医学のあゆみ
Volume 256, Issue 9, 2016
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あゆみ インクレチン関連薬に心血管保護作用はあるのか?
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インクレチンの臓器保護作用
256巻9号(2016);View Description Hide Description◎インクレチンはインスリン分泌を促進する消化管因子で,GIP とGLP-1 がその本体である.インスリンの追加分泌を促進することで,糖代謝の恒常性維持を担っている.GIP とGLP-1 はこのような膵作用のほかに,それぞれに特有の膵外作用を介しても耐糖能に影響を与える.また,膵β細胞保護や動脈硬化抑制などオリジナルのインクレチンの概念を超えた作用も示されている.このような状況で,インクレチンシグナルを活性化することで血糖コントロールをはかる薬剤として,DPP-4 阻害薬やGLP-1 受容体作動薬が登場し,臨床の場で広く使用されている.インクレチン薬は大血管症・細小血管症,認知症などを改善させる可能性があり,糖尿病症例の生命予後改善に期待できる.今後,基礎・臨床の両面からの研究が進み,インクレチン作用の解明がインクレチン薬の薬効の違いの理解につながるであろう. -
DPP-4 阻害薬の臓器保護作用─基礎研究から期待される効果
256巻9号(2016);View Description Hide Description◎DPP-4 阻害薬は上市後6 年間で,わが国の糖尿病受療者の半数を超える300 万人以上に使用され,国内の糖尿病診療を大きく変革している.DPP-4 阻害薬は,インクレチンであるGLP-1 やGIP に加えて,SDF-1やPYY などの生理活性ペプチドを制御するDPP-4 を標的とするため,血糖降下作用以外にさまざまな副次的作用が予測されてきた.基礎的な研究からDPP-4 阻害薬の臓器保護効果,とくに心血管保護作用に関する知見が集積され,糖尿病治療においておおいに期待される一方,DPP-4 阻害薬の心血管安全性を評価する大規模臨床試験では,明らかな心血管保護作用は証明されなかった.ハイリスク者を対象とした短期間の安全性試験からDPP-4 阻害薬の臓器保護効果を議論することは難しく,今後,一次予防に関するデータ蓄積がまたれる.本稿では,DPP-4 阻害薬の臓器保護効果について,インクレチンを含めDPP-4 の基質となる生理活性ペプチドの作用を含めて概説する. -
インクレチン関連薬の抗動脈硬化作用
256巻9号(2016);View Description Hide Description◎GLP-1 受容体アゴニストは,直接的な作用によってアテローム動脈硬化病変の形成を抑制する.さらに,血糖改善作用,体重減少作用,降圧作用,脂質異常改善作用など動脈硬化の危険因子を是正することで,間接的にも動脈硬化を抑制する.しかし,大血管合併症の二次予防の2 型糖尿病患者を対象とした大規模臨床試験のELIXA では,GLP-1 受容体アゴニストによる心血管イベントの抑制作用は示されなかった.基礎研究におけるGLP-1 受容体アゴニストの抗動脈硬化作用は病変形成の抑制によるものであり,すでに形成された病変の退縮によるものではないため,GLP-1 受容体アゴニストの効果は一次予防にもっとも有効であると考えられる.現在進行中のEXSCEL は2 型糖尿病患者全般を対象としており,基礎研究と大規模臨床試験の結果が乖離している理由を明らかにするためにはこの試験結果がまたれる. -
インクレチン関連薬の脳血管保護作用
256巻9号(2016);View Description Hide Description◎糖尿病の治療の目標は,慢性合併症である血管合併症の予防にある.既存の糖尿病治療薬による大規模臨床試験では,厳格な血糖管理が大血管障害,とくに脳卒中を抑制するか否かについて現在のところエビデンスはない.一方,糖尿病が脳梗塞の独立した危険因子であることは多数の疫学研究により示されている.Steno-2study やPROactive 試験から,糖尿病患者の脳卒中予防には血糖管理のみならず,高血圧,脂質異常症などの併存する複数の危険因子を早期から厳格に管理することがもっとも有効と考えられている.そこで,既存の糖尿病治療薬と異なる機序で血糖を改善させ体重増加を起こしにくくし,低血糖を生じさせる可能性の少ない糖尿病治療薬であるインクレチン関連薬には,動脈硬化性疾患の発症進展の抑制効果も含めて期待がもたれている.インクレチン関連薬を用いた脳梗塞発症抑制のエビデンスは動物実験,臨床試験でも構築されつつあり,今後さらなる長期的な検討が必要である. -
インクレチン関連薬の心血管イベントに関する臨床試験─インクレチン関連薬の抗動脈硬化作用がみえにくい理由
256巻9号(2016);View Description Hide Description◎2009 年に登場したDPP-4 阻害薬は優れた抗糖尿病作用や利便性の高さから,いまや2 型糖尿病臨床における主役である.また,インクレチン関連薬の基礎実験では優れた抗動脈硬化作用が数多く報告されている.しかし,ヒトにおける動脈硬化抑制効果の報告はごく限られた症例の小規模研究,あるいはメタアナリシスにとどまる.最近報告があいついでいる前向き大規模臨床試験では,非劣性こそ明らかにされたものの,大血管合併症抑制という観点からはインパクトに欠ける.試験デザイン自体が非劣性の証明を目的としたもので,動脈硬化の抑制を検証するには不十分であったこと,標準治療のレベルが高いことなどが,実薬群の優越性の検証を困難にしている点は否定できない.インクレチン関連薬による心血管イベント抑制効果の臨床レベルでの検証は,糖尿病薬物治療の今後のあり方を考えるうえで重要な課題といえよう. -
DPP-4 阻害剤と心不全─最近のトピックから
256巻9号(2016);View Description Hide Description◎各種パイロット試験,メタ解析,前臨床研究の結果からDPP-4 阻害剤の心血管保護作用に対して大きな期待が集まっていたが,2013 年夏に同時公表された2 つの無作為大規模臨床試験(SAVOR-TIMI53 試験およびEXAMINE 試験)では,約2 年という短期間の試験期間において心血管イベントに対する安全性は担保されたものの,SAVOR-TIMI53 試験における予期せぬ心不全発症という重要なイベント増加が認められた1).その一方,EXAMINE 試験2)ではこのような傾向は認められず,これらのエビデンスのみからでは糖尿病患者への使用に関する心不全管理上の安全性が不安視される傾向もあった.しかし2015 年春,あらたに発表となったTECOS 試験の結果をもって,DPP-4 阻害剤の使用は心不全発症を増加させる傾向はないと考えられる知見が得られた.今後さらなる大規模臨床研究の結果や,糖尿病が心不全発症リスクを高めるというよく知られるエビデンスを考慮し,本稿ではDPP-4 阻害剤と心不全の関係を糖尿病の観点から概説していく. -
わが国におけるDPP-4 阻害薬の使用状況と血管合併症
256巻9号(2016);View Description Hide Description◎2 型糖尿病治療薬のなかでもしっかりとした血糖改善効果があり,低血糖症や消化器症状などの副作用が少ないDPP-4 阻害薬が発売され,6 年が経過した.安全性・有効性に加え,久しぶりの新薬ということもあり非常に幅広く使われており,糖尿病薬市場に占める割合も高い.DPP-4 阻害薬には糖尿病による大血管障害の進行抑制が期待されたが,ランダム化比較試験(RCT)においては対照群と比較して非劣性であった.基礎研究や小規模な臨床研究ではDPP-4 阻害薬が細小血管障害を抑制すると報告されているが,直接の細小血管障害進行の抑制については結論が出ておらず,さらに長い観察期間が必要である.安全性,有効性の高いDPP-4阻害薬は今後も日本人2 型糖尿病治療において欠かせない選択肢のひとつであると考えられる.
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連載
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- 医学教育の現在―現状と課題 6
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地域に根ざした医学教育と医療・介護・福祉における多職種協働
256巻9号(2016);View Description Hide Description◎超高齢社会への社会構造の変化は,医療人教育にも大きな変革をもたらした.地域包括ケアへのパラダイムシフトが起こりつつある.医療人の養成がその任にある大学でも,地域で活躍でき,地域に根ざした医学教育を養成プログラムとして加えてきている.地域に根ざした医学教育には,僻地での教育と都市近郊で進んできている高齢化を視野に入れた地域包括ケアがあるが,これらのプログラムは大学キャンパスや大病院だけではその遂行が難しい.医療・介護・福祉における多職種協働が必要であり,さらに地域住民,行政などの協力が求められることになる.そのため医療人としての資格をとる前から,チームワークの実践,コミュニケーション能力の獲得,将来志す職種や他の医療・福祉などの職種への認識,患者(利用者)中心性の認識など医療のプロフェッショナルとしての自覚を促す教育が求められる.
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速報
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輝く 日本人による発見と新規開発 25
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