医学のあゆみ
Volume 257, Issue 6, 2016
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【5月第1土曜特集】 代謝調節における免疫細胞の役割
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- 総論
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代謝疾患における免疫細胞の役割
257巻6号(2016);View Description Hide Description◎近年,肥満を中心として発症するメタボリックシンドローム(MetS)は代謝性疾患だけではなく,慢性炎症性疾患としてもとらえられている.肥満の脂肪組織では組織リモデリングを伴う慢性炎症像を呈する.脂肪組織の炎症は多様な免疫細胞と脂肪細胞,その他の間質細胞の相互作用によりアディポカインの産生異常をきたすことで惹起され,全身の糖代謝や遠隔組織に影響を及ぼす.脂肪組織におけるマクロファージの機能を中心に,代謝疾患における免疫細胞の役割が明らかになりつつあり,慢性炎症の制御にかかわる免疫細胞について概説する. -
代謝疾患における臓器連関と免疫系
257巻6号(2016);View Description Hide Description◎生活習慣病の特徴として,一個人における複数臓器の機能異常の併発と相乗的な疾患進展があり,臓器の連携による病態の拡大が示唆される.一方で,慢性炎症と代謝異常が生活習慣病と癌に共通する基盤病態として注目を集めているが,慢性炎症と代謝異常との間にも密接なリンクがある.生活習慣病の背景では,炎症や代謝異常が臓器間の連携によって拡大したり,あるいは臓器間の連携による恒常性維持機構を変容させて複数臓器の機能障害を併発させるような単一組織・臓器を超えたプロセスが進行していると考えられる.最近の研究により,免疫系がこのような臓器間連携を担う主要なシステムのひとつであることが明らかになりつつある. -
M1/M2 マクロファージの多様性とその制御
257巻6号(2016);View Description Hide Description◎マクロファージはその起源や多様性,可塑性などにおいてきわめてユニークな細胞である.組織常在マクロファージの多くは出生前より認められるものであり,出生後は自己複製によってその存在が維持される.前駆細胞は共通であるが,それぞれの組織において異なるシグナルが入ることで組織特異的な機能を獲得し,マクロファージは組織ごとに高い多様性をもつ.また,微小環境の変化に応じてクロマチン構造や転写プログラムが変化するなど,きわめて高い可塑性も併せもつ.このような特徴を通じてマクロファージは免疫反応や組織機能の獲得・維持など多彩な役割を果たすことになる.一方,マクロファージのもつ典型的な極性をM1 およびM2 と定義することにより,これらの多様性および可塑性を整理して理解することができる. - 脂肪組織
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【炎症性マクロファージを調節する分子】 脂肪組織の線維化を調節する分子Mincle
257巻6号(2016);View Description Hide Description◎肥満を背景として発症するメタボリックシンドローム(MetS)の病態生理において,脂肪組織の機能異常は上流に位置するが,その機能異常は肥満の脂肪組織炎症によりもたらされることが明らかとされつつある.肥満の脂肪組織炎症には脂肪組織に浸潤したマクロファージが重要な役割を担うことが知られている.肥満脂肪組織におけるあらたな炎症制御分子Mincle は,脂肪組織において炎症促進性M1 マクロファージに発現し,脂肪組織炎症の起点となるCLS を構成するマクロファージに発現が認められた.Mincle 欠損マウスは高脂肪食負荷による体重増加は野生型マウスと同程度であったが,脂肪組織重量の増加,肝重量の低下が認められた.また,Mincle 欠損マウスでは脂肪組織炎症や線維化は減弱しており,脂肪肝や糖代謝異常が軽減した.脂肪組織マクロファージのMincle シグナルは脂肪組織の線維芽細胞を活性化し,脂肪組織線維化をもたらすことが明らかとなった. -
【炎症性マクロファージを調節する分子】 自然免疫センサーによる炎症性マクロファージの制御と天然薬物による炎症調節
257巻6号(2016);View Description Hide Description◎近年,メタボリックシンドローム(MetS)を含む多くの生活習慣病の病態に,慢性炎症が深く関与することが明らかになっている.その慢性炎症は多種多様な細胞およびそれらに発現する分子によって正または負に制御されている.Toll 様受容体(TLR)は,病原体由来のリガンドを特異的に認識するセンサーである一方,死細胞や損傷組織から産生された内因性リガンドも認識し,その異常が慢性炎症へと進展することが明らかになっている.著者らは,TLR ファミリー分子RP105/MD-1 がTLR4 とは異なる機序で内臓脂肪組織の慢性炎症を制御することを明らかにした.さらに,MetS におけるNLRP3 インフラマソームの制御機構に着目し,NLRP3 インフラマソームの活性化を阻害する甘草由来の薬物イソリクイリチゲニンをあらたに見出した.高脂肪食摂餌マウスにイソリクイリチゲニンを投与することにより,肥満,糖尿病などの病態を顕著に抑制したことから,本薬物はMetS に対する有望な創薬シーズと考えられた. -
【炎症性マクロファージを調節する分子】 CCR5 による脂肪組織マクロファージの動態制御―CCR5 とインスリン抵抗性
257巻6号(2016);View Description Hide Description◎ケモカインは白血球走加作用のあるサイトカインの総称であり,なかでも,MCP-1 とその受容体CCR2 は脂肪組織に骨髄由来のマクロファージを動員させることから,炎症を介したインスリン抵抗性の発症に深く関与している.しかし一方で,脂肪組織の炎症の誘導と維持,インスリン抵抗性の病態形成において,MCP-1-CCR2 以外の未知のケモカインシステムが関与している可能性がある.著者らは,肥満の脂肪組織ではCCR5 陽性マクロファージの浸潤が増加し,さらに,肥満を誘導したCCR5 欠損マウスではマクロファージの浸潤が減少し,その極性が炎症抑制性のM2 優位へと傾くことで,脂肪組織の炎症とインスリン抵抗性が減弱していることを明らかにした.本稿では,慢性炎症とインスリン抵抗性の病態をリンクするケモカインシステムCCR5 の役割と意義について解説する. -
【炎症性マクロファージを調節する分子】 脂肪組織の低酸素シグナルと炎症
257巻6号(2016);View Description Hide Description◎肥満時の脂肪組織では慢性炎症が惹起され,インスリン抵抗性の基盤病態を形成する.また,ヒト・マウスともに肥満時には非肥満時に比べ脂肪組織が低酸素状態になることが知られている.低酸素環境で働く重要な転写因子として低酸素誘導因子(HIF)があり,なかでもHIF-1αについては炎症との関連が数多く報告されている.また,炎症の主要制御因子であるNF-κB とHIF との関連も報告があり,低酸素と炎症はたがいに促進し代謝の悪循環を生じる.脂肪組織を構成する細胞のうち,低酸素によってとくにマクロファージで炎症反応が誘発される.このマクロファージの低酸素応答としての炎症にはHIF-1αが重要である.また最近,脂肪細胞のHIF-1αが肥満促進に働くことが明らかとなってきた.糖尿病をはじめとする肥満に伴う代謝障害の治療標的として,今後の脂肪組織のHIF-1αの機能解明が期待される. -
【M2 マクロファージの機能を調節する分子】 自然リンパ球による肥満の調節
257巻6号(2016);View Description Hide Description◎病原体などの外来異物が体内に侵入すると,異物の構成成分やサイトカインなどの働きによって自然免疫系が活性化され,続いて外来抗原に特異的な応答を担う獲得免疫系が活性化される.これらの一連の免疫応答を担うリンパ球として,獲得免疫系のT,B,NKT(natural killer T)細胞と,自然免疫系のNK(natural killer)細胞や,リンパ組織誘導(lymphoid tissue inducer:LTi)細胞が存在することが知られてきたが,近年になってNH(natual helper)細胞1)やNuocyte2)などの自然免疫系のリンパ球が複数同定され,NK 細胞と合わせて自然リンパ球(innate lymphoid cells:ILCs)とよばれるようになった.現在自然リンパ球とさまざまな病態との関連について活発な研究が進んでおり,肥満との関連についても複数の報告がなされている.本稿では,最近報告された自然リンパ球による脂肪組織の“褐色化”誘導機構や,肥満の誘導における自然リンパ球の機能に関して,最近の知見を解説する. -
【M2 マクロファージの機能を調節する分子】 疾患特異的M2 マクロファージとメタボリックシンドローム
257巻6号(2016);View Description Hide Description◎近年,マクロファージの亜集団に関する研究が急速に進んでおり,この亜集団が癌や動脈硬化,アレルギー応答,創傷治癒,メタボリックシンドローム(MetS)といった慢性炎症を伴う疾患において重要な役割を果たしていることが明らかとなりつつある.著者らは,MetS とM2 マクロファージに焦点を当てて研究を行ったところ,脂肪組織のなかに存在しているM2 様マクロファージが脂肪の恒常性維持を担っていることを明らかにした.またこの細胞はTrib1 によってその分化が制御されており,この遺伝子欠損マウスでは脂肪組織のような末梢組織のM2 様マクロファージが著明に減弱しているとともに,脂肪が萎縮するリポディストロフィーを発症していることも報告した.これらの研究やその他の研究データから現在著者らは,病気には病気ごとの疾患特異的M2 マクロファージが存在していると考えている. -
【M2 マクロファージの機能を調節する分子】 M2 マクロファージ機能を調節する分子:mTOR パスウェイ
257巻6号(2016);View Description Hide Description◎マクロファージは可塑性が高く,さまざまな機能を発揮しうる細胞である.マクロファージの活性化はM1マクロファージ,M2 マクロファージで代表され,それらの活性化には細胞外および細胞内からのシグナルが影響する.マクロファージの活性化を起こす因子としてサイトカイン,外来微生物の構成成分,内因性のダメージシグナル,代謝産物といったものがこれまで報告されている.Mechanistic/mammalian target ofrapamycin complex 1(mTORC1)は細胞内の統合的栄養センサーとして知られてきた.マクロファージにおいては,サイトカイン受容体からのシグナルおよび細胞内アミノ酸の有無によってmTORC1 の活性が規定される.本稿では,M2 マクロファージとしての活性化におけるmTOR 周辺シグナルの役割について,これまでの報告および著者らの研究成果をまとめる.また,M2 マクロファージ研究における今後の課題と展望についても述べる. -
【M2 マクロファージの機能を調節する分子】 脂肪組織内M2 マクロファージの機能を調節する転写因子IRF4
257巻6号(2016);View Description Hide Description◎ Interferon regulatory facto(r IRF)4 は,免疫細胞のさまざまな機能を制御する転写因子として知られている.著者らは,IRF4 は免疫細胞のみならず脂肪細胞にも発現し,脂肪細胞の分化,脂肪融解能,脂質生合成を調節していることを報告した.本稿では,メタボリックシンドローム(MetS)の脂肪組織内マクロファージにおけるIRF4 の役割について概説する.IRF4 欠損マクロファージでは炎症性サイトカインの産生が亢進しており,3T3-L1 脂肪細胞との共培養系においてIRF4 欠損マクロファージは脂肪細胞のインスリン抵抗性を惹起した.ミエロイド細胞特異的IRF4 欠損マウスでは,高脂肪食負荷時に脂肪組織,肝,骨格筋での慢性炎症が増幅されることにより,全身のインスリン抵抗性を増強した.IRF4 は脂肪組織において脂肪細胞のサイズやM1/M2 マクロファージ比を制御する転写因子であり,IRF4 の発現低下がMetS におけるインスリン抵抗性の発症に関与している可能性が示唆された. -
【注目される脂肪組織の免疫細胞】 脂肪組織Treg の特徴と役割
257巻6号(2016);View Description Hide Description◎制御性T 細胞(Treg)は,マクロファージなどの抗原提示細胞やT 細胞に作用して免疫応答を抑制する細胞群である.脂肪組織Treg は他のリンパ組織と比較して高い割合で保持されているが,肥満状態では減少し,インスリン感受性の維持に関与すると考えられている.脂肪組織Treg はPPARγの発現が高く,脂肪組織特異的な細胞群を形成している.脂肪組織Treg の分化・増殖にはマクロファージが関与しており,その維持にはIL-33 やアディポネクチンなどのサイトカインや2 型自然リンパ球が重要な役割を果たしている. -
【注目される脂肪組織の免疫細胞】 脂肪組織における免疫バランスの可視化解析―螢光をいかに生体に使うか
257巻6号(2016);View Description Hide Description◎著者らは分子生物学に代わるあらたな研究手法として,光を用いた生体解析を進めている.とくに,本ミクロからマクロまでを網羅するイメージングデバイスを複数開発しており,マルチスケールイメージングを達成している.代謝領域では同じ螢光モダリティである“生体分子イメージング手法”および“マルチカラーサイトメトリー”を組み合わせて解析を行っている.代謝臓器(脂肪組織・骨格筋)および血管に適応し,メタボリックシンドローム(MetS)などの基礎病態にアプローチし,肥満に伴う脂肪組織の免疫バランス異常を明らかにした.その他,血栓症など多くのアプリケーションを有しており,基盤技術としての将来性を示唆していると考えられた. -
【注目される脂肪組織の免疫細胞】 内臓脂肪の慢性炎症を惹起するヘルパーCD4 T 細胞とB 細胞の役割
257巻6号(2016);View Description Hide Description◎肥満の病態では,内臓脂肪組織は体の大部分を占める臓器であり,その内臓脂肪組織のSVF(stromal vascularfraction)には実に数百万個の免疫細胞が存在するといわれている.内臓脂肪組織でのさまざまな免疫細胞の活動が内臓脂肪組織の動的恒常性を維持するだけでなく,全身のインスリン感受性に影響を及ぼしていることが近年の研究から明らかされつつある.主要な免疫細胞にはマクロファージ,T 細胞,B 細胞,NK 細胞,好中球,好酸球などが存在するが,T 細胞のみに着目しても実に多様性に富んだサブセットが存在する.とくにCD4 T 細胞は免疫応答の司令塔の役割を担っており,MHC classⅡを介する抗原提示や,サイトカインの分泌を介して他の細胞と相互に機能している.本稿では,内臓脂肪組織におけるCD4 T 細胞の役割およびB 細胞との相互機能を中心に,その概要を解説する. -
【注目される脂肪組織の免疫細胞】 NKT 細胞・NK 細胞の脂肪組織での役割
257巻6号(2016);View Description Hide Description◎ナチュラルキラーT(NKT)細胞は,病原微生物由来の糖脂質を認識して感染防御に,また自然免疫と獲得免疫の間に位置して免疫応答を修飾する役割をもつ.一方,ナチュラルキラー(NK)細胞も,とくにウイルス感染細胞などを早期に除去するなど,どちらも生体防御反応において重要なリンパ球集団である.最近では感染イベント以外の局面―肥満などの生活習慣病―においても,NKT 細胞/NK 細胞の役割が明らかとなってきた.とくに,脂肪組織におけるこれらの細胞亜群は他臓器のものとは異なるサブセットともとらえられており,そのユニークな機能は興味深い.最近,NKT 細胞/NK 細胞と脂肪細胞が相互作用することが示されており,これにより脂肪組織内の免疫バランスが変化し,肥満・インスリン抵抗性に影響を与えているというのである.本稿ではおもに脂肪組織におけるNKT 細胞/NK 細胞の機能,それが生活習慣病の進展にどのように関与しているのかを,著者らの研究を含め解説したい. -
【注目される脂肪組織の免疫細胞】 肥満による自己免疫疾患発症リスクと,脂肪酸代謝酵素ACC1 によるTh17 細胞分化制御機構
257巻6号(2016);View Description Hide Description◎近年,食習慣,生活習慣の変化や運動不足に伴い世界規模で“肥満”患者が増加している.肥満,とくに内臓脂肪蓄積を伴う肥満症は糖尿病,脂質異常症,高血圧などのいわゆる生活習慣病と密接にかかわっており,今後の医療問題の根本とも考えられる.これらの生活習慣病を合併した状態はメタボリックシンドロームとよばれ,動脈硬化や心筋梗塞などの心血管系疾患のリスクファクターとして規定されている.肥満関連疾患というと糖尿病や動脈硬化性疾患が注目されがちであるが,自己免疫疾患,喘息,癌といった免疫担当細胞とかかわりの深い疾患の発症リスクが高まることも明らかになってきている.最近の著者らの研究より,肥満環境では脂肪酸合成の律速酵素であるアセチルCoA カルボキシラーゼ1(ACC1)がCD4 T 細胞において高発現していることが,肥満マウスモデルおよび肥満患者検体で明らかとなった.本稿では,肥満病態におけるT 細胞の機能変化,およびT 細胞の機能分化における細胞内エネルギー代謝の役割について概説したい.また,今回著者らが発見した細胞内脂肪酸によるRORγt の活性化・Th17 細胞分化のあらたな分子メカニズムについて解説する. - 神経系によるマクロファージを介した炎症の調節
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自律神経による脂肪組織マクロファージ機能の調節
257巻6号(2016);View Description Hide Description◎脂肪組織内はつねに高濃度の脂肪酸に曝されており,Toll 様受容体4(TLR4)などによってマクロファージが容易に活性化される環境にある.交感神経は,脂肪細胞を制御するだけでなく,脂肪組織マクロファージのβ2 受容体を介してTNF-αの発現を恒常的に抑制している.事実,摂食促進ペプチドAgRP(agouti-relatedpeptide)を脳室内に投与すると,白色脂肪組織を支配する交感神経が選択的に抑制されることにより,TNF-αの発現が亢進する.またβ受容体欠損マウスは肥満は軽度であるにもかかわらず,TNF-αを含む炎症性サイトカインの発現が食餌性肥満マウスと同程度に高い.さらに,食餌性肥満マウスの脂肪組織はβ受容体レベルで異常をきたし,ノルエピネフリンによるTNF-αの発現抑制作用が認められない.このように交感神経は脂肪組織マクロファージを介して脂肪組織内の微小環境における炎症反応を抑制し,恒常性維持に寄与する. -
グレリンの抗炎症メカニズム―免疫応答調節の役割
257巻6号(2016);View Description Hide Description◎グレリンはわが国で発見された growth hormone secretagogue recepto(r GHS-R)の内因性リガンドである.グレリンは摂食亢進,体重増加およびエネルギー代謝の調節作用,成長ホルモン(GH)やインスリン様成長因子-1(IGF-Ⅰ)の分泌促進作用を有するほか,強力な抗炎症作用をもつ.グレリンが抗炎症作用を発揮する機序として,①標的細胞(とくに免疫細胞)のGHS-R を介した直接的な免疫機能の制御,②神経系-免疫系クロストークを介した交感神経の過活動抑制による免疫細胞機能の調節,の2 つが考えられている.本稿では,グレリンの抗炎症機構の詳細と各臓器炎症におけるグレリンの抗炎症作用について解説する. - 腸管免疫細胞
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腸管免疫細胞による代謝調節
257巻6号(2016);View Description Hide Description◎肥満によるインスリン抵抗性・2 型糖尿病への進展に,脂肪組織の慢性炎症がかかわっていることはすでに知られている.近年,腸内細菌叢の変化,腸管バリアの破綻に伴い,腸管からのリポ多糖(LPS)による末梢インスリン感受性臓器での慢性炎症がインスリン抵抗性の一因となりうることが報告された(metabolic endotoxemia).しかし,腸管免疫細胞のインスリン感受性調節における役割に関しては報告が少ない.マウス高脂肪食負荷では,腸管において自然免疫細胞,獲得免疫細胞とも炎症性免疫細胞の増加,抗炎症性細胞の減少が認められる.これらの変化は高脂肪食負荷による腸内細菌叢の変化,または腸管上皮,単核貪食細胞による炎症の活性化にはじまる.今後,食事-腸内細菌叢-腸管免疫連関が肥満,インスリン抵抗性,2 型糖尿病の予防・治療のあらたな標的になりうると考えられる. - 最新の解析技術
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ヒトの単球あるいはマクロファージの解析―脂肪組織慢性炎症とリピドミクス
257巻6号(2016);View Description Hide Description◎生活習慣病などさまざまな疾患の基盤病態として慢性炎症が指摘されている.炎症の起点となる単球・マクロファージ(Mφ)の役割は重要であり,とくに肥満では脂肪組織における脂肪細胞の変化のみならず,Mφの量的・質的変化(抗炎症性M2 Mφから炎症性M1 Mφへ)が病態にかかわることがわかってきた.さらに,脂肪細胞由来の脂肪酸とMφ由来の炎症関連分子の相互作用が,脂肪組織における炎症増悪化にかかわることも明らかになりつつある.単球形質と病態との関連については不明な点が多いが,著者らは肥満・糖尿病において単球のM1/M2 バランスが悪化し,その悪化が生活習慣病薬により改善されることを見出した.このような単球・Mφの形質変化には多様な脂質分子が影響する可能性が考えられ,最近,個々の脂肪酸の研究とともに,脂質やその代謝物の網羅的解析(リピドミクス)の重要性が高まってきている. -
免疫細胞の生体イメージング
257巻6号(2016);View Description Hide Description◎免疫系はダイナミック(動的)なシステムである.多種多様な免疫細胞が全身をくまなく遊走するが,適切な場所に適切なタイミングで会合しなければ機能を発揮できない.免疫系システムにおける高度に統率された細胞遊走ネットワークは,神経系での固定した軸索ネットワーク(“hard-wired”)と比較して“soft-wired”と形容される.このような動的システムの解明のためには従来の組織学的(=静的)な解析では不十分であり,低侵襲で深部まで高い時空間解像度で生きた組織の観察が可能な“二光子励起イメージング”が近年活用されている.本稿ではとくに当研究室で行っている研究成果を中心に,新しいイメージング技術によって明らかになった新知見について紹介する. -
マクロファージの転写・トランスクリプトーム・エピゲノム解析
257巻6号(2016);View Description Hide Description◎ゲノム情報は身体を構成するすべての細胞に共通である.しかし,個々の臓器や組織を構成する細胞がそれぞれ固有の機能を発揮するのは,細胞種に応じてゲノム情報の一部のみが転写されるためである.このように,細胞種に応じて特異的な細胞機能を理解するためには,シグナル依存的な転写因子がDNA と相互作用して細胞機能遺伝子発現を制御する仕組みを理解することが重要である.核にあるゲノム情報(DNA)がmRNAに書き換えられる過程を転写という.転写因子がプロモーターに存在するそれぞれの転写因子に特異的な結合モチーフに結合して標的遺伝子の発現を制御するというのが転写制御の基本であると長い間考えられてきた.ところが,最近の次世代シークエンサーを用いた転写・エピゲノム・トランスクリプトーム解析の結果,この法則にかならずしもよらない制御機構が多々存在することが明らかとなってきた.本稿では,マクロファージの転写・トランスクリプトーム・エピゲノム解析の実際について概説する.
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