医学のあゆみ
Volume 254, Issue 4, 2015
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あゆみ 肉腫研究・診療の最前線―bench-to-bedside
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肉腫基礎研究の最前線(1):肉腫発生機構―肉腫特異的がん遺伝子異常と発がんのエピゲノム制御
254巻4号(2015);View Description Hide Description◎肉腫は間葉系組織である骨軟部組織に発生する悪性腫瘍である.患者数が少なく,さらに疾患も細分化されているため,個々の疾患における詳細な肉腫発生,進展機構はいまだ十分に理解されていない.それらは肉腫に対する化学療法や分子標的治療などの有効な治療法の開発が遅れている一因であろう.これまでに多くの肉腫で,染色体転座から生じる疾患特異的な融合遺伝子が発見されてきた.遺伝子機能解析の結果,それらは多くの標的遺伝子を制御しており,種々のシグナル伝達経路を介してがん遺伝子として機能することが明らかとなった.また近年,特異的がん遺伝子の発がんプログラムは起始細胞特異的に生じること,つまり肉腫発生におけるエピゲノム制御の重要性も示唆されている.“融合遺伝子”(ゲノム異常)と“起始細胞”(エピゲノム制御)との関連を解析することで,肉腫発生メカニズムをより詳細に理解できると考える. -
肉腫基礎研究の最前線(2):シグナル伝達路―骨肉腫増殖・転移を促進するシグナル伝達路
254巻4号(2015);View Description Hide Description◎骨肉腫は,未分化な骨芽細胞前駆細胞や間葉系幹細胞を起源とすると考えられている骨原発悪性腫瘍である.骨肉腫の原因遺伝子としては,さまざまながん細胞の増殖や転移を亢進するシグナルの異常活性化や,がん抑制遺伝子の欠損や低下が報告されている.また,これらのシグナルは相互に作用しあうことで骨肉腫の増殖・転移を制御していると考えられている.本稿では,近年報告されているHedgehog シグナル,Notch シグナル,Wnt シグナル,BMPシグナルとがん抑制遺伝子の骨肉腫の発生・増殖や転移に対する機能と,その治療ターゲットとして着目されている分子標的治療について概説する. -
肉腫橋渡し研究の最前線(1):前臨床試験―新規肉腫細胞株パネルの作成および希少がんにおける前臨床試験
254巻4号(2015);View Description Hide Description◎骨・軟部肉腫は,①発生頻度が低い,②若年者に多く発症する,③組織型が多い,という特徴があり,いわゆる希少がんに分類される難治性疾患群である.患者数が非常に少ないため統計学的解析力をもった臨床データの蓄積が困難であり,研究のための材料(組織検体,細胞株など)も少ない.また,製薬会社にとっての事業性も低く,他疾患と比較し研究・薬剤開発が著しく遅れている.著者らはこれらの状況を改善すべく,肉腫細胞株パネルの作成を持続的に行いながら,新規治療ターゲットの開発や新薬の肉腫細胞株に対する薬効評価を行っている.本稿では,著者らが現在取り組んでいる肉腫細胞株パネルの作成作業と,それらを用いた分子生物学的機能解析および新規治療ターゲットの探索,免疫不全動物移植モデルを使用した新規薬剤の前臨床試験について紹介する. -
肉腫橋渡し研究の最前線(2):プロテオーム解析―骨軟部腫瘍とプロテオミクス
254巻4号(2015);View Description Hide Description◎プロテオミクスは生物の細胞・組織レベルにおいて,ある静的状態における蛋白質発現全体を網羅的に解析する研究手法である.蛋白質発現は遺伝情報に基づき転写・翻訳された後に,さらにリン酸化や糖鎖修飾などの翻訳後修飾,さらには分解などのプロセスを経て最終発現型として機能することなどより,その発現形態はかならずしもゲノム発現と一致しないとされている.つまりプロテオミクスは,ゲノム解析では把握しきれない生体の発現型を観察できる研究手法であるといえる.著者らのグループは,2005年よりそのプロテオミクスの手法を用いて骨軟部腫瘍の発現解析を行い,複数の成果をあげてきた.本稿では,その方法と一部の成果を紹介したい. -
軟部腫瘍の病理診断へのCISH 法の応用
254巻4号(2015);View Description Hide Description◎軟部腫瘍の病理診断は腫瘍の分化方向に基づいてなされるが,組織型がきわめて多いうえに,組織像が類似する例も多いため,確定診断に難渋する.軟部腫瘍には特異性の高い細胞遺伝学異常が多く見出されており,その検出は病理診断の大きな助けとなる.本稿では,病理診断に親和性の高い新しい細胞遺伝学的異常の解析手法として,chromogenic in situ hybridization法(CISH法)に関して重点的に解説する.CISH法は光学顕微鏡下で細胞形態と遺伝子異常を同時に可視化できる技術であり,従来の検出法に比べて病理検査室で比較的容易に実施可能で,さらに組織細胞像と細胞遺伝学的異常の統合的解釈が容易となるため,腫瘍内多様性の解析にも応用可能である.CISH法は日々蓄積されている細胞遺伝学的知見と,日常の軟部腫瘍病理診断を橋渡しする技術として有用と思われる. -
肉腫外科治療の最前線:切除縁―ユニークな切除縁評価法と,根拠に基づく安全な手術計画
254巻4号(2015);View Description Hide Description◎肉腫の根治には手術による局所病変の制御,すなわち再発を起こさないことが必要条件である.再発のない手術を計画し実践するためには,肉腫が再発しない安全な切除縁を明らかにしておく必要があるが,これまでは安全な切除縁がいかなるものであるかを詳細に解析した報告はなかった.著者らは1980年より切除縁の“距離”と,そこに介在する“barrier”(解剖学的コンパートメントを境界する膜様組織,筋膜,骨膜,軟骨など)に注目し,分類して術後に手術標本を肉眼的に評価してきた.そして評価した切除縁と術後の再発の有無との相関を前向きに観察し,安全な切除縁を解析してきた.本稿では,世界でも類のない著者らの切除縁評価法の理論とその根拠,そして安全な切除縁解析の結果を紹介する. -
肉腫薬物治療の最前線:分子標的治療―進行軟部肉腫に対するパゾパニブの効果と毒性
254巻4号(2015);View Description Hide Description◎パゾパニブはVEGFR,PDGF およびc-Kit に対する経口マルチターゲットのチロシンキナーゼ阻害薬である.日本を含む13カ国が参加し,進行悪性軟部腫瘍に対して有効性と安全性を検証する目的でプラセボを対照とする国際共同第Ⅲ相試験が実施された.無増悪生存期間の中央値は,プラセボ群の1.6カ月に対して,パゾパニブ群が4.6カ月と有意に延長されることが示された(HR:0.31,p<0.0001).この結果として,パゾパニブは日本で悪性軟部腫瘍に対するはじめての分子標的治療薬として2012年9月に承認された.多様な組織型を有するこの希少がんに対して世界的な試みで新規治療薬が開発されたことは,今後の治療進歩の突破口となりうる.特徴的な副作用に対して適切な対処を行う必要があるが,進行悪性軟部腫瘍患者のあらたな選択肢となる.本稿では,パゾパニブの軟部腫瘍に対する効果と毒性について,過去に報告されたおもな臨床試験と著者らの経験を含め概説する. -
肉腫放射線治療の最前線:粒子線治療(炭素イオン線・陽子線)
254巻4号(2015);View Description Hide Description◎炭素イオン線や陽子線といった粒子線は,その優れた物理特性により,周囲の正常組織への線量は低く保ったまま,腫瘍へ高線量を照射することができる.また,炭素イオン線は生物効果が高く,X 線抵抗性腫瘍にも効果が期待できる.肉腫に対する粒子線治療は頭蓋底腫瘍(脊索腫,軟骨肉腫)からはじまり,他の部位・組織型へと広がりをみせている.炭素イオン線のほうがさまざまな部位・組織型に用いられている一方,陽子線は小児に対して積極的に用いられている.有害事象については,いずれの研究においても許容範囲であったと報告されている.これまでの文献的報告からは炭素イオン線・陽子線とも良好な治療成績を示しており,両者に明らかな差異はないと考えられる.肉腫治療の第一選択は切除であるが,それが困難な場合,粒子線治療は有望な選択肢となると考える.骨・軟部肉腫は,粒子線治療の適応疾患のなかでももっとも保険収載に近い疾患のひとつと考えられている.
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連載
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- 補完代替医療とエビデンス 9
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「統合医療」情報発信サイトeJIM の役割と課題―医師・患者の利用者の視点から
254巻4号(2015);View Description Hide Description◎本稿では,情報提供者としての医師を対象とした調査,情報の受け手(ユーザー)としての患者を対象とした調査の2つを紹介する.統合医療の情報発信サイトeJIM の2014年3月の開設前に,補完代替医療の情報の問題点と,eJIM に期待する情報の把握を目的とし,同年1月,インターネットでのアンケート調査を行い,174 名の医師から回答を得た.補完代替医療(CAM)の情報の問題点は,有効性のエビデンスレベルが不明確142名(81.6%),リスクのレベルが不明確115名(66.1%),悪徳事業者等の事業者名が不明確112名(64.4%)などであった(複数回答).eJIM に期待する情報は,リスクのレベル151名(86.8%),有効性のエビデンスレベル150名(86.2%),悪徳事業者等の事業者名140名(80.5%),費用対効果138名(79.3%),医療従事者向けと患者向けの情報132名(75.9%),研究者の利益相反状態122名(70.1%)などであった(複数回答).患者側への調査は今後実施される予定である.つぎにその準備段階のひとつとして2014年の研究,2011年の研究を紹介する.情報探索行動の観点から検討したところ,患者がCAM の利用前に安全性情報の確認を行う割合は,50%であった.安全確認行動はヘルスリテラシーと関連するため,ヘルスリテラシーの向上が必要であろう.さらに,安全性確認の情報源については,インターネットで確認する者が20%と低率であった.eJIM の認知度を上げる努力と合わせて,同じ内容をテレビや雑誌,本,パンフレット,ポスターなどの他の情報伝達ツールを用いて啓発する必要がある.
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フォーラム
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TOPICS
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- 免疫学
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- 循環器内科学
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- リハビリテーション医学
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