Volume 254,
Issue 8,
2015
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あゆみ 構造生物学が推進する医薬基盤とその応用
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医学のあゆみ 254巻8号, 525-525 (2015);
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医学のあゆみ 254巻8号, 527-533 (2015);
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◎バクテリアの獲得免疫機構に働くCRISPR-Cas9 は,ガイド鎖RNA と協働し標的二本鎖DNA を切断することから,真核生物を含めたあらゆる生物のゲノム編集に用いられている.著者らは,Cas9 とガイドRNA,相補性DNA の三者複合体の結晶構造を2.5Å 分解能で解明し,ガイドRNA 依存的なDNA 切断機構を明らかにした.また著者らは,複合体の構造に基づいて,ガイドRNA にMS2 タンパク質のアプタマー配列を組み込み,一方MS2 にさまざまな転写活性化因子を融合することで,Cas9 にさまざまな転写活性化因子を集積させ,遺伝子特異的な転写活性化ツールを創成することに成功した.このツールを用いることで,メラノーマ細胞の抗癌剤耐性を付与している遺伝子を,新規に同定することに成功した.さらに,複数のCas9・ガイドRNA・二本鎖DNA 四者複合体の立体構造に基づき,現ゲノム編集ツールの弱点を克服し,革新的なゲノム編集ツールセットを構築し,細胞や動物で評価を行うとともに,相同組換え技術の開発を行い,ブタの遺伝子治療を近々の目標としている.さらに,iPS 細胞技術と補完的に用いることで,将来の細胞治療技術を開発していきたいと考えている.
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医学のあゆみ 254巻8号, 535-539 (2015);
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◎ Alzheimer 型認知症(AD)は明確な予防法・治療法が確立していない難病のひとつであり,その発症メカニズムも不明な点が多いが,アミロイドβ(Aβ)ペプチドが細胞外で凝集体となって蓄積し,それが何らかの形で発症にかかわっているのはほぼ間違いないとされている.著者らは2014 年に,巨大受容体sorLA がAβを細胞内で直接捕捉し,分解経路へと誘導することを発見した.著者らはさらにsorLA のAβ認識についての構造生物学的研究を進め,sorLA がそのN 末端に存在するVps10p ドメインを使ってAβをどのように認識しているのかを詳細に明らかにすることに成功した.その結果,sorLA Vps10p ドメインはβシート凝集を起こしやすいペプチドを広く認識する巧妙なメカニズムを備えていることが明らかとなった.
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医学のあゆみ 254巻8号, 541-545 (2015);
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◎ Toll 様受容体TLR8 は,ウイルスや細菌に由来する一本鎖RNA を認識して自然免疫反応を引き起こす.また,化学的に合成された化合物によっても活性化される.化学的にも構造的にも大きく異なる両者が,どのようにしてTLR8 を活性化するかは不明であった.著者は,TLR8 の構造科学的な研究を通して,化学合成リガンドおよび一本鎖RNA の認識機構を明らかにするとともに,TLR8 は二量体構造を再構成することにより細胞の内部にシグナルを伝達することを解明した.TLR8 はウリジンセンサーであり,一本鎖RNA の分解産物であるウリジンおよびオリゴヌクレオチドによる協調的な効果により,活性化されることを示した.さらに,TLR8 の構造情報をもとにして,新規骨格をもつ化合物の創製にも成功した.構造情報のさらなる医薬への応用が期待される.
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医学のあゆみ 254巻8号, 546-550 (2015);
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◎ G タンパク質共役型受容体(GPCR)は,ホルモンなどの生理活性物質を受容し,細胞内へ情報を伝達する膜タンパク質であり,もっとも重要な創薬標的タンパク質群として知られている.副作用が少なく,効果の高い薬剤の設計・改良のために,医薬標的となるタンパク質の立体構造に基づいた医薬分子設計が有効であることが示されている.しかしGPCR は,①熱安定性が低く,大量生産が難しい,②結晶化のための親水性表面が少なく結晶化が難しい,という問題点があり,X 線結晶構造解析は遅れていた.最近,各種発現システムを用いた変異体作製技術や結晶性を向上させる抗体作製技術,膜タンパク質に特化した結晶化技術などが開発され,GPCR の構造研究が飛躍的に進んだ.本稿では,これらの開発技術の現状を紹介し,今後の課題について考察する.
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医学のあゆみ 254巻8号, 551-557 (2015);
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◎インフルエンザRNA ポリメラーゼは,ウイルスの増殖に中心的役割を担っており,すべての亜型のインフルエンザウイルスにおいてアミノ酸配列の保存性が高く,新規抗インフルエンザ薬のターゲットとして注目されてきた.RNA ポリメラーゼは,3 つのサブユニットPA,PB1,PB2 からなるヘテロトライマーで機能しており,どれかひとつの分子でも欠けるとウイルスの増殖が止まる.著者らは,RNA ポリメラーゼPA-PB1,およびPB1-PB2 サブユニット複合体の構造解析に成功した.PA-PB1 複合体中では,サブユニットどうしが鍵と鍵穴のような形で結合していた.この構造はインフルエンザウイルスに特有のものであるため,この結合部分をターゲットにして設計される薬剤は,ヒトへの副作用の心配は比較的小さいと考えられる.本稿では,これらの構造情報に基づく創薬研究を紹介する.
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医学のあゆみ 254巻8号, 559-565 (2015);
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◎ウイルスは,体内・細胞侵入から放出に至るまでその生活環のすべてにおいて宿主の生命活動を巧妙に利用している.宿主因子とウイルス分子の相互作用を原子レベルで解明できれば,宿主とウイルスが攻防を繰り広げている進化の過程を目の当たりにし,感染防御に欠かせない宿主の生命現象を深く理解することができる.本研究では,単純ヘルペスウイルスⅠ型(HSV-Ⅰ)がヒト細胞に侵入する際に免疫系受容体paired Ig-liketype 2 レセプターα(PILRα)を利用する仕掛けを,構造生物学的手法により明らかにした.PILRαはHSV-1の細胞融合タンパク質gB の特定領域を認識するが,この認識は,修飾されたO 型糖鎖と糖鎖が結合しているポリペプチド鎖を同時に認識する新奇なものであった.O 型糖鎖とペプチドの両者がgB とPILRαの結合に必要なことを,表面プラズモン法により確認し,実際のウイルス感染も阻害されることが明らかとなった.この発見を利用し,HSV-Ⅰ感染予防などの創薬に向けてスクリーニングや化合物の設計・合成を行っている.
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医学のあゆみ 254巻8号, 566-570 (2015);
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◎タンパク質を直接の標的とする分子標的創薬の重要性は近年高まりつつあるが,その一方,大規模ライブラリーのスクリーニングを主体とする創薬については取得可能な化合物の限界も指摘されており,アカデミアを中心とした創薬においては,ライブラリーの規模やスクリーニングにかけるリソースの限界もある.また,真に臨床応用が可能な医薬品を開発するためには化合物骨格のリガンド効率がきわめて重要であるが,リガンド効率のより高い低分子化合物を合理的に開発するためには,標的タンパク質とそのリガンドなどの複合体の立体構造を解明し,その構造情報に基づいて分子設計・評価を行うことが重要である.このような見地に基づいて本稿では,理化学研究所・ライフサイエンス技術基盤研究センターがもつ構造解析・インシリコ創薬基盤について概説し,それらを活用して開発した分子標的阻害剤の実例を紹介する.
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連載
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補完代替医療とエビデンス 11
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医学のあゆみ 254巻8号, 576-580 (2015);
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◎“健康食品”の“有益性”に関する情報は,科学的根拠の有無にかかわらず,産業界や宣伝広告を含めたメディアから大量に提供されているが,“有害性”に関する消費者向けの情報は少ない.“健康食品”が包含する問題のなかから,4 項目(①一般的食品成分でも病態によっては有害となることがある,②特定の食品・食品成分の大量摂取が問題を惹起することがある,③食生活の改善を錯覚させる,④非食品が“食品化”される)を取りあげた.また,食べものや栄養が健康や病気へ与える影響を過大に評価したり信奉することを,フードファディズム(Food faddism)というが,“健康食品”はその側面を強くもっている.ありえない影響(効果や害)をあるかのようにいい募ることは“Health Fraud”(健康詐欺)あるいは“Quackery”(インチキ療法)につながり,詐欺的商法に悪用され,適切な医療から患者を遠ざける一因ともなりうる.
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輝く 日本人による発見と新規開発 19
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医学のあゆみ 254巻8号, 581-584 (2015);
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フォーラム
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続・逆システム学の窓 11
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医学のあゆみ 254巻8号, 585-590 (2015);
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・コンピュータ能力の急速な進歩により,水に溶けた蛋白質の動く様子をシミュレーションできるようになり,2013年のノーベル化学賞は分子動力学に贈られた.これまで経験に頼ってきた薬の開発が,理論的な設計により大きく変わろうとしている.ところが,シミュレーションをするには3Å 以下の原子レベルの結晶構造の情報が必須である.標的となる蛋白質の結晶ができなかったり,結晶化できても解像度の悪いことが薬設計のボトルネックとなっている.・この問題に応える技術が開発された.『Science』の2015 年6 月5 号にNIH のSubramaniam らが,クライオ電顕での多数のイメージの解析から,2.2Å の解像度でβガラクトシダーゼと阻害剤の結合構造が解けたと報告した.彼らは昨年(2014),『Nature』にグルタミン酸受容体のopen とclose の構造を7Å でみえたと報告したばかりだ.こうした電顕でみる像の解像度の急速な進歩により,結晶がなくても標的の蛋白質と薬の結合が原子レベルでみえるようになってきた.・この解像度の急激な進歩は,電子ビームによる解像度の向上というよりは,ベイズ統計を用いたマシンラーニングのアルゴリム,Relion の開発による.ベイズ統計は18 世紀の発案以来,原理的には面白いが,現実的には計算が膨大になりすぎ実用性がないとされてきた.その後,第二次大戦中のイギリスのチューリングのドイツ暗号解読から急速に進歩し,Google の検索エンジンや,迷惑メールの選別など,あやふやなビッグデータから実際に有用性の高い機械学習のメソッドとして急速に広がっている.・Subramaniam は著者らに対して,ベイズ統計の応用において,HIV1 ウイルスの電顕像からアインシュタインの顔でも過剰に再構成(オーバーフィッティング)してしまう問題を指摘し,三次元の蛋白質を二次元に投射するときに起こる情報量の減少を意識した検証アルゴリズム(FSC)の重要性を強調している.ヒトや動植物,微生物,ウイルスのゲノム解読から多数の分子標的の蛋白質が明らかになるなかで,医学薬学者も計算科学,とくにマシンラーニングがベイズ統計を時代の中心におしあげている実情を理解する必要がある.天動説のようなフィッシャー統計から地動説のようなベイズ統計へ科学が動いている.
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医学のあゆみ 254巻8号, 591-592 (2015);
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医学のあゆみ 254巻8号, 593-596 (2015);
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TOPICS
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遺伝・ゲノム学
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医学のあゆみ 254巻8号, 571-571 (2015);
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病理学
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医学のあゆみ 254巻8号, 572-573 (2015);
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神経精神医学
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医学のあゆみ 254巻8号, 574-575 (2015);
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