医学のあゆみ
Volume 254, Issue 5, 2015
Volumes & issues:
-
【8月第1土曜特集】 ストレスシグナルと疾患─細胞恒常性維持機構の破綻と病態
-
-
- さまざまなシグナルの破綻と疾患
-
ユビキチン・プロテアソーム系分解と疾患
254巻5号(2015);View Description Hide Description◎ユビキチン・プロテアソーム系(UPS)は真核生物で広く保存された細胞内蛋白質分解系であり,多様な蛋白質の分解を調節することで,幅広い生命現象の制御を担っている.近年,UPS の機能変化がもたらす生理作用が注目を集めている.ユビキチンの付加・脱離を担う酵素の機能異常は,多くの疾患の原因となることが判明している.また,プロテアソームを構成するサブユニットの変異によってもたらされる遺伝病の発見や,神経変性疾患の病態進行へのプロテアソーム活性低下の関与を示唆する知見は,プロテアソームによる適切な蛋白質分解の重要性を端的に表している.プロテアソーム阻害剤bortezomib(Velcade(R))が多発性骨髄腫の治療薬として,これまで大きな功績をあげていることを筆頭に,UPS はさまざまな疾患の治療標的としての可能性を秘めている.しかし,いまだUPS の機能の全容は十分理解されているとはいいがたく,今後も継続してさらなる研究の進展が望まれている. -
ガス様シグナルの破綻と疾患
254巻5号(2015);View Description Hide Description◎好気性生物のエネルギー源である分子状酸素は,生体内酵素を介してさまざまな反応性ガス分子や活性分子種に変換されることで,特定の蛋白質に酸化的機能修飾を与える.こうした化学反応の生物学的意義は,単なる酸素毒の発現機構から,高次生命機能を制御するシグナル伝達機構へとパラダイム変換しつつある.本稿では,ガス状分子としての役割が確立されている酸素由来の活性分子種〔一酸化窒素(NO)や一酸化炭素(CO)〕のシグナル伝達機構とその病態生理学的意義を,酸素環境との関連から読み解く.さらには第3 のガス状メディエーターと信じられてきた硫化水素(H2S)が,そのものはシグナル分子として機能せず,より求核性の高い内因性活性イオウ種を生成するための基質として生体恒常性維持に寄与するという新たな知見についても紹介する. -
亜鉛を介するシグナル伝達――亜鉛シグナリングによる恒常性の維持と疾患
254巻5号(2015);View Description Hide Description◎亜鉛は,鉄や銅などを含む9 つのヒトの必須微量元素に列挙される.亜鉛の減少は成長遅延,骨密度の低下,皮膚の脆弱化,免疫力の低下をはじめとするさまざまな異常をもたらす.最近では,老化に伴って生体内の亜鉛量が低下すること,亜鉛の代謝異常が糖尿病,腎疾患,Alzheimer 型認知症などの,生活習慣や加齢を伴う病気とかかわりがあることが明らかになり,その因果関係に関心が集まっている.さらに,哺乳類の卵成熟に亜鉛の動的変化が必要であること,ヒトゲノムの解読によって約1 割の遺伝子が亜鉛結合ドメインをコードすることが判明し,もはや生命科学領域における亜鉛の普遍的な重要性に疑問を挟む余地はなくなっている.では亜鉛がなぜ生命に必要なのであろうか.本稿では,近年の研究によって判明されつつある“亜鉛を介するシグナル伝達:亜鉛シグナリング”について概論し,その制御機構,生体恒常性の制御における役割と,その破綻による疾患への関与について解説する. -
酸化ストレスと疾患
254巻5号(2015);View Description Hide Description◎われわれヒトを含め,酸素を使って生きている生物はつねに酸化ストレスに曝されている.酸化ストレスが大きくなると,細胞の恒常性維持機構の破綻をきたして,やがて細胞死に至る場合もある.その結果,動脈硬化,糖尿病,がん,そして神経変性疾患などさまざまな疾患の発症に結びつくと考えられている.抗酸化作用を用いた疾患の治療や予防方法の開発が期待される理由は,酸化ストレスが疾患の発症を促進する要因になっていると考えられるからである.その一方で,生物は酸化ストレスを有用なストレスシグナルとして活用し,細胞の機能を維持している.これらの酸化ストレスシグナルを打ち消してしまうと,この場合もまた細胞の恒常性維持機構の破綻を引き起こす.酸化ストレスと疾患について研究し議論する場合は,酸化ストレスの種類,場所,時期,期間,そして量など,多角的にとらえることが重要である. -
生体恒常性を制御する“善玉”メカニカルストレスと“悪玉”メカニカルストレス
254巻5号(2015);View Description Hide Description◎物理的刺激(メカニカルストレス)の生体機能制御における意義と役割は,ライフステージなど組織・器官がおかれた局面・状況により変化する.①細胞が伸展する,②細胞が加圧される,③細胞骨格の緊張が増す,④細胞が硬い基質に接着する,⑤細胞が産生する牽引力が増す,といった“緊張型”メカニカルストレスの環境・条件で活性化されるシグナルは,発生,再生,修復など,組織・器官の形成を伴う生命現象の過程で重要な役割を果たす.しかし,いったん,組織・器官が形成され,定常状態となってからの緊張型メカニカルストレスは,炎症や癌といった生体恒常性破綻につながる“悪玉”として働くことが多い.“緩和型”メカニカルストレスは,このような“悪玉”メカニカルストレスシグナルに拮抗する“善玉”シグナルを誘導する.“善玉”と“悪玉”のメカニカルストレスのバランスが生体恒常性維持に重要であり,その破綻は老化・炎症を招く(図1). - 細胞構成成分へのストレス
-
ATP 恒常性の破綻と疾患
254巻5号(2015);View Description Hide Description◎現在の医学では治療することができない神経変性疾患や難治性眼疾患に対し,神経保護は理想的な治療戦略のひとつである.著者らは,これらの疾患での神経細胞死にATP レベルの減少が深く関与していると想定し,ATP の減少を防ぐことでこれらの疾患の発症の予防と進行の抑制ができると考えてきた.そして,そのような作用をもつ化合物として,VCP とよばれる細胞に豊富に存在するATP 分解酵素のATP 分解活性を抑制する化合物KUSs(Kyoto University Substances)を開発した.KUSs は,VCP の細胞での機能に影響を与えることなくVCP によるATP の分解(浪費)を抑制し,その結果さまざまな条件でのER ストレスを軽減することで,(神経)細胞を保護する作用があることが判明した.さらにKUSs は,網膜の視神経細胞が死滅することで発症する網膜色素変性のモデルマウスrd10 に対し,in vivo において有意な神経保護作用を示した.これらの結果は神経細胞死を引き起こす病態において,VCP によるATP の消費が細胞の運命決定にきわめて重要な役割を果たすこと,そしてその制御が有効な神経保護につながる可能性を示している. -
酸化ストレスによる核ゲノム恒常性破綻の分子病態── 8-オキソグアニンによる発癌と神経変性
254巻5号(2015);View Description Hide Description◎グアニンの酸化で生じる8-オキソグアニン(8-oxoG)は,大腸菌や突然変異レポーターなどを用いた哺乳動物での研究から自然突然変異の原因として注目されている.著者らは8-oxoG の核ゲノム蓄積を抑制する3つの遺伝子(Mth1,Ogg1,Mutyh)のすべてを同時に欠損したTOY-TKO マウスの解析から,8-oxoG が体細胞と生殖細胞系列の自然突然変異の原因となることを明らかにした.TOY-TKO マウスではさまざまな臓器の自然発癌と遺伝性の先天性異常の頻度が顕著に上昇し,寿命が著しく短縮する.核ゲノムへの過度の8-oxoGの蓄積はMUTYH による塩基除去修復反応に依存して細胞死を引き起こすが,このMUTYH 依存性の細胞死はp53 による発癌抑制機構のひとつとして重要である.脳・神経組織では神経炎症応答で活性化されるミクログリアの核ゲノムに8-oxoG が蓄積するとMUTYH に依存してミクログリオーシスと酸化ストレスが亢進し,神経変性が進行する. -
核小体ストレス応答と腫瘍化進展制御──あらたな抗癌治療薬開発をめざして
254巻5号(2015);View Description Hide Description◎核小体で起こるリボソーム生合成は細胞エネルギーの大半(~80%)を消費することから,細胞の増殖・分化や栄養などの細胞内外の状態によって厳密に制御を受ける.リボソーム生合成の異常は核小体にあるリボソーム蛋白質(RP)の放出を起こし,これが核小体外の領域にあるMDM2 と結合し機能を抑制し,癌抑制因子p53 の安定化により細胞増殖を抑制させる核小体ストレス応答を引き起こす.著者らは,核小体ストレス応答経路を制御する分子としてあらたにPICT1 を同定し,PICT1 遺伝子の欠損や発現低下で起こる核小体ストレス応答がDNA 損傷なしにp53 を増加させ,腫瘍細胞の増殖や個体の腫瘍化を抑制すること,ヒト腫瘍患者の予後良好さと相関することなどを見出した.これらのことから,核小体ストレス応答経路は腫瘍化の抑制にきわめて重要であり,この経路を誘導する薬剤は遺伝毒性がない魅力的な抗癌剤となると考えられた.本稿では,核小体ストレス応答の制御機構や,腫瘍化を抑制する役割を概説するとともに,抗癌治療に向けたあらたな取組みについて紹介する. -
脂質異常とオルガネラストレス
254巻5号(2015);View Description Hide Description◎生体膜を構成する主要な脂質であるグリセロリン脂質には,極性頭部や脂肪酸の多様性により1,000 種類以上の分子種が存在する.細胞内においてその分布は一様ではなく,オルガネラごとに固有の脂質組成を有している.また,オルガネラ固有の脂質組成が各オルガネラの機能とも密接にかかわっており,脂質異常がオルガネラの機能を破綻させ,疾患へと導く.リソソームにはビス(モノアシルグリセロ)リン酸(BMP)が存在し,リソソームの脂質代謝能にかかわる.リソソームにおける脂質代謝の破綻はいわゆるリソソーム病を引き起こす.ミトコンドリアに特有の脂質であるカルジオリピン(CL)はミトコンドリア機能に必須であり,CL の代謝異常は心筋症の原因となる.小胞体の膜脂質組成の異常は小胞体ストレス応答を活性化し,代謝性疾患との関連が注目されている. - 細胞内小器官とストレス
-
拡大する小胞体ストレス病――小胞体ストレスと疾患
254巻5号(2015);View Description Hide Description◎分泌蛋白質や膜蛋白質はリボソームで合成された後,小胞体で成熟するが,小胞体の機能が阻害されると小胞体に未成熟な不良蛋白質が蓄積する.この状態を小胞体ストレスとよび,細胞は不良蛋白質を低減するためunfolded protein response(UPR)とよばれる防御機構を作動させる.UPR では小胞体膜貫通型のセンサー分子IRE1,ATF6,PERK が働くことで,小胞体外にシグナルが伝えられ,遺伝子誘導など種々の細胞応答が起こる.また,UPR のひとつである小胞体の蛋白質分解系(ERAD)では不良蛋白質を小胞体から排出し,細胞質のユビキチン-プロテアソーム系で分解している.小胞体ストレスは神経変性疾患,糖尿病,メタボリックシンドローム(MetS),および癌など多くの疾患との関連性が報告されており,発症機序解明や治療法開発の視点からも注目が集まっている. -
ペルオキシソーム形成異常と疾患
254巻5号(2015);View Description Hide Description◎高等動物のペルオキシソームは,過酸化水素の生成を伴う種々の物質酸化や極長鎖脂肪酸のβ酸化,エーテルリン脂質プラスマローゲンの生合成など,多くの代謝機能を有した,生体に必須な細胞小器官(オルガネラ)である.ヒトにおいてペルオキシソームの形成不全は,致死性の先天性代謝異常症であるZellweger 症候群などのペルオキシソーム欠損症を引き起こし,中枢神経系の機能異常を含む多様かつ重篤な症状を呈する.近年,ペルオキシソーム形成に必須な多くのペルオキシン遺伝子(PEX)のクローニングと解析が飛躍的に進み,ペルオキシソーム欠損症の病因PEX 遺伝子の全容解明に至った.本稿では,PEX 遺伝子の同定と並行して大きく解明が進展したペルオキシソーム形成機構の概要,およびオルガネラ形成異常に起因するペルオキシソーム機能の破綻と疾患発症の関連について概説する. -
Golgi 体ストレス応答と疾患
254巻5号(2015);View Description Hide Description◎ Golgi 体ストレス応答は,細胞の需要に応じてGolgi 体の機能を増強する機構である.小胞体の機能を増強する機構である小胞体ストレス応答は分子機構が解明され,疾患とのかかわりも明らかになってきているが,Golgi 体ストレス応答に関してはまだまだ未知のことばかりである.Golgi 体での糖鎖修飾能力を制御するTFE3 経路,Golgi 体ストレスによるアポトーシスを誘導するCREB3-ARF4 経路,アポトーシスから細胞を守るHSP47 経路が同定されてきたが,まだまだほかにもGolgi 体ストレス応答の制御経路があると考えられる.Golgi 体ストレス応答と関連する疾患の候補としては先天性糖鎖合成異常症やIgA 腎症,筋ジストロフィー,糖脂質の異常,関節リウマチ,神経変性疾患,癌などがあげられる.多くの医科学研究者がGolgi 体ストレス応答の研究に参入し,Golgi 体ストレス応答と疾患の関係が明らかにされるための道標としてこの稿を記す. -
ストレス顆粒の生理機能と疾患
254巻5号(2015);View Description Hide Description◎ストレス顆粒は低酸素,小胞体ストレス,熱ショック,ウイルス感染などの特定のストレス刺激によって,細胞質内に一過性に形成される点状の構造体であり,その本体はmRNA,40S リボソーム,およびRNA 結合蛋白質などからなる複合体である.ストレス顆粒が形成されると,多くのmRNA が顆粒内へ取り込まれ,蛋白質への翻訳が一時的に停止する.したがってストレス顆粒は,ストレス環境下で異常蛋白質の蓄積を防ぎ,さらなる細胞損傷を回避するストレス適応機構であると考えられている.さらに最近,ストレス顆粒が多彩なシグナル伝達分子とも相互作用して,ストレス応答シグナルを制御する多機能構造体であることが見出され,強く注目を集めている.また近年,ストレス顆粒の機能異常が神経変性疾患,癌,ウイルス感染などの病因・病態にも深く関与することが示されており,ストレス顆粒がこれら難治性疾患に対するあらたな治療標的となる可能性が指摘されている.本稿ではストレス顆粒の形成機構とその生理機能,および疾患との関連について概説する. - ミトコンドリアとストレス
-
ミトコンドリア局在型プロテインホスファターゼPGAM5 とストレス応答
254巻5号(2015);View Description Hide Description◎ミトコンドリアは細胞内のATP 産生の中枢として機能するだけでなく,アポトーシス誘導やウイルス感染応答といった細胞内のストレス応答のプラットフォームとしても機能する.一方で,ミトコンドリア自身もATP 産生に伴い発生した漏出性ROS など,つねにさまざまなストレスに曝されている.最近では,こうしたストレスからミトコンドリア自身の品質を維持するための機構もまた,ミトコンドリアに備わっていることが徐々に明らかとなってきた.とくに,ミトコンドリア選択的オートファジー(マイトファジー)やミトコンドリア不良蛋白質応答(mtUPR)などの発見に伴い,ミトコンドリアストレス応答研究はいま,あらたな盛りあがりをみせている.著者らは,このようにストレス応答とのかかわりが非常に高いオルガネラのひとつとしてのミトコンドリアに着目し,このオルガネラに局在するストレス応答分子の機能解析を行っている.本稿では,そのような分子のひとつである新規ミトコンドリア局在型Ser/Thr プロテインホスファターゼPGAM5 について,著者らがこの分子を同定した経緯から国内外からの最近の報告を概説したい. -
マイトファジー異常とパーキンソン病
254巻5号(2015);View Description Hide Description◎オートファジーによってミトコンドリアを選択的に分解するというマイトファジーの研究はこの数年間で飛躍的に進展し,もはやひとつの大きな研究テーマになりつつある.ミトコンドリアは細胞の生死に密接にかかわるため,ミトコンドリアの品質管理は細胞の恒常性維持にきわめて重要である.神経細胞のようなほとんど分裂することのない細胞の場合,ミトコンドリアの質と量は厳密に調整されるべきである.それが破綻するとパーキンソン病(PD)をはじめとする神経変性疾患につながる.家族性PD の原因遺伝子産物であるParkinとPINK1 がマイトファジーの必須蛋白質であることが明らかになり,現在ではマイトファジーの異常,つまり機能不全となったミトコンドリアを適切に排除できないことがPD の主たる発症原因ではないかと推測されている.本稿では,この数年で明らかにされたParkin 依存性マイトファジーの詳細な分子機構を紹介し,マイトファジーの異常とPD の関連についても最新の知見を交えて議論したい. -
ミトコンドリア分裂の生理機能とその破綻
254巻5号(2015);View Description Hide Description◎ミトコンドリアは酸素呼吸によりエネルギーを産生するのみならず,代謝や細胞応答などを介して個体の恒常性維持に関与している.ミトコンドリアの形態は膜の分裂と融合により動的に制御されており,組織分化や細胞応答時にその形態を大きく変化させる.Drp1 はミトコンドリア分裂に機能するGTPase であり,その遺伝子変異マウスの解析によりミトコンドリア分裂の初期発生や分化組織における機能が明らかになりつつある.また,ミトコンドリアはその内部に自身の遺伝子(mtDNA)を保持しているが,ミトコンドリア分裂はmtDNA の構造や細胞内配置の制御においても重要な機能をもっており,このmtDNA の動的な動きが個体レベルでも重要な機能を果たしていることも明らかになってきた.このように,ミトコンドリアがその多彩な機能を発現するにはミトコンドリアの動的な構造変化が必要であり,今後の病態の分子理解への応用が期待されている. -
ミトコンドリア融合因子とシグナル経路
254巻5号(2015);View Description Hide Description◎ミトコンドリア融合因子dynamin-like GTPases mitofusin(MFN)1,2,dynamin-like GTPase optic atrophy1(OPA1)はミトコンドリアの融合制御を超えて,さまざまな細胞内現象に関与しているであろうか.ミトコンドリア融合制御と独立した機能をもって,あるいはミトコンドリア融合を制御した結果として細胞の生理状況に影響を与え,細胞分化や細胞死にかかわるであろうか.内膜クリステにおけるミトコンドリア呼吸によって莫大なATP を供給しているため,エネルギー要求性の高い心筋細胞におけるミトコンドリアの果たす役割は大きく,また,小胞体との連携によりCa2+調節にも深く関与している.著者らは,ミトコンドリア融合因子MFN2,OPA1 が心筋細胞分化に必須であり,その過程はミトコンドリアの形態・細胞内局在に起因する細胞内Ca2+,カルシニューリン,Notch1 シグナルによって制御されていることを示した.また,MFNs,dynamin-related protein 1(DRP1)とNotch シグナル,OPA1 とnuclear factor kappa-light-chain-enhancerof activated B cells(NF-κB)シグナルとの関与も報告されている.本稿では,ミトコンドリア融合因子がミトコンドリア融合をコントロールするだけでなく,さまざまなシグナル経路と相互作用し,細胞分化や細胞死において重要な役割を担っていることについて説明する. -
ミトコンドリア形態の異常と疾患
254巻5号(2015);View Description Hide Description◎さまざまな細胞内の生理機能を担うミトコンドリアは必須なオルガネラであり,その機能と形態的な特徴との関連性が注目されている.ミトコンドリアはチューブ状の膜構造であり,それがたがいにつながりネットワーク構造を形成し,細胞のすみずみにまで広がっている.ミトコンドリアどうしの膜融合と分裂はその形態を決める重要な因子であり,もっともよく研究が進んでいる.しかし,ミトコンドリアの内側にクリステ構造とよばれる内膜構造があり,そこには酸化的リン酸化をつかさどる酵素群が集積している.また,ミトコンドリアはモーター蛋白質により細胞内を運搬されており,神経細胞などの極性をもった細胞のすみずみにまでエネルギーを運ぶのに大きく寄与している.近年,このようなミトコンドリアの膜形態やその動きを制御する因子がしだいに明らかになってきた.本稿ではこれらの因子の機能を概説するとともに,疾患との関連性についても述べる. -
ミトコンドリアセントラルドグマの破綻病理
254巻5号(2015);View Description Hide Description◎われわれの細胞の機能は核DNA にコードされた遺伝子群を起点とした核セントラルドグマによって制御されている.一方,ミトコンドリアにも独自のゲノム(ミトコンドリアDNA:mtDNA)を起点としたミトコンドリアセントラルドグマが存在し,細胞のエネルギー代謝(ミトコンドリア呼吸機能)に寄与している.近年,mtDNA 分子に生じた病原性突然変異が,全身性のミトコンドリア呼吸機能不全を伴うミトコンドリア病(「サイドメモ1」参照)の症例だけでなく,神経変性疾患,糖尿病,不妊症,がんの症例,さらには老化個体からも検出されることを受け,変異型mtDNA 分子種によるミトコンドリア呼吸機能の破綻が多様な疾患群の原因になるとして広く注目を集めるようになった.本稿では,変異型mtDNA 分子種の階層的な病原性発揮について解説するとともに,変異型mtDNA 分子種が関与すると想定されているがん化や糖尿病に関する知見を紹介したい. -
ミトコンドリア損傷による自然免疫の活性化と炎症関連疾患
254巻5号(2015);View Description Hide Description◎自然免疫機構は,病原体を感知してその排除を行う生体防御機構である.また,誤って活性化した自然免疫機構は過度の炎症を誘導してさまざまな疾患の発症を惹起する.NLRP3 インフラマソームは,これら正負両面の性質をもつ代表的な自然免疫機構である.NLRP3 インフラマソームは,病原体の感染によるオルガネラの損傷に応じて活性化して感染防御に働く一方で,尿酸塩結晶などの異物蓄積によるオルガネラの損傷に応じて活性化し,痛風などの炎症が関連する疾患の発症要因となる.とりわけ,ファゴソーム膜の損傷に応じて誘導されるミトコンドリアの損傷は,NLRP3 インフラマソームを強力に活性化する.そこで本稿では,ミトコンドリア損傷に応じた自然免疫の活性化と炎症関連疾患の発症について,NLRP3 インフラマソームの観点から解説を行う.
-