Volume 255,
Issue 6,
2015
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【11月第1土曜特集】 クリニカルエピゲノミクス
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医学のあゆみ 255巻6号, 575-575 (2015);
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総 論
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医学のあゆみ 255巻6号, 579-584 (2015);
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◎エピゲノムは,細胞の分化段階や環境因子への曝露に応じて適切に遺伝子を働かせる仕組みであり,個々の遺伝子のエピジェネティック修飾のゲノム全体像でもある.エピジェネティック修飾とは,DNA メチル化とヒストン修飾である.DNA メチル化は遺伝子プロモーター領域ではCpG アイランドの有無に応じて,また,遺伝子の部位に応じて遺伝子転写(遺伝子発現)に強い影響を及ぼす.ヒストン尾部修飾にはアセチル化やメチル化などがあり,転写活性化・転写抑制・遺伝子領域やエンハンサーなどのマークとなる.エピゲノム異常が発がんの原因となることが知られ,臨床応用が進んでいる.エピゲノム異常には慢性炎症により誘発され,高頻度に特定の遺伝子に誘発されうるという特徴がある.したがって,がん以外のポリクローナルな疾患(精神・神経疾患,免疫・アレルギー疾患,代謝疾患,循環器疾患など)への関与も予想される.
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医学のあゆみ 255巻6号, 586-592 (2015);
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◎ゲノム塩基配列に変化を起こさずに遺伝子発現を制御し,体細胞分裂後も引き継がれる後天的な仕組みをエピジェネティクスという.その代表的なものとしてシトシン塩基に起こるDNA メチル化や,ヌクレオソームを構築するヒストンのN 末端に起こるヒストン修飾,ヌクレオソームの集合であるクロマチン構造による制御などがあげられる.発生や分化の段階で重要な役割を果たすエピジェネティクスは,正常と癌,そして癌のサブタイプ形成にも寄与していることがわかってきている.候補遺伝子に絞った解析から次世代シークエンサーを用いたゲノム網羅的解析まで解析技術は向上し,細胞株や臨床検体,そして単一細胞まで,エピゲノム情報の収集が進んでいる.
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がん診断への応用
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医学のあゆみ 255巻6号, 595-601 (2015);
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◎近年のゲノムシークエンス技術の進歩により,ヒトゲノムに続きヒトエピゲノムの全体像が明らかになりつつある.がん細胞には遺伝子変異などのゲノム異常に加えさまざまなエピゲノム異常が存在する.これまでに多くのがんにおいてDNA メチル化異常,ヒストン修飾異常などのエピゲノム異常が報告されており,ゲノム異常とエピゲノム異常が協調して発がんや悪性化機構に関与していることが示されてきた.現在,がん細胞に存在するエピゲノム異常を検出し,がんの早期診断,予後予測,治療感受性予測などに応用するための研究が精力的に行われている.本稿では,エピゲノム異常を指標としたがん診断マーカーの開発にかかわる基礎的研究から臨床応用までについて解説したい.
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医学のあゆみ 255巻6号, 603-608 (2015);
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◎近年,がんのゲノム・エピゲノム解析が盛んに行われ,分子異常に基づくがんのサブタイプ分類や質的診断への応用が多くの研究者により検討されている.代表的ながんのエピゲノム変化として,CpG アイランドメチル化形質(CIMP)がある.CIMP 陽性大腸がんは,特徴的な分子生物学的および臨床病理学的所見を示すことが以前より知られている.さらに近年では,大腸鋸歯状病変がCIMP 大腸がんと共通する分子異常を示すことから,serrated pathway とよばれるあらたな発がん経路が提唱されるようになった.エピゲノム分類はほかのさまざまながん種においても検証され,胃がんではEpstein-Barr ウイルス,脳腫瘍ではIDH 遺伝子変異が,それぞれDNA メチル化異常の引き金になることが明らかにされている.がんのエピゲノム異常は臓器ごとに異なった成立要因に基づいており,その臨床的意義もがん種ごとに多様であるといえる.
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医学のあゆみ 255巻6号, 609-614 (2015);
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◎さまざまな腫瘍において,MGMT 遺伝子のプロモーター領域での異常メチル化が検出されている.MGMTはアルキル化修飾によって生じるO6-メチルグアニン(O6-meG)に対する修復酵素のひとつであり,この遺伝子の異常メチル化は脳腫瘍のアルキル化剤治療における効果予測因子として知られている.とくに,MGMTの異常メチル化が検出された高齢者膠芽腫では,化学療法剤テモゾロミドの治療効果が高いことが第Ⅲ相試験で明らかになった.MGMT メチル化解析法にはバイサルファイト処理したDNA を用いたメチル化特異的PCR やパイロシーケンスがよく知られており,臨床的に活用されている.
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医学のあゆみ 255巻6号, 615-621 (2015);
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◎腎細胞がんは,一般的な化学療法のもっとも効きにくいがんのひとつであり,新規分子標的治療の開発が望まれている.治療標的探索の基盤となる腎細胞がんの発がん分子機構解明をめざし,ヒト組織検体を用いた多層オミックス統合解析を行った.CpG アイランドメチル化形質(CIMP)によって腎細胞がんをまず層別化し,ゲノム・トランスクリプトーム・プロテオーム解析結果を統合した結果,CIMP 陽性腎細胞がんにスピンドルチェックポイントにかかわる経路の異常が集積していることがわかった.この経路を標的とした分子標的治療が行われる際には,CIMP 診断がコンパニオン診断となる.CIMP 陽性腎細胞がんは予後不良であるため,CIMP 診断は腎細胞がんの予後診断にもなりうる.CIMP 診断の臨床現場での実用化に向けて,高速液体クロマトグラフィ技術を用いたDNA メチル化診断法を開発中である.
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医学のあゆみ 255巻6号, 623-628 (2015);
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◎がんのリスク診断は難しい.現在のがん検診は“早期発見,早期治療”を目標にしている.もし個人のリスクに応じて検診の頻度を変えることができれば,限られた医療資源の有効活用につながるうえに,検診受診者のメリットも大きい.本稿では,著者らがこれまで行ってきた,①胃粘膜における定量的なメチル化解析と胃癌の横断研究,②胃癌の内視鏡治療後患者を対象とした多施設前向き研究の成果,そして,③健康人を対象とした多施設前向き研究の概略を紹介する.今後,エピジェネティクスをはじめとした分子生物学的な手法を用いた個人のがんのリスク診断・検診の実現が期待される.
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医学のあゆみ 255巻6号, 629-635 (2015);
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◎エピゲノム異常は発がんの原因(ドライバー)となりうるが,がん化過程で生じる付随現象(パッセンジャー)の場合もある.エピゲノムの本態のひとつであるDNA メチル化は化学的に安定であり,解析法も簡便であるため,がん診断のマーカーとして有用である.個別遺伝子のメチル化サイレンシングに加え,複数のCpG アイランドがメチル化されるCpG アイランドメチル化形質(CIMP)は,多くのがん種において予後との関連が報告されている.CIMP 陽性症例は,大腸がん,グリオブラストーマ,乳がんなどでは予後良好であり,肺がん,食道がん,卵巣がんなどでは予後不良である.小児腫瘍の神経芽腫ではCIMP 陽性と予後不良との関連が複数の国の研究で示されており,また,CIMP を用いることで,臨床の場で用いられているマーカーではわからない予後情報も提供することが可能である.
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治療への応用
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医学のあゆみ 255巻6号, 639-646 (2015);
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◎急性白血病,骨髄異形成症候群(MDS),悪性リンパ腫(ML)などにおいて,DNA のメチル化,ヒストンのメチル化,アセチル化に関与する,いわゆる“エピゲノム関連因子”をコードする遺伝子に変異が集積する.これらのエピゲノム関連因子は現在,新たな治療標的分子として注目されている.これまでに各国でDNA メチル化酵素(DNMT)阻害剤(アザシチジン,デシタビン),ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤(ボリノスタット,ロミデプシン,ベリノスタット,パノビノスタット)がすでに臨床現場に登場しており,その他ヒストンメチル化酵素(HMT)阻害剤やDNA メチル化に影響を与える変異IDH2 に対する阻害剤などについても臨床試験が進められている.
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医学のあゆみ 255巻6号, 647-653 (2015);
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◎多くの固形腫瘍において,DNA メチル化異常やヒストン関連遺伝子の突然変異,クロマチンリモデリング因子の遺伝子変異など,さまざまなエピジェネティック異常が同定されている.これらの事実は固形腫瘍に対してもエピジェネティック治療が有効である可能性を示唆しており,実際に数多くの前臨床研究・臨床試験が行われている.DNA メチル基転移酵素(DNMT)阻害剤は低用量で抗がん剤と併用する方法で治療開発が進んでおり,卵巣がんの臨床試験では良好な結果が認められている.ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤はホルモン療法との併用が乳がんで期待されているほか,DNMT 阻害剤や免疫療法との新規併用療法の臨床試験も行われている.その他,EZH2,LSD1,BET といったあらたな標的を対象とした新規エピジェネティック治療薬も固形腫瘍に対して開発されており,今後の結果が期待されている.
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医学のあゆみ 255巻6号, 654-658 (2015);
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◎現在までに,核酸型DNA メチル基転移酵素(DNMT)阻害剤およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤がエピジェネティック薬として開発され,抗がん剤として臨床応用されている.しかし,薬効の低さや副作用の問題のため,それらの臨床応用は骨髄異型性症候群(MDS)と皮膚T 細胞性リンパ腫(CTCL)に限られている.現在,臨床の現場では,いろいろな疾患に適用可能な高活性・低毒性なエピジェネティック薬が必要とされている.このような背景のもと,世界中で次世代エピジェネティック薬の開発をめざして,非核酸系DNMT阻害剤やアイソザイム選択的HDAC 阻害剤,ブロモドメイン(BRD)蛋白質阻害剤,リシンメチル化酵素(KMT)阻害剤,リシン脱メチル化酵素(KDM)阻害剤の創製研究が行われている.これらの阻害剤はあらたな作用機序の治療薬として強く期待されている.
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各種疾患
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医学のあゆみ 255巻6号, 661-665 (2015);
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◎近年のゲノムワイド関連解析(GWAS)は,Crohn 病や潰瘍性大腸炎といった炎症性腸疾患(IBD)に関与する遺伝的要因の解明に大きな進歩をもたらした.最近の大規模国際共同研究により200 を超えるIBD の疾患関連遺伝子座が同定され,疾患の発症にかかわるゲノム領域のほとんどが人種間で共通していることが明らかとなった.一方,遺伝的背景が同一である一卵性双生児の潰瘍性大腸炎,Crohn 病の検討結果から疾患の発生率はそれぞれ16%,35%程度であり,遺伝的要因だけでIBD の病態を説明することが難しいこともわかってきた.遺伝的要因に加えて環境要因がかかわる相互作用の解明が必要となった.本稿では,潰瘍性大腸炎の遺伝的要因に関する研究の進展を確認し,遺伝的要因と環境を介在するエピゲノムの役割について最近の動向を概説する.
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医学のあゆみ 255巻6号, 667-672 (2015);
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◎遺伝的・環境的要因による遺伝子発現調節機構の破綻が神経発達障害の発症や病態に関与していることが知られている.遺伝的要因の代表例であるRett 症候群(RTT)は,てんかんや自閉症を主徴とする進行性の神経発達障害で,その原因遺伝子はエピジェネティックな遺伝子発現調節機構において中心分子であるMECP2の変異である.これまでMeCP2 はDNA のメチル化シトシンに結合し,遺伝子発現を抑制することが知られてきたが,近年,促進にも関与することや,ヒドロキシメチル化シトシンにも結合するなどMeCP2 には多様な機能があることがわかってきた.また,近年RTT の病態に神経細胞とともにグリア細胞も関与しているなどあらたな病態メカニズムも報告されるようになってきた.一方,自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの発達障害は遺伝要因のみならず,環境要因も関与しており,環境要因によるエピジェネティックな異常が発達障害の発症や重症化につながることが示唆されている.
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医学のあゆみ 255巻6号, 673-676 (2015);
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◎精神疾患の傷病別推計患者数は,日本ではがんや糖尿病よりも多く5 番目にランキングされており,当事者の苦痛に加え社会的損失も甚大な疾患である.精神疾患の発症メカニズムの大部分は謎に包まれており,生物学的診断や根治薬開発の障害となっている.発症に遺伝と環境要因が複雑に相互作用していると考えられている精神疾患では,エピジェネティクス研究が精神疾患の病因・病態解明に貢献すると期待されている.とりわけ,年齢,性別,遺伝的背景,DNA 配列,養育環境などの条件が同一である一卵性双生児において,片方のみが精神疾患を発症した例(一卵性双生児不一致例)に着目したエピジェネティクス研究は,精神疾患の病因解明に大きく貢献してきた.一卵性双生児不一致例における精神疾患のエピジェネティクス研究には克服すべき課題も多く存在するが,技術の進歩に伴い,今後さらに研究が進むと期待される.
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医学のあゆみ 255巻6号, 677-682 (2015);
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◎痛みは“生体防御”における重要なバイタルサインであり,われわれにとって必要不可欠なものである.しかし,慢性疼痛はそれを逸脱し,生体に過剰な痛み刺激を与え続ける.このような持続的な痛みは中枢神経系の機能的および構造的変化を誘導し,全身状態を悪化させるとともに情動障害を引き起こす.近年,このような慢性疼痛の発現にエピジェネティクスが重要な役割を果たしていることが明らかとなってきた.そこで本稿では,慢性疼痛様刺激による細胞のエピジェネティクス変動に基づく“痛みの細胞記憶”という視点からみた慢性疼痛病態の統合的解析について概説する.また,慢性疼痛とエピジェネティクスというあらたな研究ベクトルから得られた疼痛治療戦略についても言及する.
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医学のあゆみ 255巻6号, 683-689 (2015);
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◎代謝関連疾患の多くは多因子疾患であり,遺伝素因と環境因子が複雑に相互作用することにより発症する.とくに2 型糖尿病の発症と進行には遺伝素因,すなわち遺伝子の塩基配列が重要な役割を占めていると考えられてきた.しかし多くの研究より,胎内環境や過去の血糖コントロールの状況が重要な役割を果たしていることが明らかとなってきている.動物の体細胞のゲノムは一部の例外を除いて同一の塩基配列を有し,個々の細胞の特性は発現する遺伝子の組合せによって決定される.細胞核内のクロマチン構造や染色体の構築の制御には塩基配列の変化を伴わずに遺伝子発現を調節するエピジェネティックな修飾があり,その分子機構としてDNA のメチル化やヒストンのメチル化・アセチル化によるクロマチン構造の変化が知られており,これらの修飾を受けたゲノムをエピゲノムと称する.そしてエピゲノムが糖尿病をはじめとする代謝関連疾患の罹患性に深く関与することが近年急速に解明されつつある.
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医学のあゆみ 255巻6号, 691-696 (2015);
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◎腎臓病でエピジェネティクス機構が重要な働きを果たしていることがあいついで報告されている.糖尿病性腎症の大規模臨床試験では,早期の血糖コントロールが記憶に残り後年の腎症進展を左右する,いわゆるメタボリックメモリー現象が提唱された.メタボリックメモリーはエピジェネティクス変化で説明可能なのではないかと考えられて注目されている.腎臓病で,ポドサイトから尿細管まで各種腎構成細胞でエピゲノム変化が生じることが示されるようになったが,刺激因子からエピジェネティクスにつながる仕組みはまだはっきりしていない.慢性腎臓病に対しては糖尿病性腎症をはじめとして,よい治療法がないが,不可逆性・進行性の源となるエピゲノム異常の同定と異常成立に至る仕組みの解明により,あらたな治療法の開発につながることが期待される.
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医学のあゆみ 255巻6号, 697-701 (2015);
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◎循環器疾患におけるエピジェネティック解析は,心肥大関連遺伝子の遺伝子発現制御を中心にヒストンのアセチル化変化に着目した検討がなされてきた.近年,次世代シークエンサーの登場によりゲノムワイド解析が飛躍的に進み,ヒストンのアセチル化のみならず,ヒストン蛋白のリジンのメチル化を中心に,その他のヒストン修飾に関する情報も蓄積しつつある.心臓リモデリング抑制や不整脈抑制にはヒストン脱アセチル化酵素阻害薬の有用性が複数の論文で示されている.非コードRNA や広義のエピジェネティック制御に含まれる核内高次構造変化にも着目した詳細なる解析が,今後,循環器疾患の病態解明をさらに推進させ,新規治療薬の開発にもつながると予想される.
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医学のあゆみ 255巻6号, 703-709 (2015);
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◎免疫系は,神経系と並んでもっとも高度に発達した高次生命システムのひとつである.免疫系は本来,感染性微生物に対する生体防御を担うものであるが,自己抗原やスギ花粉のような無害な抗原に対する免疫応答は,自己免疫疾患やアレルギー疾患の発症原因となる.近年の研究から,免疫担当細胞の細胞分化や免疫記憶の維持において,エピジェネティック制御が重要であることが判明している.これまではおもに獲得免疫系の司令塔であるヘルパーT 細胞を中心にエピジェネティクス解析が進んできたが,近年の研究から自然免疫系細胞であるマクロファージにもエピジェネティクス機構を介した免疫記憶が存在することが明らかにされている.本稿では,免疫系におけるエピジェネティクス制御と自己免疫・アレルギー疾患とのかかわりについて概説する.
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医学のあゆみ 255巻6号, 710-718 (2015);
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◎子宮内膜症や子宮筋腫では多くの遺伝子領域にDNA メチル化異常が起こっている.さまざまな化合物などの環境因子や栄養因子といったエピ変異原の曝露が,子宮内膜症や子宮筋腫の発生母地となる細胞にDNA メチル化異常と,それに伴う種々の遺伝子の発現異常を引き起こし,それらの細胞が月経発来を契機に特異的な機能変化を獲得することが発生に関与すると考えられる.したがって,子宮内膜症や子宮筋腫をエピゲノム異常疾患として位置づけることができる.
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医学のあゆみ 255巻6号, 719-725 (2015);
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◎これまで原因不明とされていた不妊の生殖細胞において,エピジェネティクス異常が検出される事象が数多く報告されてきている.生殖細胞のなかでも精子を対象とした知見は卵子より得られやすく,本稿では生殖能力に関連する精子のエピゲノミクスについてこれまで明らかとなった機構を紹介する.その特徴のひとつとして,胎児期の精原細胞のエピゲノム獲得期の環境がゲノムインプリンティングの確立を含むDNA メチル化状態に決定的に作用し,成人後の精子の生殖能力に関与していることが示唆された.つぎに,精子核におけるヒストン修飾,なかでも適切な抑制修飾あるいはバイバレントな修飾が,生殖能力ならびに世代を超えたエピジェネティックな記憶に関連している報告を紹介する.減数分裂後の精子核はほとんどのヒストンがプロタミンに置き換わり,体細胞に比べ著しくクロマチンが凝縮している.しかし,残ったわずかのヒストンに制御される遺伝子領域が精子機能を制御する重要な働きをしていると考えられる.