医学のあゆみ
Volume 258, Issue 9, 2016
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あゆみ Wound bed preparation―創面治癒環境の改善
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わが国における慢性創傷の疫学と問題点
258巻9号(2016);View Description Hide Description◎さまざまな阻害因子により正常な創傷治癒過程を経過しないものを慢性創傷とよぶ.慢性創傷の代表疾患は,褥瘡,糖尿病性足潰瘍,静脈うっ滞性潰瘍である.褥瘡は1998 年の日本褥瘡学会設立以降,その取組みにより減少傾向にある.糖尿病性足潰瘍は,糖尿病患者,高齢者,透析患者の増加に伴い増加している.集学的治療が必要であるが,わが国ではできる施設が限られている.静脈うっ滞性潰瘍は静脈の灌流障害が原因で下腿に生じる難治性潰瘍であるが,わが国での正確な疫学は不明である.また,わが国での慢性創傷治療には創傷センターが少ない,創傷治療自体の遅れている,入院中心の加療の限界など多くの問題点があり,今後の課題である. -
Wound bed preparation とTIME
258巻9号(2016);View Description Hide Description◎Wound Bed Preparation は慢性創傷を治療に反応する創傷に変換することを目的とした標準的な創傷治療概念である.Tissue/Devitalized Tissue(壊死組織),Infection(感染),Moisture(滲出液),Edge(創縁),の4項目に対して評価と治療を行う.治療には優先順位があり,①Tissue,②Infection,③Moisture の順に評価・治療を行う.Tissue には,デブリードマン,Infection には外用抗菌薬,Moisture にはNPWT と創傷被覆材で治療する.Edge は外科的切除または切開を行う. -
デブリードマン
258巻9号(2016);View Description Hide Description◎日常診療において,創傷を治療しているのに治癒傾向がみられず,慢性創傷になってしまうケースは珍しくない.その際,活性のない壊死組織や異物,細菌感染巣,バイオフィルムなどが創傷に存在して肉芽形成・創収縮・上皮化といった創傷治癒過程が妨げられているのであり,創傷治癒過程をスタート地点にもっていくためにはまずこれらを除去する人為的なデブリードマンが必要となる.デブリードマンにはさまざまな方法があり,本稿ではそれぞれの特徴的な利点,欠点を述べる.デブリードマンのゴールはバイオフィルムがない状態であるが,潰瘍が残存するうちは創部にバイオフィルムが生じてふたたび慢性創傷化するリスクがある.治癒が終了するまでは定期的にメインテナンスデブリードマンを行ったり創傷被覆材や軟膏などを使用してバイオフィルムの予防が必要である. -
開放創に対する局所陰圧閉鎖療法(NPWT) の活用
258巻9号(2016);View Description Hide Description◎Argentaらによって報告された局所陰圧閉鎖療法(NPWT)は,①創の収縮効果,②創傷表面の微小変形による効果(良性肉芽の増生),③滲出液の除去,④創傷部位の血流量の増加の効果,があり,通常のガーゼ処置などに比べ創傷治癒促進効果が高い.また,頻回の処置は不要であることから,コストの削減にも寄与する.2010 年より保険適応となり,全国でその使用が増加している.一方,感染を伴う潰瘍では逆に感染を助長してしまうことや,血流障害を伴う創傷では逆に壊死を増悪させてしまうとの報告が散見されている.このため,治療開始前の十分な創傷評価が重要であり,NPWT と持続洗浄療法を同時に行う創内持続陰圧洗浄療法のような新しい治療法を適応の検討することも必要である.これらを踏まえ,高齢者や合併症の多いハイリスク患者などの外科的治療の適応が困難なケースでは侵襲の少ないNPWT の適応はきわめて有効であると考えられる. -
マゴットセラピーによる創傷治癒環境改善効果― マゴットセラピーはwound bed preparation(創傷治癒環境改善)においてきわめて優れた生物学的debridement である
258巻9号(2016);View Description Hide Description◎マゴットセラピー(医療用無菌ウジ治療)はある種のハエ幼虫(おもにクロバエ科に属するヒロズキンバエ)が動物の壊死組織だけを摂取する性質を利用し,人体の難治性創傷を治療する古来より伝承された治療法である.これは,マゴットの優れた特性である①壊死組織除去効果,②殺菌効果,③健康肉芽増生効果を同時に活用して難治性足潰瘍・壊疽,褥瘡などを治癒させるものである.すでにイギリスでは1995 年NHS(国民健康保険)に認可され,アメリカでは2004 年FDA(食品医薬品局)に生体材料として認可され,短時間の優れた健康肉芽増生効果により欧米では一般的医療として認知されている. -
ドレッシング材と外用薬による治療
258巻9号(2016);View Description Hide Description◎創傷治療の基本は創面保護とともに創面環境調整(WBP)と湿潤環境下療法(MWH)を行うことであり,創を急性期とそれ以降の慢性期に分けて対処する.発症後1~3 週の急性創傷と真皮までの浅い慢性創傷では創面保護とMWH を心がける.皮下組織に達する深い慢性創傷に対しては創面保護とともに,治療前半(黒色期,黄色期)ではTIME あるいはDESIGNⓇコンセプトによるWBP,後半(赤色期,白色期)ではMWH を心がける.なお,WBP とは創傷の治癒を促進するために創面の環境を整えることであり,具体的には壊死組織の除去,細菌負荷の軽減,創部の乾燥防止,過剰な滲出液の制御,ポケットや創縁の処理を行うことである.MWHとは創面を湿潤した環境に保持する方法であり,滲出液に含まれる多核白血球,マクロファージ,酵素,細胞増殖因子などを創面に保持するものである.また,自己融解を促進して壊死組織除去に有効であり,細胞遊走を妨げない環境でもある. -
糖尿病足感染における軟部組織感染症と抗菌薬の選択
258巻9号(2016);View Description Hide Description◎感染を伴う糖尿病足病変に対する治療は,さまざまな合併症,免疫の低下による全身反応の欠如,知覚麻痺による本人の自覚の欠如などによりしばしば治療に苦慮する.ただし,深達度や重症度を正しく見極め,適切なタイミングで根拠に基づいた治療を行うことで良好な結果に導くことが可能である.本稿では,アメリカ感染症学会(IDSA)が2012 年に発表した糖尿病足感染症のガイドラインに基づいて,その診断と治療方針を概説する.アメリカにおける診療と日本の保険診療とでは使用できる検査,薬剤,治療環境などに違いはあるが,標準化されたガイドラインとして参考とされたい. -
Wound bed preparation における再生医療の役割
258巻9号(2016);View Description Hide Description◎慢性創傷のwound bed(創傷面)では,さまざまな疾患の影響により通常の創傷治癒過程が破綻している.線維芽細胞,ケラチノサイトや血管内皮細胞の増殖と遊走が低下するだけでなく,創傷治癒促進に重要な役割を担うサイトカイン分泌が低下している.そのなかでも細胞レベルでの微小環境(microenvironment)における創傷治癒過程の破綻は,一般の創傷管理では改善が困難である.微小環境(microenvironment)の創傷治癒遅延の原因を理解し,それらを是正することが再生治療の役割のひとつであると考える.再生医療とは,臓器や組織が損傷または機能低下や機能不全に陥った場合に“生体材料(バイオマテリアル)”“細胞成長因子”“細胞移植”を活用し組織・臓器を修復・再生させる治療法のことである.従来の治療に難渋する場合にはadvancetherapy(補助治療)として再生医療による治療が選択肢となる.しかし,慢性創傷は再生医療のみで治療できることはけっしてなく,基礎疾患のコントロールや血行再建などを実施し,適切なwound bed preparation を施してこそ効果を発揮する治療であることを理解するべきである.
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連載
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- グローバル感染症最前線―NTDs の先へ 4
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デング熱・ジカ熱
258巻9号(2016);View Description Hide Description◎デング熱は古くから知られている蚊媒介性ウイルス感染症であるが,近年熱帯の開発途上国の人口増加,都市化,交通・貿易の拡大により患者数は世界全体で年間1 億人に近づきつつある.ウイルスは4 つの血清型があり,同一人が複数回感染することがあり,ときには致死的である.重症例救命のための対症療法は確立されてはいるが,流行拡大を終息させるためにはワクチン開発や抗ウイルス薬の開発が媒介蚊対策とともに必要である.ジカ熱は2015 年に,ブラジルでの100 万人を超える大流行において小頭症(先天異常)が多発し,国際的な緊急対応が必要な感染症となった.疾病自体はきわめて軽症の熱性疾患であるが,デングウイルスと同じ種類の蚊で媒介され,デング熱と同様の世界レベルでの流行(それに伴う小頭症の多発の可能性)が危惧されており,迅速診断薬の開発,ワクチンの開発は急務である.
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輝く 日本人による発見と新規開発 35
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フォーラム
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TOPICS
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- 産科学・婦人科学
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- 薬理学・毒性学
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- 消化器内科学
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