医学のあゆみ
Volume 260, Issue 3, 2017
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特集 NICU の現状と課題―臨床と研究の最新情報
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最新のNICU治療成績―世界最高水準のNICU治療
260巻3号(2017);View Description Hide Description一般的に,新生児の出生後に特別な医療介入は不要である.しかし,全出生の約10%はハイリスク新生児とよばれ,何らかの医療介入が必要となる.ハイリスク新生児の代表が低出生体重児または早産児で,出生体重が少ないため出生後の生命維持に医療介入が必要である.わが国のハイリスク新生児医療のはじまりは1950 年代と,比較的新しい医療分野である.その後,半世紀の間わが国の新生児医療は急速に進歩し,その結果,新生児医療は現在世界最高水準となっている.とくに出生体重が1,500 g 未満の極低出生体重児,あるいは在胎期間が28 週未満の超早産児の生存率は世界でもっとも高い.このようなハイリスク新生児を収容して治療するのが新生児集中治療室(NICU)とよばれ,多くの機器と人材を投入して日々救命医療が行われている.そこで,今回はわが国のNICU での最新の治療成績を紹介するとともに,その推移および国際比較の結果を示す. -
わが国のNICUが抱える喫緊の社会的課題
260巻3号(2017);View Description Hide Description“墨東病院事件”を受けて明らかになったNICU 不足の対策として,厚生労働省は平成21 年(2009)の周産期医療整備指針で,10,000 出生当りのNICU 必要病床数を20 から25~30 に上げた.官民をあげた取組みの結果,この目標数は平成26 年(2014)には達成されたが,そこで働く新生児医師数は横ばいであるため,平均的な業務量が1.5 倍になったうえに,地域格差がきわめて顕著になるというあらたな課題が問題化している.日本周産期・新生児医学会の新生児専門医の増加も頭打ちになっている今,この課題を解決するためには看護師をはじめとする多職種協働が喫緊の対策と考えられる. -
NICU と在宅医療の課題と展望
260巻3号(2017);View Description Hide Descriptionわが国の新生児医療の進歩により,未熟性の強い早産児は長期入院となるものの退院例は増加し,低酸素性虚血性脳症への低体温療法の導入などによっても退院可能となる児は増えている.また,出生前診断の進歩によって先天異常・合併奇形への早期対応も進み,重心施設への収容がきわめて難しい状況から,医療的ケアを行いながらの在宅医療への移行が増加傾向にある.とくに人工呼吸器を装着しての在宅移行も併せて増えており,これらの児の生活を円滑にするために,多職種間の連携に注目が集まっている.訪問看護師をはじめとする地域の支援の充実に向け,このような児がNICU 入院中から医療者間での意識づけをはじめとする,家族の参加型のケアプランを進めていく必要がある.同時に,NICU から在宅に移行するためには小児科病棟,中間小児科施設と家族を交えての密接な情報交換が必要である.このための小児在宅医療実技講習会,さらには地域の成人在宅医との協力を求めながらの在宅医療に向けた試みが進められている. -
新生児領域におけるエピジェネティクス研究
260巻3号(2017);View Description Hide DescriptionDOHaD 学説では低出生体重児は冠動脈疾患・2 型糖尿病をはじめとする成人後疾病のハイリスクとされ,低出生体重児の出生率が著しく高いわが国はDOHaD が社会問題になりつつある.エピジェネティクス研究はこのDOHaD の分子生物学的・疫学的検討の一翼を担う重要なものであり,海外では低出生体重関連だけでなくそれ以外のDOHaD 関連のデータも急速に集積されている.わが国の新生児領域のエピジェネティクス研究は日が浅いが,今後,海外同様に注目を集めることが予想される.本稿では新興領域である本研究分野について,最近のhot topic を紹介する. -
先天異常を引き起こす新興母子ウイルス感染症―先天性ジカウイルス感染症
260巻3号(2017);View Description Hide Description先天異常を引き起こす母子感染症はTORCH 症候群として有名であるが,2016 年にジカウイルスがあらたに加わった.妊娠中に母から胎児への経胎盤感染により小頭症などの先天異常をきたした場合を“先天性ジカウイルス感染症”という.2015 年にブラジルで流行した際の先天性ジカウイルス感染症の臨床像は小頭症以外に先天性内反足,網膜異常,神経学的異常,神経画像検査異常(石灰化,脳室拡大)などがあり,先天性サイトメガロウイルス感染症や先天性トキソプラズマ症などの他の先天性感染性疾患の臨床症状とオーバーラップする.現時点で有効な抗ウイルス薬や予防のためのワクチンはない.今後,先天性ジカウイルス感染症の疫学や臨床像,検査・診断方法,先天異常の種類や頻度・程度,予後に関する臨床研究,ジカウイルスの子宮内での感染成立機序や脳障害を引き起こすメカニズムの解明のための基礎研究,抗ウイルス薬やワクチンの開発を行っていく必要があろう. -
新生児の脳機能―胎生期からの連続性
260巻3号(2017);View Description Hide Description最近の神経生理・神経画像研究の進歩から,胎生期から新生児期にかけての脳の構造的・機能的発達過程が徐々に解明されてきた.新生児にとって睡眠は脳の発達に重要である.1 日16~17 時間の睡眠の半分は動睡眠(≒レム睡眠)である.発達初期の動睡眠では,体動や急速眼球運動から生じる求心性刺激が脳の発達を推進するのに役立つ.胎生期に一過性に認めるサブプレート(SP)ニューロンは活動依存的発達の主要な要素であり,一次感覚野の機能マップ(体性感覚地図,網膜地図)の形成に必須である.今後,ヒトの知能・認知・言語の発達メカニズムの詳細を新生児期から明らかにすることが,精神疾患や知的障害のメカニズムを解明するうえで重要である. -
早産・低出生体重児の発達障害
260巻3号(2017);View Description Hide Description早産・低出生体重児,とくに出生体重超低出生体重児や在胎28 週未満の超早産児は発達障害や精神疾患の合併リスクが高く,知的障害を合併していることも多い.正期産のコントロールと比較すると,極低出生体重児の注意欠如・多動性障害(ADHD)のオッズ比は2~3 倍,超早産児は4 倍と報告されている.ADHD の特徴として,多動・衝動性型より不注意型が多く,行為障害の合併は少なく,リスクの男女差も一般児より小さい.頭囲,脳室内出血,脳実質の障害や脳室拡大といった脳の成熟や障害との関連が指摘されている.自閉症スペクトラム障害の合併率も高く,超早産児で8%に認め,一般児の4 倍以上の比率であったとする報告がある.とくに幼少期のスクリーニングでは陽性率が高い.知的能力の低さや不注意と関連するコミュニケーションスキル,社会適応力の遅れが特徴である.早産児の脳高次機能の障害として認められる,言語概念の理解,作業記憶(working memory),視空間能が低いこと,処理速度が遅いこととの関連が示唆されている. -
新生児医療の倫理的課題
260巻3号(2017);View Description Hide Description1980 年代以降,わが国の新生児医療は飛躍的に進歩し,周産期母子医療センターの整備とも相まって,いまでは“世界でもっとも新生児死亡率の低い国”となっている.この間,1991 年に母体保護法の改正により人工妊娠中絶の認められる妊娠週数が21 週までに引き下げられ,それまでは積極的には治療の対象にはならなかった在胎22 週,23 週で出生する早産児のNICU 入院や,呼吸管理,循環管理など医療技術の進歩によって,より積極的な治療を受ける重篤な新生児が増加した.新生児医療の進歩は他方でNICU 長期入院児や,重度心身障害児の増加などあらたな課題を生み出すこととなり,ともすれば児に対する医療的介入が“過剰な治療”“行きすぎた延命処置”と批判されることとなった.新生児医療の進歩がさまざまな倫理的課題を提起する一方で,その多くに対してはいぜんとして十分な議論が行われているとはいいがたい現状がある.本稿では新生児医療におけるこれらの倫理的課題について,いくつかの事例を提示し概説する.
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連載
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- グローバル感染症最前線-NTDs の先へ 16
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SDG 時代の感染症対策のあり方―WHO 結核世界戦略End TB Strategy を例に
260巻3号(2017);View Description Hide Descriptionグローバルヘルスの文脈において,感染症対策は大きな転換点を迎えている.2015 年までのミレニアム開発目標(MDGs)への取組みのなかで,感染症対策への投資と成果はめざましいものであったが,世界の疾病構造は非感染性疾患へ大きくシフトし,アプローチとしても疾病ごとの対策から保健システム強化へ重点が移りつつある.さらに,持続可能な開発目標(SDGs)においては“すべての人が必要な医療サービスに経済的な困難に陥ることなくアクセスできること”をめざすユニバーサルヘルスカバレージが包括的・普遍的な目標としてその中心に据えられている.MDGs への取組みのなかでは単一疾患対策に特化した介入を,おもに外部資金を用いて積極的・大規模に投入し,短期間で目にみえる成果を得るという投資回収的な開発モデルが主であったが,これにともなって保健システムの断片化や整備の遅れをもたらしたという指摘も多い.WHO のあらたな結核世界戦略にみられるように,今後の感染症対策は,保健セクター全体あるいは社会全体の持続的発展と整合性のある形でデザイン,実施されていかなければならない.すなわち,すべての国が持続可能な保健システムを確立し,感染症対策も含めた包括的な保健サービスをユニバーサルヘルスカバレージの枠組みのなかで実現し,効果的な多セクター連携を促進していくことが望まれている. - 性差医学・医療の進歩と臨床展開 2
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高血圧・腎疾患と性差
260巻3号(2017);View Description Hide Description男性と女性では血圧の罹患率が年齢により異なっている.男性では30 歳半ばから高血圧症の頻度が多くなり,60 歳半にはピークに達する.女性は妊娠に関連した高血圧(妊娠高血圧)と更年期高血圧がある.これらの差は女性ではエストロゲンが男性はアンドロゲンが関与しているとされているが,高血圧発症あるいは維持機構にどのように作用しているかはまだ十分には解明されていない.本稿ではRA 系と食塩からのアプローチを紹介する.
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TOPICS
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- 腎臓内科学
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- 循環器内科学
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- 形成外科学
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FORUM
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- ゲノム医療時代の遺伝子関連検査の現状と展望 2
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