Volume 256,
Issue 10,
2016
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【3月第1土曜特集】 炎症性腸疾患のいま
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医学のあゆみ 256巻10号, 999-999 (2016);
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疫学と研究の進展
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医学のあゆみ 256巻10号, 1003-1007 (2016);
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◎炎症性腸疾患(IBD)は西洋に多く,東洋に少ない疾患であると認識されていたが,近年,わが国のみならず中国,韓国,インドでも罹患率が上昇している.そこで,生活習慣の欧米化や生活環境がIBD の発生に関与している可能性が指摘されている.疾患のリスク因子を解明するため多くの研究が実施されてきたが,研究デザイン上の限界や,報告数が少ないといった難病特有の問題のために,かならずしも明確な結論に至っていない要因も多い.一方,近年の治療技術の向上により疾患の死亡率が低下してきたことから,長期患者の寛解維持,および悪性腫瘍(とくに大腸癌)の予防も重要事項にあげられる.あらたな発症者を可能なかぎり予防し,長期患者の予後を可能なかぎり改善するため,公衆衛生上の観点からも疾患のリスク因子を早急に解明するとともに,予後改善に対する取組みが急務である.
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医学のあゆみ 256巻10号, 1009-1014 (2016);
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◎炎症性腸疾患(IBD)の遺伝要因について,欧米を中心にゲノムワイド相関解析が行われ,現在までに200 の感受性候補領域が報告されている.また,超若年発症例の一部はMendel 型の単一遺伝子疾患に合併した腸管病変であることもわかってきた.これらの感受性遺伝子・原因遺伝子の機能から,IBD の遺伝的背景因子として細菌などの認識・排除にかかわる自然免疫・獲得免疫系や,粘膜上皮・バリア機能の異常が予想される.このような遺伝背景をもつ個体に,腸内細菌叢との相互作用が加わることで疾患に至っている可能性が予想されてきている.しかし,これまでの大規模解析は欧米人中心のコホートで,アジア人での解析はその対象症例数が少なく,さらに解析する多型がアジア人に特化していないことから,今後もさらなる解析がアジア主導でも行われる必要がある.また,疾患の予後などを規定する因子が疾患感受性遺伝子以外の遺伝要因で決定されている可能性もあり,詳細な臨床データでのゲノム解析も今後期待される.
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医学のあゆみ 256巻10号, 1015-1020 (2016);
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◎ヒトの腸内には約1,000 種,100 兆個以上の腸内細菌が存在し,宿主ごとに異なった腸内細菌叢を形成している.腸内細菌は宿主と共生をしており,たとえば食物繊維を短鎖脂肪酸に代謝して,宿主の消化管粘膜における恒常性維持や栄養源とするなど,腸内細菌から多くの恩恵を受けている.また,Clostridium 属細菌のなかには制御性T 細胞を誘導する種もあり,間接的に炎症の抑制にも関与している.炎症性腸疾患(IBD)の患者では腸内細菌叢の菌数ならびに多様性が低下(dysbiosis)していることが知られている.消化管粘膜における正常な免疫機構が障害され,過剰な免疫応答が惹起されることや,代謝産物の産生調整が攪乱されて上皮障害が生じることなどがIBD の病態仮説として考えられており,dysbiosis はこれらに関与していると考えられる.腸内細菌を標的としたIBD の治療としてプロバイオティクス・プレバイオティクスならびに糞便微生物移植が試みられており,あらたな治療法としての可能性が期待されている.
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医学のあゆみ 256巻10号, 1021-1025 (2016);
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◎炎症性腸疾患(IBD)は,腸管粘膜に原因不明の慢性炎症をきたす難病である.元来,同疾患の病因は“過剰な免疫応答”にあると考えられ,したがって,治療法開発も免疫応答を適切かつ継続的に制御することを目標に発展してきた.現在,抗TNF-α抗体製剤に代表される“バイオ”医薬品により,従来は寛解導入・維持が困難であった患者群においても長期寛解維持が可能となってきている.一方,これら強力な免疫制御を可能とする治療薬の登場により,IBD の病態と治療における上皮細胞の重要性が改めて見直されてきている.近年の研究により,上皮細胞機能の破綻が病態の重要な構成因子であること,粘膜上皮の構造・機能の回復をさす“粘膜治癒”が長期の寛解維持を得るうえできわめて重要であることが多くの研究で示されている.そこで本稿では,IBD の病態における上皮細胞の役割とその再生機構について概説し,粘膜再生治療の現状と展望についても紹介したい.
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医学のあゆみ 256巻10号, 1026-1030 (2016);
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◎潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)は慢性に経過し,腸管病変とともにさまざまな腸管外合併症をきたす難治性炎症性腸疾患(IBD)である.典型的な所見を示す症例の診断は比較的容易であるが,発症早期や非典型的な症例ではその診断に難渋することも少なくない.わが国では1975 年にUC,1976 年にCD の診断基準が発表された.基本的に両疾患の診断基準は形態学的所見と除外診断をもとに成り立っている.診断基準はその疾患を確実に診断し他疾患を除外するとともに,発病初期に診断できる必要もあるためバランスのとれたものでなければならない.現在まで両疾患の病因は明らかとなっておらず,これまで厚生労働省難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班主導のもと,あらたな形態学的および病態学的知見に基づき診断基準は幾度か改訂されてきた.しかし,自覚症状に乏しい場合や形態学的所見においても他疾患との鑑別が困難なため疑診とされ,長期にわたる経過観察によって診断が確定する症例もある.今後,病因が解明され,より感度と特異度が高い診断基準が作成されることが望まれる.
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医学のあゆみ 256巻10号, 1031-1034 (2016);
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◎カプセル内視鏡(CE)やバルーン内視鏡(BAE)の導入により,クローン病(CD)の小腸病変評価における内視鏡の意義は高まっている.CE は低侵襲でありながら高い全小腸観察率を有することから,CD 非狭窄例では病変範囲や重症度の判定,治療効果判定や術後再発評価などに有用性を発揮する.また,微細病変の評価も可能であることから,軽微なCD の拾い上げにも有用と考えられる.一方,BAE は鎮静下に行う必要があるが,詳細な病変観察と生検組織採取が可能であり,CD の確定診断に有用な検査手段といえる.加えて狭窄拡張や止血術などの治療介入も可能であり,CE とは異なった臨床的意義を発揮する.ただし,CE とBAE はいずれも瘻孔や壁外病変の評価における意義は低いことを念頭におく必要がある.
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医学のあゆみ 256巻10号, 1035-1043 (2016);
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◎炎症性腸疾患(IBD)の治療決定には正しく客観的な活動性評価が不可欠である.近年では慢性疾患においてtreat-to-target が提唱され,IBD においても治療法の進歩により臨床的寛解から粘膜治癒へと治療目標が変わりつつある.これまで潰瘍性大腸炎(UC),クローン病(CD)ともに多数の臨床的および内視鏡的指標が提唱されている.UC では臨床的にはCAI,DAI,Lichtiger Index が,内視鏡的にはMES,EI,UCEIS,UCCIS などが提唱されているが,どのスコアも一長一短であり,病変範囲や炎症程度の推移や粘膜治癒を評価するための統一したスコアがなく,champion index というべきスコアが必要である.CD では臨床的にはCDAI があり,多くの研究においても採択されているが,測定に7 日間を要し臨床検査などを含みやや煩雑であるため,日本では簡便なIOIBD も多用されている.内視鏡的にはCDEIS,SES-CD が使用されているが,大腸病変に主眼をおいた指標であることや煩雑な点が問題である.最近,小腸の評価法としてMREC とSBE を比較した報告も出されており,今後CD においても,小腸を含めた粘膜治癒の評価法が求められている.
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医学のあゆみ 256巻10号, 1044-1047 (2016);
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◎炎症性腸疾患(IBD)の診療においては,診断や病勢の把握のために内視鏡検査やX 線検査などの画像診断が必須となる.しかし,これらは侵襲的で負担が大きいため頻回な施行は避けなければならず,小児例では施行が困難であることも多い.一方で,IBD は診断時に潰瘍性大腸炎(UC)のクローン病(CD)の鑑別に難渋する例や,経過中に疾患活動性の把握が困難である例をしばしば経験する.このため,非侵襲的で鑑別診断や疾患活動性の評価,内視鏡所見の予測などを目的としたバイオマーカーの出現がまたれている.自己抗体や微生物抗体に代表される血清抗体マーカーに関しては,IBD と過敏性腸症候群やUC とCD の鑑別における有用性,それぞれの疾患の活動性との関連性について多く報告されている.糞便マーカーでは,免疫学的便潜血法がUCにおいて粘膜治癒を予測しうることが報告され,粘膜治癒が達成できた場合の予後予測マーカーとして期待される.
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医学のあゆみ 256巻10号, 1048-1052 (2016);
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◎潰瘍性大腸炎(UC)患者の診療において内視鏡の役割は重要である.約80 倍の観察が可能な拡大内視鏡のUC 診断に対する有用性として,正確な炎症の判定と,それによって長期予後を予測できるという報告が散見されている.また,炎症に関連する癌・非癌の判別に有用である可能性が示唆されている.顕微鏡レベルの観察が可能な超拡大内視鏡にはconfocal laser endomicroscopy(CLE)とendocytoscopy system(ECS)があり,超拡大観察所見と病理所見との相関が報告されている.大腸カプセル内視鏡(CCE)は2006 年に,はじめて報告され,CCE によるUC の炎症度判定の可能性も報告されている.本稿では,新規内視鏡の有用性,可能性について概説する.
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治療の進展
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医学のあゆみ 256巻10号, 1055-1057 (2016);
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◎潰瘍性大腸炎(UC)とは,大腸粘膜に炎症が起こり,びらんや潰瘍が生じ,生涯治療の継続が必要とされる原因不明の難治性疾患である.下痢や粘血便(血液・粘液・膿の混じった軟便),発熱や体重減少などの症状が主体である.病状は寛解と増悪を長期にわたって繰り返し,重症の場合は手術を余儀なくされる症例も存在する.平成25 年度特定疾患医療受給者証登録患者数は16 万人を超え,けっしてまれな疾患とはいえない.UCに対する根治的な内科的治療は確立されていない.したがって,現状の内科治療における目標は寛解への早期導入と再燃防止の長期維持である.活動期においては,患者の全身状態,病変の罹患範囲などを的確に診断し,厚生労働省の提案している治療指針に基づき治療を進めていくことが必要である.重症例においては,手術という治療法をつねに念頭におき,外科とのコミュニケーションをとりながら薬物治療を進めていくべきである.
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医学のあゆみ 256巻10号, 1058-1063 (2016);
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◎クローン病(CD)は臨床的寛解のみならず,粘膜治癒やQOL 向上をめざす完全寛解を治療目標とする.このためには活動性病変や臨床症状の重症度に応じて戦略的な治療アルゴリズムに準じて,適切な治療法を選択する.活動性が高い場合にはステロイドによる治療が推奨されるが,ステロイド抵抗性・依存性,チオプリン系免疫調節薬での病勢コントロールが困難である場合には,抗TNF-α抗体製剤による治療介入を行う.狭窄や瘻孔などの腸管合併症は相対的な手術適応病変であり,このような病態をきたす前に抗TNF-α抗体製剤による治療を開始する.抗TNF-α抗体製剤を凌駕する治療法は確立されていないため,長期的な治療が可能となるような工夫も必要である.抗TNF-α抗体製剤のうちインフリキシマブが有する免疫原性は,免疫調節薬併用で制御することにより二次無効が抑制され,より長期間の寛解維持が得られる.二次無効時には相対的な手術適応となる病態を検索し,内科治療継続が可能な場合には倍量投与を行う.
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医学のあゆみ 256巻10号, 1064-1070 (2016);
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◎抗TNF-α抗体製剤が効果を発揮するには十分な血中濃度が維持できている必要があり,モニタリング指標として抗TNF-α抗体製剤の投与直前値であるトラフ濃度が用いられている.抗TNF-α抗体製剤のトラフ濃度に影響を与える因子として,①抗TNF-α抗体製剤投与前のTNF-α濃度,②抗TNF-α抗体製剤の糞便中への漏出,③網内系でのクリアランス,④抗TNF-α抗体製剤に対する抗体(抗薬物抗体)の出現,などがあげられる.抗TNF-α抗体製剤の効果減弱は“二次無効”とよばれ,抗薬物抗体の出現との関連が示唆されている.二次無効の内科的な対処として抗TNF-α抗体製剤の増量・期間短縮,抗TNF-α抗体製剤間での薬剤変更,アザチオプリンの導入・増量,クローン病(CD)では成分栄養剤,潰瘍性大腸炎(UC)では血球成分除去療法やカルシニューリン阻害剤などが選択肢となる.本稿では,抗TNF-α抗体製剤の増量・期間短縮や薬剤変更の治療成績と薬物動態モニタリング下での治療アルゴリズムを提示する.抗薬物抗体が出現すると治療に難渋するため,予防にはアザチオプリンの早期からの併用や抗TNF-α抗体製剤の投与順序の考慮が必要である.
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医学のあゆみ 256巻10号, 1071-1074 (2016);
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◎クローン病(CD)の治療において抗TNF-α抗体製剤が中心的な存在となる時代となった.日本で従来行われてきた経腸栄養療法をはじめとする栄養療法は,これからの時代に不要なのであろうか.しかし,CD の病態を考えたとき食事や栄養の問題が重要であることは明らかであり,集学的治療として抗TNF-α抗体製剤と栄養療法の併用はむしろ積極的に行われるべきである.さらに,抗TNF-α抗体製剤の二次無効の問題に患者の栄養状態が関与していることも明らかとなってきており,併用の有効性を示すエビデンスも集積しつつある.栄養療法の科学的エビデンスをOMICS などのあらたな手法で明らかにすることが今後の課題であろう.
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医学のあゆみ 256巻10号, 1075-1080 (2016);
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◎アザチオプリン(AZA)と6-メルカプトプリン(6-MP)などの免疫調節薬は1960 年代より使用され,1970~1980 年代に入りランダム化比較試験によりCrohn 病(CD),潰瘍性大腸炎(UC)でその有効性が報告されてきた.AZA と6-MP の代謝酵素のひとつであるチオプリンメチルトランスフェラーゼ(TPMT)には遺伝子多型があり,日本人でのそのmutator の頻度は欧米人に比べ低く,その酵素活性のレベルもユダヤ人の約半分の値である.TPMT のゲノタイプとフェノタイプ間には良好な相関があり,TPMT*3C をヘテロまたはホモでもつヒトのTPMT 活性は野生型のヒトよりも代謝活性が低い.しかし,その個人差が大きいため,たとえmutator でもかならずしも赤血球内6-TGN(RBC 6-TGN)のレベルが低いとは限らない.最近,ストレスなどにより損傷したDNA を修復する遺伝子のひとつであるNUDT15 遺伝子とチオプリン誘発性白血球減少症との強い相関が報告された.韓国人の炎症性腸疾患(IBD)患者を対象として白血球減少のゲノムワイド相関解析が行われ,NUDT15 遺伝子のR139C 多型がチオプリン服用早期(8 週以内)の白血球減少と強い相関を示し,オッズ比35.6 と報告された.このことは取りも直さず,投与前に重篤な白血球減少症が予測可能になりうることを意味する.
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医学のあゆみ 256巻10号, 1081-1086 (2016);
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◎代表的な消化管の難病である炎症性腸疾患(IBD)は,わが国でも年々増加の一途をたどり,とくに潰瘍性大腸炎(UC)は日常診療で遭遇する病気となりつつある.わが国では従来,クローン病(CD)は栄養療法,UC はステロイドを中心として治療してきたが,それら既存治療では効果が不十分の難治例も多く問題となっていた.2000 年以降,つぎつぎとあらたな治療法が登場し,難治例の治療成績も改善されてきている.とくに抗TNF-α抗体製剤はIBD の内科治療体系に根本的な変革をもたらし,以後のその他の生物学的製剤や低分子化合物などの開発を強力に推進する結果となった.本稿では,これらのあらたに開発された新規治療で,今後IBD 診療の現場に登場が予想されるものについて,わが国で実際に臨床試験が実施されている薬剤を中心に概説する.サイトカイン,ケモカイン,接着分子,シグナル伝達などの面から病態改善を図る有望な治療薬が多数開発されており,今後もさらなるIBD の長期予後の改善が期待される.
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医学のあゆみ 256巻10号, 1087-1091 (2016);
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◎潰瘍性大腸炎(UC)の内科治療の進歩とともに長期罹患患者の割合が増えている.それに伴い,UC 合併大腸癌症例も増えており,その早期発見方法であるサーベイランス内視鏡がますます重要となってきている.散発性大腸癌と比較してUC 合併大腸癌は形態が多彩であることに加え背景粘膜の炎症性変化があることから,かならずしも発見が容易ではない.欧米ではガイドラインが改定されており,症例の蓄積に伴いサーベイランスの間隔や対象患者が変更されている.方法論としては従来からのランダム生検と狙撃生検があり,わが国で2 つの方法を直接比較したランダム化比較試験が行われており,その結果がまたれるところである.UC 合併大腸癌のサーベイランスにおいても色素内視鏡や拡大内視鏡,画像強調イメージングの応用が期待されているが,現在のところエビデンスがあるものは色素内視鏡のみである.
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医学のあゆみ 256巻10号, 1093-1098 (2016);
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◎高齢者の炎症性腸疾患(IBD)が増加しているが,ガイドラインはなく,高齢者は感染症の閾値が低かったり心血管併存症,糖尿病,悪性腫瘍の併存などがあり,若齢者とは異なる治療法が求められる.若齢発症高齢化症例と高齢発症者の比較では,潰瘍性大腸炎(UC)では高齢発症者のほうが明らかに経過が悪く,明確に区別すべきである.高齢発症のクローン病(CD)は若齢発症者に比べると大腸限局型が多く,罹患範囲の拡大をきたす頻度も少ない.高齢発症UC では手術のリスクはステロイドの使用である.高齢者IBD では血栓症のリスクがさらに高い可能性がある.高齢者IBD では他の薬剤を内服している症例が少なくなく,薬物相互作用に留意する必要がある.高齢者IBD の癌のサーベイランスは若年者ととくに変わる点はないが,回腸囊の経過観察など見落としがちな点もある.高齢者の生物学的製剤の効果は若齢者とほぼ同様であるが,使用者の予後は明らかに不良であり,予後不良の原因の多くは合併症によるものである.チオプリン製剤が血液系悪性腫瘍発症率を増加させることが知られるが,高齢も発症率増加に関係する可能性がある.入院IBD 患者の予後不良因子として高齢であることは死亡リスクを上昇させる.とくに内科治療と関係が深く,UC はスピーディに加療し,手術の見極めを早めに行う必要がある.
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医学のあゆみ 256巻10号, 1099-1106 (2016);
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◎潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)には新しい内科治療が行われている.外科治療に関する最近の留意点は,UC では生物学的製剤・タクロリムスで効果のない症例や高齢者重症例の時期の遅れのない手術の施行,便意切迫などquality of life(QOL)の低下した難治例の手術適応の検討,増加するcolitic cancer の治療などであり,CD ではわが国で多くみられる直腸肛門管癌の早期診断と治療,直腸肛門病変に対する直腸切断術を含めた人工肛門造設術の適応,腸切除後の再発危険因子の検索とともにエビデンスに基づいた適切な再発予防治療の検討などが重要である.
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医学のあゆみ 256巻10号, 1107-1111 (2016);
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◎潰瘍性大腸炎(UC)の外科治療では回腸囊肛門(管)吻合術が標準術式であるが,術後10 年で約40%の頻度で回腸囊炎(pouchitis)が出現し,quality of life(QOL)の低下,種々の合併症を併発する.回腸囊炎の危険因子として全大腸炎,原発性硬化性胆管炎,ANCA 陽性,関節炎,逆流性回腸炎,喫煙の中止などがあげられ,診断および重症度判定にはPDAI,mPDAI,PAS,厚労省班会議診断基準などが用いられている.回腸囊炎の病型分類には,厚労省班会議診断基準による一過性型,再燃寛解型,慢性持続型の分類があるほか,症状の持続期間による分類(症状の持続期間が4 週間未満のものを急性,4 週間以上のものを慢性とするもの),症状出現頻度による分類(年に3 回未満のものを“infrequent”,3 回以上を“relapsing”とする),抗菌薬に対する反応性による分類(antibiotics responsive,antibiotics dependent,antibiotics refractory とする)などがある.治療には抗菌薬,5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤,,免疫調節薬,プロバイオティクス,抗TNF-α抗体などが用いられている.
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医学のあゆみ 256巻10号, 1112-1117 (2016);
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◎平成27 年(2015)から難病法が施行され,医療費助成制度が大きく変化した.潰瘍性大腸炎(UC),クローン病(CD)はともに難病に指定され,助成制度の対象疾患となっているが,それまでの特定疾患医療費助成制度のような“疾患認定=助成対象”とは異なり,一定以上の重症度を有する指定難病患者に限り助成が受けられるようになっている.したがって,助成の申請にあたり医療者側はまず,臨床的重症度分類によって患者の重症度を判定することが必要である.また,一定の重症度を満たさない,いわゆる“軽症者”においても医療費の総額によっては助成の対象となりうるため,今後は月々の医療費を意識した医療を求められる機会が多くなると思われる.新制度の理解不足により患者の病状や治療内容に不利益が生じないよう,医療者側がまず制度を十分把握し,しっかりと患者に説明していくことが大切である.それとともに,重症度分類や難病患者データベース構築における課題など,新制度の抱える問題点にも注意を払い,よりよい制度へ向けて提言していくことが必要である.