Volume 256,
Issue 4,
2016
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あゆみ 性同一性障害の現状と治療
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医学のあゆみ 256巻4号, 267-267 (2016);
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医学のあゆみ 256巻4号, 269-273 (2016);
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◎性同一性障害(GID)の医療は,平成8 年(1996)7 月に埼玉医科大学倫理委員会がGID に対する手術療法を医療行為と認めたことにはじまる.平成9 年(1997)5 月,日本精神神経学会のGID に関する特別委員会が「性同一性障害の診断と治療のガイドライン」を公表.翌年10 月,わが国初の性別適応手術(SRS)が埼玉医科大学で行われた.平成16 年(2004)7 月“性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律”(特例法)が施行.特例法では性別変更に必要な条件として,SRS の実施が前提となる項目があり,SRS が正当な医療行為として法律でも認められた.その後ガイドラインは3 回にわたって改正され,当事者の自己決定と自己責任において身体的治療の組合せの自由な選択,思春期前期の性同一性障害に対するホルモン療法もできるようになった.治療体制はすこしずつ進歩している.しかし,GID 治療は健康保険の適応外でありGID 患者負担は大きい.GID に関係する4 学会は“性同一性障害に対する手術療法の保険適応に関する要望”を平成23 年(2011)11 月に厚生労働大臣に提出したが,身体的療法の保険収載のめどは立っていない.
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医学のあゆみ 256巻4号, 274-279 (2016);
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◎性同一性障害の存在率を求める従来の研究は,医療機関受診者数をもとにしていた.そのため非受診者が計上されず,存在率は数万人に1 人という低値に抑えられていた.また,研究ごとの数値のばらつきも大きかったが,その原因のひとつが諸研究の方法論的な差異にあることをArcelus らはメタ解析で明らかにした.また時系列分析により,近年の研究ほど存在率が有意に増加していることも明らかにした.日本における存在率は,日本精神神経学会“性同一性障害に関する委員会”の調査にもとづけば,10 万人当りMTF が10.2 人,FTM が17.6 人,全体14.0 人程度と予測される.日本の顕著な特徴は,西欧諸国とは逆にMTF よりFTM のほうが多いことであるが,これにはFTM のほうが性別変更のハードルが低いことが影響しているであろう.2014 年にオランダのKuyper とWijsen は一般人口を母集団としたサンプル調査を行い,MTF を0.6%,FTMを0.2%と予測したが,この数値は過去の研究結果を大幅に上まわっている.今後,性同一性障害の存在率は大幅に見直される可能性がある.
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医学のあゆみ 256巻4号, 280-285 (2016);
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◎ 1997 年日本精神神経学会から「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」が発表されており,最新版は2012 年改定の第4 版である.主要な治療施設ではこのガイドラインによって治療が行われている.ガイドラインは初版から一貫して精神科医の関与のもと,複数診療科が医療チームを結成して定期的に身体的治療の可否を検討する判定会議を開催しながら包括的な治療を実施するものとなっている.第4 版では思春期を迎えた小児への身体的治療である二次性徴抑制療法を追加し,18 歳からとされていたホルモン療法開始年齢を一部引き下げた.近年,ガイドラインには身体的診療の専門的な内容を含むようになっており,今後のガイドライン策定にあたっては精神神経学会と身体的治療を行う診療科の学会との共同も視野に入れる必要がある.またDSM-5 では,病名の改訂が行われており,2017 年にはICD-11 の発表も控えているため,新しい病名や疾病概念を取り入れた改訂も検討されるべきであろう.
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医学のあゆみ 256巻4号, 286-289 (2016);
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◎ 2013 年に発行されたDSM-5 では,性同一性障害は性別違和と変更され,性別違和感を抱えるより広範なものを含むようになった.そこでは身体治療の適応の判断だけでなく,性別違和感に伴う苦悩の軽減に向けての精神科医の役割が増している.治療者の基本的態度としては,中立性,非指示的態度の保持,受容的共感的態度とともに,よりよい選択のための情報提供,関与も必要である.治療目標は苦悩の軽減および生活の質の向上である.ジェンダー・アイデンティティが確立していないものはその確立を援助する.自尊感情の向上は治療者による受容とともに,現実社会における受容の経験も必要である.カミングアウトは現実社会の受容の向上に寄与する.随伴する精神症状にも留意する.家族やパートナーに対しても面接を行い,その理解を助ける.社会,法的諸問題に対応すべく,必要に応じて情報提供や診断書の発行を行う.自助グループやインターネットの情報提供もメリット・デメリットに留意しつつ行う.
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医学のあゆみ 256巻4号, 290-294 (2016);
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◎性同一性障害(GID)に対する治療は精神療法に加えて,身体的治療のひとつであるホルモン療法も重要な位置を占めている.近年,疾患に対する情報が社会に普及しはじめたことで,多様な当事者が医療機関を受診する状況となった.なかでも,従来のガイドラインでは触れられていなかった若年層の受診者が増加している背景から,現行の第4 版ガイドラインでは性ホルモン開始年齢の引き下げと二次性徴抑制療法に関する項目が盛り込まれた.本稿では,第4 版ガイドラインから,おもにホルモン療法の目的,方法,副作用について言及し,二次性徴抑制療法に関しても概説する.
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医学のあゆみ 256巻4号, 295-298 (2016);
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◎性同一性障害(gender identity disorder:GID)とは,身体の性(sex)と心の性(gender)が一致しない状態である1).男性(あるいは女性)の体に女性(あるいは男性)の心が存在した状態と考えると理解しやすい.治療には精神療法や身体的治療(ホルモン療法,手術療法)などが行われる.手術療法は外科的手術によって身体を心の性に合わせようとする治療である.FTM 患者に対するものとして性別適合手術(子宮・卵巣切除術,尿道延長術),乳房切除術,矮小陰茎(ミニペニス)形成術,陰茎形成術などが,MTF 患者に対するものとして性別適合手術(陰茎・精巣切除,外陰部形成術,造膣術),顔面整容的女性化手術(顔面骨切術など),躯幹整容的女性化手術(豊胸術など),喉頭隆起形成術,音声手術などがある.
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医学のあゆみ 256巻4号, 299-303 (2016);
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◎ GID に対する性別適合手術(SRS)は,身体を反対性の特徴に近づけるものであり,それによって本人の精神的安定と社会適応を良好にすることをおもな目的としている.ただし子宮卵巣摘出術や陰茎精巣摘出術によって一度失った生殖機能は元に戻すことができない.そのためGID の診断と治療適応の判定は,ガイドラインに従って関係診療科医師と外部委員からなるジェンダークリニックにおいて細心の注意を払って行われるべきである.また,SRS が“特例法”による戸籍上の性別変更の要件のひとつであるからという理由で,SRS を受けている患者が皆無ともいえない.そのような患者を除外するために生殖機能の喪失要件は“特例法”から外すべきである.ガイドライン第4 版では12 歳からの思春期抑制ホルモン投与と15 歳からの反対性ホルモン投与が認められた.これにより二次性徴に伴う身体的変化を止めて性自認の揺らぎのないことを確認した後に,希望する身体変化を得ることができるため,今後は乳房切除術や喉仏縮小術などの手術希望者は減少するかもしれない.
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医学のあゆみ 256巻4号, 304-311 (2016);
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◎性同一性障害は一般的に,身体の性と精神の性(性自認)が異なることによって生じる疾患であると理解されているが,一致していないのはそのほかにも社会生活上の性別や制度・法制上の性別などもある.これらの性すべてが一致していないとジェンダーアイデンティティは一貫せず,それによって当事者は苦痛・苦悩を感じ,また困難な状況におかれてしまう.すなわち,医学的な治療だけでは性同一性障害は寛解せず,社会生活や制度上の性も含めたすべてが性自認に一致してはじめて寛解へ向かうものと考えられる.しかし医療をはじめ,健康保険,戸籍,就労,教育,公文書の性別欄,選挙,パスポート,マイナンバー,地域格差,自殺対策,震災・大規模災害,非収容者の処遇など非常に多岐にわたる問題が山積している.本稿では個々に解説するが,すこしでも早くこれらの問題が改善・解消され,性同一性障害の当事者が“普通に”暮らせる社会が来ることを願っている.
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医学のあゆみ 256巻4号, 312-316 (2016);
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◎日本では性同一性障害の治療は自費であるが,世界的にみると,経済が発展した国では治療環境が整い,公的医療保障制度などからの給付がなされている.日本においても適切で安全な治療を実施できる医師や施設の増加と並行して,治療への健康保険適用が望まれる.また,戸籍の性別変更が可能になり,結婚し子どもを希望する例も増加している.提供された配偶子や凍結保存しておいた自身の配偶子を用いた生殖医療の施行に向けての議論が必要である.文部科学省は自殺や不登校の予防のため,性同一性障害の子どもへの支援を進めている.しかし,学校の現場のみでの対応は困難であり,医療との連携が求められている.自殺総合対策大綱の改正では,性的マイノリティへの自殺対策が取り入れられ,相談窓口を開設する自治体も増加している.このような各種の分野で活躍することのできる人材の育成は急務となっている.
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連載
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補完代替医療とエビデンス 21(最終回)
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医学のあゆみ 256巻4号, 323-330 (2016);
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◎医学・医療の目覚しい進歩により,わが国の平均寿命は世界のトップに位置し,まさに超高齢社会に突入している.疾病構造が癌をはじめとする生活習慣病が中心であり,急性疾患から慢性疾患へとシフトしている.20 世紀は感染症や栄養失調といった単純系の疾患に対する,cure をめざした「病院完結型」の医療であった.しかし,21 世紀に入って,生活習慣病といった複雑系に変化し,care をめざした「地域完結型」医療へとパラダイムシフトしている.東日本大震災を契機にして,近代西洋医学のほころびが露見し,現行の医療では保険の縛りもあり,対応できない病態,すなわち,大規模災害後後遺障害,メタボ,ロコモ,認知機能低下など多くの疾患群が存在する.そこで,あらたな医療体系の構築が必要である.統合医療は現行の医療と補完代替医療(CAM)を融合させた,これからの医療の方向性を示すひとつの医療体系と考えられている.今後は,生涯の内で,患うことなく健やかに過ごすことのできる健康寿命の延伸を図る医療が求められている
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輝く 日本人による発見と新規開発 24
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医学のあゆみ 256巻4号, 331-334 (2016);
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フォーラム
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生物学的人口学の最近のトピック 6
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医学のあゆみ 256巻4号, 335-336 (2016);
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書評
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医学のあゆみ 256巻4号, 337-338 (2016);
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医学のあゆみ 256巻4号, 339-340 (2016);
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医学のあゆみ 256巻4号, 341-344 (2016);
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TOPICS
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免疫学
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医学のあゆみ 256巻4号, 317-318 (2016);
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腎臓内科学
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医学のあゆみ 256巻4号, 318-319 (2016);
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麻酔科学
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医学のあゆみ 256巻4号, 320-321 (2016);
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