Volume 257,
Issue 4,
2016
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あゆみ 細胞競合の基本原理とその破綻
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医学のあゆみ 257巻4号, 263-263 (2016);
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医学のあゆみ 257巻4号, 265-269 (2016);
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◎ほとんどのがんの起源となる上皮細胞は元来,頂端-基底軸に沿った極性(apico-basal 極性)をもっている.ショウジョウバエ上皮において,ある一群の極性遺伝子を欠損した変異上皮細胞は極性の崩壊に加えて異常増殖を起こし,腫瘍を形成する.興味深いことに,このような極性崩壊細胞が正常細胞に囲まれると細胞競合が誘起され,競合の敗者となった極性崩壊細胞が組織から排除されて腫瘍形成が抑制されることがわかってきた.このような極性崩壊が引き起こす細胞競合の分子メカニズムの詳細が最近明らかになりつつある.極性崩壊による細胞競合現象は,がんの発生や進展のみならず,生体の恒常性維持や正常発生過程においても重要な役割を果たしている可能性が考えられる.
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医学のあゆみ 257巻4号, 270-276 (2016);
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◎がん発生の超初期段階において正常上皮細胞層に最初のがん原性変異が生じたとき,正常細胞と変異細胞が上皮細胞層に共存することになるが,その境界で起こる現象についてはこれまで注目されてこなかった.著者らは,哺乳類培養細胞やゼブラフィッシュ胚を用いて,がん蛋白質Ras 変異(RasV12)細胞と正常上皮細胞の境界において,Ras 変異細胞が細胞層の管腔(apical)側へはじき出されることを世界ではじめて報告した.またこの排除の過程で,Ras 変異細胞内で正常細胞に囲まれたときのみ細胞非自律的に活性が調節されるシグナル経路が存在することも明らかになってきた.たとえば正常細胞に囲まれたRas 変異細胞では,PKA によるVASP のリン酸化が上昇することによって,Ras 変異細胞が正常細胞層から排除される際の形態変化を生じていることがわかった.またEPLIN が,カベオリンをはじめとする細胞膜マイクロドメインを制御し,変異細胞の逸脱を正に制御していることが示された.さらに変異細胞に隣接する正常細胞では,変異細胞との境界にフィラミンを集積させ,積極的に変異細胞を排除する仕組みがあることが明らかになり,この正常細胞による抗腫瘍作用はEDAC(epithelial defense against cancer)と名づけられた.本稿では,Ras 変異細胞と正常上皮細胞間に生じる細胞競合に関する,これらの最近の研究成果を紹介する.
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医学のあゆみ 257巻4号, 277-283 (2016);
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◎がん原遺伝子産物であるSrc チロシンキナーゼは,がんの進行に伴って発現や活性が亢進することによって浸潤・転移などのがん進展に寄与するとされているが,その重要性にもかかわらずヒトがんにおいてはSrc 遺伝子に活性化変異は認められていない.一方で近年,Src が異常に活性化した細胞が細胞競合現象の敗者となって正常組織から排除されることが,ショウジョウバエの遺伝学的解析や哺乳動物細胞を用いたin vitro 実験系によって明らかになってきた.これらのことから,初期段階のがん抑制機構として,Src 遺伝子に強い活性化変異が生じた細胞が細胞競合によって排除される可能性が示唆されている.しかし,Src による細胞競合のin vivo における検証,その分子機序,がん組織内でのSrc 活性化細胞の振る舞いなど,未解決の課題が多く残されている.そこで本稿では,Src による細胞競合に関するこれまでの知見を概説するとともに,著者らのあらたな試みを紹介することによって,Src 活性化細胞の運命について考察したい.
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医学のあゆみ 257巻4号, 285-292 (2016);
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◎細胞競合(cell competition)とは,増殖が速く生存能の高い/適応性の高い細胞群(winners;勝ち組)と,増殖が遅く細胞死によって排除される/適応性の低い細胞群(losers;負け組)とがたがいに細胞非自律的に競合し,増殖,生存,分化が統合的に制御されることで,最終的に一定の大きさと機能をもつ器官が形成される現象として定義される.その機構は多細胞生物の組織構築過程における種々の細胞の運命決定ばかりでなく,がん発症初期におけるがん前駆細胞の組織からの排除,成熟がん細胞の優勢的な増殖,幹細胞ニッチにおける高適応性の幹細胞の選択などにおいて広く重要な役割を果たすと考えられている.本稿では,がん遺伝子産物Myc により制御される細胞競合に着目し,多細胞生物において器官発生,再生,がんなどの過程にかかわる普遍的な生命現象であると考えられる細胞競合について考察する.
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医学のあゆみ 257巻4号, 293-299 (2016);
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◎ Wnt/βカテニンシグナルは動物種を越えて保存されたシグナル伝達経路であり,胚発生や器官構築において必須の役割を果たす.また,その制御破綻はがんをはじめとする多様な疾患の発症の原因となる.30 余年前にWnt/βカテニンシグナルの研究が開始されて以降,その制御機構と機能についての解析が精力的に進められてきた.しかし,従来の研究の多くは“シグナルが伝達される細胞内で起こる現象”に注目して行われており“シグナル伝達細胞の周辺細胞への影響,あるいは周辺細胞から及ぼされる影響”については十分な解析がなされてこなかった.本稿では,近年急速に明らかになりつつある“Wnt/βカテニンシグナル伝達細胞と周辺細胞とのコミュニケーション”について,著者らの研究成果を交えて解説させていただく.また関連して,Wnt/βカテニンシグナルの細胞競合への関与についても,現在までに得られている知見を概説する.
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医学のあゆみ 257巻4号, 300-304 (2016);
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◎ Hippo シグナル伝達経路は,細胞数を調節し器官サイズを制御するセリンスレオニンキナーゼカスケードである.転写共役因子YAP(ショウジョウバエホモログYorkie)はHippo 経路によりリン酸化され,細胞質に局在しその後分解される.Hippo 経路が不活性化した状態ではYAP は核内に移行し,転写因子TEAD と結合し,遺伝子発現を誘導する.本経路はショウジョウバエから哺乳動物まで進化的に保存され,細胞増殖や細胞死をはじめとする多様な細胞応答を制御している.近年,本経路が細胞競合にも関与していることが明らかになった.本稿では,ショウジョウバエの細胞競合におけるHippo-Yorkie 経路の役割や,哺乳動物培養細胞の細胞競合における本経路の役割について,最新の結果を交えて紹介する.
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医学のあゆみ 257巻4号, 305-310 (2016);
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◎われわれの体内で,正常な細胞とは性格の異なる変異細胞が出現し,それらが組織中に蓄積すると,癌をはじめさまざまな疾患や器官機能障害の可能性が高まる.しかし近年の研究によって,ある種の変異細胞は隣接する正常細胞との細胞競合という現象によって組織から排除されていることがわかってきた.これはつまり,細胞社会に悪影響を及ぼす可能性のある異常細胞の蓄積を防ぎ,体を構成する細胞の質を維持するための細胞レベルでの組織恒常性維持機構であると考えられる.この細胞競合の過程で異常細胞は組織中から排除されるわけであるが,この異常細胞がなくなった場所を穴として残しておくわけにはいかないうえに,除去ばかりしていると当然組織中の細胞数がしだいに減少していくことになる.しかし,この競合の勝者である正常細胞たちは異常細胞を殺して除去しながら,組織全体のサイズや統合性に影響が出ないように補償的な埋め合わせとしての組織修復も同時に行っているのである.
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医学のあゆみ 257巻4号, 311-316 (2016);
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◎細胞競合とは,遺伝的に異なる2 種類の細胞がその境界においてたがいに適応度を競い合う現象である.適応度の低い細胞(敗者)がアポトーシスにより排除され,そのアポトーシスで空いた隙間を適応度の高い細胞(勝者)が増殖して埋めていく.このようなアポトーシス依存的な増殖は代償性増殖とよばれ,勝者細胞が組織を占有するための重要な仕組みとなっている.しかし,細胞競合などのヘテロな細胞集団における代償性増殖の仕組みはよくわかっていない.これまでに,競合勝者の多くが高い増殖活性をもつことが報告され,分裂速度差が競合の勝敗を決定する重要な要因であると推測されてきた.しかし,分裂速度差はかならずしも細胞競合を誘導するわけではなく,細胞はそれ以外にも複数の要素を総合して競合の勝敗基準を決定する可能性が示唆される.それにもかかわらず,競合勝者の多くが共通して高い増殖活性を示すのはなぜであろうか.著者らは分裂速度の差“のみ”が異なる細胞集団を数理モデル化し,細胞競合過程における分裂速度差の役割を調べた.その結果,分裂速度差により生じた力学的な作用が,アポトーシスで空いた隙間をめぐる競合の勝敗を左右することを見出した.
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連載
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医学教育の現在―現状と課題 12
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医学のあゆみ 257巻4号, 323-329 (2016);
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◎わが国においても医学教育分野別評価制度が導入されることになり,実施運営組織である日本医学教育評価機構が2015 年12 月に発足した.2013 年からトライアルがスタートし,2017 年から正式実施の予定である.アウトカム基盤型教育はこの評価制度の評価基準で基本となる教育システムであり,教育の質保証を重視している.その導入にあたっては,最初に教育のアウトカムとして卒業生は“何ができる”をコンピテンシーとして設定し,それを確実に達成できるカリキュラムを遡って策定する.学生がコンピテンシーを実証できることを妥当性のある評価法で証明する.教育全体を振り返って,それを継続的に改善することで教育の質が保証され,医育機関は社会に対する説明責任を果たすことができる.この教育の系譜をたどりながら千葉大学医学部における実践を紹介する.
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輝く 日本人による発見と新規開発 27
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医学のあゆみ 257巻4号, 331-333 (2016);
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フォーラム
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外国人にやさしい医療―言葉の壁をこえて 2
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医学のあゆみ 257巻4号, 335-336 (2016);
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医学のあゆみ 257巻4号, 337-338 (2016);
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医学のあゆみ 257巻4号, 339-343 (2016);
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TOPICS
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細菌学・ウイルス学
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医学のあゆみ 257巻4号, 317-318 (2016);
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神経内科学
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医学のあゆみ 257巻4号, 318-319 (2016);
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循環器内科学
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医学のあゆみ 257巻4号, 319-321 (2016);
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