Volume 258,
Issue 6,
2016
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【8月第1土曜特集】 アミロイドーシスの最新情報
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医学のあゆみ 258巻6号, 599-599 (2016);
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アミロイドーシスの基礎的知識
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医学のあゆみ 258巻6号, 603-608 (2016);
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◎アミロイドーシス(amyloidosis)とは,βシート構造を豊富にもつ可溶性の蛋白質が何らかの機転により質線維構造をもつ特異な蛋白質であるアミロイド線維(amyloid fibril)に変化し,全身諸臓器の細胞外に沈着することによって臓器障害を引き起こす疾患群である1,2).表1 に示すようにこれまで31 種類の異なるアミロイド前駆物質がアミロイドとなり病気を引き起こすことが知られている.Alzheimer 病(AD)やプリオン病のように単一臓器のみにアミロイド沈着をきたす限局性アミロイドーシスと,AL アミロイドーシスや家族性アミロイドポリニューロパチーのように全身の諸臓器にアミロイド沈着をきたし種々の障害を引き起こす全身性アミロイドーシスとに大別される1).アミロイドは組織学的にはヘマトキシリン・エオシン染色では淡好酸性で,均質無構造を呈する.アルカリコンゴーレッド染色では橙赤色に染まり,その標本を偏光顕微鏡で観察すると緑色の複屈折を示す.電子顕微鏡では幅7~15 nm の細長い線維が錯綜している(図1).形態学的には同一にみえるが,アミロイド蛋白には前述のようにアミロイド原因物質は多様で,その違いによりタイプや症状が異なる.また,①遺伝的に変異するとアミロイドを形成しやすくなり,臓器障害を引き起こすタイプ(遺伝性アミロイドーシス)と,②遺伝的に変異のない(wild type)蛋白質がアミロイドとなり症状を引き起こすタイプにも分類される.
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医学のあゆみ 258巻6号, 609-613 (2016);
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◎全身性アミロイドーシスは,どのタイプも全身諸臓器に同じような沈着態度を示すわけではない.アミロイドのタイプによっては,沈着しやすい臓器がある程度限られる.AL アミロイドーシスは症例によって沈着態度が異なる.この原因として,アミロイド前駆体蛋白である免疫グロブリン軽鎖のアミノ酸配列の違いが関与していることが示唆されている.限局性アミロイドーシスでは局所でアミロイド前駆体蛋白が産生され,その近傍でアミロイド沈着が起こるため,アミロイドのタイプにより沈着臓器が異なる.アミロイドの病理組織学的診断に必要なコンゴーレッド染色の染色性もアミロイドのタイプによって異なる.とくにAL アミロイドーシスでは症例によって染色性が異なり,さらには臓器・組織学的な部位によって染色性が異なることもある.コンゴーレッド染色標本の螢光観察はアミロイドーシスの組織診断の定義ではないが,十分診断の補助になりうる.
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医学のあゆみ 258巻6号, 615-620 (2016);
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◎アミロイドーシスとは,個々の疾患に特異的な前駆蛋白質が不溶性のアミロイド線維を形成し,さまざまな組織・臓器の細胞外間質に沈着することで臓器障害を引き起こす疾患群の総称であり,アミロイド線維を形成する前駆蛋白質は現在30 種類以上が同定されている.すべてのアミロイド線維形成は重合核依存性重合モデルに従う.前駆蛋白質が天然状態で安定な立体構造をとる場合,重合核形成および線維伸長が起こるため,突然変異,限定分解,あるいは分子間相互作用により,前駆蛋白質が安定な構造をとる天然状態からアミロイド形成能を有する不安定な中間体へと立体構造を変化させる必要がある.また,アミロイド線維が形成され,沈着するためには,前駆蛋白質と沈着臓器・組織を構成する生体分子との相互作用が重要である.アミロイドーシスにおける臓器障害は沈着したアミロイドによる周囲組織の圧迫によるものだけでなく,アミロイド凝集体それ自身が細胞毒性を有し,組織傷害を引き起こすことが明らかにされつつある.
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医学のあゆみ 258巻6号, 621-627 (2016);
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◎30種類以上報告されているアミロイドーシスのなかで,アミロイド線維が複数の臓器に沈着するアミロイドーシスを全身性アミロイドーシスとして分類している.全身性アミロイドーシスではアミロイド前駆蛋白質や沈着臓器が多岐にわたるため,発症を引き起こす要因は各アミロイドーシスで異なるが,疾患感受性を増大させる主要な要因として,①前駆蛋白質濃度の増大,②線維を形成しやすい前駆蛋白質の変異体,③前駆蛋白質の断片化,④アミロイドが沈着する部位の微小環境,⑤個体の老化などをあげることができる.著者らはこれらの要因に加えて,伝播現象の重要性を提唱してきた.本稿では,これまで伝播現象について詳しく解析されているマウスAApoAⅡアミロイドーシス(アポリポ蛋白質A-Ⅱ:ApoA-Ⅱが線維を形成)とAA アミロイドーシス(血清アミロイドA:SAA が線維を形成)を中心に,アミロイドーシスの発症に関与する因子と伝播について概説する.
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アミロイドーシスの診断プロセス
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医学のあゆみ 258巻6号, 631-638 (2016);
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◎全身性アミロイドーシスでは多臓器の障害がみられるために,その症候はきわめて多様である.初発の症候として全身倦怠感や,体重減少などの非特異的症候や,アミロイド沈着がもっとも先行している臓器の障害により,末梢神経障害や自律神経障害,手根管症候群,心不全,不整脈,腎障害,肝障害,皮下出血,腫瘤性病変などがみられる.近年の治療の進歩により確定診断による病型に応じた病態抑制療法が確立してきており,早期治療介入するほど効果が発揮される.したがって,原因不明の疾患に対しアミロイドーシスを疑い,生検などにより確定診断し早期に治療介入することが重要である.
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医学のあゆみ 258巻6号, 639-643 (2016);
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◎アミロイドーシスを生じる蛋白質は多様であり,ヒトではこれまでに31 種類の蛋白質がアミロイドーシスの原因となることが報告されている.アミロイド蛋白質の同定方法には免疫組織化学染色法,アミロイド抽出法,組織切片からの質量分析法などがあるが,それぞれに利点と欠点を有するため,これらの手法を組み合わせて最終的に判定する.近年開発されたレーザーマイクロダイセクション(LMD)法と質量分析法を用いた方法は,通常の病理組織ブロックからも迅速にアミロイド蛋白質を同定することが可能な手法であり,診断や研究の手法として使用される頻度が増している.
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医学のあゆみ 258巻6号, 644-650 (2016);
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◎本稿ではアミロイドーシスの診断に至るプロセスを紹介する.アミロイドーシスの診断には,まず臨床症状・所見からアミロイドーシスを疑うことが重要であり,確定診断には組織生検にてアミロイド沈着を同定する.近年いくつかのアミロイドーシス病型で有効な治療法が確立されてきており,正確な病型診断の重要性が増している.病型診断は免疫組織化学染色でスクリーニングを行い,これで診断できなければ,組織アミロイド蛋白の解析が必要となる.Laser microdissection(LMD)により,きわめて微量な組織アミロイドも抽出可能となり,タンデム質量分析法(tandem mass spectrometry)との組合せで,沈着量の少ない病早期の沈着アミロイドや患者侵襲の少ない微小生検組織であってもアミロイドーシスの病型診断が可能となり,今後さらに普及していくものと考えられる.
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アミロイドーシスの治療
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医学のあゆみ 258巻6号, 653-659 (2016);
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◎反応性AA アミロイドーシスは,急性期炎症蛋白SAA を前駆蛋白として約2/3 のAA が凝集・線維形成を起こし,臓器に沈着し,おもに腎,消化管障害をきたす疾患である.慢性炎症性疾患はその原疾患になる可能性があるが,リウマチ性疾患,とくに関節リウマチ(RA)がわが国では約90%を占める.治療は,多くのリウマチ性疾患で抗サイトカイン療法,とくに抗IL-6 レセプター抗体がもっともSAA 低下作用が高く有用である.多中心性形質細胞型Castleman 病にも同様に有効である.慢性感染症は適切な抗生物質の使用,ドレナージ,臓器摘出も考慮する.炎症性腸疾患は抗TNF 療法がもっとも有効である.自己炎症性疾患は早期の診断とコルヒチンの使用が重要で,少ないが無効例には抗サイトカイン療法を考慮する.悪性腫瘍が原因の場合もあり,診断の確定と根治療法(化学療法や手術)が重要になる.いずれも原疾患のコントロール(SAA 値抑制)がもっとも肝要である.
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医学のあゆみ 258巻6号, 661-666 (2016);
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◎アミロイドーシスは線維構造をもつアミロイド蛋白が全身諸臓器に沈着し,臓器障害をきたす疾患である.このうち,異常形質細胞より産生されるモノクローナルな免疫グロブリンに由来するものをAL アミロイドーシスとよぶ.まれな疾患ではあるが,半年以内での死亡例も多く,早期の診断・治療および新しい治療法の確立が必要とされている.従来のAL アミロイドーシスの治療の標的は免疫グロブリンの発生源である異常形質細胞であり,大量化学療法併用の自家末梢血幹細胞移植やさまざまなレジメンの化学療法の有効性が示されてきた.プロテアソーム阻害薬や免疫調節薬など薬物療法の選択肢の幅も広がってきている.加えて近年では,すでに沈着したアミロイド,あるいはアミロイド線維の形成過程を標的とした新しい治療法の開発が進んでいる.現時点では明確なエビデンスは示されていないが,いくつかの臨床試験が進行中であり今後の展望が期待される.
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医学のあゆみ 258巻6号, 667-670 (2016);
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◎重鎖(heavy chain)アミロイドーシス(AH アミロイドーシス)は免疫グロブリン重鎖に由来するアミロイドーシスで,1990 年にはじめて同定されて以降,約30 例が報告されている.臨床的特徴としては,60 歳以降に発症し,蛋白尿や腎不全など腎障害が主徴となる点があげられる.軽鎖(light chian)アミロイドーシス(AL アミロイドーシス)に比べて心への浸潤はまれで,多くの症例で完全型免疫グロブリンのM 蛋白を有し,生命予後は比較的良好である.多くの症例でlaser microdissection and mass spectrometry(LM/MS)による診断が必要であるため,AH アミロイドーシスの診断率は低いと思われる.LM/MS の普及に伴い,AL アミロイドーシスの診断精度が増すことが期待される.
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医学のあゆみ 258巻6号, 671-676 (2016);
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◎遺伝性ATTR アミロイドーシスはトランスサイレチン(TTR)遺伝子変異に起因する常染色体優性遺伝の疾患で,多発ニューロパチー,自律神経障害,心筋症が主症状である.本症に対しては肝移植の有効性が1990年代に確立しているが,移植の適応とならない患者が多くを占める.新規の疾患修飾療法として,TTR 四量体の安定化薬(ジフルニサル,タファミジス)の有効性が臨床試験で証明され.タファミジスは本症治療薬として日本を含む30 カ国以上で認可されている.さらに,siRNA などを用いた遺伝子治療の臨床試験も進行しており,本症治療の選択肢は広がりつつある.現時点における本症の治療指針としては,肝移植後の予後が良好な若年のV30M(p. V50M)変異を有する患者では肝移植を第一選択,その他の患者ではタファミジスを第一選択とすることを基本とし,変異の種類や年齢・病状により症例ごとに最善の治療を検討する必要がある.
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医学のあゆみ 258巻6号, 677-681 (2016);
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◎ゲルゾリン型家族性アミロイドポリニューロパチーは,ゲルゾリン遺伝子変異により変異ゲルゾリン断片がアミロイドとして沈着する全身性アミロイドーシスである.中年期以降に発症し,①角膜格子状変性,②顔面神経麻痺を中心とした脳神経障害,③皮膚弛緩症を三徴とし,わが国に多いトランスサイレチン型とは臨床像を異にする.本症はフィンランドに患者が集積しており,フィンランド型ともよばれる.日本人患者はフィンランド人患者と同じc.654G>A(Asp187Asn)変異により発症しているが,最近上記の三徴よりもネフローゼ症候群が前景に立つ家系が報告され,臨床像のバリエーションが追加された.SNP 解析により日本人共通の創始者ハプロタイプが発見されたが,一方で新規変異の家系もみつかっている.変異ゲルゾリンからアミロイド断片が形成される過程に関与する2 つのプロテアーゼ(furin とMT1-MMP)が同定されたことから,今後の治療法開発が期待される.
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医学のあゆみ 258巻6号, 683-687 (2016);
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◎透析関連アミロイドーシス(HDA)は,β2ミクログロブリン(β2MG)を前駆蛋白とする全身性アミロイドーシスである.その骨・関節障害は近年の透析技術の進歩により発症までの期間が延長されているものの,現在も透析患者における主要な合併症のひとつであることに変わりはない.いまだ発症機構の解明がされておらず,沈着したアミロイドを除去する方法はないが,発症危険因子を軽減することで発症を抑制することは可能である.ポリスルフォン(PS)膜やポリメチルメタクリレート(PMMA)膜の使用やhigh performance 膜の使用,透析液の清浄化,血液透析濾過(HDF)や血液濾過(HF)の選択,β2MG 吸着カラムの使用は有効である.透析導入年齢はHDA の発症因子のひとつであり,透析患者が高齢化する近年,HDA による骨・関節障害でのactivities of daily living(ADL)やquality of life(QOL)低下は今後解決すべき問題となるであろう.われわれは本症に対する積極的な対応が求められている.
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医学のあゆみ 258巻6号, 688-692 (2016);
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◎老人性全身性アミロイドーシス(SSA)は,野生型トランスサイレチン(TTR)由来のアミロイドが全身的に沈着する疾患である.おもなアミロイド沈着組織は心筋,腎盂,肺実質ならびに大血管壁であり,加齢とともにアミロイド沈着が加速する.SSA は従来,高齢者に難治性心不全を引き起こす基礎疾患のひとつとしてとらえられていたが,近年,本疾患の疾患概念が大きく変貌している.SSA の自然経過ではまず50~70 歳代に両側の手根管症候群(CTS)が初発症状として現れることが多く,また本症状から10 年ほど経て心房細動が加わる.さらに,10 数年後に終末像である心不全に陥るが,この経過中に脳塞栓に代表される全身性塞栓症を併発しやすい.SSA はけっして高齢者の疾患ではなく,また早い段階で確定診断がなされれば抗アミロイド薬による治療効果が期待できる.
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限局性アミロイドーシス治療
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医学のあゆみ 258巻6号, 695-702 (2016);
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◎限局性アミロイドーシスは,供給されたアミロイド前駆蛋白が原則として単一の標的臓器内のみに沈着するアミロイドーシスである.本疾患は前駆蛋白の種類により分類され,身近なものからまれなものまでさまざまな病型がある.アルツハイマー病(AD)やプリオン病,2 型糖尿病,限局性AL アミロイドーシスなどが本疾患に含まれる.症状や重症度は病型や患者ごとに異なり,障害臓器機能予後や生命予後がきわめて不良であるものから無症候性であるものまでさまざまである.治療法は本疾患に特異的なものはなく,病型ごと・患者ごとに異なり,根本的治療法が確立していない病型が多い.限局性AL アミロイドーシスは免疫グロブリン軽鎖を前駆蛋白とする病型である.限局性アミロイドーシスのなかでは比較的頻度が高い.本病型におけるアミロイド沈着は腫瘤を形成することがあり,アミロイドーマ(amyloidoma)とよばれる.ときに悪性腫瘍との鑑別が重要である.AL 型アミロイドの沈着を確認した後に,患者ごとに異なるさまざまな臨床病型に応じた診療を行う.
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医学のあゆみ 258巻6号, 703-709 (2016);
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◎脳アミロイドアンギオパチー(CAA)は髄膜および脳内の血管壁にアミロイドの沈着を認める疾患で,脳出血だけでなく,脳梗塞や白質脳症,認知機能障害,一過性神経症状や炎症・血管炎の原因となる.CAA は沈着したアミロイド蛋白によって病型分類されており,孤発性アミロイドβ蛋白(Aβ)型が大多数を占め,加齢とともにその頻度が上昇する.CAA の確定診断には病理学的診断が必要であるが,画像診断技術の進歩に伴い,無症候の段階や症状出現後における診断が可能となっている.現在,血管壁へのアミロイド沈着を予防したり蓄積したアミロイドを除去したりする治療法はないが,十分な降圧治療はCAA 関連脳出血の予防に重要であることが示されている.また,CAA 関連炎症・血管炎が生じた場合は免疫治療が有効なことがある.一過性神経症状では抗てんかん薬が使用される.
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医学のあゆみ 258巻6号, 710-716 (2016);
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◎脳アミロイドーシスの代表的な疾患であるAlzheimer 病(AD)では,ADNI やDIAN などの欧米の大規模観察研究によって,認知症発症以前の前臨床期におけるアミロイドやタウ蓄積過程,バイオマーカーと認知機能の変化などが明らかにされた.この過程で中心的に発展してきたのがアミロイドPET などの画像診断である.アミロイドPET によって健常人,軽度認知障害とAlzheimer 型認知症における陽性率と経時的変化がメタ解析のレベルで解明され,アミロイドによる認知機能の病態も明らかにされた.さらにタウPET による神経原線維変化の可視化が可能となり,Aβアミロイドと異なる蓄積部位と認知機能低下の役割が解明されつつある.本稿ではこれら脳アミロイドの画像研究の最先端を紹介する.
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稀な疾患のアミロイドーシス
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医学のあゆみ 258巻6号, 719-723 (2016);
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◎アルツハイマー病(AD)やパーキンソン病(PD)などの神経変性疾患では,脳内の神経細胞などに異常構造をとった蛋白質が凝集蓄積し,神経細胞に選択的細胞死が生じることが知られている.これらの異常蓄積する蛋白質には,アミロイドβ(Aβ),タウ(tau),αシヌクレイン(α-synuclein)などが知られており,アミロイド線維あるいはアミロイド様凝集体を形成している.その異常構造の特性から,プリオン病におけるプリオン蛋白質のように伝播することが明らかになってきた.本稿では,神経変性疾患において異常構造蓄積物を形成する蛋白質の伝播に関して最近の知見を紹介する.
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医学のあゆみ 258巻6号, 724-728 (2016);
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◎眼アミロイドーシスには,眼局所のみによるものと,全身性アミロイドーシスによる眼合併症によるものがある.近年,肝移植などの治療の進歩によって,ATTR-FAP(FAP type 1)の生命予後は飛躍的に伸びている.眼合併症は発症後10 余年してから問題になるため,かつては眼合併症が問題になるケースはまれであった.肝移植導入後21 年あまりを経た現在,眼科的合併症によるQOL 低下をきたしている患者は多い.その最たるものは硝子体混濁と緑内障であるが,硝子体混濁は手術療法で治癒可能である.緑内障は最終的には光覚消失することもある不可逆的疾患で,エンドレスな経過観察・治療が必要である.生命予後が伸びるにつれて,あらたな眼合併症も報告されており,眼合併症は今後ますます問題になると考えられる.そのような観点から,眼アミロイドーシスを局所によるものから全身性のものにわたって概観してみる.
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医学のあゆみ 258巻6号, 729-734 (2016);
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◎動物にも種々の全身性および局所性アミロイドーシスがみられるが,ヒトと異なり,AA アミロイドーシスが圧倒的に多い.動物種差が大きく,種によって死亡例の80%以上にアミロイドの沈着がみられ,その種の存続にかかわる重要な死因となっている動物もいる.また,感染症の蔓延や,ワクチン接種などの炎症刺激因子の曝露によるアミロイドーシスの集団発生も報告されている.アミロイドーシス誘発動物モデルが確立されており,アミロイドの伝達性の検証,治療実験および発症機構の解明などに役立っている.ヒト特異の疾患としてとらえられていたアルツハイマー病も特定の動物で発見されており,比較医学的な見地からこれらの動物の解析が望まれる.
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ショート・トピック
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医学のあゆみ 258巻6号, 737-738 (2016);
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アミロイドーシスはアミロイド線維の原料となる免疫グロブリン軽鎖(AL),血清アミロイドA(AA),トランスサイレチン(TTR),アミロイドβ(Aβ)などのアミロイド前駆蛋白質の種類により分類される.現在までに30 種類以上のアミロイド前駆蛋白質が同定されているが1),いまだに同定されていないものも残されている.近年,レーザーマイクロダイセクション(LMD)法により組織中の微量なアミロイドを選択的に抽出することが可能になり,質量分析装置と組み合わせて,アミロイド前駆蛋白質をより簡便かつ特異的に同定することが可能となった. 本稿では,このような手法の進歩により近年あらたに同定されたアミロイド前駆蛋白質について概説する.
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医学のあゆみ 258巻6号, 739-742 (2016);
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腎が主体に障害される家族性腎アミロイドーシス(遺伝性非末梢神経性腎アミロイドーシス,Ostertag型アミロイドーシス)はこれまで欧米諸国で多数報告されており, その代表病型がフィブリノゲン型(AFib)アミロイドーシスである.しかし,わが国では腎が主体に障害される家族性アミロイドーシスはこれまで報告されていなかった. 著者らは2013年に,腎アミロイドーシスを主徴とする親子例の腎アミロイド線維蛋白の解析からアミロイド蛋白がゲルソリン由来であることを同定し,わが国初の遺伝性腎アミロイドーシス家系を報告した1).また最近では,家族歴のない腎アミロイドーシス患者の約8 年前の腎生検標本からlaser microdissection(LMD)法を用いてアミロイド蛋白を抽出し,フィブリノゲン由来であることを同定して,わが国では初となるAFib アミロイドーシス患者を報告した2). 本稿では,これらわが国では初となる遺伝性腎アミロイドーシス家系について,臨床的特徴・診断に至った経緯などを紹介する.
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医学のあゆみ 258巻6号, 743-745 (2016);
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アミロイドーシスは,アミロイド前駆蛋白の全長あるいはその一部が重合し形成されたアミロイド線維とよばれる難溶性の線維状の蛋白が,細胞外に沈着し臓器障害を引き起こす疾患である.近年,各種アミロイドーシスに対する有効な治療法が開発されつつあり,多くの患者で治療後にアミロイドーシスの進行が停止し,さらには組織沈着アミロイドが減少することも,特に原発性ALアミロイドーシス1()図1),反応性AAアミロイドーシス2),家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)3()図 2)などで明らかにされている. 以上の結果から,いったん組織に沈着したアミロイド線維も,必ずしも不可逆的に沈着しているわけではなく,常に局所内で代謝回転(amyloid turnover)を繰り返していることが示唆される.著者らはこれまで,特に肝移植施行FAP 患者の組織におけるアミロイド沈着動態を,病理学的ならびに生化学的に解析してきたので紹介する.
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医学のあゆみ 258巻6号, 746-747 (2016);
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家族性アミロイドポリニューロパチー(遺伝性ATTR アミロイドーシス)はトランスサイレチン(TTR)のアミロイド線維が末梢神経障害などの臓器障害を引き起こす疾患であり,TTR 遺伝子の変異に起因する.アミロイドーシスに関連するTTR 遺伝子変異は,TTR の構造安定性を低下させ,アミロイド線維形成を促進する1).したがって,TTR の構造安定化の詳細な機構を明らかにすることは,家族性アミロイドポリニューロパチーの原因を理解するために重要である.
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医学のあゆみ 258巻6号, 748-749 (2016);
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蛋白質は正しい高次構造をとってはじめて機能する分子となる.このため,細胞内で蛋白質が合成されるときには分泌蛋白質における品質管理機構(endoplasmicreticulum associated degradation:ERAD)の例にみられるように1),巧みなシステムでその高次構造を形成・維持している. ところが,こうしたチェックシステムがあってもアミノ酸配列によってはミスフォールドを起こしやすいものがある.こういった蛋白質が“蛋白質凝集病”を惹起する傾向にあることはよく知られたことである.凝集蛋白質による疾患由来封入体の解析は早期診断にきわめて重要であるものの,極微量のアミロイドを高純度・高精度に単離することは困難であり,結果として,早期診断・病態解明を遠ざけていることも多い.この問題点を解決するべく,著者らは改良型レーザーマイクロダイセクションシステム(advanced lasermicro dissection system:ALMD)を開発してきた.