興奮系のものから鎮静系の例まで多種多様性があった.所持品などから濫用が疑われる例もあるが,薬毒物スクリーニング検査によってはじめて危険ドラッグの関与が判明する例もあり,死因究明制度の全国展開が望まれるとともに,今後も引き続き危険ドラッグ関連死の発生動向に関して注視する必要性が示唆された. -
危険ドラッグの健康被害と治療―海外文献より
254巻2号(2015);View Description Hide Description◎あらたな精神作用物質(危険ドラッグ)の乱用が世界的に問題となっている.危険ドラッグの人体への影響に関する情報はいまだ少ないため,医療従事者は手探りで診療にあたっている.本稿では,危険ドラッグの代表である合成カンナビノイド(SC)とカチノン系化合物(CT)による健康被害とその治療に関する海外での報告をまとめ解説した.急性中毒症状を中心に徐々に症例報告は積み重ねられているものの,人体への長期的な影響や依存性に関する情報は十分ではない.また,多種の化合物が含まれていることにより,今後の研究は複雑になることが予想される.救急医療,精神科医療,依存症医療,法医学など,各分野の専門家によるガイドライン作成と効率的な情報共有システムの構築が期待される.
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連載
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- 補完代替医療とエビデンス 7
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補完代替医療のエビデンス:サプリメント・ビタミン・ミネラル
254巻2号(2015);View Description Hide Description◎補完代替療法のなかでもっとも利用頻度が高いものが,サプリメント・健康食品である.そして国民の健康志向に合わせ多種多様な製品が市場に流通している.しかし,消費者が期待しているような有効性を裏づける科学的根拠は存在するのであろうか.本稿では,サプリメント・健康食品の安全性と有効性に関する科学的根拠について,国内外におけるデータベースのサイトについて紹介するとともに,そのサイトの活用法について解説する.また,市場規模が大きい成分のうち,一定のエビデンスを有することが見込まれるものについて消費者庁が行った“食品の機能性評価モデル事業”の結果についても紹介する.
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フォーラム
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- 生物学的人口学の最近のトピック 1
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- 第79 回日本循環器学会学術集会レポート 4
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Emergency Cardiovascular Care System and Construction
254巻2号(2015);View Description Hide Description◎わが国の救急医療体制は傷病者の緊急度に応じて1次(軽症:入院治療は必要ない)・2次(入院治療が必要)・3次(ただちに高度な救命救急・集中治療が必要)救急に大別される.わが国の救急車要請件数は年々増加し,2013年には591万件,この約90%の傷病者が救急車で病院に救急搬送されていた.これら救急搬送傷病者の原因は急病がもっとも多く63%(年々増加)を占めていた.循環器系緊急症(脳疾患と心疾患を含む)は急病患者のうちもっとも多く17.7%を占め,救急室で心肺蘇生や緊急処置が実施され緊急入院した割合は74%に上っていた.高齢化社会に突入しているわが国では,かかる循環器緊急症患者に対する救急医療体制の改善・構築が課題になってきている.本シンポジウムでは循環器緊急症患者に対する救急医療の現況,課題およびその取組みを紹介していただき,わが国の循環器救急医療体制の構築に寄与することを目的に6名の先生に講演していただいた.
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TOPICS
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- 医療行政
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- 社会医学
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- 呼吸器内科学
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