医学のあゆみ
Volume 255, Issue 1, 2015
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【10月第1土曜特集】 肺高血圧症Update─病態解明の進歩から治療への応用
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- 肺高血圧症病態解明のupdate
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肺高血圧症の発症における遺伝的素因,エピジェネティクス
255巻1号(2015);View Description Hide Description◎肺動脈性肺高血圧症(PAH)は微小血栓,肺血管攣縮,血管平滑筋細胞などの増殖による肺小動脈のリモデリングなどによって,肺動脈圧の上昇を認め右心不全,死亡へと至る予後不良の疾患である1).遺伝学的研究により,家族性肺動脈性肺高血圧症(familial PAH)においてBMPR2 遺伝子変異が報告され,その後同じTGF-βシグナルのレセプター蛋白であるALK1(ACVRL1),endoglin(ENG),Smad9(SMAD9)などがつぎつぎに報告されている.2013 年のニース分類(表1)2)において,家族性あるいは遺伝子変異をもつPAH は遺伝性PAH(heritable PAH)として分類されており,細胞・分子レベルでの発症メカニズムに対する基礎研究が進んできている.PAH の遺伝子変異の多くはTGF-βシグナルに関連するが,近年次世代シークエンスの発展により,少数の家族発症であるがCAV-1 やKCNK3 が報告されている.また,PAH は遺伝子変異が存在してもかならずしも発症するわけではなく,サイトカイン(IL-6)などの炎症を代表とする環境因子やエピジェネティクスの影響も指摘されてきている.本稿では,PAH 発症の中心となるTGF-βシグナル関連遺伝子変異に関連して,そのPAH 発症メカニズム,またすこしずつ明らかになってきているPAH のエピジェネティクスを概説する. -
血管内皮機能不全からみたPAH
255巻1号(2015);View Description Hide Description◎肺動脈性肺高血圧症(PAH)の病態に血管内皮細胞の機能不全が関与することが示唆されている.古典的には血管内皮由来の血管作動物質の作用の不均衡に伴う肺動脈の過剰収縮が重要と考えられ,これらの血管作動物質の情報伝達系に介入する薬剤の開発が進められた.実際,これらの薬剤はPAH 患者に対して有効性を示している.一方,最近,血管内皮細胞を含む肺血管の構成細胞の異常増殖がPAH の本態であるとする仮説が提唱されている.モデル動物での解析が進み,細胞の異常増殖を標的とする治療法の開発も進みつつある.本稿では血管内皮機能不全の観点から,PAH の病態を考察する. -
平滑筋細胞の異常とPAH
255巻1号(2015);View Description Hide Description◎肺動脈性肺高血圧(PAH)において,閉塞性内膜病変は主要な肺血管病変である.その閉塞性内膜病変の構成細胞を知ることは,病変の形成機序と治療標的の解明に重要である.従来の研究で,細胞死抵抗性内皮細胞,筋線維芽細胞の関与が報告されてきた.最近,Sugen/低酸素曝露によるヒト肺動脈性肺高血圧モデルが報告され,閉塞性内膜病変,叢状病変を伴うことから,本症の病態を知るうえで重要なモデルと考えられる.本稿では,閉塞性内膜病変の“構成細胞”に焦点を絞り,病変の進展過程,薬剤による内膜リバースリモデリング効果について,本モデルを用いた最近の研究を紹介する.最近の患者肺組織,Sugen/低酸素曝露モデルの研究結果と合致して,α-アクチン陽性細胞が閉塞性内膜病変の主要細胞成分と考えられ,マクロファージの浸潤と関連して増殖活性の高い低分化型平滑筋細胞の関与が示唆された.新規エンドセリン受容体拮抗薬マシテンタンは,本モデルで内膜のリバースリモデリングを誘導し,内膜平滑筋細胞の細胞死抵抗性の克服と関連した.低分化型平滑筋は本症の重要な細胞標的(cellular target)であり,アポトーシス抵抗性の克服が重要な課題と考えられた. -
肺高血圧病態における炎症の関与
255巻1号(2015);View Description Hide Description◎肺高血圧症(PH)はさまざまな病態に関連して発症することが知られており,2013 年第5 回ワールドシンポジウムによる肺高血圧症の臨床分類(Nice 分類)では,病因・病態が類似していると考えられる症例を5 つの群に分類している.しかし,第5 群には“原因不明の複合的要因による肺高血圧症”として,いまだ因果関係が明確でない多様な疾患も数多く含まれている.肺動脈性肺高血圧症(PAH)の病態は肺動脈の攣縮と器質的病変に由来し,肺動脈病変は血管構成細胞の異常増殖を伴う血管リモデリングにより形成される.肺動脈血管リモデリングには,構成細胞の増殖を制御するさまざまな増殖因子やサイトカイン,そしてこれらの情報伝達系の異常が深く関与していると考えられているが,その発症・進展過程に“炎症・感染”というプロセスも大きくかかわっていることが近年指摘されている.かねてより第1 群にはhuman immunodeficiency virus(HIV)感染に関連するPAH が含まれているが,ほかにもウイルス感染により引き起こされた“慢性炎症”がPAH 発症に関与している可能性を示唆する症例もあいついで報告されている.また,低酸素に曝露されることによりさまざまな炎症性サイトカインの産生亢進が肺組織において観察されている.PAH 病態を理解するうえで,bone morphogenic protein(BMP)シグナルと血管作動性サイトカインや増殖因子との機能的関連だけでなく,炎症性サイトカインとの関連を含めたあらたな“multiple-hits theory”を理解することが必要と思われる. - 肺高血圧症診断update
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肺高血圧症診療に心エコーを役立てる
255巻1号(2015);View Description Hide Description◎心エコーは,肺高血圧症(PH)が疑われる症例,またハイリスク症例(PH の発症率の高い疾患に罹患している症例)にまずスクリーニングとして行われる画像検査法である.心エコーはさらにPH の重症度評価,原因精査,予後の評価にも応用することができる.PH の存在診断のためには,右室の形態評価,右室流出路の血流波形,三尖弁圧格差の評価が基本である.また,心エコーはPH の原因疾患の絞込みにも有用で,とくに左室機能不全,僧房弁疾患,心内シャント性疾患などの検出はとくに重要である.また,PH の重要な予後予測因子のひとつである右心機能評価にも有用である.心エコーは非侵襲的で,比較的安価な検査であり,治療の効果判定やフォローアップにも用いられるが,その際は圧の評価のみではなく,各種のパラメータを丁寧に計測し,過去のデータと比較し,それぞれがどちらの方向に向かっているのか(改善か増悪か)を確認し,総合的な評価をすることが大切である. -
肺高血圧診断におけるCT の意義
255巻1号(2015);View Description Hide Description◎肺高血圧症(PH)の確定診断や病勢評価のためのゴールドスタンダードは,右心カテーテル検査による右心血行動態の測定である.しかし,これは侵襲的な検査であるため,従来から非侵襲的な画像診断がこれに代わるものとして検討されてきた.computed tomography(CT)は近年の技術的進歩が著しく,検出器の多列化・高速化によって空間分解能・時間分解能が向上した.さらに,良質で高性能なワークステーションが臨床現場に導入されるようになり,それにより診断に有用なさまざまな画像や情報を得ることができるようになった.また,心電図同期撮影の手法が導入されたことからCT でも従来は困難とされていた心臓の形態的変化をとらえられるようになってきた.これらの技術がPH 診断にどのように貢献しているか,320 列CT での知見を中心に概説する. -
肺高血圧症患者における右室心筋細胞の代謝機能変化─RI 検査により糖および脂肪酸代謝をどこまで明らかにできるか
255巻1号(2015);View Description Hide Description◎肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療ターゲットはおもに肺動脈病変であるが,PAH の主要な死亡原因は右室機能不全(RVF)である.近年,肺高血圧症に合併した右室肥大(RVH)心筋細胞の代謝能に着目した研究が進み,RVF に対する右室機能改善のための直接的または選択的な治療法が模索されている.実際,RVH やRVFでは心筋細胞のミトコンドリア代謝機能異常が指摘され,糖や脂肪酸代謝に変化がある.今後,これら代謝異常を治療ターゲットとして考慮する場合,その変化を正確に評価しなければならない.著者らはその方法として,FDG-PET 検査およびBMIPP 心筋シンチグラフィ検査を用いた.予備研究の段階であるが,慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)患者の血栓内膜摘除術前後で同検査を施行し,右室心筋における糖や脂肪酸の取込みが肺循環動態と有意に相関することを示した.本稿では,右室心筋における代謝異常について,著者らの予備研究結果および最近の報告とともにその病態を考えたい. -
肺高血圧症におけるpulmonary functional MRI
255巻1号(2015);View Description Hide Description◎肺高血圧症における形態診断は主として胸部単純写真やCT が用いられるものの,機能診断においては心エコー,換気・血流シンチなどの核医学検査を中心に行われている.しかし近年では,核磁気共鳴画像(MRI)の進歩やさまざまな定量評価を可能にするソフトウェアの開発などにより,MRI は肺高血圧症を含めた肺血管性疾患の形態診断のみならず機能診断法としての発展を1990 年代後半から継続的に遂げつつあり,2000 年代になってその進歩は急速に進んでおり,その臨床的有用性も確立されつつある.このような状況を踏まえて本稿では,肺高血圧症における肺機能MR(I pulmonary functional MRI)の最先端研究動向と将来展望に関して述べる. - 肺高血圧症治療update
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レジストリーからみた肺高血圧症の治療と予後
255巻1号(2015);View Description Hide Description◎肺高血圧症に対するレジストリーに関しては,アメリカやフランスなど欧米からすでに大規模な知見が数多く公表されている.これらの知見は実臨床における疾患背景の把握のみならず,治療方針や予後の国際比較および日常診療へのフィードバックにおいても大きな役割を果たしてきた.そこでわが国においても厚生労働省科学研究費補助金による研究班主導によるJapan PH Registry(JAPHR)が構築され,わが国における肺高血圧症の予後評価などを行ってきた.その結果,先進国と比べて診断時の疾患背景や重症度に差がないにもかかわらず,従来の欧米のデータと比較して著しく予後が良好であることが示された.その背景には,積極的な多剤併用療法やエポプロステノールの高用量での使用が行われてきたことがあげられる. -
特発性および遺伝性PAH の治療戦略―血管拡張剤の併用療法を中心に
255巻1号(2015);View Description Hide Description◎特発性および遺伝性PAH の治療として,生活の注意からは労作制限,妊娠の禁止,低酸素血症にはHOT,心不全にはその治療を行うことが重要である.薬物治療としては,プロスタグランジン系,NO 系,エンドセリン系,の 3 系統の薬剤を使用するが,最近はupfront combination treatmen(t 最初から3系統の薬剤を併用する治療)の有効性が高く,治療の主流になりはじめている.本稿ではそれに関する最近のエビデンスを示した.また,有効な治療を進めるにあたっては適切な治療目標を定め,それを改善させるように治療することが重要であるが,治療目標として平均肺動脈圧の低下をめざすことが有用であることが示されつつある.自験例からこの点を検討し,やはり同様の結果が得られたので記載する. -
膠原病に伴う肺動脈性肺高血圧症の治療戦略
255巻1号(2015);View Description Hide Description◎膠原病では生命予後にかかわるさまざまな臓器病変を生じうるが,肺高血圧症(PH)もそのひとつである.さらに,PH の分類のうち,肺動脈性肺高血圧症(PAH)だけでなく,左心疾患や肺疾患,肺静脈閉塞性疾患(PVOD),慢性肺血栓塞栓症に伴うPH など多彩な病態で生じることが大きな特徴である.PAH に対しては近年,肺動脈を標的とした血管拡張薬がつぎつぎと臨床に導入され,自覚症状,血行動態,生命予後の改善が示されてきた.さらに,全身性エリテマトーデス(SLE)や混合性結合組織病(MCTD)に伴うPAH では,免疫抑制療法と肺血管拡張薬を組み合わせた集学的治療により血行動態の正常化も可能である.一方,全身性強皮症(SSc)に伴うPH は複数の病態が併存する複雑な心肺病変を呈するため,治療薬の調整が求められる.本稿では,膠原病関連PAH における基礎疾患・併存病変に応じた治療戦略について体系的に解説する. -
成人先天性心疾患に伴うPAH に対する最新の治療戦略
255巻1号(2015);View Description Hide Description◎先天性心疾患(CHD)の出生率は約1%で,いまや手術の進歩により心血管系構造異常(structural heart disease)の患者のほとんどが成人化し,成人先天性心疾患(ACHD)患者群を構築するようになった.2007 年時点で,CHD 70 万人以上,ACHD 40 万人以上と推察されているが1),いずれ人口比1%に近似する患者数となることは想像に難くない.ACHD 患者の問題は多岐にわたるが,循環器分野では心不全,不整脈,肺高血圧(PH)の病態が主要問題である.本稿ではそのなかのPH,なかでもシャントによる高肺血流により誘起される肺動脈性肺高血圧(S-PAH)に対する治療戦略に関して論じてみたい. -
PVOD/PCH の診断と治療
255巻1号(2015);View Description Hide Description◎肺静脈閉塞症(PVOD)と肺毛細血管腫症(PCH)はともに肺高血圧をきたすまれな疾患で,肺高血圧症臨床分類では1’ 群にあたる.肺動脈性肺高血圧症とは異なり,肺内の静脈から毛細血管にかけて狭窄・閉塞を生じるため,肺血管抵抗が上昇する.根治療法は肺移植のみであり,肺血管拡張薬の使用により肺水腫となる危険性があり,非常に予後不良である.平成27 年度から厚生労働省難治性疾患克服研究事業の指定難病のひとつとなった.PVOD/PCH の確定診断は病理組織所見に基づいて行われるが,肺高血圧のある状態で肺生検を行うことは危険性が高いため通常は行われず,肺動脈性肺高血圧症とは治療方針や予後が異なるため,臨床所見に基づいた臨床診断を行う必要がある. -
PAH の新規治療の展望
255巻1号(2015);View Description Hide Description◎肺動脈性肺高血圧症(PAH)は進行性の希少疾患で,右心不全や呼吸障害を経て死をもたらす.治療としては病態に応じた三系統の特異的治療が行われており,エンドセリン(ET)経路に対してエンドセリン受容体拮抗薬,一酸化窒素(NO)-cyclic guanosine monophosphate 経路ではホスホジエステラーゼ5 型阻害薬と可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬,プロスタノイド-cyclic adenosine monophosphate経路ではプロスタノイドが用いられている.近年,わが国においては新規治療薬の承認があいつぎ,第3 のエンドセリン受容体拮抗薬であるマシテンタン,可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬のリオシグアト,プロスタサイクリン誘導体であるトレプロスティニルなどが製造販売承認を得ている.また,2013 年のニース会議ではsequential combinationtherapy のエビデンスレベルがⅠ-A に引き上げられ,一方でupfront combination therapy のエビデンスの蓄積がはじまっており,転換期を迎えている. -
左心系心疾患に伴う肺高血圧症
255巻1号(2015);View Description Hide Description◎左心系疾患に伴う肺高血圧症はニース分類およびわが国の肺高血圧症治療ガイドラインでグループ2(PHdue to left heart disease)に分類される.本疾患はその成因より,①収縮不全(左室収縮機能の低下に基づく心不全),②拡張不全(左室拡張機能の低下に基づく心不全),③弁膜症,および④先天性・後天性の左心流入路・流出路閉塞の4 種のカテゴリーに分類されている.左心系疾患に肺高血圧を合併する頻度は高く,左心不全の60~70%近くに肺高血圧を合併するとの報告もある.機序については,上昇した肺静脈圧が肺毛細血管を介して肺動脈系へ伝播されることによって引き起こされるとされている(passive).この状態が持続すると肺動脈の反射性の収縮が起こり,肺動脈圧は上昇し,さらには細動脈レベルでの解剖学的変化(リモデリング)も生じ,肺高血圧は進行する(reactive).この状態はout of proportion とよばれていたものである.慢性心不全に肺高血圧を合併した場合の予後は不良であり,死亡率は高く,さらには心臓移植や人工心臓といった治療に対する大きな障壁となる. -
呼吸器疾患に伴うPH の治療戦略
255巻1号(2015);View Description Hide Description◎肺高血圧症(PH)とは,肺血管収縮,肺血管リモデリングにより安静時平均肺動脈圧(mPAP)が25 mmHg 以上の上昇を認める病態の総称である.PH は国際分類(表1)1)において5 つの群に分けられ,慢性呼吸器疾患に伴う肺高血圧症(PH-CLD)は低酸素血症に伴うものとともに3 群に分類される.3 群PH の機序で重要なのは低酸素性肺血管攣縮(HPV)と有効肺血管床の減少であり,長期間の低酸素曝露や肺病変進行に伴う高度構造破壊がPH の要因になる.3 群PH はPH 全体のなかでは左心性疾患に伴う2 群PH についで2 番目に多いが,肺血管そのものに病変のある1 群の肺動脈性肺高血圧(PAH)とは異なり,mPAP は軽度の上昇にとどまる.PH-CLD のなかには,純粋な3 群のみではなく1 群的要素,2 群的要素さらには4 群的要素を合併している症例もある.臨床の第一線においてPAH と単なるPH とを混同している場合も少なくない.PAH の合併や1 群的要素を推測される高度なPH(mPAP>35 mmHg)の際には肺血管拡張薬を検討してよいが,それ以下のPH では有効な治療として認められるのは酸素療法のみであり,肺血管拡張薬は使用すべきではないとされる.しかし,“酸素療法のみでは十分でない”と,ほぼすべての臨床医が感じており,血管拡張薬が有効であったとする報告が散見されるようになってきている.PH-CLD に対しては安易な血管拡張薬の使用は慎むべきではあるが,右心カテーテルを施行し,詳細に病態と治療効果を評価することで薬物療法の道が開ける可能性が期待される. -
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の病態と薬物治療
255巻1号(2015);View Description Hide Description◎慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は,線維に富んだ器質化血栓が肺動脈を狭窄し,肺高血圧症をきたす疾患である.不溶化した器質化血栓が形成され,肺高血圧に至る機序は明らかにされていないが,“凝固線溶系の異常”“炎症”“異常な細胞増殖”が複合的に関与していると考えられる.CTEPH ではワルファリンによる半永久的な永続的抗凝固療法が推奨されているが,新規経口抗凝固薬(new oral anticoagulant:NOAC)の有用性についてはいまだ明らかにされていない.手術非適応症例を中心にオフラベル使用の肺血管拡張薬の有効性が示されてきたが,可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬リオシグアトriociguat が手術適応症例や術後肺高血圧遺残症例の血行動態および運動耐容能に有効であることが大規模臨床試験で示され,CTEPH に適応をもつ肺血管拡張薬としてわが国でも保険適応となった. -
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)におけるバルーン肺動脈形成術(BPA)手技の実際と治療成績
255巻1号(2015);View Description Hide Description◎慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は,肺動脈の慢性血栓塞栓により肺血管抵抗の上昇,肺高血圧を呈し,最終的には右心不全へ至る予後不良の疾患である.CTEPH の治療として肺動脈血栓内膜摘除術(PEA)が外科的根治術として確立しており,現時点ではもっとも推奨される治療である.しかし,手術適応外となる症例についてはいまだに多くの議論と課題が残っている.近年,PEA 適応外とされた症例に対してバルーン肺動脈形成術(BPA)の有効性が報告されてきている.国立循環器病研究センターでは肺循環科,血管外科,放射線科を中心として毎週CTEPH 症例に関するカンファレンスが行われており,そこでPEA 適応外とされた症例について,2010 年よりBPA を開始している.本稿ではその経験をもとに,治療適応,治療手技,初期成績,当院での治療成績向上のための努力について述べる. -
CTEPH に対する肺動脈内膜摘除術―治療成績と適応
255巻1号(2015);View Description Hide Description◎慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は,器質化血栓が肺動脈を狭窄・閉塞し肺高血圧となる疾患である.肺動脈内膜摘除術(PEA)は肺循環動態だけでなく換気血流不均等(低酸素血症,死腔換気)も改善し,その効果は長期に及ぶため,CTEPH 治療における第一選択となっている.PEA はすべての区域枝・亜区域枝の器質化血栓を摘出することを目的とするが,高度な技術を必要とし,経験の蓄積が重要である.以前は手術死亡率が高かったが,近年,手術死亡率や在院日数の減少など手術成績が向上し,経験のある施設ではすべてのCTEPH 症例が手術適応となっている.手術可否の判断には,器質化血栓の量や位置と肺血管抵抗値の関係が重要であるが,外科医の経験や,画像診断は器質化血栓量を過小評価することを考慮しなければならない.“CTEPH は手術により治癒する可能性がある疾患”であり,症状の程度にかかわらず,経験のある外科医を含むCTEPH チームにコンサルトすることが重要である. -
肺高血圧症に対する肺移植の適応と予後
255巻1号(2015);View Description Hide Description◎肺高血圧症(PH)に対する肺移植施設紹介の適応は,①内科的治療不応,②急速な病態進行,③PH を標的とした点滴静注薬使用,④肺静脈閉塞症(PVOD)あるいは肺毛細血管腫症(PCH)の診断または疑い,とされている.PH に対する肺移植の標準術式は脳死両肺移植である.わが国では脳死肺移植待機登録したPH 例の約1/3 が肺移植を受け,約1/3 が待機中死亡し,約1/3 が待機中である.PH に対するわが国の肺移植後5 年生存率は70%弱で,欧米を中心とした国際登録データの約50%に比べ良好であるが,欧米同様に術後早期死亡率が2 割弱と高いのが最大の課題である.移植後早期をのりきった症例の大部分は,良好な活動性を保ちながら社会生活を営むことができている.PH に対する肺移植では,術後早期成績の改善をはかる継続的な取組みが必要である.
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