医学のあゆみ
Volume 257, Issue 5, 2016
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【4月第5土曜特集】 アルツハイマー病UPDATE
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- 基礎研究
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セクレターゼの構造活性相関に基づくアミロイドβ産生制御
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎アルツハイマー病(AD)の分子病態解明および創薬研究は,患者脳の病理学,生化学研究に加えて,1990 年代に精力的に進められた家族性AD(FAD)の遺伝学・分子生物学研究を契機に飛躍的に進んだ.とくに早期発症型FAD に連鎖する遺伝子変異の研究成果から,βおよびγセクレターゼによって産生されるアミロイドβ蛋白(Aβ)の脳内存在量の制御は発症機序に基づいた疾患修飾薬となることが期待され,Aβ産生および分解にかかわる分子群を対象とした創薬が進められてきた.さらにこれらセクレターゼの基礎生物学的研究は,膜蛋白質の構造生物学や中枢神経系への薬物動態学などこれまで困難とされてきた分野に新しい知見と技術革新をもたらしている.本稿においては,βおよびγセクレターゼの構造活性相関に基づくAβ産生制御によるAD 治療・予防法の開発における最近の知見を述べる. -
次世代型アルツハイマーモデルマウスの開発
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎アルツハイマー型認知症(AD)は,高齢化が進行する日本において一刻も早く克服すべき疾患のひとつである.しかし,医療技術が発展した現代においても,AD の根本的な治療法は確立していない.現在,AD の発症はアミロイドカスケード仮説に則って進行すると考えられ,強く支持されている.この仮説は,脳内でアミロイドβペプチド(Aβ)が蓄積し,続いてタウの凝集がみられ,最終的に神経細胞が脱落するという仮説である.その仮説をもとに,Aβ前駆体蛋白質(APP)を過剰に発現させるモデルマウスが作製されてきた.しかし,これらモデルマウス脳内におけるAβの蓄積は,実際のAD 患者脳と大きく異なるといった問題点を包有していた.著者らはよりAD 患者脳に近い病理像を示す次世代型のAD モデルマウス(APP-KI)の創出に成功した.APP-KI は既存のモデルマウスが含む問題点を克服したモデルマウスであり,今後AD 研究のあらたなスタンダードとなることが期待される. -
アルツハイマー病におけるタウ蛋白質の異常
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎アルツハイマー病(AD)において,タウの異常病変はアミロイドβ蛋白質(Aβ)蓄積後の二次的病変という考えが一般的のようであるが,多数の患者剖検脳を調べた神経病理学者からは疑問視されており,また両者を結びつける実験的証拠も少ない.Aβ標的病態修飾薬の治験が成功していない現状を考えると,AD の症状や病態進行と密接な関係がある異常型タウの形成とその伝播メカニズムの解明が重要であり,病気の進行を抑える根本治療薬,あるいは病態修飾薬開発の鍵になると考えられる. -
タウ蛋白質の細胞間伝播
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎タウは細胞質に豊富に存在し,正常には可溶性が高い微小管結合蛋白質である.アルツハイマー病(AD)をはじめとする一群の神経変性疾患においては,高度にリン酸化されたタウが“神経原線維変化”とよばれる不溶性の線維として凝集・蓄積し,その病理学的な共通性からタウオパチーと総称されている.タウオパチーにおいては神経原線維変化が蓄積することで神経変性を導くと考えられており,タウが異常蓄積するメカニズムの解明は重要である.近年,タウの異常蓄積が神経細胞から神経細胞へ神経ネットワークに沿って移行する“タウの細胞間伝播”の現象が見出された.AD においても神経原線維変化の出現順序に解剖学的な規則性があることが以前から広く認識されており,このようなヒトにおけるタウ病理像進展との類似性からも注目を集めている.タウの細胞間伝播の詳細なメカニズムが解明されれば,そのメカニズムに立脚した新規のタウオパチー創薬に展開できる可能性がある. -
apoE とアルツハイマー病
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎apolipoprotein E(APOE)のε4 アレルはアルツハイマー病(AD)発症のもっとも強力な遺伝的危険因子であるが,いまだAPOE ε4 がどのようにAD 発症に関与するかそのメカニズムは明らかではない.しかし近年の研究で,apoE はAD 発症の鍵分子であるアミロイドβペプチド(Aβ)の脳内クリアランス,および凝集・蓄積過程にかかわる分子であることがわかり,apoE は脳内Aβ動態と密接にかかわることによりAD 発症の中心的役割の一端を担っていることが明らかとなってきた.本稿ではapoE に関する最新の研究成果をもとに,apoE がどのようにアイソフォーム特異的に脳内Aβ動態を制御してAD 発症に関与するか解説し,さらにapoE を標的としたAD 治療薬の可能性について議論する. -
タウ・炎症と神経変性
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎アルツハイマー病(AD)をはじめとする神経変性型認知症では,アミロイドβペプチド(Aβ)やタウなどの蛋白が脳内に沈着するのに伴って,神経炎症反応としてミクログリアやアストロサイトの活性化が起こる.活性化グリアは毒性を呈して神経細胞を攻撃することもあれば,病的蛋白を除去し,神経保護的に作用することもある.神経攻撃的なミクログリアのマーカー分子としてトランスロケーター蛋白が知られており,同分子の生体イメージングが病勢評価に寄与しうるが,活性化グリアの表現型を知るためには,これ以外のマーカーを可視化する必要もある.タウと炎症性ミクログリアの活性化,神経変性はたがいに密接な因果関係を有すると考えられており,タウ病変と神経炎症を画像でとらえて指標としながら,抗体や炎症制御因子を標的とした治療を最適化することで,認知症の病態修飾が行えると見込まれる. -
AβオリゴマーとAPP Osaka 変異―これからのAβ標的薬に求められるもの
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎アルツハイマー病(AD)は細胞外の可溶性アミロイドβ蛋白質(Aβ)オリゴマーがシナプスに作用し,その機能を障害することで発症すると考えられている.著者らは,Aβのオリゴマー形成を促進するAPP の新しい変異,E693Δ(Osaka)変異を家族性AD 患者から同定した.Osaka 変異患者の脳では老人斑は形成されないが,神経原線維変化の形成と脳の萎縮は起こる.このことはOsaka 変異APP と野生型ヒトタウを共発現するモデルマウスでも確認された.Osaka 変異APP を発現するニューロンでは細胞内にAβオリゴマーが蓄積し,BDNF やミトコンドリア,リサイクリング・エンドソームなどの細胞内輸送が障害されてスパインが減少する.以上の結果は,AD の原因が老人斑ではなくAβオリゴマーの蓄積にあること,Aβオリゴマーは細胞外からばかりでなく細胞内からも作用してシナプス機能を障害することを示している. - 臨床
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アルツハイマー病の臨床評価と認知機能評価
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎アルツハイマー病(AD)の臨床症状や認知機能障害の重症度を評価するための評価尺度は,症状を数値化して進行度を評価しやすくするという目的で臨床研究によく用いられる.MMSE のように診療においても馴染みの深いものや,CDR など略語で表記されよくみかけるが実際は知らないというものもあろう.実際に使用する際には,それぞれの尺度の特性を把握したうえで,施行対象に対して適切な尺度を選択することが重要である.本稿では,使用頻度の高い臨床評価尺度と認知機能尺度について,なにを評価し,どのような用途で用いるかを解説する.また,より早い病期へと関心が移動するにつれて取り入れられるようになった,コンピュータを用いたバッテリーやcompositeといったあらたな試みについても,規制当局から発行されたガイダンスと絡めて解説する. -
認知症に対する認知機能検査の現状と将来
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎認知症に対する認知機能検査の現状と将来について考察を進め,それに関して現在直面している神経心理テストの著作権問題と公認心理師に関する課題について論じる.認知症の領域の認知機能評価は神経心理テストに短絡的に結びつけられがちであるが,問診と現症である認知機能障害に対するmental status examinationという診察からはじまることを改めて強調する.MMSE の著作権問題は,認知機能評価法に関して大きなインパクトを与えた.そのことから考察して,将来の神経心理テストのあり方に関して,テストの妥当性や信頼性とともに,オープンアクセス,パブリックドメインであることを強調する.評価を実施し開発する主体として,公認心理師への期待を述べ,言語聴覚士や作業療法士の役割についても論じる. -
アルツハイマー病の二次予防への挑戦―A4 研究
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎アルツハイマー病(AD)の概念は,アミロイドβ(Aβ)が蓄積しつつも無症状のプレクリニカル期にまで拡大されている.これはAβを標的とした病態修飾薬の投与試験を研究として可能とする方法論であるが,実際アメリカではA4 研究として開始されている.本稿では,プレクリニカル期のAD の定義の誕生経緯からA4 研究の方法論まで概説を試みたい. -
アルツハイマー病治療薬治験の現状と展望
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎認知症対策の社会的重要性が高まりつつあるなか,アルツハイマー病(AD)の根本治療薬の開発は医療者と患者双方にとっての念願である.アミロイドカスケード仮説を中心としたAD の病態生理の理解の進歩に基づき,過去15 年余の間多くの根本治療薬の治験が行われてきた.アミロイド前駆体蛋白の切断酵素に対する阻害薬(γセクレターゼ阻害薬,βセクレターゼ阻害薬),受動または能動免疫によるアミロイドβ(Aβ)の除去(抗Aβ抗体,Aβワクチン),タウ関連薬(タウ蛋白凝集阻害薬,異常リン酸化阻害薬,タウワクチン)など数多くの治療薬治験が現在も進行中であるが,現時点では根本治療薬としての承認を受けた薬剤は存在しない.近年では大規模観察研究の結果などから,Aβの蓄積は臨床症状の発現よりも10 年以上前からはじまると考えられており,発症前期(preclinical AD 期)での予防的介入をめざした複数の大規模な臨床研究が開始されている. -
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬によるアルツハイマー病の治療
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎1970年代後半からの神経伝達物質の研究により,アセチルコリン(ACh)作動性神経系の障害がアルツハイマー病(AD)における認知症発現の主因であるとするコリン仮説が提唱された.その仮説に基づきACh の分解を抑制し,シナプス間隙のACh 濃度を上昇させる目的で開発されたのが,アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬である.現在,日本国内ではAChE 阻害薬としてドネペジル,ガランタミン,リバスチグミンが承認されている.AChE 阻害薬にはsymptomatic effect だけでなく,神経保護作用やAβ沈着抑制などのAD の病態そのものに作用するdisease modifier としての作用が報告されている.本稿では,それぞれのAChE阻害薬の特徴について解説する. -
MCI の概念と変遷
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎“認知機能が低下した状態”には,“正常でもなくかつ認知症でもない状態”が存在する.患者が納得できる対応をするためには,その考え方についての変遷を知ったうえで標準的な診断基準と原因についての知識を整理しておくことが肝要である.軽度認知障害(MCI)はその代表的な概念であり,「認知機能の低下はあるが,日常生活機能はおおむね自立した状態」といえる.具体的な診断基準は早期診断,早期治療を念頭に改訂が繰り返されてきた.MCI は臨床的にも病因論的にも多様で,原因となる背景病理は複数存在する.アルツハイマー病(AD)によるMCI については,バイオマーカーを用いた診断の基準が提案されている.“日常生活機能はおおむね自立した状態”であることを判断するためには,とくに手段的ADL についての精度の高い測定と適切な評価が求められる.どのようにADL を評価するかの具体的な方策を活用することが重要である. -
常染色体優性遺伝性アルツハイマー病とDIAN 研究
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎ DIAN 研究,DIAN-TU,DIAN-Japan 研究について紹介する.わが国では2016 年から参加者リクルートが開始され,グローバルな観察研究によるアルツハイマー病(AD)の病態とバイオマーカーの自然経過の解明が期待されている.早急な疾患修飾薬の介入検証のステップへの進行が予定されており,AD の根本的治療と予防に大きな貢献が期待されている. -
アルツハイマー病の疫学と危険因子
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎アルツハイマー病(AD)は認知症の最大の原因疾患であり,発症をたかだか1 年遅らせることにより,今後40 年の間にAD の有病者数を900 万人以上減少させられる可能性が示唆されている.疫学的研究により明らかにされたAD の非遺伝性危険因子のなかで予防や治療の介入が可能なものには,心血管系の危険因子(高血圧,糖尿病,肥満など),心理社会的要因(抑うつなど),行動特性(身体的・精神的不活発や喫煙など)が含まれる.人口寄与危険度割合(PARs)の推計により,これらの危険因子の有病率をすべて10%低減できれば,全世界で110 万人,アメリカで18 万4 千人のAD 患者を減少できるものと考えられており,25%低減すれば,それぞれ300 万人,49 万2 千人を減らせるものと予想されている.AD の根本的な治療が臨床的に可能となるまでは,こうした危険因子の予防・管理がきわめて重要となる. -
アルツハイマー病にみられる行動と心理的な症候(BPSD)
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎認知症にみられる行動の障害と,情動・意欲・気分の障害,幻覚・妄想などの精神症状を,behavioral andpsychological symptoms of dementia(BPSD)と総称する.そのなかには,徘徊,多動,興奮,攻撃的言動,不潔行為,脱抑制,不安,焦燥,幻覚・妄想,うつ状態,介護への抵抗,不眠などがみられる.生物的・心理的に多くの要因が関与しており,多種多様な対応が可能であり,環境の調整,薬物療法などの介入により症状を緩和させたり未然に防ぐことの可能性がある.また,その一環として非薬物療法も盛んに試みられている.認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)において,「早期診断と本人主体の医療・介護などを通じてBPSD の予防をはかりBPSD がみられた場合にも的確なアセスメントを行い,薬によらない対応を第一選択とすることを原則とする」と記述されており,BPSD 対策もまさに国をあげての事業となっている. -
若年性アルツハイマー病
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎超高齢社会の到来によりアルツハイマー病(AD)は医学的のみならず社会的にも大きな注目を浴びているが,最近では働き盛りに大きな影響を及ぼす若年性認知症への対応が新オレンジプランのなかでも重要課題のひとつとなっている.本稿では,1999 年に開設した若年性AD 専門外来を通して,診断・治療から家族支援までの包括的医療の重要性を論じた.臨床家の役割として,根治的治療法がない現状において可能な薬物療法を駆使することはいうまでもないが,加えて病初期の段階から患者・家族がAD を受容する過程を全面的に支援することがとくに必要である. -
メマンチンによるアルツハイマー病の治療
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎ N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体拮抗薬であるメマンチンはコリンエステラーゼ(ChE)阻害薬とは作用機序が異なることから,中等度以上のアルツハイマー型認知症に対して,ChE 阻害薬との併用が可能である.中等度の認知症とは日常生活に支障をきたし,家庭でも自立できない状態(洋服を選べない,入浴できない,1 人で家事や買い物できない)である.メマンチンは認知症の進行予防効果に加えて,興奮などの行動心理症状に効果が期待できることが大きな特徴である.メマンチンの副作用として,ChE 阻害薬のおもな副作用である消化器症状は少なく,浮動性めまい,傾眠が多い.メマンチンは腎排泄のため,腎機能低下がある場合に投与量の調節(維持量を半量にする)が必要である.メマンチンの特徴や副作用について理解を深めて,適した患者に効果的に使用できることが認知症診療において必須である. -
アルツハイマー病の免疫療法
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎アルツハイマー病(AD)では不溶性アミロイドβ蛋白(Aβ)の沈着や神経細胞内へのリン酸化タウ蛋白の蓄積が生じ,神経細胞が障害されてAD を発症する“アミロイドカスケード仮説”が提唱されている.この仮説に基づき,原因蛋白を免疫機構を利用して除去し,AD の発症や進行を予防する治療がAD に対する免疫療法である.これまでにヒトに対する臨床試験で認知機能障害に対する有効性が確認された薬剤はなく,amyloidrelatedimaging abnormalities(ARIAs)といった新たな副作用が明らかとなっている.臨床試験を受けた剖検例ではAβ蛋白が除去されたことが示されており,より早期に治療を開始する必要性が考えられている.新たな薬剤の開発とともに,AD を発症する前に診断可能なバイオマーカーを確立し,予防的な治療を行う方向で研究が進められている. -
地域コホート研究と認知症
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎福岡県久山町では1985 年から,65 歳以上の高齢者を対象とした精度の高い認知症の有病率調査・追跡調査が進行中である.その成績によると,2000 年代に入り認知症,とくにアルツハイマー病(AD)の有病率が人口の高齢化のスピードを超えて大幅に上昇した.追跡調査においてAD 発症の危険因子・防御因子を検討すると,糖尿病と中年期から老年期にかけての持続喫煙はAD 発症の有意な危険因子であったが,高血圧とADの発症リスクとの間には明らかな関連は認めなかった.運動および野菜が豊富な日本食に乳製品を加えた食事パターンはAD のリスクを有意に減少させた.海外の追跡研究のメタ解析では,少量~中等量のアルコール摂取にはAD に対して予防効果があるが,アルコール摂取が多量になるとその予防効果が消失することが報告されている.認知症,とくにAD の発症には生活習慣を含む環境因子が,いままで考えられていた以上に大きな影響を与えると考えられる. -
Alzheimer 型認知症の診療ガイドライン
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎認知症者数は増加しており,その大部分はAlzheimer 型認知症である.一方,これまでまったく治療薬のなかったAlzheimer 型認知症に対しても治療薬剤が使用可能となり,治療の選択肢が広がっている.近年の画像や分子生化学的研究の発展もあって,画像診断・バイオマーカーの研究開発も進んできており,診断にも大きな進歩がみられる.このような認知症の診断・治療の発展,社会的対応の変化などを踏まえ,診療ガイドラインが作成されてきた.現在も,あらたな知見を盛り込んだ新しい認知症疾患診療ガイドラインの作成に向けて改訂作業が進められている. - 画像・バイオマーカー・病理
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アルツハイマー病における構造・機能MRI 解析
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎アルツハイマー病(AD)においてMRI は早期診断,鑑別診断,および進行度評価に必須の検査法となっている.構造評価においては,視覚に頼らないコンピュータによる萎縮の自動診断が日常臨床で可能である.さらに機能画像も機能的MRI やarterial spin labeling による脳血流画像により従来の核医学的手法に比べ放射線被曝もなく簡便に得られるようになってきた.脳構造および機能画像は局所的な異常をとらえるばかりでなく,連結解析によりあらたな情報を得ることができる.連結解析法にはシードとの相関に基づく方法,独立成分分析法,およびグラフ理論に基づく方法がある.このなかで,独立成分分析法はおもに安静時の機能的MRI 法に用いられている.グラフ理論に基づく方法はあらゆるモダリティに応用が可能である.全脳の構造および機能領域の相互の関係性を領域を取り囲むネットワークの観点から論じる,構造的指向性の強い理論である. -
タウPET によるアルツハイマー病の評価
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎アルツハイマー病(AD)患者脳内の神経原線維変化を生前に把握することは長年困難とされてきたが,近年複数のタウPET プローブ([11C]PBB3,[18F]AV-1451,[18F]THK-5117,[18F]THK-5351)が実用化され,その臨床評価が進められている.これらのプローブはタウ蛋白線維を選択的に認識し,側頭葉内側部から大脳皮質へと進展するタウ病理像を明瞭に描出する.認知症の進行とともに大脳皮質におけるプローブ集積範囲は拡大し,その集積分布は脳萎縮と密接に関連する.一部のプローブではAD 以外の疾患のタウ病変の描出も可能である.本検査はタウオパチーの診断,疾患重症度の客観的評価,進行予後の予測,治験における薬効評価や選択基準の設定など,多様な役割が期待されている. -
アルツハイマー病におけるPET の標準化と撮像施設認証
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎ PET は脳のブドウ糖代謝,アミロイドβプラークの沈着,タウ蛋白の沈着などを画像化し定量できるため,アルツハイマー病(AD)をはじめとする認知症の研究や治療薬の治験に用いられており,診療への利用も拡大すると期待される.しかし,PET は画質や定量値が患者の安静状態,投与後撮影開始までの待機時間とデータ収集時間,PET カメラの機種,画像再構成条件などに依存する.PET を普遍的で信頼される臨床検査法にするためには,検査法と撮像法の標準化が必要である.日本核医学会ではガイドラインを発表し,標準的な投与量や待機時間を定め,さらに異なるPET カメラでも一定レベル以上の“質”が得られるように,ファントム(模型)を用いて撮像条件を決める基準を作成した.さらに,これらの基準が満たされていることを確認してPET 施設とカメラを“認証”する制度を構築した.この仕組みを活用することによって,多施設PET 研究の質が向上し,PET が信頼される臨床検査となることが期待される. -
アミロイドPET
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎この10 数年の臨床研究により,アミロイドPET はアルツハイマー病(AD)の最早期のイベントである線維型アミロイドβの脳内沈着を非侵襲的に検出できる実用的ツールとして確立した.アミロイドPET を含むバイオマーカー診断技術の進歩により,AD の早期病態研究が加速し,従来は認知症発症後に診断されていたADの概念が前駆期や発症前期を含むようになった.治療薬開発の目標も進行遅延から発症予防へと明確に切り替わった.本稿では,アミロイドPET の技術的な要約とその診断的意義について解説する.アミロイドPETは臨床研究のみならず日常診療への適用も考慮されるようになってきており,診療のなかではガイドラインに沿った適正な使用が望まれる.早期病態への注目から,AD の病態仮説も再検討されつつある. -
FDG-PET とSPECT によるアルツハイマー病の評価
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎脳局所の血流と糖代謝は,アルツハイマー病(AD) においては,神経変性にともなう神経活動の低下を反映した機能的マーカーである.下部頭頂葉,後部帯状回・楔前部の血流/糖代謝低下は,AD の診断,軽度認知障害からのAD への移行予測に役立つ.多施設コホートSEAD―J におけるMCI では,AD 的特徴の糖代謝低下の程度が強いほど早期にAD に移行する傾向があることが示され,移行時期の予測にも役立つことが明らかになった.また,アミロイド陽性で認知機能正常の前臨床期AD(preclinical AD)の段階でも,糖代謝変化が生じることが報告されている.画像をバイオマーカーとして組み入れた新しいAD の研究クライテリアでは,脳血流/糖代謝画像は,NIA―AA(2011)ではタウ介在神経傷害,IWG―2(2014)のdownstream topographical のマーカーとして位置づけられている. -
アルツハイマー病の脳脊髄液バイオマーカー
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎脳脊髄液(CSF)中のAβ1-42の低下,総タウ蛋白およびリン酸化タウの上昇は,脳内の老人斑および神経原線維変化といったアルツハイマー病(AD)に特徴的な病理変化を反映する.そのため認知症患者および軽度認知障害(MCI)者におけるAD 群の診断のみならず,認知機能正常者のなかからAD 病態を有する症例の検出を可能にした.またこれらAD 関連CSF バイオマーカーは,MCI 者あるいは認知機能正常者のその後の認知機能低下を予測する.しかしその測定値には施設間でのばらつきが大きく,いまだ確立されたカットオフ値が存在しない点が重要な課題である. -
最新のアルツハイマー病の血液バイオマーカー開発―血液バイオマーカーでアルツハイマー病を予期診断できるか
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎アルツハイマー病(AD)は大脳の神経変性疾患であるから,その病理を反映するバイオマーカーは末梢血よりも脳脊髄液(CSF)を検体とすることがより適切である.実際,AD 脳に蓄積しているアミロイドβ42(Aβ42)は患者のCSF 中で低下し,リン酸化タウ蛋白や総タウ蛋白は上昇している.これらはAD の診断基準において,診断を支持する所見として確立している.一方,末梢血中のAβ42 に関してはCSF の場合とは異なり,バイオマーカーとして確立していない.その理由のひとつは,Aβの前駆体が末梢組織にも広く存在することがあげられる.末梢血中の総タウ蛋白濃度は脳脊髄液中に比較して約1/100 程度存在するという報告があるが,これもCSF の場合とは異なりバイオマーカーとして確立していない.よってAD の血液バイオマーカーとしては,Aβ42 やリン酸化タウ蛋白・総タウ蛋白以外の物質を標的として現在盛んに開発が行われている.本稿では,これら開発中のAD 血液バイオマーカーについて概説したい. -
アルツハイマー病のゲノム解析
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎アルツハイマー病(AD)の遺伝素因研究の歴史は1990 年代から10 年ごとに段階的に進んできた.家系をベースとしたマイクロサテライト多型による連鎖解析,1 塩基多型(SNP)を用いたAD-対照群の相関解析,全ゲノム配列情報解析は,キャピラリー電気泳動,高密度DNA アレイ,次世代シークエンサーなどの技術開発とコンピュータの性能向上がベースにあった.大規模・大量のパーソナルゲノム情報の国際データベースの充実に伴い,ゲノム解析や生物学的検証研究が新しい時代に突入したといえる.ありふれた病気であるAD も遺伝的背景をベースに発症すると考えられ,表現型である病態を反映する詳細なゲノム配列が得られている.これまでは困難であったレアバリアントの検出,DNA 配列に変異がないゲノムコピー数多型,de novo 変異がみつかっている. -
アルツハイマー病の病理
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎アルツハイマー病(AD)は,遺伝性,孤発性に分類される.わが国で遺伝性でもっとも頻度が高いものはPS1 変異であるが,まれながらアミロイドβ蛋白(Aβ)の先駆物質であるアミロイド前駆蛋白(APP)の点変異,あるいはAPP 遺伝子の二重複例も報告されている.孤発例の場合,アルツハイマー型老年性変化は連続性であり,認知症の臨床的定義,および神経病理学的な病変の検出法と閾値をどこに設定するかで診断がぶれる.本稿では,頻度的には圧倒的な孤発性AD の病理を述べ,遺伝性については現在問題になっている点について簡単に記載するにとどめる. - 認知症・アルツハイマー病研究と社会
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新オレンジプランと認知症研究
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎高齢化は世界的に進行し,加齢に伴ってリスクの増大する認知症が世界的な課題となっている.認知症に対して,その“キュア(治療)”と“ケア(介護)”が必要とされており,世界でもっとも早いスピードで高齢化が進んできたわが国は,課題解決先進国として対応のモデルを示すことが望まれているといえよう.この観点から,2013 年にイギリスで行われたG8 認知症サミット,2014 年に日本で行った認知症サミット日本後継イベント,そして2015 年1 月に策定された「認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~」,いわゆる新オレンジプランについて概説する. -
日本における認知症の社会的コスト
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎認知症はもはや世界的な課題である.今後,日本でも世界全体でも急速な勢いで認知症患者が増加することが予想される.それに伴い,社会的コストの増大も危惧される.世界的には,認知症の有病率やその社会的コストが推計され,それらが認知症の国家戦略立案の際の基礎資料として活用されている.そこで本稿では,日本における認知症の社会的コストの推計結果についてその概要を紹介する.その結果によると,2014 年の日本における認知症の社会的コストは14.5 兆円であり,2060 年にその額は24.2 兆円に上ると推計されている.今後は,コストの多寡の議論に終始することなく,社会的資源をどのように効率的に分配・活用すれば,認知症に優しい社会を実現できるかどうかの議論が重要である. -
認知症支援と社会システム
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎認知症のもっとも重要な課題は,何らかの脳の病的変化に起因する認知機能障害と生活障害によって,多様な精神的・身体的・社会的困難が現れ,本人や家族の暮らしそのものが困難な状況に陥るリスクが高まるということである.認知症支援の社会システムを築くには,複雑化のプロセスが進展する前に支援ニーズが総合的にアセスメントされ,質の高い診断へのアクセスが確保され,診断後支援が調整される初期支援システムを確立する必要がある.また,そのような初期支援システムを入口にして,認知症とともに暮らせる社会の実現をめざして医療サービス,介護サービス,居住支援,生活支援,家族支援,福祉・権利擁護支援の柔軟なソーシャルネットワークを編み出していく必要がある.そのような歩みの前提には,認知症の有無にかかわらず,障害の有無にかかわらず,希望と尊厳をもって生きることができる社会をつくろうという理念の共有が不可欠であろう. -
新規アルツハイマー病治療薬の製造販売承認審査のためのガイドライン―国内・海外の動向
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎近年,アルツハイマー病(AD)に対する治療薬の開発はきわめて盛んであり,疾患メカニズムに即し,根本的な治療薬をめざした“疾患修飾薬”をはじめ新規の作用機序を有する種々の薬剤の開発がなされているものの,画期的な新薬の上市には至っていない.そのため,とくに疾患修飾薬については認知症の症状発症前や無症候期を含む,超早期からの治療介入の必要性が提唱され,国内外での開発が進んでいる.しかし,病態進行の早期から介入するために被験者を選択する診断基準,適切な臨床評価方法などが未確立である.また,イメージング技術や脳脊髄液などのバイオマーカーについて,臨床試験への活用が可能かどうかが大きな課題となっており,適切に開発を進めていくためのガイドラインが必要となってきた.本稿では,新規AD 治療薬を製造販売承認するために必要な臨床評価基準(ガイドライン)について,国内外の規制当局の動向を踏まえた現状と今後の課題を概説する. -
認知症サポート医の役割
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎高齢者の増加とともに認知症患者の増加は急速であり,いまやcommon disease といえる.このような状況下では,かかりつけ医が参画した早期からの認知症高齢者支援体制の確立と,そのための医師と介護スタッフの教育が急務といえる.2015 年度末までに5,067 名の認知症サポート医が誕生した.認知症サポート医の役割は,①認知症の人の医療・介護にかかわるかかりつけ医や介護専門職に対するサポート,②地域包括支援センターを中心とした多職種の連携づくり,③かかりつけ医認知症対応力向上研修の講師や住民等への啓発,であるが,2015 年度から開始された認知症初期集中支援チームのチーム員として認知症サポート医であることが必要な要件となった.認知症サポート医の存在は,認知症の鑑別診断能力や外来で扱える行動心理症状への対応力,地域連携や介護について優れた機能を有しており,認知症サポート医の機能を高めることが,地域の認知症対応力を高めることにつながる. -
認知症介護研究の未来
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎平成27 年(2015)10 月より「時間軸を念頭に適切な医療・ケアを目指した,認知症の人等の全国的な情報登録・連携システムに関する研究」の分担研究として,認知症ケア実践を前向きに登録していくシステム構築をめざした「認知症ケアの標準化に関する研究」が開始され,平成28 年(2016)2 月現在,feasibility studyを実施している.認知症施策推進総合戦略の一環として位置づけられる研究であり,効果的な施策展開に向け現場の認知症ケア実践に資することを重視している.有益なエビデンスの蓄積が行われるよう,①時間軸に沿って幅広く,前向きな登録を行う,②現場での登録の負担を可能なかぎり軽減する,③登録した結果の基礎統計が本人・家族あるいは施設・事業所にとって即時に直接的なメリットを提供する,④そのためにWEB 上のシステム構築など効果的なシステム構築と合わせて展開される,といった観点から検討を進めている. -
世界認知症審議会(World Dementia Council)と認知症の課題
257巻5号(2016);View Description Hide Description◎長寿を獲得した人類にとって,高齢社会と認知症は大きな社会的,医学的課題である.21 世紀に入りウェッブ時代が進むとともに,グローバル世界は政治,経済的にも分断され,極めて不安定な状況になっている.世界を動かすパラダイムは明らかに変化を示しはじめた.経済先進国では経済成長が止まり,金利は低く,高齢社会での年金,医療の課題,介護を支える財源と高齢者,認知症患者を支える労働資源などは,大きな社会的課題である.成長を続けていた新興国でも高齢社会化は進んでおり,この社会的問題を迎えて苦悩している.この状況が好転する可能性は極めて低い.この認識のもとに2013 年,イギリス政府はG8 認知症サミットを開催した.
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