医学のあゆみ
Volume 255, Issue 9, 2015
Volumes & issues:
-
あゆみ 蛋白のシトルリン化―生理的意義と病態における役割
-
-
-
ヒストンシトルリン化酵素の構造と立体構造に基づく阻害剤の開発
255巻9号(2015);View Description Hide Description◎原子レベルの分解能での蛋白質の立体構造解析は,その機能の解明や立体構造情報を基盤とした薬剤開発に有用である.ペプチジルアルギニンデイミナーゼ(PAD)は,カルシウムイオン依存的にアルギニン残基をシトルリン残基に変換する反応を触媒する酵素である.蛋白質のシトルリン化は,基質蛋白質の正電荷を消失させることで蛋白質の機能に大きな影響を与える.近年,PAD によるヒストンのシトルリン化がエピジェネティックに遺伝子発現を制御することや,PAD が関節リウマチ(RA)や癌などのさまざまな疾病と関連することが報告されている.本稿では,PAD の立体構造,酵素活性化機構,基質認識機構を構造生物学的な観点から概説するとともに,PAD の立体構造情報に基づいて設計された阻害剤の開発の現状について紹介する. -
がんとシトルリン化蛋白質―“ apoptotic histone code”としてのヒストンシトルリン化
255巻9号(2015);View Description Hide Description◎著者らの解析によって,PADI4 は代表的ながん抑制遺伝子であるp53 によって発現誘導されること,またPADI4 によるヒストンのシトルリン化がアポトーシスの最終段階であるDNA 切断,核の断片化に関与することが明らかとなった.また,TCGA などのデータベースによると,多くのがんでPADI4 の発現が低下しており,またがん細胞株・組織において機能喪失型変異が認められることから,PADI4 はがん抑制遺伝子として機能すると考えられる.一方,がん組織でのPADI4 の高発現や,がん患者血中でのPADI4 の上昇,PADI 阻害剤によるがん細胞の増殖抑制効果など,PADI4 ががん遺伝子として機能するという報告も複数みられる.PADI4 のがん化における役割については依然議論が分かれており,今後,より多くの研究成果の蓄積がまたれる状況である. -
造血多能性幹細胞におけるヒストンシトルリン化の役割―造血細胞におけるPAD4 の発見から
255巻9号(2015);View Description Hide Description◎蛋白質シトルリン化酵素(PAD)は,アルギニン残基をシトルリン残基に変換する蛋白質修飾酵素である.PAD4 は,核内蛋白質をシトルリン化することでさまざまな遺伝子発現制御にかかわる.本稿では,PAD4 の造血における生理機能を明らかにした近年の研究成果を紹介する.PAD4 欠損マウスでは,造血幹細胞を含む原始な細胞群(LSK 細胞)の数が増加しており,細胞増殖が活性化していることを見出した.また,PAD4 はヒストンH3 のシトルリン化を介してc-Myc 遺伝子の発現を抑制的に制御することが明らかとなった.さらに,転写因子LEF1 や転写制御因子HDAC1 がPAD4 と複合体を形成し転写を制御することが示唆された.これらの結果から,PAD4 はc-Myc の転写を制御しLSK 細胞の増殖を調節することが明らかとなった.この成果はPAD4 が造血系疾患だけでなく発がんなどへも関与することを示唆しており,さらなる研究の進展が期待される. -
関節リウマチ関連遺伝子peptidylarginine deiminase のノックアウトマウス解析とシトルリン化
255巻9号(2015);View Description Hide Description◎蛋白質のシトルリン化に関与するpeptidylarginine deiminase type 4 遺伝子(遺伝子名:PADI4)が2003 年に関節リウマチ(RA)関連遺伝子として報告され1),その後,蛋白質のシトルリン化とRA に関する研究は飛躍的に進んだが,発症メカニズムへの関与についてはいまだ不明の点も多い.PADI 遺伝子はヒトでは5 種類(1,2,3,4/5,6)が知られる.それらの遺伝子からつくられるpeptidylarginine deiminase(PAD)酵素は蛋白中のアルギニン残基がシトルリンに置換し,シトルリンには対応するtRNA が存在せず,シトルリン化蛋白はその酵素によってのみ産生されることが知られている.また,自己抗原としてのシトルリン化蛋白はRA の病理に重要な役割をもつことが報告されている2-4).シトルリン化蛋白に対する抗体(抗シトルリン化ペプチド抗体)はRA 特異性が高く,病初期あるいは発病前からその存在が認められる5).これよりシトルリン化蛋白に対する自己免疫反応がRA の発病病理と密接にかかわると考えられる.本稿では,PADI4 遺伝子のノックアウト(KO)マウスを用いた解析による,PADI4 とRA とシトルリン化の関係について最新の知見を概説する. -
アルツハイマー病とシトルリン化蛋白質
255巻9号(2015);View Description Hide Description◎シトルリン化蛋白質は,ペプチド中の塩基性アミノ酸であるアルギニンが中性アミノ酸であるシトルリンに酵素的に修飾された蛋白質の総称である.この反応を触媒するカルシウム依存性の酵素がペプチジルアルギニンデイミナーゼ(PAD)である.蛋白質シトルリン化(脱イミノ化)反応は,正常な表皮の角化や神経軸索の絶縁作用をもたらすミエリン鞘の形成に重要な役割を果たす.生理的な機能をもつ反面,疾患とのかかわりも深い.とくにアルツハイマー病(AD)患者の脳ではシトルリン化蛋白質が出現し,病状の進行程度評価に応じてその量が増加する.本稿では,AD とシトルリン化蛋白質との関連について,著者らの研究データを含めて解説する. -
敗血症とヒストンH3 のシトルリン化
255巻9号(2015);View Description Hide Description◎敗血症(sepsis)とヒストンシトルリン化に関する論文は非常に少ない.近年,好中球のあらたな感染防御機構であるneutrophil extracellular traps(NETs)が注目を集めている.PAD4 を介したヒストンH3 のシトルリン化は,好中球がNETs を放出するのに重要な役割を果たしているといわれている.著者らの研究では,急性呼吸器感染症を起こしている挿管患者の吸引痰中の好中球で,ヒストンH3 のシトルリン化とともにNETs 形成が起こっていること,また感染あるいは感染のリスクがある重症患者の血液中にはNETs やシトルリン化ヒストンH3 が多く認められることを明らかにした.今後,動物実験や臨床研究を通して,敗血症におけるシトルリン化ヒストンH3 の意義,新規バイオマーカーとしての可能性,そしてあらたな敗血症治療のターゲットとなりうるかが明らかになっていくであろう. -
シトルリン化蛋白の免疫機能への影響と臨床応用
255巻9号(2015);View Description Hide Description◎シトルリン化は蛋白質の翻訳後修飾の一種である.シトルリン化蛋白に対しては,極性の変化による抗原性の変化,あるいはcryptic epitope として免疫応答が惹起されると考えられている.関節リウマチ(RA)患者では発症前より血清抗シトルリン化蛋白抗体が出現するため,病因・病態とシトルリン化蛋白への免疫応答との関連が注目されている.とくにHLA-DR 多型とシトルリン化エピトープの関連は重要である.RA のリスクであるHLA-DRB1*0401 のP4 ポケットにシトルリン残基が結合しやすいことが,シトルリン化エピトープの抗原提示に関与していることが構造解析により明らかとなった.RA 患者では,シトルリン化エピトープ特異的T 細胞が増加していることが病態に関与していると考えられている.またこれらのシトルリン化エピトープに対する免疫寛容誘導によるRA 治療の治験が行われている.
-
-
連載
-
- NEW 医学教育の現在―現状と課題
-
-
フォーラム
-
- 高齢者ケアの現状と課題 1
-
- 書評
-
-
-
-
TOPICS
-
- 腎臓内科学
-
-
- 小児科学
-