医学のあゆみ
Volume 256, Issue 5, 2016
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【1月第5土曜特集】 GPCR 研究の最前線2016
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- GPCR 研究の現在と未来
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G protein-coupled receptors in the new world
256巻5号(2016);View Description Hide DescriptionSeven-transmembrane receptors, traditionally called G protein-coupled receptors(GPCRs), comprise natureʼs largest and most versatile family of signal-transducing receptors. GPCRs control essentially every physiological process and represent an enormously important class of therapeutic targets. These facts have motivated intense interest in GPCR research for many years. Recent progress has literally transformed the field, taking GPCR research into a fundamentallyʻnew worldʼ. I am honored to briefly highlight a few aspects of this new world, focusing on those which I find particularly exciting. -
The past, present, and future of GPCR research
256巻5号(2016);View Description Hide DescriptionG protein-coupled receptors(GPCRs) represent one of the largest protein families found in nature. GPCRs are cell surface receptors that mediate the functions of an extraordinarily large number of extracellular ligands(neurotransmitters, hormones, sensory stimuli, etc.). The human genome contains ~800 distinct GPCR genes, corresponding to 3-4% of all human genes. Strikingly, 30- 40% of drugs in current clinical use act on specific GPCRs, indicative of the enormous clinical relevance of this class of receptors. Aberrant GPCR signaling also contributes to or is the cause of many human diseases including cancer and various cardiovascular, endocrine, and metabolic disorders. More than 100 of the non-olfactory GPCRs in the human genome are orphan receptors where the endogenous ligands remain unknown. Since at least some of these orphan GPCRs may represent potential therapeutic targets, theʻdeorphanizationʼof these receptors and╱or the identification of drug-like chemicals that can act on these receptor proteins are currently the focus of intense research. - 総論:GPCR 研究のあらたな基盤と視点
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【構造・機能解析の進歩】 GPCR の構造解析からめざすもの
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎医薬品の全世界市場規模は50 兆円以上といわれ,現在も着実な伸びを続けている.しかし,日本における医薬品の輸入超過額は年々拡大傾向を示している.新薬の開発には多大な費用(数百億円以上)と長い時間(8~15 年近く)がかかるうえ,開発途中でドロップアウトすることも少なくない.その理由の約50%が,ヒトに投与したときの薬効,副作用,安全性に起因している.著者らは,市販されている医薬品の3 割がG 蛋白質共役受容体(GPCR)をターゲットにしていることに注目し,そのなかでもGPCR のシグナル伝達の多様性に注目している.これまで膜蛋白質に対する抗体作製は非常に難しいといわれてきたが,現在では著者らの立ち上げた抗体作製技術の応用範囲はGPCR に限らない.GPCR の構造解析から構造を基盤とした創薬には,領域の垣根を越えた支援活動が必要となる.GPCR の研究基盤を広く日本の研究者の方々に利用してもらうことで,日本発の創薬をめざしたい. -
【構造・機能解析の進歩】 GPCR の機能構造とその形成
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎ GPCR といえば一般的に7 回膜貫通構造のイメージが高いが,膜貫通領域のみで構成されるクラスA 型の他に,多様な構造の細胞外領域を有するクラスB 型,C 型,F 型などのファミリーが存在する.GPCR の立体構造に関する理解は近年大きく進んだが,ここで理解が進展したのは,おもに膜貫通領域における受容体活性化機構についてである.共通する7 回膜貫通構造をもつものの,アゴニスト結合部位を細胞外領域にもち,アロステリックに受容体活性化が引き起こされるクラスB,C,F 型の作動メカニズムはいまだ不明な点が多い.これらのファミリーでは膜貫通領域・細胞外領域個別にしか構造解析されておらず,受容体全長での構造はまだ明らかになっていないからである.これらGPCR は小胞体にてポリペプチド鎖が折りたたまれ,翻訳後修飾や品質管理の過程を経て構造形成され,細胞膜へ輸送されることで機能発現に至る.本稿では細胞外領域をもつGPCR を中心に,機能構造とその形成過程について概説する. -
【構造・機能解析の進歩】 オーファンGPCR のリガンド同定と新規GPCR 活性化検出法
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎オーファンGPCR とは,リガンドがいまだ見出されていないGPCR の一群であり,クラスA(ロドプシン型)GPCR の約3 割を占める.オーファンGPCR の内因性リガンドを同定することは,これらGPCR の生体内の機能解明や創薬開発に直結することから,きわめて要望が高い.一方,ヒトゲノム解読の時代の前後にかけて,オーファンGPCR のリガンド探索が精力的に行われ,汎用されるGPCR アッセイ系と市販化合物ライブラリーを用いて同定されうる組み合わせは出尽くしたと考えられる.本稿では,今後どのようなアプローチをとればあらたなオーファンGPCR のリガンド同定が可能となるかを概説する.とくに,汎用されるGPCRアッセイ系とは異なる原理に基づくGPCR 活性化検出法やユニークな生理活性物質,オーファンGPCR 結合蛋白質などを工夫することが今後のあらたなリガンド同定に重要であろう. -
【構造・機能解析の進歩】 G 蛋白質共役型受容体の過渡的なダイマー形成―1 分子観察法による研究
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎この15 年来,多くのG 蛋白質共役型受容体(GPCR)が細胞膜上でダイマーを形成するらしいという報告があいついでいる.ダイマーがシグナル伝達の強度や経路の調整をするのではないかという盛んな議論がある一方で,その寿命や割合などといったダイマーの生物学的意義の理解を進めるうえで必要なパラメータは長らく得られていなかった.古典的な実験手法では,ダイマーそのものを生細胞膜上で直接調べることができないために,こうした研究は困難であったが,全反射螢光顕微鏡を用いた螢光1 分子観察法が出現し,細胞膜上のGPCR ダイマーを直接観察できるようになってから状況は一変した.最近の研究の結果,クラスA とよばれるサブファミリーに属するいくつかのGPCR では,細胞膜上で自発的かつ動的にダイマー・モノマー変換を起こしていることがわかったが,この性質は800 種類ともいわれるGPCR の多くに共通して備わっている可能性が高いこともわかってきた.これは,詳しい仕組みはわからないものの,クラスA のGPCR でみられる寿命100 msec~sec オーダーの過渡的なダイマー形成が,GPCR に共通するシグナル伝達機構のために必要であるということを示唆している. -
【構造・機能解析の進歩】 薬理学的シャペロン―小胞体蓄積GPCR を形質膜へ発現させる特異的リガンド
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎先天的変異を有するG 蛋白質共役型受容体(GPCR)のなかには,リガンド結合能を失っていないにもかかわらず構造異常と判断されて小胞体(ER)内に蓄積し,本来の機能を発揮できないものがある.こうしたことが原因で重篤な疾患をきたす例が数多く存在するが,このような疾患に対しては特異的なリガンドをER 蓄積GPCR に作用させ,そのフォールディング効率の向上から形質膜輸送を促し,結果としてシグナル伝達能を回復させうる治療戦略が考えられている.このような作用を有する化合物は薬理学的シャペロン(ファーマコロジカルシャペロン)とよばれ,ER 蓄積GPCR が引き起こす各種疾患に対する有効な治療薬のひとつとして注目されている.これまでの知見から,薬理学的シャペロンの作用機序や構造特性が明らかにされつつあり,臨床医学の現場ではアルギニンバソプレシンV2 受容体(V2R)の特異的リガンドが薬理学的シャペロンとして腎性尿崩症を改善させるなど,遺伝子療法に代わるあらたな治療法として期待されている. -
【バイアスシグナル,アロステリック調節】 バイアスシグナルとカルシウム感知受容体
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎古典的GPCR モデルでは,GPCR はオン(活性型)とオフ(不活性型)の間で平衡状態にあるとされてきた.最近,GPCR はオン,オフいずれも自立的に無数の高次構造を取りえて,各GPCR リガンドはそれぞれに特異な構造を安定化しユニークなシグナルを作動させると考えられるようになった(GPCR のMulti-state モデル).このなかには,本来複数のG 蛋白質を活性化させるGPCR を介して,あるG 蛋白質系シグナルのみを活性化するというようなバイアスシグナルを作動させる高次構造も存在しうると想定される.著者らがまれな内分泌疾患で発見した自己抗体は,カルシウム感知受容体(CaSR)のバイアスシグナルを可能にするアロステリック調節因子として作動するはじめての例である.こうした調節機構は,今後のGPCR を標的とするあらたな創薬の方向性を示していると考えられる.さらに,生理的なバイアスシグナルの発見へと結びついていくことが期待される. -
【バイアスシグナル,アロステリック調節】 バイアス型シグナル
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎ G 蛋白質共役型受容体(GPCR)は,G 蛋白質を活性化することで細胞内にシグナルを生成させるのみならず,G 蛋白質非依存性のシグナルも引き起こすことができる.このG 蛋白質非依存性のシグナルは,βアレスチンを仲介分子として必要とする.βアレスチンはGPCR キナーゼによってリン酸化されたGPCR に結合し,GPCR の活性調節にかかわる分子として認識されてきた.G 蛋白質とβアレスチンの経路がともに活性化されることをバランス型シグナルとよんでいる.一方,G 蛋白質あるいはβアレスチンのどちらかのシグナリング経路が選択的に活性化されることをバイアス型シグナルとよんでいる.応答をG 蛋白質あるいはβアレスチンバイアス型シグナルとして分けることで,薬の作用と副作用を分離することができるようになった.バイアス型シグナルは創薬の観点からも注目を浴びている. -
【バイアスシグナル,アロステリック調節】 代謝型グルタミン酸受容体のアロステリックモジュレーター―精神疾患治療薬への応用
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎代謝型グルタミン酸(mGlu)受容体を標的とした創薬研究のなかで,受容体のアロステリック部位に作用するモジュレーター(PAM,NAM)の創製が精力的に行われている.これらの薬剤にはmGlu 受容体間の選択性および薬物動態プロファイルの改善が期待されている.また,PAM はそれ自体では受容体活性化作用をもたないか弱く,内因性アゴニストの作用を増強することから,mGlu 受容体作動薬のもつ懸念点を軽減することも期待される.実際に,mGlu2 受容体PAM はmGlu2/3 受容体作動薬と同様に動物モデルにおいて抗精神病作用および抗不安作用を示すが,mGlu2/3 受容体作動薬にみられる副作用を示さない.最近,mGlu5 受容体PAM において特定のシグナル系を選択的に活性化する化合物が創製され,アロステリックモジュレーターの有用性がさらに注目されている. -
【バイアスシグナル,アロステリック調節】 βアドレナリン受容体の脱感作制御―ニトロシル化のターゲットとしてのGRK2
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎βアドレナリン受容体(β-AR)の脱感作は心不全のおもな原因のひとつであり,その制御は心不全の治療戦略を考えるうえで非常に重要である.心保護作用を有する薬剤として,過剰なアドレナリン刺激から心臓を保護するβブロッカーのほか,歴史的には亜硝酸薬由来のNO がある.NO の作用として,細胞内でのcGMP を介する血管拡張に加え,蛋白質のニトロシル化の関与が示唆されてきた.本稿では,ニトロシル化のターゲットとしてβアドレナリン受容体の脱感作の主役を担うGRK2 を取りあげる.ニトロシル化によるGRK2 の制御は,望ましいシグナルと考えられるβ-AR の活性化を維持し,望ましくないシグナルと考えられる脱感作を抑制するものであり,広い意味でバイアスシグナルを可能とする制御ととらえることができる. - 各論:GPCR 機能の新展開
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【癌・増殖・発生】 Wnt シグナルにおけるFrizzled 受容体の活性化機構
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎ 7 回膜貫通型受容体のFrizzled(Fz)はWnt シグナル経路の受容体として機能する.分泌糖蛋白質のWnt が細胞膜上の受容体に結合した後に活性化される細胞内のシグナル伝達機構には,βカテニン経路と平面内細胞極性(PCP)経路,Ca2+経路のすくなくとも3 種類が存在する.Wnt がFz に結合するとFz の細胞質領域にWnt シグナル構成分子のDvl が結合することにより,細胞質内にシグナルを特異的に伝達すると考えられており,Wnt シグナルの活性化に三量体G 蛋白質が関連するかはいまだに判然としない.近年,Fz の細胞外領域にWnt が結合した結晶構造やWnt によって活性化されるGDP-GTP 交換因子が報告され,Wnt シグナル活性化におけるFz のあらたな作用機構が明らかになりつつある. -
【癌・増殖・発生】 多価型CXCR4 リガンドの創製と癌細胞イメージング・検出
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎ G 蛋白質共役型受容体(GPCR)は重要な創薬標的のひとつであるが,X 線結晶構造解析が非常に困難であることなどより,詳細な構造が明らかでないものも多い.とくに,GPCR の細胞膜上での解析は難しい.著者らは,GPCR のひとつであり二量体化が機能発現に重要であるケモカインレセプターCXCR4 に対する2 価結合型リガンドを創製した.2 個のリガンドをつなぐリンカーには堅固な構造を有するポリプロリンを用いた.まず,細胞膜表面での会合状態の推定を試みたところ,2 価型リガンドは最適な長さのポリプロリンリンカーで結合活性が最大となった.また,CXCR4 の発現が亢進している癌細胞のイメージングを検討したところ,CXCR4 発現量に応じた細胞イメージングが可能であることが示された.結果として,この2 価結合型CXCR4リガンドは種々の癌細胞の検出に使用できる可能性が示唆された.さらに,3 価結合型リガンドを用いた実験により,CXCR4 が多量体化する場合,リガンド結合部位はC3 対称には分布せず,より直線的に分布している可能性が高いことが示唆された.また,2 価型CXCR4 リガンドは癌転移阻害剤としても有望なデータを得ており,治療薬としての展開も期待できる. -
【癌・増殖・発生】 Gq 変異とメラノーマ
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎メラノーマ(悪性黒色腫)はメラニンを産生するメラノサイトに由来する悪性腫瘍である.メラノーマは皮膚だけでなく眼のぶどう膜にも生じるが,このぶどう膜メラノーマにおいてGq 蛋白質であるGαq およびGα11 の変異がマウスでもヒトでも高率にみられることが明らかになった.ヒトの場合ではGαq およびGα11 ともにエクソン5 にあるQ209 が変異し,その結果内因性のGTPase 活性が失われることで恒常的に活性化すると考えられた.こうしたGαq およびGα11 の変異はぶどう膜メラノーマにおいては比較的初期の段階で生じ,これにBAP1 などの遺伝子変異が加わることで転移能を有するメラノーマへと進展すると考えられる.また,Gαq およびGα11 変異による癌化のメカニズムは,PLCβやPKC を介するG 蛋白質による通常のシグナル伝達経路だけでは説明がつかない.ぶどう膜メラノーマにおけるGαq/11 変異により,RhoA およびRac1を介したアクチンの重合化が起こり,これによって活性化するHippo pathway のYAP がぶどう膜メラノーマの形成にかかわることが近年報告された. -
【癌・増殖・発生】 Gβ変異とがん
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎がんのゲノム解析が進むにつれ,新しいがんの遺伝子変異が報告されてきた.GPCR シグナルの遺伝子にも最近多くの変異が同定され,注目が集まっている.最近著者のグループは,三量体G 蛋白質のβサブユニット(Gβ)をコードするGNB1 およびGNB2 遺伝子に新しいがん変異を同定した.Gβ変異は骨髄異形成症候群などの血液腫瘍に多かった.頻度の高いGβ変異はいずれもαサブユニット(Gα)との結合部位に存在し,実際にGβ変異体はGαと複合体を形成できなかった.このことは,Gβが恒常的に活性化状態にあることを示唆している.Gβ変異体を発現させた細胞ではRas/MAPK やPI3K/mTOR シグナルが活性化しており,これらシグナルの阻害剤はこの細胞の増殖を抑制できた.また,Gβ変異体の強制発現によりマウスの腫瘍モデルを作製し,PI3K/mTOR 阻害剤による腫瘍の抑制効果を生体内で確認した.さらに,Gβ変異は他のがん遺伝子と共存するケースがあり,薬剤の耐性機構にGβ変異が関与している可能性が考えられた. -
【感覚】 嗅覚受容体と鋤鼻受容体
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎生物は生存に重要な外部情報を得るにあたり,嗅覚システムを通じて実に多様な化学物質を感知・識別する.これら匂いやフェロモンといった分子の認識・受容を担うのが,嗅覚受容体および鋤鼻(じょび)受容体であり,それぞれ主嗅覚系,鋤鼻系で働く.いずれもG 蛋白質共役型受容体(GPCR)ファミリーに属し,多重遺伝子ファミリーを形成している.近年のめざましいゲノム解析技術進展に伴い,さまざまな生物種間における嗅覚受容体遺伝子数の違い,遺伝子多型と受容体機能との関係について有用な知見が得られている.また,非嗅覚組織における多くの嗅覚受容体の発現が明らかになり,一部については発現組織特有の機能をもつことも示唆されてきている.鋤鼻受容体に関しては,これまでまったく不明であったリガンドとの対応が徐々に明らかになってきた.本稿では,これら最新の知見と今後の展望について概説する. -
【感覚】 味覚受容体
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎生物は味覚を介して嗜好・忌避物質を認識し,生体恒常性の維持に役立てている.これまで味覚受容機構の多くが謎であったが,近年の分子生物学的手法の進展に伴い,一部のGPCR が味覚受容体として機能することが明らかにされた.TAS1R およびTAS2R ファミリーは,それぞれ甘味・うま味受容体,苦味受容体として機能する.また代謝型グルタミン酸受容体mGluR1,4(Brain 型,Taste 型)もうま味受容体候補である.現在,味覚感受性の種差および変異体を用いた解析により,各受容体の結合サイトの同定が進んでいる.それにより甘味を抑制するギムネマ酸や酸性条件下で甘味を誘導するミラクリンによる味覚修飾効果において,甘味受容体を介した分子メカニズムが明らかにされている.また味覚受容体は口腔だけでなく腸管や膵など全身のさまざまな臓器に発現しており,多機能センサーとして脳および全身の臓器と協調した生体恒常性の維持に関与する可能性が示唆され,味覚受容体のあらたな側面が解き明かされつつある. -
【感覚】 桿体視物質・錐体視物質―桿体視と錐体視の機能的差異をもたらすGPCR
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎脊椎動物の視細胞には桿体と錐体の2 種類があり,桿体は光感度が高いので暗所で働き,錐体は感度が低いので明所で働く.両者は光応答特性が異なっているので,暗所では桿体の,また明所では錐体の特性を反映したものの見え方となる.桿体と錐体には光検出(光受容)を担うGPCR である視物質が存在する.桿体と錐体とでは発現している視物質が異なり,それが一因となって桿体と錐体の光感度の違いが生じている.桿体と錐体のいずれでも,視物質は一度光を受容するとそのままでは二度と光の受容ができない.光を再度受容できるように視物質は再生され再利用される.光を受容して視物質は活性化されるが,その後リン酸化反応やアレスチンの結合により不活性化される.視物質の再利用のために,暗時にはこれらリン酸基やアレスチンは視物質から外れる.その反応は桿体と錐体とで概略は同じであるものの,詳細は少々異なっている. -
【循環器】 βアドレナリン受容体
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎βアドレナリン受容体を介した応答は,細胞膜上でGs 蛋白質を活性化することで引き起こされると考えられてきた.しかし,インターナライズされたβアドレナリン受容体が細胞内でシグナルを生成させることが明らかにされた.βアレスチンを介したMAP キナーゼの活性化に加えて,エンドソーム上で受容体が活性化されGs 蛋白質の活性化を介したcAMP 産生が生じることが示されている.また,βブロッカーも単にノルアドレナリンの作用を阻害するのではなく,MAP キナーゼの活性化やβ3 アドレナリン受容体を介したNO ガス産生酵素(eNOS)の活性化を引き起こし,心臓の保護に働くことも示されている.さらに,受容体がダイマーを形成するG 蛋白質との新たな共役能の獲得や受容体抗体と疾患の関係,miRNA 産生におけるβアレスチンの役割,βアレスチンと似たαアレスチンの細胞トラフィッキングへの関与など,新たな展開が報告されている. -
【循環器】 アンジオテンシンⅡ受容体
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎アンジオテンシンⅡ受容体は,アンジオテンシンⅡを内因性アゴニストとするGPCR であるが,メカニカルストレスによりアゴニスト非依存的にも活性化する.血圧や水・電解質の恒常性の維持という生理機能以外にも,さまざまな心血管疾患の病態形成や個体老化において重要な役割を果たしている.アンジオテンシンⅡ受容体ブロッカーは降圧治療の第一選択薬として広く使われているが,cardiovascular continuum の病態生理学的連鎖を遮断して,心血管障害の進行を予防する. -
【循環器】 エンドセリン受容体
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎エンドセリン(ET)受容体はおもに血管内皮細胞から産生されるET-1 をはじめ,ET-2,ET-3 を合わせた3 種類のアイソペプチドをリガンドとするG 蛋白質共役型受容体で,哺乳類ではET-A 受容体,ET-B 受容体の2 種類が知られている.ET 受容体拮抗薬は現在肺高血圧の治療薬として臨床において使われているが,心不全や悪性腫瘍などに対する効果も報告されている.ET 受容体は個体発生において神経堤細胞の分化や形態形成に重要な因子であり,ET-B 受容体遺伝子異常はHirschsprung 病の原因となることが報告されていたが,最近は頭部顔面の形成異常を主徴とするET-A 受容体遺伝子異常症も同定されるなど,ET の発見から四半世紀をすぎたいまも新しい展開が生まれている. -
【循環器】 プロテイナーゼ活性化型受容体の血管生物学
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎ 1991 年,トロンビンの細胞作用を担う受容体が巨核球cDNA ライブラリーより同定された.この受容体は,細胞外領域の蛋白質分解によって活性化される特殊な活性化機構をもつ7 回膜貫通型受容体である.現在,同様の活性化機構を示す受容体は4 種類同定されており,プロテイナーゼ活性化型受容体(PARs)と総称される.血管系においては凝固線溶系の蛋白質分解酵素がPARs の重要なアゴニストとして作用する.凝固系と血管壁との相互作用は血管病の病態形成に重要な役割を果たし,PARs がその相互作用を担うもっとも重要な分子ととらえられる.PARs が引き起こす内皮および平滑筋作用は血管病の発症・進展にかかわることが示唆され,あらたな治療標的として期待される. -
【内分泌】 バソプレシンV2 受容体―変異による疾患と治療の展望
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎バソプレシンV2 受容体は生体の水バランス維持に必須の分子で,古典的には下垂体後葉から分泌されるアルギニン-バソプレシン(AVP)刺激によりGs の活性化,cAMP 上昇,プロテインキナーゼA(PKA)活性化を介して水チャネルであるアクアポリン2 が尿細管腔側の細胞膜にtrafficking し,髄質の浸透圧勾配に従って水が再吸収される,という枠組みで理解されてきた.一方,AVP の長期作用にはPKA ではなくEpac 経路が関与している可能性や,cAMP 以外にERK1/2 シグナルの関与の可能性が報告されてきている.まれな疾患ではあるが,先天性腎性尿崩症や腎性不適切抗利尿症候群の原因となるV2 受容体の不活性型・活性型変異を解析し,治療法を考案することにより,V2 受容体の生理作用ばかりではなく,シグナルの選択的活性化をはじめとしたGPCR の特異的制御に示唆を与える現象が明らかになってきた. -
【内分泌】 TSH 受容体
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR あるいはthyroid stimulating hormone receptor)cDNA がクローニングされて30 年近くになる.アミノ酸の一次構造の情報のみを頼りにした研究ではじまり,in vitro mutagenesis やキメラ受容体作製による構造・機能解析が行われた時代から,しだいに症例での遺伝子変異情報が加わり,モノクローナル抗体の単離,精製蛋白質のX 線解析による立体構造解析,コンピュータを用いたin silico 解析の進歩などと相まって,TSHR の構造と機能がすこしずつ明らかになってきた.これらは甲状腺という内分泌臓器の生理学的な機能のコントロールをつかさどるTSHR の構造と機能の理解だけでなく,TSHR の恒常的活性化(CAM)/機能喪失変異の病態解明,さらにはTSHR が自己抗原となっているBasedow 病の病因解明にも重要な情報となる. -
【内分泌】 PTH 受容体とクロストーク
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎副甲状腺ホルモン(PTH)受容体は,現在骨粗鬆症の治療薬のなかで骨形成を促進する唯一の薬剤であるテリパラチドの標的である.PTH の間欠的投与がヒトでも動物でも骨形成を促進することから,その作用は動物によらず普遍的である.一方,PTH 受容体のシグナルが骨形成に寄与する機構はなお不明の点が多い.本稿では,PTH 受容体とアドレナリン受容体のクロストークについて概説する. -
【内分泌】 グルコース感知受容体によるインスリン分泌の制御
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎舌の味蕾に発現する甘味受容体は,2 つのG 蛋白質共役型受容体T1R2 とT1R3 のヘテロダイマーとされている.T1R3 はインスリンを分泌する膵β細胞にも発現し,T1R3 ホモダイマーを形成していると考えられる.この受容体はグルコースにより活性化され,細胞膜上のグルコース感知受容体として機能する.この受容体が活性化されると,Ca2+およびcAMP シグナルが産生され,グルコースの代謝経路が賦活化される.β細胞を高濃度グルコースで刺激すると,まずこの受容体が活性化され,グルコースの代謝経路が活性化される.続いてグルコースは細胞内に取り込まれ,あらかじめ賦活化された経路を経て代謝され,ATP が産生される.T1R3 の薬理学的抑制やT1R3 の欠失によりグルコース感知受容体を抑制すると,グルコースによるATP 産生が低下し,インスリン分泌は約40%程度抑制される. -
【代謝】 グレリン受容体―リガンド非依存性の恒常的活性化とその異常
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎グレリンは胃から分泌されるペプチドホルモンで,典型的なGPCR であるグレリン受容体を介して下垂体からの成長ホルモン分泌刺激や,摂食亢進作用を現す.グレリン受容体はリガンドのない状態でもベースのシグナル活性は高くつねに活性化状態にあり,これがグレリンの作用や病態と関連していると考えられている.たとえばグレリン受容体はGH 分泌細胞由来のアデノーマに高発現しており,グレリン受容体のインバースアゴニストであるサブスタンスP アナログは,末端肥大症の治療薬ターゲットとなりうる.またグレリン受容体遺伝子の変異が調べられており,家族性あるいは特発性の低身長症との関連がいくつか報告されている. -
【代謝】 インクレチン受容体
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎食後のインスリン分泌促進によって糖代謝の恒常性維持を担うインクレチンは,膵β細胞に作用するだけではなく,膵外のさまざまな組織に作用し,インクレチンを超えた作用を発揮することがわかってきた.GLP-1 受容体とGIP 受容体の組織特異性発現様式の違いから,インクレチンと総称されるGLP-1 とGIP にはまったく異なる生理的な役割があると想定される.インクレチン作用の活性化を基盤とする薬剤として,DPP-4 阻害薬やGLP-1 受容体作動薬が開発・上市され,糖尿病診療は新しい時代を迎えている.今後,GLP-1 やGIP 作用の網羅的解析,ならびにDPP-4 の基質を解明することで,インクレチン薬の糖尿病治療における役割がより明確になることが期待されている. -
【代謝】 β3 アドレナリン受容体―生理・病態との関連と創薬への展望
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎β3 受容体は齧歯類の白色脂肪組織,褐色脂肪組織に高発現し,脂肪分解とともにミトコンドリアで脂肪酸を熱産生に変換する脱共役蛋白質(Uncoupling protein-1:UCP-1)を高発現することにより抗肥満・抗糖尿病作用を伝える.ヒトβ3 受容体に高親和性のアゴニストは,抗肥満・抗糖尿病作用を期待して開発されたが,実臨床応用は過活動性膀胱に対してであった.最近,過活動性膀胱に対するこの薬剤がヒトの褐色脂肪組織を活性化するという報告もあり,抗肥満薬・抗糖尿病薬としての期待がもたれる. -
【代謝】 メラノコルチン4 型受容体(MC4R)
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎肥満やメタボリックシンドローム研究の進歩により,食欲やエネルギー代謝調節におけるメラノコルチン系の重要性が指摘されている.メラノコルチンはPOMC の細胞内プロセシングにより生成されるペプチドであり,メラノコルチン受容体を介してシグナルを伝達する.メラノコルチン受容体は7 回膜貫通型G 蛋白質共役型受容体で,おもに細胞内cAMP がセカンドメッセンジャーとなる.メラノコルチン受容体は1~5 型の5 種類が同定されているが,なかでも4 型受容体(MC4R)は中枢神経系に発現し,食欲抑制ホルモンであるレプチンのシグナルの下流に存在するため,食欲やエネルギー代謝調節に密接にかかわるとされている.MC4Rシグナルを欠損するマウスは肥満を呈することが知られており,ヒトにおいてもMC4R 遺伝子異常症は単一遺伝子異常によるヒト遺伝性肥満の原因としてもっとも頻度が高く,食欲やエネルギー代謝調節にMC4R が深くかかわることが示唆される. -
【代謝】 食事性栄養センサー脂肪酸受容体
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎近年,脂質である脂肪酸(短鎖,中鎖,長鎖)を天然リガンドとする細胞膜上の受容体としてあらたな一群のG 蛋白質共役型受容体(GPCR)ファミリーが同定され,脂肪酸はエネルギー源としてだけではなく,シグナル伝達物質として認識されるようになった.現在,脂肪酸が関与する炎症や代謝の原因因子であることや脂肪酸体がリガンドであることから,各種脂肪酸受容体は生活習慣病のあらたな創薬分子標的として注目されている.当研究室においても精力的にこれら脂肪酸受容体のエネルギー代謝制御に関する多数の知見を報告してきた.最近著者らは,長鎖脂肪酸受容体GPR120 の変異がヒトにおける食事性肥満の原因となりうること,また,短鎖脂肪酸受容体GPR41 とGPR43 が交感神経系や脂肪組織における脂肪蓄積の制御を介して共生腸内細菌による宿主エネルギー恒常性維持に密接にかかわっていることを明らかにした.近年,長鎖脂肪酸受容体であるGPR40 を含め,これら脂肪酸受容体によるエネルギー代謝制御機構が明らかになりつつあるが,本稿では,これら遊離脂肪酸受容体についての最新の知見について概説する. -
【代謝】 GPR40 の生理機能とGPR40 アゴニストの薬理作用
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎ GPR40/FFAR1 は中長鎖脂肪酸をリガンドとするG 蛋白質共役型受容体(GPCR)で,膵β細胞に高発現する.GPR40 活性化は既存のインスリン分泌促進刺激とは異なる作用機序を介してインスリン分泌を惹起することから,その低分子アゴニストはあらたなインスリン分泌促進薬として期待されてきた.Fasiglifam(TAK-875)は武田薬品工業で創製された選択的GPR40 アゴニストであり,2 型糖尿病患者を対象とした臨床試験において有効性が確認された.本稿では,fasiglifam の非臨床から臨床に至るまでの一連の創薬研究を通して得られたGPR40 の生理機能やアゴニストの特徴的な薬理作用に関する知見を中心に,最新のGPR40 に関する知見も踏まえて概説する.これらの知見は,低血糖リスクが少なくかつ強力な血糖コントロールを達成しうる2 型糖尿病治療薬としてのGPR40 アゴニストの可能性を示唆する.また近年,fasiglifam とは異なるタイプのGPR40 アゴニストも見出され,その非臨床成績から明らかとなってきたGPR40 のあらたな側面についても最後に紹介したい. -
【免疫・炎症】 ロイコトリエン受容体
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎ロイコトリエン(LT)は,膜リン脂質から遊離されたアラキドン酸から生合成される生理活性脂質であり,ロイコトリエンB4 (LTB4)とシステイニルロイコトリエン(LTC4,LTD4,LTE4)に大別される.LTB4は古くから白血球の走化性因子として知られ,生体防御に寄与すると考えられてきた.一方でシステイニルロイコトリエンは非常に強い気管支収縮作用をもつことから,その受容体拮抗薬が気管支喘息治療薬として開発され,臨床の現場で用いられてきた.LTB4の受容体としてBLT1,BLT2 が,システイニルロイコトリエンの受容体としてCysLT1,CysLT2 が同定されて以降,これらの受容体の遺伝子欠損マウスが樹立され,さまざまな疾患モデルを用いて機能解析が行われた.その結果,LT 受容体は非常に多くの炎症,免疫反応の重要な制御因子として働くことが明らかとなってきた.本稿では,さらなる受容体の制御機構の解明や疾患とのかかわり,あらたな受容体拮抗薬の開発が期待されるLT 受容体について,これまでの知見に最新の知見を加えて概説する. -
【免疫・炎症】 プロスタノイド受容体を介した免疫・炎症応答亢進の分子機構
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎アスピリンに代表される非ステロイド性抗炎症薬は,プロスタノイドの生合成を阻害することで解熱・鎮痛・抗炎症効果を発揮する.これらの薬剤は,全身の臓器のプロスタノイドシグナルをいっせいに遮断してしまうことから,さまざまな副作用を呈する.近年,プロスタノイドの生理・病態作用がいかにして発揮されるかといった細胞レベルの応答が受容体ごとに明らかになってきた.本稿では,プロスタノイドが免疫・炎症応答を制御する例として,EP3 受容体を介した急性炎症,EP2/EP4 受容体を介した免疫応答,EP2 受容体を介した炎症起因性大腸癌について紹介するとともに,これらプロスタノイド受容体を分子標的とした創薬の可能性について議論したい. -
【免疫・炎症】 ケモカイン受容体
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎ケモカインとは細胞遊走をおもな作用とする,おもに塩基性・ヘパリン結合性の小型サイトカインの一群である.ケモカインはすべて7 回膜貫通G 蛋白質共役型受容体に結合して作用する.現在,ヒトではGαi 共役により細胞遊走を誘導する受容体18 種とスカベンジャー型の受容体5 種が同定されている.ケモカイン系の特徴のひとつに,高度に重複した複雑なリガンドレセプターの関係がある.またケモカインによるケモカイン受容体の活性化は2 段階結合によって行われる.すなわち第1 段階のおもに静電気的な力による高親和性結合の後,ケモカインのN 末端部分がケモカイン受容体の膜貫通領域が形成するポケットに結合して活性化される.ケモカイン系は自然免疫や適応免疫,発生における臓器形成,癌のストローマ形成や転移,後天性免疫不全症ウイルスの感染など,さまざまな生物現象に関係している.現在,ケモカイン受容体を標的とする薬剤としてはCCR5 阻害薬のmaraviroc,CXCR4 阻害薬のplerixafor,およびヒト化脱フコシル型抗CCR4 抗体のmogamulizumab が臨床応用されている. -
【免疫・炎症】 スフィンゴシン1-リン酸受容体
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎スフィンゴシン1-リン酸(S1P)は細胞膜のスフィンゴ脂質から生成されるリゾリン脂質のひとつで,生体の発生,恒常性維持や病態形成におけるさまざまなプロセスを制御する.細胞外に放出されたS1P は,特異的GPCR であるS1P 受容体(S1P1~S1P5)に結合して細胞内にシグナルを伝達し,遊走,接着,生存,増殖などの細胞挙動を調節する.S1P 受容体は生体に広く発現し,S1P シグナルは多くの器官系に影響を及ぼすが,とくに心血管系,免疫系,神経系の制御に重要であり,血管の発生,免疫細胞のトラフィキング,神経発生に必須の役割を果たしている.さらに自己免疫疾患,炎症性疾患,癌などの病態形成における役割も明らかになりつつある.S1P 受容体調節薬のFTY720(フィンゴリモド)は多発性硬化症(MS)の治療薬として使用されており,S1P 受容体は多様な疾患の治療標的としても注目される. -
【免疫・炎症】 炎症性疾患とプロトン感知性受容体
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎リゾ脂質分子をリガンドとするG 蛋白質共役受容体(GPCR)として報告されていたOGR1 とそのファミリー受容体であるGPR4,TDAG8 が細胞外pH,すなわち水素イオン(プロトン)を感知することが判明した.いずれのGPCR も細胞外領域に存在すると思われるヒスチジン残基(pKa=6.5)がpH6~8 のプロトン濃度を感知し,G 蛋白質を介して細胞内にシグナルを伝える.pH 感知能から推測されるように生理的な血管形成,糖代謝,骨代謝,酸-塩基平衡調節,呼吸制御などの応答から局所でのpH 低下が予想される腫瘍,気道炎症,大腸炎,関節炎,網膜炎などの病態にも深くかかわっていることが受容体ノックアウトマウスなどの解析から明らかにされてきた.本稿では炎症性疾患に焦点を当て,プロトン感知性GPCR の役割に関して解説する. -
【精神・神経・睡眠・摂食】 オレキシン受容体
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎ゲノム解析の結果,ヒトのゲノムには600 個以上のG 蛋白質共役型受容体(GPCR)遺伝子が存在することが明らかにされているが,いまだに対応する内因性リガンドが明らかになっていない“オーファンGPCR”は数多く残されている.臨床的に応用されている多くの薬物がGPCR をターゲットとしていることを考えると,これらオーファンGPCR が重要な薬物のターゲットとなる可能性も高い.しかしその可能性を探るためには,これらのオーファンGPCR の生理機能を明らかにする必要があり,そのためには内因性リガンドに関する情報が必要である.オレキシン(orexin)は,あるオーファンGPCR を発現させた細胞をアッセイ系にしてラットの脳から単離・精製された神経ペプチドである.当初,摂食行動への関与が注目された.その後,オレキシンの欠損はナルコレプシーをきたすことが明らかとなり,覚醒維持に必須のファクターであることが明らかとなった.オレキシンは内因性の強力な覚醒誘導物質であり,その機能亢進は不眠症の病態生理にもかかわっている可能性が高く,2014 年末に発売されたオレキシン受容体拮抗薬は新しい機序の睡眠導入薬・不眠症治療薬として期待されている.このように,オレキシンはオーファン受容体のリガンド探索からスタートして臨床応用に至った,いまのところ唯一の例である.さらに大脳辺縁系,視床下部における摂食行動の制御系,脳幹の覚醒制御システムとの相互の関係が明らかにされており,オレキシン系は睡眠・覚醒調節機構の一部であるだけでなく,情動やエネルギーバランスに応じ,睡眠・覚醒や報酬系,そして摂食行動を適切に制御する統合的な機能をもっていることが示されている.オレキシンの受容体には2 つのサブタイプが存在し,これらはこのようなオレキシンの機能を役割分担しながら支えている.オレキシン受容体作動薬や拮抗薬は睡眠障害や不眠症のほか,摂食障害,薬物依存などにも有効な治療薬となる可能性がある. -
【精神・神経・睡眠・摂食】 オキシトシン受容体―その社会性の障害との関連
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎クラスⅠのG 蛋白質共役受容体ファミリーに属するオキシトシン受容体(Oxtr)は,この受容体を介した社会行動へのオキシトシンの作用や,さらには社会性の障害を主徴とする自閉スペクトラム症(ASD)におけるあらたな治療薬としての可能性とともに,近年とくに注目を集めている.本稿では,社会性との関連を中心にOxtr についての実験動物およびヒトにおける近年の知見を概観する.さらに,オキシトシンの点鼻投与がASD の社会性の障害やその基盤をなす扁桃体や内側前頭前野や前部帯状回の機能不全に奏効するという現象は,Oxtr 遺伝子多型の表現型や中間表現型として考えられる社会性の障害やその脳基盤に対して,外因性のオキシトシン投与が修飾作用を発現している現象として理解できることを指摘する. -
【精神・神経・睡眠・摂食】 摂食調節ペプチド受容体
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎生体は,体重および体脂肪量を一定に保つために,摂食行動を促進および抑制する巧妙なネットワークを有している.末梢組織で産生・分泌される消化管ホルモンおよびアディポシティシグナルは,血流あるいは求心性迷走神経を介して末梢からの情報を視床下部,とくに弓状核に伝える.さらに,弓状核に存在する摂食促進神経ペプチドあるいは摂食抑制神経ペプチドによって情報が上位の室傍核および視床下部外側野に伝達され,摂食量およびエネルギー消費量が適正にコントロールされている.この複雑な摂食調節機構には,7 回膜貫通G 蛋白質共役型受容体に作用する複数のペプチドがかかわっていて,それらの相互作用が明らかになりつつある.この摂食調節機構の解析により,近年社会問題となっている肥満,糖尿病および摂食障害などの予防や治療の進展が期待されている. -
【精神・神経・睡眠・摂食】 メラニン凝集ホルモン受容体―最近の基礎研究における話題
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎メラニン凝集ホルモン受容体(MCH)は硬骨魚類の体色明化を引き起こす物質として,サケ脳下垂体から精製された神経ペプチドである.続いてラット脳からMCH が単離され,さらに1999~2001 年にはオーファンGPCR ストラテジーによりMCH の受容体(MCHR1, MCHR2)が判明した.この生理活性物質-受容体の組合せ決定により,薬理学的解析,遺伝子改変動物の作製,MCHR1 選択的アンタゴニストを用いた行動実験が可能となり,研究は大きく進展する.現在ではMCH-MCHR1 系の生理作用は当初考えられていた範囲よりも多彩であり,情動を含めた高次中枢機能のほか,アレルギーや炎症との関連も報告されている.本稿ではMCH 受容体を介するシグナル伝達機構・構造活性相関についての最新知見と,摂食/エネルギー代謝調節における役割を中心に概説する. -
【精神・神経・睡眠・摂食】 情動調節における各種オピオイド受容体の役割
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎オピオイド受容体はG 蛋白質共役受容体のサブファミリーに属し,μ受容体,δ受容体,κ受容体の3 つの大きなクラスに大別される.これらのオピオイド受容体とその内在性リガンド(オピオイドペプチド)は,脳内において情動制御にかかわる主要な部位に分布しており,古くから情動調節との関連が指摘されてきた.ノックアウトマウスを用いた検討から,μ受容体は不安・抑うつ様行動に対して促進的な,一方,δ受容体は抑制的な役割を担っていることが報告されている.動物モデルを用いた薬理学的な検討から,μ受容体作動薬,δ受容体作動薬,またκ受容体作動薬およびκ受容体拮抗薬が抗うつ様作用あるいは抗不安様作用を有する可能性が示唆されている.実際,δ受容体作動薬やκ受容体拮抗薬の抗うつ作用や抗不安作用が臨床試験において検討されるなど,オピオイド受容体をターゲットとした向精神薬開発の期待が近年高まっている. -
【精神・神経・睡眠・摂食】 生体リズムを調節するGPCR
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎全身の多様な生理機能は24 時間リズムとして規則正しく調律されるが,そのすべてを統率する時計の中枢が脳内の視交叉上核(SCN)とよばれる神経核にある.概日時計の機能障害はさまざまな疾患と関連づけられており,生体リズム中枢に働く薬の開発はあらたな時間治療につながると期待される.G 蛋白質共役受容体(GPCR)は,薬理学上もっとも重要でかつ効率のよいターゲットとして知られる分子群である.本稿では,SCN において機能する主要なGPCR として,血管作動性腸管ポリペプチドの受容体であるVipr2 とアルギニンバゾプレシンの受容体であるV1a およびV1b を紹介する.また,SCN 内のG 蛋白質シグナルは時刻依存的なゲート機能によって制御されており,それに関するRgs16 の役割を紹介する.Vipr2 は生体リズムの形成維持に,V1a/V1b はジェットラグなどの時差環境への適応に,Rgs16 は目覚めの時刻決定に重要である. -
【精神・神経・睡眠・摂食】 線条体D2受容体とポジティブ錯覚
256巻5号(2016);View Description Hide Description◎線条体ドパミン神経伝達は,運動機能に加えて認知機能の調整にも深くかかわることがこれまで多数の研究により報告されている.本稿では,自己を評価する際に生じる“ポジティブ錯覚”の調整にもドパミン神経伝達機能が関与していることを解説する.ポジティブ錯覚とは自分は他人より優れているという思い込みを指し,この錯覚をもつことはこころの健康に重要な役割を果たす.この錯覚が生じる背景に,線条体ドパミンD2受容体結合能の低下による線条体-前部帯状回の機能的結合度(同調性)の低下が存在することを,PET と安静時fMRI を用いた著者らの研究で見出した.この特定の分子・神経回路は行動や認知機能の制御・調整にかかわっていることが知られており,ある種,誤判断であるポジティブ錯覚に対し,調整機能が低下している可能性が示唆される.一方,抑うつ症状が強いと,D2受容体結合能が高く線条体機能的結合度が強まることから,抑制機能の働きすぎがポジティブ錯覚の減衰をもたらすことが見出された.今後のうつ病研究への展開が期待される.
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