医学のあゆみ
Volume 260, Issue 4, 2017
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特集 心臓サルコイドーシス診療最前線―あらたな診療ガイドライン作成後の新展開
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あらたな心臓サルコイドーシス診療ガイドラインの概要
260巻4号(2017);View Description Hide Descriptionサルコイドーシスは全身性類上皮細胞肉芽腫性疾患であり,原因はいまだに解明されていない.わが国では指定難病(「サイドメモ」参照)であり,医療費の助成対象となる.基本的には心臓サルコイドーシスはサルコイドーシスの心臓病変と同義である.心臓サルコイドーシスは致死的不整脈や重症心不全をきたし,突然死の原因ともなり,サルコイドーシス患者の予後を左右する.ステロイドなどの免疫抑制療法により心臓病変の進展抑制効果が期待されることから,早期に適切に診断することが重要である.近年,fluorine-18(18F)fluorodeoxyglucose(FDG) PET や心臓MRI など画像診断技術の進歩により,心臓サルコイドーシスがより適切に診断されるようになった.また,他臓器に病変がみられない“心臓限局性サルコイドーシス”の存在が報告され,臨床的重要性が認識されてきた.それらの背景から,日本循環器学会“心臓サルコイドーシスの診療ガイドライン”作成班の活動が行われ,2016 年度内にあらたなガイドラインが提唱される予定である. -
心臓サルコイドーシスに対する不整脈診療の現状と課題
260巻4号(2017);View Description Hide Descriptionサルコイドーシスは原因不明の難治性肉芽腫性疾患である.全身の多臓器に非乾酪性肉芽腫性病変を形成するが,心臓サルコイドーシス(CS)の有無が予後を規定するもっとも重要な因子である.CS では房室ブロックや心室頻拍・心室細動といった致死的不整脈が初発症状となり突然死をきたす症例が存在するため,早期診断・早期治療が重要である.したがって,CS に合併する不整脈診療の課題として早期介入のための心臓限局性サルコイドーシスの診断,そして薬物治療やカテーテルアブレーションによってもいまだ心室性不整脈の再発率が高いことがあげられ,各症例に応じた総合的な治療戦略を立てることが重要と考えられる. -
心臓サルコイドーシスに対する免疫抑制療法と予後
260巻4号(2017);View Description Hide Description心臓サルコイドーシス(心サ症)に対する治療の基本はステロイドホルモンによる炎症の抑制にある.一般に初期投与量は30 mg/day あるいは0.5 mg/kg/day であり,1 カ月に5 mg 程度ずつ漸減し,維持量は5~10 mg/day である.ステロイド内服中にもかかわらず病変の進行や再燃がみられた場合はステロイドの増量を考慮するが,ステロイドの副作用が強い場合は他の免疫抑制薬を併用する.わが国では少量のメトトレキサート(MTX)を用いることが多い.白血球減少,肝機能障害,間質性肺炎などに注意する.炎症活動性を評価するために18F-FDG(fluorine-18fluorodeoxyglucose) PET の有用性が報告されており,治療効果判定にも用いられるようになった.心不全治療の確立,デバイス治療の進歩,免疫抑制療法の工夫などで心サ症の予後は改善してきていると考えられる. -
サルコイドーシスにおける疾患感受性遺伝子
260巻4号(2017);View Description Hide Descriptionサルコイドーシスは多因子疾患であり,疾患感受性にかかわる遺伝要因として,HLA-DRB1 遺伝子との相関が知られてきた.近年,HLA クラスⅡ領域にBTNL2 遺伝子が同定され,メタ解析により人種を超えて相関することが明らかになった.一方,一塩基多型(SNP)をマーカーとしたゲノムワイド関連解析(GWAS)やimmunochip study により,HLA 領域以外に複数の疾患感受性遺伝子が同定された.本疾患は人種により臨床像に相違があることが知られているが,人種特異的な疾患感受性遺伝子や,人種によるHLA-DRB1 遺伝子のリスクアリルの違いが相違を生み出している可能性が示唆されている. -
心サルコイドーシスの病因論と免疫学的組織診断の有用性―P. acnes病因論に基づいた臨床応用
260巻4号(2017);View Description Hide Descriptionサルコイドーシスは多臓器にわたる炎症性全身性疾患である.とくに,心病変(心サ症)の発症は予後規定因子であり,早期発見・治療を行うことでその改善を期待できるが,組織診断の陽性率が低く,確定診断に苦渋するケースは少なくない.また,いまなお病因が解明されていないことも,組織診断をより困難にしている.病因仮説のひとつとして注目されているアクネ菌(P. acnes)は,外部からP. acnes が経気道的に体内に侵入し,肺や肺門リンパ節に潜伏感染する.その後,各種環境因子を契機に内因性活性を生じ,細胞内増殖とともに感染型P. acnes に変化し,リンパ行性・血行性に全身臓器に拡散する.宿主側要因である過度の免疫反応(Th1 型反応)により各臓器で炎症を引き起こす.一方,感染型P. acnes のさらなる飛散防止のため類上皮肉芽腫が形成される.著者らはP. acnes の特異的抗体(PAB 抗体)を使用して,心サ症の類上皮肉芽腫と炎症巣でのP. acnes の存在を確認した.また,その他の心疾患の炎症巣ではP. acnes が存在しないことを確認した.今後,心サ症の鑑別診断を行ううえで,PAB 抗体をした免疫学的診断の有用性が期待される. -
心臓限局性サルコイドーシス―診断と治療の問題点
260巻4号(2017);View Description Hide Description2015 年に新しいサルコイドーシスの診断ガイドラインが策定された(日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会;JSSOG).昨今注目されている心臓限局性サルコイドーシス(以下,心臓限局性サ症)が本ガイドラインのなかで“存在する”と明記されたことは意義が深い.また,本ガイドラインの心臓徴候の診断項目のなかに心臓MRI 遅延造影所見とFDG-PET が主徴候として入ったことにより,心サ症のみならず心臓限局性サ症の臨床診断が容易になる可能性がある.ただ,心臓の組織診断が得られず,臨床診断で心臓限局性サ症が疑わしいケースの場合,どのような条件で心臓限局性とみなすことが可能かは議論の半ばである.本稿では,心臓限局性サ症の診断と治療の問題点について概説する. -
18F-FDG PETによる心臓サルコイドーシスの診断・治療モニタリングとピットフォール
260巻4号(2017);View Description Hide Description2015 年にサルコイドーシスのガイドラインが改定となり,心サルコイドーシスの診断にFDG-PET が主徴候として取り入れられた.しかし,診断上支障をきたす心筋への生理的集積の適切な抑制法はいまだに確立していない.著者らは,前処置として24 時間前から12 時間の炭水化物糖質制限食・高脂肪食摂取後12 時間絶食するプロトコールを実施し,18F-FDG 注射15 分前にヘパリンを投与している.本法は生理的集積の有効な抑制法として十分な有効性を確認している.しかし,一方で非生理的非炎症性集積も存在し,高度心筋虚血,非代償性心不全,肥大型心筋症などでも認められることから,これらの除外診断は必要である.ステロイド治療後の評価にFDG-PET は有効とされているが,検査のタイミングのプロトコールは確立していない.当院では治療後4~6 カ月とその後の集積の経時的変化から,6 カ月以内では治療効果を過小評価あるいは過大評価する場合が多い.ステロイド投与量が安定した6 カ月以降のPET 検査による評価が望ましい. -
心臓サルコイドーシスの炎症活動性とは―診断精度の高い血清マーカー確立のために
260巻4号(2017);View Description Hide Description心臓サルコイドーシスの炎症活動性評価において,いまだ精度の高い血清マーカーは確立されていない.サルコイドーシスにおける炎症反応は,活性化されたT 細胞と単球から分化したマクロファージにより成り立っている.著者らは,単球サブセットがあらたな炎症活動性指標となりうるかについて検討した.結果,新規発症の心臓サルコイドーシス群に比べて,副腎皮質ステロイドがすでに導入された群の炎症性単球は有意に抑制されていた.新規ステロイド導入例では,導入前後で炎症性単球の低下と心筋炎症の改善は有意に正相関していた.一方,従来の血清マーカーであるACE と心筋炎症との間には有意な正相関は認められず,炎症性単球は本症における炎症活動性指標となりうる可能性が示唆された.今後,精度の高い活動性指標を確立するためには,心臓に特異性の高い血清マーカーの開発のみならず,多彩な臨床病型を呈する本症においてはそれぞれの病態で検討を重ねる必要がある.
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連載
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- グローバル感染症最前線-NTDs の先へ 17
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顧みられない熱帯病の治療薬開発へのDNDi の役割
260巻4号(2017);View Description Hide Description顧みられない熱帯病(NTDs)は世界149 カ国で14 億人以上が病魔に脅かされている感染症であり,世界保健機関(WHO)によりアフリカ睡眠病,シャーガス病,リーシュマニア症など18 種がNTDs に指定されている.2015 年のノーベル生理学・医学賞がNTDs のオンコセルカ症などに有効な抗寄生虫薬,イベルメクチンを発見・開発した大村 智博士とW. C. Campbell 博士らに与えられたが,安全で有効性が高いNTDs 治療薬は限られている.NTDs 患者は,熱帯地域の途上国の貧困層に多いことから,市場性が低く,そのため既存の医薬品開発とは異なるシステムでの開発が必要である.DNDi はこの問題を解決するために設立された非営利の国際医薬品開発パートナーシップ機関であり,世界中の産官学のパートナーとともに感染地域のニーズに合うNTDs 治療薬の開発を効率的に推進している. - 性差医学・医療の進歩と臨床展開 3
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脳卒中(脳梗塞,脳出血,くも膜下出血)の性差
260巻4号(2017);View Description Hide Description本稿で著者らは,脳卒中データバンクデータと厚生労働省データを参考に脳卒中の性差について解説する.脳卒中には閉塞性と出血性があり,閉塞性脳卒中は,一過性脳虚血発作,アテローム血栓性脳梗塞,ラクナ梗塞,心原性脳塞栓,に分類され,出血性脳卒中は脳出血とくも膜下出血に分類される.世界的に細かく分類されたデータは少ないが,脳卒中データバンクは分類されているためそれぞれの項目で性差を検討した.くも膜下出血は60 歳未満では男女差がなかったが,その後年齢とともに女性優位となり,男性のピークは50 歳代で,女性のピークは70 歳代であった.原因としてエストロゲンが関与しているとされる.くも膜下出血以外の脳卒中はすべて男性優位であったが,心原性脳塞栓のみ高齢で女性優位となった.厚生労働省による年齢調整死亡率はくも膜下出血では年代により異なったが,くも膜下出血以外は年代によらず男性で高かった.
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TOPICS
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- 薬理学・毒性学
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- 循環器内科学
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- 腎臓内科学
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FORUM
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- ゲノム医療時代の遺伝子関連検査の現状と展望 3
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